透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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投稿遅れて申し訳ない。(土下座)

前話の予告通りストレイドが動くかはちょっと分からないです。
後次々開示されるストーリーのお蔭でこれのストーリーも色々変えないといけないのしんどいよぉ


ストレイドのお引越し計画

 

 

 

「一週間の風紀委員長代理、まずはご苦労様。風紀委員会の長として感謝する。」

 

 

風紀委員会本部、委員長執務室にて、イサネは風紀委員会委員長である空崎ヒナと話をしていた。そう、今日この時間を以てイサネの一週間風紀委員長代理依頼の完了と共に待ちに待った報酬の受け渡しが行われる。イサネが大量の書類を1週間捌いてきたのはこの時の為だ。

 

イサネが万魔殿を吹き飛ばした翌日から、イサネは一層職務に力を入れ、湧き出る暴動をこれまで以上に容赦なく叩き潰して回った。そのお蔭で最終日はついにここゲヘナで暴動の発生数0という過去ほぼ稀に見る程度の平和な一日を実現することが出来たのだ。・・・最も、平和な一日の為に犠牲になった暴徒達の犠牲は言うまでもないが。

 

「一週間の貴方の働きはアコから聞いたけど・・・その、随分と暴れてくれたそうね。」

 

「あっちゃ~、やっぱり不味かったですかね?」

 

「不味いと思っていたなら何故自制してくれなかったのですか・・・!」

 

ヒナのどこか諦観の言葉にけろりと答えるイサネ。それに対してヒナの隣に控えていたアコはイサネのその言葉に即座に食って掛かる。ヒナはそれを抑えつつも話を進める。

 

「確かにアコの言う事にも一理あるけど、結果が結果よ。さて、復帰早々私も暇がある訳じゃないから、さっさと報酬の受け渡しをするわ。」

 

「待ってた。所で、一週間ちゃんと休めた?ヒナ。」

 

「ま、まぁ、休むには休めたから。」

 

イサネの問いに曖昧な返答を返しながらアコに合図を送る。それを見たアコは手元に持っていたファイルに挟んである一枚の書類をイサネに見せる。イサネはヒナの言葉に少し心配そうな雰囲気を見せつつも書類に目を通す。

 

「これが今回の依頼の報酬額です。一応依頼受諾時の時に提示した額と同じ筈です。あとイサネさんの初回半額サービスも込みとなっています。」

 

「それでもやっぱり結構な額ねぇ。半額サービスなんてしなければ良かったか?」

 

「半額サービスが無かったらそもそも依頼していません。ただでさえ万魔殿に予算を食われているというのですから。イサネさんのおかげでしばらくは何とかなりそうですが。」

 

話をしながら報酬の受け取りを行う。受け取りと言ってもイサネの報酬受け取り用の口座へと報酬金が振り込まれるのを待つだけだ。それに振込も部下が行っている為に何もすることは無い。間に暇を持て余したイサネはヒナに話し掛ける。

 

「そう言えば温泉開発部の奴らはもう釈放したの?」

 

「いえ、まだよ。釈放はこの後ね。全く、良くあれだけの数を捕縛できたものね。それに暴動の発生数だって普段よりも少なかったし、本当に見事な手腕ね。」

 

「戦闘が苦にならないのと敵を過剰に痛めつける事に良心が痛まないからかな。それに部下も結構使い倒したし。書類処理は・・・まぁ、ヒナが捌く量よりは多くなかったからね。」

 

「そのせいで私がその後処理に奔走する羽目になった事も忘れないでくださいね!?」

 

報酬の受け渡しの間に3人の間で交わされる平和なお喋り。普段激務で騒がしい執務室にも平穏な時間が流れる。どうせ数時間後には騒がしくなるか殺伐とするだろうが、それでも常に激務のヒナにとってはそのわずかな時間でも嬉しいものだ。しかし―――

 

「ヒナ委員長!美食研究会がまた飲食店を爆破したそうで――」

 

そう言う時間ほど妨害が入るものだ。ヒナは会話を切り上げ、現在動ける部隊を頭の中で精査、的確に指示を出す。指示を受けた風紀委員達は慌ただしく動き始める。

 

