原作の生徒達の台詞を全く知らない上に物語の展開も二次創作で書かれた大まかな展開しか知らないのでかなり苦労しました。原作ブレイカーも考えたんですけどそれだと捻じれて歪んだ世界線へと突き進みそうなので流石に遠慮しました。
ネクストとコジマ粒子蔓延る世界のどこが透き通っているというんだ...
「皆が待っているのは、あの台詞?」
皆に望まれ、暗くて殺風景の檻の中から手を引かれ、こうして日の元に立って、後輩達とまた一緒に生きる事ができて。
「ああもう!分かってるなら焦らさないでよ!」
自分の勝手な判断でみんなに迷惑をかけて、悪い大人の手の平でいいように踊らされて。それでも、それでも皆は私を叱ることなく、責めること無く、手を差し伸べてくれる。
「うへぇ~、可愛い後輩たちのお願いだし、仕方ないなぁ・・・」
本当に優秀で、頼りがいのある後輩たちを持ったものだと我ながら思う。自分は、皆みたいに先輩を支える事など出来なかったのに、先輩の役に立つ事など、出来なかったのに。
―――それでも。
それでも皆は私を、こんな私を先輩だと慕ってくれている。そして今、そんな後輩たちに私は求められている。日常で使う平凡な台詞を、日常が帰ってきた証明を。
―――――ただいま。
ユメ先輩、見ていますか。私は今、こんなに立派な後輩たちを持ちました。私の身勝手を嫌味一つなく許してくれる、そんな後輩を。・・・正直まだユメ先輩の事は引き摺っています。ですが、それでも、アビドスの復興を目指して、皆とまた少しづつ歩みを進めていきたいと思います。
小鳥遊ホシノはこの地で色々なものを失ってきた。今回だってそうだ。アビドス自治区の土地は現校舎の僅かな範囲だけしか残っておらず、アビドス砂漠の大半はカイザーの手に渡ってしまった。
だが、手のひらから零れ落ちていく物の中で残ったものだってある。それは今ここでホシノの帰りを喜んでいる皆、そして過去と今自分の中にある確かな記憶。それらは確かにホシノの中に存在している。
―――ホシノの心の中に。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホシノが半ばで合流したアヤネを含めた対策委員会の皆と再会を喜ぶ最中、先生はその様子を見守りながらいつまで経っても無線に応答しないイサネの事で気を揉んでいた。
(イサネ・・・流石にあの数相手はいくらなんでも行かせるべきではなかった・・・?)
ホシノの囚われていた区画に辿り着く前にアヤネから聞かされたイサネの身に起きた異変。声を掛けた時にはもう遅く、無線からはなにも声も返ってくることは無く、小さく乾いた笑いが僅かに聞こえたきりいくら声を掛けようとも応答がない状態となっている。
(ホシノを取り返せたのは良いけど、イサネが捕まったりしたら結局状況は変わらない。オペレーターをやってくれていたアヤネも今はここに居る。・・・さて、どうするか。)
思考を回しながら先生は懐からタブレット――シッテムの箱を取り出す。
「アロナ、ここから地上に出る最短ルートって分かる?」
するとシッテムの箱から先生にしか見えない水色の少女――シッテムの箱の在中OS【A.R.O.N.A】アロナがその声に答える。
『はい、今施設の中でも稼働している機器をハッキングしました。ここ周囲の通路や地形と最短経路を表示します!』
元気な声でそう言うや否やシッテムの箱の画面上に表示される周囲のマップとそこから地上へと出る最短経路。正確にはカイザーPMC基地の正面門近辺までの道のりだが。
「ありがとう。」
『えっへん。・・・そう言えば、ハッキングを行う時に周囲にある機器を探したんですけど、周囲の稼働している機器がここに近づいた時に比べてかなり減っているみたいで・・・』
