自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

17 / 19
第十七話・天使の愛を受けて

 爆破された黒いゴリアテは頭部の破片を撒き散らして倒れた。

 

「うぉ!? 危ない!」

 

 減速せずに車を運転するミライは降り注ぐ破片、と言ってもミライの頭部ほどの大きさをしている鉄屑を避ける。

 

「これ以上気絶してたまりますか! 頭何度も狙いやがって! 天丼ネタはいい加減にしてください! また記憶が吹き飛ぶでしょう!! いいんですか! 今度は確実に全部消えますよ!」

「何言ってるのよ! って、ええ!?」

 

 そのまま建物に突入、する前にアルが叫ぶように驚いた声を出す。

 

「これで、終わった……と思うなあァアアアア!!」

「頑丈ねえ! もー!」

 

 確実に頭部へ直撃して大ダメージは与えただろうが、理事は執念深く黒いゴリアテをまた立ち上がらせる。

 

 しかし、車は理事が立ち上がるより前に建物の入口へと突っ込んだ。

 

「後は頼んだわよ! ムツキ! カヨコ! ハルカ!」

「は、はい! アル様!」

 

 黒いゴリアテ。

 ミライの知識が正しければ、恐らくアニメに出て来たオリジナル兵器。

 その性能は少なくとも生徒数人だけでは脅威であり、簡単には倒せない強敵であったと思い返すが。

 

「アルさんが信じてるのに、私が疑って良い訳ないでしょう!」

 

 頼んだとアルは三人に言ってミライに付いて来てくれた。

 きっとアルもあの場に残るべきだったのだとミライは思うが、それをわざわざ言うのは傲慢が過ぎるとミライは首を横に振る。

 

「私より、アルさんの方が三人の"強さ"を知ってますもんね」

 

「当然よ、私の社員が負けるわけないわ!」

 

 その言葉はきっと社員達がもっとも喜ぶのだと、ミライは知っている。

 それを自分だけが聞いている事にミライはとても残念に思ったが、優先するべきことがある。

 

「ほーら! 早く出て行くんですよ皆さん!」

 

「あ、ありがとう!」

「ありがとうございます!」

 

 囚われていた生徒達を解放するミライとアル。

 

「私じゃないのにどうしてすぐに解放せず捕まえたままだったんでしょう」

「こんな事外に喋らせないようにする為でしょ! それより、探してる子はどこ!?」

「イブキちゃん! 飴ちゃんあげるから出てきてくださーい!」

 

 囚われていた生徒、捕まっていた獣大人、ロボット市民まで。

 なぜ捕まっていたのか分からない者達までいるのだが、ミライは一々ツッコむ余裕がなかったので無視する。

 

「幼女を見ませんでしたか! ゲヘナの制服着て可愛くて賢そうでサキュバスとは縁遠い子です!」

「ち、小っちゃい女の子? それなら、黒い人が連れ出したけど……」

「────それはちょっと不味い!」

 

 嫌な予感がミライの全身を駆け巡り産毛に至るまで毛が逆立ち、鳥肌が止まらなくなる。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 PMC理事は操られている。

 正確には正気を失い、自爆行為を繰り返していると言った方が正しいか。

 

 そう推測した黒い服の大人、"彼"は静かにパソコン越しに銃を乱射して暴れる生徒と、車に乗って一人走るミライを見る。

 

 緑髪の髪と顔立ちはアビドスの生徒会長とよく似ているがその背丈と行動力、そして過激さはどちらかと言えばその元後輩で副会長、"彼"が目的としている暁のホルス、小鳥遊ホシノのようだ。

 

「……」

 

 笑えない、手に負えない。

 

 始まりは"彼"自身が蒔いた種だったが、今は理事の自爆に巻き込まれている形となった。

 "彼"は自らの失敗に気づくのが遅れた事に心底毒づきたい気持ちに駆られる。

 何もかも捨てて早々に逃げを選べば良かった。

 

 キヴォトス最高の神秘を手に入れる計画が破綻したとしても、全てが崩壊するよりはマシだと。

 

 協力関係だったカイザーPMC理事、その部下も何名か正気を失い。

 梔子ミライ暗殺が、なぜか梔子ミライ誘拐へと捻じ曲げられ、今や"彼"のすぐ近くにまで来ている。

 ゲマトリアの存在が表に露見しなかった事だけが不幸中の幸いだが、それ以外は惨憺たる結果だ。

 

