「──が好きで、セナさん映画は観られます?」
「人並みにですが」
「良い映画があるんですよホラーなんですがコメディ色が強くて、ああでもパロディが多いから初見じゃ分からないかも」
「話が逸れていませんか?」
「おっとすみません、えーっと何の話でしたっけ? そうだ実は私も幾つか行きたい学園があったんですけど回復したての時は身体が弱くって選べる学園も少なかったんです、今の学園に不満があるって訳じゃありませんよむしろ最高でした…………一回全部消えましたけど」
検査が終わり、保健室でセナと世間話をするミライ。
もっとも話しているのは殆どミライだけだが。
「ほう、どんな学園なのでしょう?」
「そうですね例えるなら瓦礫と砂がたくさんありました」
「そちらではなく行きたかった学園です」
「そうですね例えるなら……瓦礫と砂がたくさんある所です」
「あんたらいつまで話してるんだ!」
診察が終わってからもずっと外で待っていたイオリが我慢の限界とばかりに入ってくる。
一時間近く外でずっと放置されていればそうなるだろう。
だがイオリの反応とは裏腹にミライは気にした様子なく手招きする。
「イオリさんもこっちに来て話しましょうよ! 今もし他の学園に通えるなら何処に行きたかったって話をしてたんです!」
「どうしてそこを選んだんですか?」
「環境が悪くても良い部分はあるんですよ例えば人です、可愛らしい人が居るんですよ私もその人の事をさん付けじゃなく先輩って呼びたかった」
「へー……あっそう」
「イオリちゃん興味ないです? ヒナちゃんみたいな人なんですよ、気怠さと達観をプラスさせて闇を追加した感じです。将来子供が出来た時に名づけそうな名前で……この話は止しましょう」
「あんたが一方的に喋り倒してるだけ……!」
言葉を途中で止めたイオリは銃を強く握り保健室の入口を向く。
イオリの纏う空気が変わったのをミライは悟れず首を傾げ、保健室の扉が強く開けられた。
そして大勢の足音を規則的に立てて現れたのはゲヘナの生徒会。
軍服のような格好をした万魔殿の制服を着た生徒達だ。
「嘴嫌いだな!」
「梔子ミライです」
「梔子ミライだな!」
「はい!」
「万魔殿の議長の命令で拘束連行させてもらう!」
「いいですよ」
「いやよくないだろ!」
突然の万魔殿に、突然の拘束宣言を受けても特に拒否しないミライにイオリがツッコミを入れる。
「こいつは私が委員長の指示で監視してる、捕まえる気ならまず私か委員長を通してもらおうか!」
「わあ! カッコイイですよイオッち! イノシシみたいに突撃して落とし穴に良く落ちる人とは思えませんねえ! カメラ持ってません?」
「確か忘れ物の中に……」
「うっさい! 何で知ってるんだ!?」
「いいからそこの女を渡してもらおう、議長の命令だぞ!」
一斉に銃を向ける万魔殿の生徒達。
しかしその行動はイオリの生真面目で頑固な気質を知る者にとっては悪手であると分かる。
「ふん!」
「ふ、風紀委員が万魔殿に逆らう気か!? 始末書を書くことになっても知らないぞ!」
銃を向けられても動揺せず睨み返すイオリは一歩も下がらず、むしろ前に出てライフルに銃弾を装填する。
「私は言ったはずだぞ、委員長を呼んで来いって。議長の命令だろうが万魔殿の生徒だろうが関係ない! どうしても此処を通ると言うなら、私を倒してからにしろ!」
「…………」
「おおー」
まるでフィクションでしか聞かないような台詞を言ったイオリ。
狙われているはずのミライは他人ごとのような感嘆の声を出した。
「もう一回言ってくれませんか? ボイスレコーダーとかありません?」
「確か忘れ物の中に……」
「うるさい! もうちょっと黙ってろ! どんだけ忘れ物多いんだ此処!?」
「コントを見たいんじゃない! 邪魔をするなら本当に……!?」
ゲヘナらしく生徒達が実力行使に出ようとするも、突如として振動が室内まで響いた。
そしてミライの背後の壁が破壊された。
「うぎゃああ!? なにごと!?」
「ここに居ましたかミライさん、お迎えにあがりましたよ」
「ハルナぁ!?」
救急医学部の部室の壁を車で突っ込んで破壊したのは美食研究会。
乗り込んで来た問題児達に驚きの声を上げるミライとイオリ。
「私の部室が……」
「もごもごー!(給食部の車がー!)」
「美食の活動を行うのに名誉部員であるあなたを放ってはおけませんからー」
「名誉部員? 私が? いいんですか!」
彼女達の横暴に嘆く声が二名。
しかしハルナとミライはそんな声が聞こえない。
「私が名誉部員!」
特にミライは感動に震えて今の周囲の惨状が見えていない、ハルナ達もこの程度の破壊は日常茶飯事なので気にしていない。
万魔殿、風紀委員、救急医学部、給食部の生徒達はこのカオスな状況に困惑していた。
「勿論、共に美食の道を歩むと約束したではありませんか」
「ねえ早く温泉卵食べに行こうよー、お腹空いちゃった!」
「ケーキとチキン!」
「クリスマスには早いですよ?」
「え? そうかな?」
「温泉開発部の皆様も待たせていますから、早くお乗りになってミライさん」
「良いですね! 行きましょう!」
「良くない! 梔子ミライを捕らえる指示がうぐぅ!?」
車に乗ろうとするミライを万魔殿の生徒達が止めようとするが、それをイオリは銃で牽制した。
「ええい! もう何が起きてるのか分からないけど!」
「融通が利かないのもいい加減にしろ!? この状況だぞ!」
「うるさい!」