先生の礼に胸を張ることで答えたアロナは何かを口走る。
「生きている機器が減っている?」
『はい。ですので先生、外に出る時は十分に注意してください!』
建物内にある筈の精密機械が大量に破壊もしくはダウンしているという事は建物の内部まで破壊される程に外でも戦闘が激化していたという事だ。
「皆、準備は良い?」
先生が声を掛けると先程まで再会を喜んでいたアビドスの皆が各々愛銃を手に持ち、こちらを見ている。先生はそんな様子の皆に向けて話し出す。
「本当はこれから帰還と行きたいんだけど、外で囮役をやってくれてたイサネとの連絡がまだ付かないんだ。最短経路を指示するから基地の正門を目指そう。恐らくイサネは正面門の近くで戦っている筈。」
先生の言葉に改めて気を引き締める5人。先生はそれを確認すると5人を連れて通路を進み、曲がり角を数回曲がり、地上へ繋がる扉を通って地上に出る。
「これは・・・!」
「うわぁ・・・兵士が凄い事に・・・」
先生の驚きの声、セリカがその惨状にドン引きしている。そう、地上に出た一行を迎えたのは目に映る全ての建物が破壊されており、生き残っている建築物も何処かしらに深々と破壊痕が刻み込まれている。地面にはカイザーPMCの兵士達が無数に転がっており、どれもこれもまともに動ける状態でない事は一目でわかる。
「先生!パワーローダーが・・・!」
アヤネの声に視線を向けると、そこには上半身が完全に吹き飛んだパワーローダーの無残な姿がそこにあった。
「わぁお、ここまで壊すのはおじさんでも難しいと思うなぁ~。」
まだその実力の一部しか見てはいないが、確実に実力者である事が分かるホシノですらこう言っている。・・・もっとも、ただ無力化するだけならここまで破壊する必要は無いのだが。
「うーん、この様子ですと、イサネちゃんは問題なさそうですけど・・・あ、いました。先生、イサネちゃんいましたー♪」
「何かを追いかけてる。あと何か持ってる。」
ノノミがイサネを見つけた様だ。シロコはイサネが何かを追いかけている様子を捉えている。
「え?どこ?」
「ん、あそこ。」
見当違いの方向を見ているセリカにシロコがイサネを見つけた方向を指差す。するとそこには巨大な何かを片手に何かを追い回す灰銀色の髪の少女がいた。
「おーい、イサネー!」
「元気だねぇ、おじさんはこれだけ戦った後走る体力なんて残ってないよぉ?」
「ホシノ先輩だってまだ若いと思いますけど・・・」
ホシノの年寄みたいな発言にツッコミを入れるアヤネ。一方でイサネは先生の声に気付いた様で、追いかけている何かへ向け手に持つ巨大な何かを一振りする。すると、
「ぎゃぁぁぁぁぁああああああっ!!!?」
見た事のある恰幅の良い大柄のロボット――そう、カイザーPMC理事がこちらへ向けてボールの様にすっ飛んでくる。地面をバウンドし、ごろごろと転がりながら一行の目の前で停止する。カイザー理事はしばらく苦痛に呻いていたが、先生とアビドスの一行の姿を確認するとばっと数歩分後ろに飛び下がろうとするが足が機能していないのか着地に失敗し、片膝をついた状態で何とか姿勢を保つ。
「貴様らは・・・シャーレの先生とアビドスの・・・ぶべっ!?」
言い切る前に巨大な何かがカイザー理事の背中に直撃。そのまま理事は巨大な何かの下敷きになる。巨大な何か、それは
「先生~、おん?どうやら作戦は成功したみたいね。」
その巨大なガトリング砲を投擲したイサネは一同の元へ軽快に走り寄ってくる。そしてホシノの無事を確認すると、さらりと毒を吐く。
「その様子だと頭の弱い先輩は連れ戻せたみたいね。」
「ひどくない?」
