自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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分かりにくい部分があったので追記しました。
終盤のヒナ視点は回想シーンで、ホシノvsホルスが始まったくらいの話です。


第十話・屍体にたかる蝿の王

 その報告が届いたのは就寝する直前のことだった。

 いつも通り書類を処理し、いつも通り規則を違反して騒ぐ生徒達を鎮圧し、いつも通り騒ぐ万魔殿の相手をした。

 

 風紀委員長としての仕事を終えて、ようやく休めるという時にアコから連絡が届いた。

 

「おやすみ中申し訳ありませんヒナ委員長! 至急お伝えしたいことが!」

「前置きはいいわアコ、何かあったの?」

「はい! ヒナ委員長が見回りによくお近くを通られる例の学園なのですが! 学園と言ってもカイザーコーポレーションに買収されましたが!」

「落ち着きなさいアコ、その情報はもう知ってるわ。もっと簡潔に言いたいことだけ伝えて」

「すぅ……ふぅ……自治区内に在留していたカイザーPMCの一般社員が襲撃されています! 区内のヴァルキューレも鎮圧にあたっているようなのですが、大規模なテロ活動が行われているとの報告が!」

「!」

 

 確かに眠っている場合ではないらしい。

 倦怠感を抑えてハンガーにかけていた制服を手に取る。

 

「確認された情報によりますと、多数のオートマタを含めた兵器群、トリニティのシスターフッドを思わせる奇妙な姿をしたシスター達、巨大なペロロ人形など……訳のわからない状況が続いていると!」

「すぐに風紀委員全員を召集、ゲヘナにその正体不明の集団が近づく場合はアコの指揮で迎撃しなさい。生徒や住民が避難してきた場合に備えて避難先の用意もして、私は情報の確認に向かうわ」

 

 カイザーがアビドスで怪しい動きをしていたのは情報部からの報告で知っていた。

 

 隣接している小さなあの学園も、守銭奴で有名な彼等なら手を出しかねないのも予測出来ていた。

 

 だけどそれは彼女達の問題。

 他学園の生徒の私が介入して良い事ではないと分かっている。

 だけど、もしも彼女が……梔子ミライがこちらに出てきたら転校生として入学の手続きを手伝いたいと思っていた。

 

 立場もあるので私から出向いて直接なんてことは出来ないけど、彼女が望むならと思っていた。

 雷帝の事とは無関係に、彼女は誰かの助けが必要な子だと思ったから。

 でも彼女はゲヘナに来ることも自治区から出て来ることもなかった。

 

 もっとも私も同じ状況なら簡単に受け入れることは出来なかったと思う。

 自分の学園が乗っ取られたなんて現実を受け入れて、早々に別の学園に行くなんて納得できるわけもない。

 自治区の中で今も葛藤している、彼女には受け入れる為の時間が必要だったはず。

 

 大切な家族に加えて自分の学園まで失って、ようやく普通の人らしい生活ができるようになった所にこの仕打ち。

 だけどそのお陰で、救助と言う名目で彼女を外に連れ出せる、その後は……。

 

「……ッ! 何を考えてるの私は」

 

 頭に浮かんだ黒い思惑を振り払い、自分の頬を叩いた。

 

 あまりにも不謹慎で、彼女風に言うなら人の心なんてない考えだった。

 普段ならこんな事考えないのに、彼女のことを頭に浮かべるといつもおかしくなる。

 でも結果的にやる事は同じこと。

 

 彼女を連れ出して、連れ出して。

 連れ出してから先の事が思い浮かばず思考がループする。

 

 今の彼女にとって、私は他人。

 だけど私にとっては違う、そのショックを覚悟しなきゃいけない。

 

 会うなら、そう思ってた。

 だけどその覚悟は、あまりにも遅すぎた。

 

「ミライ……家が」

 

 彼女の自宅に着いた頃には自宅は完全に崩壊していた。

 焼け焦げた跡と、銃を撃ち込まれたような痕跡、兎に角ミライの住んでいる家は完全に崩壊していた。

 

「はッ! はッ! うそ……そんな訳ない、そんな最悪な終わり方ッ!」

 

 瓦礫をひっくり返して中に居るかもしれないミライを探す。

 壊れたベッドやタンスが幾つか見つかって、それで。

 

「ああ……ああ!」

 

