透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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タイトル考えるだけで丸一日使ってしまった...

あと前書きをあとがきで書こうと思っていた事がよく頭から抜けてしまうのどうにかならないですかね...(泣)




新居完成

 

 

 

「おーい、どうだ?ここで合っているかー?」

 

 

「ええと、もうちょっと右です!」

 

 

「ふむ、右か・・・なら、これでどうだ・・・?」

 

 

ここはアビドス砂漠。太陽の照り付ける灼熱の中、エンジニア部とアビドス高校の生徒達はイサネからの建築依頼を達成すべく各々為すべき役割を遂行していた。

 

「えっと、シロコ!その部分の前後の位置はあっているかい?」

 

「ん、合ってる。」

 

「分かった。では設置する、挟まれない様に注意してくれ!」

 

ウタハの声と共に重機のアームが動き、その鉄腕に掴んだ予め組んだ建材を四隅に設置された大きな鉄柱にピタリと合わせて設置していく。

 

「これで三辺の外壁が置けたが・・・うん、思ったよりも順調に進んでいるな。」

 

「・・・そう?」

 

「イレ――イサネと私の立てたプラン的には一日目が外壁内壁の設置、二日目が内装と足場。三日目以降で残った部分を詰めるという形になっている。私の開発したこの建てる君(仮)だからこそ出来るスケジュールだ。」

 

「・・・最近先輩が弄っていた大型の機械ってこれの事だったのね。」

 

重機の操縦室内で交わされる会話。そう、イサネの出したこの依頼にはウタハも一枚噛んでおり、イサネはストレイドの格納庫に、ウタハは作った試作機の試験運転という二人の思惑が合致した結果、非常にハイスピードでの計画立案、前準備が進み、イサネがウタハに相談した日から僅か数日でアビドス高校に依頼、実行が実現している。

 

「・・・しかし、イサネはまだ戻って来てないのか。」

 

独り言を零すウタハ。作業の始める前の休憩時、イサネは向こうを見てくると行ったきり帰ってきていない。イサネの計画の建築部分を一任されているおかげで作業自体に影響は出ていないが、イサネの方から音沙汰も無いのが唯一の気がかりだ。

 

(仮にもあのネルと互角に殴り合えるだけの実力はあるんだ。彼女の身に何かあったという線は無いと見ていいと思うが・・・)

 

そこまで考えた所で遠くから「おーい、こっちはもう動けるよぉー!」というホシノの間延びした掛け声を聞き、意識を切り替えて返事をする。

 

 

「分かった!では次の外壁設置の為の鉄柱から置いていく!外壁設置が終わったら休憩にしよう!丁度お昼の準備も出来たみたいだしな。」

 

 

「「「「おーっ!」」」」

 

 

昼食の紫関ラーメンを作りに屋台へと向かったセリカを除いたアビドスの生徒達の声が雲一つない空に響いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

―――その言葉に、場の空気が凍り付いた。

 

 

 

「・・・今、なんと?」

 

 

 

黒の異形――黒服が聞き間違いを望むように目の前の少女に問う。

 

 

「え?」

 

 

「あなたはここキヴォトスで何をしたいのか、もう一度聞かせてくれませんか?」

 

 

黒服はそう言いながら頭の中で目の前の少女――標根イサネの言葉を反芻する。そう、確かに聞いたのだ、目の前の少女がキヴォトスの住人を全てを消し去ると。一切の迷いのない目でそう言い切ったのだ。

 

「だから、キヴォトスに居る人を皆殺すんだよ。何なら記念すべき一人目になってみる?」

 

「クククッ、どうやら聞き間違いではないようですね。それと記念すべき一人目は遠慮させていただきます。」

 

黒服も聞き間違いを犯したつもりは無い。だからこそ、今の自分の問いが何の意味もない事だという事は理解している。イサネと言葉を交わしながら、黒服は頭の中でこの標根イサネという少女の評価を書き換える。

 

(まさか本気でそんな大殺戮を目論んでいるとは。一般的に危険人物と言えばそれこそ矯正局から脱獄したかの7名の生徒が一番に挙げられますが、潜在的な危険度は彼女は恐らくそれと同等、もしくはそれ以上と見ても良いでしょうね。)

 

万物の天敵というブラックマーケットの全域に、そして他学園にもその名が知られる程の実力に、キヴォトスに存在する人を例外なく消し去るというその狂気の思想。今の所その願いを実行に移す予兆は見られないが、もし動き出そうものならキヴォトスに不吉の風が吹き荒れる事は間違いないだろう。ゲマトリアの神秘の解明という研究の為にも、この少女はどうにかして無力化ないしはキヴォトスという舞台から弾き出さねばならない。

 

「しかし、良かったのですか?ここでそんなことを言ってしまっても。もしこの事が他に知られてしまえば、碌な日常になりませんよ。」

 

イサネとの会話の最中、黒服は疑問を孕んだ声色でイサネにそう警告する。キヴォトスで殺人を犯した者の末路なぞ、碌なものではない事だけは確かだろう。しかし、黒服のその警告を受けてなおイサネはどこ吹く風だ。

 

「別にそんなことないでしょ。世界中から目の敵にされても、生き延びるだけならそう難しい事ではないよ。社会から孤立したとて生きていくための物の確保が出来ない訳じゃない。」

 

「まるで一度似た経験をした事のあるかのような口ぶりですね。」

 

「まぁ、こんななりでもそこそこの経験は積んできたつもりなんで。」

 

