透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

17 / 90

対策委員会3章のせいでマコト=サンのお馬鹿が素なのかピエロなのか分からなくなりましたね。それくらいにはインパクト強かった。

お蔭で万魔殿の扱いが難しく...?



標根イサネの"一週間"風紀委員長 後編

 

 

 

 

「おはようございます。イサネ委員長代理。」

 

 

「はい~、おはよう。ふわぁ~っ。」

 

 

朝の執務室でのやりとり。もう4日目になると流石に慣れてくる。彼女は眠そうに欠伸をしながら風紀委員長の席に座り、まだ早朝だというのにもう山積みとなっている紙の山の一番上にある書類を手に取り、眠たそうな眼を擦りながらもその手はすらすらと書類の上を滑る。

 

「委員長代理、本日は万魔殿よりゲヘナ一帯の見回りについての協議の要請がありまして、本日の昼過ぎに万魔殿へと向かう予定となっています。」

 

「はぁ?治安維持については何もしてないでしょう?万魔殿は。なぜわざわざ関係の無い所に顔を突っ込もうとするの?あそこは。」

 

「・・・まぁ、恐らくかのタヌキの仕業かと思うのですが・・・」

 

風紀委員会行政官の天雨アコの言葉に委員長代理と呼ばれた少女――標根イサネは、納得したように頷いた。

 

「まだ会った事ないけど、なんか碌でもないんだっけ?万魔殿は。」

 

「・・・主にマコトの下らない考えのせいではありますが。」

 

ゲヘナ学園の生徒会である万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)のトップ、羽沼マコトのこれまでの風紀委員会に対する嫌がらせの数々の記録を眺めながらだるそうに溜息をつくイサネ。その反応はその場にいた風紀委員3人の心境も同じようなものだった。

 

パンデモニウム・ソサエティー。また、万魔殿とも呼ばれる混沌極まるゲヘナ学園の生徒会にあたる組織だ。混沌極まるゲヘナの法制度の整備などと言った内政を行っているのだが、そのトップにいる生徒会長である羽沼マコトが非常に権力欲が強く、一般の内政の他にも下らない事をすぐにホイホイと思い付くままに実行する上、認知度は風紀委員会と比べるとそう高くない。

 

そしてこの羽沼マコトという人物、何故か空崎ヒナと非常に仲が悪い。マコトが一方的に敵対心を抱いているだけなのだが、そのせいで風紀委員会の予算の横領に始まる様々な嫌がらせが続いており、風紀委員会の面々からは嫌われている。

 

「タヌキねぇ・・・」

 

「はい。ですが現在ヒナ委員長が不在と言えど、委員長の座を降りた訳では無いのですから、貴方越しにまた何か言ってくるかとは思いますが。」

 

不快感を隠そうともしないアコ。イサネからすればどうでもいい事ではあるのだが、依頼の真の目的がヒナの休息である以上復帰後の業務に支障が出てしまうというのはイサネの傭兵としてのプライドが許さない。

 

(マコトという人がどれくらいの策謀を巡らせて来るのかが一番の問題点か。ヒナの復帰後の嫌がらせの為に険悪な態度を取るか、そうでないか・・・さて、どっちだ?)

 

イサネは書類にペンを走らせながら頭の中で思考を回す。確かにイサネは暴力としての面ばかり注目されているが、別に頭が切れない訳では無い。如何にして敵を殺して自分は生き残るか、危機的な状況から生還するかを考える為の戦術眼や軍師脳は持ち合わせている。そうでなければあの時人類の半数を殺す前に死んでいただろう。

 

(・・・取り敢えず今はやらないといけない雑務からこなそう。下らない事を考えて胃に不要なダメージを与えるのはリソースの無駄だ。)

 

思考を切り替えて目の前の書類に意識を向ける。意識を中庸にして何枚かの書類を捌いていると、一つの通告書がイサネの目に止まった。その内容にイサネは顔を顰めながらアコに尋ねる。

