言い訳はしません、書く気がなくなってました。
ガスマスクを被った生徒は理解不能を示す様子で首を傾けて、背後を一瞥してからミライの横を駆け抜けていく。
部室から飛び出るように消えた少女にセリナは鳩が閃光弾を喰らったような顔していた。
「こっちに逃げました!」
「追えー!」
そこから爆発音が幾度と鳴り響き、窓の外には黒い制服の生徒達が先程の少女の向かった方へと駆けて行ったのが見える。
「どうやらミカ様のファンではなさそうですね」
「そりゃそうですよ!」
翼があるだけでミカのファンになるならセリナの上司もファンという事になる。
「ねえさっきの爆発なんなの!? 無事よね?」
外で待っていたコハルが驚いた様子で二人の様子を見に来る。
「コハルちゃんは追わなくていいんですか? さっきの子」
「え、お……追った方がいいのかな」
出て行った少女は正義実現委員会、トリニティでの風紀委員に相当する組織が追跡していた人物だ。
だが案内役の仕事を放棄してもよいのかとコハルは躊躇している。
「あの子、何したんでしょうかね。あんなに追いかけられるなんて、コハルちゃんのパンツでも盗んだんでしょうか?」
「そんな訳ないでしょ! そういう話、人前でしないの!」
「はい……二人きりの時にします」
「二人きりでもダ……あ」
威嚇するネコのような顔をして怒るコハルは突然呆けたような表情に変わる。
「どうかしましたか?」
「いやさっき走って行ったの……多分、例の転校生」
「……はあ、そうですか」
転校生という言葉を聞いてミライは軽い相槌をするが、コハルはまたネコのような威嚇をする。
「アンタが探してた生徒でしょ!」
「そうです! 私ったら探してたんでした! それじゃあセリナ先輩、ありがとうございました! お大事にー!」
「ちょっと待ちなさいよー!」
「ああ……はい、それ私の台詞……」
そうしてミライもコハルの手を引いて正義実現委員会の後を追いかけて行く。
手を振って遠ざかる二人の背中を見て後ろを振り返り、セリナは嵐が去ったような部室の惨状を見て誰にも気づかれない様に溜息を吐くのだった。
「団長が怒るだろうなぁ……」
「あ、後で掃除手伝いに行きますね!」
「行ったんじゃないんですか!?」
◆ ◇ ◆ ◇
ミライには記憶がない。
どうして記憶がないのか分からない、原因としては頭を思い切り打ったと聞いている。
だが梔子ミライがどういう人間なのか、どういう人生を送ってきたのか。
自分の名前以外の全てを彼女は忘れている。
「お嬢さん、お名前教えてくれませんか? あと私となんちゃらフレンドを前提に近くのホテルに行きませんか?」
だからミライの言動は記憶がないが故の弊害で、変人的な行動はそれが原因。
であると、思うべきなのかもしれない。
「何言ってるかよく分からない、だれ?」
「はぁはぁ……ちょ、ちょっと待ちなさいよー!」
「!」
息も絶え絶えで追いかけてきたコハルにガスマスクの少女が銃口を向けた
それを二人の間に割って入ったミライが慌てて止めようとする。
「あああー! 落ち着いてください私達は敵じゃありません、話し合いましょう。マイネームイズミライ、この子は私の夜の友達のコハルちゃんです。趣味は発禁本集めと布団の中で一人もぞもぞする事です」
「そんなのしてない! 雑誌よ! 雑誌! 禁本でもないから!」
「……雑誌? ファッション雑誌とか?」
「まあ、そういうのとかです。実は私も同じ転校生でして同じ境遇の方と是非とも会って話してみたかったんですよ。慣れない環境で戸惑うことも多いでしょうし助け合いが出来ればと」
「……助け合い」
説得が通じたのかミライの言動に白けたのかガスマスクの少女は静かに銃を下げる。
ようやくきちんとした話し合いが出来るとミライは襟を正して少女に向き直った。
「質問していいですか?」
幾つもの銃撃音が鳴り響き、弾丸がミライの耳を掠め。
そして再び傍にあった壁が爆発する
やはり話し合いが出来る状況ではなかった。
「どうしてこんな状況になってるんですか!?」
「私が聞きたい」
銃弾の音も爆弾の音も、それに伴って聞こえる壁や天井がバラバラになったりひっくり返ったりする光景も慣れはじめたミライだが、流石に自分がその中に巻き込まれることは受け入れていない。
その中に入ってきたのはミライの意思ではあるのだが。
「とにかくです、話し合いの余地が残っているうちに」
「敵」
「は?」
野獣のような唸り、いや言葉として認識は出来たが獣の言葉のように錯覚してしまうような。
舌なめずりをする音と共に次々と何かを壊す音が響く。
その音は段々とミライ達の方へと近づいて。
「敵はどこだぁ?」
「上ッ!」
「うわあ!」
天井を破壊して登場した黒い影。
直前で気付いたガスマスクの少女がミライを突き飛ばして銃口を向ける。
その黒い影は血糊塗れの制服を着て、幽霊のような立ち振る舞いで顔を上げた。
「み・い・つ・け・た」
「ふ!」
「━━わぁお……めっちゃ美人!」
突き飛ばされて見ていたミライは、現れた美しい黒髪の生徒に思わず声が漏れる。
今にもガスマスクの少女に飛び掛かりそうな空気を纏っていた。
「え?」
舌を伸ばしていた黒髪の生徒は引っ込めて、視線がミライの方へと向く。
そしてその傍に居たコハルの姿を発見して更に首を直角に傾けた。
「コハル? なんでここに?」
「ツルギ委員長!? どうしてここに!」
「そんなの決まってるでしょ、騒ぎを起こしてるあの子を捕まえに来たんです。まさかこんな美女だとは思いもしませんでしたが。ナンパしてきていい?」
