原作台詞知らないとしんどいっすね...本当に。
もうこうなったら原作大ブレイクするしか.....
あと一応捕捉ですが筆者はホシノアンチではありません。というか今の所アンチキャラは居ません
ここはアビドス砂漠、アビドス高等学校校舎。
あの後先生と対策委員会の皆にアビドス高校へと案内されたイサネは夜も遅いという事で泊っていく事となり、今は夕食を皆でで食べている。なんでも、とてもおいしいラーメン屋?と言うのがあるらしいのだが、今日は定休日という事で先生が買ってきた食材で鍋を囲っている。
「おぉ、これが、鍋。初めて見た・・・」
「え?鍋知らないの?」
イサネの初見の反応にセリカが思わず反応する。イサネはそれにさも普通の事の様に答える。
「うん、知らない。これが初めて。何ならその、らーめん?って言うのも何か分からない。」
「うっそでしょ・・・」
「うへぇ、とんでもない人も居たものだねぇ。」
周りがドン引きしてしまっている。どうやらこれはおかしい事らしい。だが、知らない以上どうしようもない。そもそも箸の使い方だって覚えたのは最近だ。ブラックマーケットのマンションで一人暮らしをしている為に料理など出来ないので、ほぼ毎日レーションを齧って生活している。
「と、とりあえずいい感じに具材も煮えたし、お皿に取り分けようか。」
先生の音頭で7つの皿にそれぞれ具材が取り分けられる。そして目の前に出されたお皿を見てなんとなくこう食べるんだなと理解。皿の中にある具材たちの内のじゃがいもを箸で掴み、そのまま口に放り込む。
――激痛。
いきなり口の中に走った痛みに思わず吐き出しかけるも、必死に咀嚼。どうやらこれは非常に高温らしい。碌に暖かい食事を知らないイサネには分からない事だ。
「わぁ、凄いですね、冷まさずに一口で行っちゃうなんて。あ、でもちゃんと熱いみたいですね。」
「ん、私も負けていられない。・・・・・・・う、やっぱり熱い・・・」
「ちょ、ちょっと!シロコ先輩、何やってるんですか!冷まさずに食べたら熱いに決まってますよ!?」
「・・・やっぱりこれ、そのまま食べる物じゃないんだ。」
皆の反応的にも、これは冷ましてから食べる物らしいという事を学習するイサネ。だが、熱いながらも、その優しく暖かい味はしっかりとイサネの味覚信号として伝わっていた。若干涙腺も熱くなってくる。
「・・・おいしい。」
「凄い、鍋でここまで喜んでる人、初めて見た。」
その後も熱さに苦戦しながらも一心不乱に目の前具材を食べているイサネの姿にシロコもシンプルに驚いているようだった。
こうして、対策委員会+2人の夕食は賑やかな会話と共に進み、先生の買ってきた鍋の具材も底を尽きたことで終わりを迎え、いよいよ解散の流れとなっていた。
「それじゃあ、私たちは帰ります。また明日~。」
「ん、また明日。ホシノ先輩、先生、イサネ。」
「また明日です。三人とも。」
「またねー!」
「はい、またね。」
「あい~、おやすみぃ~。」
「また明日。」
家に帰るのはノノミ、シロコ、セリカ、アヤネ。学校に止まっていくのはホシノ、先生、イサネ。別れの挨拶を告げ、それぞれが動き出す。
「先生はいつもの場所でいい?」
「うん、問題ないよ。」
どうやら先生は既に寝泊まりしている場所があるようだ。イサネは何処で寝る覚悟も準備も出来ている。ホシノはイサネに向けて、
「イサネちゃんはちょっと待ってね~今どこなら使えそうか確認するから。それまで屋上で星でも見ててよ。ここ街灯が殆ど無いから、綺麗な星空が見えるんだよ~。」
「うん。」
ホシノの言葉に頷き、そのまま屋上へ続く階段を上っていく、ここに案内された時に校舎の構造はあらかた教えてもらったので頭に入っている。そして屋上への扉を開け、そのまま上を見上げる。
「あぁ・・・・・」
