透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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これを書き始めてからと言うもの、存在しない投稿期限に追い詰められるようになってしまいました。どうも自分を重度コジマ罹患者兼リンクスと思い込んでいる一般異常者です。



水面下での交錯

 

 

 

あの後、イサネの援護もあって廃墟から難なく帰還を果たしたゲーム開発部+先生は仮眠をとると言ったイサネと一度別れ、その翌日にミレニアムにあるとある部活の元へと来ていた。

 

 

 

「依頼されたデータについて、結果が出たよ。」

 

 

 

コンピュータの駆動音のみが聞こえる精密機械まみれの部屋の中で、先生を含めたゲーム開発部はミレニアムのハッキング集団ことヴェリタス、その一員である小鈎ハレの言葉にごくりと唾を飲み込む。

 

「い、いよいよ・・・!」

 

ミドリの言葉は、まさにこの場にいる者の心情を代弁していた。

 

「知っての通り私達ヴェリタスは、ミレニアム最高のハッカー集団だと自負している。」

 

「システムやデータの復旧については、それこそ数え切れないほど解決してきた。」

 

ハレの前置き。一般的にも専門家がよく口にする言葉ではあるのだが、それはテンプレの意味以外にも、大前提を設定する言葉でもある。

 

「その上で、単刀直入に言うね。」

 

単刀直入に、つまり誰にもわかる様に結果を端的に伝えるという事。その言葉がゲーム開発部を二重の緊張で包む。

 

 

「まずモモイ、あなたのゲームのセーブデータを復旧させることは無理。」

 

 

「うわああぁぁぁぁぁん!!もうだめだぁぁぁーー!!」

 

 

まず無慈悲な逝去宣言。どうやらG.Bibleを移す時にモモイが心血注いで作り上げたゲームのセーブデータは既にあの世へと旅立った様だ。モモイ程では無いが、ゲームについては好きだと堂々と言える先生は自らの同志の為に心の中で合掌。彼女のセーブデータのご冥福を祈る。

 

「そっちじゃないでしょ!G.Bibleのパスワードの解除はどうしたのさ!」

 

ミドリの尤もな言葉にもう一人――音瀬コタマが「それなら、マキが作業中です。」と、一方を指差す。そこには明るい赤毛の少女がおり、それこそがヴェリタスの三人目、小塗マキ。

 

「マキが?」

 

「あ、おはようミド!来てくれたんだね、ありがと。」

 

「うぅ、私のセーブデータが、涙と汗の結晶が・・・!」

 

「モモはどうしてこんなに泣いてるの?」

 

マキはミドリとの挨拶もそこそこに、モモイが絶望に打ちひしがれている様に疑問符を浮かべながらもミドリに促されて結果を話し始める。

 

「うん。ちゃんと分析できたよ。あれはかの伝説のゲームクリエイターが作った神ゲーマニュアル・・・G.Bibleで間違いないね。」

 

「や、やっぱりそうなんだ!」

 

本物かどうか確認せずに持って帰ってきてしまったが、どうやら本物だった様だ。大きな収穫にミドリを筆頭にわっと喜びを露わにする。マキはその様子を見ながらさらに話を進める。

 

「ファイル作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。作業者についても噂の伝説のゲームクリエイターのIPと一致してた。それと、あのデータはこれまでについても一回しか転送された痕跡がない。」

 

「・・・という事は。」

 

「うん、オリジナルのG.Bibleだろうね。」

 

明確な根拠。ミドリが「す、すごい!」と驚きと喜びを見せ、その場の空気もぱっと明るくなる。しかし、そこから続くマキの言葉にその空気もすぐに霧散する。

 

「・・・でも問題があって・・・ファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの。」

 

「えぇっ!?じゃあ結局見られないって事じゃん!がっかりだよ!」

 

マキの言葉に悲嘆の声を上げるモモイ。閲覧に必要なパスワードの解析が出来ていないという事は現状これがG.Bibleである事が分かっただけで結局目的であるその中身を知ることは出来ないという事だ。

 

モモイの言葉を受けてマキも若干悔しそうに「うっ!だってあたしはあくまでもクラッカーであって、ホワイトハッカーじゃないし・・・」としどろもどろに言い訳をしながらも「と、とにかく!」と話を進める。

