透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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話が進むごとに投稿が遅れている...これは一体どういうことだ...?(幻覚)

展開を上手く進めつつも戦闘描写を細かく乗せるにはどうすれば良いんだぁッ!!!



首輪付き、打算で大事に首を突っ込む

 

 

 

 

砂漠を駆ける。

 

 

 

 

ただひたすらに砂漠を駆ける。

 

 

 

(間に合うか・・・?いくらPMCの一人一人が弱くとも圧倒的な数の前にはすり潰される。それは私が一番よく知っている・・・)

 

 

圧倒的な速度から出る向かい風に髪をたなびかせる少女――標根イサネは、灼熱の日差しの中OBモドキで砂を砂嵐の様に巻き上げながら砂漠を超高速で駆けつつ、そんなことを考える。

 

砂漠の廃墟探索にてストレイドとの再会を喜んだのも束の間、先生からカイザーPMCがアビドス高校に対して本格的な武力行使に出た事を聞き、打算100%で助け舟を出さんとストレイドのある廃墟より歩いて1日くらいの距離を時速にして500km程の速度でかっ飛んでいる。

 

(もう校舎が見えた。うん、ネクスト規格の速度って、やっぱりぶっ飛んでいるものなんだ・・・)

 

そう、歩いて一日の距離とは大体100km弱。そして今のイサネの出している速度は500km/h。単純計算で10分と少しで辿り着く距離と速度だ。オーバードブーストによるコジマ粒子充填の為に所々で足を止めていたとしても、大して時間が掛からない。本来のネクストのOBの速度はおよそ1000km/hで、この距離なら5分程度で到着する計算になる。

 

(そんな速度でぶっ飛ばしている機体に乗る人も乗る人なんだね・・・って、私の事か。)

 

イサネはネクストという超兵器のおかしさとそれに乗るリンクスのイカれ具合を自分含めて改めて実感する。ネクストによる本格的な長距離移動が世界規模だっただけによりその事実を深くイサネの心に刺さった。

 

そんな下らない事を考えているともう校舎前に居るオートマタの群れがはっきり見えてくる。その様子は明らかに異常な速度でこっちに来るイサネに対して驚いている様に見える。ついでに巻き上げられた砂嵐にも。イサネは心を戦闘態勢に切り替え、OBモドキによって減ったなけなしのPAに回しているコジマ粒子をチャージする。

 

 

「おおぉぉぉぉぉーッ!!」

 

 

咆哮と共に横から敵陣深くに飛び込み、そのままチャージされていたコジマ粒子を解放。圧倒的な緑の閃光がPMC兵士たちを薙ぎ払う。

 

「な、なんだ!こいつは!?」

 

「う、う、狼狽えるな!一人だ、すぐに終わる!」

 

AAの被害を受けなかったPMC兵士達には明らかな動揺が広がっている。イサネはそのまま動揺で動けない兵士一人の胸にコジマ粒子を纏った拳(コジマブレードモドキ)を叩き込み、無力化。壊れた人形と化した兵士の足を掴み、武器代わりに振り回す。

 

「おわぁっ!?なんだこい――ぶっ!」

 

「ごっ!?」

 

幾ら弱いと言えど、オートマタであるカイザーPMCの兵士の体は機械のそれだ。要するに、鈍器として使える程度には硬いのだ。それに加えてイサネの膂力によって振り回されるオートマタの体は最早巨大な棍棒だ。その暴力の旋風に兵士達が次々と薙ぎ払われていく。

 

「アビドスの皆は・・・いた、あそこね。」

 

オートマタの体を振り回しながら少数で防衛線を張るアビドスの生徒達を見つける。とりあえず合流するべく、振り回していたオートマタの体にピンを抜いたグレネードを体の隙間に捻じ込んで兵士達の群れに適当に投げ込む。そしてそのまま前線へ向けて走り出す。

 

「アビドスの皆ぁっ!聞こえてるっ!?」

 

「この声は!?」

 

イサネの大声に全線で戦っていた黒髪の少女――セリカが反応する。イサネはこれ幸いと更に続ける。

 