それ以外の言葉が口から出てこない。透き通るような空は夜になっても変わらず澄み切っており、そこに散りばめられた星という装飾品が夜空を綺麗に彩っていた。
(凄い、こんな空、向こうでは見た事ない・・・穢れの無い夜空はこんなにも・・・)
その絶景に思わず見とれてしまう。時間を忘れて、ここへ来た目的すらも忘れて。
「イサネちゃんの寝る場所、確保できたよ~って、星に見とれちゃってるね。」
唐突に響いたその声を聞き、声の方向に振り向く。そこにはピンクの長髪の少女、ホシノが居た。
(そういえば、寝床の確保してくれてたんだっけ。忘れてた。)
イサネは、寝る場所と食事を提供してくれたことに感謝を伝えんと口を開く。が、先に発されたホシノの声によって、完全に遮られてしまう。
「そうだ、一つ聞いてもいいかな?」
「どうしたの、そんな改まって。」
何だろうか。イサネは特に疑問を抱くことなくホシノの質問を待つ。
「なんでイサネちゃんはそんな眼をしているのかなーって。」
「どういうこと・・・?」
質問の意味がイサネには理解できなかった。そんな眼と言われても一体どんな眼の事を指しているのか、それとも何かの隠喩的な意味の言葉なのか、いくら考えてみても答えは出ない。そんなイサネの様子を見ていたホシノは更に言葉を続ける。
「じゃあもっと分かり易くしようか。イサネちゃんは人を殺したことって、ある?」
「・・・」
はいとは言えない。はいとだけ言うには余りにも多く殺してきたから。だがいいえでもない。答えを出す前からリンクスとして殺し続けてきたのだから。よって沈黙が、イサネの答えだったのだが、それは半ば肯定とも取れる答えだった。
「・・・そうなんだ。やっぱりあの時感じた通り、そっち側の人なんだね。」
そう含みのある声で言うホシノの眼から見える感情は失望か、それとも恨みか。
「否定なんて、出来る訳がない。でも、ただはいと言うには・・・余りにも多すぎる。」
「多すぎる・・・?どういうこと?」
「ホシノ、貴方が過去に何があって私の底を見たのかは知らない。けど、これは一人で祓い切れる程、この業はぬるくも浅くもない。」
軽い意向返しも合わせてそう返す。さっきまでの眠そうに閉じられたホシノの目が驚愕に見開かれる。イサネは意識してそれを無視し、更に続ける。
「私はあの時、自ら答えを出した。既に大衆に決められた選択肢ではなく、そのどれとも異なる新たな答えを成就させるために、それが正答だと証明するために。」
力強くそう言い切る。自分を正当化する訳では無いが、企業連の腐った支配も、ORCAのアサルトセル掃討も、どれも私の答えにはなり得なかった。だから切っ掛けで私は動き出した。第三の答えを、人類という種の駆逐を。
「答え・・・?」
「それ以上は今は言えないかな。」
ホシノの呟きに話は終わりと言い切る。ホシノが答えの本当の意味に辿り着いていない以上、無理に教える必要が無い。何なら忘れて欲しい。答えと言い繕っても殺戮は殺戮で、人殺しだ。だが、これだけは言っておかねばならないとイサネは口を開く。
「でも、何を言ったとしても殺しは殺し。そこを誤魔化す程、私はまだ腐り切っていない。さぁ、思い当たる節は答えた。貴方は、私をどうするの?」
イサネのその様にホシノはしばらく悩んだ後、口を開く。その様子は先程まで見たものと同じ緩い雰囲気だった。
「まぁ、今は信じておくよ~。少なくとも、私たちに害意は無いみたいだし。」
どうやら信用を得られた様だ。イサネはほっと胸を撫で下ろし、「こっちだよ~」と自分の寝床へ案内するホシノに着いて行く。案内された場所は空き教室だった。そこに仮眠用の布団を敷いたような感じだ。
「これ位しか用意できなくてごめんねぇ。うち貧乏で・・・」
「大丈夫、コンクリの上でも寝れるから。」
「それは流石に良くないよぉ?」
「・・・放っておいて。」
