自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第七話・最高の神秘と最低の神秘

 カイザーコーポレーションは混乱していた。

 

「ご説明ください! 確かに襲撃を受け、価値は殆どないに等しくなった土地だが何も手放す事はないでしょう! あれの捜索もまだ完璧ではないのに!」

「売るならまだしも所有権を戻すなんて! わ、分からない……プレジデント? 一体どういうご判断で?」

 

 幹部含めた社員達からの猛抗議を受けるプレジデントだが、彼は普段と変わらない平然とした様子でいる。

 内容は買収した、正確にはほぼ脅しのような形で奪い取った学園の利権を、値札を一切付けずに返したということ。

 

 売るならまだしも無料でというのは、カイザーでも前代未聞の事だった。

 

「…………目的は元よりアビドスにある、目的を見失い手段と入れ替わる事の方が重大だ」

「だから手放したと?」

「黒服の言うあれを手に入れさえすれば、あの程度の土地などに固執する意味はない。これはPMC理事も賛成していることで……いやもういい、話は以上だ、私は先に失礼するよ」

「理由になっていません! あなたはおかしくなったのですかプレジデント!?」

「お待ちをプレジデント!」

「プレジデント!」

 

 プレジデントをよく知る者は、否、経営者として考えてもあまりに理解不能な行動に社員達は困惑を隠せない。

 正気を失ったと言われても仕方がない。

 

 それは当の張本人、プレジデントまでもそうだった。

 

(……違和感がなかった。全く、あの土地を手放したことを私は悔いに思っていない?)

 

 思考を無理矢理誘導されたのだと言われたら、もしかしたらと思うくらいにプレジデントは自分でやった事が信じられていなかった。

 だがその違和感もすぐに消え失せる。

 

(いや、あんな場所を手放した所でダメージなどない。元々棚から牡丹餅的に手に入ったような場所だ……それでも全く、いやもう考えるのは止そう)

 

 思考を停止し、プレジデントは忘れる努力をした。

 なぜ忘れようと思わなければならないのかという疑問も、もう彼の中にはなかった。

 

「もっとも、あの灰燼と化した学園を貰って喜ぶ者など居ないだろうが。それよりも連邦生徒会の方で怪しい動きがあるのだったな、確か外から来た大人がどうだとか……」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 壊れているなら廃墟の方がマシだろう。

 何故なら骨格は残っているので工夫次第で雨風くらいは凌げたかもしれない。

 

 だが今の彼女の前にある学園、及び自治区はほぼ全てが瓦礫とクレーターの歪な地平線。

 

「…………」

 

 言いたいことだけを言い、権利書を彼女に押し付けた事務的な連邦生徒会の生徒は帰って行った。

 学園の運営と土地の権利者。

 事実上、広大な土地を手に入れた彼女だが、もはや学校と言えるものはおろか人の住める場所さえ存在していない。

 

 流石の彼女もこの惨状を前に。

 

「つまりこれは今日から私が生徒会長ということ?」

 

 絶望するわけではなく、呑気な事を言っていた。

 

「うほほーい! 夢に見た一学園の生徒会長だー!」

 

 彼女を除いて生徒はおろか施設一つなく、なんなら背後で自治区を出ていく車の列がある。

 のだが、全く気にしていないようでスキップしながら喜んでいた。

 

「うーん、じゃあここを私が好きなようにして良いって事だよね? すっごいおっきな砂のお城作ろう!!」

 

 子供なのか、確かに子供だがもう高校生のはずだ。

 だが彼女はその辺に落ちている水入りのペットボトルを手に砂遊びをしはじめようとする。

 せっかくの飲み水だというのに無駄にしようとする前に彼女の身体を影が覆った。

 

 影を追うとそこには無言のホルスの姿があった。

 

「ホルスさん!? いやこれは遊んでいた訳ではないんです! ちゃんと家は作りますよ大丈夫!? 他の家とか行かないですよ!? ルームシェアまだする気ありますよね!?」

「…………」

 

 反応の見えないホルスの姿を見て慌てる彼女。

 今朝から姿を見せていなかったのでもしや見捨てられたのではと若干思っていた彼女は、帰って来てくれたホルスを手揉みして迎える。

 

 だがホルスの表情は変わらない。

 

「もしかしてあの時のこと怒ってます? 色彩に触ろうとしたの。あんなの別に本気じゃありませんよ、あれに頼ったところで夢のストロングボディは手に入らないなんて分かりきってます。……あなたが答えみたいな所もありますし、まああなたの場合ストロング(力強い)ではありますけど、どちらかと言えばストロングゼロ(強烈にない)って感じで、冗談です冗談!? ごめんなさい! ごめんなさい!?」

 

 一見して感情の分からないホルスは彼女へと近づき、機嫌を害することを言った自覚のある彼女は土下座して謝る。

 だがホルスは彼女を攻撃することはなく、手に持っている物を差し出した。

 

