それから、数日後。
ショッピングモールはしばらくの間休館。
怪我人間はミライとレヴィ以外にはほとんどおらず、当然だが死傷者も0で解決。
「いいえ、解決どころか問題が更に悪化しました」
正義実現委員会の部室。
報告書を読みながらハスミは今回の事件を振り返る。
突然地震が起きた結果の地割れと、そこから湧き出た灰色の泥水。
その正体不明の泥をハスミが少し前から調査していた。
「あらゆる物を溶かす灰色の泥、人が触れると肌を爛れさせてあっという間に溶かしてしまう。その所為で下手に近づくのも危険で、調べようにも検査機も溶かしてしまいました。取り除こうにも取り除く道具も溶かしてしまいます」
「その通りですマシロ。今のところ対処法としては溶けきるのを待つだけ」
「でも、それだと地面も全部溶かしてトリニティどころかキヴォトス全部を沈めてしまうのでは……」
「今のところある程度掘り進めた辺りで溶解は停止すると確認されていますのでその心配はありませんが、突然湧き出して危険なことには変わりありません。どこから現れるかも判明していませんし、早急な原因解決が必要です」
部室内の部員達が頷く。
区切りをつけて会議が終わるが、イチカはおずおずと手を伸ばした。
「それと、直接泥の件とは関係ないんですが……」
「なんですかイチカ?」
「報道部のことで……」
「イチカ先輩! レヴィ部長がミライさんのところに!」
「おっと、早速っす!」
大きな音を立てて開けられた扉。
息を切らしながら報告に来た部員にイチカは走り出し、ツルギとハスミもその後ろを着いてく。
「確実に、間違いなく竜巻レヴィはミライさんを狙っています。彼女が怒らせたのか邪魔だったのかは分かりませんが。少なくとも今まで誰かを許したことなんて一度もないっす」
「監視の目を掻い潜ってミライさんと接触するかもとは思っていましたが、まさかこんなに早く」
報道部、というよりもレヴィに目を付けられていたミライを守る為に監視をつけていたが予想以上に素早い接触にハスミも焦る。
ハスミもレヴィの残忍さを知っているが故に、関わったが最後どうなるかを知っている。
「彼女の悪行は目に余ります、現場を抑えてせめて派閥の弱体化を」
「ハスミ冷静になれ、政治的な話よりミライの安全確保が先だ。何かあれば私が暴れる」
一方で落ち着いているツルギは目をギラつかせながらハスミを宥めながらも銃を手にとる。
「こちらです!」
「失礼します! 正義実現委員会っす!」
補習授業部の部室前に辿り着いたイチカ達は名乗りを上げて扉を開けた。
「お姉様ぁ♪ いかがですか? 少しだけシトラスオイルを加えてみたのですが」
「ええ、その……凄く、美味しいです。あと私年下です」
「でしょう! お姉様の為に取り寄せた甲斐がありました、あこちらのケーキも如何ですか?」
そこに居たのは今まで見たこともない柔らかな、というよりも甘える仕草をするレヴィと、茶器を片手に困り顔のミライのティータイム中の姿。
イチカが前に見たレヴィは悪意全開の獣だった。
だが今目の前に居るのは別人だった。
「は? 誰? 誰っす?」
二人のやり取りを見ていた、イチカ達よりも先に到着していたアズサ達補習授業部員に聞いてみるが、彼女達も同じような感情だった。
「あの、私が治療されてる間にあの二人に何があったんですか? あんなに仲良く……」
(お姉様?)
「し、知らない。あれ……凄く、見たことあるような……」
(お姉様?)
「誰? ミライの知り合いか?」
(お姉様?)
「こんなにも綺麗な手の平返しを見たのは初めてです……」
(お姉様?)