「都合が良い、都合が良いにも程がありますよ」

 

 先手を打ったはずがいつの間にか後手に回っていたなど誰が信じる。

 梔子ミライへの攻撃的な行為を行った途端にこれだ。

 

 外部からのハッキングにより"彼"もカイザーも梔子ミライに関するあらゆる情報が削除。"彼"が交渉し、PMCのある程度の戦力を置くことは成功したがその直後にアビドスのビナーが行動を開始してカイザーPMCの大部分の戦力がそちらへ合流。

 

 PMC、ドローン、罠、傭兵。

 短期間であらゆる方法を使って対応し、対策に対策を練った。

 その上で偶然のような妨害工作を行われてもなお最低限の戦力を揃え、今ゲヘナの生徒達を押し留めているのは大人として経験を積んでいる"彼"の采配によるものが大きい。

 妨害がなければホシノよりも容易くミライを捕まえること、いや本来の目的であるヘイローの破壊に成功したはず。

 

「……」

 

 妨害工作を行った正体は察している。

 ハッキングに強いミレニアムの生徒達との繋がりはミライにはない、正義感を胸に行動したにしても"彼"に対してここまで完璧に妨害できたとは考え難い。

 

 突然のビナー暴走、そしてミライの自治区にも現れてカイザーにトラウマを植え付けた。

 

「あなたとは会った事はないが……彼女がそうだと? バカなッ」

 

 未だ直接対峙した事はないが、その目的を知っている"彼"は困惑と驚愕に腕を震わせる。

 

 だが現に目の前でそれが起きたのなら、事実を認めるしかない。

 

 それとは別に、少し考えた。

 

 ──なぜ自分がここまで追い詰められているのか?

 

 その疑問に立ち返る。

 カイザーへの妨害者の目途は付いている、精神異常と自爆行動も推察以上のことはない。

 ならば"彼"自身のことはどうなのだ、何が"彼"をここまで追い詰めた。

 

「……生徒の中には異能染みた技能や、特異な才能を持つ者が居る事は知っていましたが……」

 

 高い戦闘能力に注目が集められるキヴォトスの生徒達だが、その中には腕力とは別の何かを持っていることがある者がいる。

 妨害者はカイザーに注目して動いているが、"彼"への妨害はどこか毛色が違う。

 否、"彼"の取る行動が不運な出来事に見舞われ続けていると言い換えた方が良い。

 

「────」

 

 "彼"は自身が偶然、運悪く失敗したのだと、そう確信して脱力感に襲われた。

 

 しかし梔子ミライにそのような力はあるのか、より具体的に言えばそんな逸話や歴史はあるのか。

 

「…………愛する子を誤って攻撃した────好意を寄せる相手の足を引っ張る?」

 

 不運の正体、ミライの能力を考えた。

 

「ありえませんね」

 

 そして否定した。

 

 そもそもとして"彼"は接触はおろか、ミライは"彼"の存在さえ知らない。

 例えば暁のホルスから聞いていたとしても"彼"に好意を寄せる理由がない。

 

 会った事もない相手を好きになるなんてありえない。

 ミライが元々"彼"のことを知っていたのなら話は別だが。

 

 ゲマトリアに好意を寄せる生徒など普通はいない、自分達を消費物として見ているような相手を愛せる訳がない。

 そんな生徒が居たとしたらそれは恐らく馬鹿か、本物の狂人──化け物の類だ。

 

「──デカルコマニーやマダム……我々の、キヴォトスの外の常識を持っているにしても。あなたという人の心は確かにある」

 

 "彼"の想像を超える未知の力や技術を持っていたとしても、付け入る隙は必ずある。

 

 "彼"は推測し即座に手を打つ、その準備も最短で出来た。

 いくつか貸しも作ってしまったが、もはや手段を選んではいられない。

 

「例えあなたが絶対的存在だとしても、生徒であるなら、子供であるならこれは効くでしょう」

 

 ここまで手段を選ばないやり方は避けたかった。

 

 "彼"は自身から一切の油断を消し去った見えない妨害犯に最大の賞賛と敬意と敵意を込めて最悪の手段を決行した。

 

『すみません! そういうのはホシノさんとかにしてください!』

 

「…………化け物」

 

