これまでイサネさんの出番があまりない事に若干悩みつつありまする。(妄言)
というかブルアカの生徒さん達の口調を上手く捉えるのが難し過ぎる...!
「差押え品のロボットをすべて出して!」
混乱収まる事の無いオペレーションルームにユウカの怒声が響き渡る。エンジニア部とヴェリタスの策に良いように嵌められた事によって指揮系統は完全に崩壊。今やまともに動けるのはC&Cだけとなってしまい、それもゲーム開発部を足止めするには至っていない。
ユウカの指示を聞き、オペレーターが現場に指示を出す。正直差押え品のロボットを使うつもりは無かった。だが、エンジニア部とヴェリタスの仕掛けた罠はそれほどまでにセミナー側にダメージを与えていた。
「本当は塗装し直してお掃除ロボットとして使うつもりだったけど・・・背に腹は代えられない!今は侵入者の撃退が先!」
指示通り無数のロボットのステータスが大きなモニターに表示される。ユウカはそれの設定を高速で弄りながら通信回線を開き、現在シャッターによる足止めを抜けたアカネに声を掛ける。
「メイド部の命令を聞く様に全機プログラムを変更したわ、アカネ!」
その声と同時に完了する再設定。通話からアカネの声が聞こえてくる。
『承知しました。ロボットも使わせてもらって、改めてゲーム開発部を「お掃除」します。』
お掃除。これはメイド部もといC&Cが極秘任務において違法な組織や拘束対象を無力化する時に使われる隠語の様なものだ。実際にC&Cのお掃除によって消されていった違法な組織は学内外問わず非常に多く存在する。
「頼んだわよ。・・・くぅ、せめてアスナ先輩が何処にいるかさえわかれば・・・」
こういう時アスナのどこに居るか分からないという問題が足を引っ張る。仮にアスナがもう行動を始めているならその時が大体状況が好転することは間違いないのだが、如何せん彼女の神出鬼没は任務中でも同じだ。それさえなければ・・・と思わなくもないが、結局物事が上手い方向に進むのだ。C&Cの任務の結果セミナーに請求される周囲の被害額に比べればさしたる問題ではない。
そんな苦々しい心境を胸に次の指示をどうすべきか思案していると、つい先ほどの停電から音沙汰の無かった無線から声が聞こえる。
『おい、おい!あぁ、くそ、ノイズが・・・聞こえるか?ユウカぁー!?』
「イレーネ!?」
イレーネ――もとい、イサネだ。ユウカにそう呼ばれたイサネは若干不機嫌そうに応える。
『人前でイレーネって呼ばないで、最上階全部吹き飛ばすぞ・・・じゃなくて、こちらもシャッタートラップを突破した。今なら自由に動ける。指示があるならどうぞ。因みにスマホが何故かヴェリタスにハッキングされていて使えない。』
「なんなのよ、それは・・・ま、まぁいいわ、イサネはとりあえず自由遊撃に動いて!後々指示があったら伝えるから!とにかく絶対にゲーム開発部を逃がしちゃダメ!分かった!?」
取り敢えずイサネの無事と彼女のスマホが逝った事の二つにどう反応するべきか困惑しつつも指示を下す。するとイサネの口から思いもよらぬ情報がもたらされる。
『了解。第一目標をゲーム開発部の逃走阻止として動く。あと多分アスナはもうゲーム開発部と交戦している可能性が高い。』
「それは本当!?」
『30%勘だけど、恐らくは。根拠としては一つに差押品保管室のある西側から微かにだけど銃声がする。この状況で交戦が発生するという事はそこにゲーム開発部が居るという事。そして二つにいくらゲーム開発部の戦力が少ないといっても相手には先生が付いてる。恐らく並みの生徒じゃ束になっても叶わない。で、そんな状態でもまだ銃声はまだ鳴ってる。』
余りにも突拍子もない報告に聞き返してしまうユウカだが、イサネの話す詳細な根拠に今度こそはと確信を持つ。イサネは更に続けてユウカに提案をする。
『ユウカが直接出向くなら今。出遅れると逃げられるか先に制圧されちゃう。』
「・・・それは、それは私が決める!提案ありがとう!参考にさせてもらうわ!」