ヒフミを筆頭に経緯を把握できていない全員が困惑している。
「ミライと関わってからずっと困惑してばっかり居るような気がする」
「お姉様、こちらのスコーンもいかがですか?」
「お姉様、新しい紅茶淹れるね」
「どうしてあの二人までお姉様呼び!?」
以前ヒフミを人質に、追い詰めたサクヤとシズクも何故かミライの傍を取り巻いている。
別人ではなくレヴィは本物のレヴィだった、あまりの変わりように誰もが別人かと勘違いしそうになった。
「ちょっと! あんた達何してるのよ! 私がお姉様と会話してるのに!」
「レヴィ様だけズルいじゃありませんか、私達も仲間に入れてください」
「そうそう」
「アイツ等も誰? あんな感じだった?」
いや今でも別人なのではと信じ切れていない者も少なくない。
「……帰るか」
「え、ちょ! ツルギ先輩!?」
戦意が無くなったツルギは踵を返す。
「だってティータイム中だし、仲良さそうだし……邪魔しちゃあ悪いでしょ」
「そう見えますけど! あれはきっと何かしらの演技で……」
「はいお姉様、あーん」
「あ、あーん。美味しいです!」
「えへへぇ!」
「気持ち悪い!」
少し前は凶悪な犯罪者のような認識の怪物達が、何故か年下の少女を相手に甘えん坊になっている。
あまりの光景にイチカは眩暈がした。
「あたしはあたまをうったみたいっす……幻覚が見えてるっす……」
「……帰りましょうか」
幻覚を疑いながら目を擦るイチカをハスミが支えながら帰っていく。
◆ ◇ ◆ ◇
撤退していく正義実現委員会を尻目にヒフミは考えた。
「ミライちゃんの説得が通じて更生したとか!」
「あ? 何見てんのよ劣等生共、じろじろと見て気持ち悪いのよ。不愉快だからあっち行きなさい脳味噌に爆弾詰め込まれたいの?」
「更生以前に何一つ反省の色が見えませんね」
トリニティの生徒の中には確かに陰湿な者も少なからずおれど竜巻レヴィは間違いなくその中でもトップクラスの悪側の存在。
ミライ本人は恨みがないとしてもヒフミ達からは警戒は拭えない。
ミライがあまりにも無警戒だからこそ友人として彼女達は警戒心が強くなっているところもある。
「お姉様、次は山海経から取り寄せた紅茶を披露しますわ! 楽しみにしていてくださいね、隠れた名店でして私もよく利用しているところなのです」
「多重人格なの?」
目の前で友達を罵倒されたミライは怒るのではなく困惑した。
嫌われて欲しかったわけではないが、何故か異様なまでに構われ倒されている。その構う相手の大切な友人にはどうして冷たい態度を取れるのだろうか。
しかも本人の目の前で。
「ちょっと、ミライ!」
「はい? なんですかコハルちゃん?」
隙を見たコハルはお茶を片手に楽しむミライを呼び出す。
「は? なに貧相な小娘が私のお姉様を気安づ!? 痛い痛い! 肋骨がっ! 背骨もっ!?」
「ああレヴィ様、まだ安静にしていてください。上半身の骨の七割に罅が入っているなんて入院してもおかしくないんですから。ギプスもほら、緩んでいますよ」
「痛い! 痛いって! アンタわざとやってるでしょっ!?」
全身に包帯を巻いているレヴィから離れ、ミライは補習授業部の仲間達のところに行く。
「あいつは絶対ヤバい奴らよ! なんで仲良くしてるのよ!?」
「殺されかけたの忘れたの?」
「せめて一言連絡してください」
「仕方なくじゃありませんよミライちゃん! 秘密裡に山奥に埋められたらどうするんですか!」
当然の如く、ミライは彼女達に問い詰められた。
それとヒフミは恐ろしい発想に飛躍し過ぎだ。
「この前のお詫びと言われてお茶会に誘われたんですよ。断ろうとしたら泣きそうになって仕方なく……」
「仕方なくじゃありませんよ! 仕方なく思うのあっち!」
「みんなにも迷惑をかけた謝罪がしたいって色々とお話を聞いてたんですよ! それにほらお詫びの品だそうですよ! はいこれ!」
「話を聞いて!? というかお詫びって、今ほど面と向かって罵倒されたばかりなんですが!?」
綺麗にラッピングされたお詫びの品が四人分、ヒフミ達は怪しんだ。
中に何が入っているのか包まれて見えないがそれなりの重量があり、耳を当てるとカチカチと軽い音が規則的に聴こえる。
「爆弾だ」
「爆弾ですね、それも時限式です」
「チッ、もうバレた」
舌打ちするレヴィが詫びる気持ちなんて一ミリもないのは伝わった。
「詫びる気全くない! ミライあんたはアイツらに利用されてるだけ、今すぐハスミ先輩達を呼ぼ!」
