自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第一章・未来が創った軌跡
第一話・テラー


 学園都市キヴォトスにある、とある学園の生徒。

 容姿、成績や健康状態はごく普通、かもしれないと認識しているその生徒が一人ベッドの上で固まる。

 人混みに紛れればすぐに見失ってしまうくらいには存在感がない、と言うほどでもないが派手な姿でいる訳でもない。

 物語の背景に映るモブキャラクターの一人、そう彼女は認識している。

 

 その生徒はかつてはただの人間で、人間だった頃も大人になることなく子供のまま人生を終えた、と言うことさえ記憶にない。

 本人は自分のことを殆ど憶えていない。

 憶えていることがあるとすれば個人の記憶とは関係のない経験、言語や歴史、サブカルチャーを含めた趣味としていた漫画アニメゲームの知識くらい。

 

 もしもこの世界がとある有名サイトにある二次創作の小説の一つだとすれば、そこへ通うように読んでいる読者達にとって彼女の経歴の前置きを説明する必要はないだろう。

 が、彼女自身はこれと言って特殊な能力を持っていない。

 神様に出会ったとか、優れた才能を持っているとか、素晴らしい家柄だとかそんな物はない。

 彼女の生物としてのステータスは一生徒の域を出ないどころかむしろ身体の弱い方、少なくとも本人はその認識でいる。

 

「――――」

 

 透き通るような美しい世界で生まれられただけでそれ以上を求めるのは罪だと、プレイヤー兼元先生だった彼女はモブの一人として生涯を終える事に不満などはなかった。

 強いて望みを上げるなら登場人物の一人とルームシェアできるくらい仲良くなれたら良いなと思う程度だがそれも随分昔に諦めた。

 

「――――」

 

 今、彼女は唖然としてベッドで上半身を起こしたまま目を見開いて固まっている。

 体感数時間、実時間数秒。

 

 それが居る事に気付いてから呼吸も忘れて見入る。

 

「………………」

 

 無言のそれはじっと彼女を凝視し、気怠げに肩を落とした姿勢で何かを待っているように立っていた。

 

 赤と桃色の中間、薄暗く発光する禍々しい炎のようなエネルギーを纏い、胸にはノートを想起させる歪んだ長方形状のヘイローに似た発光物、その双眸は獲物を狙う野生生物のケダモノのように鋭い。

 焼け焦げたようなヘイローと制服姿、片手に握られたショットガンはあるものの、大半の人間はそれを生徒とは思わず化け物か異形の類と思うことだろう。

 

 だが彼女だけは、恐らく現在の世界において唖然と固まる彼女だけが唯一、その怪生徒の正体を知っている。

 幽閉されていた筈のゲマトリアの誘導によって、若しくはそのトラウマと罪悪感の積み重ねによって剥き出しになった神秘が解放され暴走した姿。

 

「ホルス……いや、ホシノ!?」

「…………」

 

 彼女の驚きに沈黙で返したのはアビドス高等学校三年生、対策委員兼ただ一人の生徒会員小鳥遊ホシノ。

 正しくは、恐怖に呑まれ反転することで顕現した元小鳥遊ホシノ。

 

 ホシノテラー、若しくはホルスその()だった。

 

(なんで? なんでホシノがここに? というかなんでテラー化してるの? まだ先生すら来てないよ!?)

 

 キヴォトス最高の神秘は反転し、本質に導かれ世界を崩壊させる。

 敵の罠に嵌められた結果ホシノはその姿となってしまった。

 それが彼女の部屋のベッドの前に居る。

 

(世界が滅びるより先に殺される!)

 

 だがホシノがその姿へと変貌するのはまだまだ先の話。

 時系列的にはそのお話すら始まってはいない、ホシノテラーが顕れる筈がないのだ。

 

 だが現に目の前に破壊の権化が居る。

 想定外の事態が起きたのか、先生が来るのが間に合わなかったのか。

 あらゆる疑問に苛まれ、動揺と混乱を重ねた彼女はベッドの上で頭を抱え震えた。

 なぜ部屋にテラー化したホシノが居るのか、なぜ既にテラー化しているのか、その疑問はもはや考えても仕方がない。

 

 何故ならもうすぐ彼女はホシノの手で殺されるのだから。

 

(ホシノ以前にその辺の不良にも勝てない私が止める……無理!)

