自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第十三話・火と灰に染まった日

 校舎へ向かう道は当然一般の生徒と一般人が歩いている。

 それも三大校トリニティの自治区なのだから、人通りは当然多い。

 

 それを無差別に攻撃するユスティナ聖徒会から守るのは至難の業だ。

 

 ただし、聖園ミカは例外であると注釈がつく。

 

「み、ミカ様……」

 

「お礼いいから早く逃げて」

 

 腰を抜かしていた生徒を助けて逃がすこと十二回目。

 突然の事に動揺して逃げ遅れた人々を助けながらミカは応戦していた。

 

 目測で数千人のミメシスの行軍。

 アリウスの生徒を含めても圧倒的に多いのは奇妙なシスター服の集団の方だ。

 

 数千人と例えたが原理上兵力が減る事はない、事実上の無限の軍隊である。

 それらを相手に空崎ヒナ、剣崎ツルギを含めた風紀委員と正義実現委員会、そしてシャーレの大人が協力して対処したが、それでも押し切られかけた。

 

「で、今回は私一人」

 

 具体的にどういった事が起きたのか現場に居なかったミカは詳しく知らない。

 聞き知ったマスコットの人工知能から耳にした限りでは、両陣営重傷を負ったと聞く。

 

 ミサイルが落ちる場所はミライがいた位置だった。

 正確には、ミサイルはミライ目掛けて放たれていた。

 

『安心してください、ミライさんは無事です。怪我人もいません」

 

「ありがとうアロナ」

 

 今の一瞬でミサイルの制御を奪い弾道を逸らした。対空迎撃では間に合わなかった攻撃に。

 流石は連邦生徒会長が残した秘密道具。

 それでもかなりギリギリで校舎に落ちる運命は避けられなかったが。

 

「目的はセイアちゃんじゃなかったっけ? ミライちゃんに変えたの?」

 

「……」

 

「今の沈黙でよく分かったよサオリ」

 

 分かりやすい反応で助かる。

 自分クールですよみたいな顔をして腹芸ができないところに親近感が湧いて、くれば良かったのだが生憎感情が薄れてしまった。

 

 せめて正義実現委員会の準備ができるまでの時間稼ぎができれば十分。

 アリウスを制圧し、ユスティナを無尽蔵に増やすアツコを倒せれば万々歳。それができれば苦労しないが。

 

「撃て、ヒヨリ」

 

「ほ! よっと!」

 

「えぇ! よ、避けられました!」

 

 まだ逃げ遅れた人が多く、それを無視してアツコ探しはできない。

 せめてミライが狙われていることは伝えたいが、携帯を触りながら戦うほどの余裕はない。

 

「聞いていたより強い、ぐっ!」

 

 エデン条約機構を利用し、自分達こそがETOであると権利を簒奪。

 古聖堂でアツコとゲマトリアの一人が儀式を成立させ、顕現させたユスティナ聖徒会のミメシスを出現、トリニティとゲヘナへの攻撃を行う。

 大まかだがアリウスの作戦はこれだ。

 

 正直アリウス独力でこの二大校をキヴォトスの地図から消すにはミメシスが必要。

 

「エデン条約の宣言もしていない、儀式をどうやって成立させたの?」

 

「答える必要はない!」

 

 広げた翼の先をユスティナに突き飛ばしサオリの方へ飛ばしながら問いかけるが、当然正直に答えてくれるわけはなかった。

 アツコがこの場に居ない事からユスティナを顕現させ操っていることは恐らく正しいが発動条件が不明。

 

「ま、不思議な力に色々考えたって意味ないか。理由なんて後付けでいくらでも作れるもんね」

 

 それこそ、解釈次第でいくらでも。

 

「考え事をしながら戦う余裕があるくらい実力差がある」

 

「それでも防戦一方なのは違いない、その余裕もいずれこの大群で削り切れる。いくぞ、アズサと合流して梔子ミライを連れて行く」

 

「させると思う?」

 

「その為の用意はして頂いた」

 

 他のユスティナとは違う異質な圧迫感にミカは咄嗟に背後へ飛び退き、放たれた弾丸が地面を抉った。

 

 両手に握られた重火器と、拘束着に似た戦闘スーツを纏うミメシス。

 

