「ところで、結局あなたは何処の学園の生徒? 見たことない制服だけど」
「あまり有名な所ではないですよ、生徒の数も少ないですし自治区もアビドスより……」
(そういえばアビドスの自治区って売られてるんでしたっけ?)
アビドスは自治区の殆どを砂漠で覆われてはいるが広大な土地を持っている様に見えるが既に過去のアビドス生徒会長の誰かによって売却されてしまっている。
そのことを現在のシロコ達は知らない。
「? どうかしたの?」
「いえ別に、大したことではないです。ちょっと将来的に問題が発生してしまうかもくらいで!」
「そ、それは大した事なのでは?」
ここで未来の出来事を教えても厄介な事が起きるだけなので彼女は黙っている事にした。
どちらにせよ未来で知ることになるだろうし、先生もいない状況で敢えて追い詰められる情報を渡すのはリスクが高い。
「兎に角大丈夫ですよ! あ、これ私の連絡先と住所です! 良かったら遊びに来てください。シロコさんには助けてもらいましたし、礼もしますよ! アヤネさんもいらしてください! デートしましょう! 遊園地がいいですか? 水族館? 動物園?」
「で、デート!?」
「は! しまったつい本心が!」
興奮した自分を制御できてない彼女。
圧倒されるアヤネは顔を赤くしておろおろと動揺させられ続けている。
主要生徒達とここまで近づいて話したのは久しぶりだった彼女は多幸感でいっぱいだった。
「でも生まれてきて良かった……!」
「なぜ生を噛み締めて……」
一方のアヤネは終始困惑。
彼女を見る目は半分不審者へ向ける目だった。
◆ ◇ ◆ ◇
アビドス校舎前。
「それではお世話になりました! ホシノさんにはよろしく言っておいてください!」
「寄り道しちゃダメだよ、また迷うから」
「はい! デートの約束はまた今度ということで!」
「それはもういいですから!」
そうしてシロコ達は校門の向こうへ、嵐のように去って行く彼女の背を見送った。
短時間しか話していなかったのにどっと来る疲労感からかアヤネは彼女の背中を苦笑いして見ていた。
「あはは……なんというか元気な人でしたね」
「ん、そうだね……やっぱり私も付いて行った方がよかったかな、また迷子になってそう」
「誰が迷子になるの〜?」
聞き覚えのある気怠げな声を聞いて二人が視線を下へ向ける。
そこには猫背で眠そうな表情のホシノと残念そうな顔をしたノノミの姿があった。
「ホシノ先輩とノノミ、おかえりなさい。出掛けたんじゃないの?」
「それがいつも行くお店が休業日だって事を思い出しまして〜」
「結局引き返してきたんだよ〜、ふわっ〜! おじさんは無駄骨だって分かったらその分疲れちゃったよ〜! アヤネちゃんが膝枕してくれたら復活するかもな〜?」
「し、しませんよ! ……これってデジャヴ?」
欠伸をするホシノはシロコ達が向いていた方向を一瞥する。
砂に残った足跡もあり、誰かがここにいた事をホシノは気づいた。
「ところで誰か来てたの?」
「ん、ホシノ先輩に用事があるって子が来てたけど、いないって知ったら帰っちゃった」
「うへ〜そりゃ悪いことしたな〜、その子も無駄骨を折った訳だね〜」
「いま走って追いかけたら間に合うと思う」
丁度入れ違うようにホシノ達は帰ってきたので走ればすぐに追いつく距離にいるだろう。
やる気を出すシロコの提案にホシノは遠慮したいという顔をした。
「お、おじさんもう疲れちゃったし今度にしようよ〜、私に用事があるならまた来てくれるでしょ? その子の連絡先とか名前は聞いてないの?」
「一応……あ」
連絡先が書かれた紙を貰ったシロコだが、折られた紙を開いて思い出す。
それは同じく居合わせていたアヤネも同じ。
「そういえば結局、本人の名前も学園も聞いてない」
「うへ〜おっちょこちょいだね〜、誰かを思い出すよ〜」
シロコとアヤネのうっかりにシロコはこの場に居ない猫耳の後輩を思い出す。
だが思い出す必要はなく、その後輩の姿は見えた。
「ねえ、この定期券誰の? 落ちてたの拾ったんだけど……え、なに? 怖いんだけど?」
「ん、セリカみたいなことしちゃった」
「は? どういう意味?」
訳のわからないという表情で困惑するセリカに四人は苦笑いして見た。
◆ ◇ ◆ ◇
一方その頃。
「うぎゃああ! 迷っちゃったよ〜!」
もう一人のおっちょこちょいは不意の砂嵐に巻き込まれ、迷子になっていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「誰がおっちょこちょいよ!!」
セリカは怒り心頭といった様子で両手を机の上に叩きつけた。
「よくよく考えたら私達のはうっかり、セリカとあの子の方がおっちょこちょいだから違う」
「どういう意味よ!? てか意味そんなに変わらないからそれ! それに私は砂漠で迷子になったりしません! この歳でそんなことになる訳ないでしょ!」