 

「アコ、この訳の分からない理由の予算削減の通告は何?」

 

その書類には風紀委員会本部に設置されている調度品の配置が気に食わないという理由で本来万魔殿から回されてくる筈の風紀委員会の予算の80%をカットするという内容だ。イサネの見せた通告書にアコはまたか、と溜息をついてそれに答える。

 

「これは・・・いつものマコトの嫌がらせです。あれは気分で私達の活動予算を削ってきますからね。正に目の上のたんこぶと言った所です。」

 

目の上のたんこぶか、的を射た表現だ。イサネは思考を切り、今目の前に山積みとなっている書類との格闘を再開する。しばらくの時間、執務室にペンの鳴らす音のみが響く。そうして一体どれだけの時間が経っただろうか、執務室の扉が開く音でイサネの意識が時間の概念を思い出す。

 

「委員長代理、ただいま戻りました。」

 

開いた扉から入ってきたのは所々赤の入った服装を身に纏う生徒――火宮チナツ。元救急医学部出身の風紀委員会における救護担当だ。依頼初日に叩きのめした温泉開発部の面々の治療の為に良くこうして牢の中に出向いていくれていた。イサネとしては何回捕縛されても懲りない連中なぞ殺処分以外の道があるとは思えないのだが、そのことを口にしたら凄い顔で睨まれたのでここではそう言うものなのだと受け入れる事にした。

 

「はいおかえり~。」

 

「やり過ぎではあるのですが、代理が温泉開発部をあそこまで叩いてくれたおかげで暴動の数が減っていますね。拘留中の温泉開発部のついでに手当てした巡回の担当の方が言っていました。いつもより静かだったと。」

 

「見せしめにはなったという事でしょうね。やり過ぎだというのは同意見ですが。」

 

「うーん、やはり価値観がなぁ・・・」

 

やり過ぎという言葉にキヴォトスと自分の倫理観の違いに呻くイサネ。見せしめにするつもりで温泉開発部をあそこまで痛めつけた訳では無いし、なんならただ普通に無力化したつもりだったのだが、その様やここ数日の暴動鎮圧のやり方が周囲に恐れられ、結果的に暴動や事件の発生が少々収まったらしい。それはそれでラッキーだと思っていたのだが、どうやら他の2人はそうではなかったらしい。

 

「それでもですよ。委員長代理が無力化した不良生徒を回収に来たら不良生徒らが街頭に吊るしてあったなんて報告を受けた時は気でも狂ったのかと思いましたよ。」

 

・・・既に20億ちょっとを躊躇いなく殺すくらいには狂ってるなんて言えない。いや、殺戮を殺戮と認識しているだけマシなのかどうなのか。既に狂人であるイサネには分からない事だが。

 

「う、うーん。その、うーん。」

 

「分かっているなら今後の鎮圧業務での過剰な攻撃は控えてください。」

 

「過剰の自覚が無いのに無茶言わないで。」

 

アコの注意にそう返しながら書類を片付けている手を止めて、ふと時計を見上げる。するとついさっきまで朝方の時間を示していたはずのに時計の短針はもう12と1の間にあった。思わずぎょっとして自分の座る机を見ると、そこには山積みだった未処理の書類の山が半分まで減っていることが確認できた。どうやらお喋りに気を取られてても自分の腕は働いてくれていたらしい。

 

「・・・昼にするか・・・」

 

「もうそんな時間ですか、では私も。しばらく席を外しますので。」

 

イサネの呟きに反応したアコも昼と食べる為に執務室を出ていく。それを見送ったイサネは机の脇に置いたカバンを漁り、中からエナジーバーのパッケージを二箱取り出す。

 

「イサネさん、それは何ですか?」

 

突如投げかけられたチナツから疑問と僅かな嫌悪の籠った声。イサネは今パッケージを開けようとしていた手を止め、その質問に答える。

 

「何って、エナジーバー。」

 