「自業自得だと思ってもらえれば、なんとでも。そもそもねぇ、いくら借金の金利を爆上げされたってね、貴方が跡継ぎも決めずに消えたらカイザーが攻め入るのは当たり前でしょう。正規のアビドスの生徒会は貴方しかいないんだから、それに借金の半分ってその程度でどうにかなるほど億って桁は安くないの。わかる?そもそも利子の支払いだけで精一杯なんだから教えるまでもないでしょ。いつもその辺を後輩に任せてばかりだから頭が――――」
いきなり始まるイサネの説教。金の使い道についてはイサネも人のことを言えた口では無いのだが、借金や権利、資金の管理の問題については別だ。己の体一つ+ネクストを資本として収入源が報酬だけだったイサネにとって莫大な借金の半額というものは何よりも忌避すべきものだ。ましてやその半額の為だけに身を売る契約はイサネにとって到底許容できるものじゃない。
「いくら校舎の守りが必要といえどね、貴方自身が何もしてないんじゃ意味無いんだって、ゲヘナとかブラックマーケットで軽い傭兵稼業くらいやれば稼ぎに貢献できるんじゃないの?特に暴れん坊の多いらしいゲヘナならその実力を発揮すればちょっとした大金ぐらいすぐに稼げるでしょうに、それをいくら地域の治安維持の為とはいえ一切自治区から出ないというのは非効率でしかない。一日二日以内くらいなら何も問題ないから。月一くらいでそう言うの何かした方が良いよ。本当に。それから――――」
「う、うへぇ。先生、助けてぇ~。」
「うーん、こればっかりはイサネが正しいかなぁ?」
「うぅ、おじさん壊れちゃうよぉ・・・」
イサネの説教を前に先生に助けを求めるも、流石の先生も正論を前にはホシノを擁護できない。しかし、イサネにはイサネで先生から言うべきことがあるのも事実だった。先生は一呼吸入れ、今だその口から言葉による圧倒的な弾幕を放ち続けるイサネに声を掛ける。
「イサネ。」
「先生?今ホシノの説教で忙し――」
「これ、やり過ぎ。」
先生が指差す先には未だ巨大なガトリング砲に潰されて身動きの取れないカイザー理事の姿があった。速攻で話から外されたカイザー理事はやっと自分のこの状況が認知されたのでここぞとばかりに声を出す。
「早く、こいつをどかしてくれぇッ・・・!圧死するぅ・・・」
「ねぇ、こいつ結構流暢に喋れてるから大丈夫だって。」
「駄目だよ。」
先生の叱責に一瞬硬直するも、カイザー理事の反応を見て駄々をこねるイサネ。しかし先生には通用しなかったようで、諦めた様にカイザー理事の体の上に乗ったガトリング砲を退ける。
「ぜはぁー、はぁーっ、はぁーっ。くそが・・・あれを棒切れのように振り回しやがって・・・人の手で振り回すために作らせた物では無いんだぞ、あのガトリング砲は・・・!」
「カイザー理事。」
何とか息を整えるカイザー理事に先生が平坦な声で話しかける。カイザー理事は改めて対策委員会と先生の姿を確認すると、話し出す。
「対策委員会・・・貴様らが、目障りだった・・・」
「お前たちを潰すために、あらゆる手段を講じてきた・・・」
「だというのに・・・」
そこで一度言葉が途切れる。カイザー理事は肩を徐々に震わせ、吼える様に言葉と吐き出す。
「だというのにっ!消えかけの学校に残り続け、こちらの策にしつこく喰らい付き、どうにかして借金を返済しようとして!」
「あれほど痛めつけてやったのに!あれだけ苦しめてやったのに!毎日毎日を楽しそうに過ごしやがって!」
「お前たちが、お前たちさえ居なければぁッ!!!」
まるで恨みを吐き出すかのような咆哮。対策委員会の5人も、先生も、カイザー理事の言葉をただ表情無く聞いている。
「そして、シャーレの先生!お前という存在が来てから、急激に変わった・・・!私の計画も、対策委員会の面子も、全てがっ!」