「そうね、6、13中隊に出動命令。爆破された店舗周辺を探索して。もしくは巡回中の委員の援護。それで駄目そうなら私が出る。」

 

「了解しました。直ちに出動させます。」

 

イサネはそのやりとりに我関せずの意を示し、振込完了の声を待つ。待つこと少々、「振込完了しました。こちらをどうぞ。」と受け渡し役の風紀委員の見せる端末から口座に報酬が振り込まれたことを確認するイサネ。指示を出し終えたヒナはイサネに向けて別れの挨拶を切り出す。

 

「さて、そろそろ私も業務に戻らないと・・・別れの挨拶がこんな状態でごめんなさい。」

 

「まぁ、この騒がしさがいつも通りならそれでいいよ。じゃ、また手が借りたくなったら依頼して。報酬と引き換えにできる限り駆け付けるから。」

 

「そうね、今度は一般委員として雇わせてもらうわ。」

 

「ははは、それはそっちの裁量に任せる。それじゃ、またねー。」

 

軽い挨拶と共に執務室を後にするイサネ。それを視線で見送り、ヒナはすぐに職務に取り掛かる。イサネが一週間頑張ってくれたとはいえ、ここは混沌と自由が校風のゲヘナ学園。一時期どんなに抑圧されようとも懲りずに誰かしらが暴れ出すのが日常だ。

 

「アコ、この書類のこことここ、進捗はどうなってる?」

 

「はい、それにつきましては――」

 

そうしてこれまで通りの風紀委員会の日常が始まる。一週間の休暇で養った英気も、どうせすぐ消え失せるだろう。しかし、面倒な仕事にも関わらず凡そ見事に依頼を遂行してくれたイサネや何とかして休暇を作ってくれた部下達の事を思うと、今日はなんだかいつも以上に頑張れるかもしれない。書類を捌きながらヒナはそう心の中で思うのでった。

 

 

 

 

場所は変わってここは風紀委員会本部から数十m離れた道路の歩道。イサネはヒナ達に別れの挨拶をしてブラックマーケットにある自宅に帰るべくゆっくりした足取りで歩いている。が、その顔は何かに頭を抱えているようであり、事実心の中では先程聞いた美食研究会による飲食店爆破の報告について一つ思い出したことがあり、それがずっとぐるぐると回っていた。

 

(あっれぇ?、おかしいなぁ?おととい飲食店爆破で捕縛した時に暫くそういうことしないでねって警告した筈なんだけどなぁ?なぁんでまた爆破してるんだろうなぁー?)

 

そう、イサネが万魔殿を吹き飛ばした日の次の次の日。イサネによる暴徒の制裁対象の最初の被害者となった美食研究会(テロリスト集団)。イサネが風紀委員長代理になって初の邂逅という事もあってその場での厳重注意もとい叩きのめした(拘留は無しとした)のだが、どうやら美食研究会の部長である黒舘ハルナの言葉にあった「水が流しっ放しの蛇口を止めるのは常識ですわ。」という言葉は彼女の中で何よりも優先される事らしい。

 

「はっ、人類種の天敵様も随分と見くびられたものね・・・あはははっ、逃げられると思わないでねぇ?美食研究会ぃ?あは、はははっ。」

 

イサネは静かに嗤う。美食研究会の失態を、己を見くびった事を。そして彼女らに教えてやらねばならない。風紀委員長としての自分なぞ所詮は抑え込まれた自分でしかない事を。

 

イサネは歩くのを止め、足の向きを変える。その向きは美食研究会による飲食店爆破の報告のあった方角だ。地を蹴り、その方向へと走り出す。電車に並ぶ程の速度で地を駆け、時に建物の壁を駆け、疾走する。自身の底から溢れ出る闘争心を狂笑に変えながら。

 

 

「あひゃひゃひゃ!ひゃはっ、はは、ははははははははッ!!」

 

 

・・・後にヒナの元に提出された報告書には、13中隊の一人が現場付近で見るも無惨な程に傷を負った美食研究会のメンバーが倒れているのを発見したと書かれていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ねぇアヤネちゃん。本当にここで合っているの?その約束の場所って言うのはさ。」

 

 

