祭りが終わりを迎えると、時に見るに堪えない光景を作り出しているものである。周囲にポイ捨てされたゴミの山、放置された空き缶、散乱する生ごみ。
その後始末をする者は勘弁して欲しいと心から思うことだろう。
「で、後どれくらいあるの?」
「正義実現委員会の第三部室から保健室まであるので……えーっと」
「ああもう結構です、聞かなきゃ良かった。全く、台風の擬人化みたいな人でしたよね。散々暴れ回って……まあ顔が良いから許すけど」
保健室の瓦礫と石ころを埃と一緒に箒で掃いているミライは愚痴を吐きながら、同じく保健室を掃除する生徒達と雑談を交わす。
「ところであなた名前なんでしたっけ」
「ハナエです! よろしくお願いします!」
「こちらこそハナエちゃん、一年生?」
「そうです! 年上に見えましたか! 大人っぽく見えます!?」
「ええ、一部分が特にね。見た目で年齢を判別できない人が多くないですか? 本当に凄いですよ、あれで三年生って」
「どなたのことでしょう?」
一体誰のことを想像しているのか、ミライより長くこの学園に居るハナエは色々な生徒を思い浮かべている。
大人っぽい雰囲気を威圧感や頼りがいなどの意味で捉えるなら学園には幾らかの生徒を想像できる。それこそハナエが所属する救護騎士団の団長から、面識は殆どないティーパーティーまで。
「ちょっと、アンタらそっちの掃除終わったの? だったらこっちも手伝ってくれない? これじゃあ夕方まで終わらないわよ」
「私達も早く終わらせたいですよ、ブルドーザーとか持って来てくれたら楽になります」
「トリニティを整地する気? ……悪くないじゃない」
「ところであなたは? お手伝いさん?」
話しかけてきた赤い髪の生徒は疲れた顔をしながらミライと同じように掃除道具を手にしている。
「別に、アンタ達と同じ様に校則違反して反省として掃除しろって言われてるだけよ……面倒くさいったらありゃしないわ」
「随分とやさぐれてますねぇ」
「当たり前でしょ! こっちは違反したくてした訳じゃないのに! まあ日頃の行いのせいもあるんだろうけど……」
「何したんです?」
「学園から抜け出したのがバレて捕まったの! その後変な奴等に誘拐されて閉じ込められた! その後はゲヘナの風紀委員に助け出されたけど、そのままトリニティに送り返されて!」
涙目で自身の顛末を語る少女。
確かに誘拐されたのは哀れだとミライは心から同情した。
とんだ災難に遭ったものである、一体なにが原因だったのだろうか。
「抜け出した罰と考えれば妥当なんじゃないですか?」
「…………」
ハナエに対して返す言葉もないのか赤髪の生徒は渋い顔をして目を逸らす。
「あ、アンタこそどうなのよ!」
「私? 私は……友達の付き添いです」
◆ ◇ ◆ ◇
数時間前。
正義実現委員会の部室でのこと。
「ということでこの可愛らしい白洲アズサちゃんに悪気はなく、動揺して起きた不幸な事故だったのですよ」
黒い制服の生徒達の前でミライはアズサの弁護士として説得していた。
もっともミライの話を聞いても生徒達は戸惑うような顔をしながら顔を見合わせている。
「……それにしては状況の判断は的確で、まるで熟練の達人のような動きで我々を翻弄していましたが」
「ちょっと喧嘩慣れしてるだけで怪しいと決めつけるのは酷ですよ、たまたま超強いだけかもしれないじゃないですか」
「確かにそういう人はいますけど……アズサさんの強さは天然のものではないような?」
キヴォトスの一般人と比較してごく稀に極まった戦闘能力を持つ生徒は居る。
しかしアズサのそれは訓練を受けた軍人のそれだ、正義実現委員会はその点を怪しんでいる。
「そんなことどうでもいいじゃないですか、重要なのはアズサちゃんが如何に可愛いかですよね?」
「違います」
「そうですね! でもそちらさんだってアズサちゃんを悪者と決めつけて捕まえようとしたじゃないですか!」
「それは……」
「確かにその点に関しては謝罪が必要っすね、この件に関しては再度調査して伺うことにするっす。でもその子が暴れたせいで一部の校舎と施設が使い物にならなくなってしまったのも重要っすよね?」