そう言ってカイザー理事は先生を睨みつける。先生もその視線に対して一歩も引かない。ただそこ在るがままと言わんばかりに泰然としている。そしてカイザー理事の言葉が切れると、少しの間をおいて話始める。
「私は、あくまで生徒の手伝いをしただけ。あなたの計略を跳ね除け、カイザーPMCの手を退けたのも、対策委員会の皆が自分たちの意志で行った事。重ねて言うけど、私はあくまでその手助けをしただけ。」
いつも通りの声色でありながら、それでいて生徒を導く先生として、そして責任を負う大人のあるべき姿として、そこに絶対の存在感を放っていた。
「如何なる計略であれ、策であれ、それが他人から搾取するだけのものならば、いずれ必ず、あらゆる形でその責任を問われることになる。それが大人だよ、カイザー理事。そして、あなたが負うべき責任の期限は今日この日、この時間だ。」
「あなたは困窮している生徒達の弱みに付け込み、あらゆるものを彼女たちの手から掠め取ってきた。だからあなたは今日ここで、こうしてその報いを受けた。当然の結果だ。」
斬り捨てる様にそう言い切る先生に、カイザー理事は敗北を実感したかのように項垂れる。イサネはその様子を見て考え事をしていた。
(報い・・・払うべき責任・・・私はここに来る前、人類種の天敵としてクレイドルを落とした。地上のコロニーだって焼き払った。罪の無い人も殺したけど、弱者から搾取し続ける企業の人間だって殺し回った事になる。向こうの企業の人間は、私という好き勝手やった報いを受けた?)
考えても分からない。キヴォトスと違って向こうは責任などと言う業は既に人の欲の前に飲み込まれてしまった世界だった。それに自分が人類を殺し回ったのも空を穢す人類の根絶であって企業の粛正が本来の目的ではない。
そんなことを考えているとイサネのスマホがバイブレーション機能によって震える。何事かと思いスマホを開くとそこには差出人がカイザーコーポレーションとあるメールが届いていた。イサネは不審に思い、ハッキングを警戒しつつメールを開く。するとそこには
《お初にお目に掛かる。我々はカイザーコーポレーションだ。いきなりですまないが依頼をさせて欲しい。本来であれば一般の傭兵バイトにこのような事を頼むことは無いのだが、今回は特例という事で容赦して欲しい。
依頼の内容は恐らく今君の目の前に居るであろう理事にカイザーPMCの理事に解雇通告を我々の代わりに宣告して欲しいというものだ。理由としては主に生徒の誘拐拉致監禁だが、他にもアビドスの抱える借金の金利を常識を超えた額に勝手に設定したことやカイザーPMCに大損害を齎したなども挙げられる。が、その話をすると長くなるので後で確認して欲しい。報酬は現在の彼の権限内で出来る事を一つ必ず彼に呑んでもらう事でどうだろうか。カイザーの名に懸けて、彼に最後の仕事を必ず遂行させる。
何故我々がつい今しがた起きた事を把握しているのか等と言った疑問はあるだろうが、これらは傘下の企業にも上の監視があると思って欲しい。
そしてこの依頼を見て依頼を行わないという選択を取っても構わない。どうせ彼に我が社の中での居場所などもう無い。帰り次第解雇通告をするだけで、手間が一つ増えるか否かの違いだ。だが、その手間すら嫌う者もいるのが我がカイザーの実態だ。
社に必要無い物を処分するための手間を省いてくれると助かる。》
遂に本社の方からも尻尾切りの目に遭ったか、哀れだな。とイサネはメールを読み、心の中でそう独り言ちる。そしてちらりとカイザー理事を見ると、まだ項垂れている。この状態の人に上からの尻尾切りを伝えるのは中々酷な事だが、イサネにとっては死んでないだけマシだろうという程度の認識を以てカイザー理事に話しかける。