ホシノが怪訝そうな声で問う。それに答えた声はホシノの周囲を飛び回るドローンから投影されたホログラムの姿。

 

 

『確かにイサネさんからのメールにて指定のあった座標は間違いなくここなんですが・・・確かに何もありませんね。』

 

ホログラムの姿――アヤネの声がホシノのその疑問に答える。

 

「しっかし、何もないよここ。一応大きい廃墟はあるみたいだけど・・・うへぇ、黒い事とかじゃないと良いけどなぁ・・・」

 

ホシノは改めて辺りを見回す。見回した視界の中に映るのは砂、砂、砂。一面が砂まみれで岩や石の一つも無く砂で覆い尽くされたまさに砂丘と言えるような場所だ。・・・最も、今ホシノの目の前には高さ10m強程の巨大な廃墟が鎮座しており、異様な存在感を放っているが。

 

ホシノは改めて目の前にある巨大な廃墟を観察する。アビドス砂漠にあるどの廃墟とも違い、風化や経年劣化によるものというよりは迫撃砲よりも更に大きな武器でつけられた様な破壊痕が良く目立つ。砂漠化による衰退によって捨てられた建物が多いアビドスの廃墟群の中では特に珍しいものと言えるだろう。

 

と、目の前の廃墟を眺めていると、突如ヘリの音が遠くから聞こえてくる。動く者の無い砂漠において機械の大きな音は遠くからでも良く聞こえる。

 

『ホシノ先輩、ヘリがそちらへ向かって飛んできています。所属は・・・シャーレ?』

 

アヤネが捕捉したヘリにペイントされたロゴから所属を告げる。それを聞いたホシノは一先ずイサネからの用事が黒い事では無い事を確信し、胸を撫で下ろす。イサネが良い人ではあるかもしれないが明らかに向こう側の人だという事を知ってしまったホシノにとって、昨日の早朝に見たイサネから依頼したいことがあるというメッセージに今一信用を持てなかった。何故ここに来たのかは知らないが、シャーレのヘリなら一先ずは安心できる。所有者も乗っている人も運転者を除いて一人しかいないし、その人物がいかに信用に足るるかはつい最近身をもって知った。

 

『ホシノ、久しぶり。元気にしてた?』

 

アヤネがヘリと無線を繋いだ瞬間に聞こえてくる朗らかで温かい女性の声。間違いない、シャーレの先生だ。自らを閉じ込めた暗い檻をこじ開け、その過ちを日の光と共に教えてくれたあの光景がホシノの脳裏をよぎる。

 

『お久しぶりです、先生。本日はどのようなご用件でしょうか?』

 

『今日は私というよりもイサネからと言った方が正しいかな。イサネー?着いたよ。』

 

アヤネと先生の会話と共に徐々にヘリの音が大きくなり、ヘリの体躯もはっきり視認できるようになる。白を基調としたカラーに連邦生徒会とシャーレのロゴが刻まれていて、ロゴを見れば一発でシャーレだと分かるようになっている。そしてそのヘリはホシノの近くで砂を巻き上げながら着陸し、無線からイサネの声が聞こえてくる。

 

『結構早かったねー。って、ここに居るのはホシノだけ?確かに人数の指定はしていなかったから別に問題は無いんだけど。ま、このクソ熱い場所で立ち話もなんだし、ヘリに乗ってよ。』

 

「ヘリで来たならわざわざここを場所に指定する必要無かったんじゃないのー?校舎からほぼ一日中歩きっ放しはおじさんでなくてもしんどいと思うよ~?」

 

『そんなにしんどくはないんじゃない?私はそうだったし。』

 

「うへぇ、それはイサネちゃんがおかしいと思うなぁ。」

 

イサネとの話もぼちぼちに着地したヘリにアヤネのドローンを抱えて乗り込む。ヘリの中はシャーレの特別仕様なのか空調が効いており、砂漠の灼熱によって熱されたホシノの体をひんやりとした冷気が包み込み、過剰な熱を奪っていく。

 

「あぁ~、涼しい~。」

 

「はいタオル。」

 

