自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第十二話・葬送

 大きな大きな木が見える。

 樹齢千年はゆうに超えているだろう大樹、その枝は幾万本に分かれていくつもの世界を葉のようにつけている。

 

 その恐ろしいほど美しい大樹を百合園セイアは見上げていた。

 

「なんだこれは?」

(ここは何処だ、なぜこんな所にいる? 私は確かミライに)

 

 寝ぼけた感覚が引いていき意識が覚醒していく。

 

 予知を拒絶された、こんなことは初めての経験だ。

 無理矢理あの悪夢を終わらせられたのかハッキリとしない。こんなことは初めての経験だった。

 

 奇妙なのは夢から覚めることなく、セイアは真っ黒な空間にいること。

 不思議なのはあの大樹もそうだ、黒い空間で光もないまま大樹はハッキリと見えている。

 

「百合園セイア。梔子ミライの葬儀を執り行え」

 

「なに?」

 

 声と共にセイアの見ている景色が写真のフィルムが切り替わるように、一場面の静止画を映し出す。

 

 ミサイルが飛び、トリニティの校舎を吹き飛ばされる。

 

 髑髏の校章を制服に入れた四人の生徒。

 

 無惨な姿で一面に散らばるミライだった何か。

 

 身体が異形に変化して慟哭するミカ。

 

 次々と映像が切り替わり、セイアは頭を抱えて激痛に苛まれる。

 

「やめて……やめてくれ……見せないでくれ……」

 

 絶望の映像、これより起きるまだ起きていない事象。

 これから起きる未来だと教えているつもりなのか。

 

 頭痛に耐えながら声に問いかける。

 

「違う…葬儀とはなんだ? 彼女が既に死んでいるような言い方だ……」

 

「そうだ、梔子ミライは死んでいる」

 

 声は事実を言っている。

 そうセイアは()()した。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 力なくコハルは上半身を机の上に預ける。

 全ての気力を使い果たしたコハルは灰色になって動かない。

 

「お、終わった……」

 

 試験が終了したコハルはようやく苦難から解放された。

 

「ええ、後は試験結果が返ってきて目標点数に達していれば終わりです。でないとコハルちゃんは正義実現委員会ではなく補習授業部のままです」

 

「わ、わかってるわよ!」

 

 テストの結果次第でコハルは本来の自分の部に戻れるのでその苦悩も人一倍。

 落ちていた場合は当然補習授業は継続。

 

「ふふ、大丈夫ですよコハルちゃん。試験に落ちたらみんなでまた補習授業部しましょう」

 

「できる限り補習はしたくない、ヒフミ達は平気なの?」

 

「緊張はしますけど、精一杯頑張りましたから後はお祈りして待つしかありませんよね」

 

「うん、全員が合格しないと失格になるんだ。落ちてもまた頑張ればいい。死ぬ訳じゃないんだから」

 

「そうですよ、退学になる訳ではないですし」

 

「例えがおかしい気がします!」

 

 報道部の協力もあって試験はミライとしては上手くこなせたという自信がある。

 授業中のコハルの成長も目覚ましいものがあったのでそこまで心配しなくてもすぐに元の部に戻れるだろう。

 

「まあでも補習授業じゃなくてもまたこういう事しましょうよ。今度は授業じゃなくて、一緒に遊びに行くとかどうです? 気が早いかな?」

 

「いいですね、海なんて如何ですか!」

 

「海?」

 

 ヒフミの言葉にアズサは初めて聞いたような反応をする。

 

「海を聞いた事がないんですか?」

 

「聞いた事がある、行ったことはないけれど」

 

「そうですか……あ! なら試験が終わったら海に行きませんか?」

 

「え」

 

「いいねヒフミちゃん、ナイスアイディアです!」

 

 試験結果が返ってきていないが、お祝いにみんなで遊びに行くのは良いかもしれない。

 

「やっぱり気が早いですかね?」

 

「そうでもありませんよ、夏はすぐにきます。なんならもう来ているような気がしますし!」

 

 まだ初夏も来ていないが暑い季節はすぐに来る。

 それはもう全裸でいたくなるくらいの暑さがだ。

 

「というか海を知らないなら水着も持ってないですよねアズサちゃん、また買いに行きましょうか。ね、ハナコちゃん!」

 

「……え、あー。はい、そうですね」

 

「分かってますよ、襲われやすい場所は避けますから」

 

「ショッピングモールは危ないからな」

 

「普通は危なくないのよ」

 

 治安の悪さ(主に報道部のせいで)が印象付けられたので逃げやすい場所で買い物をするのがいいだろう。

 

「海に行くなら戦車を用意しないといけませんよね? アズサちゃんのはじめての海ですし……」

 

「は? なんで海に戦車? ……なに?」

 

「ミライちゃん? どうされました?」

 

 聞き馴染みはないけれど聞いたことのある声がまた聞こえた。

 しばらく居なかったがまだこの世に悔恨があるらしい幽霊の少女だ。

 

「ミライ、また誰かと話してる……」

 

「前にもあったんですか?」

 

「出会った時に壁に向かってずっと喋ってて……変人かと思った……実際変人だったけど」

 

 人聞きの悪いことを言うコハル。

 変人認定されていたことに少しだけ傷つくミライは聞かなかったことにした。

 

「一体何の後悔があって成仏できずにいるんです? 悩み相談なんてした事ありませんけど聞きますよ……アリウス? 誰ですそれは」

 

「! どうしてそれを」

 

 アリウスという言葉を聞いたアズサが目を見開いている。

 何も知らないミライだが幽霊少女の話をアズサは何か知っているのか聞こうとする。

 

「あれなんでしょうか?」

 

 窓の外を指差すヒフミに全員が釣られて視線を向けて、アズサと一緒に今度は別の理由で目を見開く。

 

 空を飛ぶミサイルが、トリニティの校舎に落ちた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 トリニティの校舎に落ちた一発のミサイル。

 本来の時間軸、予定とは違う事にミカが呟く。

 

「……まだエデン条約の日じゃないよ?」

 

 それを想定外とパニックになるミカはいない。

 予想より早いとは思ったが、予定通りになる事はないとミカが一番知っている。

 

「パニックになる情緒が残ってるか分からないけど」

 

 彼女が居ると気付いて、すぐに彼女を見つけられたのは運命か。

 

「ま、大通りから真っ直ぐ来られたら探さなくてもすぐ見つかるか! やっほーサオリ! 気が早くない?」

 

「そうでもない」

 

 トリニティの校舎へ向かう為の通学路を亡霊達が並び歩く。

 彼女は、彼女達はまさにトリニティがやってきた事の負の遺産。

 

 ミサイルが校舎に落とされてからティーパーティーとしての職務を放り出し、部下への指示も最低限にその場を離れたのは自分以外がこの状況に対処できないと可愛らしいAIに教えられたから。

 

「どうやって、ユスティナを動かしたのかなぁ?」

 

「答える必要はない、聖園ミカ……裏切り者のお前には」

 

「わーお、嫌われたねー! でも」

 

 向こうからすれば予定と違う行動をしたのはミカの方。

 だから当然の返事だと思うし、非難も何もかも全て受け止める。

 

 だけど。

 

「──ここから先は進ませないよ」

 

 アリウスの生徒達と、数千人の亡霊を前にミカは翼を広げた。

 

「今度は、私が止めるよ」




またしばらくお休みするかも
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