透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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始まりました、時計仕掛けのパヴァーヌ編です。

完全に自分の書きたいようにしか物語の展開を書かないので、読者様方の期待通りにいくかは不明という事は理解していただけると幸いです。

解釈違いはユルシテ...ユルシテ...




機械仕掛けの少女

 

 

 

「これをミレニアムのエンジニア部まで運べばいいのね?」

 

 

「あぁそうだ。普段なら運送業者を雇うんだが・・・如何せんいつも使っている業者さんが車両や機器の大規模な整備や修理を行うってんで、暫く依頼の受諾が出来ないって言われちまってね。今更別の運送業者使うのも少し気が引けていたとこのだったんだ。そん時に丁度凄腕の傭兵である天敵――あ、いや、首輪付きさんが受けてくれて助かるよ。」

 

 

「天敵って言うの止めてね?お願いだから。」

 

 

ここはブラックマーケット近辺の工場。そこの工場長と思わしき犬耳の獣人が対面する一人の少女と依頼について話し合っており、その足元には一抱え程のサイズの段ボールが置かれている。

 

「輸送手段はまともなものであれば特に問わない事にするよ。とにかく、そいつを無事に今回の発注者の元まで送り届けてくれ。」

 

「輸送手段はそこにある軽だよ。借りた奴だけどね。」

 

少女はそう言って後ろを指差す。そこには黄色の塗装がされた一般的な軽自動車が停まっていた。

 

「ありがとう、じゃあ、よろしくな。」

 

「報酬は口座振り込みでよろしく。じゃ、行ってきまーすっと。」

 

そう言って少女は段ボールを抱え、軽自動車のドアを開けて後部座席にそれを載せる。そして自身も運転席に座ってエンジンを掛ける。

 

「う、やっぱりネクストの操縦桿よりハンドルの感度が低い・・・」

 

そう言いながら少女――標根イサネはアクセルペダルを踏み込み、車を徐々に加速させる。備え付けのカーナビを弄り、目的地をミレニアムサイエンススクール近辺のレンタカー置き場へと設定。数回ハンドルを切り、ブレーキペダルを踏み、車を走らせる。

 

 

「あー、いい風。向こうだとこんなに心地良い風なんて無かったからなぁ。・・・これまで闘争の世界でしか生きで来なかったけど、悪意の無い平和って言うのも中々に悪くないね。」

 

 

運転席の窓を開けて風を感じながらそう溢す。これまで闘争の中で生きてきたイサネにとって、キヴォトスと言う場所は非常に新鮮なものだった。彼女は改めてその感覚を心に刻み込む。

 

 

「こういう時口ずさめる歌が一つでもあればなぁ・・・これだからはっきり歌を歌わない奴は。」

 

 

今は亡き鼻歌を歌っていたどっかの誰かさんの悪口を言いながらイサネの運転する車はミレニアムへと向かっていく。

 

幹線道路を真っ直ぐ進み続け、途中の交差点を曲がる事数回、小道を抜けて再び大きな道へと出て目的地へと走る事2時間と40分ほど、イサネの視界にミレニアムサイエンススクールの象徴たるミレニアムタワーが見えてくる。

 

「今がここって事は、そこの曲がり角の先がレンタカー置き場になるのかな?」

 

カーナビの指示に従い、車を如何にもなシステムの掛かっていそうな駐車場に止めてエンジンを切る。忘れ物が無いかを確認し、車から出て荷物を取り出して鍵を返却用の機械へと持っていき、代金を支払って鍵を返却用ボックスへと放る。そして足元に置いた納品物を入れた段ボールを抱えて歩き出す。

 

「ここ最近は依頼の数がそう多くなくていいね。ったく、万物の天敵って名が出回り切った直後とか本当に地獄だったし・・・あーあー、労働はともかく社畜なんて御免だ。」

 

