自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第十話・勿体ない

 地震の余波で半壊したショッピングモールから避難した補習授業部員。

 

「ミライ、まだ見つからないの?」

 

「イチカ先輩が救出に向かったから大丈夫だよ、心配なのは分かるけど大人しく待ってて」

 

 顔見知りの正義実現委員会にコハルは何度か同じことを聞くが、似た返答しか返ってこない。

 落ち着かないのはコハル以外も同じでアズサはじっと壊れた建物を見つめている。

 

「アズサちゃん、怪我してるのでしょう? 座ってはいかがですか?」

 

 唯一冷静に見えるハナコは心配そうにアズサに声を掛ける。

 

「……大丈夫……私よりもヒフミの方は?」

 

「ヒフミちゃんならこぶが出来てた程度で大丈夫と笑っていました」

 

「そっか……」

 

 自分の両手を握ってアズサは顔を俯かせる。

 

「後で謝っておく、少し無茶し過ぎた」

 

「その方がいいですね。ミライちゃんも一緒に謝ってくれると思いますよ、あの子はアズサちゃんの事大好きみたいですから」

 

「…………」

 

「イチカ先輩!」

 

 正義実現委員会の生徒の声でアズサは顔を上げた、しかしすぐに落胆に変わる。

 イチカが抱えているのはミライではなく、自分達を襲った敵だった。

 

「残念だったわね……アンタらの部長じゃなくて」

 

「……ミライはどこだ」

 

「今頃は天国じゃない?」

 

「……もういい、探しに行く」

 

「待って! 待つっす!」

 

 戯言と判断したアズサはミライを探しに行こうとしたがイチカに止められる。

 

「私もミライを探す、邪魔しないで」

 

「み、ミライさんは……」

 

「……? なに? ミライがどうしたの?」

 

 暗い顔をしているイチカに困惑しているアズサは周りに居る他の生徒達も同じ顔をしていることに気付いた。

 救出活動を手伝っていた生徒達だがイチカと同じように表情が暗い。

 

「なに? どうしたのよ? ミライ、そんなに酷い怪我なの? だったら早く救護騎士団に」

 

「いや、ちが…違います……それは……えっと……」

 

 言い淀むイチカにコハルとアズサは困惑が抜けない。

 全員が視線を逸らして答え悩んでいる。

 

「ハナコ、みんな固まって動かない。どうして? ……ハナコ?」

 

「━━━━」

 

 固まって動けないイチカ達に困るアズサだがハナコも同じか、それ以上に氷の様に固まって怖いほど目を見開いて動かない。

 まだ彼女達は何も知らない、だがハナコはその類いまれな知性で察したのだ。

 

「まさか」

 

 何に気付いたのか言いよどむ正義実現委員会。

 顔を青くするハナコを見てアズサも遅れて何かに気付いたような反応をする。

 

「答えに悩むなら私が答えてあげましょうか?」

 

「え?」

 

「いい……いらない……」

 

 今だ理解の及んでいないコハルに向かってレヴィが言う。

 だがアズサは夥しい量の冷や汗を流して拒否した。

 

 もう答えは分かっているというのに、悪辣なレヴィは口を閉じない。

 

「は? さっきまで聞きたがってたじゃない」

 

「いらない! 信じない……」

 

「いいじゃない! 私達は報道部よ? いつどこで何の情報を流すか私が決めていいの。信じないのはそっちの勝手でしょ?」

 

 レヴィは鮫のような歯を剥き出しにして嗤う。

 

「やめろ! やめて!」

 

「よく聞きなさい!」

 

 咄嗟に止めようとしたイチカを振り払った。

 既に自分で立ち上がれるほど回復していたレヴィは軽快な動きでアズサに詰め寄り二人は睨み合う。

 

「梔子ミライは灰色の泥に落ちて死んだわ!!」

 

「ええ!? 私死んだんですか!?」

 

「──は?」

 

「「え」」

 

「……」

 

 ────は?

