自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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遅れて申し訳ありません。
健康です、生きてます。
書きたい気持ちは残ってます。


第十一話・記憶にない友情

「言っておきますけど私は別に同性愛者とかではないですよ? ただ単にあなた達が綺麗で可愛いからこの反応をしているだけで私個人としては将来付き合ったり結婚したりするなら……割と悪く無いな……私ってもしかして両刀だったのかも! いやどちらかと言えば四刀……そうですモモトークだけじゃなくてSNSのアカウントも教えましょうか? 私作ってませんけど! 今から作りますねー! もしかしてイオリさんは持ってませんか?」

「……ずっと喋ってて飽きないの?」

「あなたといる限り無限に出てきますよ。無限と言えばですが!」

 

 牢屋を出てから校舎の廊下までずっと喋り倒すミライにイオリはうんざりしたような顔をする。

 しかも話がころころと変わって一貫性がない、元の話が何だったのかイオリはもう憶えていない。

 

 時々すれ違う生徒から見られては、他人のふりをしたい気持ちに駆られたイオリだが、真面目な性格に加えて誤認逮捕の負い目があったので仕事を放り出すような真似はしなかった。

 逆に言えばそうでなければ今すぐに仕事を放り出したいと考えているのだが。

 

「ところでヒナっちってどこに行ったんです?」

「委員長は忙しいんだ、あとヒナっちって……失礼だぞ!」

「嫉妬しました? じゃあこれからはあなたをイオッちって呼びますね!」

「してない! しなくていい!」

「そうですか、私も別のシスターを思い出すのでやめて起きます。ところで私は何処に案内されてるんですか?」

「救急医学部だ」

「ようこそ医学部へ」

「うわあ!?」

 

 医学部の前に着いた途端、勢いよく開けられた扉から現れた生徒に驚くイオリ。

 

 ネームド生徒に立て続けに会い、驚かされ続けたお陰で少しは耐性が付いたミライだがそれでもアイドルにあったファンのような感動を抱いている。

 しかしいい加減に叱られそうだったのでなんとか抑え込んだ。

 

 白髪の医学部の制服、どこか衛生兵を想起させる格好をした救急医学部の部長。

 氷室セナがそこに居た。

 

「はじめまして! 梔子ミライです!」

「氷室セナです、お話は風紀委員長から伺っています。どうぞ中へ」

「ヒナっち……ヒナさんから? なんで?」

 

 セナは既にヒナから話を伺っていると言い部室の奥へと案内する。

 ミライは何の話かと首を捻るが、特に疑問を言う事なく付いて行く。

 

「ちゃんと診て貰えよ、頭を」

「失敬な! 頭はとっくの昔にバカになってますよ! 家族含めてね!」

「自分で言う事かそれ!」

「セナさん私の傷を診てください、十三歳の頃に包丁で切った指先! あー! もう治ってました! でも心の傷ならありますよ! 此処に居ると胸の奥がドキドキと鳴り止まなくて! イオリさんの足舐めてもいいですか? マシになりそうです」

「良いわけない! やめろ!」

「残念、また今度ですね」

「今度もない! 誰にも足なんて舐めさせる日なんて来ないからな!」

 

 運動もしていないのにイオリは疲れて肩で息をする。

 

「騒がしいですね、保健室では静かにしてくださいよ」

 

 部室の前で騒ぐミライとイオリに、溜息の似合う気だるい声に振り向いた。

 

「あのモップ頭はムック? 違う! あなたは色ハど」

「こちらへどうぞ」

「ちょっと待ってください! あのふわふわの髪の毛を触らせッ──!」

 

 万魔殿の棗イロハ。

 保健室に居たのに気付いたミライは興奮してお喋りをしようとしたが、セナに腕を引かれて奥の部屋へと連れて行かれた。

 

「なんなんですか今の?」

「面倒臭いから説明したくない……」

 

 イロハに疲れたような顔をするイオリはそう言って目をそらした。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 学園の保健室とはいえ、巨大なマンモス校のゲヘナである為か設備そのものは一般の病院にも負けない。

 よくある健康診断から、ミライは映画や漫画でしか見えないような検査機で診断を受けた。

 

(MRIって内科だったっけ? 外科だったっけ? セナってどっちが専門だったっけ?)