イサネがブラックマーケットで暴れ始めた頃はその契約を反故にしたり嵌めたりしなければほぼ確実に達成率100%という結果を返してくれるという事で一日に何件もの依頼が舞い降りる事が続き、碌に睡眠時間も確保できない事もあり、イサネはキヴォトスに来て初めて過重労働と社畜という言葉の意味を知った。

 

「そう考えるとリンクスの労働環境って、意外とマシな方なのか・・・?」

 

常に死と隣り合わせという点に目を瞑れば企業所属でもある程度の仕事を選ぶ権利はあるし、賃金だって一つ依頼をこなすだけで一般の人間が一生掛かっても稼げない程の金が手に入る。やろうと思えばクレイドルに住む特権すら存在するのだ。・・・リンクスの仕事場が汚染された地上である以上ネクストを持ち込めないクレイドルに住むのはあまり効率的ではないが。

 

「あーあ、何も考えずに企業の走狗になってればまともな生活が出来たのかなぁー?」

 

ぶつくさとありもしない過去の未練を呟きながらミレニアムへと歩を進める。見えてきた正門を通過し、エンジニア部へと向かう。

 

「あーっと、ここか?エンジニア部の部室来ること自体は結構久しぶりだから記憶がなぁ・・・」

 

若干曖昧になりつつある記憶を頼りにエンジニア部の部室へと向けて歩く。そうしてミレニアムの中を彷徨う事数分、イサネは目的のエンジニア部部室へと辿り着く。

 

 

「おーい!ウタハぁー!依頼の品持って来―――」

 

 

イサネがウタハを呼ぼうとしたその時だった。

 

 

 

―――轟音。

 

 

 

同時に上空へと上がる光。その光はORCA旅団長テルミドールがかつてイサネに見せたクローズプランのシュミレーションにあった第一段階最後の項目、衛星軌道掃射砲でアサルトセルを一掃する時に砲から迸る光を幻視させた。

 

 

 

――人類の再興を告げる光を。

 

 

 

「・・・テルミドール。人のいない(既に終わった)世界でも、クローズプランを果たす事が出来たんだね。空を覆う人の愚かさの象徴を一掃し、残された人類の可能性を拓く事が・・・」

 

 

イサネはその場に立ち尽くし、うわ言の様に何かを呟く。・・・依頼先がいきなり謎の光で吹き飛ばされるという光景が受け入れられない為の現実逃避と言えなくも無いのだが。

 

「セレン・・・クローズプランは確かに成ったよ。ORCAの悲願を―――はっ!?そ、そんなこと言ってる場合じゃなかった。早く様子を見に行かないと・・・!」

 

無意識に背けていた現実へと無理矢理意識を戻し、少し駆け足でエンジニア部の元へと向かう。中の様子を確認したいが、如何せんここは物が大量に置いてあって中の様子が確認できない。

 

「おーい!ウタハぁー?いきなり衛星軌道掃射――じゃなくて、なんか凄い爆発?光?みたいなのが見えたんだけど!大丈夫ー?」

 

若干頭の中が現実逃避とごっちゃになったまま声を掛けると、そこからウタハとも、ヒビキともコトリとも違う聞き覚えの無い声が聞こえてくる。自分の声が聞こえていないと判断したイサネは距離を詰めながら再度大きな声で呼びかける。

 

「聞こえてないか?おぉーい!!ウタハぁー!?」

 

「うん?お客さんか――って、イサネじゃないか。あー、少し散らかっているけど、まぁ入ってくれて構わないよ。私は少しやることがあってね。」

 

「いや貴方が発注した物を届けに来ただけなんだけど・・・いいや、お邪魔しまーす。」

 

そう言って部室へと足を踏み入れると、普段のエンジニア部に加えて見た事の無い顔ぶれが揃っていた。その顔ぶれたちはイサネの姿を認めると一人がウタハに声を掛ける。

 

「ウタハ先輩!誰あの人?」

 

