透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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一話見直したら結構ガバが多いなと思いました。

オリジナル展開の出しやすいacfa編ですらこれならブルアカ編に入ったらどうなってしまうんだ・・・ストーリーのキャラの台詞なんて碌に分からない・・・(震え声)

おおぉいどうするよ・・・どうするんだよ・・・

あ、今回ですがどんなに長くなっても無理やりプロローグは終わらせます。
長くなって読みにくくなったらごめんなさい。


答え、成就せず

 

 

 

 

―――首輪付きを潜伏候補の内の一つで発見した。

 

 

 

 

 

シリエジオのコックピットの中でその知らせを聞いた時、セレンの心の中で遂に自分の馬鹿弟子に会えるという喜びと、今更20億以上の人間を殺した奴に言いたい事の全てが伝わるのか、そのまま撃ち殺すなり殺し合うなりで終わりではないのかと考えてしまう虚しさの二つが渦巻いた。

 

その二つの感情によって生まれた迷いによって、セレンはシリエジオの操縦桿を握りながらも、ペダルに足を掛けながらも、そのどちらも動かせずに居た。

 

『セレン様?イレーネ様を発見したとのことですが。行かないのですか?』

 

「あ、あぁ、いや、ちょっと待ってくれ。」

 

突然入ったシリエジオの隣にいるネクスト――アンビエントのパイロット、リリウムからの突然の通信にしどろもどろになりながらそう返す。

 

『行かないのですか?では、リリウムは先に向かっていますので。』

 

不意打ちの可能性を考えていない様なリリウムの物言いに、セレンはそれを引き留めるように、

 

「不意打ちの警戒くらいはしておけ。まぁ、お前なら言わなくても理解していると思うが、相手が相手だからな。」

 

『心得ています。ですが、そうですね。改めて、心に刻んでおきます。』

 

「わかっているか、ならいい。行こうか。」

 

そうしてシリエジオとアンビエントは機体を並べ、首輪付き発見の報のあったポイントに向けて機体を進めていく。

 

 

 

―――――セレンの心の中にある何かの予感は作戦開始からその芽を長く伸ばしていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

機体を進めること数分。シリエジオとアンビエントの目の前には、廃墟にしてはかなり大きなサイズの建物のらしきものがあった。廃墟にしては人の手が加わっており、よく観察するとその廃墟は稼働していることが、そのシステムが今も生きていることがネクストのメインカメラから送られてくる映像から確認できる。

 

セレンは、ほぼ無意識的にAMS接続を行う。自分の感覚が無理やり拡張され、更に自分の中に何かが入り込んでくる様な不快感と感覚が拡張されたことによる微かな全能感。二つの反対の感覚が同時に流れ込んでくる。その奇妙な感覚はリンクスとして戦い続けてきたセレンですら未だ完全に慣れることは無い。

 

しかし、その感覚を慣れた様子で受け流し、即座に周囲を警戒。不意打ちや罠の類が無いかを警戒するが、そういったものが隠されている様な隠蔽痕は見当たらない。

 

『セレン様、この廃墟の内部にネクスト、ストレイドの姿を確認しました。起動状態にありますが、動く気配が無さそうです。今、見えました。あっ、ストレイド、コックピットも開いています。どういう事でしょうか?』

 

リリウムのその報告が、セレンの中で余計に警戒心を高める。セレン自身、別に第六感が常人以上に優れている訳では無い。しかし、セレンの中で芽を大きくしていたその予感の正体が明らかにこの廃墟の中にあると言わんばかりにその芽をより大きく伸ばし、やがて柔らかいその茎が徐々に硬い樹木のそれへと変質。枝を更に伸ばしていく。

 

「起動状態だというにコックピットが開いているだと?何の冗談だ。我々がネクストから降りて無防備になったところをAA(アサルト・アーマー)で自分諸共吹き飛ばすつもりか?」

 

アサルト・アーマー。ネクストがOBを行うために使うオーバードブースターに新たに追加された機構で、セレン・ヘイズが霞スミカとして活動していたリンクス戦争当時には存在しなかった兵装だ。一部のブースターに搭載されているAA機構によって、普段ネクストの防壁であるPAとして展開されているコジマ粒子を攻撃に転用。PA分のコジマ粒子を圧縮し、そのまま機体の周囲に球状に解放することで発生するコジマ粒子の衝撃波もとい爆発でその範囲にある全てを消し飛ばすという兵器。PAに回しているコジマ粒子を全て使うだけあってその威力は圧倒的の一言に尽きる。まず単純な破壊力はまともに喰らおうものなら超重装甲であるAFとて一発で沈む事は無いが、それでも通常のネクスト兵器なら通らない装甲部にすら破壊を無理矢理ねじ込むことが出来る。そしてネクストに対してもコジマ粒子そのものの攻撃の為、相手ネクストのPAを強制的に打ち消し、ガラ空きになった本体に直接その威力を叩き込めるという正に当たればほぼ必殺と言える。そしてその爆発は、ネクストの優れたFCSにすらロック不可の表示を出す程度には強い閃光を放つ。しかし、欠点として、AAを発動させる際のコジマ粒子をチャージする時、普段微かに緑の膜が見える程度のPAの光が明らかにその光量を増し、機体を覆いつくす程の緑に発光する為、コンマ数秒以下の反射神経を持つリンクスには気付かれやすく、チャージからの発生も遅いので、ただAAを放つだけなら粗製リンクスだって喰らわないだろう。そして一番の欠点はAA使用後はコジマ粒子を大量に外へ放出する為、ただPAを剥がされた時よりもPAの再展開に時間が掛かるという事。PAの無いネクストの耐久性など、ハイエンドノーマルよりも少し硬いだけでしかない。

 

このように直撃すれば必殺でありながらまぁまず当たらないという第二のパイルバンカーの様な性能をしているが、ホワイトグリントを筆頭とした一部の上位陣はこの癖のある武装を的確に相手の攻防の間隙に叩き込み、さもノーリスクハイリターンの兵装ですと言わんばかりに使いこなす。

 

セレンの今乗っているシリエジオはリンクス戦争時のネクストであり、その機体構成もリンクス戦争時から変わっていない為、AAを使うことは出来ない。

 

だが、今のストレイドには搭載されている。数週間前の作戦にてホワイトグリントとの戦闘にて数回、ストレイドからAAと思わしき緑の爆発が確認できている。AAと同じコジマ粒子を直接扱うコジマキャノンではAA規模の爆発は出せない。

 

そしてストレイドがAAを搭載している以上、迂闊な接近はおろかネクストから出ることも避けるべきだ。いくらほとんど当たらないAAと言えど、あくまでネクストのサイズとその機動力だから当たらないのであって、人間程度の大きさではAAの効果範囲で発動された時点でまず生存は不可能だ。ましてやパイロットスーツを着てすらネクストのPAには耐えることは出来ず、接触した時点で即死だろう。

 

報告にあるコックピットが開いている点の意味は理解できないが、ストレイドが起動しているというその事実だけで接近することは憚られる。

 

「・・・このまま動き出す前に破壊することを提案する。」

 

セレンは廃墟を包囲するノーマル部隊やリリウムに聞こえる様に味方のみのオープン回線でそう意見する。

 

『セレン様?何を言って・・・』

 

リリウムから疑問の言葉を敢えて聞き流し、更に言葉を続ける。

 

