自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第五話・奇跡的なまでに不運な生徒

 もしもこれがゲーム内の出来事なら、壮大な曲が流れることだろう。

 脳内で再生されたBGMを彼女はそっと扉を閉めることで止める。

 

(げ、幻覚? 夢? そうか夢か、そうだよねきっと夢だこれは……ユメの夢? やめようこの冗談は面白くない)

 

 幻覚だと思い彼女は再び扉を開ける。

 そして彼女の頭の中で再び曲が再生された。

 

「うぎゃああああああ!!?」

 

 曰くそれは、理解されず疎通されず、ただ到来するだけの不吉な光。

 真っ黒な虚空が空いているような、光さえ逃がさないブラックホールのような空間。

 

 本来ならまだ居るはずのない物体Xが家に不法侵入していたことに彼女は絶叫する。

 

(不味い!? キャラクリされる!?)

 

 せめて先生がきてから、もっと良ければプラナが現れた後で彼女はホルスの件を解決するつもりだった。

 だが彼女が想定していた計画はただ一つの特異現象。

 

 作中屈指とも言える、特級の問題存在によって破綻した。

 

「ああああああぁ、いや待てよ?」

 

 うっすらとした記憶にある色彩に対する警戒心、キヴォトス崩壊の危機、シェアハウス計画の懸念が彼女の本能に最大警告を鳴らした。

 が、彼女は叫ぶのをやめて考えるような仕草をする。

 

(もしかしたら私もあの魅惑のストロングボディに!? でも色彩ってそんな存在だっけ? うん! 確か色彩ってそんな存在だった! そうと決まれば早速……)

「ぐぇ!?」

 

 実に素晴らしい案を思い浮かんだと都合の良いように記憶を改竄した彼女は黒い虚空へと手を伸ばそうとして、彼女の身体は色彩とは逆の方向に引っ張られた。

 

 そして彼女の目の前に赤い炎が現れる。

 

「あっつ!? ホルスさん待って! 私もお姉ちゃんみたいに!?」

「ッ……」

 

 声が出ていれば雄叫びのようなものを出していただろうと思うほどに、異常な速度でホルスは銃を色彩へと撃ち放った。

 

 引っ張る勢いで投げ飛ばされた彼女は、ホルスの移動した際の風圧を受けて更に宙に浮かんで吹き飛ばされる。

 そして同時に発生しただろう火薬の爆ぜる音と炎の轟音を聞いた。

 

 それはあっという間に色彩を光ごと飲み込み、次に発生した衝撃波によって彼女は情けないデングリ返しをして転がっていた。

 

「うぎゃああああああ私の家があああああ!? せっかく頑張って買ったのにいいいい!?」

 

 転がりながら崩れた家を見てショックを受ける彼女。

 

(は! いやそんな事を言ってる場合じゃない!? 色彩は……!?)

 

 吹き飛んだ彼女の家は赤い焔の薪となって周囲に散らばり、ホルスは視線を色彩の居た方向へと一切動かすことなく構えている。

 

(土煙のせいで色彩が見えない、なんで私の家に……というかこれから私どこに住めばいいって言うの!?)

 

 バラバラになった家を惜しみながら彼女はホルスの背後へと近づいていく。

 ホルスの背中に隠れながら煙の中にいるだろう色彩へ視線を送った。

 

「あの、あれって物理攻撃とか効くんでしたっけ? あんまり憶えてないんですけど……わぁ!?」

 

 彼女の疑問に、ホルスは土煙へと銃口を向けて回答する。

 

 煙が晴れた先に黒い空間はいまだ顕在していた。

 

 彼女が聴こえただけでも七回。

 ホルスは色彩へと射撃を行い、その射撃は正確に色彩に直撃していた。

 

 だが色彩はホルスの攻撃にさえ耐える理解を超えた頑強さを見せつけている。

 

(いや、頑丈さ云々は関係なく、そもそも物理攻撃が効いてない? 私が認識出来てないだけ?)

 

 色彩にダメージがあるのかどうか、ただのモブを自認している彼女には分からない。

 ただでさえ戦闘には詳しくなく、詳しいだろうホルスは喋らないので意見も聞けない。

 

(とりあえずホルスを連れて逃げないと、色彩に触れて今度こそ完全にテラー化して戻せなくなっても不味い……?)

 

 ホルスが元に戻らない状態にされる事が一番の問題だと、色彩から逃げ出そうと彼女は考えた。

 しかしホルスと色彩は動く様子はない。

 

(ん? なに? 達人の間合い的なやつ?)