「え、これは……おにぎり? あとお茶……コンビニ行って来ました? その姿で!?」

「…………」

 

 何日も食べていないので空腹を感じていた彼女だったが、ホルスが買い物をして来たことに驚く。

 

「お金はどうしたんですか? 盗んではいませんよね!? 店員さんに何も言われませんでした!?」

「…………」

 

 気にするところはそちらなのか。

 そんなツッコミさえせずホルスは彼女の横を通って学園にある瓦礫を持ち上げては退けていく。

 

 ホルスは学園内の撤去作業を始めた。

 

「あ! ちょっと! 私も手伝いますよー!?」

 

 そう言って彼女も貰った朝食を食べ、瓦礫とクレーターだらけの学内の掃除を始める。

 

 とは言えほぼ全てが粉々に砕けていたり、落ちているゴミなどは薬莢や銃弾、銃器や横転した戦車などが殆ど。

 この学園にもともと保管されていた装備品などは全て壊れて使い物にならなかった。

 

「うーん、使えそうな物を回収して売るとか思ってたけど無理かなー?」

 

 アビドスの生徒達がやるように使える鉄屑を売るなどは出来そうだったが再利用は難しそうだなと見て思う。

 

「土地を切り売りするやり方は……やめた方がいいですよね? 将来……未来の生徒達のことも考えないとですからね!」

「…………」

 

 ホルスは彼女を無視して黙々と作業を続けている。

 

「うーん、何しても喋んない……喉が潰れてるのかな、しかしこれをどうやって持って行こう……せめて一個でも動いてくれたらいいのに!」

 

 大破している車を売ろうにも、その車を買ってくれる人の所まで持っていけない。

 連絡して持って行ってもらうにも、彼女の携帯は未だに使えない。

 携帯ショップとコンビニも更地となったので充電器は買えなかった。

 

「直接業者を呼んで来てもらうしかないかー……もう!」

 

 そうプンプンと怒る彼女の近くにある車のエンジンが、けたたましい音を立てた。

 

「わーい! ホルスさん! これで業者を呼びに行く交通費が浮きました!」

「…………」

「じゃあ私! これで幾つか高そうなの売って来ますねー!」

 

 奇跡的に生きていた車に、高価そうな物を詰めて乗る。

 エンジンが入っているボンネットには鉄パイプが突き刺さり、ガラスは当然バラバラに割れ、サイドミラーさえない車で。

 

「…………!」

 

 ボロボロの車で走り去って行った彼女を見送ったホルスは、撤去作業を続けようとして何者かの気配に向かって構えた。

 そして静かに銃を下ろす。

 

 ホルスが天然の神聖であるならば、それは人工の神聖と呼ぶべきだろう。

 

「…………」

 

 白い軍勢の足音と機械音が鳴り響く。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「これはどうやって動いてるんだ? 完全に壊れてるだろうこれ、エンジンも電気系統全部グズグズだぞ? なんで生きてる? それにこれ、ガソリンも……」

「査定終わりました?」

「あ、ああ……いや、これだけ量が多いと今日中は無理だ。早くて明日くらいには終わると思うんだが」

「そうですか、じゃあまた明日来ますねー。持ち逃げしないでくださいよー」

「しないよ、それよりもその車なんだが……行っちまった」

 

 売れそうな鉄屑や部品を片っ端から買い取ってもらい続け、既に夕陽が沈んでしまっている。

 具体的な時刻はようやくバッテリーを交換することで使えるようになった携帯で分かった。

 

(もう8時半だ、結構時間が掛かったなぁ〜。今日でこれだと残ってる分全部売り払うまでに来年になっちゃうぞ)

 

 だがそのお陰で直ぐに査定や鑑定の終わった場所からお金を貰うことが出来た。

 一個人が持つにはそれなりの大金であるが、学園を運営するには雀の涙である。

 

(とりあえずホルスさんの生活費も考えると、当分の間は私もやし生活になるな……まあ別に良いけど、住む場所があって良かった! 生徒会長には感謝しないと!)

「そうだ! ホルスさんの晩ご飯買って行かないと! 凄く働いてくれてるだろうし……あの人何が好きなんだっけ? 鯨肉? 流石に怒られるよねー? うん? ホルスさん?」

 

 彼女は見覚えのある背中とヘイローを見て車を停めた。

 しかしその生徒はホルスではない、彼女の見間違いだ。

 だが見間違いではないとも言える。

 

 その生徒のヘイローこそ鮮やかな桃色に輝いているものの、制服や髪は泥だらけで酷く疲弊しているのが見て取れた。

 彼女も見覚えのある、なんならホルス以上に見たことのある顔。

 

「ぁ……」

「………あの、なんでそんなボロボロに? ホシノさん?」

 

 小鳥遊ホシノは叱られる前の子供のような顔をしていた。




セルフレジ使ったそうです
お金は気絶したカイザーから貰ったそうです
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