「おい、カイザー理事。聞こえるなら返事をしろ。」
イサネの声にカイザー理事は項垂れたまま反応する。
「・・・お前か、お前には随分と良いようにやられたが、何の用だ。」
イサネは強い口調で、
「アビドスの借金の金利を0にしろ。これは勝者が敗者に通す要求だ。無碍にするなよ?」
「はは、そんな要求、呑むと思っているのか・・・ましてや、お前の要求なぞ――」
「いいや、呑むね。呑ませるね。例えお前を消し炭にしたとしても呑ませるね。」
消沈したような声で要求を拒否する理事の言葉に被せる様に語気強く言うイサネ。対策委員会のメンバーはその要求に驚きを隠せない。その直後、カイザー理事は懐からスマホを取り出して何かを操作する。そして、
「くそ・・・上の認可が下りている・・・!くっ、呑まざるを得ないという事かっ・・・!」
悔しそうに言い、理事は更にスマホを操作、そしてこないだアビドスの土地について問い詰めに言った際に対策委員会のメンバーに見せた画面を再び見せる。イサネの他にも対策を5人もその画面を見る。
「嘘・・・本当に金利が・・・」
「要求は通ったみたいだな。さて、後でこっそり戻したりしてみろ、空の果てまででも追いかけてスクラップにしてやる。」
「今更そんな真似は出来ん。」
本当に利子が0になっている事を確認した5人は驚愕に顔を見合わせている。イサネはそのまま続けて、カイザー本社の依頼の本分を伝える。
「最後のお仕事ご苦労。そしてお前は今を以てカイザーから追放する事が本社で決まったそうだ。」
「なんだと?」
「まぁ、ここまで堂々と犯罪に手を染めればそうなるだろうね。ま、事実確認はそっちでやって。私に届いたメールには解雇通告をしろとしか言われてないし。」
「イサネ、それはどういう事かな?」
何故イサネがカイザー理事のクビを知っているのかを尋ねる先生だったが、その答えはイサネのスマホの画面によって返ってきた。
「なるほど・・・本社からの依頼・・・」
「どうやらお偉いさん方の中に通告の手間を省きたい人が居るらしいよ。」
「中々難しい話だね。企業の上層部も。」
先生の言葉にイサネはつい嫌悪感を示す様に顔を背け、
「企業の上層部なんて、自分の事しか考えない強欲の集まりでしかない。」
拗ねた様にそう呟く。先生はイサネのその呟きに苦笑で返し、静かに告げる。
「帰ろうか。アビドス高校に。」
「「「はい!」」」
「ん。」
「お~。」
「うん。」
先生の声に返事を返す6つの声。自らの解雇に打ちひしがれているカイザー理事を後ろに、皆々が基地を後にしていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いらっしゃいませー!って、来たわね、待ってたわよ。」
「依頼の報酬受け取りに来ましたー。」
「イサネちゃん、飲食店に入る時にその挨拶は無いと思うなぁ~。あ、5人で。」
アビドス高校主体のホシノ奪還作戦もといカイザーPMC基地襲撃から数日後、良く晴れたお昼時、アビドスのメンバーとイサネはセリカのバイト先である紫関ラーメンの屋台に来ていた。
紫関ラーメンは元々個人営業として店を構えていたのだが、便利屋68の手違いで吹き飛ばされてしまったそうだ。元々カイザーから立ち退き要請を出されていた事もあり、ここいらが潮時かと感じていた店長だったが、匿名で高額の寄付があったり対策委員会の皆の頑張りを見て店を畳むのはまだ早い!と考えを変えた店長は営業再開を決めた。そして紫関ラーメンは屋台という形で営業している。
「はい、お嬢ちゃん達、注文は決まったかい?」
「今回はシンプルに紫関ラーメンでお願いします。」
「私もアヤネちゃんと同じので~。」
「ん、私はそれにチャーシュー追加で。」