 

「そうは言っても、方法が無い訳じゃない。」

 

ここで新たな希望の芽がマキの口から告げられる。

 

「あのファイルのパスを直接解析するのは多分ほぼ不可能。でも、セキリュティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっとできるんじゃないかな。・・・で、その為にはOptimus Mirror System・・・通称【鏡】って呼ばれるツールが必要なの。」

 

「ぜ、全然話について行けない・・・」

 

「つまり、G.Bibleを見る為にはその鏡っていうプログラムが必要だって事だよね?それは何処にあるの?」

 

専門用語が多くマキが何を言っているのか理解できないが、要するにG.Bibleのパスワード突破には鏡なるツールが必要になるという事で、正にRPGの様な展開だ。ミドリも要所を理解した様で、マキに鏡の在り処を訪ねている。が、マキの出した質問の答えは既に過去形となっていた。

 

 

「あたしたち、ヴェリタスが持って・・・た。」

 

 

「何だ、それなら今すぐ・・・待って過去形!?」

 

 

危うく言葉の前半に騙されかけたモモイだったが何とか踏み止まる。マキは「そう、今は持ってない。生徒会に押収されちゃったの。もう!」と憤慨する。つまるところ現状鏡とやらはミレニアムの生徒会――セミナーが保管しているという事になる。

 

「この間ユウカが急に押し入ってきて、「不要な用途の機器の所持は禁止」って。」

 

「鏡もそうですし、色々と持って行かれてしまいましたね。・・・私の盗聴器とかも。」

 

盗聴器・・・そういえば最近シャーレの当番としてユウカを招いた時、いきなりコード類を弄り出したと思ったら中から盗聴器らしき機器が出てきたことはまだ記憶に新しい。なるほど、犯人はコタマだったのか。

 

「その鏡って、そんなに危険なものなの?」

 

「そんなことは無いよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。ただ、世界に一つしかない、私達の部長が直々に製作したハッキングツールってだけ。」

 

先生は進んでいく会話を聞いて意識を記憶の海から引き戻し、目の前の話に集中する。

 

「部長って言うと、ヒマリ先輩?」

 

「ヒマリ・・・?」

 

聞いた事ない人物名にアリスが反応する。ミドリは「あぁ、アリスはまだ会った事なかったね。」とヒマリという人物についてアリスに説明していく。事情は知らないが、車いすに乗っている人で、ミレニアムの歴史の中でも三人しかもらえていない「全知」という学位を持っている人らしい。モモイもそれに同意しているあたりミレニアムでは知らない者はいない程の有名人らしい。

 

「けど、その先輩がせっかく作った装備をどうして取られちゃったのさ。」

 

モモイの尤もな質問。例え用途不明と言われてもまともにそれを使っていればそもそも押収されるという事態にはならない筈だ。ユウカが押しかけて来たとしても彼女は規則に厳しいが話は通じるタイプの生徒だ。しっかりと話せば引き下がってくれるだろう。先生が疑問を抱えていると、コタマがその訳を話し始める。

 

「私はただ、先生のスマホのメッセージを確認したかっただけです。その為に鏡が必要だったという訳で、不純な意図は全くなかったのですが。」

 

・・・どうやら意図以前にそれを使った行動に問題があった様だ。先生はスマホを取り出し、モモトークを筆頭にメッセージアプリを片っ端から開く。それを見て「・・・まだハッキングはしていませんよ。」というコタマの言葉に先生の背筋に冷たい何かが流れる。本当に止めて欲しい。ただでさえ連邦生徒会からの機密内容を多く含んでいるのだから。大半はシッテムの箱のアロナに管理して貰ってるとはいえ、アロナが他の生徒に認識できない以上どうしてもスマホでのやりとりが多くなってしまうのだから。

 

「うわぁぁん!早く鏡を探さないと、部長に怒られちゃう!」

 

そして、ヴェリタスも鏡が手元にない状況は単純に先輩に怒られるからとよろしくない状況らしい。状況を理解すると、それを見たハレが更に話し初める。

 