コハルに同意するようにアズサもジト目で頷く。
「ヒフミがあいつらに人質にされた事もある、許していいの? また同じことをするかも」
「人質? そんなことしたんですか?」
ミライはレヴィと追いかけっこをしていた間のことを初めて知る。
「ん? ああ、あの可愛いぬいぐるみを持ってた子? 確かに人質にしたけど」
「え、可愛いって……ペロロ様のことですか?」
「絆されちゃダメ! 罠よ罠、敵の罠!」
腕を広げてヒフミを制するコハル。
しかしその努力は虚しく終わる。
「落ちてたの、返すね」
「わー! 拾ってくれたんですね! ありがとうございます! そうですよね、可愛いですよね!」
「ヒフミはもうダメだ」
「人質にされたこと忘れたの!?」
意気投合してモモフレンズトークをし出すヒフミが一抜けた。
「まあ本人が気にしてないならいいじゃないですか?」
「だ、だからってコイツ等と仲良くする必要はないでしょ!」
「そう邪険にしないでください、私達はあくまで部長命令で足止めをするように指示されていただけで皆様に怪我をさせるつもりはありませんでした。あの時のことは本当に申し訳ありません、私達にできる事で最大限のお手伝いをさせて頂きますので、どうかご容赦を」
微笑むサクヤは頭を下げて謝罪をする。
当の部長であるレヴィはふんぞり返ってそっぽを向いているが。
「うぐぎぎ」
もっとも怪我で碌に身体を動かせないので頭を下げることはやりたくても出来ない。
出来てもしたかは微妙だが。
「信じられないかと思いますが、レヴィ様は補習授業部を堂々と攻撃することはもうしないと約束しました。レヴィ様は嘘もルール違反も平然とされますが約束は違えません」
「信じられない」
「そうでしょう。ですが先程のように正義実現委員会から監視されているのは先程の通りお分かりのはずです。私達があなた様方に暴力行為を働けば即座に彼女達が制圧に来るでしょう」
「……」
「それにティーパーティーのお気に入りの方々に手を出してしまったものですから。とても睨まれましたよ」
「え、睨まれたんですか?」
「はい、表向き事故が起きただけというのにミカ様はまるでその場に居たかのように正確な情報を私達に教えて警告されました」
『ミライちゃん達に全面協力して。そうしたら知らないふりをしてあげる』
話を聞く限り警告というより完全な命令である。
どのようなニュアンスで伝えたのかミライには分からないが、少なくとも報道部がティーパーティーを怒らせてしまったのは事実だろう。
「我々はしばらくティーパーティーからも監視されてしまうでしょうから、もう前のような過激な行動は出来なくなりました」
「それは大変ですね」
「なんで同情してるの?」
「言われなくてもお姉様のお手伝いはするつもりだったわよ、聖園ミカ……いつか絶対私があの椅子に座ってアンタを……」
指を噛んでぶつぶつと恨み言を吐くレヴィはボロボロの姿でも相変わらずな言動だった。
「あの向上心と権力欲の強さだけは尊敬します」
「嘘でしょ?」
「ええ、嘘です♥」
「「えへへぇ!」」
ミライは自分の真似をしたハナコと指を差し合う。
「具体的に協力って何を?」
未だ警戒するアズサはサクヤの言葉の意味を問いただす。
「補習授業部の活動をですよアズサちゃん! この話をさっきまでしてたんです」
「なに、テストの答えとか教えるの?」
「ミライ……」
「勘違いしないでくださいよ! そんな今までの努力はなんだったのみたいな顔しないでください! 傾向と対策をするだけです!」
完全なルール違反をするのかと非難されかけたミライは咄嗟に弁明する。
いくらなんでもバレたら一発で失格判定を受けるリスクをミライは取る気はなく、何よりせっかくアズサとコハル達が学ぶことを楽しみ始めたのにその邪魔をしたくなかった。
「報道部の人達は情報収集に関してはトップクラスと聞いたので、補習授業部の課題となるテスト問題の範囲をあらかじめ調査してもらおう……という提案をレヴィちゃんからされまして」
「絶対信用できない」
「聴こえてるわよ」
「うぅ!」
怯えるコハルはミライの背後に隠れながらも小動物みたいに威嚇している。
「私達でも調べれば分かる事ですけど、その手間を省いてくれるそうです。私達はその範囲を集中して勉強すれば七十点くらい余裕でとれます……とって欲しいですね、次のテスト試験までもう時間もありませんし」