「おじさんはどうしようかなー?あ、これにしよーっと。」
席に座った後、次々と注文をしていくアビドスの皆。セリカも次々聞こえてくる4人の注文を間違える事無く正確に把握していく。食に関するありとあらゆる常識が無いイサネはその様子に完全に置いてけぼりを喰らっていた。
「イサネは何にするか決まった?」
セリカがイサネにも注文を聞くが、そもそもイサネはラーメンと言う物を知らない為、何を頼むかもクソも無い。依頼で紫関ラーメンの奢りを提案したのもラーメンに対する興味からだ。
「いやぁ?依頼の報酬でここの奢りを提案しておいて言うのもあれだけど、その、ラーメンって言うのよく知らなくて。」
「そう言えばそんなことも言ってたわね・・・」
「お嬢ちゃん、ラーメン知らないのかい?そいつは勿体ない。」
アビドス高校で鍋をしたときに言っていたイサネの発言を思い出し呆れるセリカと、一般的に広く知られているラーメンを知らないという少女に少し驚いたような反応をする大将。
「そうね、ならまずはこの紫関ラーメンがおすすめね。うちの名物よ!」
「へぇ、そうなんだ。折角のおすすめならそれにしようかな。」
「あいよぉ!」
大将は威勢の良い声を上げてラーメンの調理に取り掛かる。イサネはしばらく調理の風景を物珍しそうに眺めていたが、やがて飽きた様に隣に座るアヤネに話しかける。
「ねぇ、今アビドスはどんな感じなの?作戦終わった後は私そのまま家帰っちゃったからさ。借金の金利の要求とかはちゃんと通った?」
「今のアビドス、ですか?そうですね、まずは――」
こうしてアヤネによる現在のアビドスの情勢についての簡易授業が始まった。まず初めについに廃校対策委員会がシャーレ認可の元に正式な委員会として連邦生徒会から承認された事だ。これにより対策委員会の活動が正式なものとして周囲にも認められることになったらしい。・・・最も個人で活動しているイサネにとってはそれが何を意味するのかはよく分からないが。
借金についてはこれまでと変わらないとの事だ。あの後カイザーコーポレーションより借金の利息の消滅を通達する旨の正式な書類が届いたそうで、どうやらイサネの心配する契約の不履行は無かったようだ。しかし、元々の借金の額が額なだけに完済はしばらく先だと思ってもいいだろう。それでも利子という壁が消えただけでも返済の歩みは遥かに速くなるだろう。
カイザーコーポレーションについては、連邦生徒会の捜査が入ったそうだ。連邦生徒会の腰の重さを知っているつもりだったイサネとしては少々驚きだったが、捜査が入ったのならある程度の汚泥は除去されるだろう。そしてカイザーPMC理事は誘拐拉致の罪で指名手配、カイザー本社は彼との関わりが無い事を証明するために彼を解雇。現在元カイザー理事の行方は分かっていない。
「・・・と、今アビドスを取り巻く状況はこんな感じです。私達の救援要請に応えてくれた先生には感謝しきれませんが、イサネさんにも感謝しています。先輩の奪還作戦に協力してくれただけでなく、アビドスの抱える借金の金利の撤廃まで・・・本当にありがとうございます。」
「あー、うん、そうね、うん。」
元々アビドスの生徒達にストレイドの格納庫作成の為に恩を着せるという100%打算で助け舟を出したなんて今更になって言う訳にもいかず、イサネは曖昧は返事をアヤネに返す。
「それにしても、借金の利子を取り消すなんて一体どんな手段を・・・?」
「あー、あれか。あれはあの時私宛にカイザー本社から理事の解雇通告を代わりにやってくれって言う訳の分からない依頼が来てさ、その報酬で理事に金利撤廃を呑ませた。だから私が何かしたというよりかは上のお偉いさんの手間を省くお手伝いっての一環って所かな。」