そう言って今着ているワイシャツの上から三番目までのボタンを外し、その隙間から見える肌色を見せつける様に両手を広げるイサネ。見る人を魅了する美貌にスレンダーなそのスタイル、そして程よく育ったその双丘を持つその身体は、若干胸元のはだけたワイシャツも相まって普段の狂人具合を知る者からは想像もつかない程の色香を醸し出している。

 

「クックック、それではただ誘っている様にしか見えませんよ、イサネさん。」

 

「まぁここクソ暑いし丁度いいでしょ。」

 

黒服の言葉にそう返すとイサネはもう話は終わりだと言わんばかりに黒服に背を向けて歩き出す。

 

「・・・行かれるのですか?まだ話の途中ですが。」

 

そう尋ねる黒服に、イサネは面倒くさそうに言葉を返す。

 

「話ってもどうせゲマトリアにこの身体を売ってくれかここから消えろのどっちかじゃないの?なら答えはどっちもno。せいぜい私の悲願の最初の一人にならないよう逃げ回る事ね。」

 

「クックック、そうですか。肝に刻んでおきましょう。」

 

その言葉を聞きながらイサネはその場を後にする。黒服はイサネの言葉にそう返すと、遠ざかっていく背中を眺めながら思考する。

 

(標根イサネ、彼女を得る事は叶いませんでしたが・・・いえ、むしろ手元に置くことは失策でしょう。何せ彼女の目的の対象の内に我々が含まれている以上、あれを内に取り込むのは見返り無しに毒を呑む様なものです。)

 

「イサネさん。貴方もまた、先生と同じ私の注目の対象である事を忘れないでください。」

 

誰も聞く者が居ない岩陰に、黒服の呟きが霧散した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「随分と遅かったな。何かあったのか?」

 

 

「いやまぁ、ちょっとね。」

 

 

黒服と別れたイサネは一日目で行う予定の作業がほぼ半日で終わり、遅めの昼食を取っているエンジニア部とアビドス高校の皆と合流し、パイプテントの下で皆と同じく出前用の丼ぶりに盛られたラーメンを啜っていた。

 

「それにしても驚いたよ。まさか試算でも一日は掛かると出た内外壁の設置がほぼ半日で終わるなんて。」

 

「今回のイサネの依頼の際に試作品の改良をした時に駆動系を全体的に見直してみたんだ。そしたら機械の出力がだいぶ向上してね。お蔭でいいデータが取れそうだよ。」

 

「・・・そもそも君ら自爆装置とか要らない機能付け過ぎなんだって。あれだって何か建築に不要なもの付いてるでしょ。」

 

「はっはっは、そこはロマンと言ってくれ。」

 

「ざけんな、計画立てた時に試射をお願いされたあの銃の事は忘れてないからね?ったく、引き金引いたら銃身が爆発したんだぞ、どうやってやがる・・・」

 

そう、出会った当初は分からなかったが、イサネは最近になってウタハの技術師としての本来の姿を知る事となった。アビドスの一件の後、ゲヘナ以外にもミレニアムからの依頼や数は少ないがトリニティからの依頼も受ける様になり、その活動の中でエンジニア部がミレニアムの中での屈指の問題児集団である事をその身をもって経験したのだ。

 

(しかし、あの黒服を名乗った人モドキ。確か・・・ゲマトリアと言ったか?)

 

ふと思考が逸れ、先程の黒い異形との会話を思い出す。神秘の研究者、もしくは探求者と自らを評価し、自らの目的の為にあらゆる犠牲や倫理を捨て去れる者。ある意味ではイサネと似た者なのかもしれないとイサネは考える。

 

(神秘解明の為に平気で生徒を食い物にする黒服と、青い空を穢すものを消し去るために誰彼構わず手に掛けた私。似て・・・ないな。そもそもの根底が違いすぎるや。)

 

が、すぐにその考えを否定する。それもそうだろう。生徒一人、それも未遂に対して20億超の人類では余りにも差が大きすぎる。

 

(神秘の解明とは言っていたけど、表立って何かするのかな、ゲマトリアは。というかそんなどこの誰かも分からない組織にキヴォトスの滅亡企んでますとか適当言ったのはもしかしなくても不味いか。)

 

黒服と対峙した時にイサネが言ったキヴォトスの人を皆消し去るという半分冗談で半分本気だ。とは言っても現状は特に何もするつもりは無いし、先生と言う存在がいる以上はそう言ったことはまず起きないだろうと予想している。

 

しかし、もし何かあって先生という存在が消えてしまった時や、先生までもが空を穢す方向に舵を切ったとするなら、その時は部外者ながらもキヴォトスに居る者として、また人類種の天敵として、再び殺戮に明け暮れる覚悟は出来ている。そして、次こそはそれを成し遂げるという思いも。

 

(・・・あの時、クレイドルの甲板から見た空に心惹かれなかったら、私はオールドキングの誘いを蹴っていたのだろうか。いや、そうだとしたらそもそも私はORCA旅団に加わる事は無かった。空に惹かれたから、青い空を穢されたくなかったから私はORCAの手を取ったんだから。)

 

丼ぶりの麺を啜りながら、イサネはまた別の事を考え始める。

 

そもそもORCA旅団からの依頼を受け、テルミドールの手を取ったのはORCA旅団の示すクローズプランならあの青い空をこれ以上汚さないで済むと思ったからだ。だが、イサネ――イレーネはその結果を待つ前にオールドキングの誘いに乗り、世界を敵に回した。

 

(結局私は虐殺者になって、クローズプランは敢え無く崩れ去って、そして人類もその数を大きく減らした・・・でも私は、それを待たなかった。)

 