 

「それでは結果が出るまでお待ちください」

「はーい……疲れた……」

 

 ベッドの上に寝かされたミライはかなりの長い時間身体を調べられて疲労していた。

 イオリが感じていた精神的な疲弊には劣る。

 

 横になっていたミライの視界の端に、小さな尻尾が映る。

 

「ばあ!」

「わお」

 

 彼女のいるベッドの横から驚かせるように顔を出したのは、高校生と呼ぶには幼過ぎる容姿の生徒。

 万魔殿のアイドル、丹花イブキ。

 

「…………」

「こんにちは天使のような悪魔のお嬢さん、お名前は?」

 

 イブキはミライをジッと見つめた。

 

「…………イブキ、イブキだよ!」

 

 一拍置いてイブキも返事を返した。

 そこに少しの違和感をミライは感じたがまあいいかと特に追及はしなかった。

 

「あらかわいい、疲れていなければ興奮して抱きしめてました。そして私はそこに居るイロハさんに撃たれてたわけです。やらなくて良かった!」

「いきなりそんな事しませんよ」

 

 イロハが居る理由はイブキの付き添い。

 若しくは救急医学部へとサボリに来たか。

 

(保健室でサボリなんて如何にも高校生ぽい……そういえば高校生だった)

 

「……ミライお姉ちゃんも怪我したの?」

「ええ、でもあなたの笑顔を見れば治っちゃいそうです」

「ホントに? じゃあイブキもっと笑うねー!」

「ホントに天使みたいです!」

「いえ悪魔です、その表現も何だか……言いたい事は分かりますが」

 

 笑顔のイブキの頭を撫でるミライ。

 

「お礼に私も見せてあげましょう」

 

 懐からリボルバー拳銃を取り出したミライは、イブキに銃口を向けて引き金を引く。

 

「ちょ!?」

「イブキ!」

「ばーん!」

 

 慌ててミライを止めようとするイロハとイオリだったが、銃口から出てきたのは弾丸ではなく薔薇の花。

 彼女が握っているリボルバーは本物ではなくマジック用のおもちゃの銃。

 

 飛び出た薔薇にイブキは無邪気な笑顔で目を輝かせている。

 

「わぁー! 綺麗ー!」

「差し上げましょう、笑顔のお礼です」

「ありがとう! お姉ちゃん!」

「……」

「まあ、こういうタイプだよ。数分一緒に居るだけで凄く疲れる……似たようなのを道中でも何回かやられた」

「なるほど……うちの先輩方と同じタイプですね」

 

 イオリが疲れた顔をしている理由を察したイロハは、銃を貰ってはしゃぐイブキを近くに寄せる。

 

 そしてできるだけミライから離れた。

 

「イブキちゃんも怪我をしたんですかイロハさん?」

「グラウンドで遊んでたら転んじゃったの、でもセナ先輩が治してくれたから大丈夫!」

「安静にしないとダメですよイブキ……私の名前を教えましたっけ?」

 

 撫でながら内心凍り付くミライ。

 本人にとって幻覚かと思えるほど喜ばしい事態の連続に油断していたが、彼女達にとってミライは他人であり、ゲームのプレイヤー及び先生だったなんて知り得ようはずもない。

 

(ホントは教えても良いんだけど気味悪がられるか信じないだろうし……欲も毒も知らないだろうし)

「ま、万魔殿の人なら有名人ですよ、ゲヘナ最強の風紀委員長もそうですし」

「……何か誤魔化してません?」

「そんなことは! ただちょっと……業の深い概念もあるので」

「?」

「こういう奴だよ、偶に変なこと言い出すんだ。変態だよ」

「ありがとうございます」

「褒めてない!」

 

 色々な意味で墓まで持って行かなくてはならない情報。

 当人たちが知れば羞恥心で死ぬか、憤ってミライを殺しかねない内容もある。

 主に業の深い変態絵師先生達のせいで。

 

 この話を続ければボロを出してしまいそうだとミライは話を変えようとする。

 

「あーえっと、そうだ転んで怪我って大丈夫ですか? てかグラウンドで? 撒菱でも撒かれていたので?」

「普通に転んだだけだよ?」

「普通に……地雷原のグラウンドという事ですか」

「そんな場所でイブキを遊ばせる訳ないでしょう、というか地雷原のグラウンドなんてゲヘナにありません」

「なら針山地獄とか?」

「うちを物騒な学園にするな」

「だって普通転んで怪我なんてしますか? 私じゃないんですよ?」

「誰だって怪我くらいするだろ、風紀委員長だって擦り傷とかよくあるし」

「ミサイルの直撃を受けても戦闘続行できるミニサイズウヴォーギンが?」

「誰だよそいつ、ミサイルが直撃して無事な化け物が居るわけないだろ……委員長は確かに頑丈だけどさ」

 