ホシノと少し話した後、イサネは布団に入る前に自分の装備の確認を行ってから布団に入り、眼を閉じる。しかし、
(自分の答えを成就出来なかった奴が・・・何を・・・偉そうに・・・)
―――眠気がやってくる気配は来なかった。
結局寝る事が出来たのは空が明るくなり始めた頃で、学校にやってきたセリカに叩き起こされるまで起きることは無かった。
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燦燦と降り注ぐ灼熱の光をその身に浴びながら、少女――標根イサネは広大で何もない砂漠のど真ん中で、一つの廃墟の前に立っていた。
アビドス高校の校舎に泊めてもらった日の翌日に対策委員会の皆に感謝と別れを告げ、イサネはこの広大な砂漠をただただひたすらに探索を続た。廃墟の中を漁っては歩き、漁っては歩きを繰り返し、そして今に至るという訳だ。
「おぉー、でけぇー!ネクストくらいならギリギリ入りそうじゃね!?」
砂漠特有の灼熱地獄によって全身に汗をかきながらも、疲労の様子を一切見せず、この2日間で見てきたどの廃墟よりも大きな残骸にイサネのテンションは半ば壊れかけていた。イサネは興奮を一切隠さず、廃墟の周りをぐるぐると回ってその全容を目に焼き付ける様に廃墟をジロジロと眺めていると、イサネの中にある一つの記憶回路が動き出す。
(・・・これ、私の最期の時の廃墟に似てるなぁ。ほら・・・天井付近の壁に空いた大穴とか、このひび割れ具合・・・知ってるな、この形。)
そう、似ているのだ。イサネがキヴォトスに来る前の最期に自らの愛機、ストレイドを停めた廃墟にとても似ているのだ。
(入ろう。これだけ大きいなら、何かあってもおかしくない。)
意を決し中へ入ろうと入口らしき扉へ向かって歩き出そうとすると、突如後ろから聞き慣れない声が掛かる。
「おい、止まれ。」
イサネはその声を無視し、そのまま歩き始める。その直後にイサネの足元に数発の銃弾が着弾。どうやら威嚇射撃の様だが、それでも彼女の歩みは止まらない。
「このガキが!止まれって言ってるだろ!」
苛立ちの怒声と共にイサネの背に向けて放たれる銃弾。発砲者はそのまま銃弾が彼女の背中に命中し、前のめりによろける少女の姿を幻視する。
―――しかし、現実は余りにも無情で、予想外で、無慈悲だった。
直後少女を覆う薄い緑の膜。その膜に触れた銃弾は全て弾き返される。発砲者はその余りに非現実的な出来事に唖然とする。しかし、すぐに周りに居た者に指示を出す。
「おい、あいつを囲め!」
その指示に従った者達が少女を包囲する。そこで漸く少女――イサネの動きが止まる。どうやらやっと襲撃者の存在に気付いたようだった。ゆっくりと周囲を見渡すイサネ。その顔に先程までの興奮は一切無く、イサネを取り囲んだ者共を見る目つきも興味が無い物を見る様な目だ
「ガキ、止まれって言わなかったか?」
先程声がまた話しかけてくる。それにイサネは一切の不機嫌さを隠さない声で返す。
「あ?誰だよお前は、お前みてぇな有象無象が私の邪魔をするんじゃない。何処へなりとも消え失せろ。私は今からここを探索するんだよ。」
「はんっ!ここは俺たちカイザーの所有地だ。だから出で行くのはお前だよ、クソガキ。そしてここでお宝探しをするのは俺たちだ。」
「上の玩具の分際でよう回る口だな?出来損ないの粗製風情が。」
カイザー。その名の通り、イサネを取り囲むのはカイザーPMCの兵士達だ。その内の隊長と思わしきオートマタがイサネと貶し合い煽り合いの下品な口論を繰り広げる。しかし、大企業のエリートモドキと本物のイレギュラーでは、流石に相手が悪すぎた。隊長の悪口は向こうの世界において最早殺し合い前の挨拶以下の効果しかなく、そんなものが向こうの世界で挨拶以上の煽りを受け、その全てを殺害という結果で返したイサネには一切効かず、逆にイサネの実力と共に鍛え上げられた悪口戯言はエリート気取りのメンタルを破壊するのには余りにも効果的すぎた。
