自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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嘘でしょ……名前被った
そんなことある?


第十三話・一人の為に、全てを捨てた

 救急医学部の部室から出たミライは、爆走する給食部の車に乗って学園の外へと向かう。

 なぜ万魔殿の生徒が来たのか気になったが、この一瞬の愉悦にそんな些細な理由は忘却された。

 

「にしても頑丈ですねこの車? 壁にぶつかっても原形を保ってます。私も壊れない車が一台欲しいですね、壊れないというより壊れてないって言うべきかな」

「むぐむぐー!」

「はい? フウカさん、口枷を着けて喋られては何を言ってるのか分かりませんわ?」

「ぶうううう!!」

 

 口と身体をぐるぐる巻きにされて縛られているフウカ。

 ミライは藻掻くフウカの口の布を取ってあげる。

 

「けぷっ! 毎回アンタ達に壊されるから今月の予算を使って装甲車並に改造したの!」

「まあそれは、ありがとうございますわ!」

「アンタ達の為じゃないわよぉ!! というかあなた誰!?」

「新入りの梔子ミライです! 仲間になれて本当に光栄です、一緒に頑張りましょう!」

「私はコイツ等の仲間じゃない!」

 

 全力で否定する涙目のフウカ、傍から見ても人質か誘拐されているようにしか見えない、というか実際に彼女は誘拐されている。

 ミライもつい最近同じような目に遭ったが真逆の反応をしている。

 

「おや、来たか美食研究会の諸君!」

「お待たせしましたカスミさん」

 

 ゲヘナの校舎を出ると、そこには大勢の温泉開発部の部員とカスミの姿があった。

 彼女達は全員準備万端といった様子で、重機と銃器を用意している。

 

「なに、これくらいのこと何とも思っていないさ! 共に汗を流し、キヴォトス全ての温泉を掘り当てようじゃぁ~ないか! ハーッハッハッハッ!」

「ええ、長い道のりの果てにある究極の味を探しに行きましょう」

 

 二人は長年付き沿って来た古い友人のように固い握手を交わした。

 その目的や思想はおろか文脈さえ成り立っていない、お互いに一方的に喋りたいことを喋っている。

 

 それでも二人の部長が手を組んだことに部員達に異議はない、部員達にとっても自分の目的が達成されればそれでいいのである。

 結果、ゲヘナにおける二大テロリスト部、奇跡のコラボレーションがここに誕生した。

 最悪である。

 

「今日は最高の一日になりそうです! ねえメグ太郎?」

「それって私のこと?」

「返事はへけっでお願いします」

 

 周囲にとっては最悪な一日になるだろうがミライにはそう映らない。

 

「この日が来ることを夢に見ていました! 温泉に入った後にご飯食べますか? 食べた後に入りますか? それとも温泉に浸かりながら食べますか?」

「お行儀悪いよ?」

「じゃあメグさんが決めて良いですよ、ところでどこを掘りに行くんですか? アビドスの砂漠? 何も埋まってませんよ、宇宙戦艦くらいです! クックック! まあ実際には超デカイスパコンなんですけど。これやってエアプって煽られてた人が居たのを思い出しました、懐かしいな~」

「何の話?」

 

 そうして悪夢が始まる、かと思われた。

 

「そこまでだ美食研究会! 温泉開発部!」

「この声は……誰だっけ?」

 

 威厳、があるかはテロリスト達の殆どは分からないが。

 その声と共に規則的な足音と、戦車のキャタピラが回る音を彼女達は耳にする。

 

「うわ、マジ……?」

「あらら……」

「ひ、ひ、ひ」

 

 最悪の無秩序のコラボが成立するなら、その逆も然り。

 

 思想も目的も合わない、それでも過程が同じな彼女達。

 

 現れたのは。

 

「ひぇええええ!」

 

 ゲヘナ最強の風紀委員長、空崎ヒナ。

 

「委員長! と……えー、誰だっけ?」

「ゲヘナの生徒会長ですよ、あ、呼び方は議長でしたっけ? そうですよねー? マコト議長さーん!」

 

 ゲヘナ議長、万魔殿の議長、羽沼マコト。

 そして風紀委員と万魔殿の生徒達、普段はいがみ合っている二つの組織が肩を並べてミライ達の前に立ちふさがった。

 

「こんにちは!」

「一度しか言わん、イブキを返せ!」

「へ?」

 

 マコトは刺すような目付きをしてミライへと威圧的に語りかけた。

 しかし意味を理解していないミライは首を捻る。

 