「あまり人に向けて指差すものではないよ、モモイ。彼女は私の友人だよ。ほら、ここ最近で聞かなかったかい?所属不明の生徒がミレニアムで発見されたっていう話。彼女がその生徒だよ。」

 

ウタハがモモイと呼んだピンクと黒の猫耳型のヘッドホンを着けた小柄な生徒にイサネの事を話しているが、余り分かっていないようで、

 

「え?そんな話聞いた事ないけど?」

 

と、今初めて聞きましたという反応を示す。

 

「お姉ちゃんその時ずっと部室に籠ってゲームしてたじゃん。その人発見から数日でミレニアムを出て行っちゃったから。それに私が話しても全然興味も示さなかったし。」

 

「うぐ・・・!」

 

モモイの横からモモイとほぼ瓜二つな顔で、色以外は同じ猫耳型のヘッドホンを着けている生徒がモモイの反応に苦言を呈する。イサネは改めてウタハの周りにいる三人に近づき、口を開く。

 

「じゃ、自己紹介と行こうかな。改めて、私は標根イサネ。ブラックマーケットを中心に活動しているただの傭兵。依頼なら大体なんでも引き受けるよ。」

 

「ふふっ、君の場合はただの傭兵では無いだろうに。」

 

「・・・そこ、黙れ。」

 

自己紹介中に挟まれたウタハの茶々を弾圧しながら自己紹介を終えると、それに対して三人が三者三様に反応を示すと共に、自己紹介をする。

 

「あ、えーと、ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部の才羽ミドリです。で、こっちが私のお姉ちゃんで――」

 

「あぁもう!自己紹介くらい出来るから!私は才羽モモイ。同じくゲーム開発部所属だよ!で、こっちがアリス、天童アリス。」

 

「はい!天童アリスです!えっと、最近ミレニアムに転入してきました!」

 

ふむ、モモイとミドリは双子の姉妹なのだろう。性格は大きく違えど顔立ちは非常に似ている。一方でこの天童アリスと名乗った少女。この少女にイサネは何処か違和感を覚える。

 

(一見何の変哲もない生徒・・・だというのに、私の感覚がこの子を人ではないと言っている。一体どういうことだ?喋り方は若干たどたどしいが、体の動作も機械特有のぎこちなさは無い。)

 

「・・・?アリスに何か付いていますか?」

 

イサネにじーっと見つめられたアリスがきょとんと首をかしげる。イサネは高速回転を始めようとしていた思考を切り上げ、口を開く。

 

「あぁいや、よくそんな重そうな物を軽々と持ち上げられるなーってさ。」

 

「そうでしょうこれは【光の剣:スーパーノヴァ】と言って、宇宙戦艦に搭載するべく作成したレールガンです。」

 

「レールガン?良くここまで小型化が出来たね。ほぼ小隊で運用できる軽迫撃砲みたい。むしろ宇宙戦艦に搭載するなら小さすぎる様な・・・?」

 

「イサネさんの為に改めて解説いたしましょう!これは【光の剣:スーパーノヴァ】我らがエンジニア部の下半期の予算の70%を掛けて作り上げたレールガンです。基本的な構造としては――」

 

コトリがいつもの如くイサネにレールガンについて事細かに話していく。そしてイサネも兵器に、それもネクストでも運用している物と同種という事からコトリの解説をネクストのアセンブリを構成する時の様な真剣な表情でそれに聞き入っている。目の前でいきなり専門的すぎる会話が飛び交う状況にアリスはおろかモモイもミドリも

 

完全に話に置いて行かれているゲーム開発部を見て、ウタハは慣れた様子でゲーム開発部の面々に声を掛ける。

 

「・・・資格が必要だと言った以上、先に始めてしまおうか。準備はいいかい?」

 

ウタハがそう言うと、アリスの目の前に複数のドローンやロボットが展開する。

 

 

「前方にドローン及びロボットを複数検知。敵正反応を確認。・・・来ます!」

 

 