だが、それがいけなかった様だ。それを聞いたチナツはゆらりと席を立つとそのままイサネに向けてつかつかと歩み寄りってその手を掴み、

 

「昼食は食堂で取ります。異論は認めません。」

 

「え、なんで――って力強ッ!?」

 

ぐいぐいとイサネの手を引きながら食堂へと連れて行こうとするチナツ。チナツの突然の行動に反射的に抵抗するイサネ。どうやらチナツの嫌悪は毎日の食事をエナジーバーでどうにかしているイサネの食生活に向けられているらしい。チナツの様子から見て恐らく今日の食事は食堂で取ることになる事を察したイサネは抵抗を諦めてチナツに声を掛ける。

 

「なんでわざわざ食堂で?」

 

「イサネさん。貴方はいつも食事をエナジーバーで取っているのですか?」

 

チナツのその声は冷たい。イサネはチナツの質問に答える。

 

「まぁ、そうだけど。」

 

「いけません。いいですか、エナジーバーは確かに高栄養な食物ですが毎日食べる様な物ではありません。食事は栄養補給以外にも精神的な健康にも貢献するものなのです。細かく話すと長くなってしまうので今ここでは話せませんが、少なくとも代理の期間が終わるまでは食事はちゃんと取って貰います。」

 

どことなく気迫を纏いながらそう言い切るチナツを前に、イサネは言い訳する事すら許されなかった。

 

 

 

――数十分後。

 

 

 

「ゲヘナの給食はどうでしたか・・・と言っても、流石のフウカさんでも千人単位の食事を一人で賄うとなると品質の低下は避けられないようですが。」

 

「初めて食った物ばかりだった・・・多分美味しかったと思う・・・」

 

「・・・本当に、碌でもない食生活を送ってきた事は事実みたいですね・・・困ったものです。」

 

ゲヘナの校庭を並んで歩くイサネとチナツ・・・ではなくアコ。今は昼食後にそのまま万魔殿へと向かっている最中だ。本来ならここはヒナが参加すべきなのだが、どうせ普段のマコトの嫌がらせだろうという意見の元、わざわざヒナに負担を掛ける必要は無いとイサネがこのまま参加する流れとなっている。イサネは思考を切り替え、マコトとの会議へと意識を向ける。

 

「羽沼マコト・・・さてさてどんな人物かなぁ・・・?」

 

「出会い頭にいきなり銃撃するのは止めてくださいね?向こうに非があるのであれば話は別ですが、あれでも一応ここゲヘナのトップですので・・・」

 

イサネの何やら不穏な物言いに溜息をつきながら釘を刺すアコ。ここ数日におけるイサネの敵対者に対する容赦の無さは物騒な二つ名と共にゲヘナに広まりつつあり、それに対して向こう(万魔殿)が何か良からぬ事を企んでいないかどうか、そしてそれによって引き起こされる最悪の可能性にアコの胃は既にダメージを受けつつある。

 

(本当に何も無いと良いのですが・・・)

 

イサネがその気になった時のマコトの心配ではなく、イサネの起こす被害に対する後始末の大変さについての今からでも胃が痛いアコであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「キキキ・・・!お前が空崎ヒナの代理、標根イサネだな。風紀委員長代理なら名乗りはせん、早速本題に入ろうか。」

 

 

「そう・・・」

 

 

やたら広くて豪華な作りの部屋。その部屋に設置されたやたら豪華な会議用の机。部屋の入り口側の椅子にイサネとアコ、万魔殿のトップにしてゲヘナ学園の生徒会長の羽沼マコトと、万魔殿の戦力である戦車部隊の長、棗イロハの2人が座っている。

 

「さて、お前が風紀委員長の代理を務め始めたのが三日前だったな?なら業務を引継いだ時から見回りの配置と巡回コースの変更はしていないか?」

 

「してないけど。」

 