「今よりアビドスに加勢する。先生!指揮よろしく!囮でも壁役にも何でも使って!」

 

「流石にそれは出来ないよ!?」

 

「ん、なら丁度良い。こっち来て、ドローンで本格的に爆撃する。」

 

「あいさ!」

 

シロコの要請に従い、そのままシロコの正面に立ってPAを展開。両手にアサルトライフルを持ち、仁王立ちで敵の撃つ弾を受けつつも撃ち返す。シロコはその後ろでドローンを操作する。ドローンはPMC兵士達の上に移動し、ドローンに搭載されているミサイルを発射。ミサイルは兵士の群れを的確に吹き飛ばす。

 

「誰か、ドローンを狙え!早くあの蠅を撃ち落とせ!」

 

「くそっ、すばしっこい奴だ。当たらない!」

 

兵士達がドローンに反応し、即座に銃撃するが素早く動き回るドローンには当たらない。そしてシロコのドローンに気を取られた所に、

 

「ノノミ、今だよ。」

 

「は~い、行きますね~♪」

 

ターゲットの外されたノノミが手に持つ愛銃【リトルマシンガンV】――マシンガンという名のガトリングガンを腰だめに構えて引き金を引く。6つの回転する銃身から吐き出される毎秒約33~66発という文字通り弾丸の雨がPMC兵士達を正面から喰らい尽くしていく。

 

「くそっ、これ以上は無理だ!撤退だ!」

 

「駄目だ、弾幕が余りにも厳しすぎる!パワーローダー無しじゃ突破できない!」

 

「撤退!撤退だぁー!」

 

元々イサネが居なくても攻め手に欠けていた状態のカイザーPMC兵士達はノノミのガトリングによる面制圧をもろに受けた事が止めとなり、泣き言を抜かしつつ撤退していく。

 

「ふぅ、何とかなったわ!」

 

「イサネが壁になってくれたから助かった。」

 

今の声はセリカとシロコ。他にもこの場に居るアビドスの生徒達は皆お互いに健闘を称え合っている。イサネはその様子を横目に先生に声を掛ける。

 

「先生、言われた通り来たよ。」

 

「う、うん。助かったのは良いけど、そっちは大丈夫だった?」

 

先生の問い。それに対してイサネは何ともないような顔で答える。

 

「うーん、特にはって感じかな。」

 

イサネはストレイドの事を隠す。先生には開示してもいいかもしれないが、ネクストの実態を知ったら誰だって搭乗する事を止める様に言うだろう。ストレイドに何とかして乗りたいイサネにとっては警告されながら乗り続けるのは流石にいい気持がしない。・・・もちろんこの場合は警告者が居る事に対しての不快感だが。

 

それにストレイドのある廃墟には既に接近禁止の警告を壁に刻み、ストレイド自体にもイサネ以外で機体をどうにかしようとする者に対して問答無用でPA展開からのAAが起動する仕組みを仕込んでいるのである程度の問題はない。

 

「さて、確かにホシノが居ないね。攫われた、という話だったけど。」

 

イサネは話題を切り替える。するとアビドスの生徒達の表情が陰る。そして、教室でオペレーターをしていた筈のアヤネがイサネの前に来て事情を説明する。

 

「はい、今日の今朝頃に、ホシノ先輩だけ来なくて・・・それと、教室の机の上にホシノ先輩の手紙が置いてあって。」

 

アヤネからその手紙を見せてもらうと、一番下に小鳥遊ホシノのという名前と共にアビドスの生徒達に当てた別れの文が綴られていた。それを読んで、イサネは納得がいったように口を開く。

 

「ははぁ、攫われたと言うよりは自らの意志で向こうへ行ったという事か。だとすれば、今なぜここにカイザーPMCが攻撃を仕掛けてきたのかについて納得がいく。」

 

「イサネ、それはどういう事かな?ホシノが自らの意志で向こうに行くとは思えないんだけど?」

 

先生がイサネの言葉に反応する。

 