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ 

 

 

 アズサとレヴィが同時に呆けた声で振り向く。

 ありえない物を見たという顔をしているのはその場の全員が同じだ。

 

 唯一ミライ本人を除いて。

 

「あのーこのお店の修理費用は私じゃなくて謎の地震のせいでして……私には請求しないでくださいって店長に言っておいてくれます?」

 

 壊れた建物はミライの所為ではないので修理費用を渡されても困る。

 もしもミライの所為なんて言われたらお金なんて用意できないので愛しのミカに多大な迷惑をかけてしまう、だから言い訳を考えながらミライは外に出てきたのだが。

 

 糸目の生徒を含め正義実現委員会の生徒達が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まっている。

 それはアズサも同じで、ハナコなんて見たこともない顔をしていた。

 

「あ、私死んでるんだった。はぁい死体デェス! 死体だから請求しても意味ないから、私の家族に請求してください……憶えてませんけど」

 

「生きてるじゃない!」

 

 最初に言葉を返したのは懐かしさを感じるコハルの一声。

 

「うわあああああ!? 生きてるううう!!?」

 

「化けて出たぁあああ!」

 

 救助隊は恐怖していた。

 失礼なことにミライをお化けと勘違いしている。

 

 本当のお化けは彼女達の傍に居ると言うのに。

 

「失礼な、私はお化けじゃありません! 本物の幽霊みたことないでしょ、ずーっと喋って五月蠅いんですからね」

 

「よ、良かった〜! 本当にヒヤッとしたっすよも〜!」

 

 心底安堵している糸目の生徒は苦笑いしながら盛大な息を吐いた。

 他にも幻覚ではないことを確かめるように自分の目を擦るなどしている者もいる。

 

「私が目を離した途端に姿が見えなくなったから、もしや灰色の泥の中に落ちたのかと……いや〜よかったっす。ほんっと! 無事で良かった〜!」

 

「なんだか良くわかりませんが心配してくれてどうも皆も……ぎゃ! アズサちゃん!」

 

 無言のままのミライはアズサに抱きしめられる。

 しかし何故か抱き着いてきたアズサが驚いた表情をしていた。

 

「なんでそっちも驚いてるんです?」

 

「……いや分からない。突然こうしたくなった、ごめん…うぶ⁉︎」

 

 離れようとしたアズサに重なるようにハナコもミライに抱き着いた。

 満面の笑みでハナコに強く抱きしめられ、サンドイッチのように挟まれたアズサは苦しそうに呻いている。

 

「すみません、私も突然こうしたくなったので、ふふふ!」

 

「ええっと……ええっと」

 

 二人の行動に自分も参加するべきかコハルは顔を赤くしながら迷っている。

 

「コハルちゃんも参加します?」

 

「え、えっと……」

 

「あとアズサちゃん位置交換してくれません!?」

 

「バカ! エッチなのは駄目!」

 

 猫目のコハルに引き離され残念がるミライ、しかしコハルは顔を赤らめたままミライの手を引いて離さない。

 小さな手で強くミライの手を握っていた。

 

「は、はやく救護騎士団のところに行くわよ!」

 

「心配してくれてどうもコハルちゃん」

 

「う、うるさい……もう」

 

「ふふふ」

 

 微笑ましい二人の姿に誰かが笑みが零す。

 イチカは彼女達の邪魔をしないように部下達に目で合図して無言で立ち去ろうとした。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 が、少女の一言がその空気を壊す。

 この感動的な空気を読まないのは。

 

「……まだ何かあるっすか?」

 

「……私は見たわよ、アンタが流されて沈んでいくところを……なんでくたばってないのよ⁉︎」

 

 感動的な雰囲気を壊すレヴィに眉をひそめる少女達。

 イチカも嫌悪感を隠せない声色で剣呑な雰囲気だ。

 

 生きているのではなくくたばっていると言う所に潜在的な口の悪さを感じる。

 

「……空気を壊す一言を躊躇なく言えるところ、私に似てますねレヴィちゃん!」

 