傲慢さを隠しもしないマコトの問いに冷めた表情で答えるイサネ。質問の内容である見回りの配置と巡回コースの再設権権は引き継いだ権限の内の一つだが、わざわざ弄り直すのも面倒な上にぱっと見でもかなり隙間なく構築出来ている為に変更はしていない。ヒナの努力に感謝と言った所だ。

 

「直しておけと言った筈なんだがな。まぁいいだろう、お前は空崎ヒナではない。」

 

「えぇ?不備があるなら言って欲しいんだけど。」

 

代理とはいえ今は風紀委員長だ。治安維持を一任されている以上個人の好き嫌いで口出しの有無を決められるのは困る。マコトのその言葉にイサネは思わず怪訝な反応を示す。

 

「少なくともお前には関係の無い事だ。まぁお前がこのマコト様の元に来るのであれば話は別なんだがな。」

 

「まともな依頼を遂行している以上依頼を半ばで放棄する訳にはいかないでしょ。」

 

「なら黙っている事だ。もう一度言うが空崎ヒナとお前は違うのだからな。」

 

アコの言う通りマコトはヒナに対して並々ならぬ敵対心がある様だ。はっきり言って私情で組織の運営を左右するような者は絶対碌でもないものだが、ゲヘナ学園の様なそもそも根本的に制御が不可能な勢力の統治などこれ位いい加減な方が安定するのだろうか。マコトの態度からそんなことを感じつつも会議という名の下らないお喋りが続く中、イサネは午前中の書類処理の中で見つけた意味不明な理由での予算削減の通告書の存在を問い質すべく、会話の隙を見てその書類をマコトの前に出す。

 

「ねぇ、私とヒナが関係ないならこれ、取り下げてくれない?この理由にならない理由での予算削減は納得できないんだけど。」

 

マコトがヒナとイサネは違うと言ったのだ。ならこの予算削減は取り下げるだろうと思っての話だ。アコ曰くこういった類の嫌がらせはヒナへの敵対心から来るものらしいので、イサネがこの予算削減に口を出せば案外あっさり通してくれるのではないだろうかという算段だ。

 

「キキキッ、それは通らんな。既に一度受理されたものの取り下げなど出来ん。」

 

「・・・ゲヘナのトップがした事だろうに出来ない訳ないだろ。理由がないなら取り消せ。」

 

しかし、それは通らなかった。単純に使える経費を削られる事が困る上に調度品の位置が気に食わないという理由が気に食わないイサネは溜息と共に食い下がるが、マコトの口から出た言葉はこれまで信頼≒金で生きてきたイサネにとって信じられないものだった。

 

「キキキキッ!何故ならその分の予算は既に使ってしまった!見ろ!この素晴らしきマコト黄金像ver.特大サイズを!」

 

「使っただと?組織の長が一体何をしてるん――」

 

そう言ってマコトは窓を指差す。イサネは怪訝そうな顔で指差された窓を見る。イサネの見た窓からは万魔殿の建物入り口にあった石像の何倍もある大きさの黄金像が窓一杯に広がっていた。現在イサネらがいる場所は万魔殿の建物の3階なのだが、その像は3階の位置から見てやっと首が見える程の大きさだ。

 

「え?え?これいくら使って・・・」

 

「キーッキッキキキキキッ!こいつはお前達の次々回分までの予算策定の予算をつぎ込んで作り上げた巨大マコト様像だ!どうだ、素晴らしい出来だろうっ!?」

 

「はぁ!?次々回分ですか!?」

 

アコが焦りの声を上げている。イサネはマコトの余りにも堂々とした予算の横領にあぁ、ここでもこれ(汚職)か、とどことなく懐かしさを感じつつも、予め嫌がらせを知っている筈のアコの焦りに疑問を覚える。

 

「アコ?貴方は知っているものだと思っていたんだけど。何をそんなに驚いて―――」

 

「知っているも何も次々回分までは流石に想定外ですよ!これではイサネさんに払う報酬すら支払えませんよ!」

 

「・・・え?」

 