 見つけた。

 

「ヒナちゃん……めっちゃ……かわいい」

 

 右腕のない、私の友達。

 

「ミライ……冗談でしょ? いつもの……今度のは趣味が悪過ぎるわ……ねえ……起きて?」

 

 現実を否定したい。

 今ある目の前の全てを否定しなきゃいけない。

 こんなの認められない。

 

「………」

 

 ヘイローの壊れたミライを抱える。

 

 どうしてこんな事になったの、どうしてこうなるまで会いに行かなかったの。

 

 もっと早く、彼女がこんな所に居なければ。

 もっと早く、私が連れ出していたら。

 もっと、もっともっと。

 

 早く、会いに行っていたら、私は彼女を死なせなかった。

 

 だけど会いに行かなかった。

 

 忘れられていたから。

 誰と言われるのが嫌だったから。

 それだけの理由で。

 

 でも、もう。

 

「もう……大丈夫よミライ」

 

 もう、離れはしない。

 離しはしない。

 

 ずっと側にいる。

 

(………………え? なんで私死んでるの? 相変わらず脆いな私、というかこの感じ前にも)

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「……?」

 

 目を覚ますと、目の前に灰色の天井と鉄格子のある部屋に閉じ込められていた。

 

「おはようお嬢さん、お目覚めかな?」

「随分と寝苦しそうだったね、大丈夫? 温泉に入る?」

「……後にします」

 

 牢屋の同居人に声を掛けられ、顔を向けた方向に居たのは派手な格好の小悪魔が二人。

 温泉開発部というキヴォトスでも屈指の危険な集団。

 彼女達が訪れた場所には更地と温泉しかなくなってしまう恐ろしい部。

 

「……あー、頭痛い……これ以上気絶したらバカになりそう。何回目だろこれ」

「大丈夫かい?」

「ええご心配に及ばず……なんで私捕まってるんです?」

「さあ?」

「……まあいいか、看守さん! そこの看守さーん! そうです! そこのあなた!」

 

 牢屋の外に座っている二人の看守。

 格好はミライも予想していたが、ゲヘナ風紀委員の制服姿。

 

 ここはゲヘナの牢屋だとミライは把握した。

 そこに何故収容されているのか、だがそんな事は彼女にとって瑣末な事。

 

「なに、静かにしなさい」

「便利屋……私と一緒に捕まった人ってどこです? 陸八魔アルさんって人達なんですが?」

「陸八魔? ああ、捕まってないよ」

「そうですか、それは……良かった!」

「……」

「悪かったです、早く捕まるといいですね!」

 

 アル達は彼女を置いて逃げられたらしい。

 ミライは置いて行かれたことを惜しみながらもアル達の無事を祈る。

 

 彼女としては誘拐された側なので惜しむことはおかしいのだが、それを指摘する者はいない。

 

「まあいいです、私いつ出られます?」

「委員長が帰ってきたら確認してやる、いいから静かにしてて」

「分かりまし……おお!! 美食研究会!?」

「うるさい……」

 

 ふと彼女は隣の房に目をやると、そこにも見覚えのある集団が捕まっていた。

 温泉開発部と同じく危険な集団。

 彼女達が訪れた場所には更地か美食しかなくなってしまう恐ろしい部。

 

「本物ですか!? すごい! 最近の私幸運過ぎる! これは死ぬ悪夢を見るのも頷けます!」

「私達も有名になりましたね〜」

「悪い意味でだけどね」

「ええ私あなた達の大ファンなんです! サインを書いてほしいくらいですよ!!」

「なんだか気恥ずかしいですわね、こうして注目をされるのは」

 

 捕えられている温泉開発部と美食研究会のメンバーを同時に見られた事にミライはアル達と出会った時と負けないくらい興奮していた。

 

「SNSいつも拝見してますよ、気に入ったお店や気に入らないお店を爆破した報告を見るのが楽しみで。いつか私の入ったお店が爆破されて黒焦げで気絶するのが夢でした! そしてあなたの瞳に宙を舞う私の姿が映るんです!」

「随分と倒錯した夢ですねー?」

「静かにしなさーい!」

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 ミライが無事と聞いて安心した。

 あれだけ探し回って壊れた家だけを見つけた時は肝を冷やし、結局無駄な労力を費やしたと知ってどっと疲れもした。

 