そう言って無線を切る。アカネにゲーム開発部の現在座標の推測地を送り、ユウカもオペレーションルームを出るべく愛銃を腰に下げる。そして扉へと歩いていき、扉を開けて外に出る。
「ネル先輩が居ないとここまで翻弄されるなんて・・・くっ、計算外すぎる・・・!」
ユウカは誰もいない廊下を駆けていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・出鱈目に、強い・・・!」
「っ・・・!」
ゲーム開発部と先生の先生チームは、目的地である差押品保管室目前で、完全に釘づけにされていた。そう、目の前に居るメイド――C&Cコールサイン・01、一之瀬アスナ只一人に。
「これがC&Cのエージェント・・・!」
ミドリが改めてアスナの圧倒的は実力に驚愕する。全く以て手も足も出ない。先生の出す戦術の悉くの出鼻を挫きながらも確実に、的確にこちらに射撃を当ててくる。生徒会役員数名や廃墟での戦闘で感じた先生の指揮による"いつもより動ける感じ"を以てしても全く届かない。
「ふーん。」
一方のアスナは戦闘中だというのに何かを熟考する余裕すらあるようだ。はっきり言って勝ち目が見えない。これまで先生もアスナの意識の隙を突くように立ち回りを指示を出してはいるが、全て見えているかのようにその陽動に引っ掛からない。
「くぅっ、ここでアスナ先輩と出くわすなんて・・・」
「お姉ちゃん、一旦退こう!」
この状態となればミドリの一時撤退の案が恐らく最適解だろう。ここは一度引いて体勢を立て直しつつ敵陣の穴を突く。そう心に決め、動き出そうとする先生チーム一行だったが、
「そうはさせないよ!」
――轟音。
アスナの声と共に轟音が聴覚を支配する。爆音に思わず立ち止まった一行の前にはさっきも見た大きな弾痕が床に刻まれている。
「大口径弾!?なんで!?」
「これ・・・カリン先輩の・・・っていう事はウタハ先輩は・・・!?」
カリンの狙撃が来ないのはひとえにウタハのおかげだ。そして現在再び狙撃が開始されたという事は、それはウタハがやられたという事実に他ならない。
そしてその確信はハレからの情報によって事実という実体を得る。
「ハレ先輩から連絡!カリン先輩を抑えられなくなって、ウタハ先輩が捕まっちゃったって!」
「この状況を見ればわかるよ!」
「・・・かなり、不味い状況だね。」
「あっ、マキからも連絡!アカネ先輩がシャッターを爆発させて脱出したみたい!・・・同時に凄い数のロボットがこっちに向かってきてるって・・・」
「ええっ!?」
アスナと狙撃によって完全にこの場に釘付けされ、更にアカネと無数のロボットの増援。ただでさえアスナ一人に苦戦中だというのに、更に追加でC&Cのエージェントを相手できる戦力なんてある訳が無い。元々C&Cとの正面衝突ではどうにもならないからこそ避けるという択を取った作戦なのだ。それが今や普通に相手の得意分野での真っ向勝負になりつつある。
「あははっ、何が何だか分からないけど、私達が優勢って感じ?もしかして、そっちの計画はもう失敗寸前かな!」
優勢どころの話ではない。最早過剰戦力と言っても差し支えない程にまで状況は急激にセミナー側に傾いている。
「失敗・・・」
モモイがぼそりとその単語を口にする。だが、その顔はまだ諦めた表情ではない。
「違う・・・まだ、失敗じゃない!」
ミドリの瞳には、まだ光が残っている。
―――不測の事態の予測。
そもそもミレニアムを治める組織と、その直属の超武闘派集団を相手にするのだ。もしもの時や万が一を計算しない作戦など立てる訳が無い。流石にここまで追い込まれると想定通りとはいえかなりの緊張と恐怖が心に襲い掛かっている。
「私達が派手に動けば動く程、一度閉じ込めたアリスの警戒は薄くなる・・・」
「うん?何の相談かなー?・・・っていうか、ちょっとずつ必死さが無くなってる気がするけど、まさか諦めた訳じゃないよね?」
さっきまでの必死さの消えた一行の様子に、アスナが不服そうに疑問を口にする。戦闘を始める前に彼女は確かに戦うのが好きと言っていた。つまりこのまま最後まで戦えない事が恐らく嫌なんだろうと推測できる。・・・まぁ、意味の無い推論でしかないが。