アリスがドローンとロボットの群れ目掛けてレールガンを構える。コトリの話にすっかり夢中になっていたイサネもウタハの言葉にばっと反応する。

 

「あっ、ちょっと、まだ説明は終わって――」

 

「実践見ながら聞くからそのまま続けて。私これでも3つまでならマルチタスクが出来るから。」

 

「えぇ?何ですかその特技・・・」

 

イサネのその特技に若干引き気味ながらもコトリはレールガンの解説を続ける。イサネはアリスの実戦の様子を目で追いつつ、コトリの話に耳を傾け、視線はそのままながらも質問等の言葉を的確に返していく。

 

余談だが、イサネのマルチタスクは熟練のリンクスであれば基本的に誰しもが持っているスキルだ。いくら神経に直接繋いで操縦しているネクストといっても超高速で飛び回る機体を制御しながらも不規則に発生する様々な事に意識を向ける必要がある為、戦場で生き残る過程でマルチタスクを習得する者が多い。

 

イサネやゲーム開発部、エンジニア部の見守る中、アリスの「資格」の為のテストが進んでいく。アリスの持つレールガンから放たれる専用の弾はその衝撃波も合わせて次々とターゲットとなるドローンやロボットを粉微塵にしていく。

 

「ふぅん、意外にも正確な射撃精度ね。それに総重量150kg前後の砲をああも軽々と。いや私もやろうと思えばできるかな・・・?」

 

モモイとミドリの声援が聞こえる中でテストは続き、やがて最後のターゲットの中心部にレールガンの弾が命中し、機械の体に風穴が開く。そしてコンマ数秒後にやってきた衝撃波によって内部電子機器をぶちまけながらフレーム共々粉々になる。

 

 

「・・・素晴らしい。」

 

 

静かに零れたウタハの言葉がテストの結果を物語っていた。それに続けてコトリも話し出す。

 

「くっ、悔しいですが・・・これが結果ですね!アリス、改めて光の剣はあなたの物です!」

 

「わぁ、わぁっ・・・!」

 

言葉に出来ない喜びを見せるアリスと同じく喜びを分かち合うモモイとミドリ。ヒビキがアリスにレールガンの使い方や個人携行用に調整を始めたのを横目に、イサネは頬に手を当てて何かを考えているウタハへと近づき、小声で声を掛ける。

 

「ねぇウタハ。」

 

「あぁ、イサネか。どうした?」

 

ウタハは考えを止め、イサネの声に振り向く。イサネは続けて話を切り出す。

 

「あの身体能力・・・アリスって・・・」

 

ウタハはイサネの問い掛けに少し真剣な顔持ちで答える。

 

「・・・握力は推定1t以上。光の剣の発射時の反動でもブレる事の無い体感バランス。強度といい、出力といいどちらも非常に優れている。そして肌全体に傷一つ見当たらないその肉体。」

 

ウタハは一度言葉を切り、再び続ける。

 

「恐らく初めから過酷な環境下での活動を想定してナノマシンによる修復を前提とした体。敢えて使わせて貰ったが、先程の肉体という言葉はいささか不適切ではある。そしてその目的は―――」

 

 

「「戦闘。」」

 

 

2人の声が重なる。

 

「ふむ、君も同じことを考えていたか。」

 

「まぁね。私と同じ戦うために作られた――あ、いや、私の場合は少し用途が違うし、なんなら私の場合はれっきとした人間にメスを入れる代物だけど。」

 

「・・・その首に付いている差込口、いや、ジャックといった方が良いかな?それの事かい?」

 

少し恐れる様に切り出されたウタハの問い。イサネはそれに答える。

 

「一応ぱっと見では分かりにくくはなっているけどね。アリスがその身で直接戦闘を行うのなら、私はパイロットとしての調整になっている・・・筈。」

 

「・・・自分の事なのになぜそんなに曖昧なんだい?」

 

「素手で厚さ5cmの鋼板を拉げさせる力がパイロットに必要かな?」

 