そう、ORCA旅団のクローズプランが実行されれば、アサルトセルひしめく空が開かれ、青い空を汚す一番の原因の企業の目がダークブルーの更に上、宇宙に向く。そうすればもう地球から見える空は少なくとも穢されることは無くなる筈だった。しかし、イレーネはその前にオールドキングの手を取り、人類種の天敵になった。

 

(あいつはあくまでも切っ掛けだった。クローズプランを待たなかったのは、切っ掛けで気付いたから。クローズプラン程度ではまた空は汚されると、繰り返されると、そう確信したから。)

 

そう、クローズプランで一度は守れるだろう。空が開かれれば企業の連中だって宇宙開発で大量汚染規模の戦争なんてしなくなる。いずれの未来には企業の上層部も汚染まみれの地球を捨てて何処か清浄な星を見つけて空の彼方へ消えるだろう。しかし、それと逆に地球に残る人類だっている筈なのだ。それらがまた地球から見える空を汚さないとも限らない。否、確実にまた汚すだろう。自分の死した後、汚された空を見ながらなんて安心して静かに眠れる筈がない。ただでさえ綺麗な青に心奪われているのだから。

 

 

(だから私は、血に塗れた。でも、答えを成就することは出来なかった。こんな答えがここにもあるとは思えないけど・・・例え何であれ、二度目の答えが出せたなら、その時は―――)

 

 

「・・・イサネちゃん、もう麺残ってないよ。」

 

 

「はっ!?」

 

 

隣の席から聞こえてくる聞き慣れた声。完全なる不意打ちに、イサネの体がびくんと震え、背筋がピンと伸びる。思わず辺りを見回すと、食べ始めた時には居た皆の姿は無く、目の前にホシノが一人いるだけだった。イサネのその様子から察したのか、ホシノが既に休憩は終わっている旨を話し出す。

 

「もう皆作業に戻ってるよ。イサネちゃんはどうするの?」

 

「え、あ、きゅ、休憩終わり?わ、私は・・・え、え?」

 

自分の手元にある丼ぶりを見ると、そこに面の姿は無く、醤油味の透き通ったスープだけが残っており、イサネがラーメンを食べ終わった事を如実に示していた。イサネは必死にさっきまで啜っていた麺の味を思い出そうとするが、どう頑張っても黒服の事と自らの選択の事しか思い出す事が出来ず、折角の美味を逃してしまった事実を認識してしまう。

 

「ない・・・麺の味が、ない・・・うそだ・・・」

 

「途中何回話し掛けても一切の反応をしてくれなかったよ。それくらい集中しちゃうと、今食べてるものの味なんて案外分からないものだよ~。おじさんもそうだったし。」

 

「うそだぁぁぁぁ・・・・・・はっ!そ、そうだ、せめてスープだけでも味わわないと・・・!んぐっ、んぐっ、んぐっ、ごぼっ!?げほっごほっ!!」

 

「あーあー!そう一気飲みしようとするから・・・!落ち着いて、落ち着いてよぉ。」

 

慌てて丼ぶりのふちを口に添え、スープを飲もうと器を傾けた結果、咽るという余りにも分かりきった結果にホシノも呆れざるを得ない。そんなこともありつつ何とかスープを飲み干したイサネは、咽た時に優しく背と叩いてくれたホシノに感謝を述べつつ、丼ぶりを他の物と重ね、ホシノと共に現場へと向う。

 

「そう言えばさ、ホシノに聞きたいことあって。」

 

「んー?どうしたのー?おじさんで答えられることなら何でも聞いてよ。」

 

現場へと向かう最中、イサネはさっき岩陰であった事を話してみる事にした。

 

「黒服って、知ってるよね?」

 

「いや、おじさんは知らないなぁ。」

 

・・・明らかに嘘をついている反応だ。声色が普段のそれと明らかに異なる。何ならホシノの雰囲気もさっきまでとは少し違う。

 

だが、ここで無理に問い詰めるのは帰って警戒心を抱かせてしまう。だから理解を得る為、先のこちらの事情を話す。

 

「あー、その、さっき岩陰に行った時に黒服って名乗る人型の奴にあってさ。そいつのせいで戻ってくるの遅れたんだよ。」

 

「・・・そっか。それで、聞きたい事って?」

 

信じて貰えたか分からないが、ホシノのこの反応的には黒服の事を知っていると見ていいだろう。イサネは話を続ける。

 

「ゲマトリアに協力しないかって言われたのは良いんだけど、するつもりも無いのにその時の断り文句でキヴォトスの滅ぼします的な発言しちゃってさ。大丈夫かなーって。」

 

「えぇ・・・?」

 

未知の組織に世界滅ぼします発言をするというイサネの行動に困惑を隠せないホシノ。イサネはそれを意識して無視し、話を進める。

 

「ゲマトリアってのはキヴォトスでこう、発言力とかって持ってたりするのかな。それとも噂話って言うか、情報操作とかの情報戦は強いのかな?」

 

「し、知らないよ。そもそもおじさんの場合はおじさんが奴の話をちゃんと聞かなかったからよく知らないんだよ~。」

 

「まぁでも何とかなるか。例えゲマトリアが万物の天敵がキヴォトス転覆企んでますと声明出してもホシノが事情知ってるからいけるでしょ。最悪ゲマトリア連中殺せばいいし。」

 

「おじさんの負担が凄い事になっちゃうから本当に止めてね?あと殺人は流石に庇えないよ?」

 

すっかり陳腐に成り果てた会話を続けながらも二人は現場に着き、ホシノはアビドスの皆と作業を、イサネはウタハと設計図を見ながら実際の出来を確認しながら作業は進んでいく。

 

 

「ここと、ここ。それとここまでかな。今日中に出来そうなのは。」

 