「今報告ではストレイドは起動状態にある。先の作戦でホワイトグリントとの交戦時において奴はAAを搭載している事が確認されている。迂闊に接近しようものなら、奴のAAによって焼き払われることは確実だ。だから、中、遠距離からの砲撃での廃墟ごとストレイドの破壊を提案する。」

 

『ふーむ、確かにそれが事実なら接近は危険だな。ネクストと違ってPAすら持たないノーマルではAAを発動された時点で終わりだ。その提案は実に理に適っている。』

 

ノーマル部隊を指揮していた隊長がセレンの提案に対してそう答える。しかし、リリウムはその様子に納得のいかない様子で、

 

『そんな・・・せめて、イレーネ様と会話することすら出来ないと・・・』

 

「会話、か。私もあの馬鹿に言いたいことは山を越えている。だが、奴はもう人類種の天敵だ。人類の殺戮の為に最後の最後で何をするかなぞ想像もつかない。その最後の道連れで死ぬのが私だけならそこまで問題ではない。だが、巻き込まれるのは私以外にもお前やノーマル部隊だって含まれる。そうあっては流石に看過できる問題ではなくなる。」

 

『っ!!!』

 

リリウムが息を強く飲む様な音が聞こえる。何かを悔しがる様な、後悔するかの様な。そんな感情を僅かに感じさせながら。

 

セレン自身、イレーネに言いたい事など山ほどある。だが、特例で復帰したとはいえリンクスだ。現場にリンクスが居るならそこに居る人間に被害が及ばないようにするのはリンクスの務めだ。

 

 

通信の場に、沈黙が流れる。誰もそこに声を出す者は居ない。そんな中、セレンが自分もアイツに言いたい事は山ほどあると言おうとして、口開いた瞬間。

 

 

―――聞き覚えのある通知音。

 

 

セレン個人の通信に通話を掛ける者が居ることを知らせる通知音。

 

それを見たセレンは思わず息を呑む。この通信回線を知っているのは私とあいつだけだ。あいつがリンクスとしてデビューする時にセレンとの間に作った極秘の個人回線だ。しかし、イレーネがセレンの手を離れたその時からもう使われていない。

 

『セレン様?何かありましたか?』

 

リリウムの尋ねる声。このまま黙っている訳にもいかず、セレンは答える。

 

「私の個人の回線に通話が掛かって来ている。この回線を知っているのは私と・・・あいつだけだ。」

 

『イレーネ様が・・・!?』

 

『なんだって?どうして急に・・・?』

 

リリウムもノーマル部隊の隊長も、驚愕を露わにする。セレンは続けて、

 

「会話の内容のみをここに載せる。私以外の声はあいつに聞こえないが、あいつの声は聞こえる。では、開くぞ。」

 

通信の設定を変更し、通話に出る。

 

『はは、はははは。やっと、やっと、で、た・・・』

 

「・・・」

 

間違いなくセレンの知っているイレーネの声だ。セレンは答えない。

 

『返、事、なし・・・か・・・』

 

だが、その話し方がおかしい。別れる前のイレーネの発音は何も問題は無かったはずだし、身体にこれといった異常も無かったはずだ。

 

『はは、は。返事、してく、れ、ないと、よ、うけんが、きりだ、せ、ない・・・な・・・ぁ。』

 

明らかに通信状況の悪さ故に途切れるものではない。発声者本人に由来するものだ。

 

「・・・よくもまぁ、あれだけの事をしておいてぬけぬけと顔を出せたな。で、要件は何だ。」

 

『やっと、・・・っあ、へ、んじが、っつぅっあ、かえってきた・・・』

 

イレーネの途切れ途切れその声に苦痛に耐える様な呻きが聞こえる。

 

「いいから早く要件を話せ。」

 

セレンがそう急かすと、

 

『はぁっ、はぁっ、・・・すぅーーっ。』

 

粗い呼吸音と深く息を吸う音。

 

『今起動してるストレイド、もう動かせない。』

 

「は?」

 

意味が分からない。

 

『だから、ストレイドはもうここから動かせないの。』

 

「何を言ってるんだ。お前は・・・」

 

発言の意味は理解できた。だが、その意図が理解できない。

 

『知ってるよ。リリウムはセレンの静止を聞かずに私に会いに来ようとしてること、セレンだって私にっ!?づぅぁっ!!ゔぁっ、・・・私に言いたいことが・・・山ほどあるってこと。』

 

途中で呻き声を発しながらまさか今セレンとリリウムの本音を言い当てた。セレンはまさか自分の思いを当ててきたイレーネに驚くも、

 

「ほぅ?通信の傍受でもしたのか?大したものだな。」

 

『教えたの・・・セレンでしょう?そんなことは、どうでもいいの・・・貴方達が話したい事があるように私も・・・セレン、貴方に最期に聞いておかないと・・・いけないことが・・・』

 

聞いておかないといけない事。何だろうか。セレンは自身の記憶の中を漁ってみるも全くその心当たりがない。

 

「聞いておきたい事だと?」

 

『ははは・・・まぁ、通信越しじゃ、何もわからないから・・・私の今の姿だけでも見て行ってよ。・・・人類種の天敵の無様な最期を。』

 

最期。確かにこいつは最期と言った。最期。その言葉通りなら・・・

 

「・・・進言はしておいてやる。ただ、期待はするな。そして、お前の居る廃墟への攻撃が始まったら、それは拒否の合図だ。いいな。」

 

そう言い、つい一方的にイレーネとの通信を切る。

 

『・・・返事くらい聞いても良かったのでは?』

 

軽く咎めるように言うリリウムに対し、セレンは「あー、」と頬を掻き、

 

「その、一方的に通信を切るのはお互いに良くやる事だ。誤解させたなら謝罪する。」

 

『・・・よく、オペレーターが務まりましたね・・・』

 

リリウムの驚きと呆れの混じった声。

 

「そんなことはどうでもいいんだ。あいつはああ言っていたが、どうする?」

 

セレンは自分とイレーネのお互いに治る気配の無かった悪癖を棚に上げつつ、イレーネの話について意見を求める。

 

 

『リリウムはイレーネ様に会いに行きたいです。私も彼女に聞きたいことがありますので。』

 

 

リリウムが淡々と、しかし確かな意思を持ってそう告げる。その様子は例え何を言われようともその遺志を曲げるつもりは無い様だ。

 

「・・・あの老人の元に居た時とは違って、根はかなり頑固だな。なら私も行こう。元々迷ってはいたが、元は私の蒔いた種だ。刈り取るか、その責を負わねばならない。」

 

『リンクスが二人も行くのか。何かあった時俺たちじゃどうしようもないが・・・まぁ、何とかしてみようか。』

 

答えは決まった。セレンはAMSの接続を切断。慣れた不快感を無視しつつ、シリエジオのコックピットで備え付けの端末を操作。機体は起動させたまま、PAを切り、即座に飛び乗ることが出来るように姿勢を制御。姿勢の安定が出来るとそのままコックピットのハッチを開放。そのまま飛び降りる。自らの機体の装甲を蹴り、軌道を変えつつも衝撃を殺し地面に着地。その様はまさに一流スタントマンの行うアクロバティックと言われても何ら違和感のない動作だ。

 

隣を見ると停止したアンビエントからもふわりとした動作で地面に着地するリリウムの姿が見えた。そしてお互いの準備が出来ていることを確認。

 

「行くぞ。一応、警戒は怠るな。」

 