 

 お互い動かない二つの神聖と特異存在。

 ホルスに至ってはいつの間にか構えていた銃を下ろしている。

 

 彼女が気がつくと、目を離した瞬間には色彩は姿を消していた。

 

「…………家、直して……」

 

 瓦礫となった自宅を残して。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 なぜ色彩が彼女の家に不法侵入していたのか。

 その事を考えている間に、キヴォトスの新しい夜明けが訪れていた。

 

 理解の出来ない存在なのだから考えるだけ無駄、それでも考え続けようとしたのだが。

 そんな暇も彼女にはなかった。

 

「キャラクリされると思ったら自宅をリフォームされるとは……」

 

 なんということであろう。

 新築二階建て、テラスもある住宅地の一画に瓦礫の山が出来ていた。

 

「こんな開放的で風通しの良い間取りうち以外あるかなぁ? ……キヴォトスなら結構あるか」

 

 色彩の姿が消えた後、破壊された家の音に気づいた現地のヴァルキューレが駆け付けて来た。

 その頃にはホルスも姿を消して。

 というより彼女がそうするように言い、一人残った彼女は危うく牢獄で日を跨ぐ羽目になりかけたがなんとか説得して切り抜けた。

 

 しかし捕まっていた方が屋根とベッドのある場所で眠れたかもしれない。

 

「家具も着替えも全滅……財布は!? バラバラになっちゃった……学生証は無事だ! 良かった!」

 

 朝まで瓦礫となった自宅の中を探し回り、救出できた物品は学生証のみ。

 それ以外の物は見事に潰れるか、黒焦げとなっていた。

 

「…………」

「あ、気にしないでください! また護ろうとしてくれたんでしょう!? あれは事故ですよ事故!」

 

 側から見れば分からないが、落ち込んでいるような気配を纏うホルスに気づいて慰める彼女。

 吹き飛んでしまった物の殆どはダメになってしまったが、彼女は特に問題と思っていない。

 

「こんな事キヴォトスじゃ日常茶飯事ですよ、安心してください。ここよりはちょっと狭いですけど学園の寮がありますから! その前に生徒会長に言わないとなぁ……まだ寝てるよね」

 

 そうして連絡を取ろうと携帯を取り出すが、バッテリーがないのを思い出す。

 

「じゅ、充電器ぃいいい!? うぎゃあ潰れてる!?」

「…………」

「気にしてません! ぜーんぜん気にしてません!!」

 

 元気一杯と彼女は準備運動をしてアピールする。

 ホルスは傍から見ても落ち込んでいた。

 

「学校に行きましょう! もう登校……するには早いですけど、早めに学校に行くのも偶にはいいですよね! あははははは!」

 

 そうして彼女は気の抜けた笑い声を上げ、嫌な汗が流れるのを感じた。

 

(なんだか嫌な予感がする。こういう時は嫌な事が連続で続く、そんな予感がする!?)

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 その予感はすぐに的中する事になった。

 校舎の前、校門に掛けられている看板の文字。

 

 色々と長く書かれているが、端的に言うなら。

 

「廃校!? なんでぇ!?」

「それは勿論、ここが売却されたからだよ」

 

 唖然とする彼女の叫びに答えたのは、帽子を深く被って顔の見えない生徒。

 帽子の生徒は壁に背を付け、項垂れる彼女を見下ろしていた。

 

「ど、どういうことです!? 売却ってそんな! せめて退去の告知してください! 荷物なんてないですけど!」

「君も知ってるだろう、此処はアビドスから派生して創られた学園だと」

「はじめて知りました」

「………自治区もアビドスに近い、つまり将来的にここも砂漠で覆われる可能性がある」

 

 確かに彼女の住む自治区からアビドスまで、電車でも日帰りできるくらいには近い。

 砂漠化の拡大しているアビドスからこの自治区まで被害を被る可能性はなくはないだろう。

 

「なにもそんな遠い未来の……将来のことを言ったって」

 

 だが起こるとしてもそれはまだまだ遠い遥か先の事だ。

 それだけで一つの学園を、小さいとはいえ自治区一つを売り払うという判断は流石に異常であることは彼女にも理解できた。

 

 だが生徒は俯いて顔を隠したまま冷静な口調で話を続ける。

 

「もともと生徒の数もアビドスと変わらないくらい少なかった。アビドスのような借金もなくまだ商品価値が残ってるうちに他所へと売るというのも考えれば悪い判断じゃないだろう」

「その通り」

「このかっこいい声は!」

 

 この世界では珍しい、男性の悪ぶった大人の声に彼女は振り向く。

 そこに居たのは見覚えのあるスーツ姿の大柄な大人のロボット。

 

「カイザー理事!?」

「ほう、よく知っているようだね。私も有名になったということかな?」

「はい、アロハシャツが良く似合いそうだなと」

「は?」

 

 厳格な顔つき、表情など分からないがそんな空気を纏いながら現れたのはカイザーPMC理事。

 だがそんな空気を彼女は無視した。

 あるいは気づいていない。

 

「あ、すみません良い体をしているなと思って! あ、イヤらしい意味じゃありませんよ? 確かに素敵な上半身ですが」

「何を言っている?」

 

 複数人のカイザーPMCの兵士を連れて現れた理事。

 彼女もよく知る序盤の悪役にして大人の敵と考えてまず頭の中に浮かぶ人物。

 

 後に先生とアビドスの生徒達+αに敗北する事になるのだが、先生が来ていない今では立場は健在。

 

「この子供は頭がおかしいのか生徒会長?」

「酷い! え!? 生徒会長!?」

「……っ」

「おっとすまない! 元と付けるべきだったな」

 