「え、ほんと?早くない?計画殆ど前倒しになる?」

 

「・・・なるね。」

 

「そうです!それもこれもこの建てる君(仮)お陰です!この建てる君(仮)は元々建築用で作られたものあったんですが、今回の依頼に合わせる形で駆動系の見直しをした結果なんと全体のパワーレベルの大幅な向上が認められましてその数値なんと改良前より53.87%!これによって重くて持ち上げの不可能だった組み上げ済の大型建材もこのように軽々振り回す事が―――」

 

 

「ホシノ先輩、足場もう少し下。」

 

「うえぇ、おじさんこれ以上はしんどいよぉ。」

 

「ノノミ先輩!もう次の上げちゃって下さい!このままならいいスコアが出せそうです!」

 

「ちょっと!?おじさんで何かのスコア取ろうとしないで!?」

 

「ホシノ先輩、次行きますよー♪」

 

 

こうしてワイワイと騒がしいながらも建築は進んでいく。既に完成していた内外壁に、天井の設置、内部の足場や空中通路、生活空間の整備など完成に近づくにつれ家というには余りにも異質な姿を顕現させていく。

 

 

 

こうして想定よりも速い進行度のまま一日目が終わり、二日目も順調に進んでいく。内装細部や建物内のシステムの構築、その操作系統の調整などをエンジニア部の面々が行う中、イサネはホシノを連れてアビドス砂漠の奥へと来ていた。

 

 

「うへぇ、こんな何もない所に一体何があるのー?おじさんそろそろ歩き疲れちゃったよ~。って言うかイサネちゃん、おじさん使いが荒くない~?」

 

「だってホシノは多少の黒い事ならアビドスの中でも最も理性的に対応できそうだなって思ったから。それにシロコあたりにするといくつか私物化されそうだし。」

 

「これから何するのかは知らないけど、流石のシロコちゃんも他人の物を勝手に取ったりはしないよぉ。・・・多分。」

 

他愛ない話をしながら何もない砂地を歩いていく二人。しばらく歩いていくと、ホシノにとっては一昨日ぶりである大きな廃墟がただぽつんと立っているそれ以外には瓦礫すらない砂丘に来た。イサネはそこで一度足を止め、廃墟に向き直る。

 

「イサネちゃん、そこには何も無いと思うけどなぁ。」

 

「いいから着いて来て。」

 

ホシノの声にそう返すイサネの言葉を少し怪訝に感じつつも、廃墟に足を進めるイサネに着いて行くホシノ。そうして廃墟の入り口の錆び切った扉をくぐり、砂まみれの金属製の床を歩き、役目を果たしていない手すりのある階段を上り、壁に添うように置かれた足場を歩く。日中の日差しが廃墟の壁によって遮られている為に外にいる程の暑さを感じないが、それでもこのボロボロの廃墟内は快適とは言い難い。だが、イサネはそれを意に介することなく歩いていく。

 

二人の足音以外に音の存在しない廃墟の中を進んでいくと、廃墟の大体中央の横幅が5mくらいの足場の中央でイサネは足を止め、口を開く。

 

「この辺に散らばっている銃火器をまとめるの手伝ってくれない?」

 

よく見ると自分の立っている足場には様々な種類の銃火器が並べられており、ハンドガンやアサルトライフルは勿論、高そうな装飾が施された武器というよりは美術品に近い代物までが乱雑に置かれていた。・・・置かれていたというよりは捨てられていた、と言った方が正しいだろうか。

 

「うわぁ、この数の武器・・・どうしたの?」

 

「買うだけ買って、適当に使って、後で整備しよーって思ってここに置いてそのままにしちゃってさ。今の今まで面倒臭くて・・・」

 

「何やってるのさ。武器の管理は怠っちゃだめだよ~?」

 

イサネの杜撰な管理に苦言を呈するホシノに「いやー、えへへ。」と後頭部を掻くイサネ。ホシノもそれに釣られて「うへへ。」と軽く笑うと、足場に落ちた銃火器やその弾薬を一か所にまとめ、イサネの持って来た大きめのボストンバッグに種類別に分けて詰めていく。マガジンやチェンバー内に弾が無い事を確認し、弾やマガジンは一度袋に入れてから、持ち運びに分解が必要な長物は銃身を外し、それぞれをボストンバッグに詰めていく。

 

「いやー、それにしても良くこれだけ集めたねぇ?」

 

「いくつかアビドスに融通しようか?どうせ使いそうにないし。ブラックマーケットの自宅にもいくつか置いてあるし。金にも困ってないし。」

 

「うーん、どうだろう、皆使うかなぁ?」

 

なんともない会話と交わしながらも、澱みの無い手慣れた手つきで作業する事十分と数分。「流石だね。私の見立て通り、ホシノはあらゆる銃火器の扱いに慣れている。」と言い、大きく伸びをするイサネ。その足元にあるボストンバッグはパンパンに膨らんでおり、足場に散乱していた武器群は見事に片付いていた。それを見ながらホシノはイサネに尋ねる。

 

 

「で、これ、結構の重量だけど、どうやって運ぶの?」

 

 

ホシノの尤もな疑問。銃火器はハンドガンで大体500g前後、重い物だと1kg。アサルトライフルなどと言った自動小銃は3~4kg程になり、狙撃銃も対物ライフル等の例外を除いて大体同じくらいの重量で、それらが大型のボストンバッグにパンパンに詰まっているのだ。そんな金属の塊のような物なぞ、重くない筈がない。ミニガンを振り回すノノミには敵わないかもしれないが力には多少自身のあるホシノでもこれを担いであの工事現場まで歩くのは流石に難しい。

