車に乗ってアビドスへと向かう異色の三つの部と一人の生徒。
「しかし、まさか対等な条件で再度交渉をされるとは思わなかったよ。あのまま私達を利用していれば楽だったろうに、変な子だね!」
「利用されてるの分かってるのに付いて来てくれたんですか? 優しいですねカスミさんは! その優しさでこの話をするのやめてくれません? 恥ずかしいので」
「あっはっは! 残念ながら私は優しくはないので拒否する! …………君はあれだな、もしかすればもしかするとトリニティ向きの性格かもしれないね」
それは果たして褒めているのか。
子供らしくはしゃぐような笑みのカスミの言葉はどこか意味深である。
「まあその惚れっぽさでは、あまり意味はないのかもしれないが!」
「惚れっぽいですか」
惚れっぽい。ミライの性格をそう解釈したカスミにわざわざ言及することはない。
事実を知る知らない以前にミライは説明する方法が分からないのもある。ゲーム越しに知っていましたなどと言われても冗談だと切り捨てられるのがオチだ。
(生まれる前から好きでしたとかロマンチックな台詞ではありますけど……)
「それでさ、本当にこっちで合ってるの?」
「うん、流されてる情報だとこっちだよ。あっちは隠蔽とかするつもりないみたい」
車を運転をするカヨコに、スマホを見ながら首を傾げるムツキが頷く。
首を傾げる、ではないが困惑しているのはムツキ以外にも多い。
「誘拐されたイブキ……というかミライっぽい子を色んな人達が無差別に連れて行ってるからSNSだけじゃなくもう既にちょっとニュースになってるよ」
「意味分かんないよね、本当に色んな意味で。誘拐するにしてもこんなに大胆に、というかターゲットの顔も分からないのに! なにしてるのこれ?」
考えれば考えるだけ分からなくなるとこの場に居るほぼ全員が困惑している。
幾ら多額の懸賞金が出るとしても競わせるように、大人数に目立つ形で、しかも素人にもやらせているのが一番の疑問。
「これはもう頭が、精神が壊れたとしか説明がつかないね」
「精神が?」
違和感の正体が解けないカヨコは「馬鹿げているけどね」と小さく言いながら。
しかしミライはカヨコの言葉に何か答えがあるような気がした。
精神を狂わせる、心を捻じ曲げる。
その正体をミライは察していながら明確な答えを出せない。
それは行動の意図が読めないから、なにせこれでは。
「私を……助けてる?」
「ちょっと、よそ見してる場合?」
「!」
深く思考する前に、高い呼び声がミライの意識と顔を上にあげさせた。
そこにはアルが目を細めてミライを見下ろしている。
「気になる事はあるんでしょうけど、今は他にやる事があるんでしょう? その考え事は今重要なことなの?」
「────」
重要なことだが、確かに今は必要ではない。
その答えを解明したところでミライのやるべき事とは関係ない。
「それは、そうですね。そうでした!」
考察なんてプレイヤーのような事、きっと他の誰かが勝手にやるだろう。
梔子ミライは、世界の全てを愛しているだけでいい。
「じゃ、敵を引き付けつつ攫われた子達を探すわよ……そういう細かいことできる?」
駐屯地を目前に、アルは半目で両部の部長へと視線を向ける。
「私達は温泉を掘る必要があるのでパスする!」
「そもそも私達、壊すこと以外はあまり得意ではありませんのでー!」
「でしょうね!」
壊す事以外得意ではないのは便利屋もそう、とアルは言いそうになった口を閉じる。
「仕方ない、温泉と美食を囮にして、私達が司令塔を押さえる方向で!」
「いえ! そのままみんなで行きましょう」
「え!?」
「そっちの役目は既に連絡してますので」
そういってミライはスマホの画面をアル達に見せた。
「たすけて……イオッち?」
画面にあるモモトークに書かれた文面をアルは読み。
そして誰も見ていない横で、カスミが小動物のように身体を縮こまらせ震え出した。
◆ ◇ ◆ ◇
数十分前、ゲヘナ学園。
いつも騒がしい万魔殿の部室は、よりいっそうの騒がしさに包まれていた。