「とにかく、整理すると私達は鏡を取り戻したい。そしてG.Bibleのパスワード解除の為に、貴方達も鏡が必要・・・そうでしょ?」

 

「なるほどね・・・呼び出された時点で何かあると思ってたけど、大体わかったよ。」

 

「え、も、もしかして・・・」

 

「ふふ、流石モモ、話が早いね。」

 

ミドリが凄く嫌な予感を全身で感じている間にも話はどんどん進んでいく。

 

「目的地が一緒なんだし、旅は道連れってね。」

 

「ともにレイドバトルを始めるのであれば、私達はパーティメンバーです。」

 

ミドリの感じる嫌な予感はどんどん辺りに蔓延していく。それに耐えきれなくなったミドリが「お、お姉ちゃん、もしかしてだけど・・・」と恐る恐る姉に問う。

 

 

「まさかヴェリタスと組んで、生徒会を襲撃するつもりじゃ・・・!?」

 

 

――生物に備わった本能として、常々嫌な予感と言うものほどよく当たるものなのだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ミレニアムタワー内にある休憩室。

 

 

 

「え?ゲーム開発部?確かにさっきまで一緒にいたけど・・・何か問題でもあった?」

 

 

「いえ、そういう訳では無いのですが・・・」

 

 

その二人以外誰もいない休憩室の一角で、セミナー書記生塩ノアと標根イサネは机を挟んで席に座り、何やら話をしていた。

 

「ゲーム開発部がセミナー襲撃を計画?一体何が目的で・・・?」

 

「はい。と言ってもゲーム開発部だけではありません。ヴェリタスも裏で結託しているとの事です。目的の程は分かりませんが。」

 

「うーん、でもその様子だとメイド部・・・C&Cにも依頼を出しているでしょう?ゲーム開発部の戦闘能力はしってるし、ヴェリタスだってそう脅威には思えない。私が必要には思えないけど。・・・まぁ、昨日私のスマホをハッキングしやがった事は許してないけどね。」

 

廃墟より帰還した後、スマホの充電の為に共用の充電コードにスマホを接続した翌日、自らのスマホのデータが明らかに抜かれている痕跡を隠蔽した痕跡が残っていた事に気付いたイサネは許可なく赤の他人のスマホをハッキングする馬鹿はミレニアムには一つしかないと確信に至ったのだ。

 

「あら、それは大変でしたね。イレーネちゃん。」

 

「いやまぁ既に契約終了した依頼のデータしかないから抜かれても何の支障も無いんだけど。でもそれはそれ、これはこれだと思わない?ノア。で、話を戻すけど――」

 

イサネは若干逸れた話を戻し、何故わざわざ自分がセミナーの防衛に必要なのかを改めてノアに問う。C&Cとはミレニアムで最強と名高く、メイド部という表向きの仮面を貫通する程の武闘派だ。その部長である美甘ネルの強さは言わずもがなミレニアム最強。自ら殴り合ったイサネの記憶からしても間違いないだろう。本当にタメを張れるとしたらゲヘナの風紀委員長かトリニティの正義実現委員会の委員長くらいだろう。・・・もしくは、その気になったアビドスの生徒副会長か。

 

「ミレニアムはおろかキヴォトス全体で見てもそういない実力者がいるなら私はむしろ邪魔だと思うんだけど。キヴォトスで最初の友達の頼みだから断るつもりは無いというのは前提だけど。」

 

だからこそ思う。自分が最低限ネルと対等に殴り合えるだけの力を有しているからこその疑問。確かに力のある実力者2人なら心強いだろう。しかし、だからこそ心配になるのが実力者同士の競合。実力者同士の自分の戦闘領域が被ってしまう事で一人や普段よりも実力を発揮できないという問題は、到底無視できる問題ではない。

 

無論リンクスの共闘とは何もなければ互いが互いを妨害しない。あくまでも自分の領域で、出来るだけ共闘相手に干渉しない様に立ち回るという連携も味方意識もあって無い様なものだった。それ故にイサネはネルの妨害をしない様に100%で立ち回る自信はある。しかし、ネルの方がイサネを無駄に気遣って実力を発揮できないのでは意味がない。

 