 

ホシノの疑問に対しイサネは、サプライズをする子供のように意味ありげな笑みを浮かべながら自分の口に人差し指を当て、「ちょっと待ってて。」といい、その足場から飛び出す。何をやってんの!?と思わず叫びそうなホシノだったが、その言葉を言う事は出来なかった。

 

 

 

―――イサネを追った視界の中に映った()()によって。

 

 

 

なぜ今の今まで気づかなかったのだろうか。その存在に、その巨体に。ちょっと横を見ればもう一面に広がる程には巨大だというのに。

 

 

「う、うへぇ・・・」

 

 

いつも無意識的に言っている口癖をほぼ意識して言う。ホシノの視界に映ったのは巨大な鉄の巨人。カイザーの保有するパワーローダーなんて比じゃない程の大きさ。まさかこんなものがこんな不毛の砂漠に眠っていたとは。

 

「ホシノ!胸部装甲に乗って。」

 

イサネがその巨大さに圧倒されているホシノに声を掛ける。

 

「え、えぇ?だ、大丈夫なの?これ。」

 

「たかが100kg以下が乗ったくらいでこいつがどうにかなる訳ないでしょ。カイザーのパワーローダーと一緒にしないで。」

 

ホシノは何が大丈夫なのか自分でも分からないままに問うが、イサネはそれにほんの僅かに苛立った様に疑問に答える。イサネの声に引かれる様に、ボストンバッグの持ち柄の紐を両腕に通して背負ったホシノは足場から跳躍し、鉄の巨人の鋭角的なデザインの胸部装甲に着地する。その胸に着地しても鉄の巨人のその巨体は一切の揺れなくその衝撃を受け止める。

 

ホシノがイサネの元に辿り着くと、イサネは胸部と同じ鋭角的なデザインの頭部の近くにある僅かに溝のある箇所に付いている取っ手に手を掛け、それを開ける。空いた装甲板の中に見えるのはこの巨人について全く分からないホシノでも分かった、これはコックピットだ。機体の黒いカラーリングの割に内装は白基調で、コックピットの大きさはその巨体の割には結構狭い。

 

「入って入って~。これでも結構広さには自信があるから。」

 

「ひ、広、い・・・?」

 

既にコックピットのシートに座ったイサネの言葉に思わず返答に困るホシノ。一体これのどこが広いのだろうか。確かに多少頑張れば2人くらいなら乗れそうだが、何処をどう見ても一人乗りにしか見えない。ホシノはコックピットの入り口のふちに立ち、おずおずと口を開く。

 

「ねぇ、これ、一人乗りだよね?」

 

「そうだけど?」

 

イサネはさも当然と言わんばかりにそう言った。ホシノは思わず心の中で頭を抱えそうになるが、このまま駄々をこねた所で残された選択肢は歩く以外には存在しない。ホシノは背負ったボストンバッグの紐を肩から外し、抱える様にしてコックピットに足から入る。

 

「おぉ、結構軽い。じゃなくて、えーと、私の足の間に座って。バッグは抱えるか足元かな。」

 

「でもそれだと操縦できないんじゃない?」

 

これまたホシノの尤もな疑問。ホシノはパイロットシートに座ったイサネの足の間に座っているが、背凭れに完全に背を預けている状態のイサネでは操縦桿にギリギリ手が届くかどうかと言った所で、とても操縦できるとは思えない。

 

思えないのだが、イサネは少し言い淀んでから言う。

 

「まぁ・・・大丈夫よ。その為のって訳じゃないけど、こいつはとある措置を体に施してあれば適性次第で操縦桿なんて無くても操縦できるから。」

 

 

―――措置さえ体に施しておけば。

 

 

その言葉が示す事実から意図的に目を逸らし、体に抱えたボストンバッグを強く抱きしめる。恐らくイサネはそういう類のものなんだろう。体に何かをされた、もしくはその為だけに生まれてきた存在。意図的に意識からその言葉を除外したのに、体の中で駆動する無機質な機械をつい想像してしまう。思わずぶるりと体が震える。イサネはホシノのその様子を理解したのか、続けて言葉を掛ける。

 

「・・・別にボタン一つで死ぬような仕組みとかは入ってないし、脳みその中に機械とか入ってる訳じゃない。あくまで人体の構造に沿った措置・・・の筈だから。」

 

「・・・おじさんを安心させるつもりならもっとちゃんと言い切って欲しかったなぁ。」

 

自信なさげな言葉だが、それでも少し心が軽くなったホシノ。一方のイサネも完全に問題が無いとは言い切れない事に頭を抱えていた。確かにイサネや他リンクスが受けた強化手術はアスピナ機関の行う実験と違って適性さえあれば死にはしない代物だが、リンクス全体の定めとして基本的に短命になってしまうという点がイサネが大丈夫だと言い切れない大きな要因だった。

 

如何せんリンクスという存在の居場所は基本的に戦場だ。その為に戦いの中で死ぬというのが最も一般的な死因だろう。そして次にネクストというコジマ粒子を大量にばら撒き続ける代物に乗り続ける事による身体のコジマ汚染だ。そもそもネクスト自身ですら戦わずともコジマ粒子を出し続ければそれによって機体そのものも蝕まれるのだ。ならばその中にいるリンクスが汚染の影響を受けない筈がない。・・・とはいえ汚染よりも先に被撃墜時の機体の爆発などで中のリンクスも死ぬことが殆どの為、汚染による死は非常に稀有な例であり、その者が歴戦の猛者である事を示す証にもなる。

 

そしてイサネはコジマ粒子の汚染によって恐らく死んだと思われる経験がある以上、そう簡単に強化手術が安全なものとは言い切る事は出来ない。

 