「はい。セレン様。」

 

二人は虚城の如き廃墟に足を踏み入れる。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

―――巨大な鉄の鳥が火を噴きながら墜ちていく。

 

 

 

 

その様をただ眺めながらイレーネはただ一人、ストレイドのコックピットの中でただ乾いた笑いを上げ続けていた。しかし、その笑いは長くは続かない。

 

 

「はははっ、はははははっ、ははは・・・・・はぁ、所詮、作り笑いじゃね・・・」

 

 

諦めたようにそう呟く。しかし、コックピット内に沈黙は訪れない。何故なら、ストレイドの通信装置から様々な声が聞こえているから。

 

 

『・・・クレイドルが・・・あぁ、クレイドルが・・・』

 

『おい、おい、ふざけんな。おい!おい!』

 

『首輪付き・・・一体どれだけ殺せば気が済むんだっ!!もう十分殺しただろうがぁ!!』

 

『やれ!やれ!首輪付きを殺せ!奴は今動いていない。やるなら今だ。速くPAを剥がせ!』

 

(下らないなぁ。)

 

飛行型のノーマルAC部隊から傍受した通信から聞こえてくる怨嗟の声を一身に受けて尚、イレーネの心は微動だにしなかった。リンクスとして戦場に立った時から、人類を消し去ると決めたあの時から、もうその程度で動揺を見せる心なんてものは当に死んでいた。

 

『おい、聞こえているんだろう。首輪付きめ(獣風情が)、一体これまでどれだけ殺してきた。100万か?200万か?どちらにしろ貴様はその咎を受けろ。大罪人が。』

 

『もう世界にお前の存在は不要なんだよ。ただ殺すしか能のない馬鹿はな!』

 

『殺されてきた人達の怨嗟を思い知れ。この外道が。』

 

しかし、それでも通信は怨嗟の罵声を乗せ、騒ぎ続ける。イレーネは、その怨嗟の声に苛立ちを覚え、それを無意識に無視しようとする。しかし、そこでハッと思い出す。もう自分の職である傭兵は当に失効している。なら、多少敵をお喋りしても、それを咎める馬鹿共(企業)はいない。

 

(黙らせるか、あの虫。)

 

回線の設定を操作、全域のオープン回線に設定し、息を吸う。

 

「はは、所詮は権力の笠に着て実力も意志も伴わない有象無象の一部が、自分らの失態をこっちのせいにするなんてね・・・実に考慮に値しない有象無象に相応しい立ち振る舞いだ。」

 

ノーマルから聞こえる声と同じように言う。嗤う様に、貶す様に、そして命令を聞かない機械に対して苛立ちを見せる様に。

 

「あのね、人の足を引っ張る事しか出来ないお荷物さんの方が世界には要らないものなの。わかる?他者の足を引っ張る為だけに自らの可能性すらも閉ざす事をさも当然と言い張る者達と、それにただ盲目的に従う事を正義の宣う意思の無い群れなんて不要以外の評価は有り得ない。そうでしょう?」

 

言い切ると同時に動く。右手に装備されたライフルの残り少ない残弾をここで全て使い切る勢いでネクストの機動に反応出来ないノーマルへと向け発射。ほぼ外れる事無くノーマルに命中。その全てを墜としていく。

 

(自分の家と共に死ねるんだから、本望でしょ。)

 

適当に思ってもいない事を心の声で呟きつつ、機体を翻す。クレイドル12は今を持って消滅した。恐らく中継用のカメラの類が何処かしらにあるだろうが、ネクストの機動には着いて来れない。なら無視が一番だ。

 

機体を加速させ、撃沈させたクレイドル12から若干離れた廃墟を目指して夜の帳の下りた空を駆ける。

 

 

 

 

 

 

目的地に着くころにはもう地平線に光が見えていた。廃墟のすぐ横に機体を着地させ、極めて繊細な動作で廃墟の中へストレイドを侵入させる。そしてハンガーの思わしきスペースに機体を安置させ、機体の状態をチェックするプログラムを起動。ネクストの視界と一体化した己の視界に次々と機体状況が表示される。

 

(エラー箇所が1、2、3・・・4?あ、いや、5つ増えたな。うん?コジマ粒子の残量の警告?ジェネレーターのステータスがレッド?・・・ははぁ、もうコジマ粒子の生成が出来なくなってるのか。残量的に・・・PA切って限界まで節約して、戦闘行動はあと15分程度か。PA張ったら5分か。)

 

コックピットの中で息を吐く。そしてまだ残っていると想定しているリリアナの残党の拠点を洗う。しかし、その全てからの連絡はまだ来ていない。

 

(うーん、駄目そう。こうなると物資の略奪が必要になるけど・・・まぁ、無理かな。)

 

イレーネは自分の身体を眺め、何かを諦めたかの様に溜息を吐き、ストレイドのモニターから見える廃墟の天井を見上げる。

 

(ここいらが潮時・・・まだ、成し遂げて無いのに・・・でも、もう私も、その半身も、もう限界。はは、オールドキング、はもうどうでもいいや・・・あれの誘いに乗る形でここまで来たけど、結局なんであんなことしたかったのか聞けなかった・・・)

 

心の中でこの世への未練を吐き、AMSの接続を解除する。

 

「うぅぅああっ、ああああああっ!!・・・うあっ。」

 

その瞬間、いきなり体の左半分の感覚が消える。左足に至っては感覚はおろか、動きすらもしなくなる。そして視界の左半分も真っ暗になり、残った右側の目に映る視界はぼやけ過ぎていてほとんど見えない。そして凄まじい倦怠感と吐き気がイレーネを襲い、整った顔が苦しげに歪む。

 

しかし何とか体を動かし、コックピットの収納にある何かを掴み、耳に掛ける。するとほとんど景色を移さない視界のぼやけが消え去り、モノクロの景色が広がる。

 

「ふふっ、こ、れで、さい、ごの・・・」

 

声すらまともに発声出来ない。口を大きく開いたりと動かし、口の回りを良くする。更に収納スペースから何かの瓶を取り出す。パイロットスーツの上から羽織ったコートのポケットにしまい、そのままコックピットのシートに背を預ける。

 

「せれ、んと、は、な、すとき・・・ちゃ、んと、こ、えだせ、る、よ、うに・・・」

 

そのまま目を閉じながらイレーネは直感する。

 

 

(恐らく、再会は近い・・・そして、私の限界も・・・)

 

 

そのまま眠りに身を任せる。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

比較的にまだ建物として頑丈さを残している廃墟を二人で進んでいくとそれはそこに居た。

 

 

 

高さ10mにある足場の横には悲惨な傷を多く刻んだ機体――ストレイドが物言わずに佇んでいる。だが、その機体の中心線が通るであろう位置の足場にストレイドと同じ方向を向いて置いてある椅子があり、そこに人が座っている。・・・イレーネだ。一目見て分かった。

 

「イレーネ様っ!」

 

隣を歩いていたリリウムが声を上げて駆け出す。

 

「あ、あぁ、その声は、り、りうむ、だね・・・」

 

「イレーネ様っ、一体どうなさったのです。最後にリリウムと話した時にはそのような、まるで病人の様なお姿では無かったというのに・・・」

 

「・・・客人を招いておきながら、肝心の家主はその様か。そんな風に迎えろなんて教えたつもりは無かったんだがな。」

 