「くそがぁ・・・言わせておけばぁ・・・このガキ・・・!」
「ははっ、そのガキに論破されてる情けないゴミはお前だよ。所詮勘違いエリートによくある事だ。だからいつまで経ってもその程度なんだよ。まぁ?お前みたいな粗製の割にはよくその辺まで行けた方なんじゃない?あとは遥かに優秀な後進に道譲りなって。」
怒り心頭なカイザーPMCの隊長を更に煽り立てるイサネ。その眼は最早ゴミを見る目と何ら変わりない。
「おのれ・・・おい!このガキに分からせろ!カイザーに楯突くとどうなるかを教えてやれ!」
悪口の叩き合いは隊長の負け。今の合図はそれを認めるも同じ行為だったが、戦闘行為に出たのはもっと失敗だった。隊長の命令に従い、部下の兵士達が銃を構えようとすると、
「実に無能らしい、何の考えもない戦術だ。」
「あぎゅえぇ!?」
数m先に居た筈のイサネが瞬き一回の時間で貫手を隊長の胸に叩き込んでいた。その手は隊長の胸部を貫通し、背中へと突き出ていた。その数秒後に周りの兵士たちが漸くイサネを視界に捉え、それと同時に彼女によって胸部を貫かれている隊長の姿を認識する。
「た、隊長!?」
「速すぎ・・・るっ!?」
瞬く間に兵士達に動揺が伝播する。イサネはそれを見逃さない。楽しい廃墟探索を妨害されたイサネはその犯人に必ずこの世に生を受けた事を後悔させる為に動く。即座にサスペンダーに掛けていたアサルトライフルを抜き、一人に向け引き金を引く。
「あががっ!!」
イサネはそのまま止まらず、小銃を持っていない腕にコジマ粒子を充填。残った兵士の内の一人にその拳を叩き込むと同時に解放。その圧倒的な威力の前に拳を叩き込まれた兵士は爆散、周囲に居た者も爆発の余波をもろに受け吹き飛び、砂地に叩きつけられる。
「口も弱いし、力もない・・・うーん、弱い!」
そう嘯くイサネの周りにはカイザーPMCのオートマタが転がっており、中には完全にバラバラになってしまっている者もいる。そしてその全てが戦闘はおろか動く事すら出来ない状況であることは明らかだった。周りに立っている者は居ない。
そしてイサネは倒れて呻くオートマタへ向けて手に持ったアサルトライフルで止めを刺していく。オートマタも動けないなりに命乞いをするが、イサネはその一切を無視してひたすら頭部に穴が空くまで撃ち続ける。
―――砂漠に響き渡る悲鳴、銃声。
そしてイサネが最後の一人の頭部に銃弾を撃ち終えると、手に持ったアサルトライフルのマガジンを引き抜き、投げ捨てて新しいマガジンを挿し直す。
「よし、廃墟探索と洒落込もうかぁ!」
手に持ったアサルトライフルをサスペンダーに掛けつつ、廃墟へ向けて走り出す。イサネの表情はさっきまでの不機嫌さが何かの冗談みたいに笑顔だった。
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イサネが廃墟は入っていった数分後、カイザーPMCの兵士達が転がっている廃墟前に、一つの異形が居た。
人の形をし、黒いスーツを着こなしてはいるが、その顔は明らかに生き物のそれではない。その顔は黒で塗り潰されており、口のある位置と目のある位置に白い亀裂が走っており、そこからモヤの様なものが溢れている。
「あれが、標根イサネ・・・ククク、実に、実に興味深い生徒ですね・・・」
砂地に転がるオートマタの無残な様を一つ一つ確認するかのように歩きながら、その異形――黒服はそう独りごちる。
「今回我々の目的は小鳥遊ホシノの確保だったのですが・・・成程、確かにイレギュラーが介入してきたという事でしょうか?先生というイレギュラーを除いての話ですが。」
黒服はそう言い、その場に立ち止まって思考するかのように顎に手を当て、考える。
