自宅にテラー化した生徒が住み着いた   作:ミステイク

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第九話・あまねく最悪の拠り所

 普通の自治区だった彼女の学園は一夜にしてアビドスと競えるほどの惨状となった。

 大型の台風が来てもここまで酷い光景は作らないだろうという有様。

 

 当分の間新入生は来ないだろうし、来たところで学べる場所もない。

 それ以前に寝泊まり出来る場所や雨風を凌ぐ壁や屋根もない。

 一面が瓦礫だらけの世界は彼女にとって上から数えた方がいいくらいには酷い日だった。

 生徒会長就任で帳消しにしたが。

 

「ちょっと遅くなり過ぎた、ホルスさん怒ってないかな……唐揚げ弁当で許してくれないかな?」

 

 もっとも車を走らせる彼女の周りには電灯の明かり一つなく、月と星の光だけが頼り、という訳でもないようで。

 所々にある電灯で、車のライトに頼らずとも進むことが出来ていた。

 

 しかしそれでも彼女は自分の自治区に近づくにつれて目の光がなくなっていき、とうとう安心して運転できる明るさもなくなる。

 仕方なくミライは車から降りて歩くことにした。

 

「はぁ、アビドスに泊まれば良かったかな……うぎゃ! こんな所に壁とかあったっけ?」

 

 あまりに暗く、何処に何があるかも見えない為に携帯の頼りない照明でなんとか進むのだが。

 

「えっと、こっち? こっちも壁だ」

 

 どうせ全部瓦礫だけだろうと、最悪無理矢理踏み越えて行けば良いと彼女は考えていたのだが瓦礫だらけにしては妙に垂直の壁が多いことに気づく。

 道路だろう道も何にも躓くことなく歩けている。

 なんなら偶に電灯もあって、ミライは首を傾けた。

 

 まだ幾分か無事な所があったのか、彼女の携帯に表示されている場所は確かに建物のある場所だ。

 

「おかしいな? もう学校まで近いのに無事な所があるなんて……」

(私が見逃したの? ほぼ地平線だったのに? ……まあそういう時もあるか)

 

 自分が見逃しただけと思い直し学校への道を進む。

 そうしていると彼女の周囲が急に明るくなり、光源を追うとそこには揺らめく炎を纏うホルスが立っていた。

 

「…………」

「わあホルスさん! 居たんですね! ちょうど良かった! 帰るの遅れてごめんなさい! これ唐揚げ弁当です! 私の一個差し上げるので許してください! その炎のエフェクト綺麗ですね! もっと広げて周りを明るく出来たりしません?」

「…………」

 

 いつの間にか側に立っていたホルス。

 いつも通り彼女の話に反応を一切せず、ホルスは彼女の手を掴んで歩き出した。

 

「あ、手を引いてくれる感じですか。ちっちゃくてかわいい、抱きしめたい。夏場は近づきたくないって感じですけど」

 

 熱気を感じながら彼女はホルスに連れられて歩いて行く。

 暗い夜道の中、赤い炎だけで照らされる周囲はどこかお化け屋敷めいていた。

 

「なんだかドキドキしますね、ホルスさん。私が男性なら吊り橋効果で…………」

 

 ミライは自分とホルスの横を、巨大な四足歩行の何かが時折すれ違っていったような。

 何か傘や提灯のお化けや、だるまか何かが通り過ぎたような気がした。

 

「……今日は良い天気ですね! 星空一つ見えませんけど!!」

 

 が、彼女は怖かったので見て見ぬふりした。

 

「ちょっとお弁当が冷めたら嫌なので早く帰りましょうか? アパートは郊外の方で遠いので学校の方に行きましょう! ベッドも天井もありませんけどホルスさんと一緒なら何処でも天国、住めば都ですよ! 住めば都の使い方ちょっと違うかな? まあいいです! それにしてもここの中心部は本当に酷い事になっていますねぇ! 何も見えませんけど! 近くに住んでいた人達は無事だったんでしょうか?」

 

 そうして怯えながら歩くこと十数分。

 目的地に辿り着いたのかホルスの足が止まった。

 

「着いたんですかホルスさん! じゃあお話ししましょう! それかお歌でも歌いませんか!? クリアスカイ歌いましょうか私!? 青春のアーカイブの方がいい? うろ覚えですけど大丈……なんか明るすぎない?」

 

 何もないはずの自治区の中心は光源が多く、街灯が幾つも並んでいる街並みが見えた。

 住宅地、コンビニ、ビルとミライは見覚えのある建物に目を剥く。

 

 そして学園があった荒地には、ミライの通っていた校舎があった。

 