「そのC&Cの部長さんなのですが、ユウカちゃんがC&Cの方から聞いた話によると、いらっしゃらないみたいで。」

 

「えっ?」

 

「個人的な用事があるそうで、いつ戻ってくるかは不明との事です。」

 

イサネの表情が固まる。

 

「いないの?」

 

「はい。」

 

「C&C部長が?」

 

「はい。」

 

「勝利のコールサイン・00(ダブルオー)が?」

 

「はい。」

 

「美甘ネルが?」

 

「はい。」

 

「鬼の居ぬ間の洗濯だぁ・・・」

 

天下のC&C部長コールサイン(美甘ネル)・00の不在によってイサネの出動が確定し、がっくりと頭を机に乗せて項垂れる。

 

「漸く休暇だと思ったらぁ・・・また仕事だぁ・・・うぇぇん、社畜はいやぁ~・・・」

 

「ふふっ、辛かったら泣いても良いんですよ?私が慰めてあげますから。」

 

「そんなことしたらユウカに殺されてしまう。まぁいいや分かった、友人の頼みは引き受ける。武器が心許無いけど、最悪誰かから借りればいいや。」

 

イサネはノアの頼みを引き受ける事に決め、その旨を伝える。

 

「ありがとうございます、イレーネちゃん。」

 

「友人の頼みだからね。ネルを演じることは出来ないけど穴埋めくらいの役割は果たして見せる。さて、まだ時間あるし、もうひと眠り・・・って、ノア?私が寝てたベッドの上で何を?」

 

イサネの依頼受諾の言葉を聞き、ふわりと微笑んだノアは自身のスマホに何かを打ち込んだ後、イサネのもうひと眠りの言葉に何かを閃いたらしい。さっきまでイサネの寝ていたベッドに正座し、自らの太ももをぽんぽんと叩く。

 

「何って、膝枕ですよ、イレーネちゃん。どうですか?」

 

「膝枕・・・うん、やる。」

 

初めて聞く単語ではあったが、数瞬の迷いの後にイサネはベッドに横になると頭をノアの太ももの上に乗せ、目を瞑って眠気の波に身を任せる。そうして訪れた眠気の波はすぐにイサネの意識を沖へと押し流していった。

 

 

「ふふっ、イレーネちゃんの寝顔も可愛いですね♪」

 

 

直ぐに寝入ってしまったイサネの頭をゆっくりと撫でながら、噂に立つ標根イサネの様子からは想像もつかない程無垢なイサネの寝顔を眺める。こうしてまともに一対一で話すのも久しぶりだ。あれからそう月日が経った訳では無いというのに。そんなことを考えながらふと仮眠室の時計を見上げる。

 

 

「私もまだ時間はありますね。しばらくイレーネちゃんの寝顔を眺めるとしましょうか。」

 

 

イサネとの交渉の為に用意できた時間はまだかなり残っている。ノアは交渉が長引いたことを言い訳にもう少しこの場にいる事にした。そうして一人寝顔鑑賞会を開きながらイサネの頭を撫でていると、夢でも見ているのだろうかイサネが寝言を零す。

 

「・・・んんぁ、ううん・・・せれん・・・」

 

聞き覚えの無い名前にふと頭を傾げるノア。少なくともノアの記憶している限りセレンという名前の生徒は存在しない。

 

(セレンとは、一体誰の事でしょうか。イレーネちゃんの家族の名前でしょうか。)

 

この標根イサネという少女がキヴォトスの外から来た存在であろう事はセミナーの会議にて高確率でそうだろうと結論付けられている。何故キヴォトスの住人と同じ体質になっているのかはよく分かっていないが、キヴォトスの外から来たという事は彼女の生みの親は外の世界にいる訳であり、それ以外にも友人や知人が居る筈なのだ。哀愁の念に駆られてもおかしくないだろう。

 

 

「ちが・・・リリウム・・・私の・・・こたえ・・・」

 

 

(次はリリウムさんですか。これもまた外の世界の・・・?それに答えとは何でしょうか。問題集でも解いているの訳では無さそうですが。)

 

 