素手で分厚い鋼板を拉げさせる力。イサネのその言葉に思わず「ははは・・・」と苦笑いを零す事しか出来ないウタハ。確かにパイロットには明らかに不要な力だろう。そしてイサネが何かに乗って戦っているのを見た事も聞いた事もない以上、イサネの発言はキヴォトスに来る前の話である事は容易に想像がついた。

 

「確かにアリスは一体何者なんだろうとは思っているが、君も君で十分に規格外だよ。」

 

「酷いなぁ。これでも手術後暫くは力加減が分からなくて握ったもの大体全部潰してたんだよ?」

 

「禁忌の技術ながらなんとロマンの無い残酷な現実なんだ・・・」

 

イサネの過去の思い出話に何故がショックを受けているウタハに「人体改造にロマンもクソもないでしょ、アリスみたいに機械でもないんだから。」と言い、開いていた椅子にどっかりと座る。

 

こうしてショックを受けたウタハと共にゲーム開発部を見送ったエンジニア部+イサネはその後、しばしの間雑談に興じる。イサネがここに来たそもそもの目的の話やゲーム開発部についての話。そして先程のレールガンの話に、それを軽々扱うアリスという転入生の話。様々な内容の話に花を咲かせていると、コトリがイサネの持っているハンドガンを見て話し出す。

 

「そういえば、イサネさんはオリジナルの武器とかは持ってないんですね。」

 

「オリジナルの武器?」

 

「そう、私も部長もコトリの持つ銃は原型こそ同じかもしれないけどどれもブラックマーケットでは見た事ないはず。」

 

イサネのオウム返しに答えたのはヒビキだった。ヒビキはそう言って机に立て掛けてあった迫撃砲――【ファンシーライト】を手に持ち、その銃身をイサネに見せる。確かにブラックマーケットでは見た事の無いデザインの装飾や機材が取り付けられており、扱いやすいようにカスタムだって十分施されている。

 

「まぁここまでカスタムされた物は見た事ないけど・・・」

 

「そこでだ!」

 

先程のショックに沈んだ雰囲気から一転、ウタハが力強い言葉と共に立ち上がる。突然の行動にぎょっとするイサネの肩を掴み、ぶんぶんと振りながらウタハが勢いよく話始める。

 

「ぜひ君も自分の専用武器を持ってみないか!?いや、作らせてくれ!君のその身体能力なら、恐らく素晴らしい実戦データが取れると思うんだ、ぜひ私達エンジニア部にやらせてくれないか!」

 

「え、え、え?あ、あ、あ、誰か、た、た、た、助けっ――」

 

「流石ウタハ部長!素晴らしい提案です!今すぐにでも始めましょう!」

 

「分かった。機材の準備するね。」

 

思い立ったら即行動。エンジニア部の三人はイサネの答えも碌に聞かず、機材の準備を始める。

 

「イサネさん、欲しい機能とかありますか!?例えば、Bluetooth機能とか!他にもありますよ!設計発案だけしてまだ実装出来ていない機能が今13個ほど――」

 

「武器の種類は何がいい?アサルトライフル?ハンドガン?それともC&Cのネル先輩みたいにサブマシンガン二丁とか?」

 

「確かに君の体の事を聞いた時はすっかり開発の事が頭から抜けてしまったが、あの時君の叩き出した射撃場のスコアはまだミレニアム内で破られていない記録なんだ!それに傭兵としてあらゆる環境下かつ君の様な実力者が使うとなるとこれからの―――」

 

「わ、分かった!分かったから!一旦離して!」

 

やっとまともに形になった言葉が届き、両肩を掴まれていたイサネは何とか解放される。乱れた服装を正しながらイサネは答えを返す。

 

「いや、悪いけど遠慮する。私にとってこれらの武器は使えなくなったら使い捨てる物だから。多分作ってもらっても破損したらすぐに廃棄するか戦闘中に手放してそのままにすると思うの。」