(今回の目的は小鳥遊ホシノの確保・・・ですが、ですがもし、彼女も手中に収める事が出来たら・・・?我々の研究の大きな一助になるのでは?あの緑の光も、研究の価値はあるでしょう。)
標根イサネ。彼女のあの緑の光とかの暁のホルスにも劣らない戦闘能力、確保に成功すれば更なる神秘への理解が深まるのではないか。例えあの緑の光が本筋の研究に関係無いものだったとしても、それはそれでまた別のやり様がある。と、そこまで考えて、
(いえ、捕らぬ狸の皮算用の様な考え方は止めておきましょう。小鳥遊ホシノと並んでもおかしくない実力者です、今回小鳥遊ホシノを契約という形で手中に収める方法を取ったのも、そちらの方が誰であれ契約の元に手中に縛れるというのもありますが、暁のホルスと呼ばれる彼女に戦闘で勝てないから。)
そう、今回の計画でアビドスの借金の半分を負担することを条件にこちら側へ来るようにというホシノに出した条件は契約の元に動きを縛るというのもあるが、何よりホシノが戦闘で真正面から無力化できない程戦闘能力が高いという問題もあった。
(まだ全容を見た訳ではありませんが、先程のあの戦闘はほぼ彼女の一方的な蹂躙劇と言っても差し支えありません。それに、ブラックマーケットで聞いた逸話の内容的にも、恐らく単純な攻撃性や狂暴性で言うなら小鳥遊ホシノよりも上と見ていいでしょう。小鳥遊ホシノという存在と並行して確保に走る事は余りにも愚かです。ですが、一つ話を聞いてみる位は、しても良いかもしれませんね・・・)
黒服は考えを纏め、その場から立ち去る。そこに乾いた強い風が吹き、砂煙が巻き起こって黒服の姿を隠す。そして、砂煙が晴れるとそこには、初めから何も居なかったかのように砂地が広がっていた。
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いた。
確かにそこに居た。
もう会えないと思っていたのに、ここには無いと思っていたのに。
「あ、あぁ・・・」
口から声が漏れる。そう、いない筈のそれが、今確かに目の前にあるのだ。
まるで時が来るのをただただ待っているかのように。
そして、主の帰還を待ち望んでいるかのように。
「ストレイドぉっ・・・!」
その声はもう、ちゃんと言葉を発することが出来なくなっていた。
手に持っていた拾い物を入れるバッグを投げ捨て、涙でぼやける視界そのままにそれに続く高さ10mの足場を走り抜ける。
「ストレイドッ!」
涙で顔を濡らし、その鋼鉄の巨人の特徴的な胸部に抱き着く。
ストレイド。イサネ――もといイレーネの愛機であり、己の半身とすら言えるネクスト。かつてのイレーネはストレイドを駆り、あらゆる依頼を遂行し、そして世界のあらゆるものを殺し尽した。しかし、命尽きてここキヴォトスに流れ着いた時、文字通り身一つで来たことでその行方が分からずじまいになっていた。
だが、今イサネの目の前にあるのは機体構成に多少の差異はあれどカラーリングも含めてストレイドのそれだ。
「まだ・・・動くのかな・・・」
顔を汚す涙を拭い、足場よりストレイドの装甲に飛び乗り、コックピットを開ける。するとそこには、見慣れたコックピットの内装がそこにはあった。イサネは慣れた動きでコックピットの中へ入っていく。
「火は入る・・・?」
ストレイドのコックピット内にある計器に触れ、起動操作を行ってみる。すると、ディスプレイに光が灯り、知らない親の顔よりも見たUIが映し出される。
「動いた・・・!」
イサネの心に湧く歓喜の感情。そのままディスプレイを操作し、機体の状態をチェックする。
「機体損傷無し、ジェネレーター正常、コジマ粒子生成無し、生成環境良好、ステータスオールグリーン・・・」
表示される機体の状態を機械的に読み上げる。結果、機体の状態は一切の不備の無い状態となっている。