 呆れた顔をして冗談だろうと相手にしないイオリ、自分の上司がその化け物なのだが。

 

 その化け物の全力の攻撃を受け、尚且つ崖から列車ごと落下しても血を流さなかったもう一人の化け物も居るのだが、ミライが何か言う事は無かった。

 

 そうして雑談をしていると保健室の奥からセナが現れる。

 

「楽しく会話されているところすみません、少し彼女をお借りしてもよろしいでしょうか? 二人だけで」

「じゃあ外で待ってる」

「私達も行きましょうかイブキ」

「うん! じゃあまた一緒に遊ぼうねお姉ちゃん!」

 

 振り向きながら腕を振って出て行くイブキにミライも同じく笑顔を腕を振って別れる。

 

「……私もイブキちゃんに名乗ったっけ?」

「何かあったら呼んでくれ」

「何もないと呼んじゃダメです?」

「ダメ」

 

 ツッコミを入れる気力が尽きたのか雑な返事をしてイオリも部室から出た。

 保健室にはセナとミライの二人きりになる。

 

「……茶飲み話でもします?」

「診察が終わった後ならいくらでも。さてミライさん、質問を幾つかさせてください」

 

 対面して座るミライは真剣な場面なのだと分かっているので冗談を言わないように気をつけようとするが、セナから見つめられてつい口元が緩む。

 

「こうしてゲヘナの生徒になって毎日診察されたかった……おっと、すみません心の声が。いいですよ! 私に答えられる範囲ならなんでも答えちゃいます! スリーサイズは」

「ミライさん、あなたはらい────いえ、ヒナ委員長と友達だったことを憶えていますか?」

「上から100、100、100で…………なんて?」

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 小学生の頃。

 

 初めて出会った時に見た感想は、車椅子に乗った儚い女の子って感じだった。

 私よりも小さくて、痩せ細った見るからに病弱そうな生徒。

 

「はじめまして! 私は梔子ミライです! ヒナっちって呼んでいいですか? 私のことはセクシーミライと呼んでください! 将来性が物凄いので、具体的には身体の方が!! むしろ私が呼びましょうかセクシーヒナっち委員長!」

 

 その第一印象から受けた想像は一瞬で消えたけど。

 

(委員長?)

「…………えっと、何か用事?」

「いいえ特には、可愛いかったのでお友達になりたいなと。誤解を招く表現でしたね、別に容姿だけで話しかけた訳じゃありませんよ? いや容姿も入ってますけど、私これナンパしてるみたいですね! まあ思わずナンパしたくなるくらいには美人ですけど」

 

 それが彼女との最初の出会い。

 

 珍しい年下の友達だったけど、そういった雰囲気はほとんどなかった。

 

「あなたアビドスの出身なの? どうしてゲヘナに?」

「身体が弱くて、最適な治療を受けられる場所が近くになかったんです」

「そう……」

「まあそのお陰でヒナちゃんに会えましたのでラッキーですね」

「あ、ありがとう……?」

 

 あんまり賢くもないし勉強もあんまり好きじゃない、運動は……無理が出来なかったので仕方ないけど、口が上手いこと以外特に秀でた能力はなかった。

 

 だけどユニークで面白い子だった。

 こっちがヒヤヒヤするくらい危ない冗談を平気な顔をして言う時もあって、趣味も性格も全然違う子だったけど、病弱さを感じさせない笑顔でいつも楽しそうで。

 

「もしかしたら私はお姉ちゃんの妹に生まれて、ヒナちゃんと友達になれただけで全ての幸運を使い果たした可能性があります……なるほど? だからこんな身体に! なら仕方ないか……」

「仕方なくないと思う」

 

 生きてるだけで幸せみたいな顔をしてた。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「あなたは空崎ヒナ委員長を含め一部の記憶を忘れている。いや違いますね……あなたは一部以外の記憶が消失しているのだと思います」

 

 セナの説明を受けてもミライは何を言っているのか数秒理解できなかった。

 記憶喪失、確かにミライは物事を忘れっぽい自覚はあるものの一部以外の記憶が無いと言うのは流石に言い過ぎだと信じられていない。

 もしも数年間の記憶を忘れていたら気付くはず。

 

「……ありえません! 私は何も忘れてませんよ! 昨日食べたご飯も……弁当食べ忘れた! というか私まだ何も食べてない!?」

「今でこそ完治していますが、つい最近まで昏睡状態と聞きました。小学校を卒業する前に原因不明の病で意識を失ったと」

「夏休みの宿題をせずに済んでラッキーでした」

 