先生から渡されたタオルを受け取り、汗を拭きながら開いている席に着く。ホシノの座った席の隣に先生が座っており、何やら書類とにらめっこをしている。一方で向かいの席に座っている筈のイサネは席の全てをベッド代わりに占領して寝そべり、クーラーボックスに大量の保冷剤と共に入っているジュース片手に昼寝に勤しんでいた。他人の乗り物だというのにどうしてここまで図太く居られるのかはホシノには分からなかった。

 

「イサネ、ホシノも来たからそろそろ起きよう?」

 

「あいあい・・・あ、ホシノもこれいいよ。今日この依頼の為にしこたま買い込んだから。」

 

先生の声に応じるかのようにのっそりと体を起こすイサネ。ホシノは目の前に差し出されたクーラーボックスの中に入っていた多種多様な大量のジュースを見て「うへぇ。」と自らの困惑をいつもの口癖で表現する。ホシノがそれにおずおず手を伸ばしたのを確認したイサネは姿勢と正して本題を切り出す。

 

「さて、今日何のためにわざわざこのクソ熱い砂漠のど真ん中に来てもらったかなんだけど。まずメッセージにあった通り君たちアビドス高校に一つ依頼をしようと思って。」

 

「依頼?」

 

「そう、依頼。それも結構大掛かりなやつね。」

 

そう言ってイサネは懐からスマホを取り出し、足元に置いてあったドローンに接続するようアヤネに言い、繋いでもらう。

 

『はい、データ確認しました。これは・・・私達5人でどうにか出来る規模でしょうか?』

 

送られてきたデータを確認したアヤネがイサネに質問する。まだ依頼の内容までは確認していないホシノだが、その内容からかなり大規模なものである事理解できた。

 

「あー、まぁそれは私の計画の全容だから。今回アビドスの皆に依頼したいのは建材輸送の護衛とその建築部分だけね。建築と言ってもすでに出来上がっているパーツを設置するだけだし重機も借りたから特に気にすることは無いと思う。」

 

『そうですか?とてもそうには思えない程の建築規模なんですが・・・パワーローダーか何かでも格納するんですか?これ。』

 

「あんなものわざわざ買わないって。まぁ同じ機械という点では合っているかもしれないけど。」

 

ホシノはアヤネとイサネの会話を聞きながら手に持ったオレンジジュースを飲む。柑橘系のさわやかな酸味と甘みを味わい、喉の渇きを潤す。その間にも二人は着々と依頼についての話を続けている。一方で先生は持ち込んだ書類の束と格闘をしており、こちらに構っている暇はなさそうだ。

 

「――って訳だから。どう?完璧でしょう?」

 

『なるほど、建材を予め組んでおいて現場で完全な形に組み上げる・・・それなら運搬時のコスト軽減がそれほどまで・・・?だからミレニアムが合同で・・・』

 

「そういうこと。で、ミレニアムは既に仕事を終えつつあるから・・・ミレニアムのここからアビドス砂漠のここ・・・そう、カイザーの支配外のこの部分に・・・」

 

『ここ、カイザーは手を出していなかったんですね・・・しかもアクセスもそこそこで・・・』

 

二人の会話は既に佳境に入っているらしくホシノが介入する余地は無さそうに見える。ホシノはシートの背に身体を預け、そのまま意識を閉ざそうと目を瞑る。そう、昼寝だ。優秀な後輩が話を進めてくれているのに任せようとしたつもりだったが、優秀なだけあってその後輩(アヤネ)は話をしながらでもホシノが寝始めるであろう事は既に感づいていたようで、

 

『ホシノ先輩!この依頼を受けるかどうかの選択権は先輩にもあるんですよ!いつもの会議みたいに寝ないでください!』

 

「ふえっ!?ね、寝てないよぉ・・・」

 

「ねぇ、金の絡む話だからちゃんと聞いて欲しいんだけど。先生も何か言ってくれない?」

 

「ははは・・・」

 

イサネのジト目と先生の苦笑い。ホシノは若干気まずそうにしながら姿勢を正す。その様子を確認したイサネは再び話し始める。

 

「えーまぁ大体の事は話したかな。それじゃあ、アビドスの皆さん。この依頼、受けてくれますか?報酬はアヤネに送ったデータに載せてある。まぁ完成までの時間次第でボーナスでも出すつもりではあるけど。」

