自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第十四話・Unwelcome_Students

 容姿の特徴、年齢、その他幾つかの服装に関して情報が書かれているが、指名手配書にあるのは写真ではなく手書きの絵。

 

「なんで似顔絵?」

「これあなた? あははははは!!」

「写真上手く撮れなかったのかな? だとしても凄い顔!」

 

 冗談のようにもミライは思ったが、その指名手配書の絵は笑えるものだが端に書かれている内容は本物のようで。

 ミライの居る学園から住所、所持している武器、意味があるのか分からないが連絡先まである。

 これが冗談なら随分と悪質だろう。

 

「一億円ってデラックスチョコハンバーガー何個分かな~?」

「あなたのお腹が破裂するくらい」

「おおー! ……もしかして万魔殿が怒ってた理由と関係してるのかな? でもこれじゃあ誰かも分からないよね?」

「…………」

 

 質の悪い冗談のような手配書にその報酬。

 だがイズミの何気なく呟いた一言にミライは真顔で手配書とイズミを四度見した。

 

「…………はぁ!? 私とイブキちゃんを間違えて攫ったんですか!?」

「流石にありえないでしょう?」

「そうです! そんなのバカでもない限り……」

 

 ありえないと言うハルナに同意しようとするミライだったが、言葉を詰まらせる。

 何故なら彼女はそのバカな者に心当たりがあるから。

 

 というよりこのキヴォトスにはそんなバカが大勢居る。

 ドジなどというレベルでは説明出来ない愛らしいバカたちが。

 

「クソ! 犯人に心当たりが多い!」

「口が悪いですわよ?」

「どうにかしないと、すぐにイブキちゃんを助けに行かないと!」

「私達がかい?」

 

 カスミは指名手配書の内容が本物だとしても一億円という法外な報酬が本当とも思っていない。

 そしてミライ個人の問題にも、イブキを助けようとも思っていない。

 

「彼女達のスマホにメッセージでも送れば後はなんとかしてくれるだろう?」

「服どろどろ、早く温泉入りたーい」

「お腹も空きましたね〜」

「ゲヘナの生徒なら風紀委員や万魔殿が動くさ、私達が助けに向かう必要がない」

 

 それは冷酷さ故ではなく万魔殿と風紀委員へのある種の信頼がある故だろう。

 規格外の能力を持つヒナを筆頭に、何度も自分達を止めたゲヘナ風紀委員への皮肉な信頼。

 

「そうですわね」

 

 長く風紀委員と対立、というより勝手をして痛い目に遭ってきたカスミ達はその強さと能力をミライ以上に知っている。

 ハルナもカスミの言葉に考える仕草をすると納得して頷いている。

 

 ゲームとしての知識しかないミライでは決して得られない実際の経験という形での知識。

 ミライにはこの世界での人生経験は殆どない。

 対立する形であっても初対面の自分より、ヒナと長く過ごしてきたのは間違いなくこのアウトロー達だと。

 

 反論する言葉は見つからなかったし、介入する必要もない。自分達が何もしなくてもヒナ達がどうにか解決する。

 その言葉の意味を理解できないほどミライもバカではない。

 

「……そうですね」

 

 それに拐われたのは万魔殿のマスコット的存在、みんなに愛されるイブキだ。

 その保護者同然の者達の憤りはミライが実際に見た通り凄まじいもの、むしろ犯人の心配をした方がいいのではないかと。

 

(まあ、これでいいよね……ヒナちゃんも言ってたし……私が動いて足を引っ張ったら意味も無いし……私より優秀で強い人に任せれば……)

 

 納得したミライは心の中のモヤモヤを残しながらも受け入れようとする。

 

「でも、この子を連れたままだと結局風紀委員が来るんじゃないの?」

「「「……」」」

「なんだか色々あったけど、もの凄く怒らせちゃったみたいだし」

 

 ふとイズミが口走った言葉に全員が無言になる。

 

「え」

 

 そしてその場の全員が一斉にミライを掴んで車から落とそうとした。

 

「うぎゃあああ!! 何するんですか!? 死ぬ死ぬ! 死んじゃいますって!」

「これくらいじゃ死にませんわ、だけどこのままでは私達が死んでしまいます」

「早く落として! ついでにそこのヴァルキューレからも逃げるわよ!!」

「さっきまでの威勢は!? 仲間じゃなかったんですかぁ!?」

 

 ヒナを相手に啖呵を切っていた(もっともその後逃げたが)その場の者達が一斉にミライを加速する車から降ろそうとする。

 流石に車から落ちた程度で死ぬほど脆くないが、それはそれとして痛いのは痛いのでミライは全力で抵抗した。

 