「あぁ、その、セレン、い、ま、わたし、片方耳が・・・聞こえ、なくてね。」

 

セレンが何か喋っていたのは聞こえたのだろう。しかし、その内容までは聞き取れなかった様だ。

 

「・・・で、話したい事ってなんだ。」

 

セレンはその事実に敢えて聞かなかった事にし、話を進めるよう促す。それを聞いたイレーネは微かに頷き、声の調子を整える。そして、

 

「じゃあまずは単刀直入に、簡単に言って、私はもう長くない。というか明日か、明後日にはもう死んでるんじゃないのかな。そんな感覚がする。」

 

リリウムが驚愕の表情を見せ、言葉もなく驚く。セレンは心の中で廃墟に入る時から感じていた予感の正体に気付く。そしてそれと同時に強烈な喪失感がセレンの全身を駆け巡る。

 

(そうか・・・私は何だかんだ言ってこいつの事を、自らの子の様に思っていたのか・・・昔の言葉だが、最大の親不孝は親より先に死ぬことなんてのは・・・本当に、よく言ったものだ。)

 

「イレーネ様?それは本当なのですか?貴方がリンクスになってまだ一年と少々、長くても2年前後のはずです。いくらリンクスと言えど戦場における死以外の死は2年程度では・・・!」

 

リリウムはイレーネの戦場による戦死以外の死が信じられない様だ。それに対し、イレーネはリリウムの言葉に反応を返さず、

 

「リリウム、私の名前、教えてもらったのね。セレンから貰った、私に残った唯一の人間性。ただ人を殺すだけの獣になった私が私でいられるの最後の希望。」

 

「リリウムはその様な事は聞いていません。答えてください。貴方は何か持病でも持っているのですか?」

 

そんなイレーネの話を突っぱねる。そんなリリウムにイレーネはさも当然と言わんばかりに答える。

 

「リンクスなら誰もがいずれ支払う力の代償だよ。いくらAMS適正が高くても、元々害のあるものを振り撒く兵器に乗っているんだから。」

 

「コジマ粒子による身体の損耗でしょうか?ですが健常者がリンクスとなって2年前後でコジマ粒子による影響を受けるなど、リリウムは聞いたことがありませんし、過去にそのような事例もありません。」

 

セレンもこれにはリリウムに賛成だ。リンクスになる者で2年でコジマ粒子による病死はまぁまず有り得ない。確かに生体に害のあるコジマ粒子と言えど、リンクスが2年前後でコジマ粒子によって病死してしまうならそもそも欠陥兵器で済む話ではない。

 

セレンがイレーネの言葉を信じ切れずにいるとイレーネがそのまま続ける。

 

「確かにリリウムの言う通り、リンクスは2年ちょいで病死するようなヤワな造りはしていない。でも私は別。だって今の私は人類種の天敵。常に世界に命を狙われ、存在を恐れられる。そして私の答えの成就に時間なんて掛けていられない。カーパルスで貴方達を墜としてからネクストを降りている時間なんてあったと思う?」

 

その言葉にセレンもリリウムもハッとしたように目線をイレーネに向ける。そこまで聞かずとも物事の理解できる二人だからこそイレーネが種を明かす前に答えを頭の中で弾き出せてしまった。

 

「・・・あの後から殆どネクストに乗りっ放しだったという事か。」

 

セレンがその答えを代弁する。

 

「そういうこと。正確にはAMSも殆ど繋ぎっ放し。それでも機体の整備とか肉体の整備で降りなきゃいけないことはちょくちょくあったけどね。」

 

「AMSを繋ぎっ放しだと?最早リンクスではなく生体パーツに近いな。」

 

「はは、それ、私も思った。もうこれ人間じゃないなーって。あ、でも体洗ったり体に異常が無いかの検査の時は降りていたよ。まぁ、それもそのうち本当に肉体の整備になったんだけどね。」

 

「文字通り・・・もうそこまで体の方は悪くなっておられるのですか?」

 

リリウムの問いにイレーネは淡々と答える。

 

「うん。えっと、今起きている症状としては、まず左半身の不随かな。もう触っている感触が無い。左手は感触が無いなりに動くけど、左足はもう駄目ね。外からの力が無いと動かない。」

 

その言葉にリリウムがイレーネの左手を取るも、イレーネは「うん、今見えているから分かるけど、目を瞑ったら何されても気づかないね。」とさらりと言う。

 

「左半身がその様で、よくコックピットから出れたな。」

 

セレンのその言葉に軽く笑いながら、

 

「左手はまだ動くし、右手足は動くからね、筋力もリンクスとしての処置はしてあるからね。それでも、もう一般人以下の力しか出ない。車椅子動かすのも一苦労。そしてさっきも言った通り、右耳が聞こえなくなっている。そのせいで全体的に聴覚も落ちてる。そして左目も見えない。視界の左半分は真っ黒。残った右目の視界も色は無いし、とてもぼやけてほんの数十cm先の物も見えない。今私が眼鏡をしているのはそういう理由。あとは・・・リリウム今ここどんな匂いがしてる?」

 

「え?それは、その、廃墟と言いますか、端的には格納庫特有の匂いがします。」

 

リリウムの答えに対し、

 

「私にはそれがわからない。どんなに息を吸っても、食べ物が目の前にあっても匂いが分からない。一番最初に忘れた五感かな。記憶だと、カーパルスでのあの戦いの1ヶ月後位かな。そして最後にに味覚。もうここ最近は点滴か確かかなり不味いと評価されている戦闘糧食でしか栄養を取ってないね。これは数か月前かな。」

 

「確かこれ。」と言ってポケットを探った右手に握られていたのは世間一般にも栄養価は高いが味はコジマで腐った海の水より不味いというあまりに意味不明な評価を受けた戦闘糧食のパッケージだ。セレンはその手からそのパッケージを手に取り、袋を開け、エナジーバーを欠片にちぎり、口に放り込む。セレンの口の中にある味覚信号はほぼ無味無臭のぼそぼそした物という信号を脳に送る。ただ無味無臭ならまだマシだったのだろう。僅かに存在感のある薄すぎる味のせいで、反射的に吐きそうになる。セレン自身、リンクスとしてこの手の戦闘糧食は口にした事があるが、こればっかりはAMS接続の時よりも慣れない。「あぁ、確かこんな感じだったな。」と余りに情けない味から意識を遠ざけつつ、懐古する。

 

「それを食べている私が言うのもあれだけど、少なくとも味覚神経がある人が食べていい物じゃないよそれ、リリウムもこの先あの手のレーションは止めた方がいいよ。只でさえ少ない幸せが逃げていく感覚がするから。」

 

「は、はぁ。」

 

リリウムは急な雰囲気の変化に困惑しながらとても曖昧に頷く。味覚が無いなりにもこの栄養価の塊だけが取り柄のそれは食い物ではないと認識しているようだった。

 

「はぁ、やはり何時になってもここの出すレーションは変わらないな。で、他におかしくなった所はあるのか?今挙がったものだけでも十分おかしいが。」

 

「いや、これが全部かな。あー、あとは発声もしんどいかな。調整するかネクストに繋いで無いとさっきセレンに個人で通信入れた時みたいな話し方しか出来ない。今は薬で無理に動かしてる感じかな。今じゃAMS繋いでいる方がずっと楽。喋るのも薬とか必要ないし。」

 

「そこまでして、イレーネ様、貴方は自らの答えを・・・」

 