アコの口から出た衝撃の事実にイサネが完全に凍り付く。え?依頼を遂行しても報酬無し?暴動鎮圧(戦闘行為)はともかくあの量の馬鹿みたいな書類を捌いたのに何もなし?嘘でしょ?その上折角の報酬金がこんな馬鹿みたいな物に?とイサネの頭が完全に停止、その瞳から色が消える。

 

「わ、私の、し、仕事の報酬が・・・こ、ここ、こん、な、ゴミに・・・ゴミに・・・?」

 

「あ、これ不味いですね、終わったかもしれません。マコト先輩、どうやらやっちゃいけない相手にやっちゃいけない事したみたいですよ、マコト先輩。あ、これ駄目ですね、聞いてないです。」

 

数瞬の思考停止の後、現実を認めたイサネの体が壊れた機械のようにがくがくと震え始める。その様子を見ていたイロハは全てを察して未だ高笑いをしているマコトに声を掛けるも反応がない。マコトの無事を諦めたイロハは溜息をつく暇も無くアコの手を掴んで部屋を出ようとする。突然の宿敵の行動に抵抗しそうになるアコだったが、イロハの「このままいたら確実に地獄を見ますよ。」という割と冗談では無さそうな言葉に敵意を納めてダッシュで部屋を出る。

 

「このまま虎丸で逃げましょう。ここからなら戦車室の方が近いです。あ、イブキ・・・は今外出中でしたね、なら一先ず安心です。アコさん、すぐに外部隔壁を開けるので虎丸の装甲上部に乗って下さい。急ぎですので乗り心地は保証できませんが。」

 

「そ、そうですね、この際そんなこと言っている余裕はありません。ですので急いでください。」

 

普段から完全に一方的とはいえ仲の悪い二人だが、事態が事態だ。二人ともイサネがここ数日でゲヘナの不良生徒やテロリスト達(温泉開発部と美食研究会)からは【ゲヘナに降臨した暴君】と呼ばれている事は既に耳にしている。その中でもかの存在を知る者達の間ではかの者の再来とすら呼ばれている事も。

 

 

―――要するに、イサネの機嫌を損ねて無事だった者は居ない。

 

 

イサネの性格的に彼女の怒りに触れさえしなければそこそこ温厚で若干世間知らずなただの傭兵バイトといった具合なのだが、如何せんイサネの業務内容の相手である不良生徒らにそんな隙を晒すイサネではないという事が暴君という名をより広く深く浸透させていった。また、彼女の敵に対する一切の慈悲の無さは数年前にキヴォトスを陥れたかの存在を知る者からすれば奴の再来と言っても過言では無かった。

 

『皆さん、急いでこの建物から避難してください。マコト議長が臨時風紀委員長の万物の天敵さんの逆鱗に触れました。現在の業務をすべて中止、この建物から出てください。多分倒壊します。』

 

イロハが戦車室の外部隔壁の操作を行いながら放送で建物内にいる万魔殿の所属生徒に呼びかける。果たして一体何人の生徒が信じてくれるのだろうか。イサネはヒナと違ってイサネの行う復讐などの粛正行為には限度と慈悲が無い。イロハはマコトの無事を心の隅で祈りつつアコが上に乗っていることを確認して起動済みの虎丸に乗り込む。

 

「アコさん、飛ばすので掴まっててください。落とされても引き返す余裕はありません。」

 

「大丈夫です。さぁ早く出発を!」

 

アコの声を聞くや否やイロハは虎丸のアクセルを思いっ切り踏む。戦車らしからぬ加速で外に出、そのまま庭にあるあらゆる飾りや植物を踏み潰して庭を疾走する。その直後、

 

 

 

―――閃光。

 

 

 