「試験っていつだっけ?」
「一週間後です」
「もうそんなに!」
あまり時間が無いことにコハルは絶句する。
本当なら十分時間をとって勉強できるはずだったのだが、ショッピングモールの件でヴァルキューレや正義実現委員会の事情聴取で何日か潰れてしまった。
「ミライは兎も角、私は信用できないし素直に教えるとは思えない。お前は私に恨みがあるはずだ」
色々と因縁のあるアズサとレヴィの間に火花が散る。
ミライの件は解決したがアズサの件はまだ終わってない。
「あらあら随分嫌われたわね、私もアンタのこと気に入らないわよお姉様の隣に立つのが特に。でもあの時の事ならもう恨んでないわ」
「レヴィ部長は一度決めたことはなかなか諦めない方とお聞きしていたのですが、どういった風の吹き回しですか?」
皮肉を込めたハナコの笑顔にレヴィは鼻を鳴らした。
「ふん、勝負を仕掛けて負けたのはこっちよ、根には持つけど恨んではいないわ。それにこれ以上敵対しても無駄よ無駄。お姉様と戦う気はもうないし」
ギブスをしている片腕に触れたレヴィは痛みから眉に皺を寄せる。
「あんな隠し玉を用意されたら、こっちも戦う気失せるわ。一体いつあんなのを仲間に入れたのよ、みんなが知れば大騒ぎよ?」
「隠し玉?」
「しらばくっれて……お行儀の良い才媛ハナコさんはまだ健在ってわけ」
「……」
隠し玉、レヴィを一方的に制圧した謎の少女のことだとミライは思い返す。
どこかで見たような気もするし、初めて見た気もする不思議な女の子だった。
ハナコが呼んだ応援なのかとミライは首を捻る。
「まあいいわ、楽しいお茶会はもう出来そうも無いし。問題予想範囲はまた後で連絡するわ、別にそれを信じるも信じないもアンタ次第……まあ精々頑張りなさい、それじゃあね」
「え、モモフレンズ聞いたこともないんですか!?」
「うん、初めて知った」
「さっさと行くわよシズク、さっさと私を運びなさい! 可愛いぬいぐるみなら後で買ってあげるから!」
部室から去ろうとする報道部。
前と同じだが、以前よりレヴィへの剣呑さは薄れていた。
「そうだレヴィちゃん! ちょっと最後に聞きたいんですけど、何の罪のない人を退学に追い込んだって話は本当ですか?」
「ん? ああ……あれですか! あれは私を貶めようとした間抜けが流したくだらない噂ですよ、色々と尾鰭がついて随分と邪悪になりましたけど。流石の私もそこまではしませんよ、目立って印象を悪くしても良いことないですし」
「なんだ、そうでしたか……良かった」
「なんでちょっと残念そうなの?」
コハルの言う事は間違いだ、ミライは残念に思ってなどいない、とミライは信じている。
だが補習授業部は少しだけだが、レヴィへの認識は少し改めた。
「まあでも……もしかしたら、言われてるほど碌でもない人ではないのかも……性悪だけど……頑張りなさいって応援してくれたし」
「コハルちゃんって単純って言われたことありますか?」
「ないわよ!」
「レヴィ様! お迎えにあがりました!」
「うん?」
部室の扉が開けられると、そこには大勢のレヴィに似た格好をした少女達が集まっていた。
「お待たせしましたレヴィ様!」
「レヴィ様!」「レヴィ様!」「お願い助けてくださいレヴィ様!」
「うるさいのよバカ! お姉様の前で騒ぐんじゃないわよ!」
怒鳴るレヴィの声に怯える少女達。
レヴィを様付けて呼ぶということは彼女の部下だろう。
「あの……その人達は報道部の部員さんですか?」
「ええそうです、レヴィ様が弱味を握って仲間にしたヨブ派のメンバーの方々です」
「ヘマしたら情報を材料に退学に追い込むって脅して出来た」
「アンタたちは余計なことを教えてなくていいのよ! さっさと行くわよバカっ!」
「……」
最後までおしとやかなトリニティの印象とは真逆に騒ぎながら報道部は去って行った。
「ねえ」
「何も言わなくても分かってますよ、危険ですよねはいはい」
「違う、ミライ……ニヤニヤしてる」
まさか、と思いながらも自分の口元に触って確かめるミライだった。
このレヴィって子、性格悪いなって思った方
その認識で正しいのでそのままでいてください、実際この子は悪人ですし悪役です
でもちょっと日和ってお行儀よくさせ過ぎました。結局なにもできずにボコボコにされただけですし何にもしてない、肝心のイジメ描写省いちゃったし
次はもう少し悪い事させたいですね
それと既にお気づきの方もいるでしょうがミライは問題児が好みです