「思えなくとも、今その手紙が何よりも事実を語っているでしょう。本当に攫われたなら、手紙を書く余裕なんて無いと思うけれど。そして、ホシノが自らの意志で向こうに行ったという事は今はもうアビドス高校の存在を証明するものが消え去ったことになる。ここに居るのは対策委員会を名乗る自称アビドス生。他から見れば無所属と何ら変わりない。だからカイザーは攻めてきた。」

 

その言葉に反論を返せる者は居ない。何故なら対策委員会というものは正式に認められた部活ではないのだから。しかし、先生はそうではなかった。

 

「・・・違うよ。ホシノはまだアビドスから去っていない。」

 

「自らの意志でカイザーに身を売っといて?それは無いんじゃない?」

 

「まだ、私がホシノの退学を認めてない。顧問である私が、届け出にサインしていない。」

 

その言葉にイサネは思わず絶句する。シャーレというものは一体どれほどまでに無法な権力を有しているのだろうか。依頼という形でしか関りを持たなかった学校の生徒の退学云々にすら首を突っ込めるとは。イサネは改めてシャーレの強権に驚愕する。先生は更に続ける。

 

「だから、私がホシノにこんな交渉を持ちかけた相手に直接出向いて場所を聞き出す。その間に皆は戦いの準備をお願い。・・・それと、イサネ。」

 

「あー、そういう事ね。掛け合うだけ掛け合ってみるよ。便利屋68の皆はもう引き入れたんでしょう?」

 

「そうだね、後はゲヘナの風紀委員会にも協力を要請しようと思っているよ。」

 

「あ、あの、お二人とも一体何の話を・・・?」

 

いきなり始まった先生とイサネの行動の擦り合わせに着いて行けないアビドスの生徒を代表してアヤネが声を掛ける。イサネはその声を待っていたという様に、場の音頭を取り始める。

 

「アビドスの皆、これから攫われたらしいホシノを取り返しに行くみたいだよ。恐らくカイザーPMCの基地に乗り込む事になるから、戦闘の準備をしておかないと。」

 

「え、え、いきなりなに音頭取ってるのよ。」

 

いきなり場を指揮しだしたイサネにセリカが軽く食って掛かるも、これから何をするのかを理解しているのか声はそのままに準備を始めんと校舎へ入っていく。そして校舎入り口前に一人取り残されたイサネはスマホを取り出し、便利屋68社長の陸八魔アルへと電話を掛ける。

 

『こちら便利屋68、陸八魔アルよ。一体何の用かしら?』

 

「こちら生粋のアルバイター、標根イサネ。アル、便利屋をアビドス高校に。先生が帰ってき次第ホシノ奪還作戦をするってさ。」

 

『えぇ?イサネ?って、生粋のアルバイターって何よ。というか、もう何か始まるの!?ちょ、ちょっと待ちなさ――』

 

「じゃ、頑張って。報酬は先生の懐から出るらしいよ。」

 

訳の分からない挨拶から初め、端的に指示を出し、そして訳の分からない一言で通話を終わらせる。そしてそのまま校舎の中へと入っていき、恐らくアビドスの皆が居るであろう教室の前に立ち、ノック2回。

 

「いや、開いてるから。というか、わざわざノックする必要ないでしょ。この状況でここに入る事を拒む程私達も狭量じゃないから。」

 

セリカの声と共にガラリと音を立てて扉が開かれる。しかし、イサネはその言葉を聞きつつも教室には入らず、いきなり懐から名刺を取り出してセリカに差し出す。この意味不明な奇行にはセリカも何やってんだこいつという表情をする。

 

「え、本当に何やってるのよ?馬鹿じゃないの?」

 

セリカの棘のある罵倒も意に介さず、イサネは口を開く。

 

「いやぁね?まだ依頼という形で正式にホシノ奪還を受諾していないので、傭兵として改めて売り込みをですね・・・」

 

「はぁ!?まさかあんた依頼じゃないと参加しないつもりなの!?」

 

「これでも報酬と引き換えにあらゆる依頼をこなす傭兵ですので。流石に無報酬で他所様のそれもかなり大きな問題にこれ以上首を突っ込むのはこちらとしても些か問題があるといいますか。」

 