 梔子ミライは、自身の目の前に現れた梔子ユメの偽物を容赦なく轢き倒し。

 今度こそ毒づいた"彼"の居る部屋の壁を、車で突っ込んで破壊した。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 まさか、本当にいるとは思いもしなかった。

 

「……」

 

 沈黙して喋らない背の高い黒スーツの大人。

 黒曜石に罅が入ったような肌の、おそらく男。

 

 ゲマトリア、黒服その人がミライの目の前に居る。

 黒服、正確にはそう名乗る前なのだろうが。

 

「よいしょっと……あーあ、壊れちゃった」

 

 最後に壁を破壊した衝撃でエンジンが停止し、廃車同然となった車から降りたミライは直接黒服と対峙して顔を合わせる。

 

「私は、雷帝の遺産を持っています」

 

「! ……ほう?」

 

 開口一番、ミライは黒服よりも先手を取る。

 もちろん、ミライは雷帝の遺産など持っていない、というか雷帝とは知り合いですらない。

 憶えてないという可能性もあるのが気になるところだが、流石に雷帝の遺産なんて危険物を所持しているかどうかは分かる。

 

 興味を惹かれたのか、警戒したのか。

 黒服は声色で感情を判断できる相手ではない、ミライは己の腹芸がどこまで通用するのか賭けた。

 

 一か八か、勝負内容は話し合い。

 

 勝利条件は、イブキを助けてこの場から去ること。

 

「ゲヘナの前生徒会長の遺産で、何をするつもりですか?」

 

「勘違いされると困るので言いますけど、私は戦いに来たのではなく助けに来たんです。だからイブキちゃんを返してくれるなら、私はこのまま立ち去ります」

 

 その気になれば力で無理矢理、などミライは考えない。

 武器を持った相手を前にして無策で立つなど黒服はしないだろう、何らかの攻撃手段を持っていてもおかしくない。

 

 例えばヘイロー破壊爆弾。

 

「……っ」

 

 静かに息を呑むミライ。

 殺される事による恐怖は全くない、だからこの感情は別の物だ。

 

(やべー! 本物の黒服だぁ~! 今私、ゲマトリアの黒服と睨み合ってるー!!)

 

 梔子ミライはどこまで行っても梔子ミライだった。

 

 実際睨んでいるのか黒服の表情は分からないが、少なくともミライは視線の間にバチバチと火花が散っているように幻視している。

 

 黒服の武器の有無に関わらず、捕虜の救出をアルに任せた結果ミライは今一人だけ。

 一人で来たミライは誰でも倒せる、そう本人が自覚している。

 

 何せ、ミライは超弱いのだからと。

 

 よってミライが出来ることは、大人相手には途轍もなく不利な子供の説得。

 

 所謂、ハッタリである。

 

「ふむ」

 

 黒服は考えた姿勢を取る。

 ミライは自分の交渉術が拙いと理解している、要望通りの結果になるかなどの未来を見通すことなどできない。

 だからこその博打だった。

 

「いいでしょう、イブキさんは隣のお部屋にいますよ」

 

「へ?」

 

 だがここにきて、黒服はあっさりと交渉に応じた。

 あまりにも簡単な話し合いの終了に、ミライはあっけらかんと口を開く。

 

「私も、ここまで追い詰められたカイザーに留まるつもりはありません。あなたを退けて時間を掛けるより、ここで退散させて頂きます」

 

「ああ、なるほど」

 

 実際、既にカイザーPMC駐屯地はゲヘナの生徒達のおもちゃ場と化している。

 今も爆発音と振動が聞こえ、外がどうなってるのかは知らないがきっと悲惨なことになっているに違いない。

 

 つまりミライがわざわざ交渉せずとも黒服は出て行くつもりだったのだ。

 無駄なハッタリをかまそうとして本当に無駄に終わったことにミライは肩の力が抜ける。

 

 だが疑問は残っている、ならばどうしてなんでイブキを連れて行った。

 質問したところで喋りはしないだろうが気になりはする。

 

「じゃ、私行きますので、不意打ちとかしないでくださいね!」

 

 ミライは部屋を出て、黒服の言う通りにイブキの所へと行こうとする。

 

「あなた方は似ているようで、正反対でもありますね」

「なにが?」

 

 意味深なことを言った黒服に、ミライは首を傾けて振り返った。

 