「いい訳ないでしょ!」
「び、美女……私が…………騒ぎを起こしてるあの子……そうかッ! おまえかぁ~~! ケエエッ!」
表情がコロコロと変わるツルギと呼ばれた生徒。
コハルがそう呼ぶという事と、黒い制服姿からして正義実現委員会の委員長という事なのだろうとミライは把握する。
同時にコハルの疑問に不用意に答えたせいで向けられていた戦意の矛先がガスマスクの少女に戻ってしまった。
対峙する二人は今にも戦いを始めようとしている。
「もうお二人さん、そんな物騒なもの仕舞って~! 勘違いがあるんですよ!」
「勘違いぃ?」
「そう! その通り! この子を……えーっと、あなたのお名前は?」
「敵に不用意に名前を教える気はない」
「じゃあ適当な名前付けますけどいいんですか? それに私も彼女も敵じゃありませんよ転校生ちゃん」
「そこまでの信用はお前達にはない」
「へーすぐに撃たないくらいには信じてくれてるんですね、これってもうお友達じゃないですか? じゃあそのまま待っててください」
「そういうことじゃ……」
怒涛の言葉に圧倒されるガスマスクの少女は表情が隠れていても分かるほど狼狽えている。
それを無視してミライは棒立ちでいるツルギに振り返った。
「お待たせしました委員長、私は転校生のミライ。どこにでもありそうな普通の名前でしょ? あー同じ人を批判してるわけじゃないですよ。ただ同じミライさんが傍に居たら何の個性もない私が今以上に霞んでしまうなって話で、話が逸れた!」
「……アンタ喋るとややこしくなるわよね」
「ナイスアシストですコハルちゃん、そうややこしいと訳が分からなくなりますよね! 話は簡単にしなきゃいけません! だからお二人には簡単な質問に答えていただきたいと思っています……どうして戦ってるんです?」
「捕まえるためッ! もういいかァ!?」
独特な笑顔を作るツルギは両手に銃を持って叫ぶ。
もう待ちきれないと餌を前にした空腹の獣のようであった、がミライはそれも無視した。
「スカートに穴が開いてパンツ見えてますよ、随分可愛らしいのを履いてますね」
「きぇえええええええええ!?」
指摘されたツルギは顔を真っ赤にして持っていた銃を手放してスカートを隠す。
「まあ嘘ですけど」
「……………………」
鳩が豆鉄砲を喰らったという例えが的確なほどにツルギは固まって動かない。
「その捕まえるに至った経緯を教えてくださいよ、簡単に! 誰かの指示がありました?」
「…………うちの部下を三人撃退した」
「どうも! じゃあ次はあなたの番ですマスクちゃん! 答えられる範囲で構いません、どうしてあなたは正義実現委員会の撃退をしたんです?」
「理由は一つ、私の前に立ったからだ」
「ォオオオオオオ!!!!」
「黙ってて! どうしてその人達はあなたの前に立って妨害したんです? その何かこう……問題があったんでしょう? もっと具体的に、その人達はあなたにどんなことを言いましたか?」
「……私を連行すると言っていた」
ツルギと同じようにガスマスクの少女も大人しく話し始めた。
「私がある生徒を襲ったからと、それと他にも色々と余罪があるとも言ってた」
「ふむ、冤罪ですか? その生徒を実際に襲ったりは?」
「した」
「その理由は?」
悩むような素振りを見せるガスマスクの少女。
少女はしばらく沈黙した後、ようやく口を開いた。
「……無抵抗の相手を甚振っていた、それが気に入らなかっただけ」
「…………はぁ」
先程まで顔の半分以上の原型が変化していたツルギから表情がスッと消え、振り上げていた両腕のショットガンの銃口が床に落とされた。
別人のように静かになったツルギは背中を向けて壊した天井へと飛んで消える。
「マシロ、通報した奴を連れてきてもっと詳しい話を聞いて。それと怪我人を保健室に」
出て行ったツルギが誰かに何かを言っているが、様子からして事は済んだと察する。
複数の靴音や叫ぶ声もなくなる。
「上手く行きましたね話し合い」
「……上手く行きましたねじゃないわよ! 撃たれる中に入って行くの本気で怖かったんだからぁ! それ以外にもぉ!」
状況が上手く収まったもののミライな無茶な行動にコハルは憤慨する。
実際ミライは彼女を巻き込んでしまったようなものなので全力でなだめようとする。
「巻き込んで悪いと思ってますよ! でも……お陰で平和的に解決したでしょう!? ツルギ委員長もコハルちゃんを見て冷静になりましたし、私一人じゃあこうはなりませんでした! つまり……これはコハルちゃんのお陰って事になりますね!」
「……私のおかげ?」
「そう! 解決できたのは全部コハルちゃんのお陰ですよぉ! 流石正義実現委員会のエリート! 次期委員長候補!」
「ふん! 調子いいんだから…………私のおかげ……ふふん」
「ふー」
「……あの」
たじたじで置いてけぼりにされているガスマスクの少女は何か言いたげにしている。
「別に感謝して欲しいとかお礼とも思っていません、お名前を聞かせてくれませんか? だってほら、私達はもう敵じゃないってわかるでしょ? 感謝の印としてお礼に教えてくれると嬉しいですね!」
「言ってること矛盾してるわよ」
「矛盾なんて賢い言葉良く知ってますねコハルちゃん」
「バカにしてるでしょ!」
興奮するコハルを置いてガスマスクを少女は取って顔を見せる。
「白洲アズサ、それが私の名前」
「わぁー……思った通り、美少女でした」