イレーネの身体の損耗具合を知ってリリウムは思わず俯く。イレーネ本人はまるで気にしないように、

 

「人類に対して虐殺という答えを出したのは私。その答えを成就する為に払う代償としては安い方じゃない?20憶前後を殺した代償としては。」

 

自らの代償に興味も無い様に、もしくは20億という関係のない人間すら殺した事実に対して何も感じてないかの様な乾いた笑いを上げる。しかし、リリウムから見て、セレンから見てもその笑いには後悔や未練と言った感情が読み取れるばかりで、その笑いに自然さすら存在しなかった。

 

「そうだな、言いたい事は山で済めば良いがな。それで、私に聞きたいことがあると言ったな。」

 

「先にセレンとリリウムからにして、私の聞きたい事はその後の方が良いから。」

 

話題を切り替え、本題に入ろうとするセレンの詰問を、イレーネはするりと躱す。

 

「ではその言葉に甘えようか。お前の出したその答えというのは一体なんだ?そこに人類の殺戮は必要な事か?」

 

「ORCAのやろうとしてる事も大して変わらないでしょうと言えばそこまでなんだけど、まぁ、そうだね。」

 

「イレーネ様、貴方の出した、その答えというのは?」

 

「あぁ、そこが抜けてた。まぁ、そこは単純なこと。人類、人間と呼ばれる種の絶滅。それが私の出した答え。そこに誰一人としての例外は無い。」

 

イレーネの出した答えの正体は人類そのものの完全な駆逐。ORCAの様に人類の存続と繁栄の為の過程で発生してしまう殺戮ではなく、人類を殺し尽す事が目的。目的と手段が入れ替わっているという訳でもない。

 

「全ての行動に意味や理由を求める主義では無いが、何故、そんなことを?」

 

セレンが最も気になっていた事だ。イレーネの出した答えの理由。20億という人間を殺す程までの行動力を彼女に与えた存在。

 

「セレン、と言うよりもリリウムの方がそう思い込んでいそうだけど、オールドキングに唆されたとかそんな馬鹿みたいな理由は無いよ。流石に。彼は行動の切っ掛けでしかないし、オールドキングが何故クレイドルを襲撃しようなんて言ったのかは私も知らない。聞く前に彼は死んだから。ORCAの連中は温すぎる。所詮革命は殺すしかないと彼は言っていた。だからそれを理由に何やってもいいわけじゃないって思うのは今の私にはナシかな?」

 

「さぁな、人の考え方は人次第だろう。少なくともお前があの害虫に誑かされた訳でない事だけは分かった。」

 

そんなことでこんな凶行に走ったのなら今この瞬間に殺している。言外そう言い、イレーネの話を待つ。そしてイレーネは口を開く。

 

 

 

「私が出した答えの理由は――――――――」

 

 

 

それは唐突に、そして突然に、何の前触れも無かった。イレーネが話し出そうとした瞬間の事だった。

 

 

「り、ゆ、うは・・・あ・・・?・・・あ・・・あぁ、・・・あ?」

 

 

いきなりイレーネの話し方に異変が生じる。

 

「イレーネ様?」

 

リリウムが訪ねたその時、

 

 

「あ、お、あっ、あっ・・うあ、あが、あがががぐ・・・」

 

 

「イレーネ様!?」

 

「おい、どうした!?」

 

イレーネの異変にセレンも気付いた時、

 

 

「ごぇぇぇぇぇっ!!がぁっ!がはっ、がぁっ、ぐぅうおええええぇぇぇぇ!!」

 

 

―――人体から出ているとは思えない程のグロテスクで、不愉快で、聞くに堪えない音。

 

 

その音と共にイレーネの口から吐き出される。大量の赤い僅かに粘性のある液体。それに加え、薄い肌色の何かゲルの様な、ゼラチンの効きの悪いゼリーの様何か。それが血と嘔吐物であることにはすぐに気づいた。セレンは自らが血と吐瀉物に汚れることも気にせずに駆け寄り、椅子から崩れ落ち、床にうつ伏せに倒れて尚喀血と嘔吐を続けるイレーネの胸に手を添え、上体を持ち上げる。そしてイレーネが己の血と吐瀉物で窒息しない様にしつつ、背中をさする。

 

「イレーネ様っ!!」

 

「ちっ、こいつのパイロットスーツの首元を解放しろっ!」

 

ただでさえ白い肌の色に青色を幻視する程顔を蒼褪めさせたリリウムはそれでも動きは冷静にイレーネの着ているパイロットスーツの首元のファスナーを解放し、首元を覆うスーツの布を広げる。解放された首元から陶磁器の様な肌が露わになる。

 

「がぼ、っ、ごほっ、く、く、そ・・・げ、げん、か、かい、が・・・きた・・・か・・・」

 

「もういい!喋るな!」

 

なお喋ろうとするイレーネにセレンは声を荒げるが、イレーネはそれを聞かず、

 

「ごぼっ、がひゅっ、ひゅー、ひゅー・・・だ、め、・・・それでも、わたしは、つ、つたえない、と・・・」

 

「まだ、ま、だ・・・お、お、おわ、れ、な、な、い・・・」

 

言葉になってない言葉を発しながら、震える右手で椅子の座を掴む。

 

「椅子だな、分かった。」

 

セレンは彼女の何かを察したのか、イレーネを椅子に凭れ掛からせ、パイロットスーツの袖で彼女の身体と顔に掛かった血を払う。幸い、吐瀉物は付いていなかった。そしてイレーネは最期の力を振り絞って、問いに答える。

 

「はぁーっ、はぁっ、はぁ、理由は・・・り、ゆう、は・・・」

 

尚も苦しそうにするイレーネだが、セレンは止めない。セレンが止めないならリリウムに今のイレーネを止めることは出来ない。本当はすぐにでも止めさせたいと焦る自分の身体を何とか抑えつけ、イレーネの話に耳を傾ける。

 

 

 

「・・・あんなにも・・・空が・・・あおかったから・・・」

 

 

 

自分の親に自らの夢を語る子供の様に、穢れを知らぬ幼子の様に、無垢で儚く、そして憧れる様に、諦める様に、そう言った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・あんなにも・・・空が・・・あおかったから・・・」

 

 

喀血し、その上嘔吐も重なって碌に声も出せない中、それでも必死に、足掻く様に、抗う様に、声を振り絞る。

 

まだ言いたい事は幾つもあったが、最も言いたい事を死ぬ前に言えた安堵のせいか、急に視界が黒に閉ざされていく。どうやら冥界からの使者が迎えがすぐそこに来ているようだ。

 

 

あぁ、あぁ、まって、まだおちないで、まだ、まだ、いいたいことが、つたえたいことが―――

 

 

「おい、まだ寝るな!目を閉じるんじゃないっ!言いたいことは山程あると言っただろうが!最後まで聞いて行け!おい!おいっ!」

 

 

「イレーネ様っ、イレーネ様っ!まだっ、まだ、いなくならないで・・・!」

 

 

あぁ、どっちも聞いた事の無い口調だ。人類種の天敵として人類に弓を引き、殺して殺して殺し続けて、自分の答えの為に虐殺者、殺戮者(血塗れの獣)にまで堕ちて、それでも、それでもとひたすらに答えを成就させる為に殺し続けて、そして届かなかった自分に、答えを果たす事すら出来ず、ただ人を殺しただけの自分に、こんなにも気を揉んでくれるなんて。