 

『一応ですがシロコ先輩とノノミ先輩、セリカちゃんあと私もこの依頼の受諾に賛成という意見ですが、ホシノ先輩、どうですか?』

 

「うん、いいよー。おじさんも賛成~。」

 

満場一致。この場に先生も同行しており、ヘリも貸し出してくれている。それならこの依頼に乗っても問題ないだろうと判断しての事だ。メッセージだけの状態だったらもう少し受諾に悩んだかもしれない。・・・尤も、その場合ならもっとちゃんと依頼の内容も聞いていただろう。

 

「決まりだね。本当は今すぐにでも実行に移したいけど、そっちも準備があるだろうから、準備が出来たら私に一報入れてからミレニアムの校舎入り口に向かって。そこで白石ウタハって人と話して。護衛についての詳細は彼女と移動中に詰めてね。」

 

依頼の受諾を確認したイサネはそう口早に伝え、ヘリを運転するパイロットにアビドス高校へ向かうように言い、クーラーボックスの隣に置いてある大型のボストンバッグを担いでヘリを降りる。

 

「そこにあるジュースは君達にあげる。皆で分けて飲んでね。」

 

何か言おうとしたホシノに先制する形でそう言い、廃墟へと歩いていく。ドアが閉まり、上昇を始めるヘリの中でイサネのその背を見送ったホシノは手に持ったペットボトルの中身を飲み干してクーラーボックスの蓋を閉じる。そして未だ書類と死闘を繰り広げている先生に声を掛ける。

 

「せんせぇ~、こういう時くらい休んだ方が良いよぉ?」

 

「はい・・・ごもっともです・・・」

 

そう返す先生の姿は責任を負う大人の姿ではなく、ただただ書類の期限に追われる情けない大人のそれであり、普段スーツの上から羽織る連邦生徒会の肩章付きのコートを脱いだ今の状態がよりくたびれたOLというイメージが強く印象に感じさせた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、お昼時のアビドス砂漠の住宅地近辺にて。

 

 

「くっ、随分と数の多い・・・む、ホシノ!そっちに数名行ったぞ!」

 

「分かってるから大丈夫だよ~。まぁ、昔に比べればだいぶマシにはなったけどね。」

 

『ヘルメット団、後半数です。あっ、敵前線が崩れ始めました。畳みかけるチャンスです!』

 

アビドス高校のメンバーはミレニアムのエンジニア部と共に建材と重機を積んだ大型地上輸送機を背に、迫りくるヘルメット団相手にひたすらに戦闘を続けていた。

 

「このっ、いい加減どっか行きなさいよぉ!」

 

「ん、邪魔。」

 

時速40kmで動き続ける地上輸送機の上に乗って機体に取りつかせまいと各々の愛銃でヘルメット団に応戦するシロコとセリカ。ノノミはヘルメット団の後衛を狙って手に持ったミニガンを掃射している。が、如何せん数が多い。やはりこれだけ大きいものとなると情報漏れが無かったとしてもすぐに人が集まるのだろう。だが、アビドス高校の面々も負けていない。伊達に砂漠で戦い続けただけはあり、激しく揺れる狭い足場の上で姿勢を安定させ、上手い事立ち位置を変え向きを変えヘルメット団を銃撃を以て振り払う。

 

「ウタハ先輩!そんなに揺らされると狙いが安定しません!」

 

「無茶言うな、ただでさえ車体の沈む可能性のある悪路なんだ、速度を出さないと窪みに突っ込んだ時に動けなくなってしまう・・・!」

 

「・・・この様子じゃ私も無理。雷ちゃんに任せるしかない。」

 

一方のエンジニア部は慣れない砂地での慣れない戦闘に大苦戦を強いられていた。輸送車の運転席でハンドルを握るウタハとその横に座るヒビキがコトリの泣き言を斬り捨てる。荷台に固定したセントリーガンの雷ちゃんは十分に役目を果たしてくれているが、それでもカバーする必要のある範囲が大きすぎる。

 