「……面倒臭いことになった」

 

 あれを相手にしながらユスティナとアリウスの進軍を防ぐのはいくらミカでも困難だ。

 この勢力相手にサオリ達スクワッドまで相手にするとミカ自身無事では済まない。

 

 だが。

 

「!」

 

 ミカは手持ちにあった爆弾と腕力で近くの建物を倒壊させた。

 目的地へと向かおうとするスクワッド達は倒れる建物に阻まれる。

 

 同時にトリニティへ向かう道までのビルをわざと破壊して進軍を止めた。

 

「正気か、お前は!」

 

「とっくに狂ってるよ」

 

 これは当然、トリニティ側からの援軍も期待できない事を意味する。

 ミカは孤立して、一人でアリウスとユスティナ聖徒会と戦うことになった。

 

「こんなことをして何の意味がある……無駄だ、無意味だ、虚しいだけだ!」

 

「それが戦わない理由になるの?」

 

「っ! 消えろ! 聖園ミカ!!」

 

 敵の一斉掃射を前にミカは迷いなく走った。

 

 真っ白な制服は破け、泥が跳ねて酷い格好になる。

 髪飾りが壊れ、結んでいた髪も解けてみっともない姿だ。

 

 裏切り者の魔女がいい格好だ。本当だったらあんな表情されてなかったのにと、逃した自校の生徒達を思い返す。

 

「悪い魔女に向ける目じゃないよね」

 

『この世界でのあなたは何もしていませんから』

 

 その裏切りの魔女を責める者はこの世界に一人もいない。

 そんな事は起きていない、起きなかった。

 

『その償いはここで』

 

「無理だよ」

 

 償いは要らない。

 

 許されるつもりもない。

 

「許してくれる人も、責めてくれる人も、私が犯した罪は全部無くなった。もう何もないんだよ、私には……だけど、虚しいとは思わない」

 

 何もかも取りこぼした許しがたい哀れな小娘の最後の願い。

 

「あなた達のために、祈るね」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 トリニティ校内に落ちた一発のミサイル。

 対空防衛システムが反応出来ないほどの速度で落とされたそれに混乱する生徒達の声がナギサの所まで届く。

 

「目的は自分達を追放したトリニティへの報復? しかし気になるのはあの軍勢……」

 

「ナギサ様、一体どうすれば!?」

 

 突然の学園襲撃にナギサは内心混乱しながらも周囲に悟られぬように指示を出す。

 

「落ち着きなさい、私達が慌てては周囲の方々の不安も大きくなるだけでしょう」

 

「も、申し訳ありません!」

 

「まずは退避経路を確保、人員を校門前に集め正義実現委員会と前線へ、生徒と民間人を校舎内へ避難させてください! 住民の安全を優先に!」

 

「はい!」

 

 命令に従い動く部下達を見送り、ナギサは煙を上げる外の景色へ目を向ける。

 勝手に飛び出して出て行った幼馴染のこと。

 一方的に「私が時間を稼ぐからみんなを避難させて」と言って文字通り飛んでいってしまった。

 

「全く、生徒会長が一人で前線へ向かいますか?」

 

 同僚であり仲間でありながら派閥の違う組織のリーダー、強さだけならトリニティでも随一のミカはいつも勝手気ままな印象が強いが、ここ最近は少し様子がおかしいようにも見えた。

 転校生への強い関心も含めて、これが終わったら回復したセイアと共に問い詰めてみても良いかもしれない。

 

「いえ、今は些事に頭を悩ませる場合ではありませんね」

 

「ナギサ様! 大変です!」

 

「何事ですか?」

 

 息を切らして現れた部下は顔を青くしている。

 新たな問題を察してナギサは顔を強張らせた。

 

「ミカ様が! ……ミカ様のヘイローが壊され……!」

 

「───は?」

 

 その言葉の意味を理解する前に、視界の端に映り込んだミサイルを目撃。

 咄嗟に目の前にいた部下を突き飛ばした。

 

「まだあ……」

 

 まだ有ったと口にする前に、空気を裂く音と共にナギサの身体が吹き飛ぶ。

 

 衝撃に身体が浮き上がり、炎が身体を覆う前にナギサは空を覆う煙の雲を見た。

 

 飛来してくる数百のミサイルの雨を。

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