「ミライ、きっと何かの勘違いでしょうけど今は大人しく投降して。誤解は私が解くから」

「何の話? イブキちゃんがどうされたんですか?」

「イブキを誘拐したんだろう! 今居場所を吐けば軽い罰で許してやる!」

「イブキちゃんを誘拐したー!? なんで!?」

「しらばっくれても無駄だ! イブキの居た場所に落ちていたこれを見ろ!」

 

 騒いで憤慨するマコトは一つの拳銃を掲げた。

 それは数時間前にミライがイブキにプレゼントした玩具の銃。

 

「私の銃ですね! ……え!? もしかして私が犯人だと!? 勘弁してくださいよ伍長殿!」

「誰が伍長だ!」

「だいたい私はさっきまで保健室に」

「イロハ」

「はぁ、すみませんがちょっと我慢してくださいね」

 

 言い訳、というより本当に知らないミライはマコトを説得しようとしたが、その前にけたたましい砲撃が鳴り響き。

 

 ミライのすぐそばの地面を抉り、吹き飛ばした。

 

「ぎゃあ! 問答無用!?」

「当たり前だ!」

「掴まってくださいねー!」

 

 状況を深くは理解していないものの、攻撃を受けたことでアカリはアクセルを全力で踏んだ。

 反撃はもとより戦力差から考えてはいない。

 逃げるが勝ち、勝機はその一手のみ。

 

「逃がすか! 追えー!」

「ミライ……」

 

 普段以上に乗り気ではない、忘れられていたとしても友人を攻撃しなければならない事実にヒナは一瞬足を止めた。

 

 が、風紀委員長としての義務感から迷う心を払うように、すぐに飛び上がって車を追跡した。

 

(ここでミライを止め、イブキを見つけ出して穏便に解決する)

「アコ、後方部隊の指揮を任せるわ。私は先行して回り込む」

『挟み撃ちにするという事ですね? 分かりました』

 

 全速力で逃げる美食研究会と温泉開発部を、それ以上の速度でヒナは追いかけた。

 

「イロハ! 進め! 全軍をあげて奴等を!!」

「マコト議長! あまり戦力を出すわけには行きません! トリニティに隙を見せるような行動は条約に差し障る可能性が! ティーパーティーがゲヘナに侵入したという情報もあります!」

「ええい! 相変わらずのキツネ共め! こんな時に!」

 

 万魔殿、マコトも追撃の為に戦車に乗って追いかけようとするも、今後の条約の件に差し障る。

 そこまでなら全く気にせずイブキのために総力を上げたのだが。

 

(奴が雷帝の遺産を隠し持ち、それを自由に行使できるのなら。下手に戦力を出せば最悪全滅に……泳がせるのも手か?)

 

「どうするんですかマコト先輩? 追跡よりイブキの捜索を始めた方が効率的だと思いますよ?」

「……そうだな。ミライの攻撃は停止! 捕獲は風紀委員にでも任せていろ! 一刻も早くイブキを探し出すんだ!」

 

 逃げていくミライの後ろ姿に、マコトは一瞥して拳を握り締めたが直ぐに踵を返して校舎へと戻っていく。

 

 それは忌々しいながらも、これまで培ってきた奇妙な信頼からだろうか。

 

 ゲヘナ最強への、ある種の嫉妬心からか。

 

「逃がさない」

 

 時速100キロ以上の猛スピードで走る車を、翼を広げたヒナが真上を飛んで回り込み。

 

 真正面から足で強引に停めた。

 

「ひぇえええ!!」

「くっ! 相変わらずヤバい!」

 

 車の頭はヒナの足に突き刺さるようにように凹み、止めたヒナに全員が目を剥く。

 

「いいから全員大人しくして、言うことを聞かない場合は……いくらミライでも」

「ま、不味い!」

 

 バチバチと電撃のエフェクトが出そうなほど瞳を鋭くして銃口を向けるヒナ。

 その脅威の殲滅力を知っているゲヘナのテロリスト達は焦り、余裕の笑みを浮かべるハルナさえ冷や汗を流していた。

 

「うわー!? ちょ、やめてぇえ!?」

「ま、待ってくださいヒナちゃん! いえヒナ委員長!! これは絶対何かの誤解ですよ! 私がイブキちゃんを攫うような悪い子に見えますか!? 確かに拐っちゃいたいくらい可愛い子ですが!!」

「そうでしょうね」

「おや?」

 

 いつも通り話し合いに応じず問答無用で攻撃してくる展開を予想していたハルナだが、ミライの言葉には応じたことに少し驚く。

 話し合いのはの字も持っているか疑わしい彼女達が思う事ではないのだろうが。

 