周囲から音が消え去り、先程まで自分たちの居た部屋が内側から発生した光に飲み込まれる。それにつられる様に訪れた衝撃波に飛ばされない様に耐えること数秒、顔を上げたアコの目にはついさっきまで威容を誇っていた万魔殿の建物の姿は見るも無惨なものと化していた。外から見るに3階部分が一部端を残して見事に消失、恐らく2階の内側もあの閃光によって悲惨な事になっているのは想像に難くない。

 

「・・・本当に、本当にイブキが外出中で良かったです。あぁ、でもイブキに何て説明すればいいんでしょうか。それとも、イブキがこれに関わらなかっただけマシなのでしょうか。」

 

イロハは虎丸の正面窓から万魔殿のその悲惨な様を眺めつつ改めてイブキの外出に心の底から安堵する。一方装甲上部に座っていたアコはあいつやりやがったと頭を抱えている。

 

 

「・・・これ、どう収拾付けましょうか。」

 

 

突然爆発した校舎を見て騒然となっている周囲を見ながら溜息をつく。どうやら風紀委員会はとんでもない人物を臨時委員長に据えてしまった様だ。とイロハは心の中で何処か諦めた様に改めて溜息をつくのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

突如万魔殿の本部が雇われの風紀委員長代理の手によって爆破されるという事件が起きた日の次の日、風紀委員会本部の執務室にてアコ、チナツ、イオリの居る中でイサネは怒りの形相で力強く宣言する。

 

「決めた、後の三日間でここゲヘナの全てを更地にならす。」

 

「昨日あんなことしておいて何言ってるんですか!!いい加減自重してください!」

 

イサネの宣言を即座にアコの叱責が食い潰す。アコのその声で他の2人も昨日の万魔殿爆破事件の犯人について確信に至ったようで、

 

「な、昨日の爆破事件はイサネだったの!?何やってんだ!?」

 

「・・・はぁ、もう、本当に何してるんですか。」

 

とイオリは驚愕、チナツは呆れの意を示すが、風紀委員長代理の依頼報酬をマコトに使い込まれたイサネの怒りは万魔殿の建物を吹き飛ばすだけで収まるものではなかった。

 

「知るかそんなもん!私は依頼を受けてこの責を背負ったんだ!その報酬をクソ馬鹿(マコト)が粗大ゴミの為に使い込みやがった!そのせいで私はタダ働き確定になったんだ!現状など知った事か!契約すら碌に理解出来ない組織など不要だ!この手で幕を下ろしてやるッ!!」

 

「落ち着いて下さい!報酬は何とか払いますので、これ以上の暴走は抑えてください!」

 

「黙れ前科一犯!上があの様でその言葉が信用なるか!下らない事で人の金を使い込む万魔殿も、アホみたいな理由で暴動を起こす不良共も、皆全て等しく焼き払ってやる!!」

 

「本当に止めてください!!本当に!後なんですか前科一犯って!」

 

今にも万魔殿にカチコミを掛けに行きそうなイサネにその言葉は届かない。今のイサネは少なくとも依頼報酬分の金を毟り取るまで止まる気は無かった。イサネが執務室の扉へ向かって歩き出そうと足を踏み出した時、先にその扉を外から開ける者が居た。

 

「バカ騒ぎ中失礼します。万魔殿からの伝言を伝えに来ました。イロハです。」

 

そう、棗イロハだ。いつも通りの眠そうな、面倒臭そうな表情でイサネに声を掛ける。

 

「あん?宣戦布告でもしに来たか?そんな事せずともこっちから潰しに行ってやるというのに。」

 

「わざわざ下部組織にそんな事する訳無いでしょう!頼みますから頭を冷やして下さい!猪ですか貴方は!?そちらも伝言は何ですか!?代理が実力行使に出られたらどうにもできませんよ!」

 

イロハの挨拶に殺意100%で迎えるイサネとそれを何とか諫めようと必死なアコ。その様を見たイロハは部屋の異様な雰囲気にドン引きしながら用件を伝える。

 