窓の外にある半壊した校舎を指差す糸目の生徒。
一部彼女の上司が壊したのもあるが設備の多くを壊したのはアズサの方だ。
「あー……気が動転していたんですよ転校して日も浅くてナイーブだったんですから、大目に見てあげてください……あの可愛さに免じて」
「と、言っていますが。例の子を追っていたあなたっすよね? 彼女の言葉をどう思うっすか?」
「美しい友情……つまり正義ですね」
スカート丈の短い生徒が何に納得したのか分からないが静かに頷く。
ミライに説得されていた生徒は頬を掻いた後、「まあいいか」とつぶやいた。
「それじゃあ逮捕云々の話は正式にこちらから謝罪するとして、壊した校舎への件はー」
「アズサちゃんと私が一緒に修復と清掃、それと巻き込まれた生徒達への謝罪も……で、どうです?」
手揉みしながらミライは懇願するように全力で媚びた営業スマイルを作る。
黒髪の生徒はデスクで何故か突っ伏して震えるツルギを一瞥して溜息を吐きながら苦笑いした。
「それじゃあ、そういう方向で上に話は通しておくっす。その美しい友情と可愛い後輩の顔に免じてね」
◆ ◇ ◆ ◇
「ということで、ティーパーティーの人達から一週間ほどの学園への無料ボランティア活動と校舎の掃除。修理は専門の人が担当しますけど、そのお手伝いをするようにって。あれだけ暴れておいてあっさり許してくれたから逆に肩透かしを食らいました、もっと厳しい論争になるかと」
「アイツら、ここ最近忙しそうだしね。地盤沈下とか泥とかなんとか噂に聞いたけど……って、ならうちは丁度良かったからそれに付き合わされた? まあいいか……正義実現委員会相手に堂々と喧嘩するとかイカれてるわ、そいつ相当強いのね」
たった一人でトリニティの治安を守る一大武装組織を相手取るのだから、その度胸と、拮抗出来た実力は驚嘆に値する。
一人で校舎の幾つかを破壊して何十人、もっと居たかもしれない武装集団と争っていたのだから。
「アズサちゃんってホント何者なんですかね? それ以上に私は何者なんですかね?」
「知らないわよ」
「私がどうかした?」
「うわぁ!?」
急に声がして驚いた赤髪の生徒が飛び上がり、その背後には噂の的であったアズサが立っていた。
「隙だらけ、これが戦闘なら致命的な隙だ。直した方がいい」
「掃除中なんだけど!」
「気にしないでその子天然なんです、向こうのお掃除は終わりましたかアズサちゃん! 汚れを絨毯の下に隠して見えなくしたことを掃除とは言いませんよ?」
「そんな子供じゃない!」
ミライの冗談にアズサはムッとした不満顔になる。
これでもミライよりも一年先輩のはずだが年下を相手にしているようにも見える。
「あらあらあら、とても楽しそうねぇ白洲アズサ。罰を受けた割にはあまり苦ではなさそうね」
「!」
現れたのはもう一人の青い髪の生徒。
真っ白な制服と帽子を被った切れ目の美しい赤眼の少女。
赤眼の生徒は挑発的に嘲笑い、アズサは敵を見つけたような鋭い目付きになる。
「反省の色がないことを上に報告してみようかしら?」
「えーっと、どなた? アズサちゃんの知り合い?」
「はじめまして梔子ミライ、私の名前はレヴィ。そしてあなたの質問に答えるのなら彼女とは特に深い関係ではないわ、ええ。何にも悪くない私を傷付けて……自業自得の目に遭った。それだけの関係だものねぇ?」
「……」
一言も口を開かないアズサとレヴィと名乗った帽子の生徒。
お互いの視線の間に火花が散らせ、詳しい事情を知らない者達は困惑した様子でいる。
「ところで何の御用ですか?」
「良い事を教えてあげようかと思ってね……これからティーパーティーから指令……いえ、提案が来るわ」
「提案? やるかどうか決めろってことです?」
「その通り。負け犬達の尻拭い、おっと失礼……手助けを行う部の設立と、その部活の部長にあなたを就かせる提案を」
「手助けを行う、部活?」
要領を得ないレヴィの言葉にミライは首を傾げる。
「部活名は、補習授業部……あなた達にはお似合いの負け犬クラブよ」