 だけど彼女と会わずに済んだ事に少しだけ安心した気分になった。

 この感情は、あまり良い事ではないのだろうけど。

 

「なに?」

 

 でもその後に、イオリからの報告を聞いて頭が痛くなった。

 

 偶々、本当に偶々見回りしていたイオリが便利屋68の運転していたレンタカーを発見。

 風紀委員として対処しようとして。

 

「……で、彼女を捕まえたと」

「うぅごめん! 便利屋は逃したけどそいつは残ってたから、気絶してたけど新しい仲間と思って」

「そもそもぐるぐる巻きで縛られていたんですから完全に被害者では……中に居た彼女は奇跡的に無事だったからいいものを、警告も無しに攻撃するなんて」

「だって凄く仲良い感じで話してたから! それに私は先に攻撃してない! 誰かが先走って撃ったんだ!」

「誰かって?」

「それは……わかんないけど」

「……」

 

 言い訳をするイオリをチナツが冷たい目をして見ている。

 話を聞いた感じミライは誘拐されていた状況だったと思うけど、彼女なら平気で誘拐犯とも仲良く話してそうな想像が容易にできるのが困る。

 

「ミライは今どこ?」

「特別牢に、前に委員長が捕まえた奴等と一緒に入ってる」

「解放しに行くわよ」

 

 誤解という事もあるが、あまり長く他の学園の生徒を無断で捕まえている訳にはいかない。

 

 それに久しぶりに、顔を見たい。

 

「委員長も? それくらいなら私に」

「いいの」

 

 顔を見たいが、複雑な気分。

 会いたいとは思っているけど会いたくないとも思ってる。

 

 彼女となにを話して良いのか分からない、小鳥遊ホシノほどの大きな理由はないが。

 

「い、委員長、お疲れ様です!」

「梔子ミライはどこかしら?」

「昨日入った人ですよね? それなんですが……」

「?」

「──! ────!!」

 

 何か言い難そうな顔をする特別牢の監視役。

 私もイオリも首を傾けていると、特別牢の方から楽しそうな賑やかな声が聞こえた。

 

「実際に見て頂いた方が早いかも」

「……」

 

 監視役がミライの収容されている牢へと案内して、そこに近づいていくと声は五月蠅いくらいはっきりと聞こえてきた。

 

「やったー! ロイヤルストレートフラッシュ!!」

「またー!? 絶対いかさましてるでしょ! これで三回連続よ!?」

「じゃあまた何か賭けますか? 次の美食の活動で私のお気に入りのお店に来ない権限でどうです? まあそのお店なくなったんですけどね! あはは!」

「おや、まだ続けるんですか?」

「ええ! オールインです!」

「あまり調子に乗って賭け続けてると破産しますよー?」

「いいんですよ、そうなったら破産申請を出すだけです。それに私はお金を貯めても一夜で全部消し飛ぶくらい運が最底辺なので。お金はすぐに集められるんですけど大切な物はなにも残りませんからねー!」

 

 美食研究会と牢屋越しで遊んでる……。

 一体どこから持ち込んだんだろう。

 

「お前ら何してるんだ」

「あ! 風紀委員! 何って見た通りゲームよ! ……全部負けてるけど」

「ヒナさん、こんな所に何か用事ですか? 次は美食研究会の車を賭けるので、用事なら後にしてください」

「給食部のでしょう、あなた達に用件はないわ。私が会いに来たのはそっち」

 

 視線をミライに向けるが、彼女はトランプをシャッフルするのに夢中で私に気づいてない。

 

「ミライ、風紀委員長が呼んでるよー」

「えーっと次は……ん? 風紀委員長? 風紀委員長!?」

 

 バタンと凄い勢いで立ち上がったミライは重ねていたトランプを放り投げて振り向いた。

 

「ああ!? 私のカード!! 何するのよ!?」

「本物のヒナ委員長!?」

「……そうよ」

「キャー! 凄く可愛い! ちっちゃい! カッコいい! 美少女! 結婚したい!」

「何言ってるんだお前!?」

 

 ……本当に変わらないわねこういう所。

 