 

自然と涙が流れる。もう流れる事は無いと思っていた涙が。人類を消し去ると決めた時に枯れ切ったと思っていた涙が。

 

 

もう口は動かない。力の欠片すら入らない。

 

 

 

あぁ、でもこれだけは、これだけは、つたえておかないと・・・

 

 

 

最早動いているかも分からない口を動かし、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「ごめん、なさ、い・・・・」

 

 

 

 

その声は泣きじゃくりながら母親に謝罪をする子供の様に震えていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ごめん、なさ、い・・・・」

 

 

まるで泣きながら母親に謝罪の言葉を口にする子供の様な震えた声で、イレーネはそう言うと、そのまま完全に脱力。微かに体を支えていた力が完全に体から抜け、椅子の背凭れに寄り掛かっていない頭が重力に従い落下、その体と椅子ごとひっくり返りそうになるのをセレンは咄嗟に右手で椅子の背凭れを支えることでそれを回避。そのまま残った左手でイレーネの頬を母親の様な手つきで撫でる。しかし、イレーネはそれに一切の反応を見せない。

 

 

「イレーネさまぁ・・・うぅっ・・・・」

 

 

リリウムはイレーネがもう向こうへ行ってしまった事を悟り、彼女の身体に縋って声を押し殺して泣いている。あいつがこれまでリリウムと何を話したのか、それは全く分からない。でも、殺戮者として完全に相容れないまま最期を迎えたとしても、それでも泣いてくれる程慕っている者が居るというのは、一体どれほどの幸せなのだろうか。少なくとも今のセレンには分からない。

 

 

「イレーネ・・・お前は・・・どこまでも、イレギュラーだったのだな・・・」

 

 

懐かしむように、もう動かないイレーネに向かって語り掛ける。

 

 

「最初のラインアーク襲撃の時、まさか弾薬費の節約と抜かしてレーザーブレードだけでノーマル部隊を全て墜とした時は、とんでもない奴を拾ったとなったものだ・・・SoM(スピリット・オブ・マザーウィル)の時は、そのイレギュラーさを存分に発揮してくれたものだ・・・あんなVOB捌きなぞ、教えたつもりは無いぞ。キルドーザーの攻撃を誘導してそれを砲台に当てるという、実質ネクスト2機かの様に戦う戦術もだ。ホワイトグリントは・・・言うまでもないな・・・カーパルスは、倒すべき人類の敵を止められなかったというのに、まるで、まるで自分の子の様に誇らしかった・・・」

 

静かにそう語るセレンの頬は廃墟の隙間から差し込む日の光を浴びて一筋の光が反射していた。

 

「私もお前と一緒に戦った日々・・・戦い以外の日常・・・確かに楽しかった・・・」

 

そう言い、セレンは自分の顔をイレーネの胸に埋め、静かに涙を流す。

 

 

 

静かな、ひたすらに静かな時間が流れる。その沈黙こそが鎮魂歌であるかの様に。

 

 

 

 

 

「・・・おわっ、た?」

 

 

外で待機していたノーマル部隊の隊長は何かを察したかのようにそう呟いた。

 

『どうしました?隊長。』

 

彼の傍に待機していたノーマルACから通信が入る。

 

「首輪付きが・・・しんだ・・・?」

 

『何言ってんすか、あの首輪付きですよ?このままあっさり死ぬ訳が無い事は隊長が一番良く知っているはずじゃ―――』

 

「い、いや、なんとなくそう思っただけだ。ただ、いきなり脳裏にそう響いたというか、なんというか。」

 

茶化してくる部下に対し、遮るようにしどろもどろにそう返す隊長。しかし、

 

(じゃあ、今のは何だ?確実に心に刺さっていた何かが綺麗に消えていったあの感じは。それからずっと心に響くこの反響音は・・・一体。)

 

そんなことを一人ACのコックピットの中でぐるぐると思考しているとコックピットにあるモニターから通信を知らせる音が鳴る。意識を切り替え、通信に出る。

 

「はい、こちら待機中のノーマル部隊だ。」

 

応答するも、返答が返ってくるには時間が掛かった。そしてやっと聞こえたその声は感情を排そうとして、それでも悲しみという感情が隠しきれていない。そう言う声だった。そしてその声から聞こえてくる内容は隊長の感じた感覚の通りものだった。

 

 

『・・・首輪付きの、死亡が、確認された・・・』

 

 

一言一言区切るように、噛み締める様に首輪付きの死を伝えるその声は、確かセレン・ヘイズと言ったか、首輪付きが人類種の天敵になる前までオペレーターを務めたとも聞いている。その彼女本人がそれを言うという事はどうやら本当に首輪付きは死んだという事か。

 

「・・・了解した。すぐに各方面へと通達します。セレンさん、貴方はどうしますか?」

 

『・・・リリウムと共にすぐ戻る。中にトラップの類は無い・・・ストレイドは起動していなかった。首輪付きの遺体もこのままにしておく。』

 

「はっ。」

 

 

短く返事をし、通信を切り替える。オープン回線だ。短く息を吸い、首輪付きの訃報を伝える。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

瞑っていた目を開く。コックピットのモニターが見せる外の景色は既に暗く、目の前の廃墟の回りに急遽設置されたテント群の回りを照らすライトの光が妙に幻想的だった。

 

 

コックピットのシートに体育座りをしていた足を延ばす。モニターに表示される時刻の左側には11の数字が表示されており、出撃の無い日ならもう寝ている時間だ。

 

少女―――リリウム・ウォルコットは足元にある収納スペースの扉を開き、中を軽く漁る。殆ど物の無い収納スペースにある数少ないリリウムの私物。手鏡。それを手に取り、開く。するとそこには人形の様に美しく整った顔の目元を赤く腫らした自らの顔が映っていた。

 

手鏡に映る自分の泣き腫らした顔を見つつ、手慣れつつ、それでいて上品さを感じさせる動作で自身の髪の乱れや表情の乱れを正し、何時ものランク2、リリウム・ウォルコットを作り出そうとする。しかし、その赤く腫れた目元だけはどうやっても治ることが無く、手鏡に映る少女はカラードのランク2、BFFの小さな王女リリウム・ウォルコットではなく、自らが姉のように慕った者を亡くし、それに涙を流すただの少女、リリウムがそこに居た。

 

どう繕っても消す事の出来ないこの赤にあの時何も出来なかった自分の無力さを突き付けられたようで、また負の感情が心を引き潰しながら動き出そうとする。その時、

 

『リリウム、こういう時は自分を取り繕う必要は無いぞ。』

 

開きっ放しにしている通信からセレンの声が聞こえる。

 

「セレン様?それは・・・一体?」

 

自らの家族をリンクス戦争に失い、王小龍のお付きとして、そして類稀なるAMS適正を見出されたリンクスとして常にかく在るべしと躾けられ、必要以上の関係を築かず、如何なる者の訃報を聞いても感情一つ、表情一つ動かす事の無かったリリウムにとってその言葉は理解出来ないものと言える言葉だった。

 

『何か大事なものを失う時、そいつの意志は、そいつの手を離れて暴れ回る。それが例えどんなに普段感情の制御が出来る者でもだ。そう、今のお前の事だ。』

 

「・・・」

 

『お前があいつと何を話したのか、何をしたのかは知らないが、それでも、お前の飼い主の元を訪れた時にあいつを探すお前の姿。自分の中にある唯一の何かを探している様だったぞ。』