芝居がかった胡散臭い敬語でそう話すイサネ。イサネのその声に反応したのは青筋が浮かんでいるセリカではなく奥で通信端末の調整をしていたアヤネだった。

 

「申し出はありがたいのですが、私たちに傭兵を雇うだけの資金はありません。無報酬で協力してくれるのなら嬉しい限りなのですが、イサネさんも傭兵ですので・・・」

 

そう、アビドスには現在、傭兵などといった人手を雇うだけの資金は無い。ただでさえ借金が膨れ上がっている状況で、金銭的余裕などある訳が無い。しかし、イサネはここで打算による助け舟もといイサネがここに居る最大の目的を遂行する。

 

「そう、今回の依頼の規模だとそこそこの値がするのだけど、今回は特別にその、紫関らーめん?というのを奢る事で手打ちにしようかと考えている。」

 

「え?それはどういう・・・」

 

「少なくとも、今私に協力して欲しいと依頼を出してくれるなら少なくとも報酬で金は取らないって事。そして、今回の報酬は紫関らーめんの奢りでお願いしようか。」

 

イサネから提示される破格過ぎる値引きサービス。しかし、これまでこれに近い手法によって苦しめられてきた4人がそれを信用するなど不可能な事だ。先生から聞いた話からそんな事は容易に予想できる。だからこそ、イサネは次の手を打つ。

 

「流石にその条件は怪し過ぎますよ・・・」

 

「知ってる。けど、私も私なりにカイザーを狙う理由がある。カイザーを潰したいと、その思惑を打ち砕きたいと心の底から願う理由がある。でも、たかが一傭兵バイトがここまで大きな干渉は本来出来るものじゃない。だから、だからこその値引き。私には、金よりもカイザーに損害を与える事の方が圧倒的に重要な事なの。今折角得られたチャンスをにはふいにはしたくない。」

 

両手を広げ、力強く、そして自らを復讐者だと言わんばかりにそう話す。

 

勿論嘘だ。カイザーコーポレーションとかいう図に乗った大企業(どうせゴミ共の集まり)を破滅させたいと願うのは自身の前世から来る本心だが、それ以上にアビドスに恩を着せてストレイドの格納庫建設の為の人手を低賃金で雇うという余りにも最低な打算で今こうして激情的な台詞を吐いている。

 

(・・・やっている事、カイザーと大して変わらないな?私。)

 

かつて自分の嫌った腐敗した連中と同じような手口で嵌めようとしている事に強烈な自己嫌悪を感じつつも、4人からの返答を待つ。

 

「わかりました。貴方に、依頼を出します。ホシノ先輩の救出に力を貸してくれませんか?」

 

少しの時間の後、アヤネが意を決したように答えを出す。そしてその答えはyes、イサネは心の中でガッツポーズをとる。周りの皆にそれを気取られない様に注意しつつ、口を開く。

 

「うん。その依頼、受けよう。報酬は紫関の奢りで。」

 

「・・・別にそれくらいならいつでも奢ってあげるし、わざわざそんな回りくどい事をしなくてもいいでしょ。」

 

「分かってないねぇ~セリカ。一介の傭兵が一日泊った程度の関係性の組織の動きに大きく関わるってなると依頼っていう択が一番安牌な択なんだよねぇ~。」

 

「な、なによそのっ!~ッ!腹立つ!」

 

がっつりセリカを煽り、彼女が顔を真っ赤にして怒っている様を無視しつつイサネは話を進める。

 

「取り敢えず私は何して欲しいとかあったら今のうちに言って欲しい。これから自宅で兵装の準備をしてくるから、もし何かあれば用意する。」

 

「うーん、特に私は何もありませんね。シロコちゃんはどうですか?」

 

「私は特には・・・いや、ドローンに積むミサイルが欲しい。」

 

「小型のミサイル・・・あるかな?ロケットランチャーならいくつかあったと思うけど。少し探してみる。他は?」

 

イサネはアビドスの皆の要望を聞き、それをメモに記録していく。が、元々自分達で何とかしてきたのだろう。シロコのドローンに積むミサイルの弾薬だけでそれ以外の要望が無かった。イサネはアビドス高校の現生徒達の粘り強さに感嘆を覚える。