だが、幸いなことにアビドス高校の生徒達の練度と連携力の高さ、ヘルメット団の戦略もクソも無い闇雲な特攻のおかげでヘルメット団の半分以上を既に脱落させることに成功している。また、完全迎撃の姿勢を取らずに動いている事も相まって車体に完全に取りつかれる前に振り落とすことが出来ている。そうして交戦を続けること数分。

 

「くそったれ!撤退だ!撤退ー!」

 

「なんだよ、結局こうなっちゃうのかよー。」

 

両手で数えられる程まで人数が削られたヘルメット団は撤退の指示を出し、倒れた仲間を背負ったり引き摺ったりしながら逃げ出していく。

 

「ふぅ、何とかなった・・・流石に疲れたな・・・」

 

ウタハがハンドルを握りながらシートの背に身を沈める。車内に取り付けたナビを見ると目的地までもう少しとなっている。ウタハは席の隣にあるペットボトル挿しにいれてあるペットボトルの水を飲み、運転に集中する。幸い貨物含めた車高に対して横幅の比が大きいためそう言う事は余り起こらないが、もしここで横転などしようものなら目も当てられない。

 

「シロコ先輩、ドローンは今日持ってきてないんですか?」

 

「あの場面だとドローンよりも前衛した方が効率的。それに後衛はノノミが撃ち落としてくれるから大丈夫。」

 

『そのノノミ先輩、今位置的に声届かないんですけどね・・・後ホシノ先輩も。』

 

そう、現在シロコとセリカのいる場所は荷台の真ん中の余剰スペース。一方でノノミは最後尾、ホシノは運転席近くとなっており、互いに会話できる位置関係ではない。とはいっても彼我の距離が数m程度なので大声を出せば会話できない訳でもないのだが。

 

「うーん、こういう時一人だと中々に手持無沙汰ですね~。歌でも歌いましょうか?」

 

「うへぇ、サイドアームが弾詰まり起こしてるよぉ・・・まだ1マガジンも撃ってないのに。やっぱりブラックマーケットの中古品は駄目だなぁ。」

 

ホシノもノノミもシロコとセリカも待機の間はそれぞれが各々に時間を潰す。世間話に興じたり、一人鼻歌を歌ったり、自らの装備動作確認をしたりと、まだまだ余裕そうだ。そうして地上用輸送機で砂漠を飛ばす事数十分、ウタハの目が目的地の印の一つであるブルーシートの青を捉える。

 

「よし、何とか着いたぞ。帰ったらすぐにこいつ(地上用輸送機)の改良だな。砂地での運用を想定していないのは問題だ。それに、武装面の改造も必要だ。」

 

「部長、それ考えるのは後にして。」

 

今すぐにも改造を始めそうなエンジニア部だったが、何とか目的地前に輸送機を止め、席から降りる。すると砂漠の灼熱が運転席から降りた二人を猛烈に歓迎する。

 

「む、なんという暑さだ。アビドス高校の皆の忠告に従って色々持ってきたのは正解だったか。」

 

「そうですよ・・・このままですと本題に入る前に干からびてしまいます・・・!」

 

「お、来たねぇ来たねぇ!」

 

暑さに顔を顰めるウタハと既に汗だくで死にそうになっているコトリ。テントや日傘の置かれたブルーシートの上で機材を弄っていたイサネが元気そうにそれに駆け寄る。アビドスの面々もそれに続き、イサネの元に合流する。

 

「お、皆もどうだった?道中は?」

 

「どこから聞きつけたのかヘルメット団の襲撃が凄かったわ・・・」

 

「地面が揺れている状態での制圧射撃は中々大変でした。」

 

「えぇー?その割にはよく狙い撃ててたと思うよ?おじさんは。」

 

「イサネ、カイザーPMC基地を攻撃した時のあのミサイル欲しい。」

 

「いやあれ特注品だからあれ以降の入荷は無いって。それにあれバカ高いから買いたくないよ。」

 

『あはは・・・とりあえず、合流で来たみたいなので私もそちらに向かいますね。』

 

そう言ってドローンはブルーシートに着地し、システムがシャットダウンされる。イサネはそのドローンを拾い、日傘の影に移し、代わりにクーラーボックスを皆の前に持ってくる。

 