「最後見た時は殆ど大破してたはずだし、アセンブリだって私がリンクスとして活動し始めた頃のまんま・・・別の機体?」
一瞬そんな考えが頭によぎるが、ディスプレイに表示されるデータを見て確信する。
「この戦闘データ、私の交戦記録・・・って事はこいつはストレイドだ・・・」
SoM、ホワイトグリント、そして、アルテリアカーパルス。その他にもイレーネの戦ってきた様々なAFやネクストとの戦いの記録が、確かにそこにあった。
「AMS、接続・・・」
ほぼ無意識にそう呟きながら、自身のAMSプラグをストレイドと繋ぐ。すると長らく親しんだ感覚がイサネの体に駆け巡る。大半のリンクスにとっては不快な感覚だが、イサネ――もといイレーネにとっては不快さなどあって無い様なものだ。
イサネはついかつての感覚のままに飛び出そうとして、間一髪踏み止まる。そう、ここは汚染された砂漠ではない。ここは学園都市キヴォトス、コジマ粒子による汚染が一切無い清浄な世界だ。キヴォトスまでもを、ネクストによる汚染で穢す訳にはいかない。
イサネはこのまま大空を駆けていきたい衝動を抑え、周囲のスキャン。スキャンによって得られたデータを確認しつつ、思考を回す。
(ネクストは資本の支援無しには動けない・・・どちらにせよ整備や保管の為の設備は必要になる・・・ここを改装して格納庫代わりにするとして、そのための資金と人材をどうするかなんだよなぁ。多少無理くりでも受諾する依頼の方向性を変えるか?)
ネクストは本来、中規模以上の企業の資産があって初めて戦力として運用できる兵器だ。かつてのイレーネの様にネクストに関する支援が万全ではない状態で長期に渡って戦い続けるという様な狂った真似はネクストの運用法ではない。ネクストを駆るリンクスの間では絶対の常識だ。
そして、キヴォトスにおいてもネクストという存在は新たに一つの問題があった。
(ネクストという戦力・・・あのカイザーとか言う企業が狙わないなんて事は有り得ないんだよなぁ。まぁ、操縦なんて出来る訳無いし、させるつもりもないけど。)
そう、ネクストクラスの戦力はイサネが確認した限りだとここキヴォトスには存在しない。いくら銃社会のキヴォトスと言えど、パワーローダー等といった最大でも3、4m程度でノーマルACやネクストと言った10mに迫る兵器は確認できていない。そしてキヴォトスにおいてもカイザー等といった大企業と呼ばれる組織は例外なく強欲だ。ネクストという兵器が目の前にあったら何があっても手に入れたがるだろう。例えどんな手を使うことになったとしても。操縦する者が居なかったとしても。
ネクストという環境汚染兵器をそんな欲の皮の張った企業共に渡す訳にはいかない。ましてやそれが
「どうしよう・・・コジマ粒子関連に不用意に絡むなと言った以上、エンジニア部にも頼る訳にはいかない。」
そもそも個人でネクストの管理を行うという前提があるせいで、いくら考えれどもこれだという案は浮かばない。
「はぁ、もういいや。コソ泥対策だけやっておきましょう。取り敢えずはここを使えるようにする所から初めよう。」
肝心な所を未来に丸投げし、最低限の応急策を決めて思考を切る。シートに身体を深く沈めて放心したかのようにコックピットの天井を見上げる。
「ストレイド。」
ストレイドのコックピット内に霧散する呟き。その声は自らの半身に呼びかける様にも、問いかける様にも聞こえる声、そしてそのタイミングで場の雰囲気を考慮しない電子的なコール音。
「人の大事な再会のタイミングで・・・誰?」
イサネは苛立ちながら煩く鳴るスマホを取り出し、通話に出る。
「標根イサネ、誰?」
最低限の名乗りを以て通話相手に話しかける。
『あ、えーと、先生だよ。』
「うん?先生?」