「似てないわよ! ……レヴィちゃん!?」

 

 ちゃん付けて呼ばれて驚くレヴィ。

 周囲の者達も苦笑いや困惑、ジト目で呆れるなど様々な反応だ。

 

「はぁ~、報道部としての質問ならまた後でお願いしますよレヴィ部長。それにしても皆さん結構ボロボロっすね、なんだか激戦を繰り広げたみたいな……レヴィ部長も、あの地震が原因とは思えないほど酷い怪我っすね?」

 

「っ」

 

「まあ、その辺の話はそちらさんが詳しそうっすけど」

 

「そうですね、事情はミライちゃんが詳しく知っていると思いますよ? 私達よりもミライちゃんが目的だったようなので」

 

「浦和ハナコ!」

 

 聖人のような清らかささえ感じる笑顔のハナコを、レヴィは強く睨み付けて歯を剥く。

 

 考えてみるとレヴィ達はミライ達を襲った者達で、正義実現委員会はまさにそういった問題児を捕らえる組織だ。

 様々な幸運や不運があって有耶無耶になりかけたがミライはレヴィに痛めつけられた事を思い出す。

 建物は半壊しているが調べればレヴィが用意したドローンのことくらいは分かるだろう。

 

「ふーん? ミライさんは何かご存知ですか? 何か、レヴィ部長達にされたとか」

 

「……」

 

 レヴィを正義実現委員会に突き出すことが出来る。

 それをミライが気付いて報道部の部長にまでなっているレヴィが分からない訳が無い。

 黙り込んで脂汗を滝の様にながしているレヴィの頭の中を覗けはしないが、きっと何かしらの言い訳か何かを考えているのだろう。

 

 だからミライは。

 

「いえ、一緒に食事をしてただけです。怪我は突然暴走したドローンの攻撃でレヴィちゃんが庇って出来た傷ですよ」

 

「!」

 

「────」

 

 再びミライ以外の周囲が驚いている。

 

「え、いやでも」

 

「助けてくれたお礼はまた今度させてもらいますね! あ、あとお名前もまたその時に……次は一緒にお茶でもしましょうお姉さん! さ、私達は皆さんの邪魔をしないようにして、怪我もセリナさんに診てもらいましょうか。それじゃあお仕事頑張ってくださいね~!」

 

 呆けるレヴィの肩を掴んだミライは糸目の生徒達の返事をする前に連れて行く。

 

「どういう……つもりなのよ、訳が……わからない」

 

「そうだミライ、何を考えている?」

 

 理解不能で未だに唖然としているレヴィと同じで、追ってきたアズサも同じ表情をしていた。

 

「コイツは絶対に敵だ、助けたって恩返しするような奴じゃない」

 

「そうよ! 今からでも先輩に本当のことを言って!」

 

「だってそれだと勿体ないじゃないですかぁ!」

 

「……勿体ない?」

 

 困惑しているアズサ達。

 正直、ミライ自身も自分の意見の方がおかしいという自覚はある、だがあまりにも惜しいと思ってしまった。

 

「私がもしもあの人達に本当のことを言ったら、この人はティーパーティーにはなれなくなってしまうかもしれないじゃないですか」

 

「は?」

 

「さっき自分で、ティーパーティーになるって言ってたでしょ? 私の聞き間違いですか?」

 

「アンタ、今まで私に何されたか忘れてるの? 私がティーパーティーが成れるって本気で言ってるわけ? 私みたいな性悪の悪党に?」

 

「ああ、自分で悪党って気づいてるんですね」

 

 ミライは背後に居る正義実現委員会に声が聴こえないところまで離れたのを確認する。

 

「ちょっと二人っきりにしてください」

 

「いやだ」

 

「一分でいいですから! 何も危険なことありませんよ……じゃあその辺で見ててください」

 

 妥協案としてアズサ達の目に見える距離で、とりあえず普通に喋る分には声が届かないところまで離れたミライはレヴィを連れて二人きりになる。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「何が、目的なの? 私を利用して何がしたいの?」