 

「みんなからの要望は以上ね?じゃあ、そろそろ準備に行くから・・・これ、置いていくね。」

 

メモを記録したスマホをポケットにしまい、代わりに取り出した自分の財布を机に置く。イサネのその行動に疑問符を浮かべる4人だが、イサネはそのまま続けて、

 

「これはこのまま依頼を放棄しないという誓いの証。いつもならはこんなことしないけど、今回は特別ね。もし私が依頼の不履行をしたらその財布と中にあるものは好きに使っていいよ。」

 

「流石にそんなことはしませんよ!」

 

イサネの発言にアヤネが反応するが、イサネは教授するような少し真剣な雰囲気で話す。

 

「いいや、これこそが公平な契約。皆は戦力が欲しいから私を裏切れない。そして私はこの財布という人質を捨てられないから、貴方達を裏切れない。裏切るなら、何かしらの代償を支払うことになる。これはお互いに完全な信用の置けない中でもお互いが確実に約束を守る為の誓いの証。」

 

続けて「この財布の中には、結構な額の金が入っているからね。カード類も含めて。」というイサネの言葉に、この場に居る4人は理解する。今の行動はイサネがイサネとしてではなく、傭兵として信頼を持たせるための行為だと。

 

「ん、分かった。ならこの財布は持っておく。」

 

「よろしくね~、じゃあ私は行くから。」

 

シロコがそう言い、イサネの財布を机の中央に移動させる。イサネはその様子を確認すると後はよろしくとばかりにひらひらと手を振って教室から出ていく。

 

 

「それでは、準備を続けましょうか~。先生が戻ってくるまでには終らせておきましょう。」

 

 

イサネが居なくなったことで訪れた沈黙をノノミが音頭を取ることで打ち破る。その声に呼応するように残りの3人も頷き合い、武器の手入れに意識を戻す。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・微力ながら、幸運を祈ります。」

 

 

敵意にまみれた部屋に、自らを黒服と名乗る黒の異形の声が反響する。

 

 

「・・・」

 

 

黒服と対峙する一人の若い女性――先生は感情の抜け落ちた表情で、全てを見通すかのような、それでいて敵対心を隠しもしない目つきで、黒服を見据えている。

 

 

「・・・先生。ゲマトリアは、貴方の事をずっと見ていますよ。」

 

 

黒服のその言葉に一切の耳を貸さず、部屋から出るために後ろを向いてドアノブに手を掛ける。そのままドアノブを捻ろうとした所で、黒服が何かを思い出したように先生を止める。

 

 

「少しお待ちください、先生。貴方に、一つだけ忠告を。」

 

 

「何?」

 

 

黒服に背を向けたまま、先生が抑揚のない声で答える。黒服はそのまま話し出す。

 

「標根イサネという生徒はご存じですか?いえ、ご存じでなくとも問題ありません。いずれ出会う事になるでしょうから。」

 

黒服はそのまま続けて、

 

「かの者はここキヴォトスに生を受けた者ではない可能性があります。恐らく、何かの因果でここキヴォトスに流れ着いた存在かと推測できるのですが・・・まだ推測の域を出ません。」

 

「それで、何が言いたいの?」

 

先生は続きを促す。しかし、ここに来て黒服は初めて何かを悩んでいるようなそぶりを見せる。そして待つこと数秒の後に話し出す。

 

 

「あくまで私の推測から来るものでしかないのですが、現在無所属である彼女の事を生徒だというのであれば、その扱いには十分に気を付けてください。あれは、中に猛毒を含んでいる類の存在です。囲った者を、内側から破壊する猛毒を。」

 

 

そこにあるのは明らかな警戒の声。さっきまで殆ど崩れる事の無かった余裕がまるで嘘のように何かを警戒している様な様子だ。

 

 

「・・・そう。」

 

 

先生はその警告に対してそれだけを返すと、そのままは部屋の外へ出ていく。部屋に一人残った黒服はその扉を見つめ、一人考える。

 