 

 

――それに私にとって武器というのはネクストの武装の事であって携行火器の事じゃない。

 

 

とは言わないが、完全にそうとも言い切れない。リンクスにとっての武器と言われればやはり誰だってアーマードコア・ネクストと答えるだろう。

 

「そうか・・・つい興奮して捲し立ててしまったが、武器の製作を依頼するかどうかは本人が決めるものだ。私達が押し付けるものでは無い。すまなかった。」

 

「銃火器であれば試作品の試運転くらいは協力するよ。武装に掛ける金が浮くからね。・・・それに、せっかく作ってもらうならちゃんと仕様要求を固めて、捨てない様に他の物と見た目の差別化とかしないといけないから。」

 

「仕様要求と見た目の差別化さえ出来ればいいんだね?なら大丈夫だ。仕様さえ伝えてくれればなん問題もない。」

 

イサネはエンジニア部を気遣ったつもりだったが、むしろ消えかけていた火を再燃させてしまった様で、再びその目に熱が宿る。

 

「今の段階で良い、こういった機能が欲しいとかはあるかい!?」

 

ウタハの様子を見てイサネは抵抗を諦める事に決め、口を開く。

 

「じゃあ少し待って、仕様書書き上げるから・・・」

 

イサネはスマホを取り出し、文字を打ち込み始める。

 

(あー、BFFのライフルの精度は流石に要求し過ぎ?となるとローゼンタールのなんだっけ・・・MR-R100とか102とかが目安になってくるか・・・?今のストレイドはどっちも装備していないしなぁ。ま、覚えてる範囲で適当に書きましょーっと。)

 

考えを固め、一気に仕様書を書き上げる。既に何回も何回も読み込んだ仕様書だ、今更その仕様を間違えることは無いと断言できる。イサネは仕様要求を書き上げ、最後に『余計な物は一切乗せるな』と書き入れてウタハのモモトークにデータとして送る。

 

「仕様書はモモトークから確認して。」

 

「今確認する――って、これはっ・・・!」

 

送られてきた仕様書を見てウタハが息を呑む。その反応を見てコトリとヒビキもウタハの手に持つスマホの画面を覗き見る。

 

「え、こんなに弾速早くしたら並みの銃弾では潰れてしまいますよ!?それをアサルトライフル並みの連射速度で・・・!?」

 

「銃弾を狙撃用の高貫通性の物にしたとして・・・駄目、アサルトライフルレベルの連射性はそう簡単に出せない。反動で銃身が壊れる。」

 

「レールガンみたいな分かり易い難しさは無いが・・・これはかなり基礎と工夫が試されるな。」

 

「まぁそれ本来は戦車よりももっと分厚くて頑丈な装甲をバリア越しにぶち抜くための仕様設計だからね。多少グレードダウンしてるけど。」

 

「バリア越しだって?凄いな・・・それは。」

 

イサネの仕様書を受け取ったエンジニア部は早速設計を始めるが、イサネの要求仕様がグレードダウンしたとはいえネクストを基準にした為に設計は出だしの段階で既に難航している。

 

「こうなってくると並みのスプリングでは弾速の維持すら不可能だ。それに――」

 

「これ、鈍器としても使う様書いてる。つまり、一定以上のフレーム強度も必要だし、衝撃が加わった時の動作不良も加味して構造を――」

 

「付属のアタッチメントの性能もある程度専用の物にしないといけませんね、これは。」

 

「『余計な物は一切乗せるな』とあるが・・・納期次第ではまともに組み上がるかすら微妙なラインだな。確かに圧倒的な性能美も悪くないが、これは中々に難しいな・・・!」

 

設計が難航している様を見届けたイサネはエンジニア部の部室にあったテレビのリモコンを手に取り、適当にチャンネルを開く。画面に映る番組をぼーっと流し見ながらぽちぽちとチャンネルを変えていく。

 