 

 訝しむレヴィはミライが打算で自分を助けたと思っている。

 

「もし、もしもですよ? ティーパーティーになったら、ゲヘナの統治も考えてみてくれません?」

 

「!?」

 

 もう興奮が抑えられないといった様子でミライは小さく声を震わせながら信じられない提案をした。

 それはもう憧れのアイドルと喋るみたいに目を輝かせて、心から楽しそうにしている。

 

「で、ゲヘナの次はミレニアム……まあ順番はお好きにどうぞ。百鬼夜行とはレッドウィンターとか!」

 

「何を、言ってる」

 

「あなたは支配欲の権化です! きっとティーパーティーになれる実力と能力があるはずです。トリニティの支配も出来るのは当然ですよ、でも……それだけって言うのはちょっと勿体ないかなぁ~って!」

 

 勿体ないと、また同じことを言った。

 一体何を考えているのか、自分を害そうとする存在を許すどころか応援するなんて。

 

 それも、ただの権力欲を越えた傲慢な願いをどうして応援できるのか、して一体なんの得があるのか。

 

「私の得なんて関係ありませんよ、私はレヴィさんの夢を見てみたいんです」

 

「私の、夢?」

 

「トリニティだけなんて謙虚すぎます。あなたなら、このキヴォトスを統一する事も出来るんじゃないですか? 私は見てみたいですよ、世界の全てを支配した人の姿……きっとカッコいいだろうなぁ!」

 

「どうして、そんなこと────あなたは、私に期待しているの?」

 

「ええ、世界の王様になれそうな人なんすよ! 今の内にサインとかもらっちゃおうかなー、なんて! あ、でも誰かを殺すとか子供を虐めるとかはあんまり避ける方向で! 青春ものの枠からなるべく離れすぎない範囲でお願いします」

 

 ミライの行動はあまりにも矛盾して──

 

「あとさっきも言いましたよね、二人っきりにしてくださいって。幽霊だからってプレイベートを邪魔して良い理由はないんですよ? ナレーションやるならレヴィちゃんと変わって、頭の中で声が響いてうるさいんですよ口で喋ってください! ……でも良い声ですね」

 

 ────。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 自分のことを、自分以上に期待してくれた相手なんて今まで一度もなかった。

 

『お前の夢が叶うことなんてない!!』

 

『支配なんて興味ないわ』

 

『──残念だけど、そこまでよ。竜巻レヴィ』

 

『あなたが生徒会長になったら、この学園は破滅しますよ』

 

『ただ支配したいだけの人に、誰がついて行くと言うんだい?』

 

 散々聞いた言葉だ。

 出来る訳がない、成って欲しくない、成れば絶対に破滅する。

 支配欲でしか動かない独占欲の権化。欲深い、私欲しかない悪辣な夢であると。

 

 何度も失敗した、何度も邪魔された。

 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も。自分が欲しいと思った物は必ず手に入れなければ気が済まない。

 

 竜巻レヴィはそういう人間に生まれてきてしまった。

 私利私欲の為に他人を利用することに心は痛まないけれど、他人に利用される事は吐き気がするほど嫌悪する。

 それを今まで不満に思ったことはないし今後もないだろう。

 生まれた時から誰も愛さないから、心からレヴィは自分を愛している。

 

 自分の邪魔をする気に食わない奴等を嫌悪して取り除く。

 期待通りにならない奴は排除して、自分を苛つかせる奴も排除して、とにかく自分の敵は全部排除してきた。

 

 そういうやり方しかしてこなかった。だから、因果応報と言わんばかりに叩き潰される。

 

 まるで物語の悪役、倒されるべき障害のような人格。

 誰も自分を肯定したことはない、誰も自分が上に立つことを許したりしない。願いを受け入れたりはしない。

 

 だから、ふと言われて気付いた。

 

『トリニティの支配も出来るのは当然ですよ』

 

 そういえば、応援なんて初めてされたな。

 




小学生時代にも似たような事をある人に言いました
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