「この状況なら、諦めた方が賢明だと思いますけどね。」
更に追加でアスナのものではない冷たい声。広間に繋がる廊下から現れたのはユウカ。ここにきて勝負を決めに来たのだろう。モモイの表情が鬼でも見つけたかのような顔になる。
「うっ、ユウカ!」
「久しぶりね。とりあえず、ここまで状況を引っ掻き回したことについては褒めてあげる。それについては本当に驚いたわ。」
最後の晩餐ならぬ最後の会話と言った所か。ユウカの纏う雰囲気は正に噂に名高いミレニアムを支配する魔王にして冷酷な算術使いのそれだ。
「でもそれはそれ、これはこれ。こんなありとあらゆる手段を使ってまで生徒会を襲撃するなんて・・・やり過ぎよ。」
「猶予を与えた事と言い、ちょっと甘すぎたのかしら。」
そこまで言うとユウカは一度呼吸を入れ、厳しい口調で話し始める。
「もう悪戯じゃ済まされないわよ。無条件の一週間停学か、拘禁くらいは覚悟した方が良い。」
「停学!?拘禁!?」
この事態を想定できても罰則までは想定できなかった様で、モモイが驚愕の声を上げる。
「そんな、一週間だと、ミレニアムプライスが終わっちゃう!」
まさに四面楚歌と言う状況で更なる死刑宣告。ミレニアムプライスが一週間後だというのに、一週間停学か拘禁となるともうどうしようもない。ユウカは動揺を見せる一行に更なる追い打ちを掛ける。
「アリスちゃんも今は反省室に入ってもらってるわ。一人だけで可哀想だったけど、あなたたちが来ればきっと喜ぶでしょう。」
「うぅっ・・・!」
「お姉ちゃん・・・」
「捕まっても大丈夫だと思ってたけど・・・このままじゃ、例え鏡を奪えたとしても、アリスとユズだけじゃゲームは作れない・・・」
ゲーム開発部のおいてモモイはシナリオライター、ミドリはイラストやグラフィック等のビジュアル全般を、そしてユズはプログラマーがそれぞれの担当となっている。ゲーム開発とは、本来複数の人が協力して作り上げるものだ。ここでミドリとモモイが捕まってしまったら残るはユズとアリスだけになってしまい、最高のゲームはおろかゲーム開発すら出来るか怪しい。
「どうにかして、突破しないと!」
何があってもここで捕まる事だけは避けないといけない。モモイが何とか気を保たせる。
「突破?へぇ、私達を?」
改めて相手の陣容を確認する。前方には一人でさえ相手するのも難しいアスナとそれに加えてユウカ。更には何処からかカリンの狙撃まで付いてくる。時間が経過すれば無数のロボットがこの場に押し寄せる事だろう。
「ふぅ、やっと着きました・・・こんなに息が切れるなんて、まさか・・・本当に体重が・・・?いえ、そんなはず・・・」
・・・どうやら敵増援の
「あ、アカネ先輩に、戦闘ロボットまで・・・」
まさに孤立無援。更に相手は自分たちが逆立ちしても敵わない天下のC&Cが不在のリーダーを除いて全員集合している。何処に手持ちのどんな駒を進めてもやられてしまう。チェックメイトだ。
「ふふっ、今度こそ、本物みたいですね。・・・改めて、初めまして。モモイちゃん、ミドリちゃん。」
アカネは二人に自己紹介をすると一拍置き、さらに話し始める。
「マキちゃんとコトリちゃんについてはまだギリギリ許せる範囲かもしれませんが・・・ここまで入り込んできてしまったあなた達に、もう言い訳の余地はありませんよ。それに・・・」
アカネが途中で言葉を切り、ユウカがそこに上乗せするように話す。
「先生も、シャーレに抗議文くらいは送らせていただきますので。ご了承おきくださいね。」
事務的な声色で先生に向かって怯むことなく宣言する。それを受けた先生もまた泰然として「生徒を導くためなら、如何なる代償でも受け入れるよ。」とユウカに返す。
「・・・言質は取りましたからね。あとで文句言っても知りませんから。」
「ははは・・・」
取りつく島も無いユウカの態度に先生も苦笑いをすることしか出来ない。現在進行形で自分たちがやっている事がれっきとした悪事なのだから当たり前ではあるのだが。