「やあイオリさん! 素敵な牢屋に入れてくれてありがとうございます! 美食研究会の人達と遊べるなんて夢みたいでした! 温泉開発部の人達とも会えましたしもう感激で」

「ひ、ひ、ひええええええっ!! そこに! そこにいるぅ!」

「いないよ部長! 風紀委員長はあっちだよ? 幻覚見えてる?」

「……今はヒナ委員長が来たから泣いてますけど、さっきは次の温泉地を探しに行く計画を一緒に立ててたんですよ! そうだ温泉卵とかどうですか!?」

「温泉卵……なるほど、良いかもしれませんわね!」

「次の美食殿の活動には私も誘ってください!」

「美食研究会よ」

「勿論かまいませんわ、共に究極の味を探しましょう」

「いいですねわね! 脳髄の空腹を満たしましょうですわ!」

「ねえ委員長……こいつ牢より病院に容れておいた方がいいんじゃない? 頭の方の」

「………」

 

 訳のわからない事を言うのは前からだけど閉じ込められているのにこの気力。

 つい最近まで寝込んでいた子とは思えない。

 ゲヘナの生徒にも負けないくらい元気いっぱいのミライの変わらない様子に安心して。

 同じくらいの寂しさも覚えた。

 

「ああそうだ! 忘れてました! 風紀委員長!」

「なに?」

「私は梔子ミライです! ヒナちゃんって呼んでいいですか?」

 

 そうして、私はミライの何度目かも分からない自己紹介を聞いて。

 

 なんとか笑えてたと、思いたい。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 深夜の時間帯。

 カイザーが謎の奇怪な集団に襲撃を受けていた頃のこと。

 

「ミライ……家が」

 

 彼女の自宅に着いた頃には自宅は完全に崩壊していた。

 焼け焦げた跡と、銃を撃ち込まれたような痕跡、兎に角ミライの住んでいる家は完全に崩壊していた。

 

「はッ! はッ! うそ……そんな訳ない、そんな最悪な終わり方ッ!」

 

 瓦礫をひっくり返して中に居るかもしれないミライを探す。

 

 壊れたベッドやタンスが幾つか見つかるけど彼女の姿は何処にもない。

 死んでしまったとしてもその身体がないなんて事はないはず。

 

「……逃げたの、ね? 逃げられた……のよね?」

 

 火の手が近くまで来ている。

 空の天候も悪く、直ぐ近くで雷まで落ちた。

 

 何か異常な事が起きているのは間違いない。

 

「ミライ、どこに……小鳥遊ホシノ?」

 

 遠目に見えた、凄まじい速度で動く人影。

 銃弾や爆弾を避ける後ろ姿だけだけど、間違いなく小鳥遊ホシノ。

 

 ボロボロの様子で誰かと戦っているようだけど、相手は炎の向こう側に居るのか此処からでは見えなかった。

 

 彼女がなぜこんな所に、なんて考えるだけ無駄か。

 ミライの為に来たのね、だけどあの様子ではまだ見つけられていないみたい。

 

 彼女と合流して協力しようかとも考えたが、小鳥遊ホシノの戦っている相手。

 相当に強い、小鳥遊ホシノを苦戦させるほどの相手が私の方まで来たら面倒だ。

 それに今は誰かと争っている場合ではない。

 

 此処に来るまでにシスターフッドの様な者達に襲われてかなり消耗した。

 特に二丁のガトリングガンを持つシスターと、黒い影……猫の様な四足歩行の巨大な怪物が厄介だった。

 小鳥遊ホシノもその手の謎の化け物と戦わされているのかもしれない。

 

 もしかするとミライも。

 

 そう思って自治区中を走り周り、学園近くを通って、屋上に誰か立っているのが見えた。

 

「なに……────?」

 

 黒い幽霊のような、ボロボロのゲヘナの制服を着た生徒が居たような。

 

 だけどそれは本当に一瞬姿が見えただけでもう一度その方向を見ると誰もいない。

 

 気のせいだったのか、この異常な状況だらけでその判断はできなかった。

 その姿を追って校舎の屋上へ飛び上がるけど、影も形もない。

 痕跡も見つからない。

 

「なんだったの?」

 

 結局、自治区が全て焦土になる次の日の朝までミライを探し回っても、救助した人達の中に彼女はいなかった。




クロカゲは性質的に無理でしたがバルバラとユスティナは倒したそうです
ちなみにホシノは落雷撃たれた後もホルスと戦いながらセトを追い返したそうです
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