「一息入れたら作業開始と行こうか。エンジニア部、重機の起動よろしく。私はちょっと向こうを見てくる。」

 

「分かった。しかし、熱いな・・・ここは・・・」

 

こうしてそれぞれがジュースの入ったペットボトルを手に取り、束の間の休憩を享受する。一方のイサネは休憩中の面々に一言入れ、指差した岩場の影へと歩みを進めていく。その歩みはいつもよりも早く、その顔に映る表情は先程とは打って変わって無表情だ。

 

そうして岩陰に入り、休憩中の皆の視界から外れた所で立ち止まる。

 

 

 

「クックック、既に気付いていましたか、標根イサネさ――ッ!!?」

 

 

 

突如イサネの背後から聞こえた声。しかし、その声は言葉を言い切る前に遮られる。そう、イサネの向けたハンドガンの銃口によって。

 

 

「あー、その、あんまりに不審者みたいな視線送ってくるものだから反射的に銃構えちゃったわ。ごめんにょ?」

 

 

「・・・やはり我々の予想通り、非常に危険な人物という評価は正しかったようですね。」

 

 

白々しくそう言い、一切の謝罪をする気配の無いイサネに、その背後に現れた黒の異形は静かにそう口にする。そして黒の異形は数瞬の沈黙の後にもう一度口を開く。

 

「お初にお目にかかります、標根イサネさん。私の事は黒服とお呼びください。」

 

「おーん、で、誰やねん?」

 

「ですから、私の事は黒服と――」

 

「おん、で誰や?」

 

「・・・話が通じていないのですか?」

 

「んなわけねぇだろうがよ、馬鹿かてめぇは。」

 

自己紹介にまともに取り合う気配のないイサネに黒い異形――黒服が怪訝そうにイサネの様子を伺う。黒服のその様子に漸く合点がいったのか、イサネが話し始める。

 

「あ?あー、そう言う事ね。いや、貴方が黒服と呼べって言ったことは伝わっているから大丈夫。私が聞きたいのは貴方は何処所属の黒服さんなのって話。で、黒服さん、貴方は一体何処の誰?」

 

先程の似非関西弁のような話し方から一転した口調で改めて黒服に問いかけるイサネ。その瞳はまるで子供の無知故の無垢の様な色を宿しているが、明らかにそれと同時に見る者の正気を削り取る狂気も一緒に孕んでいる事が一目で分かる。黒服はその視線を受け、一瞬言葉に詰まる。

 

「っ・・・!イサネさん、その眼は人に向けるものではありませんよ。何せあなたの存在は我々を以てしても例外的な存在なのですから。そう、単純な例外性の度合いだけで言うならシャーレの先生。彼女の存在の上を行く程の。」

 

黒服の言葉を聞いてもなおイサネの顔は変わらない。彼女の瞳の中で無垢と狂気が混じり合う。

 

「かの暁のホルスに匹敵するその実力を有し、そして何よりもその緑に光る粒子。実に、実に興味深い・・・どうです?我々ゲマトリアに協力していただけませんか?なん――ッ!?」

 

イサネの質問に答えながらホシノの時のように協力の話を持ち掛けた時だった。突如響き渡る銃声。正確にはサプレッサーによって音量の削られた銃声。黒服は銃声と共に片膝をつく。

 

 

「ほーん、皮膚って言うものがあるにはあるのかな?その様子だと。ほんほん、その黒いモヤは別に自らを守る何かではないし、生徒程体は頑丈ではない。つまり、殺せば殺せるって事ね。」

 

 

何事かを呟くイサネの右手にはいつの間にか消音機器(サプレッサー)が装着されたハンドガンが握られており、その銃口からは硝煙が微かに確認できた。そしてゆっくりと立ち上がった黒服のスーツの右足の脛部分には小さな穴が空いていた。

 

「い、イサネさん・・・?一体、何を・・・?」

 

黒服が戸惑いの声を投げかける。黒服の戸惑いは尤もだろう、話している最中にいきなり銃撃されたのだから。だが、黒服のそんな問いにイサネはけろりとした様子で答える。

 

「あ、ごめんごめん、質問にちゃんと答えてくれなかったから撃っちゃった。いやー、ゲマトリアね。で、そのゲマトリアは何やってる所なの?」

 