 渾身の力を込めてシートを掴むミライは本気で落とされかねないと如何にかして理由を考える。

 

「えーっと、えーっと! そうだ! カスミ部長&ハルナ会長! 勘違いをしていますよ!!」

「うん?」

「何が?」

「はなれてよ~! 力強!?」

 

 車にしがみつくを超えてくっつくレベルで離れないミライを未だに引き離そうとするがピクリとも動かせないジュンコはその力に驚いている。

 そんなある種情けなくも見える格好ながらミライは話を続けた。

 

「あのマコトさんの暴走した様子ではすぐに冷静にはなりません! そんな状況でもあの人なら権力を振り翳して風紀委員及びヒナ委員長に指示を出すはずです! ……つまり何が言いたいかと言うと私を連れてるここの人達全員漏れなく終幕:イシュ・ボシェテで薙ぎ倒されるでしょう!!」

「だから今こうやってあんたを蹴落とそうとしてるんでしょ!」

「黙ってて! 胃袋でパズルされたいんですか!」

 

 車から落とされそうになりながらも、ミライはジュンコを躱して助手席に座るカスミの膝の上に乗る。

 その衝撃でカスミは呻き声をあげたが。

 

「ぐぇ! おもい!!」

「失礼ですよ! ああ違う……そうなった場合絶対にヒナ委員長を差し向けるはず、他の風紀委員もやってくるでしょう! ついでに万魔殿の人達もイブキちゃんが攫われたと知って士気と怒気が最高潮! おまけにヒナちゃんも怒らせちゃったし、そんな人達を相手に冷静に交渉できると思いますか? ついでにあなた違が今までやってきた事を鑑みて素直に話を聞いてくれると思いますか? 無理でしょう? 無理でしたよね!!」

「…………う、うーん」

 

 唇がくっつきそうなほどの距離で説得されたカスミは空を見上げて一考する。

 

 落とされたくない、という動機だけでなく実際ミライはこの状況において冤罪を証明しなければならない。

 

(正直言ってヒナとマコト、全員から無傷で逃げ切れる自信がない!!)

 

 指名手配が出回っている以上、他の勢力から狙われる危険もあるだろう。

 

 カスミとハルナも彼女達全員、自分達が今まで行ってきたことに罪悪感はないが風紀委員を怒らせ、校則を守っていない行動をしているという自覚くらいはある。

 その上で、この問題児達の言い訳をヒナを含め激怒しているイブキファンクラブもとい、パンデモニウムソサエティーの生徒達が大人しく聴いてくれるか。

 

 考えるまでもなくNOだ。

 

「それにです、私と関わってしまった以上ここにいる全員はもう関係者です。私を車から蹴落としても後でヒナっちに海辺で絶海:イシュ・ボシェテされます!」

 

「そもそも何の罪もない子供が攫われてモヤモヤを抱えながら気持ちよく温泉に浸かれますか! 美味しく温泉卵を食べられますか!?」

 

「こんな状況にした犯人をぶちのめして! イブキちゃんを助けない限り! 我々は全員で地獄に行くことになるっすよ!」

 

 体験してはないが観測してきた経験からの言葉。

 ミライの言葉にカスミはメグに視線を向ける。

 

「イズミさんとジュンコさんはどうしますか?」

「え? うーん、後輩が攫われたからにはまあ助けたいとは思うけど」

「…………私ももう限界かも~、お腹と背中のお肉がくっつきそうで、でも可哀想な子も居るんだよね?」

「もしイブキちゃん助けたらパンデモニウム経由でお礼が貰えるかも、食券・半券・タダ券、毎日ご飯が食べ放だぁ〜い♪ …………かも?」

「食べ放題!?」

 

 空腹の限界を迎えて来ていたジュンコとイズミだが、食べ放題の歌に食いつくようにやる気を出し始めた。

 

「行こう行こう! すぐに行こう! 今すぐ!」

「ご飯とお味噌汁だけとかじゃないよね!」

 

 興奮する美食研究会の目が光る。

 利用するようで心が痛むミライだが、更に燃料を投下した。

 

「前菜メインデザート、あとついでにテイクアウトまでOK」

「やったー!」

「さあ戦いです、プリンセスを救い! 肉の晩餐会、お魚? フルーツ? 全部盛りで開きましょう! 足りない部分は敵の肉で補うんです!」

「温泉は!?」

「当然掘り放題! 毎日極楽浄土を踊りましょう!」

「ホントに!? わーい!」

 