「昨日あれだけやっておきながらわざわざ武力でぶつかりに行く馬鹿はいませんよ・・・多分。それで、万魔殿からの伝言ですが、えー、『横領した報酬金は満額支払うので大人しくしてくれ。』だそうです。」

 

その言葉にアコは少なくともこれでイサネの暴走は止まると思い、ほっと胸を撫で下ろす。が、当のイサネはアコの予想を外れ、怒りを隠しもしないままイロハに鋭い口調でさらに要求する。

 

「横領した次々回分までの風紀委員会の予算もだ。それが呑めないなら潰しに行く。」

 

「ちょ、ちょっとイサネさん!?なに言ってるんですか!これ以上火種を蒔かないで下さいよ!これじゃあヒナ委員長が戻ってきた時にマコトからの嫌がらせが――」

 

「そこまで飛び火しない様に本人に直接約束をつけに行くから大丈夫。それに破ったとしてもその時の私はもう一介の傭兵だから何の御咎めも無しにクズを殺しに行ける。」

 

アコの必死な説得も意味を成さないイサネの様子に、これはとんでもない時に来てしまったものだと若干の後悔をしながらもイロハは口を開く。

 

「まぁ、その程度でしたら呑むとは思いますよ。ヒナさんですらあそこまでマコト先輩を痛めつける事はありませんでしたから。・・・これで懲りるかどうかは不明ではありますが。」

 

因みにだがマコトは一応無事だった。イサネが帰った後の調査で文字通り粉々に破壊された巨大マコト像の瓦礫の中で銀の長髪をアフロにしながら伸びていた事が確認された。救急医学部曰く医学部の教室からでも確認出来た光の中心に居たとは思えない程傷が浅いらしく、マコトがそれだけ頑丈なのかイサネの最後の慈悲なのかは分からないが、現在は入院中となっている。幸い後遺症の類も無い為、割とすぐに復帰できるとの事だ。

 

「じゃあちゃんと伝えといてね。最終日に確認に行くけど伝わってませんでしたは認めないよ?」

 

「分かっていますよ。では、失礼します。」

 

イロハの言葉で怒りの矛を収めたイサネは一応釘を刺し、イロハはそれに適当に返事をして部屋を出る。来客の去ったことで風紀委員会の執務室に沈黙が訪れる。

 

「くそが・・・始めっからよく考えないで他人の金を使うからこうなるんだ・・・命あっただけありがたいと思えよ・・・羽沼マコト。」

 

「いい加減機嫌を直して下さい。あれの暴挙に反応していたらキリがないですよ。まぁ、代理のおかげで少々痛快な光景が見られた事には感謝しますが。」

 

「ほらやっぱりそうじゃん!だからやっぱり一度締めた方が良いんだって。」

 

その直後に始まる不毛な会話。だが、さっきまで執務室に異界のような雰囲気を演出していたイサネの怒気は無い。イオリは気分を切り替える様にパトロールに行くと一言告げると、それに何故かイサネも食いつく。

 

「え、代理も来るのか?」

 

想定外の言葉にイオリは問う。イサネはそれに対し、

 

「うん、事務作業は終わってるし、どちらにせよゲヘナに居る暴徒共をヒナの復帰後暫くは大人しくしてもらうために均すのは既に決定事項だから。万魔殿がその中に入るか否かの差ってだけよ。大して変わらないから。」

 

とさらりと答える。

 

「・・・本当にやり過ぎないでくださいね?」

 

アコのその声に「アコちゃん、それはもう手遅れだと思うよ。」と返すイオリの声を聞きながらイサネは執務室の扉を開けてエレベーターへと向かうのであった。

 

 

―――その後過剰に叩きのめされた不良達の惨状が見つかって説教された事は言うまでも無い。

 

 





やはり完全にオリジナルで文章考えるのは中々しんどいです。
標根イサネ一週間風紀委員長がかなり適当になってしまった事もかなりの後悔です。それと罫線毎の文の人物の視点は固定すべきなのかどうなのか非常に迷走しています。

次回はストレイド、動く?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。