「なんですってー!? カイザーコーポレーションがあなたと勘違いして子供を誘拐したー!? しかも万魔殿の大事な子で風紀委員と一緒に追われてるー!?」
「説明をどうも!」
簡潔に説明するアルはこれまでの経緯を聞いて白目となる。
改めて聞くとミライ自身も突拍子もない状況になっているなと思った。
「うわ、ホントだよ社長。ネットでも凄い賞金が懸けられてる……かなり怪しいけど」
事実確認をするカヨコは困惑したように携帯の画面を見せて来る。
手書きの人相書きの手配書には確かにミライの特徴が描かれていた。
ほとんど直近の出来事、何をすればそんな状況になるのかとアルはミライへと視線をやるがそんなことは本人も聞きたいだろう。
「い、いちおくえん……そ、それって、ええーっと私のお給料の100倍!?」
「落ち着いてハルカちゃん、そもそもお給料をもらう事なんてあった?」
「あったわよ! ……あったわよね?」
「兎にも角にもあなた方が私を誘拐したせいで罪のない小悪魔ちゃんが攫われ、もしかしたらR指定表記をしなくてはならない事態に陥ってるんです。私はロリコンじゃないので見せられても興奮なんてしません! 助けるのを手伝ってください!」
とんでもない暴論だとミライは自覚しながらもアルの罪悪感に付け込む。
もはや手段を選んではいられない。
恐らく、いや間違いなくイブキの誘拐には便利屋68が関わっている。
彼女達が直接的な犯人ではない、実行犯は別に居る。だがそれでも便利屋68は何かを知っているとミライは確信を持っていた。
「ううう、わ、私のせいで……え、ホントに私のせいなの?」
「この事件の犯人は多分アルさん達に依頼した人と同じだと思うんですよ、それで私を誘拐して連れて行く場所があったはずですよね? どこか教えてくれませんか?」
この事件の犯人が同一人物である証拠はない。
もしかしたら別の人間かもしれない、だがミライはそれならそれでも良いと思っていた。
(少なくとも、私が想像してる人いや……大人じゃないって分かったらそれでも十分)
アル達に誘拐されてから話した内容を思い出す。
カイザーコーポレーション、それも幹部のPMC理事と繋がりのある悪い大人。
そんな相手に一人だけ心当たりがあった。
「私に客の情報を売れって言うの? あまり私達を舐めないで欲しいわね。一流のアウトローを目指す便利屋68社長として、プライドに賭けてそんな不当な事はしないわ」
「誘拐するのは正当なんですか?」
「ううううー!」
「アウトローが不当とか、子供を誘拐する奴等は良いのかとか、なんなら脱走生徒にそんな事言われたくないとか……色々と言い返せることはあるんですけどやめておいた方がいいですか?」
「んー……ダメ!」
「聞こえてるわよ! うぅ、叫ぶとお腹が痛い……」
「あの……依頼に失敗しましたけど、賞金が懸けられてるならこの人を突き出せばお金が貰えるんじゃ……」
「一億円を? 本当に? 貰えると思うんですか? 一流のアウトローに誘拐なんて目論む不当な悪い人ですよ?」
「うううううううううう!!」
「あんまりアルちゃんイジメないでよー」
理詰め、というか正論の名を冠した武器で殴られ続けたアルは膝を突いてぷるぷると震えている。
今にも倒れそうな彼女を支えているのは意地とプライドか、それとも社員達からの信頼か。
どちらにせよ後少しとミライは確信した。
ミライはアルと違って社会経験は少ない、正確には悪い大人や問題児との繋がりが薄い。
不良には関わってきたことはある、主にカツアゲなどだが交渉だとか戦闘などで直接対面した事はない、記憶にないだけかもしれないが。
それでもミライは便利屋68という組織を、陸八魔アルを知っている。
もしかしたらアル以上に、アルの仲間以上にこの世界の誰よりも、梔子ミライはその一点だけは誰にも負けない。
「私は依頼に来たんですよ便利屋さん、金次第でなんでもやる。それが流儀で社訓で信条で……一流のアウトローなんですよね?」
「そ、うよ……」
乗せ方を知っている、強さを、高潔さを。
単純さを、稚拙さを、見捨てられない甘さと優しさを知っている。
「そういう所大好き! あ、違った……私は便利屋さんに依頼します! イブキさんを助けてください………………いや違うな」
その上で、ミライは全てを投げた。
「愛していますアルさん!」
「――はぇ!?」
『!?』
突然の告白に赤面するアルはおかしな声を出した。
会社の中も、外から聞いていたハルナ達もミライの発言に呆ける。
「そして許してください! 私はさっきまでアルさんを利用しようとしていました!」