「……驚かないですよこの程度じゃ全然……嘘、凄く驚いてるなにこれ!?」

 

 よく見れば幾つかの施設や、建築物全てが建てられている。

 

 黄色のラインが引かれ、全体的に白が多めに着色されているのを除けば前とほとんど同じである。

 

「感激! 一体誰が建ててくれたんだろ!? ホルスさん? それとも通りすがりの工務部の人? 色合いもなんだかシンプルで綺麗です! なんだか何処かで見たようなカラーリングですけどこれアレンジってやつですか?」

 

 目を輝かせて修理された学校に感動するミライ。

 

 さっそく中に入ってみようとしたが、彼女の肩をつつく者がいた。

 

「あ、あの……」

 

 ホルスかとミライは思ったが彼女のではなく、背後から声と気配を感じて振り向く。

 

「アル様のために、死んでください!!」

「あらかわいうぎゃあッ!?」

 

 ミライ、何度目かの気絶。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「うぅ……ここは?」

「アルちゃーん! 例の子起きたよ?」

 

 気を失った彼女は目を覚ました。

 ミライは自分が車に乗せられているのに困惑して、朧げな感覚は段々と晴れ、意識が覚醒する。

 

 そして両隣に美少女が座っているのに気づいた。

 

「わお! 両手に美少女です!」

「ありがと!」

「……?」

「ハルカちゃんと私の事だよ? そうだよね?」

「ええ! 元気っ子とおどおど系に挟まれてるこの状況はなんですか?」

 

 目覚めるとミライの両隣を挟むように座っている二人の少女。

 ムツキとハルカの姿がそこにあった。

 

 ミライは今上半身をぐるぐる巻きで縛られて、後部座席に座らされている。

 

「どうして私ここに居るんです?」

「ふふふ、教えてあげましょう……それは」

「おおその声は便利屋68!」

「そう私達が……知ってるの?」

 

 車の前、助手席から威圧感を出して喋り出したコートの生徒は、カッコよく喋り出す前に興奮したミライの声にかき消された。

 

 ミライは声を聞いた瞬間、いや目覚めた時には頭だけ視界に映っていたのでなんとなくそうなんじゃないかと思い、声を聞いた時には確信して縛られたまま小躍りしそうなほど全身を揺らしている。

 

「便利屋68です! うわ本物だ!」

「わ、私達のこと知ってるの?」

「もちろんです!! キヴォトスのあらゆる場所に現れて金次第でなんでも依頼を請け負う最高にハードボイルドなアウトロー!! 感動的! 一度会ってみたかった!」

「ふ…ふふふ、そう……うふ、うふふふ!」

 

 興奮するミライの言葉にアルは身体を震わせ。

 隣で運転しているカヨコはその顔を見て気づく。

 

「不味い、ボロが出そう」

「そう! そうなのよ! 私達は真のアウトローを目指す便利屋68!」

「カッコいい!」

「そ、そうでしょう!」

「はぁ……社長、仕事中だよ」

 

 ため息混じりにアルに言うカヨコ。

 

(これは最高の日だ、明日死ぬのかな私? それとももう死んでる? いや死んだ事はあるけど)

 

 便利屋68社員全員と出会えるどころか話が出来たことに憧れの有名人を見たように感動するミライ。

 なぜか全員かなりボロボロだが。

 

 側から見ても縛られて誘拐されている様なのだが、今のミライにとってはどうでもいい事だった。

 

「とても綺麗な声です、儚げなクール系美少女って感じ! 気分が高揚してきました!」

「何言ってるの……? この子……」

「もう少し吐息多めで喋ってください、そしたらお金を払います。あともうちょっと顔見せてくれません?」

「……」

 

 見せてと言いながらミライは前の座席にまで身体を入れてカヨコの顔を覗き込んだ。

 一見無表情のカヨコ、見ようによっては睨んでいるようにも見えるのだがミライの視界を通してみた景色はまるで違うようである。

 

「思った通り! 切れ目の美女です! あの色気は簡単に出せませんよ!」

「よかったねカヨコっち! 初対面の人からこんなに褒められたのはいつ以来かな?」

「何言ってるのよ、カヨコはいつだって可愛いじゃない」

「あ、わ、私も……綺麗だなと」

「三人ともやめて、十分分かったから。あなたも冗談はそこまでにして後ろに戻って」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめるカヨコは誤魔化すようにミライの顔を掴んで強引に後ろに戻す。

 