(先生・・・小鳥遊ホシノの件については私はこれ以上の手助けも妨害もしません。ですが、標根イサネという存在についてはそうも限りません。それに私達の計画や研究にも支障が出なければいいのですが・・・)

 

そう思想する黒服の表情を伺うことは出来なかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「なぁ、小型のミサイルって無い?」

 

 

 

「入っていきなり何を言うんだい?天て・・・あ、いや、嬢ちゃん。」

 

 

 

ここはブラックマーケットにあるとある武器屋。表にあるような正式に銃火器を販売している専門店に売っている物から、曰く付きや違法な代物までよりどりみどりな品揃えがブラックマーケット内でも有名となっている店だ。

 

イサネはその店に入るや否や、カウンターで端末を弄っている店主に向かっていきなりミサイルは無いかと口走ったのだ。いくら品揃えが良いと言えど、流石にミサイルはない。店主は目の前に居る者がブラックマーケットに巣食う化け物である事を極めて意識から除外し、イサネの質問に答える。

 

「えぇー、無い?武器屋名乗るならミサイルの100発や200発は置いておかないと・・・」

 

「ばっ、馬鹿言え!そんなに買ったら借金でミサイルよりも早く爆発しちまうよ!」

 

馬鹿みたいな言葉の応酬。幸い、今が閉店ギリギリの時間の為に人は居ない。というか閉店間際に店に駆け込んでミサイルは無いかと言い出すイサネも迷惑客でしかないのだが。

 

「はぁ、無いか。」

 

「・・・一つだけならあるよ、数日前に運良く入荷したやつが、3つだけな。」

 

「え?あるの?買う。いくら?」

 

諦めた様子のイサネに店主は溜息をつきながらそう答えると、イサネは諦めた様な様子からころりと一転し、買う買うと連呼し始める。

 

「一応言っておくが、結構な値が張るよ?」

 

そういいつつ、値段標をイサネに見せる。そこには並みの銃火器が100丁くらいは買えそうな値段をしていた。

 

「え?小型ミサイル一発でそんなする?個人で携行できるサイズで?それが三つ?」

 

「なんでもこれは超高性能品なんだぞ。そんじょそこらの最新型と一緒にしないでくれ。」

 

その言葉を皮切りに店主は早口でそのミサイルの性能を喋り始める。まるでエンジニア部のコトリの様だ。ミレニアムでお手伝いをしていた頃にコトリのスイッチを踏んだ時は、小一時間その場から動けなかった。

 

 

「・・・という事で、こいつは他の物より遥かに値が張っているんだよ。」

 

 

長い。イサネの心がその二文字に支配され始めた頃、漸く店主のクソ長い説明が終わる。イサネはやっと終わったかと何処かに彷徨っていた視線を店主に戻し、口を開く。

 

「買う買う。全然買う。」

 

即答である。

 

「えぇ!?そんな金あるのかよ!・・・伊達に天敵と呼ばれているだけはある、凄まじい財力だな。羨ましいというかなんというか・・・」

 

「天敵って呼ぶなって、殺すぞ。」

 

普段通りの顔でさらりとイサネの口からこぼれる殺害発言。ブラックマーケットの他の人ならまず間違いなく心が凍り付くであろうそれを店主は慣れたように聞き流しながら決済を行う。

 

「はい、今決済が終わったよ。持っていけ。」

 

そう言ってイサネは目の前に出されたのはミサイル3つの入った箱。それの蓋を開けて中身を確認する。そしてそのまま注文を続ける。

 

「追加で筒を3つと弾頭9つ。注文は以上ね。」

 

「・・・まだ頼むのね・・・」

 

ロケットランチャー本体3つとその弾9つ。創業開始以降トップレベルの爆買いに店主の目は0の数の多さによって半ば狂わされていた。

 

 

数十分後、イサネの目の前にはロケットランチャーの銃身が3つ、その弾が入った木箱とそれとほぼ同じサイズの木箱が置いてあった。

 

「はいよ、会計は以上だ。・・・所で、それだけの荷物を一体どうやって運ぶつもりなん・・・って、えぇ!そ、それ、担いで持って帰るのか!?お、おい、え、えぇ・・・?」

 