 子供の様に、実際子供だが喜ぶメグをカスミは一瞥した。

 

「私達が助かって温泉に浸かり! 美味しいご飯を食べる方法はただ一つ! お姫様を救い! 犯人を血祭りに上げることです!! 準備はいいですかああああ!?」

「おおおおおー!」

「お? おおー!」

「え? やるの? やる感じ?」

「楽しそうだしやろう!」

「方針決まったぁ?」

 

 美食研究会と温泉開発部の心は一つになった。

 風紀委員に地獄へ送られる前に犯人を地獄へ送る為に。

 

 各々の目的の為に。

 

「まあ既にここは地獄(ゲヘナ)なんですけどね。ハルナさん、どうですか?」

「構いませんわ、美食への道は苦難を乗り越えた先にあります、これもまた美食への道ですわ!」

 

 元よりミライを助けることに何故か積極的なハルナは拒否せず銃を持ち上げる。

 

「みんなで温泉に浸かるには……どれくらい大きくすればいいかなぁー!」

「……いいだろう! 行き先変更だ!」」

 

 メグの様子を見たカスミは、すぐにいつもの自信満々な笑みを浮かべて立ち上がる。

 幹部達の意見は纏まった。

 

(あんまり良い気分じゃないなこれ)

 

 だがまだ重要な事が残っている。

 

「でも具体的に何処に行けばいいの?」

「指定の場所とか書いてないの?」

「こういうのは対面か電話越しで実際に話して場所を教えるものだから、場所とか書いてたらヴァルキューレにだって待ち伏せされるし」

「じゃあどうやって探せばいいのよ?」

 

 どうやって探すか。

 直感的にミライは数時間前に自分を攫った別のアウトローを想像した。

 

「……場所ではないですけど、知ってる人に心当たりがあります」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 便利屋68のオフィス(賃貸)。

 金次第でなんでも請け負うプロのアウトロー集団。

 少数精鋭、その界隈ではそれなりに名を馳せる実力派。

 

 だが。

 

「………………」

「社長まだ引き摺ってるの?」

「シクシク……シクシク……」

「…………」

 

 社長専用と札の書かれたデスクに頭から突っ伏しているのは便利屋68社長、陸八魔アル。

 それを見たカヨコが声を掛けるが、声とも言えない嘆き声が返ってくるだけだ。

 

「しばらくそっとしておきなよカヨコちゃん、風紀委員に襲われて相手も取り逃して依頼に失敗して、おまけに食べるご飯も無くなっちゃったんだから」

「状況説明どうも……あー、せめてお風呂に入りたい、美味しいご飯食べたい……」

 

 風紀委員の襲撃を受け、依頼に失敗し、望み描いていたアウトローな在り方に疑問を持つようなことまでした。

 当然成功報酬などもない。

 

 水道とガスも使えなくなり、絶え間ない空腹感も合わさってアルは久しぶりの挫折を味わっていた。

 

「あ、あの! 私がまた拐って来ましょうかアル様!? ふ、風紀委員を全員吹き飛ばせば、いえ学園ごと爆弾で!」

「やめて! そこまでしなくていいから!?」

 

 ショットガンと爆弾を抱えて言うハルカの無謀も無謀の凶行、上手く行くわけがないと止めたアルだけでなくカヨコとムツキも分かっている。

 便利屋68の社員達は少ない戦力ながらも社長を含め実力の高い精鋭が揃っている、その筋では有名でカイザーからも一定の評価をされていた。

 

 逆に言えば四人しかおらず、それ以上の精鋭を揃えているゲヘナの治安維持組織の中核たる風紀委員を相手にハルカを突撃させたところで簡単に制圧されるか。

 若しくはより酷い結果となってより警戒されかねない。

 

「こんにちわー」

 

(これ以上ゲヘナには近寄りたくない……)

 

 その恐ろしさを知っているアルは真正面から風紀委員と激突するくらいなら、ヴァルキューレやカイザーと戦う方がマシだろうと考える。

 実際の戦力差にそれほどの開きはないのだろうが、気持ちの問題だ。

 

「聞いた話なんですけど、ヒナ委員長とも友達なんですって」

「噓でしょ……」

「報復しにきた?」

 

 まるで思い出したように発された言葉にアルはますます蒼褪めた。

 最悪の場合、風紀委員を引き連れて捕まえに来ることも視野に入れなければならない、いやそれよりもこの空腹感を、そのために仕事を、でも依頼人はこない。

 

 一体どうすれば。

 