セレンとリリウム。名前だけでは全く関連性を見出せないが、恐らくイサネにとって重要なキーパーソンである事は間違いないだろう。イサネの「答え」という単語にも疑問を覚えるが、そもそも何の問題の答えなのかという前提からして全く分からない。

 

面白半分で意識を耳に向けるが、その後は寝言を零すことなく安らかな寝息が聞こえるばかりで寝言が口から零れる気配はない。そうしてしばらくイサネをからかうネタが無い物かと粘るが、無慈悲にも時計の針は進んでいく。

 

 

 

―――2時間と数十分後。

 

 

「・・・結局何の成果も無しですか。イレーネちゃん、随分とガードが堅いですね。」

 

 

あれから2時間強粘り続けたが、結局得られたものはリリウム、セレン、そして答えの3つだけだった。2時間同じ体勢でいたせいで既に足の感覚は無い。

 

 

「これではイレーネちゃんをからかう為のネタが―――」

 

 

「なんだって?誰をからかう為のネタだって?」

 

 

何の脈絡もなく聞こえてきた下からの声。ハッとして下を見るとそこには若干の寝ぼけ眼でノアを見つめるイサネの顔があった。どうやら今の発言を聞かれていたらしく、「あら、あらら?」と珍しくノアが軽い狼狽の表情を見せる。

 

「ふわ~あ、人の寝言をネタにするとは随分と悪い趣味をお持ちで?」

 

「・・・バレちゃいましたか。」

 

「まぁ別にいいけどさ、誰の名前を出されようとも。」

 

イサネにとってこの発言は事実だ。この状態のノアにセレンやリリウムを筆頭にオッツダルヴァやオールドキング、果てにはホワイトグリントを尋ねられても動揺はしないと断言できる。だって殆どを自分の手で殺したのだから。・・・殺人が学園転覆よりも重い罪となるキヴォトスで流石に「あぁそいつね、殺したよ。」とは口が裂けても言えないが。

 

「さて、そろそろ集合時間か・・・うぐぐ、よう寝た。」

 

そう言ってのっそりとベッドから降りるイサネ。ノアもそれに続こうとして2時間強人の頭を太ももに乗せていた事で足が使い物にならなくなっている事を思い出す。

 

「イレーネちゃん、足が痺れてしまったのでセミナーのオペレーションルームまで運んでくれませんか?そろそろ時間なので。」

 

「・・・生徒会の重役が何やってんだ。」

 

正座の状態から両手を前に出してそう宣うノアにイサネは呆れつつも背中を向けてしゃがみ、おんぶの姿勢でノアを待つ。ノアの「では失礼します。」という声と共にノアの見た目通りの重みが背中に伝わる。それを確認したイサネは背中に背負うノアに不必要な衝撃を与えない様にゆっくりと立ち上がる。

 

「どうでしょうか、これでも栄養管理はそれなりに出来ているつもりなのですが。」

 

「・・・私の記憶が正しければ身長160cm前後の女性の平均体重は56~7kg。ノアの場合はBMIにして体感平均より低い位か、まぁ栄養状態に問題が無ければいいんじゃない?少なくとも。」

 

「女性にストレートな体重の話はタブーですよ?」

 

「私も女性なんだけど。それに私の場合は栄養状態を疑われる位には体重が無さ過ぎるから。」

 

正直イサネにとって体重の話などネクストに乗れさえすればどうだっていい話なのだが、ここキヴォトスに来てから世の女性は常にスタイル維持と食欲に苛まれているという事を知り、自分の考え方が如何に歪んでいるかと世の女性の恐ろしさを思い知った。・・・尤も、リンクスであるイサネの体重がこれ以上増えるかどうかはかなり微妙なラインだが。

 

(そもそも骨格と筋肉が固定されている時点でなぁ・・・)

 

そんなことを考えつつ、ノアと下らない雑談を交わしながらミレニアムタワー最上階へと向かう。オペレーションルームに入った時ユウカに凄い形相で怒られたが、その後足の痺れが取れたノアの助けもあって着々と迎撃態勢を整えていく。

 

 

 

「ふぅん、相手の目的は差押品保管室。あくまでも襲撃は時間稼ぎだと。」

 