「ちょ、な、なに、ええ!?」
「イブキちゃんを助けるという目的の為にあなたの優しさに付け込み、その力を借りてヒナさんやマコトさんよりも早くとか考えてました! 全部私がイブキちゃんを助けたい、笑顔を見たいからという勝手な理由からです! あとついでにみんなから褒めてくれるかなとか思っちゃちゃりして!」
ミライはイブキを心配している、助けてあげたい、守ってあげたい。
それは全て事実であり、決して勝手と卑下するようなものではない、しかしミライはそう思わない。
「でもその為に私は愛する人を、皆さんを利用するなんて最低ですよねぇ!! 私は最低ですごめんなさい!」
「あなた、さっきから何を言って……」
「言葉通り、私はイブキちゃんを助けたいけど、その為にアルさん達を使おうとしてたんです!」
ミライはアルを愛している。
いや、アルだけではない、ミライはこの世界の全てを愛している。
それは全て事実だ。
陸八魔アルにとっては意味が分かっていないだろうことも、そんな感情を向けられる理由も分からない。
それはミライにだってわかっている。
「私利私欲の為に。悪い事! それは良いですね最高です! でも……愛する人を利用するのは違うなと、今! 思いました!!!」
唐突な、突拍子もないことだがミライは便利屋68を利用することを止めた。
そしてそれは外に居る美食研究会と温泉開発部に対しても同じ。
ミライは外に居る彼女達へと叫ぶ。
「利用は嫌です! 無理矢理行かせるなんてもってのほか! 都合良く嫌がるあなた達を従わせるなんて……ちょっと見てみたいけど」
「は?」
「ん? うんー?」
「だから今一度、対等に話をしましょう! 温泉開発部のみなさーん!」
呼びかけた温泉開発部、部長のカスミさえ戸惑う様子を見せ、メグは事態を把握していないが今は真剣な話だと理解は出来たのか沈黙したまま全員が聴く姿勢を見せている。
「生徒会長権限です! これが終わったら私の自治区で好きに温泉掘っていいですよ! 風紀委員もヴァルキューレも巻き込んで日夜お祭り騒ぎさせてやります! なんなら私も参加したい!」
「お、おおおお!?」
ヒナと風紀委員を利用した脅しではない、今一度対等な条件を提示した。
「美食研究会の皆さん!」
「……」
「パンデモニウム経由でご飯を食べるなんて言わず、私とデートしましょう!」
「おー、これはちょっと変化球ですね」
予想外の条件にアカリも感嘆の声をあげた。
しかし不満の声を上げる者もいる、顔を赤くしているジュンコだ。
「どうしてご飯よりデートなのよ!」
「私、お腹ぺこぺこなんだけど」
「そうですねー、そちらの趣味に付き合わされるのは……食べ応えはありそうですけど!」
「勘違いをしないでください! 私の欲望だけで言っている訳ではないんです……ん? 最後のどういう意味?」
否定的意見があると当然分かっていたミライはただのデートを提示してはいない。
「もちろん料理も振舞いましょう! 外食でも私が作るのでも、お金は全て私が出しますし……それに」
「それに?」
「一人で食べるより、みんなで食べた方が美味しいでしょう!」
そうして笑うミライの言葉にハルナは呆気に取られていた。
「なんなら、ご飯の方もみんなで作りますか? 楽しいですよ」
「そう、ですわね……それは! 楽しそうですわね!」
呆気に取られていたハルナはその言葉に、クリスマス前の子供のような表情で答えた。
「それではアルさん、いえ便利屋68さん」
「な、なに!?」
「この財布を受け取れ―!」
ミライはアルの目の前に美食研究会から賭けで巻き上げた財布を叩きつけた。
「それは私達の!?」
「負けたんだから私のです!」
「今あんたへの感情とっても複雑になってるんだけど!」
「ええい黙らっしゃい! 今一度、私は依頼人として言います!」
ついでに自分の財布(殆どないが)を取り出してアルに拳と一緒に突き出した。
「今ならお風呂に入れて、美味しいご飯も食べられますよ? こんなチャンス滅多にない!」
胡散臭いビジネスマンのような語り口上をして精一杯のアピールでアル達の求めている物を提供する。
だが。
「ふふ……そうね、それはとてもいい、けども────それは受け取れないわ」
不敵な笑みを浮かべるアルは立ち上がって自身の銃を手に取る。
「私達を、私を知っているのなら分かるでしょう? 金次第でなんでもやる、だけどそれは依頼を無事に終えてから」
便利屋68はアルの背後に集まり各々の反応をする。