「うーん、ニュースも大体知ってる奴しかないなぁ・・・これとこれは私がどうにかしたやつだけど・・・おー、無駄な企業努力お疲れ様です。もうとっくに裏には知られてるんだよなぁ。」

 

そうしてテレビを眺めていると、チャンネルがミレニアムの校内放送に当たったのかミレニアムプライスという単語がイサネの目に止まった。その言葉が気になったイサネはまだ設計段階で話し合っているエンジニア部に声を掛ける。

 

「ねぇ、このミレニアムプライスって何?」

 

「あぁ、それはミレニアムの一大コンテストだよ。ミレニアムに所属するあらゆる生徒達が自分達の作った作品を出展して、その中からどれが一番優れたものなのかを競うんだ。勿論私達も参加するよ。」

 

「へぇー、エンジニア部は何を出す予定なの?」

 

「それは当日になってから確認して欲しい。出展者側にも守秘義務とまではいかないが一応内部事情なのでね。」

 

結局エンジニア部の出した作品は当日になってみないと分からないと言われ、情報を引き出すのを諦めたイサネはテレビの電源を落とし、椅子から立ち上がる。

 

「ウタハ、私そろそろ行くけど、試して欲しい試作品はある?二丁までならテストできるけど。」

 

「本当か!なら、これと・・・ヒビキ、あとどれがいいと思う?」

 

「そうね・・・これかな。はいどうぞ。仕様はコトリが口頭でいうから。レビューよろしく。」

 

ヒビキから一般的な形状のサブマシンガンとショットガンを渡され、コトリの口から流れ出す言葉の奔流を飲み込み、把握していく。一通りの説明を聴き終えたイサネは手に持った2丁を見ながら喋り出す。

 

「・・・なんでBluetoothが付いてるんだ。どう考えても要らないだろ・・・しかもこっちには用途不明の機器が付いてるし・・・なんだよ起爆装置って、一体何を起爆するのやら・・・」

 

不安を抱きながらも銃を受け取り、ハーネスベルトにショットガンをハーネスベルトに引っ掛け、サブマシンガンをホルスターに突っ込む。そしてイサネはゆったりとした足取りでエンジニア部の部室から出ていく。

 

「しばらくはミレニアム中心に動く予定だから。何かあったら以後贔屓に――あ、次の仕事はブラックマーケットだったわ。」

 

「ははは、そこは言い切って欲しかったな。」

 

「じゃあ後数時間はブラックマーケットにいるから~。・・・とほほ~。」

 

こうしてイサネはゆったりとした足取りから一転、早歩きでミレニアムの外へと歩いていく。

 

(ミレニアムプライス・・・技術の最先端が集う場所。何か、何かストレイドの修理に使えそうなものを探すにはまさにうってつけ。なんなら良い発掘品も見つかるかもしれない。うーん、実に興味が湧いてきた。急いで依頼を終わらせて、特等席を取れるようにしないと・・・!)

 

 

そう心に決めたイサネは、そもそも学園内部で行われるイベントで部外者が特等席はおろか立ち入りできる筈も無い事を失念したまま、依頼遂行に向けて走り出す。

 

 

(えーと、確か今回の依頼はとある裏組織の襲撃・・・って、はぁ!?カイテンジャーが依頼主の金盗んだからそいつらも何とかしろ!?ふざけんなあのゴミ共!肥溜めにぶち込んでやる!)

 

 

 

「あんの寄生虫共がぁーッ!!五臓六腑ぶちまける覚悟は出来てんだろうなぁぁーーッ!!?」

 

 

 

・・・その日、実に物騒な事を叫びながら校内を尋常じゃない速度で疾走する不審者の通報がセミナーに相次いだ。

 

 

 





ある程度原作ブレイクをしない様に作ってはいますが、クロスオーバー作品だし、原作の辿る物語を改変するべきなのかなぁ...と考え始めている今日この頃です。

鼻歌を歌っていたどっかの誰かさんとはオールドキングの事です。
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