 

 争いとは無縁の生活に加え、寝起き故に銃は持っていない。

 戦闘のせの字も馴染みがない彼女は瞬殺される。

 逆にホシノテラーは戦闘準備万端の姿勢、視線は彼女から外れる事なく動かない。

 

 ホシノは反転していない状態でも凄まじい戦闘力を持ち、テラー化による強化なのか負傷していたとは言えヒナやアビドスの生徒達を一撃で戦闘不能寸前に追いやった。

 

 例えホシノの事情を知らぬ者が見ても、この後に行われる惨劇を想像するのは難しい事ではない。

 

(あーあ、私死ぬのかなこれ……せっかく生徒になったのになー…………?)

 

 遺言書も書けないなと、ある種呑気にも見える思考と表情で最期を覚悟する彼女だったが。

 いつまで経っても攻撃が来ないことに気づくのにそう時間は掛からなかった。

 

「?」

「…………」

 

 アクション映画のモブの如く、登場人物の強さと魅力を見せつける引き立て役として殺されると彼女は考えていた。

 しかしホシノは彼女を凝視しているだけで一歩どころかピクリとも動かない。

 片手に握られたショットガンは床へと向いたまま、一向に彼女の身体で風穴を作ろうとしない。

 

 暴走状態となっているホシノテラーは敵味方の判別も出来ず周囲に破壊を振り撒く生きた破壊兵器だ。

 少なくともゲームではそのように描写されていた。

 それでも譫言のように、ユメに関連した言葉を呟くくらいはした。

 しかし現在の彼女は破壊も言葉も発しない、文字通り幽霊のようにそこに立つだけだった。

 

「あのー……小鳥遊さん?」

「…………」

 

 試しにと声を掛けるがやはり反応しない。

 今も変わらず見てはいるものの何のアクションも起こさないのを見て意を決し彼女はベッドから出て携帯を取ろうとする。

 

「あ、あれ? 携帯どこに置いたっけ?」

 

 効果はあるか不明だがヴァルキューレに通報するべきと考えたのだが携帯が何処にもない、机の上や毛布の中を見てどこにやったのかと慌てて周囲を探す。

 

 するとホシノが動き出した。

 

「ええ!? 動いたぁ!? 動いちゃうの!?」

「…………」

 

 携帯を探そうとするとホシノが動きだし彼女へと近づいて行く。

 幽霊のような不気味な足取りでゆっくりと、逆鱗に触れたかと彼女は壁に背を付けるが逃げ場はない。

 

「どうしようどうしよう!」

 

 再び命の危機を感じ取り、彼女は慌てて考えを巡らせるが何も思い浮かばない。

 そうしている内にホシノは目と鼻の先までやってきていた。

 

 呼吸が掛かる程の距離。

 ショットガンによる射撃でのヘイロー破壊、殴打による撲殺、首を掴んで窒息死を想像する。

 

(いや、ホシノなら私の首を握り潰せるかもなー)

 

 今の彼女はただの人間ではなく、耐久力も身体能力も上がった生徒なのでそう簡単には死なないが実力に差がありすぎる。

 

「殺しても良いですけど! やるなら出来るだけ楽にッ!!」

「………」

「あれ?」

 

 諦めの言葉を吐いた割には咄嗟に自分を庇うように構えたが、ホシノは彼女へと攻撃する事はなくしゃがんでベッドの下へ手を伸ばした。

 

 腕だけでは足りないのか、小柄な身体をもぞもぞとベッドの奥へと押していく。

 

「え、やだ! すごく可愛い!」

 

 小動物染みたその姿に若干の愛くるしさを感じ、命の危機も忘れてときめく彼女。

 ベッドの下からホシノが出ると手には携帯が握られており、それを彼女へと手渡した。

 

「あ、ありがとうございます?」

「…………」

 

 携帯を受け取って困惑する彼女。

 ホシノは仕事は終わったとばかりに背を向けて先ほど立っていた位置に戻った。

 

(ベッドの下に落としてたんだ……というか取ってくれた)

 

 攻撃されないどころか探し物を見つけてくれたホシノ。

 一体どういう状況なのか分からず彼女は困り果てた。

 

(え、この子どうしよう……まさかずっと家に居るの? というかいつから居たの?)

「……まあいいか、とりあえず朝ごはんを食べてから考えよう」

 

 思考を放棄し、通報する気も無くした彼女はいつも通り朝のルーティンを行おうとする。

 そして動かないホシノを見て一瞬迷いながら話かけた。

 

「あ、ホシノさんも食べますか?」

「…………」

 

 ホシノは沈黙で返した。

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