「えぇそうよ。と言ってもこれは同じヴェリタスからの情報だから一体どれだけ信用できるかはその人次第ね。ヒマリ先輩っていう、今は違う部に出向中のヴェリタスの部長が情報をくれたわ。」

 

「情報の出所はともかく、取り敢えず第一目標をゲーム開発部もとい襲撃の実行部隊の無力化ないしは捕縛に設定。第二目標を差押品保管室への侵入阻止に設定する。他には?」

 

「そうね・・・確認なんだけど最上階の構造は頭に入ってる?それから―――」

 

既に稼働を開始し、オペレーターが席に着き、C&Cも他実働部隊も動き出したおかげで人のいないオペレーションルームにてユウカと最後の任務の確認と武装のチェックを同時並行で進める。

 

(さてさて、恐らく廃墟から先生が付きっ切りな以上先生は恐らく敵。あの類稀なる指揮能力が敵側にとってどう感じるものなのかは興味がある。)

 

先生の指揮による戦闘能力の向上は既に何度か体験している。確かに非常にその場その場に合った柔軟な指揮で戦術的に非常に効率的なのは勿論だったが、只先生の指揮下にいるだけで戦闘能力が体感できる程に向上するというあの特異な力は何よりも脅威だ。防衛という後手に回った状況の中でヴェリタスの策を掻い潜りながらの状況で、かつ先生を相手にするとなると完全な任務達成はかなり確率が低いとイサネは踏んでいる。だからと言って負けてやるつもりも、手加減をするつもりも微塵も無いが。

 

(単純な戦力ではこちらが圧倒的優位。だけど、向こうはそういった戦力を正面から相手にしない。目的はセミナー制圧ではなく差押品保管室にある何かだから。正面から殴り合うならともかく、強大な相手を避けて通る手段なんていくらでもある。)

 

ただ強者を無力化する手段などいくらでもある。ネクストだってやりようにとってはノーマルAC部隊でも無力化は可能だ。それこそBFFのノーマルAC精鋭部隊であるサイレント・アバランチは正にその例に当たるだろう。ECM下で長距離からの狙撃を主体に立ち回るその戦い方はネクストですら墜とせると喧伝された。・・・その大体をイサネは砂漠の砂に沈めてきたが。

 

(さてさて、ゲーム開発部とヴェリタスの皆さんはこの布陣をどういう策で抜いてくるかな?)

 

そんなことを考えながら自分の配置に向かおうと扉へ向かったその時だった。

 

 

 

ポーン。

 

 

 

エレベーターの到着を知らせる電子音。扉を開こうと手を伸ばしたイサネの体が硬直する。そう、ここ最上階のオペレーションルームには下の階から直通で入ることの出来る唯一の入り口としてエレベーターが一つ存在する。

 

 

(エレベーター?もう増員はないってユウカがブリーフィングで言ってた筈。)

 

 

増員は無い。だからこれ以上味方が増えることは無い。だからここのエレベーターだって動く筈が無い。だってオペレーションルームに用がある者はもういない筈なんだから。

 

 

(これ以上増員が無いのであればそれは味方ではない・・・つまるところ、今エレベーターの中に居るのは敵になる。・・・え?敵?)

 

 

イサネは慌てて振り返ってハーネスベルトからショットガンを外して構える。そして、エレベーターに向かって走り出しながらオペレーションルームに響くくらいのはっきりとした声で、

 

 

 

「敵襲!敵襲!エレベーターは敵だ!撃ってくるぞッ!!」

 

 

 

イサネの突然の行動に一体何事だと騒然となるオペレーションルーム。ユウカが咄嗟に自らの愛銃【ロジック&リーズン】――MPXベースのサブマシンガン二丁――の一丁を構える。皆の注目が集まる中、エレベーターの扉は開いていき、

 

 

 

「光よっ!!」

 

 

 

―――秩序側(セミナーとC&C)VS反抗者(ゲーム開発部とヴェリタス)の、鏡を巡る戦いの火蓋が今切って落とされた。

 

 

 





最初の方の「逝去宣言」とある部分は言葉遣いというか使い方が違う気がしますが、何かいい表現があったら修正します。

ノアさんの膝枕シーンは書きたかったから書きました。後悔は...後々するかもしれない。
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