「・・・副次的な要素の結果として短命なだけだから。」

 

「副次的な結果って、それ本当に大丈夫なやつだよね?」

 

「手術後にその人が進む人生の結果としか言えないし・・・そもそも手術によって何かある人はまず適性検査で弾かれるから・・・副次的というよりはその人の人生運次第だね。」

 

「うへぇ・・・なんか嫌だなぁ、それ。」

 

手術による科学の結果でありながら生死は運命とかいう曖昧な代物に、ホシノも微妙な反応をせざるを得ない。イサネはホシノの言葉に説得を諦めると、さっさと機体を起動させてAMSを接続する。最早肉体からの解放感となった感覚を感じ、聞き慣れた『メインシステム、通常モードを起動します。』という女性のCOMボイスを聞きながら、機体の視点となった視界で、拡張された感覚と機体のステータスをチェックしていく。

 

「うん、全ステータスオールグリーン。機器の劣化も無し。まぁそうだよね、見つけてから起動しかしてないし、動かしてすら無いんだからねぇ。」

 

「これ、凄いね。前のスクリーンにここの景色がよく見えるよ。」

 

ホシノの声に、自身の視点をネクストから自らの肉体へと移す、その視線からはホシノが物珍しそうにモニターの画面を眺めている。するとイサネの懐から着信音が聞こえてくる。視界を肉体に戻し、懐をまさぐってスマホを取り出して通話に出る。

 

「もしもし、標根イサネです。」

 

『白石ウタハだ。こちらの工事は既に完了したよ。そっちはそろそろ戻れそうかい?』

 

電話の主は工事の指揮を任せているウタハからだ。どうやらもう工事は完成したらしい。

 

「今は・・・まぁ、すぐに戻るよ。」

 

『すぐ?ここから見える場所に君の姿は見えないが・・・それにここは平地だ。見渡す限りに君達の姿が無いなら戻るのにそこそこ時間が掛かると思うが。私達もミレニアムに戻って記録やデータなどを纏めたいのだが。』

 

「あー、なら先片付けだけして戻ってていいよ。どうせ報酬は自動で振り込まれるようにはしてあるから。それとアビドスの皆は私が何とかして高校に送っていくよ。」

 

『・・・何か移動手段でもあるのかい?さっきは身一つで行ってしまったじゃないか。私達の乗ってきた輸送機も決して早くは無いが、それでも自動車よりは速度を出せるが。』

 

「はっはっは、そんなもん目じゃないから、大丈夫よ。いいから戻ってなって。」

 

そう言って通話を切る。ホシノの「大丈夫なの?それ。」という言葉に対し、

 

「まぁ見てなって、飛ばすから。気を付けてね?」

 

自信満々な様子のイサネにホシノは何か嫌な予感を覚える。その直後、イサネとホシノをコックピットに収めた鉄の巨人は、廃墟の天井を突き破って空へと飛び出す。

 

 

「え?ちょっと待って――うわっ!浮いてっ!?待って待って、まだ心の準備が――」

 

 

「はい、それじゃあれっつらごー。」

 

 

 

―――次世代型(NEXT)の名を冠する人型機動兵器アーマードコア・ネクストが、音速を超えて機動した。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

砂漠の景色が超高速で後ろへと消えていく。

 

 

「ね・・・ねぇッ!イサネちゃん!これっ、は・・・速過ぎるよおッ!!」

 

 

「久しぶりの自由の空だぁ!ははははははははッ!穢れなき空だ!ストレイドッ!ここが私の恋焦がれた空だッ!!あはっ!あひゃっ!?あひゃひゃひゃひゃひゃははははははーッ!!」

 

 

「イサネちゃん!?これ本当に大丈夫な――ぐぅっ、Gが・・・」

 

 

昼過ぎのアビドス砂漠にて、イサネはストレイドにホシノを乗せてキヴォトスの空を駆けていた。久しぶりのストレイド起動と、自らの半身でキヴォトスの透き通った空を飛べるというのも相まってかイサネはその全身で、心の中の全てで、その喜びを感じていた。・・・足の間に乗せたホシノの存在を忘れる程には。

 

一方のホシノにその景色を見る余裕は無かった。有り得ない程の速度から生み出される殺人的なGに抑えつけられ、まともに声を出す事も難しく、気を抜けば視界も黒に染まってしまいそうだ。

 

「イサネちゃん!イサネちゃん!・・・っぐ、聞こえてるっ!?って、聞こえてないか!」

 

ホシノは自らの体の頑強さにものを言わせ、何とかイサネに声を掛ける。しかし、その声はイサネに届いている様には見えない。ホシノから見るイサネは、完全に発狂している様にしか見えず、もう理性の欠片すらあるのか分からない。というかこんなGに抑えつけられておきながら一体何故イサネはここまで流暢に声を発することが出来ているのだろうか。

 

ホシノは何とか襲い来るGを堪えやすいように体に力を入れ、瞼に力を入れてモニターを睨みつける。モニターには綺麗な画質で映し出される外の景色が超高速で流れていく映像と、その右上には

Scan Data Onlyと表示された文字のあるミニマップと思わしき四角形。その下にはRA、LA、LBとあり、それぞれ全く異なる関連性の見いだせない数値が表示されている。その下には2種類のバーがあり、片方にはAPという文字がそれぞれ100%という数字が出でいる。

 

だがAPとは何だろうかなどと考える余裕は無い。だが幸いなことにイサネはただ飛び回っている訳では無いようで、それを確信したホシノはただただひたすら自らを襲い来るGに耐え続ける。