「イブキを連れ去る動機も理由もない。でもこれ以上部外者のあなたに騒がれ面倒を増やされたら収拾がつかなくなるかもしれない。大人しく投降するなら痛い目に遭うことはないわ」

「………………まあ……正論ですね。何一つ反論が思い付きません、どうしましょう?」

 

 イブキを誘拐したという誤解をされているミライが大人しく捕まり、後は事件解決の専門家たる風紀委員に任せるのが道理。

 そもそも美食研究会と温泉開発部と事件を起こそうとしていたのでミライは碌な言い訳も思いつかなかった。

 

「仕方ありません、大人しく……」

「そんな事は許しませんよ! 彼女は私達と共に美食の道を歩むと誓った仲間! 逃げる為の囮にはしても、美食の繋ぐ友情を切り捨てるなど許しませんわ! 困難な道を乗り越えてこそより素晴らしい味へと昇華されるのです!」

「囮にするつもりだったの?」

 

 ヒナの言う通り投降しようとしていたミライを、ハルナは強引に自分の所へと抱き寄せて渡さない意思を示す。

 理由はジュンコが引くくらい酷いものだが。

 

「私ももうお腹ぺこぺこです、また捕まってご飯を逃すなんて嫌ですよー!」

「私も早く温泉卵食べたい! せっかく良いドレッシングを給食部から持ってきたのに使わないまま捕まるなんて嫌だよ!」

「わ、私だってお腹空いたわよ! これ以上待たされるのなんていや!」

「皆さん……私のためにそこまで!?」

 

 美食研究会の友情厚い言葉にミライは自己解釈して感動している。

 

(……いや、なんで泣いてるの? 何に泣いてるの? あんたの事なんて誰も話題にも出てなかったわよ。私がおかしいの?)

 

 自分本位のハルナ達だが都合の良い耳をしているのは新入部員も同じようで、美食研究会が自分の為にヒナ達風紀委員会と戦おうとしていることにミライは泣きそうに口を押さえて感動していた。

 

 色んな意味で彼女達の相性は良いのかもしれない。

 呆れた表情で見ていたフウカにとってはいい迷惑だが。

 

「簡単な話ですわ、犯人だと誤解されているのです。なら逆に真犯人を捕まえてしまえば私達は堂々と美食にありつける。ヒナさんから逃げて食べる極上の味も興味はありますが今回ばかりはミライさんの件を優先しましょう」

「あなたが? 珍しいわね……人助けなんて」

 

 目的はともかく、ハルナが特定の個人に肩入れする所を見たヒナは珍しさに驚く。

 友人の人徳かと喜ぶべきか悲しむべきかと複雑ではあったが。

 

「どうしてもミライさんを連れて行くというなら、このフウカさんを倒してからにしなさい!」

「きゃー」

 

 人質として誘拐したフウカをハルナは前に突き出し、呆れたジト目の表情となっているフウカは完全に慣れた様子の棒読みの悲鳴をあげた。

 しかしそれはヒナの戦意を削ぐことはなく。

 

「……鎮圧する理由が出来たわ」

「おっとすみません、失敗しました」

 

 逆に風紀委員の業務を実行させるに足りる十分な理由を作ってしまった。

 

「ちょっとハルナ! 怒らせてどうするのよ!」

「温泉卵はまた今度になりそうですねー、残念……」

「ええ! そんなー!」

 

 先程までヒナを前に抵抗の意志を見せていたアカリ達だが、やる気を出したヒナを見て既に諦めかけている。

 

「ねえねえ? これって私達も巻き添え喰らう感じ?」

「ひえええええぇ! なんで二人もー!?」

「部長いい加減に正気に戻ってよ」

 

 同席している温泉開発部の部員達も巻き添えを喰らうと焦り出した。

 彼女達には抵抗の算段はなく、ミライもこの状況を脱する知恵も浮かばない。

 

「わああ!! ちょ、待って!」

 

 引き金に触れてハルナ達へと攻撃しようとした瞬間。

 

「助けてください! ヒナさん!!」

 

 ヒナの脳内には走馬灯のような景色と、存在しない記憶が溢れる。

 

 

 

 

『あなたは私が、守るから』

 

 

 

 

 ヒナは背筋が凍るような感覚と。

 

 見知らぬ光景のはずなのに、見たことがある瓦礫の下敷きになっている友達の姿が見えた。

 

「……ッ!?」

(なに? 今の────!? 後ろッ!)

 

 動揺を感じながらも、反射的に背後を振り向いて何者かの伸ばされた腕を振り払った。

 

 しかし不意に現れた何者かはヒナの腹へと三発、機関銃による射撃でもって攻撃した。

 

「ぐっ!」

(重い! この銃、私の!?)