イサネは合わせて50kg前後ではあるがそこそこのサイズの木箱二つをそのまま担ぎ上げ、ドン引きの店主の視線を受けながら店を出ていく。

 

 

その日の夜、でかい木箱二つを抱えた万物の天敵がブラックマーケットを闊歩しているという話が出回ったという。そして、その箱の中身は死体だという逸話まで付いて回った。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、アビドス高校にて。

 

 

「はいこれ、なんか色々凄い性能の小型ミサイル3つ。」

 

 

「まさか本当に揃えてくるとは思わなかった。」

 

 

そう言うシロコの目の前には小型ミサイルの入った木箱が置いてあった。

 

「これ・・・どこでこんな代物を・・・」

 

「ブラックマーケットのそこそこでかい武器屋。因みにクソ高かった。」

 

付属の仕様書を見ながらその性能に驚くアヤネにイサネはさらりと答える。ノノミは元々がお嬢様の様でその値段に驚いているようには見えなかったが、他3人は流石にその値段に驚いているようだった。イサネはその様子を見ながらさらに付け加える。

 

「それ、本来はSRT?に試験的に卸される物だったらしいけど、SRTに何かあったらしくて宙ぶらりんの所をブラックマーケットの武器屋が買い取った形になるからこの作戦中に必ず使い切ってね。所持がばれると多分ヴァルキューレ案件だから。」

 

「ちょっと!あんた何とんでもないものをうちに持ち込んでいるのよ!」

 

セリカの説教が教室に虚しく引き渡る。

 

SRT特殊学園。special response team(S R T)の名前の通りの重大事件の発生時に即応できる俗にいう特殊部隊を育成、運用する学園なのだが、訳あって現在は閉鎖状態にある。本来ならそこで試験的に運用評価を行うべき代物をイサネはブラックマーケットで買い付けてきたのだ。

 

「いいでしょ別に。使い切ってしまえば証拠もクソも無いんだから。それに、カイザーが薄汚い真似をするならこっちだってやってやればいい。多少の過剰火力位なら何も文句言われないって。」

 

「そう言う問題じゃないでしょ・・・!」

 

「ん、必ず使い切る。」

 

「シロコ先輩もそれで納得しないで!」

 

しれっとばれなければ無問題理論を展開するイサネと、それに便乗するシロコ。セリカのツッコミが追い付かなくなり始めたタイミングで、教室のドアが開く。

 

「やぁ、待たせたね。皆、準備は出来てる?」

 

開いたドアの先に居たのは先生。その顔つきはいつも通りの穏やかなものでありながら、真剣さを感じさせるものだった。場の雰囲気が切り替わる。

 

 

「みんないるね?じゃあ、このまま作戦の説明をするからよく聞いてね。便利屋68の皆にはすでに伝えてあるから、現地集合の形にしたよ。」

 

 

そうして先生による小鳥遊ホシノ奪還作戦の概要が説明される。

 

 

 

十数分後。

 

 

 

「・・・という感じなんだけど、皆質問とかある?」

 

 

一通りの説明を終え、先生がこの場に居る5人を見渡す。皆々作戦の内容は理解できているようだったが、特に質問は無さそうに見えた。先生が、じゃあ行動開始の合図を出そうとした所で、イサネが手を上げる。

 

「イサネ?何か質問?」

 

そう問う先生の声に、イサネはホシノの囚われているカイザーPMCの基地の地図を見ながら、口を開く。

 

「質問、アビドスへのカイザーの攻撃をゲヘナ風紀委員会が食い止めるのは良いとして、私達が基地内部に潜入する間の囮は誰がやるの?便利屋の一つだけ?」

 

「囮・・・」

 

先生はイサネのその言葉に直ぐに答えを返せない。当たり前だ。生徒を導く先生たるもの作戦遂行の為に他の生徒を囮に使うという選択肢は余程の事が無いと取れない。いや、取るべきではない。

 

「それは流石に出来ないよ。例えどんな作戦であっても、誰かを囮にしなきゃいけない作戦は先生である私が取っていい手段じゃない。」

 