一人は楽しそうに笑み、一人は呆れたように銃の残弾を確認し、一人は爆弾を両手に抱えて恍惚の表情でアルを見る。
「──任せてください、その依頼……この便利屋68が解決してみせましょう! 報酬は、それからよ!」
そしてアルは、一流のアウトローのような邪悪な顔を作って答えた。
◆ ◇ ◆ ◇
一方その頃、カイザーPMCアビドス駐屯地。
軍事施設相応の設備と武装をした兵士達が歩いているが、その近くにはショベルカーを含めた採掘道具がいくつも置かれていた。
その中央にそのPMCを率いているカイザーPMC理事は蒼褪めた、体色が変化する身体であればきっと蒼褪めていた表情をしていた。
「ううぅ、クソッ! なぜこうも!」
その感情には恐れだけでなく怒りもあった。
むしろ怒り続けていなければ恐怖に飲まれていたかもしれないと理事は大人らしく冷やした頭を使って溜息を吐く。
怒りと恐怖で爆発しそうな心を持ちながら、思考は決して飲まれない。
なんてことは無いが、少なくとも我を忘れるようなことはない。
「じゃあこの子がミライ?」
「違う! 髪色が赤だろう!」
「ならこの子は? 緑色でちっちゃいよ」
「私はハイランダーの生徒! はなしてー!」
「この子はちゃんとミライだよ! 本人もそう名乗ってたし!」
「私はミレニアムの生徒ですが!?」
そう本人は思っているのだろうが、理事はきっちりと正気を失っていた。
「どうして本物の梔子ミライを捕らえられない!? いや、捕らえられないまでは良い! なぜこうも別人ばかり!?」
「それが梔子ミライのデータだけが削除されており! どうしても手に入れられず!?」
「そんなバカなことがあるか!」
次々とやってくる梔子ミライと間違えられた者達。
カイザーが裏から手配し、ミライに賞金を懸けて捕まえる作戦。
あまりにも稚拙で雑な、理事が冷静でなくとも気付けるだろうあまりに無茶な行動。
人ひとりを誘拐するとは文字にすれば簡単だが、世間に広まれば大事になるのは必然。
そういった配慮を考慮せず、なんなら場所さえ隠さずに実行した理事が正気ではないのは彼の周りに居る者達でなくても分かった。
「な、なんだ!?」
だからだろう、理事を見限り逃げるように立ち去った部下たちが消え、その者達に気付くのが遅れたのは。
派手な爆発音と悲鳴、衝撃と振動を感じ取った理事は大騒ぎで部下に報告を強いる。
「し、侵入者です! 基地にゲヘナの生徒が!」
「ゲヘナの生徒だと……? まさかッ!?」
監視カメラを通して映されたものを見る理事は自らの予想通りの光景に。
「────!!」
否、予想よりも悍ましい破壊者の大群の登場に、声にならない悲鳴をあげた。
「温泉開発部、美食研究会……」
侵入者を排除、制圧しようと抵抗するPMCを次々と返り討ちにしていくゲヘナのアウトロー達。
ただでさえ低下した戦力に、連日続く採掘作業にも参加させられていたPMC達では、暴力の擬人化というべき悪魔が相手では無力に等しく、紙屑のように散らされて行く。
その中には少し前に自身が、正確には黒服を通して雇った便利屋68社員達の姿があった。
「……便利屋68! 先手を取られたか!」
依頼が失敗して逆上したなどと理事は考えない、社長である陸八魔アルはゲヘナの生徒の中では理性的な方だと情報収集にて把握している。
金で動くアル達を雇われる前に、誰かが先んじて雇ったのだと理事は推理した。
金次第で誰にでも味方し、敵対もする。
その事に理事が恨み言を吐くことはないし共感さえするが。
「今は不味い……! はぁっ! はぁっ! お前達! 迎撃に向かえ!」
「了解!」
胸で手を押さえる理事は呼吸を荒くして次の指示を出す。
「間違いない、あの女……亡霊の仕業だ。こんな陰湿なやり方をするのは、アイツらだ!」
トラウマを植え付けられた理事は、やってきたのはゲヘナの生徒達であるにも関わらず犯人はゲヘナとは無関係の人間だと直感で気づいた。
彼には似つかわしくない理屈を排した感覚的な思考。
「うごぉ……」
直接拷問などをされた訳ではない。
自分達の部隊を呆気なく吹き飛ばしたのとも違う。
それでも彼女の顔は、姿は、あの地獄より、何よりも恐ろしかった。
「大丈夫ですか? 救急車呼びましょうか?」
『ミライちゃんの学園、返して?』
梔子ミライと、その背後に立っていた。
幽霊のように、人から遠ざかった姿をしていた生徒会長。
その正体は────。
「──今度はなんだ!?」
「マコト先輩、居ましたよ」
「奴にも大きな借りを作ったが、仕方がない……キキキ! 見つけたぞ諸悪の根源! イブキを返してもらうぞッ」