 

「・・・」

 

『いくらそう言う風にあれと教育されたとしても、お前は人間だ。あいつが憎み、殺し尽さんとした、な。それに今はお前が泣いた所でそれを叱る奴は居ない。・・・そうなんだろう?お前にとてあいつはそう言う存在だったと。あの老人とあれが死んだこれが死んだと言い合っても表情一つ動かす事の無かったお前が、泣く程の奴だ。・・・どうやらあいつは人類にとって最悪のイレギュラーでありながら、それだけの事をやっておきながら、その死を悔やんでくれる者が居る程には慕われていたなんてな。全く大した奴だよ。お前は。』

 

セレンは誇るように、イレーネを悼む。リリウムは意を決したように、口を開く。

 

「セレン様。リリウムは、いえ、私は、イレーネの、友達で、居られましたでしょうか・・・?」

 

リリウムは恐れる様に、未知へ挑むようにそう言う。そのことにセレンは驚いたようで、

 

『ははっ、まさかお前が自らを私と呼ぶとはな!それに二人称に様を付けないとは・・・!ははははははっ!!』

 

そして愉快そうに笑う。これまで極々稀に見せる失笑や嘲笑ではない、心からの笑いだった。

 

「わっ、笑わないでください!りり、わ、私はこれでも真剣に話しています!」

 

ついムキになってそう言い返す。

 

『はは、やはり慣れないか、その呼称は。だがまぁ、そうだな、私から見たお前たちは・・・正に、仲睦まじい姉妹の様だったよ・・・』

 

セレンはリリウムとイレーネがBFF本社の中庭のベンチに座り、寄り添うように寝ているリリウムと、それを優しい手付きで頭を撫でるイレーネのあの光景を思い出しながら、呟くように、しかし、確かな確信のあるかのような声色でそう言った。そして続けて、

 

『お前には、少し、あいつとの昔話でもしてやろう。何、つまらなかったらそれを子守唄に寝てしまえばいい。今ばかりはお前を狙う手は居ないさ。』

 

こうして、二人はまるで友達の母と子の友達の様に昔話に花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

―――廃墟を埋め尽くす緑の光がその視界を焼くまで。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

夜の闇によって完全に暗闇に閉ざされる筈の廃墟無いは無数に置かれた設置型ライトによってまるでクレイドルの夜の都会の様な明るさをしている。そしてその中でも大きなスペースを埋める巨大な機体――ストレイドの周りを囲むように設置されている足場や通路には何人もの人が立ち、そのストレイドのコックピットの胸部の装甲の上に二人コックピットの中に一人と技術者を思わしき人がシートに座り、コックピットに設置されたデータデバイスから表示されるデータを見て、あーでもないこーでもないと言葉を交わしていた。

 

そしてその一番近くにある足場には様々な機材が置かれ、モニターにコードで繋げられている。そしてそのコードはストレイドのコックピットへとも続いていた。

 

「おい、見ろ、これ。」

 

「うわっ、なんだこの動き、あと少し動いたら直撃じゃないか。そんな中でよく前に進めるよ。」

 

「それだけじゃない・・・こいつは!?」

 

ある一人の技術者が驚愕の声を上げる。

 

「どうした?」

 

「このデータを見てみろ!そう、この列のここ。」

 

技術者の指差すデータの羅列の行の一番上には《AMS Precision》と表示されており、意味はAMS適合率。これは戦闘中などといったリンクスがAMS接続時に今どれくらい機体と同調出来ているかを測る時に使われるものだ。その下に続く数字は上から125%、121%、106%、107%、97%、90%、95%・・・と続いており、その値はどれも100%に近いもので、中には100%を超えている数値すらあった。

 

「AMS適合率って100%超えるんだな・・・」

 

「確か、記憶だとリンクス戦争の時の、誰だっけな・・・確かセロ、だったか。そいつのAMS適正が当時の周囲を圧倒していたとかなんとかって引退した先輩から聞いたな。」

 

「セロ?あぁ、オーメルの秘蔵っ子だろ?確か、アクアビットとレイレナード壊滅のちょい後にコロニーアナトリアに襲撃を掛けに行ったきり、MIAだって聞いている。」

 

「コロニーアナトリアってーとあれか?そのセロって奴、あのアナトリアの傭兵に喧嘩売ったのかよ。そりゃ殺されるって。」

 

「でもよ、首輪付きはそのアナトリアの傭兵2回もぶつかってその2回とも勝利したんだろ?支援も無くなって消耗のある状態で。」

 

技術者たちの手はコンピューターのキーを叩きながらもその口はお喋りは止めない。

 

「うん?これ、SoMとの交戦記録じゃないか?おいおい、なんだこれ、敵増援のネクストの攻撃を誘導してSoMに当てるだって?実物見なきゃ信じられないぞ、こんなもの。」

 

「おい、これとんでもないこと書いてあるぞ。ずっと未公開だった首輪付きのAMS適正のデータだ。」

 

「え、高すぎないか?カラードのランク2に匹敵、いや、超えてくるか?」

 

「それとこの戦闘データ見てみろ、この動き、もはや人間のそれだぞ。」

 

モニターに映し出されるは前の首輪付きの包囲作戦のレコーダー。映像の中でストレイドの視点から見たホワイトグリントとの交戦シーンがモニターに流れる。そしてその映像の右下に重なるように変動する数値の羅列が表示される。

 

「この時の首輪付きの適合率高すぎないか?えぇ?120、130、135、100%上限で100超えるって一体どうなってるんだよ。」

 

ネクストやコジマ技術に精通する者としてある程度のネクストの戦闘についての知識を理解している技術者達はモニターに流れる戦闘データを見て、その思考は一致する。

 

 

 

―――人機一体。

 

 

 

「その言葉を、まさに体現している・・・」

 

 

誰かが言った。それに異を唱える者は居なかった。

 

 

「このデータを使えば、更なる技術の飛躍が・・・」

 

 

誰かがそう歓んだ。人類を殺し尽しかけた存在のデータで、人類の繁栄が約束される。そんな皮肉に、異を唱える事など出来なかった。

 

 

「うん?このファイルはなんだ?かなり奥にしまい込まれていたが・・・」

 

 

だから気付かなかった。

 

 

人類種の天敵。彼女が戦いの果てに導き出した、答えが、そこに秘められた人類への枯れる事の無い憎悪と悪意が。その主を失えどなお、主の意志を成し遂げんと、まだその命尽きていない事に。

 

 

 

だから見つけてしまった。人の欲が、好奇心が猫を殺すと知りながら。

 

 

 

その好奇心に、人類種の天敵が、憎悪の魔法を掛けたことに。

 

 

ファイルの中にあった動画が再生される。

 

 

そこにはストレイドのコックピットを背景に、機械の様に無機質な美貌に感情の無い表情でカメラを向いている首輪付きの姿があった。動画の中の首輪付きはゆっくり話し出す。

 

『・・・この動画が再生されているという事は、恐らく私はその答えを成就出来ず、道半ばで斃れたんでしょう。』

 

『その時の為に、この動画を発見した私の友人達の為に何故私がこんな殺戮を行っているかを話しておきたい。この思いを知らないままは、何か良くない気がして。知りたくなかったのなら、ごめんなさい。』

 