「うへ……」
誰かに言い聞かせたい言葉である。
「でもアヤネちゃんまで忘れちゃうなんて珍しいですね?」
「すみません、とても癖のある人だったので調子が狂うというか……いやシロコ先輩も共犯みたいなものですからね!?」
「ん、ん……」
平常時の真面目なアヤネであれば、名前か学園名を聞くくらいの事はしただろうが彼女とシロコのコントのせいでどちらも聞けなかった。
まあだからと言って何か問題になるという程ではなく、珍しいなくらいの事でしかないので、二人以外のアビドス生徒達はアヤネの様子に微笑むだけだった。
「その顔やめてください!」
「そうだ、この定期券って結局誰の? 保健室に落ちてたんだけど」
「あの子のだと思う、返しに行かないと」
迷子だけでなく忘れ物までして行った彼女にシロコは内心セリカに似ているなと思った。
言葉にしたらまた怒られると思ったので口にするのは控えた。
「そうだ、定期券に名前が書いてませんか? それを見ればその子の名前くらいはわかるんじゃ」
「確かに……文字が潰れて読みづらい……」
何年も使用しているからか名前が書いている部分以外も掠れて読みづらい。
「分かるのは苗字のところだけね」
「なんという名前ですか?」
「多分だけど……」
セリカは一呼吸間を置いて。
「梔子」
告げた一言に少女の被っていた仮面が崩れる。
「――――」
聞いた瞬間ノノミはゾッとする様な感覚に襲われ、反射的にホシノに視線を向けた。
「って書いてるんだと……っ!?」
ガタリと大きな物音を立ててホシノは立ち上がる。
椅子が倒れるのも気にしない勢いに、対策委員会の視線がホシノに集まった。
その名前を聞いて、ホシノは自分の視界が揺らぐ様な感覚に襲われる。
「ほ……ホシノ先輩?」
「え、ぁ――――は?」
驚いたのはセリカだけでなく、その場にいた全員。
全身から夥しい量の汗を流す、明らかに顔色の悪いホシノの青くなった表情。
「だれ……って?」
泣く寸前の、子供のような。
◆ ◇ ◆ ◇
結局当初の目的を果たせず、疲弊と一緒に定期券も失くして彼女は自宅に帰ることとなった。
「はぁー疲れたぁ〜」
「…………」
「ホシノさん、どうやってこの世界に来たんですか? ……名前二人居てややこしいな……小鳥遊さん、は距離があるしホルスさんって呼んでもいいです?」
「…………」
アビドスから離れ、人気のない帰り道を歩いているといつの間にか彼女の隣にホルスは居た。
そして分かっていた事だがやはり返事をしない。
このホルスを彼女は別の世界のキヴォトスから来た小鳥遊ホシノであると推測。
この事をこの世界のアビドス生徒達に伝えるのも良かったが混乱を招くだけであり、彼女としてもどう説明すれば分からなかった。
「あなたを元のホシノさんに戻すにしてもせめて先生の力が必要ですよねー、それまでは……私の家に住みます?」
「…………」
「意思疎通出来ないの思ったより困る!! 仕方ない……い、嫌なら手を離してくださいね?」
元に戻せるかどうかは兎も角として、彼女を放置している訳にもいかないと彼女は思いそっとホルスの手を彼女は握り、玄関の扉まで近づく。
暴走の危険性はないと確信もあったのも一因だが、ホルスにはヘルメット団から助けて貰った恩もある。
無言のままの抵抗しないホルスを連れて家の扉を開けた。
(幼い子を家に連れ込む事案……いや私も子供だけどね! とりあえず先生が来るまでシェアハウス……あれ!? 夢叶った!?)
奇しくも今日一日で本編の生徒とこれ以上ないくらい会話をし、その登場人物の一人と家に暮らすことになった。
(テラー化して凄まじく気まずいのを除けばすごく幸せ! なんなら通常ホシノとも暮らしたい! ……いやこっちもこっちで気まずいの変わんないかも……というか)
「生徒が家に住み着くみたいな概念はチラーっと見たことはありますけど……せめて意思疎通は出来るようになって欲しい……」
何が原因かは不明だがホルスは未だに一言も言葉を発さない。
喋れないのか、喋ろうとしないのかは分からないがせめて頷いたりしてくれたら楽なんだけどと彼女は思う。
(というかこういう家に住み着くタイプってシロコテラーなんじゃないの? なんでホシノテラー? そもそもなんでテラー? 私は色彩の嚮導者じゃないよ?)
わざわざアビドスまで遠出したものの、得られた成果は全くない。
なんなら定期券を失ったので損失している。
(まあホシノが家に住むので全然余裕でお釣りが来ますけどね! テラー化してるけど!!)
彼女としては全く問題と思っていないようである。
幸福感でゆるんだ頬を直し、彼女が玄関の扉を開ける。
そこにはホルスとの楽しい二人生活が待っていると思い描きながら。
「ただいまあああぁぁ……………うぎゃぁ……」
彼女は目の前に居る色彩に絶望することになる。