「夢も未来もどちらも曖昧なもの、しかし未来だけは必ず存在し、しかし夢は目覚めれば忘れ去られる。あなた達にも通じる物がありますね」

「…………」

 

 挑発ともとれる黒服の言葉に、ミライは。

 

「え、ああ? あー、そうです……ね?」

「……」

 

 言葉の意味が分からなかったので曖昧に返事をした。

 そしてその直後に黒服は嫌味を言ったのだとミライは遅れて気付く。

 

「すみませんすぐに気づけなくて! なにぶん勘の悪い女でして……声色も分かりにくいので察しにくいんですよ、ああ今のはあなたへの文句です」

「やりにくい子供ですね」

「でもそれ、ちょっと違いますよ」

「………」

 

 夢は曖昧で起きれば見えなくなる存在しない物、未来もまた曖昧だがいずれ確実に存在する物。

 

 ミライが想像していた黒服のイメージとズレる。人によって色々な解釈はあるだろうが、ここまでストレートに挑発するとミライは思ってもいなかった。

 ミライは怒るより先に何か苛立たせるような事をしたかと困惑する。

 

 誘拐されかけ、冤罪を吹っ掛けられ、姉を侮辱された。

 ホシノが此処に居れば激怒していたはず、それでもミライは怒ることはない。

 

 ユメの偽物を見せられて眉一つ動かさなかった、わけではないが。

 

(……イブキちゃんを助けないと)

 

 あらゆる感情を受け流して、ミライはイブキを優先して隣の部屋へと入った。

 

「お、お姉ちゃん……?」

「怪我はないですか!」

 

 黒服の言う通りそこには涙目のイブキが居た。

 きっと怖くて震えていたのだろうイブキは、感極まってミライに抱き着いた。

 

「お姉ちゃ~ん! うわぁああん!!」

「よしよし、もう大丈夫ですよイブキちゃん」

 

 小さな美少女に抱き着かれて浮かれる気持ちをぐっと堪え、ミライはイブキを連れて脱出する。

 

 黒服は既に姿を消していた。

 

「あら、最後に言い返そうと思ったのにもういない」

 

 影も形もなく、逃げた黒服をミライは追う気はない。

 もともとイブキ救出、その優先順位は何があっても変わらないのだ。

 

「く、崩れる!?」

 

 振動が激しくなり、建物がグラついたのをミライとイブキは感じ取った。

 

「ちょ! やり過ぎぃ!」

「ど、どうするの! イブキ達、潰れちゃうの?」

 

 外に居るゲヘナの生徒達の暴力に建物が耐えられなくなっている。

 

「恐ろしやゲヘナ、なんて気楽に言っている場合じゃない!」

 

 例え建物が崩壊しても死ぬ事はないだろうが、イブキが怪我をしてしまう。

 そんなの身体が耐えられても、ミライの心は耐えられない。

 

 なにより、泣いていた子供をこれ以上傷つけたくない。

 

「夢は曖昧で存在しないかもしれませんけどね、夢というのは眠った時に見る物の事だけを指すのではありませんよ。理想や将来の目標にも例えられるんです!」

「お姉ちゃん?」

 

 この場に居ない黒服には聞こえていないだろうが、ミライは彼に言い返すつもりだった台詞を止めない。

 

「必ずイブキちゃんを助けてみせる! そしてお腹が空いたのでお腹いっぱい食べる! あとお風呂にも入る! それが今の私の夢です! 絶対に叶えてみせる!! 人の夢は、終わらねえ!!」

 

 ミライは壊れて廃車同然となった車にイブキを乗せ、自身も乗り込む。

 

 素人目から見ても、車はエンジンが止まり車体も衝突で凹みだらけ。

 とても動かせる状態ではない、だがミライは知っている。

 

「居るんでしょう! お願いします、力を貸してください!」

 

 虚空へと叫ぶ。

 

 

『──承知した、絶対的存在よ』

 

 

 眷属にして守護者、従者にして女神を探し出した旅人。

 神の存在を証明、分析し、追従する造られた神性が答えた。

 

 壊れていた車が息を吹き返し、震えた。

 

「すごい」

「っ!」

 

 アクセルを踏み、ミライとイブキの乗る車が最高加速で走る。

 エンジンは破壊されたが動き出し、車体は凹みが出来ているが形は保っている。

 