「そうだったんだ・・・この何もない砂漠に執着することと言い、企業の考える事はよく分からないねぇ。」
「現地の人がよく分からない時ほど企業は余計に搦め手に力を入れる。力押しよりはリソースを抑えられるから。まぁ、アビドスはちょっと例外過ぎたけど。」
途中から話に入ってきたホシノも交えて話していると厨房から嗅いだ事の無い前に食べた鍋の匂いに類する香りが漂ってくる。恐らくこれは食べ物のいい匂いという奴なのだろう。
「あいよっ!紫関ラーメン4つ!端のやつがシロコちゃんの追加チャーシュー入りだよ!ホシノちゃんは少し待ってな、そろそろなはずだから。」
「うへぇ~、気長に待ってるよ~。」
どうやらこれが紫関ラーメンと言う物らしい。イサネは目の前に置かれたどんぶりの中に大量にある細長い黄色の何かを見つめる。
「イサネさん、これは箸をこう使って食べます。見ててくださいね。」
「少し恥ずかしいですけど。」と付け加えながらアヤネは箸を使ってラーメンを啜る。イサネはそれを敵のネクストの動きを観察するような目つきで眺めている。
「あの、そんなにじーっと見られると恥ずかしいのですが・・・」
「大丈夫だからもう一回見せて。」
「あの・・・」
流石にそこまで集中して見られると思っていなかったアヤネは恥ずかしさで顔を赤くするが、イサネはアヤネの声を無視してリプレイを要求する。
「うぅ・・・」
顔を赤くしながら要求に応えるアヤネ。イサネは再びその動作の一つ一つを記憶に刻み込む。
「ふむ、箸は一般的な使い方でいい・・・その底の深いスプーンはスープをすくうための物か・・・喉や口の動き的に吸引?咥えて吸い込む・・・?うん?口で息を吸うイメージか。で、これも鍋と同じく熱いから冷ます必要があると。なるほど・・・」
ぶつぶつと呟きながらアヤネが麺を啜る様子を分析するイサネだが、アヤネからしてみれば自分の麺を飲み込んだ時の喉の動きまではっきり見られているという羞恥プレイと何ら変わりない。アヤネの顔は耳まで赤くなっている。
「イサネちゃん、アヤネちゃんもう麺啜れなくなってるよ。」
「大丈夫、食べ方は覚えた。」
「そう言う問題じゃないと思いますよ~?」
アヤネが撃沈したことで流石に止めに入ったホシノとノノミ。イサネは顔を赤くして机に突っ伏すアヤネに感謝を述べるとその動きをトレースして麺を啜る。
「ん・・・!」
口の中に広がる醤油ベースのスープの濃厚な味。麺もスープとよく絡んでいて非常に美味だ。絶望的な食生活をしてきたイサネにとってこれは美味しいものだという事しか分からないが、それだけでも十分だった。
ほぼ無意識に次の麺を啜る。無言で麺を啜り始めたイサネにこの場にいる皆その様子に温かい視線を向ける。
「凄い食べっぷりですね、イサネちゃん。」
「私も負けない。」
「シロコ先輩、わざわざそんな所で競わなくていいから・・・!」
「うん、いい食いっぷりだ。」
イサネはそんな視線を受けながら麺を啜り、必ずやこの紫関ラーメンが再び店を持つことが出来る様に手助けをするという密かな野望を心の中で誓う。
「あいよホシノちゃん、日替わりだ。」
「うへー。」
ホシノはどんぶりを受け取るとそのままするすると食べ始める。道中で聞いたアビドスの生徒の中ではここの最古参の常連という話は事実のようだ。
しばらくの間、皆が皆ラーメンを啜る音だけが聞こえる静かな時間が流れる。
「ん、ごちそうさま。」
食べ終わったシロコがごちそうさまの言葉と共にイサネを見ると、イサネのどんぶりにはまだ若干の麺が残っており、彼女もまた啜った面を咀嚼している最中だった。
「勝った。」
「ふぬ?」