 

「あははははっ!ははは――はっ!?・・・あ!ご、ごめんホシノ、すっかり忘れてた。久しぶりのストレイドが余りにも嬉しくて・・・」

 

「うあぁぁー・・・ひどいよイサネちゃん・・・うぐぐ、きもちわるい・・・」

 

廃墟より飛び出す事数分、イサネが漸く正気と理性を取り戻す。機体が減速し、ホシノの体に襲い掛かって来ていた殺人的なGが徐々に緩くなる。ホシノは何とか荒い呼吸を整えながら呂律が弱くなった口でイサネの謝罪に苦言を入れる。

 

「本当にごめんなさい。そうだった、乗せてるのリンクスじゃなかった。えー、時速300~200kmで移動する。目的地まで後2分想定。」

 

「200km?だいぶ速くない?」

 

「ネクストがブースター吹かして200kmは遅い。2、300kmのGは我慢して。」

 

イサネはストレイドの速度をブースターで動ける下限近くまで減速させ、砂漠を駆け抜ける。ホシノは改めてモニターに映る景色を眺める。モニターはこれまで見たどのカメラの映像よりも鮮明に外の景色を描写しており、高速で移動しているのにも関わらず画像に一切の乱れが無い。

 

 

「おー、見えた見えた。」

 

モニターを眺める事少しの時間、イサネの言葉通りモニターにはエンジニア部主導で建設した窓の無い黒いビルの様な建物が小さく見えており、その下に小さくブルーシートと思わしき青が見える。

 

「うへぇ、もう着いちゃったの?昼寝する暇もないねー。」

 

ホシノがこの黒鉄の巨人の速さに驚いていると、イサネがまた不吉な事を口走り始める。

 

「じゃ、OBで飛ばすねー、しっかり掴まっててー。」

 

「おーびー?それは一体なに――」

 

「オーバードブースター準備よし。そいじゃ、ごー。」

 

ホシノが嫌な予感を感じ取る間もなく機体が音を超えて超加速する。再び殺人的なGがホシノの体を押し潰す。

 

 

「到着まで後10秒~♪」

 

 

「うぅぁぁああああーっ!?やめてぇぇぇぇええーっ!!!」

 

 

ストレイドのコックピットに、ホシノの悲鳴が反響した。

 

 

 

 

 

 

 

『改めて、凄まじいですね・・・大きさといい、その速さといい・・・』

 

 

「まぁ、これはこれでも欠陥兵器に類する物だから余程の事が無い限り使う事は無いけどね。あ、それと依頼の迅速な遂行ありがとう。報酬は既にアヤネの口座に送ってあるから、確認しておいてね。何か不備があったら連絡して、すぐ補填するから。」

 

 

OBによる再加速によってストレイドの新居に到着したイサネは機体を新居の前に立たせ、コックピット内でGに押し潰されてぐったりしているホシノを抱きかかえながらAMSを切らずに外にいるアヤネと臨時で設定した無線で話していた。

 

「うーん、外観は問題なし。内装は最悪自分で後から直せばいいから・・・後は、格納庫のシステムか。まぁそれは後でチェックすればいいか。」

 

『あの、エンジニア部の皆さんはもう帰っちゃったみたいですけど、もう解散の流れですか?』

 

「送っていくから大丈夫。左手と胸部装甲に二人ずつで乗って。あー、アヤネかセリカ、どっちか一人コックピットに入って。」

 

そう言って機体を操作し、膝をついて左手を広げて地面に付けて胸部のコックピットのハッチを解放する。イサネはシートに預けていた体を起こすが、AMSプラグに接続されているコードは長さが2~3m程なので、ハッチから身を乗り出すことは出来ない。その為、視点のみをストレイドに移し、ストレイドの威容に目を輝かせるシロコと物珍しそうに機体を見ていたノノミがそれぞれ左手と胸部装甲に乗るのを確認する。

 

「え?これ本当に入れますか?」

 

「辛うじて入れるから大丈夫。私とホシノの間に身体入れて。シロコとノノミ!飛ばさないとはいえ結構揺れるから、しっかり掴まっててね!セリカ、胸部装甲に。ノノミと同じくハッチ閉めた時の取っ手に捕まって!」

 

「ん、大丈夫。」「は~い。」「分かったわ。」

 

アヤネは恐る恐るコックピットに入り、ホシノとイサネの間に身体を挟む。そこでやっとホシノの様子を見たのか「ホシノ先輩!?大丈夫ですか!?」と声を荒げていたが、ハッチが閉まった事で遂に動き出すのかと背筋を正す。

 

「準備で来たね?よし、動くよー。アヤネ?ブースター吹かさないから緊張しなくていいよ。歩くだけなら時速100kmも出ないから。」

 

「イサネさん、これだと操縦桿に手が届かないと思うんですが・・・」

 

「それは大丈夫よ。これは欠陥兵器と呼ばれるだけあってそれに相応しい操縦桿に寄らない操縦システムがあるから。」

 

イサネの掛け声と共にストレイドはアビドス高校の方角へ向けて歩き出す。先程の超速に比べると雲泥の差の速さだが、全高10m強の人型が一歩踏み出すだけで何mという距離を進むことが出来る為に速度にして約50km/h程となる。故にアビドス高校に鉄の巨人が到着するのも、そう時間は掛からなかった。ものの十数分でアビドス高校の現校舎が見えてくる。

 

イサネは雑談をしながらストレイドの視点から機体を徒歩で進め、アビドス高校の正門前で停止させる。改めてノノミとセリカにしっかり掴まるよう指示し、機体をしゃがませてハッチを開く。

 