「今のは本気ですよ? 冗談はもう少しあとにします。ところで社長ってどういう気分なんですか? 便利屋68ってカッコいい名前ですよね!」

「そうよねカッコいいわよね!! 陸八魔って私の苗字から取ったのよ!」

「いいですね便利屋68、名前からして響きが良い! 私も会社を建てたらカッコいい名前を付けたいと思っています、ロドスとかいいですよね。運営元繋がりってだけで特に意味もなく出してやりたいんです、まあ私は医療の知識なんて毛ほどもありませんけど」

 

 気が合うように話をするミライとアルに、ムツキはハルカと顔を見合わせて肩をすくめた。

 

「あなたこの状況理解してるの?」

「状況って? 縛られてる事ですか? 私はMなので別にそこまで気にしてませんよ。強いて言うならもう少し強めが良いと思ってますけど。あ、他の話ですか?」

「え? ほか?」

「アルちゃん、私達今この子誘拐してる途中だよ?」

「…………そうだった!?」

 

 ムツキの言葉にアルは白目を剥いて思い出した。

 現在進行形で真のアウトローを目指す便利屋68は、アウトローらしくミライを誘拐している。

 

 学園が立て直された直後に誘拐された、奇跡的なまでに運の悪いミライ。

 もっとも彼女にとってはこの状況こそ幸運だと思っているようだが。

 

「いいんですよ! ずっと会いたかった人達に出会えたんですから!! でも私を誘拐しても身代金を出してくれる人とかいませんよ? 私の学園の生徒や友達はみんな何処かに行っちゃったので、取るなら直接私を脅してお金を引きずり出した方が早い」

「あなたを拐ったのは身代金の為じゃないわよ、依頼人がそうしてって言ってきたの、カイザーの偉い人を通してだけど」

「偉い人? それってPMCの理事さんですか?」

「知ってるの?」

「会った事ありますから。前に私の学園を買い取ったのに返してくれた良い人なんですよ。考えてみると変な話ですよね、精神でも弄られたのかってくらい私に都合が良い展開です! まあ全部吹き飛んだんですが」

「それは災難だったわね」

 

 話を聞く限り、便利屋68はアビドスへの攻撃ではなくミライの拉致を依頼されたらしい。

 アルが見栄で雇った傭兵の姿もなく、先生がまだ来ていない事もある。

 アビドスへの攻撃はもっと後に行われるのかもしれないが、ミライが誘拐される理由が本人にも分からない。

 

(もっと悲鳴を聴かせてとか言ったくらいだし……まさかそれのせい!? 流石に失礼だったか……でも可愛かったのは本当だし)

 

「まあその人は今入院中なんだけど。ニュースを見た時は驚いたわ。だから今は別の人から依頼を受けてるの。理事経由で私達を雇った人があなたを……誘拐して……連れて来てって……ねえ! 思ったんだけど本当にやってよかったのかしら!? 本当にこれアウトローのすること!?」

「それ今更」

「顔も分からない怪しい人って散々言ったのに〜、それにあの化け物のせいで雇った傭兵ぜーんぶ逃げちゃったし〜、まあ途中で何故か追ってこなくなったけど」

「だって! 契約書はちゃんとしてたし、すごい大金だったから! それにもう資金も底をつきそうで!」

 

 側に居たホルスはどうしたのかと疑問はあったが、どうやらあの後の便利屋68や傭兵と交戦したらしいことをミライは知る。

 今度はミライを助けなかったようであるが。

 

「うぅ……こんな良い子を攫って渡すことになるなんて……」

「大丈夫ですよちゃんとアウトローですよ! 容赦なく私を惨たらしく殺して死体をバラして魚に食わせるんです!」

「殺さないし残酷過ぎる! よくも平気でそんなこと言えるわね! というかなんで……!」

「────!? 捕まって!」

 

 そんな事よりも便利屋68、主にアルとの掛け合いを楽しんでいたミライは急停止した車に驚く。

 

 ブレーキを踏まれた車はタイヤで地面を削りながら滑る。

 

「うぎゃぎゃが!!?」

「い、一体なに。あの化け物が追って───!?」

 

 車は謎の衝撃と共に爆発。

 

 走る車は衝撃で空を回転し、窓の外の世界が廻る。

 

 ミライは真っ黒な幽霊のような何かがチラリと見え、車は逆さに停まった。

 

「見つけたぞ便利屋68、規則違反者ども!」

「冗談でしょ……」

 

 車の外で仁王立ちする人物に渋い顔をするアル。

 褐色肌の小悪魔を想起させる容姿の生徒。

 

 ミライの居る場所からは足しか見えないが、声と合わせて誰かと理解するのはそれで十分だった。

 

「いい味が出そうな足です……ぐぇ」

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