「サツキはどこだ! こんな時に!」
「風邪で休みです」
「そうか……ならチアキはどこだ! こんな時に!」
「昨日美食研究会の被害に遭ってからカメラを失くしたと言って涙目でゲヘナを探し歩いてます」
「なにしてるんだあいつ!」
焦る表情のマコトがこの場に居ない幹部達にツッコむ。
その大きな理由はイブキが連れ去られたことだ。
焦る気持ちはイロハも同じだが、こんな状況になった一因でもある生徒のことをふと思い出した。
「マコト先輩は、どうして彼女を……梔子ミライさん? でしたっけ、敵視しているんですか?」
万魔殿のアイドル、イロハも妹のように可愛がっているイブキをマコトは他所の生徒に構われて不機嫌、と言うにはマコトのミライを見る目は少し過剰だった。
ミライが救急医学部に入ってきてから、イブキが驚いた顔をしてもじもじと悩んでいたのをイロハは気になっていた。
「……」
聞いた途端に一時停止したように硬直したマコト、口を尖らせて語るのを嫌そうにしている。
だがじっと見つめるイロハの圧に負けたのか、嫌そうな表情はそのままに語り始めた。
「ミライが意識を取り戻したのはごく最近、学園へと通う様になるまでのリハビリの間イブキと出会い、一緒に遊んだと散々聞かされた」
「なるほど……?」
とても単純な理由だ、だがそれだけでミライを敵視するのは理由が弱い。
敵視する風紀委員、主にヒナへの敵意ともマコトはどこか違う様子なのだ。
恐らくマコトはミライが犯人とは思っていないとイロハは確信している、タイミングを考えても、それに銃が落ちていた程度で誘拐した犯人だと分かる訳がない。
(マコト先輩は、個人的な理由で彼女を目の敵にしているのでは?)
イロハはもう少し何かあるのではと考えたが、追求する前に万魔殿の扉が強く開けられた。
「報告します!」
「扉くらい静かに開けてください」
「すみません! ですがイブキちゃんの所在が……」
「! どこだ!」
「それが……」
そして万魔殿から離れて。
その数分前の風紀委員会の部室。
「それでアビドスの方面で姿を見失い……申し訳ありません委員長」
「……」
報告したアコは逃した部下の代わりに謝罪するが冷や汗を流す。
万魔殿とは逆に、風紀委員会の部室は痛いほどの沈黙に包まれていた。
理由は主にヒナの鋭い視線と静かな圧力によるもの。
「イオリが万魔殿と揉め事を起こさずに引き渡していればこんな事には」
「う……だ、だって」
色々な理由を含めて、反省文を書かされることになるだろうイオリは涙目となるが、言い訳の理由が見つからずオロオロと慌てる。
実際イオリは暴走した形で戦闘行為を始め、目の前で美食研究会のメンバーを逃がすといった事をしたので仕方がないのだが。
反論の目途が立たないイオリは大人しく目の前に置かれることになる反省文の幻覚に向き合おうとして、突如自分の携帯が鳴り出すのに驚く。
「わあ!」
「イオリ、作戦会議中はマナーモードにしてください」
「ご、ごめんアコちゃ……ミライ?」
驚いた拍子に立ち上がって咄嗟に見たイオリは、光る画面にあるモモトークのその名前に再び驚く。
(そういえば連絡先交換してたんだった)
それはイオリだけでなく風紀委員会の部室の者達も同じ、特にヒナは大きく目を見開いていた。
『イオっちへ、イブキちゃんの場所見つけちゃったもんね! 場所教えてあげるから好きな映画教えてね』
「……」
「……」
「……」
「あの……委員長?」
奇しくもミライと同じように、イオリはヒナ達へとモモトークの画面を見せる。
「……全く」
呆れた、と言うようなヒナだがその口元は少し綻び、部の圧迫感がなくなった。
「全員出撃するわ」
「マコト議長にはどうしましょう、連絡を?」
「どうせ何もしなくても伝わってるわ」
◆ ◇ ◆ ◇
そして現在。
『まさか、風紀委員会と万魔殿……だけじゃなく、美食と温泉……便利屋、カヨコさん達とまで組むことになるとは』
「なに、不満なら帰ってもいいんだよ」
『そうは言っていませんよ!』