 小学生辺りから意識がなくなり高校生になるまで、つまりごく最近までミライは寝たきりの植物人間となっていた。

 なのでその数年間の記憶や思い出が無いというのは当たり前だが、当然セナはそのことを指して言っている訳ではない。

 

 中学生以前の記憶、ミライにとっては直近の小学生時代の記憶のことだ。

 こちらも入院生活が殆どだったが、懐かしいとも思っていないレベルできちんと憶えている。

 

 ミライはそう信じている。

 

「でも記憶がないと言うのはおかしいでしょう、だって……ヒナちゃんと友達なら忘れるはずありません! 美少女ですよ!? モフモフですよ!?」

「モフモフ……」

 

 この世界でも重要な、少なくともミライからすればヒナはこの世界で重要な生徒の一人。

 生まれた時から好きだった、生まれる前から好きだった生徒の一人だ。

 彼女が好きなのは生徒に限らないが。

 

「それは認めますが、あなたは小学生時代を憶えていませんよね?」

「…………入学から卒業式まで病院生活のはずです」

「その時あなたのお見舞いに来てくれた人のことは?」

「……お姉ちゃん」

「それ以外は?」

「…………嘘でしょ? ……信じらんない、マジ?」

「マジです」

 

 指摘されて初めて、ミライは自分の記憶に穴があることを自覚し始めた。

 

「では別の質問をしましょう、お姉さんとの思い出です……お辛いようでしたらかまいませんが」

「いいですけど」

「では……お姉さんとの思い出は? どんなことでも構いません、教えてください」

「…………サンタクロースの服が赤い理由を言った時、盾をプレゼントした時……冗談で適当に言ったスリーサイズを全部当てた時…………」

 

 ミライの口が止まった。

 大好きな姉との思い出が、するりと出てこなかったことに衝撃を受けて。

 

(どうして、今まで違和感さえなかったんだろ?)

 

 姉との思い出を、殆ど思い出せない。

 思い出そうとしなければ出てこない。

 今まで全く自覚がなかった、よくよく考えなくても異常なことなのに異常と思っていなかった。

 

 記憶はある、だが記憶はない。

 あまりにもバラバラで、録画していた動画をスキップしているような。

 途切れ途切れで、記憶を編集でもされているようだった。

 

 そして唐突にミライは疑問に思った。

 どうして自分は前世の記憶が殆どないのかと。

 

「……まあいいか」

「…………え?」

 

 そして直後にミライは興味を失った。

 あまりの平然としたミライの様子にセナはいつもの無表情を崩して、傍から見ても分かるほど目を見開いて困惑していた。

 

「よろしいのですか? 思い出せないのですよ?」

「ええ、そうですね。でも考えても仕方ありません、お姉ちゃんとの思い出は全部消えたわけじゃありませんし、目覚めてからのことは憶えてますから多分治ってるんでしょう。まあこれから新しい思い出を築いて行くことにしますよ。これから思い出せるかもしれませんし」

「────ふ」

 

 あまりにも能天気ぶり。

 息を吐いたようなセナは、クスりと笑みが零れたようにも、溜息を吐いて呆れたようにも、安堵のため息を漏らしたようにもミライは見えた。

 

「あなたは……お強いですね」

「いえ? めっちゃくちゃ弱いですよ?」

 

 それは見方によっては自分に興味がないようにも感じ取れる。

 

 ということを、セナは口にしなかった。

 

「まあ、唯一気になる事があるとするなら? どうして私が便利屋に誘拐されなければいけなかったのかって事ですけど」

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「ふんふふふーん♪」

 

 ゲヘナの校舎近くを歩くイブキは、貰ったおもちゃの銃を持って鼻歌を歌う。

 その姿を隠れて見ている不審な姿があった。

 

「なあホントにあの子? なんか年下に見えるんだけど」

「だって情報通りだよ、古臭い装飾なしのダサいリボルバーを持ってる小っちゃい子って!」

「ゲヘナの格好してるけど?」

「そりゃあここゲヘナだし」

「……そいつってゲヘナの生徒だったっけ? なんで写真とか貰わなかったの?」

「うっさいなあ! あんたが写真忘れた所為でしょ!」

「良いから捕まえるなら早くしよ! 風紀委員に見られたら不味いって!」

 

 コソコソと隠れてイブキに近づくゲヘナの生徒ではない不審な生徒達は小声で話しながら縄を握る。

 

「あれを捕まえたらあの黒い人から大金が貰える!」

「一億円!」

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