「着いたよ。砂漠で走らせる車よりは早いと思うけど。」

 

「最初からこれ位ゆっくりでもよかったんじゃないの~?」

 

「ホシノ先輩、そんなこと言ったら私達歩きでここまで帰る事になったかもしれないでしょ!」

 

「でもセリカちゃん、あの速度は流石におかしいと思うよー?Gで押し潰されて喋るのも難しかったのに。」

 

「ホシノ、速く下りないとアヤネが下りられないから早く下りて。」

 

下らないことを言い合いながらストレイドから降りるアビドスのメンバー。全員が荷物含めて降りたことを確認したイサネは、AMS接続を切ってハッチから身を乗り出して別れの言葉を告げる。

 

「依頼の完遂、改めて感謝する。報酬の支払いはアヤネの口座に送らせてもらった。思えばカイザーの一件からの付き合いだけど、またしばらく別れる事になる。」

 

「感謝したいのはこちらの方です。ホシノ先輩の奪還に協力してくれた上にアビドスの借金の利息も無くしてくれた貴方には感謝してもしきれません。」

 

アヤネのその言葉にホシノが「うへへ。」と反応する。イサネは意識してそれを無視し、言葉を続ける。

 

「それについては狂人の気紛れとでも思って欲しい。その場の思い付きだからね。さて、暫くの別れにはなると思うけど、また何処かで再会できることを祈ってる。」

 

それだけを言い、イサネはコックピットの中に入ってハッチを閉める。AMSを接続し、機体を反転させる。アビドスの生徒達の別れと再会を祈る挨拶を聞きながら数歩機体を進め、機体から発されるコジマ粒子の影響下に皆がいない事を確認。そしてストレイドのオーバードブースターに火を入れ、OBを起動。数秒のチャージの後、爆発的な量の砂を巻き上げながらストレイドは音を置き去りにして飛んでいく。

 

 

「・・・」

 

 

音速を超える速度で昼過ぎの砂漠を駆けながら、イサネは一人考える。

 

(これでストレイドの修理は出来なくても最低限の整備や点検をする場所は確保できた・・・さて、これから何しようか。思えばキヴォトスに来てからはここに慣れる為に、その後は見つけたストレイドの為に動いてきた。でも、その後の事なんて考えもしなかった・・・)

 

OBを切り、半減した速度のままイサネは考え続ける。

 

(リンクスになった時とも違ってここでは常に依頼に縛られる義務も無い。良くも悪くも私は自由になった。首輪付きの私が、人類の駆逐にあれほど妄執した私が。)

 

そう、これまでイサネ、もといイレーネは常に何かに戦い続ける事を強制されていた。幼少の頃はともかくとしてリンクスになってからは企業の依頼で、首輪を食い千切ってからは人類を消し去るために。

 

(だけど今はどう?私の首に首輪はないし、私の惹かれたこの青を汚す存在もいない。)

 

そう、イサネを縛っていた首輪はキヴォトスには存在せず、殺すべき人類もここにはいなければキヴォトスのこの透き通った青空を穢す存在もいない。

 

そう、分からなくなっているのだ。自らの存在意義が、キヴォトスで何をすればいいのかが。常に首輪か使命に縛られて生きてきたイサネにとって、自由というのは少々持て余すものでもあった。

 

(自由、か・・・これが。・・・為すべき使命も、自らを縛る飼い主もいない・・・)

 

それを自覚すると、心の中にぽっかり穴の開いたようななぜだか少し虚しい気持ちになる。これまで常に目的があり、頭の中で何かを考え続けていたイサネにとってその虚しさはそう味わう事の無い感情だった。

 

(うだうだ考えていても埒が明かない・・・ね。セレンならそう言いそうだな。ははは、ならそうだな、今はただ何も考えずに生きても良いかもしれない。人類の虐殺だって直ぐに出した答えじゃない。それにしたい事が無くても私にはまだ闘争心が残っている。)

 

自分の感覚のままに生きる。そう心に決めたイサネは姿勢を正し、ストレイドを加速させる。

 

 

(答えを出すのが全てじゃない。私は二度目の答えを出す為に、今は自分に従って道を選ぶ。)

 

 

 

―――それが首輪の外れた首輪付き()の在り方だ。

 

 

 

目の前にはストレイドとイサネの新居が見える。機体を減速させて入り口付近の端末をハッキング。格納庫入り口の隔壁を解放するよう指示を出す。すると建物の壁の一面が全て開き、正に新築といった綺麗さの格納庫が見える。

 

イサネはストレイドを格納庫の中に入れ、隔壁を閉じるよう指示を出す。

 

「キヴォトスでの当分の行動指針は決まった。しかし――」

 

ゆっくりと閉まる隔壁を待ちながらイサネは独り言ちる。隔壁が完全に締まるのを確認してハッキングを解除、AMS接続を解除する。そして見慣れたコックピットの天井を見上げる。

 

 

 

「セレン、リリウム・・・元気にしてるかな・・・?道を外した私が言うのも何だけど、ここも結構悪くないよ。」

 

 

 

その呟きは懐かしんでいるというよりは寂しさを感じている様にも見えた。

 

 

 





何故いつもこう予定よりも話が捻じれるのか...これが分からない。

あと読者様方の感想が本当にモチベーションに響いている事を実感しています。改めて、ご感想いただきありがとうございます。素人筆ながら、必死に頑張らせていただきます。

あと余談なのですが小説書く練習として書いた小説があるのですが、現在完全非公開になっています。何なら途中で更新が止まっている上に続く可能性もほぼ無いです。

・・・それでも読みたいって人います?



次回、機械仕掛けのパヴァーヌ編

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