遠隔からサポートするアコの言動に、カヨコがらしくない言葉で返す。
だが内心カヨコも同じ気持ちではある、犬猿の仲であるマコトとヒナ、主にマコトが一方的に敵視している関係だがこの両部が協力するのは理解できる。
だがキヴォトスでも有名なアウトロー、テロリストと言われる美食研究会と温泉開発部、そして脱走した生徒の集まりである便利屋68まで轡を並べる光景にはある種、アコをして感慨深いものがあった。
「でも、カイザー相手とはいえこんなに派手なことしてもいいの?」
『言い訳をするべきはカイザーの方です、我が校を含め他校の生徒までも誘拐して連れ去った汚名はもはやぬぐい切れません。三十分もしない内にヴァルキューレも到着するでしょう』
「……三十分もしない内に、ね」
遅いと、カヨコは思った。
だがそれはヴァルキューレに対する不満ではなく。
「その間に、地平線になってるんじゃないかな」
それまでこの場所が原形を留めているだろうかという心配だった。
爆発して倒壊する電灯や建物、ありえない高さまで吹き飛ぶ戦車や兵士達。
風紀委員会、空崎ヒナだけでも過剰な戦力なのにこの人数差。
「正直、やり過ぎなレベルだけど」
「だとしてもそれなりに出来る連中が揃ってるみたい、なんか見たことない兵器とかもあるし。それに……ちょっと面白いのもあるよ」
黒いゴリアテ、搭乗型の最新兵器だろう戦車がゲヘナの生徒による完全制圧を妨害している。
そしてその先には怪しげな大きな建物が一つ。
黒いゴリアテはその建物を守るように立ち塞がっている。
「ふふふ、調整を急がせた甲斐はあったな! これならば!」
『搭乗者はカイザーPMC理事本人です、あのタヌキ! まんまと逃がしましたね!』
悪態を吐くアコを尻目に、カヨコは黒いゴリアテの背後にある怪しげな大きな建物に目を向ける。
司令塔から離れた場所にあるそれを、黒いゴリアテは守るように立ち塞がっていた。
「もしかして」
『お察しの通り、ゴリアテ背後にある建物に人が捕らえられています』
「ヒナは?」
『ヒナ委員長は駐屯地裏手から逃走者を制圧していますが、厳しいならそちらへと合流をさせますか?』
最高戦力であるヒナを動かすかどうか、アコは判断をカヨコに任せる。
しかしここまで近づいては待っている時間が惜しい。
風紀委員はともかく、遠慮を知らない大多数のゲヘナの生徒達は最悪囚われた生徒たちごと無差別攻撃をしかねない。
「いやいい……社長、あれの相手は私達がする! ミライはあの建物に!」
「了解ですカヨコたん! フウカさんこれ借りますね!」
返事をするミライは、ずっとタイミングを見計らっていたかのように給食部の車を走らせ、黒いゴリアテに正面からアルと突っ込む。
『……たん?』
「黙って」
睨み付けるカヨコがアコを威嚇し、理事の操る黒いゴリアテにも敵意を向けて銃を放つ。
「ひぃッ! い、いい! 行かせると思うかァ! 梔子ミライ!」
恐怖に満ちた声を怒りに変えたカイザーが、一瞬遅れながらも巨躯とは思えない機動力で車に回り込み銃身を叩き付けようとする。
「アルちゃん!」
だがそれよりも早く、アルを呼ぶ声と同時に投げられた地雷入りのバッグ。
「ふ、吹き飛べええええ!!」
ムツキの投げた爆弾が黒いゴリアテの足元に、更に続けてハルカのショットガンが火を噴き、連射された銃弾でもって強制的に起爆された。
黒いゴリアテは足元で爆発した地雷に体勢を崩す。
「さて」
ライフルを片手で構えたアルが動けないゴリアテへと狙いをつける。
「必殺技に名前はありますか?」
「え、うーん」
唐突なミライの言葉に悩むアル。
少し悩んだアルは再び標的に狙いを定めて。
「──ハードボイルドショット」
直後、黒いゴリアテの頭部に着弾。
「ぐッ! くそう! クソぉおおお!!!」
数秒後、爆発した弾丸は黒いゴリアテの頭部を砕き。
発狂した哀れな大人の叫びが響いた。
便利屋のEXスキル
みんな好きだよね?
ミライの台詞ちょっと変えました
決め台詞って感じじゃないので