イオリにとっても困惑から抜け出せない異様な状況であるが、それでもヒナの指示を遂行する為に万魔殿を妨害する。
「頑固此処に極まれりですね、頑張ってくださいイオっち! 後で一緒に温泉にでも入りましょう!」
「もう好きにしろー!」
「失礼フウカさん、アカリさん出してください」
「ちょっと狭いじゃない! もっと詰めてよ!」
「これ以上は潰れちゃうよー!」
「ではしゅっぱーつ!」
◆ ◇ ◆ ◇
ミライとイオリを保健室に向かわせた後のこと。
ヒナは万魔殿に呼び出され、この学園の生徒会長室に訪れていた。
正直会う度に溜息と面倒を呼び寄せる彼女とはあまり会いたくなかったが、ことミライに関連した事である為に拒否も出来なかった。
友人という事もあるが、ヒナだけでなくマコトにとっても目の上のたん瘤のような存在がミライに関わっているから。
マコトにとってはミライもそのたん瘤の一つである。
ミライは何も憶えていないだろうが。
「梔子ミライの拘束を続けていろ? いつまで」
「無論、奴が遺産の在りかを吐くまでだ。それまでゲヘナ風紀委員は梔子ミライを特別牢で24時間拘束、雷帝の遺産についての追求尋問を行え」
「……」
いつものような昼行燈な様子はなく、ピリピリとした空気を纏うマコト。
言いたい事は理解できた。
だがヒナはその命令を無視するつもりでいる。
「本人が記憶を失っているのよ、それに他校の生徒をいつまでも拘束するわけにはいかない。その指示は聞けない」
「自治区一つが壊滅して、再生したんだぞ。お前がそのニュースを観ていないなどとは言わせないぞ」
「……」
今朝のクロノスのニュース。
誇張表現やガセを多分に含む内容を流すことはあるが、映像に映されていることだけは真実で、情報収集により内容も把握した。
一夜にして崩壊した学園が、一夜にして全てが幻だったかのように元通りになっていた。
「奴が使った」
「そんなわけない」
「何故わかる! いいかヒナ! 今回はお前を敵視して言ってるんじゃない! ゲヘナもああなるかもしれないから言ってるんだ! あとアイツのせいでイブキが! ぐぬぬぬ!」
(絶対最後のが本音だ……)
万魔殿の生徒がマコトの心中を察する中、ヒナも察しては居るがマコトの言葉に完璧には反論できない。
土地の権利を奪ったカイザーを殲滅し、権利書を取り戻し、崩壊された自治区を再生。
幾つもの結果が梔子ミライの都合の良い方向に向かっている。
学園を含めて自治区を全て更地にした犯人、元凶が居るとするなら思い当たる一番怪しい人物はミライだ。
だがヒナはミライがそんなことをする人間ではないと客観的にも個人的にも知っている、だがそれはある一つの例外を含めれば違うだろうとも理解していた。
「持ち物に怪しい物品はなかった、だからと言って遺産を所持している可能性は捨てきれない」
「……そうね、持っているかもしれない。でも永遠に出ない可能性だってある、永遠に閉じ込める気?」
「……」
「これまで通り監視を続ける。もしも生徒の一人でも被害者が出れば私が対処する、それでいいでしょう」
「…………わかった、梔子ミライが怪しい動きをすれば私も部下を動かす」
話し合う二人の居る部室はガンガンと激しくノックされ、部屋主であるマコトが許可をする間もなく万魔殿の生徒が入室した。
「失礼します! イブキちゃんが何者かに攫われましたぁ!?」
「……何ぃっ!?」
勝手に入ってきた部下に注意をする前に言葉の意味を理解できず思考停止し、意味を理解したマコトは毅然とした顔が崩れるほど表情が変わる。
驚いているのはヒナも同じで、マコトと同じく焦りを感じていた。
その理由はイブキが攫われたことだけではない。
(まさか……)
冷や汗を流すヒナは嫌な予感を覚える。
「一体誰が!? なんの目的で!? イブキだからか! 可愛いからか!?」
「そ、それがイブキちゃんの叫び声が聞こえ、何者かの生徒達に攫われたとの目撃情報と」
「すぐにイロハを呼べぇ! 見つけ出して轢き潰してやる!!」
「そ、それとイブキちゃんの居た場所にこんなものが!」
ヒナの勘は冴えわたっていた。
主に悪い方向で。
「……この銃」
「……」
もしもミライが攫われてゲヘナに来なければ。
もしもミライが雷帝とイブキ、どれか一つがミライと関わっていなければ。
もしもミライがイブキにおもちゃをプレゼントしなければ。
マコトが冷静であったなら。
ヒナが早々に止めていたなら。
「イロハを呼べ、戦争だぁあ!!」
二人が見た落ちていた物はリボルバー拳銃。
ミライがイブキにプレゼントした、おもちゃの銃。
ヒナは失念していた。
血の繋がりを感じさせる。
(いつも……間が悪い!)
梔子ミライの、運の悪さを。
【流石に空気読めなさすぎる+メタが過ぎるかなと思ってNGにしたセナとの会話シーン】
「というか病弱で身体が弱るのは兎も角、頭まで弱るってどういうことです? 病気が頭にまで回ったってことですか?」
「それは私にも、キヴォトス中でもあなたが初めての症例だと聞いています。何一つ詳しい事が分からず、生命を維持するのがやっとだったと」
「そもそも過去の記憶がないって、なんですかそのストーリー更新に伴って記憶を取り戻してああそんなのありましたねってやりそうな展開は? 言っておきますけど私はもう色彩についてある程度話してますからそんな展開になんてなりませんよ? 色彩は私をストロングボディにしてくれる最高の存在なんです!!」
「色彩とはなんです?」
「あーやっちゃった、つい口走っちゃうのが私の悪い癖。忘れてください」