 装甲車相当の強度の車は加速したまま落ちて来る瓦礫すら乗り越え、時には破壊して外へと一直線に進む。

 

「わあああああああああ!」

「うぎゃああああああ!!」

 

 加速に押され、叫ぶ二人の悲鳴が響く。

 

「ミライちゃん!?」

 

 入口の近くに居たアルとムツキが驚いた声を上げる。

 

「ダメっ! 避けて!」

 

 普段の軽薄さをなくしたムツキの警告に、ミライはぞっとするものを覚え。

 

 同時に、建物の天井を破壊して現れる黒い戦車。

 

「うげぇえええええ!!」

 

 建物を破壊した黒いゴリアテが倒れ込む。

 

 恐らくアルの信頼通り便利屋社員三名で倒すことに成功したのだろう、それをミライは内心で素直に称賛するが今は不味い。

 

 ハンドルを切ろうにも最高加速の車が曲がるなど不可能。

 科学の法則から抜けはしているが、物理法則には縛られたこの車では回避できない。

 

 ミライ達は倒れて来る黒いゴリアテの下敷きになって。

 

「──!?」

 

 潰されるかと思われた直後、遥か遠くから放たれた銃弾の雨が黒いゴリアテの体を撃ち飛ばした。

 

 外に立つカヨコは飛んでいく黒いゴリアテを唖然と見つめる。

 

「一体……?」

 

 銃弾の雨が流れて来た方向へと視線を向けたが、そこには誰も居ない。

 だがカヨコはその射撃音は聞き逃さなかった、自身の身でも味わった忘れもしないゲヘナ最強の弾幕。

 

 そしてミライと最初に出会い、攫って車を走らせていた時と同じ──。

 

「でも、裏手で戦ってるはずで……」

「カヨコ課長! 下! 下が!!」

「!?」

 

 安心する暇などなかった。

 ハルカの焦る声に従って地面に視線を送ると、亀裂が出来ている。

 そしてその亀裂は大きく、拡大して駐屯地に広がっていく。

 

 先程吹き飛ばされた黒いゴリアテが最後の一押しになったのだろう。

 

「崩れるっ!」

 

 建物だけでなく駐屯地全体が崩落する。

 

 それを一番に把握したのは危機を抜け出したばかりのミライだ。

 

「ギャアアアアア!!」

「わあああああ!」

 

 そして真っ先に崩落が始まったのはミライ達の居た場所。

 

 上から押し潰されるのは回避したが今度は叩き付けられられる。

 

 更に言えば、穴の底が見えない。

 

 潰されるより落ちる方が不味いと直感する。

 

 車ごと落下し、空中へと投げ出されたミライは近くにいたイブキを抱きかかえた。

 

(せめてイブキちゃんだけでもっ!)

 

「イブキッ!」

「!!」

 

 戦車で現れたマコトの声を聞き、落ちていくミライとマコトの視線が合う。

 

 マコトが手を伸ばすが間に合わない、だからミライが延長する。

 

(自分も一緒になんて甘い選択肢は入れない、現状できる精一杯の方法!)

 

 渾身の力を込めて投げ飛ばされたイブキをマコトは捕まえ、戦車はそのまま走っていく。

 

「またね」

 

「おねえちゃッ!?」

 

 良い判断だと操縦しているだろうイロハの選択にミライは微笑む。

 

「待てイロハ!? まだアイツが! また私を置いて行くのか……!」

 

 泣かせてしまったイブキには悪いと謝罪を心の中でしながら、落ちていく景色を見て感動していた。

 

「……ウトナピシュティム、えへへ……最期にいいもの見られたかも」

 

 死ぬのは未だに怖くはないが、最後の最後に見たのは希望の船。

 なんて皮肉な話かとミライは苦笑いしていた、心は少しも恐怖がなかった。

 

 壊れた天井から、澄んだ青空と太陽の光が見える。

 

「やっぱり、綺麗だなぁ……」

 

 落ちているのに、離れていく青空にミライは無意識に手を伸ばした。

 

 届くはずのない光に手を伸ばして、なにかが光から生まれた、ように見えた。

 

「──やっと、見つけたよ。ミライちゃん」

 

 光から生まれたように現れたのは、真っ白な翼を広げた。

 

 天使。




第一章終わり
次回、トリニティ?篇
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。