 

 反応が間に合わなかったヒナはくの字に曲がった身体を引っ張られる。

 

「しまっ!」

 

 脚を掴まれたヒナは地面に頭を一度叩きつけられ、続けて近くの建物へと投げ飛ばされた。

 ヒナの身体は壁を破壊して突っ込んで戦場から姿を消す。

 

「な、なにが!? そこに何か! 消えました! 瞬間移動!?」

 

 ミライには見えなかったが、何者かが稲妻の如く現れヒナを投げ飛ばした。

 ヒナの背後に立っていたのと、ヒナを人形のように振り回した際に起きた衝撃による土煙によって、その何者かを美食研究会や温泉開発部の誰も確認できなかった。

 

「わ、わかんないけど」

「今の内ですねー!」

「にっげろー!」

 

 謎の援軍による助けも入り、両部員達は車を飛ばして全力でその場から逃走した。

 

「ヒナ委員長!? ご無事ですか!?」

「問題ない」

 

 風紀委員の援軍が到着したが、ヒナが瓦礫から這い出たその頃には既に車は何処かへと消えていた。

 

「イブキを探すのが優先……私達も捜索に出る、万魔殿の情報部にハルナ達を探すように伝えて。見つけても、私が行くまで手を出さないようにとも」

「は、はい! かしこまりました!」

「それと……伏兵が居るわ」

 

 ヒナであれば今なら足ですぐに車まで追いつける。

 他の風紀委員も専用車で簡単に追いかけられるだろう。

 

 だが捕まえるのは無理だ。

 

「強さの位は……敵に私が居ると思って」

 

 その理由をヒナだけが一番に理解している。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ゲヘナの最高戦力から幸運にも逃げ出せた彼女達は、ゲヘナの高速道路を爆走していた。

 

 その後ろをヴァルキューレがサイレンを鳴らして追いかけているが、彼女達にとっては日常音の一つなので全く気にしていない。

 

「それにしてもあんた誘拐なんてしたの?」

「子供を攫うなんて悪い人ですねー!」

 

 先程マコトの言葉を一緒に聞いていた者達が蔑むような目をミライに向けている。

 しかしミライには一切心当たりがない。

 

「そうです私が悪党です、って違いますよ生憎私はピーターパンじゃありません、どちらかと言えばフック船長の方が好きですし、でも可愛い女の子は好きですよ特に健気でひたむきに頑張る子が可哀想な目に遭うと興奮して妄想が止まらなくなります。でも大切な人になって目の前で死ぬとかは流石に………なんで私がイブキちゃんを誘拐した事になってるんですか!!?」

「反応遅くない?」

 

 事情を知らないミライにとっては意味不明だ。

 イブキ誘拐の犯人にされ、本人は知らぬことだがカイザーPMC襲撃及びに自治区崩壊の犯人、正確には崩壊させたであろう雷帝の遺産を所持している疑いを持たれている。

 

 最悪なのはゲヘナ最強戦力の風紀委員、ヒナを敵に回してしまっているということ。

 

「…そもそも私のあげた銃が落ちてたくらいでどうして犯人だと? マコトさんらしくありません」

「よく知ってるね、ゲヘナの議長なのに」

「いえ知りませんよ全然、勘で言っただけです。嘘、ホントは良く知ってます。イブキちゃんが居なくなった所為で冷静さを失ってるんでしょう」

「……本当にそれだけかな?」

 

 ヒナの姿が見えなくなり、落ち着いたカスミが首を傾けて意味深に言う。

 

「どういう意味です?」

「さーね! 私も勘で喋ってみただけだよ! はっはっは!」

「それよりこれからどうするー? とりあえず部長が考えた場所掘りに行く?」

「うーん、実は先程の騒動のどさくさで計画書を落としてしまってね! 何処かは憶えているが回収されているなら風紀委員に先回りされているだろう!」

「自信満々に言う事じゃないわよそれ!」

「はっはっはっは……むぐッ!?」

「大丈夫? ……わあ、これすごい!」

 

 笑っていたカスミの顔に風で飛ばされて来た紙が貼り付いた。

 イズミがそれを剝がして紙を見ると驚いた顔をしてミライへと見せる。

 

「ブラックマーケットの指名手配……梔子ミライを連れて来た者に……」

「一億円!?」

 

 下手な似顔絵の描かれている、恐らくミライなのだろう絵が描かれていた。




あけましておめでとうございます
イベント良かったですね
セイアが実装されたお陰で主人公と絡ませることが出来るようになって良かったです(コイツは絶対に声ネタをするから会わせたくても会わせられなかった)
悪かったところは名前が被ったことです
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