 理事の言葉に彼女は反応する。

 生徒会長と呼ばれた生徒は目を逸らして拳を握り締めた。

 そして彼女は生徒会長だと初見で分からなかった事が悔しくて拳を握り締めた。

 

「正しく教えてあげたらどうかね? 売却されたではなく売却したのだと、それも随分と安価で!」

「貴様っ!」

「ははは! そこの君も早く荷物を纏めて出て行くといい。この学園は既に我がカイザーPMCの所有物なのだから!」

 

 肩に乗せたコーチを翻し、高笑いするカイザー理事は去っていった。

 彼女は呆然としてその背中を見送るしかなく、俯く生徒会長へと視線を向けた。

 

「大丈夫ですか生徒会長? あんな悪っぽい笑い声、一回で良いからやってみたいですよね! それとすぐに気付かなくてごめんなさい」

「…………君は呑気だな。聞いた通りだ、全ては私の責任……煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「何があったんですか?」

「……何のことはないよ。騙されて脅されて……サインするしかなかった。私だけなら兎も角、生徒達にまで被害に遭っては……」

 

 落ち込んだ様子の生徒会長はそう言葉を詰まらせながら話し、彼女は具体的な経緯は分からず、断片的ではあるものの大体のことは理解した。

 

(プレジデントに脅されて買収された大人達みたいなもんかな? 売ったって1000円くらいで?)

 

 似たような出来事はストーリーでもあったが、まさか自身の学園にも同じ手を使われるとは彼女も思っていなかった。

 尤も彼女は実際の場面は見ていないので、生徒会長はかなり追い詰められそうする選択肢を取る道しかなかったのかもしれないが。

 

「うん? え、じゃあつまり私……学園まで失った?」

 

 彼女は遅れて気づいた事実に絶句した。

 ただでさえ一日中歩き続け、一夜飲まず食わず眠らずに過ごした事。

 色彩が現れ自宅が吹き飛び、自校の学園が廃校となったショックが重なり。

 

「おい!? どうした!? 起きろ!」

 

(私の学校が……カイザーに取られる、のは良いけど……会長が悲しむのは、嫌だなぁ)

 

 白目を剥いてばたりと倒れた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「見て見てホシノちゃん! 私の妹! すっごく可愛いでしょー!」

「ユメ先輩、妹が居たんですか?」

 

 そう言ってユメ先輩が見せてくれた写真には、白いベッドで上半身を起こしているユメ先輩によく似た髪色の女の子が写っていた。

 隣には中学校の制服を着ているユメ先輩がピースサインを作って女の子を抱き寄せている。

 

 気になるのは女の子は病院服を着ており、顔色もあまりよくないと言う事。

 他人に可愛いと言って選ぶ写真ではない。

 

「もっとマシな写真はないんですか? 入院している頃のじゃなく」

「うーん、あの子は昔から病弱だったからそういうの少なくて……小学校の頃はずっと車椅子で結局卒業式にも出られないまま中学生になっちゃったんだよね〜」

「…………」

 

 口元は笑顔だがユメ先輩はその子を想ってか哀しそうに眉を落とす。

 

 写真に写っている二人の少女は笑顔だが、その子はよくよく見れば肌は皮と骨しかないくらい細く。

 手は老人のように皺だらけで、触れただけでポキリと折れてしまいそうだった。

 

「大きくなったらアビドスに行くって言うんだけど、あの子の身体と砂漠は相性が悪くて」

「治せないんですか?」

「それが原因も分からないんだよねー、学校でも突然倒れたり痙攣したりで大変で……でも最近はマシになってきたらしいんだよ! 最近は電話でも元気そうで……」

「…………そうですか」

 

 ユメ先輩はその子との思い出話を笑って聞かせてくれた。

 

「それでね、あの子ったらお金がないなら銀行を襲うとか言うんだよ!」

「……随分と破天荒な子なんですね」

 

 羨ましいくらいユメ先輩は楽しそうに話していた。

 

「それで毎朝聞かれるの、忘れ物ない? ちゃんと水筒持った? 私がお姉ちゃんなのにそういう心配してくれるんだよー! 優しいよね!」

「ドジなユメ先輩を不安に思っているだけでは?」

「ひぃん……」

 

 満面の笑みを見るたびに胸がチクチクと刺される様に痛んだ。

 

 分かってる、これはただの子供の嫉妬だって。

 しかも相手は私より歳下で、先輩と血の繋がった家族。

 

「そんな事より、何か進展はあったんですか? 借金返済、若しくはアビドス復興の話は」

「え、えーっとそれは……えへへ」

「笑っても誤魔化されませんよ……」

 

 でも大人気なかった私は最後まで聞かずに強引に話題を逸らして話を変えた。

 今にして思うと何に嫉妬していたんだろう。

 盗られるとでも思ってたのかな、元々私のでもなかったのに。

 

 ちゃんと、もっと妹ちゃんの話を聞いておけば良かったのに。

 

 そうすればどこに居るかくらい、分かったかもしれないのに。

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