「報復なんてしませんよ、私のために動いてくれるほど仲が良いってわけじゃないですし……いやホントは仲良いのかも、物忘れ激しいんですよね私」

「……………………!?!? なんできゃあああ!?」

 

 自分達の失敗の象徴。

 目の前にミライの姿があった。

 

「器用ですね、驚いて叫ぶなんて、今度真似します」

「どどど、どうしてここに居るのよ! 梔子ミライ!?」

 

 依頼失敗の原因、という訳ではないが捕まえた人物が現れた驚愕にアルは仰け反って椅子から落ちる。

 

 慌てて立ち上がりアルが銃を構えるもミライは気にした様子なくリラックスするようにソファーに座った。

 

「どうしたんですかあんなに仲良く歓談した仲じゃないですか、喉が渇いたのでお茶下さい」

「あ、は、はい!」

「何しに来たのよ!? ハルカもお茶なんか出さなくていいから! それにないでしょそんなの!」

「お茶が無い程お金ないんですか!? 仕方ない、さっき買ってきたジュース飲も」

「じゃあそれで潤いなさいよ! って、そうじゃない!」

 

 ミライと話をしていると本題がずれていく。

 それを察したアルは一旦深呼吸をして精神をリセットし、いつものアウトローフェイスでもって対峙した。

 

「ふふふ、わざわざ一人で来るなんてどうかしているわね。私達があなたを捕まえて今度こそ依頼人に差し出す、そうは思わないの?」

「さっき依頼に失敗したって自分で言ってたじゃないですか、終わってるんでしょ依頼」

「どうして知っているのーーーー!?」

 

 落ち着かせた精神は意味なく崩壊し、アルは白目を剥いた。

 

「事務所の外まで聞こえてましたよ? それともまだ続いてるんですか依頼?」

「う……」

「まあもっとも私を連れて行ったところで、理事さんに下請けさせてまで依頼するような人が契約の終了した相手に報酬を素直に渡してくれるものなのか疑問ですけどね、直感ですけどなあなあで済まされそうです」

「ま、確かに」

 

 契約の重要性を理解しているカヨコはミライの言葉を否定せず頷く。

 アルも悪い大人やアウトローと仕事をしているうちにそういった相手も居るのだと知っている。

 

「これはアニメとか漫画の言葉じゃなく持論ですけど、仕事に意地とプライドとか必要以上に私情を挟むと失敗するより酷い痛手を喰らいますよ……嘘です今のもあるキャラクターの言葉、デュラララみんな読んでねかなり終盤の台詞だしこの世界にあるか知らないけど」

「何の話をしてるのよ……」

「復讐でもないなら何をしにきたの?」

「便利屋に来る理由なんて一つですよ。可愛い子に会いに来ることと、依頼……二つありました!」

「は?」

 

 まさかの依頼で来たことにアルだけでなく社員達全員が驚く。

 だがそれ以上に驚いたのは。

 

「あ、あのアル様……外に」

「え?」

 

 窓の外を指差すハルカ、その先をアルも覗き込むと。

 

「ねえ? まだー?」

「待ちくたびれたんだけどー?」

 

「な、ななな!」

 

 動揺から言葉を紡ぐことができないアルは愕然とした。

 

「温泉開発部!」

「美食研究会……あいつらも居るね……」

 

 無表情に近いカヨコも流石に焦るように冷や汗を流した。

 ゲヘナの二大テロリスト、アルにとっても迷惑極まりない連中の存在。

 

 むしろあの数に此処まで近づかれて気が付かなかったのか。アルは自身の失態を自覚した。

 

「あなたの友達?」

「仲間にしてもらいました!」

「ふーん、依頼聞かなかったらあれが襲ってくるってわけかぁ。可愛い顔してえげつないことするじゃん!」

 

 片方ずつの部であれば便利屋全員で対処は可能だろうが、流石に戦力差があり過ぎる。

 それこそ風紀委員レベルの力がなければ対抗できないだろう。

 

 もしもアル達がミライに乱暴を働いていたら、そうでなくとも不満のある行動をすればあの戦力が便利屋に。

 

 そこまで考えてムツキはミライを中々の曲者だと思った。

 

「え、あー……そ、そうですね!」

 

(なんも考えてなかったかー)

 

 どうやってあの個性豊かな個人主義集団をまとめたのか、そんな事はどうでもいい。

 ミライの考えあるなしに関わらず、あの二つの部活の起爆剤は間違いなく彼女だ。

 

 せっかく手に入れた事務所を壊されないようにするには。

 

「な、なんの用なのよー……」

 

 涙目になるアルは、大人しくミライの対面に座った。

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