「ふーん、じゃあ、生徒自らの提案と立候補なら良い訳だ。」

 

先生のその信念にルールの穴を突くかのように即座に反応するイサネ。続けて、

 

「私は基地への正面攻撃による陽動兼囮役の提案とその立候補をする。PMC兵士の練度自体は高くないけど、少数でのそれも攻撃ではなく半分潜入作戦となると囮無しは流石に発見のリスクが高くなる。」

 

そう先生に提案する。しかし、先生はそれに良い反応を示す訳が無かった。

 

「駄目だよ。いくら何でも君一人を置いていくような真似は出来ない。」

 

「この作戦で行く以上は誰かしらが基地の機能を持っていく必要がある。それに、その経路だって決して戦闘が無い訳じゃない。むしろ中枢に近づけば一度の交戦で湧いてくる兵士達の数とて多い筈だ。それを何の混乱の無い状態で遂行するのは流石に潜入という根幹からして間違っている。いくら先生の信念とはいえこればかりは私も譲れない。囮役の配置は絶対だ。」

 

先生の信念とイサネの戦術的観点からの意見。

 

「・・・分かったよ、イサネの案を通そう。ただし、絶対に戻ってきてね?これは作戦指揮官の命令だよ。」

 

「ははっ、分かってる。あの程度に屈する程、私も弱者狩りばかりしてきた訳じゃない。むしろ、私の牙はああいうでかい獲物を狩るための物だ。」

 

先生の一般的に見たら難しい条件にこれこそが自分の領分だと言わんばかりに返すイサネ。その顔は不敵に笑っており、その眼は獲物を見つけた捕食者の様にギラギラとしていた。

 

「じゃあ私は基地正面から奇襲の形で攻撃を仕掛ける。攻撃開始の合図は先生にお願い、合図の3秒後に攻撃を始める。」

 

「気を付けてね。」

 

「必ず戻ってきなさいよ!」

 

「皆待ってるから。」

 

「活躍、期待しますね~。」

 

「ん、頑張って。」

 

イサネを除いた5人からの声援を背中に受け、ミサイルの横に置いてあった木箱を担ぎ上げて教室を出る。廊下を歩き、階段を下り、昇降口を出る。そこに4人の影、便利屋68だ。その中心にいたコートを着た少女――陸八魔アルは、イサネの姿を見つけると歩み寄ってくる。

 

「アル、便利屋は現地集合だって聞いたけど?」

 

「一旦の小休止よ。またすぐに出発するわ。所で、そういう貴方も何処へ向かうつもり?」

 

イサネの問いに答え、逆に質問を投げかけるアル。それに対しイサネはこともなげに答える。

 

「これからカイザーの基地に単騎で正面攻撃を仕掛けるから、その準備。」

 

「はぁ!?あそこに正面切って攻撃するの?流石に自殺行為過ぎじゃないかしら?」

 

「その意見には賛成だね。私もそれはどうかと思うよ、イサネ。」

 

アルはおろかカヨコにすら反対されてしまったが、イサネは問題など無いと言ったように返す。

 

「カイザーPMCの兵士とは交戦経験がある。あの程度の練度なら例え100人が相手だろうと問題ない。全員スクラップにしてやる。」

 

カヨコはイサネの有り得ない程の強気と、その身に纏う雰囲気からなんとなく察する。イサネはあくまでも本気だという事を。

 

「そう、なら、しくじったりしないでね。捕まったらどうなるか知らないよ。」

 

「そんなことは当に理解してる。それに、手錠を掛けられたところで私の抵抗手段は奪い取れない。迂闊に近づいてきたところを焼き払ってやる。」

 

カヨコの警告を受け取りながらも強気に返すイサネは、そのままアビドスの砂漠へと歩いていく。

 

 

 

砂漠の空気は相も変わらずに乾ききっている。

 

 





本当は黒服との会話シーンもっと書きたかったのですが、文字数が爆発するのと原作パクリと判定される度合いが分からなくて大幅にカットしました。おかげで首輪付きさんに対するの忠告の台詞が少し納得いかない...(涙)

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