まだ食べ終えていないイサネを見て勝利を宣言するシロコだったが、イサネ本人はよくわからなかった様で麺を加えたままくぐもった声を出す。セリカもシロコのその相変わらずな様に溜息をつく事しか出来ない。
「はぁ、食った。あ、この時ってごちそうさまって言うんだっけ?」
その後、ラーメンの汁まで綺麗に飲み干したイサネがその言葉と共に箸を置く。
「おう、良い食いっぷりだったな。イサネちゃん。」
「あぁ、それはどうも。」
大将の感心したような、嬉しそうな声に返事を返しつつ、おもむろに屋台から見える空を見上げる。その空は、イサネが初めて見上げた時と同じように、穢れを飲み込む程に透き通っている。
「大将、4人よ、開いてるかしら?」
「おう、開いてるぜ。って、あん時の嬢ちゃん達か。」
背後から聞こえる知った声に振り向くとそこには便利屋68の面々が立っていた。彼女たちはそのまま空いている席に座り、各々で注文を取り始める。
「注文は以上ね?今度は爆破なんてするんじゃないわよ!?」
「うぐ、わ、分かっているわよ。」
「・・・何やってんのさ。」
セリカの苦情に言葉を詰まらせるアルをジト目で見るイサネ。アルの隣でハルカが今にも愛銃で自決を図ろうとしているが、あのタフネスだ、弾倉内の弾を頭にぶち込んでもせいぜいふらつくだけだろう。
「ん、紫関ラーメンのお店爆破したの、この人達。」
「あ、ちょっと!わざわざ言わなくたっていいじゃない!こっちだって反省してるんだから!」
「あぁ・・・うん。」
確かに勝手な都合で他人の店を吹き飛ばすのは悪い事だろう。思わず何やってんだと言いたくなるイサネだったが、自分の過去の行いを思い返すと何とも言えなくなってしまう。イサネは話題を切り替える様に便利屋に話を振る。
「そう言えば、一昨日の依頼の報酬貰えなかったとか言ってなかったっけ。金は大丈夫なの?」
「だ、大丈夫よ!私達便利屋68に掛かれば食費を稼ぐなんて朝飯前よ!」
イサネの心配にそう啖呵を切るアルだったが、カヨコはそれをバッサリと切り捨てる。
「社長。一昨日の依頼の報酬が無いからそろそろ資金が底を尽きるけど。カイザー基地襲撃の報酬の受け取りは先生の仕事の都合から来週だし。」
顎に手を当てて笑おうとするアルの動きが硬直する。イサネはやっぱりかと頭を抱えながら、
「後で良い残飯の漁り方でも教えてあげるよ。ブラックマーケットくらいの無法さなら結構良い感じの残飯にありつけると思う。」
「ちょっと!まだ食べてる人が居るでしょうが!残飯漁りのやり方をここで伝授しないで!っていうかそんなことしないで!普通に汚いから!」
「え?なに言ってんのさ、コロニーの端の端で生きる孤児は誰かの食い残しが日々生きる為の食事よ?貧乏なら必須になる技能でしょ、残飯漁り。汚いとか言ってたら餓死するよ。」
幸いなことにここには気前のよく、店を吹き飛ばされても怒らない優しい店主と皆イサネの知り合いだからこそ辛うじて屋台の雰囲気が崩れずに済んでいるような会話の内容である。
「イサネさん、本当にそう言う話は飲食の場でしないで下さいね・・・」
「えぇ?残飯漁りだって立派な食い物の話だと思うんだけど。」
「イサネちゃん、その辺の常識をもう少しちゃんと覚えましょうね。」
常に柔らかい笑みを崩す事の無いノノミもイサネの常識の無さには苦笑を浮かべざるを得ない。どうやらミレニアムで学んだ常識だけで一般社会を生きるにはまだ勉強不足だった様だ。
―――残飯漁りは食事の場でするものではない。
アビドスの皆にそう諫められる中、イサネはまた一つ社会の基本を学ぶのであった。
一場面に登場するキャラが多いと会話シーンの描写に苦労しますね。普通にしんどかった...
あと話の節々や締めがかなり適当になってしまった気がしないでもないのでそこは素人だしって事でご容赦いただけると幸いです。