「ククククッ、戯言にも容赦なしですか、どうやら攻撃性は想像以上の様ですね。さて、ゲマトリアについてですね。」

 

そうして黒服の口からゲマトリアとは何かが語られる。

 

ゲマトリア。イサネがこれまで調査やネットでの検索においても一つも出てくる事の無かった組織だ。黒服曰くゲマトリアは探求者、求道者の集まりで、構成員のそれぞれがそれぞれのやり方でキヴォトスにおける【神秘】なる存在の探求・研究を行っており、先のホシノがカイザーPMCにさらわれた事件の黒幕もどうやら黒服らしく、何でもキヴォトス最高の神秘の保有者がホシノらしく、ターゲットにされたようだ。

 

 

「―――と、我々ゲマトリアについてはこれ位でしょうか。」

 

 

黒服の説明が終わり、その白の眼窩か亀裂かがイサネを見据える。イサネはそれに対しさらに質問を投げかける。

 

「その神秘って言うのは何?聞いた事ないし、仮にホシノがキヴォトス最高の神秘の保有者だったとして、何故それが他の人に一切知られていない?」

 

「その神秘がなんなのか、そしてそれを解明する事が我々ゲマトリアの存在理由ですよ。尤も、現在のゲマトリアは過去に存在した同名の組織とは性質が異なりますが。」

 

「つまり、神秘が何たるかを明かす気は無いって事ね。あぁくそ、私拷問の類は得意じゃないのよねー、これ以上の情報の引き出しは諦めるかぁ。」

 

「別に神秘に関する一般教養程度の知識開示なら別に代償は取りませんが・・・それにしてもいきなり拷問の選択肢が出てくるとは、一体どのような場所で過ごせばそのような思考回路になるのか、少々気になりますね。」

 

「・・・ほっとけ。」

 

こうして黒服は代償無しで聞ける範囲の神秘についての知識をイサネに話す。この神秘というものはキヴォトスに存在する人、獣人やオートマタやロボット、そして生徒というキヴォトスにおいて人と分類される存在全てが保有するものらしい。保有量は個人差があるようだが、一部の生徒にはその神秘由来の特殊能力が備わっている者も存在するらしい。

 

「と、ここまでは先生も知っていることで、一部を除いてキヴォトスでの一般的な知識になります。これ以上となると、最低でも我々と協力を結んでいただく必要がありますが。」

 

「いや、そこまでで十分。」

 

「そうですか。」

 

イサネは神秘に関する知識を頭の中で整理し、改めて黒服の方を向く。黒服も、イサネがこちらに向いた事を確認し、再び話し始める。

 

 

「では、イサネさん。」

 

 

 

「改めて、我々ゲマトリアに協力し、共に神秘の解明をしませんか?」

 

 

恐らく黒服の本当の目的。

 

黒服のこちらの心の底を見ているかのような余りにも不快な目線。しかし、イサネはその視線を意にも介さず、口を開く。

 

 

「ゲマトリアに入ったことが、私のやりたい事の障害にならないの?それは。」

 

 

イサネの瞳に再び狂気が見え始める。

 

 

「それは、貴方のやりたい事次第ではありますが。」

 

 

黒服のその言葉にイサネの顔が嬉しそうに綻ぶ。そしてイサネはゆっくりと息を吸い、楽しそうに、幸せそうに、自らがここでしたい事を言葉にして吐き出す。

 

 

 

―――かつての自分の心からの願いを。

 

 

 

「私がしたい事はね――」

 

 

 

―――この心を狂わせたあの景色と光を。

 

 

 

 

「ここキヴォトスにいる全ての人と呼ばれる存在を一人残らず消し去る事。」

 

 

 

 

恐らく誰もが口にしないであろう事を無邪気にそう言い放った。

 

 

 

 





お、思ったより話が捻じれたし、変な展開になってしまったぁッ・・・!
何処かの第二隊長「ま、まぁ、まだ問題ではありません。どうにでもなる誤差の範疇です。」

・・・ワンチャンこれまでの話も含めて修正するかもしれない...(震え声)

次回、ストレイドお引越し、完了編
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