『私はORCAの長、マクシミリアン・テルミドールの誘いによってORCA旅団に加わり、人類の愚かさの象徴、アサルト・セルの掃討のために戦っていた。』

 

『だが、その半ば、過激派組織リリアナの長にしてORCAのNo.4オールドキングの依頼によってクレイドル03を墜とした。そしてカーパルスにて最高峰のリンクス5人を撃墜。そのままクレイドル06を襲撃し、一週間、この動画を取っています。』

 

『まず何故私が人類の虐殺という凶行に走ったか。理由は単純。ただ空が青かったから。これに尽きる。細部まで説明すると、リンクスとしてクレイドルの防衛の依頼でクレイドルに行った時の事、私はそこから見える青とダークブルーに心奪われた。同時にこの青色をただ自らの利益の為だけに穢し続ける人類に殺意を覚えた。これがORCAに加わるまでの理由で、私がこんなことしてる理由。そう、許せなかった。ただ空を穢し続ける人類が、地上を汚しきってなおまだ収まらない醜い欲の為に青くきれいなあの空を穢し続ける人類が。ただただ許せなかった。』

 

『ORCAに加わった時、空を覆うアサルト・セルを一掃すれば少なくとも私が心奪われた空は守られると思っていた。でも違う。それは叶わない。どうせ地球に残った人類はその地球の搾りカスとなった資源を巡って争う。私は別に人類が殺し合うのについてはどうだっていい。闘争こそ人類の繁栄の道の一つだと思っているから。でもそれで私の愛した空の青を穢すというなら話は別。』

 

『だから、私は決めた。人類をこの世から消し去ると。一人残らずね。勿論、その中には私の大事な友人も、私自身も含まれている。ここに例外なんて許さない。例えランク1のオッツダルヴァの駆るステイシスだろうと、アナトリアの傭兵の駆るホワイトグリントだろうと殺して見せる。事実テルミドールことオッツダルヴァは死んだ。ストレイドの月光でコアを両断されて。』

 

『それが、私、もうじき消されるだろうけど現カラードランク1、そして元ORCAのイレーネが人類の虐殺をしている理由。想像してる理由よりもずっと単純で幼くて、そして純粋でしょう?でも、そういうのが案外強い行動力を生み出すのかもしれない。現に今私がそう。』

 

『次に、これを見ている友人達へ。まず初めに、ごめんなさい。私のエゴの為に人類はおろか大切な友人たちを巻き込んでしまって。セレン、私は首輪を食い千切り、一線を自ら越えに行った悪い子です。ですが、貴方と共に過ごした日常、戦場。共に楽しかったです。幸せでした。貴方は自分の事を母親になる資格など無いと言っていましたが、私が思うに母親になるのに資格はいらないと思います。子がその人を母親だと認めたならその人こそが本当の意味での母親なのだと信じています。だからこそセレン。私は貴方の子で居られたことが誇りです。そして改めて、私は貴方の期待を裏切りました。本当にごめんなさい。』

 

『次にリリウム、貴方は私をまるで姉の様に慕ってくれた。私もあなたの事をまるで妹の様に思っていました。セレンに拾われるまで、碌に友達はおろか名前すら無かった私に出来た、二人目の家族で、得難い友人だと、私は勝手ながら思っています。でも、もう少し自分を出してもいいと思うの。確かに王小龍のお付きだから仕方ないとは思うけど、私の前で位、ありのままを見せて欲しかった・・・』

 

そうして画面に映る首輪付きことイレーネは自分が友人だと思っている人たちに向けて様々な言葉を遺していく。その様子に技術者達は声も出せない。人類種の天敵とて、自分達と同じ、喜怒哀楽を有し、れっきとした友人を持つ人間だったのだから。

 

『最後に、顔も名前も知らないお父さん、お母さん。貴方方の産んだ娘は、あなた達よりも先に道を踏み外して地獄へ行きました。ですが、後悔はありません。何故なら私は両親の顔はおろか、その名前、性格、そしてどんな生を歩んできたかを知らないからです。そして、私は親への執着や興味はありません。何も知らないから。・・・さようなら。名も知らない誰かさん。地獄で合った時私の事を子と呼ぶなら、殺し合いましょう。』

 

両親への淡泊な言葉を送り、画面の中のイレーネは一息つく。そして姿勢を改め、目線を戻す。

 

『さて、話したいことはこれで終わり。あとはまたこれから人類絶滅への旅路を歩くだけ、まぁ、この動画が再生される頃には私の答えは半ばで潰えた事になるんだけどね。まっ、死んだ私には関係ないかっ!じゃあね。』

 

その声と共に画面が暗転する。しばらくの間技術者達に沈黙が流れる。誰も声を上げることが出来ない。これまで化け物か何かだと思っていた首輪付きが見せた人間らしさに。

 

 

 

―――しかし、それが命取りだった。いや、もう既に手遅れだったかもしれない。

 

 

 

再生が終了したと思っていた黒い画面から突然、首輪付きの先程の真面目な声とかけ離れた声が聞こえる。

 

 

『・・・なんて、これで終わると思った?権力という木にしがみついて蜜を吸うカス共が。』

 

 

殺意と憎悪に満ちた声。黙っていた技術者達は小さな声ながら騒然とする。だが、再生を止めない。まさか動画ファイル風情、人を殺し得る力など無いから。

 

 

『知ってるんだよ、どうせこれを見るのは私の友人じゃなくて腐った有象無象だって事くらい。』

 

 

だから気付かない。

 

 

『空を穢し続ける地球の寄生虫次席の虫たちの皆さん。そんなお前らに人類種の天敵からささやかなプレゼントです。』

 

 

気付けない。首輪付きが死んだと思い込んでいる技術者達(罠に掛けられた猫)には。

 

 

 

『そして教えてあげる。ぬるま湯に浸かった人類に、君たちに。』

 

 

 

そこで、漸く誰かが気付く。主を失い、沈黙するそのストレイドとその悪意(迷わない従者達)が、

 

 

 

『人が死んでも、その思いが消える事はないんだよ?』

 

 

 

―――起動している(牙を再び剥いている)事に。

 

 

 

「おいっ、ネクスト、起動して―――」

 

 

 

―――そしてもう命尽きたはずの首輪付きの口が三日月に歪んでいるのを。

 

 

 

その先を発する言葉は無かった。ストレイドは起動と同時にPAを起動。機体の周囲にいた技術者達を飲み込み、一瞬で大気の一部へと昇華させる。PA展開より数秒後、下で作業していた者が異変に気付く。

 

「おい、ネクストが起動してる!」

 

「はぁ!?おいまじかよ!PAも展開してるじゃねーか!」

 

「逃げろ!早く外のネクストに伝えろぉ!!!」

 

だが、もう遅い。

 

 

ストレイド(迷う者)の纏っている緑の光がその輝きを増す。そしてその光が光の膜を埋め尽くし、溢れそうになる。

 

 

 

 

 

そして、膜よりほんの少し、光が漏れ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――光が、全てを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いや、長スギィ!!

という訳でこれにてプロローグ、完です。
次回より本格的に首輪付き視点でのキヴォトス生活が始まります。

恐らく文章の表現の仕方が変わります。何ならブルアカのストーリー読んだりとするので、投稿が非常に遅くなる可能性があります。十分にご注意を。

もし、誤字脱字がございましたら優しく御指摘ください。確認し次第修正します。
7/23誤字が酷かったのと説明がおかしくなっていたので、かなり修正しました。

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