通話の相手がアビドスの件以降依頼以外でしばらく関わる事は無いだろうと思っていた先生であることに驚きつつも、イサネは相手の要件を聞く。先生は緊張感を感じさせる声色で、
『ホシノが、攫われた。』
そう答えた。
「はぁ?」
イサネは先生の言葉の意味が理解できず、思わず聞き返す。
『ホシノが攫われたんだ。カイザーPMCにね。』
通話から先生の声以外にも騒がしい音が聞こえる。どうやら銃撃戦の真っ只中で掛けてきたようで、先生の声も普段より聞き取りにくい。
「うん、で、それと私に何の関係が?奪還して欲しいなら依頼という形にして欲しいんだけど。」
『違うよ。いや違くはないけど、違うんだ。』
「え、どういうこと?依頼じゃないなら私に介入できる話では無いと思うんだけど。」
自分の相棒との再会を妨害されたことによる苛立ちが滲んだ声でやや早口に捲し立てるイサネ。それを先生は銃声響く中でも緊張感はあれど焦りの無い声で諭す。
『ホシノが攫われた事でカイザーが本格的にアビドス砂漠に対して武力によるアビドス高校の制圧を始めたんだ。ついでに部外者の追い出しも。』
その後も先生は事の経緯を簡潔に話始める。イサネもそれを聞き、先生が自分に連絡をしてきた理由について納得がいった。
「ははぁ、なるほどね。」
イサネは先生の話を頭の中で整理する。どうやらここアビドス砂漠の現在の所有者はカイザーになっており、アビドス高校から買い取っていたらしい。そして、アビドス高校の唯一の生徒会である小鳥遊ホシノがカイザーもとい黒服の提示した取引に乗ったことが生徒会の消失と見做され、残った僅かな校舎周辺すらも現在カイザーPMCの攻撃を受けているのだという。
そこまでを理解してイサネは溜息をつきつつホシノと言う生徒の評価を一つ下げた。そして戦場において言っても意味の無い文句をつい口走る。
「馬鹿じゃないの?校舎に泊まった時に私の裏を見抜くくらいの慧眼を持っているのに自分がアビドス抜けたら何も残らなくなることぐらい分かると思うんだけど。」
『余りホシノを悪く言わないであげて。彼女も彼女なりにアビドスを守ろうと必死なんだから。それに、アビドス高校にはまだ皆が居る。何も残ってないなんて事は無いし、何も失わせない。』
先生の言葉から先生が本気でホシノを取り返そうとしている事をイサネは理解し、そこで一つの妙案を思いつく。
(待てよ?ここでアビドス高校の生徒らに貸しを作れば、ストレイドの格納庫作成を金なしでやってくれるかもしれない。だとするなら私が今するべき事は・・・)
考えを即座にまとめ、口を開く。
「取り敢えず、そっち行くね。細かい話は後でしましょう?」
『え?いきなりどうし――』
先生の声を聞かずに通話を切り、ストレイドのコックピットから出る。先生との電話中に既に泥棒対策は施してある。短期間なら窃盗心配はない。イサネはそのまま放り投げたバッグをストレイドの近くに置き直し、自身に流れるコジマ粒子を操作して浮遊。そのまま裂けた天井から飛び出す。目的地は今も戦闘が行われているであろうアビドス校舎だ。
「へっへっへ、待っていろよ、貴重な人手達・・・!」
悪人の様な事を口走りながら、悪人の様な悪い顔つきで空をすっ飛んで行く。
―――その様はホシノにあらぬことを疑われても文句の言えない悪人のそれだった。
最後の方の文の、【自身に流れるコジマ粒子を操作して浮遊】というものがあるんですが、書いていて自分でいくら能力で得たとて体を流れるコジマ粒子って表記はおかしいやろって思ったのですが、良い表現が見つからなかったのでこれで諦めました。ユルシテェ...
あと首輪付きさんの口調があやふやだという事もありそうなのでここでも裏設定なのですが、理由は何であれ人類の殺戮を行うくらいの狂人なら口調や語尾が統一されてないくらい人格が破綻しててもおかしくないかなぁと思ったのでそういう設定です。