「うぅっ・・・ここで、本当に・・・?嫌だッ・・・!」
「お姉ちゃん!」
ここまで来て、目的の物にあと一歩の所まで来て諦めきれるものか。それに、捕まったらどのみちゲーム開発部は終わり。問答無用で解散させられてしまう。そして何より、ここまで我儘で着いて来てもらった先生になんと言えば良いのか。本当なら関係ない筈の物事に巻き込んだせいで先生まで実害を受ける羽目になってしまって。その思いが涙となってモモイの目から流れ落ちる。
「ごめん、ごめんね先生・・・!先生は色々助けてくれたのに、私達の力不足で、私達のせいで・・・!」
己の無力さに心を喰い潰されながら先生に自分の無力を謝るモモイ。しかし、先生はそれを柔らかい笑みで受け止め、口を開く。
「・・・まだ諦める必要は無いよ。確かに力及ばなかったのかもしれない、私もまだまだ力量不足だよ。でも、まだ諦める時じゃない。」
「いえ、先生のせいではありません。私が、私達が・・・それに、この状況は、もう・・・」
ミドリも先生のせいではないと言う。確かに状況は絶望的。戦力の数も質も向こうの方が圧倒的に上で、もう降伏以外の選択肢はないように思える。そんな状況だというのに、先生は表情を変えずに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、勇者が魔王を倒す時、一番必要になる最も強力な力って、なんだっけ?」
「最も強力な・・・力?」
「そう、最も強力な力。レベルでも、装備でも、呪文でもない。」
突然の先生の質問にその場にいる全員に疑問符が付く。モモイもミドリも恐怖と悔しさを忘れ、必死に頭を回す。レベルでもなく、強力な伝説の装備でもない。
「装備でも、レベルでもない・・・あっ。」
ミドリが勘付いた様だ。先生の言いたい事に、希望はまだ残っている事に。
「ふふ、気づいたみたいだね。」
「って事は――」
「え?え?一体何なの?最も強力な力って?」
まだ答えを理解出来ていないモモイを手で制し、ゆっくりとその答えを言う。
「そう、魔王を倒すのに必要で――」
―――ターゲットを確認。
「それでいて最も強力な力――」
―――魔力充電、100%。
「それはね――」
突如場に聞こえるがこんという重厚な機械音。C&Cやユウカはその音が何を意味するのかには気付かない。しかし、モモイとミドリはその音の正体に気付くことが出来る。何故なら――
――仲間だから。共に冒険した、かけがえのない仲間だから。
「こ、この音は・・・!あっ!」
ここに来てモモイも先生の質問の答えに辿り着く。
「お姉ちゃん、伏せてッ!」
―――仲間。仲間の絆だよ。
「・・・光よッ!!!」
直後、光が全てを飲み込む。
轟音と共に視界が白一色に染まる中、先生たちの居る場所の反対から放たれた
「くぅっ!?」
衝撃波によって体勢を無理矢理崩され、後ろに下がる事も出来ないアカネ。
「きゃあっ!」
その直感力を以てしても気付けなかった文字通り完全に意識の外からの一撃が直撃。その優れた身体能力を以てしてもまともに受け身を取る事すら許されずに壁に叩きつけられるアスナ。
それだけではない。アカネの周囲に控えていたロボット達もその衝撃波によって徹底的に分解させられ、装甲を吹き飛ばされ、内部部品をぶちまける。
「これは一体・・・あっ!アスナ先輩、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないよー!あははっ、思いっ切り当たっちゃった!何これめっちゃ痛い!頭のてっぺんから足のつま先まで1mmも動かしたくない!」
体勢を整えたアカネが粉砕された壁に叩きつけられたまま動かないアスナを見て思わず声を掛けるが、案外余裕そうな声色が返ってきて一先ず安堵の息を吐く。
「そんな!?アスナ先輩とロボットの半数を纏めて行動不能に!?たった一発で、この威力、信じられない・・・!」
さっきまでひしめくほどにいたロボットがほぼ半分まで無力化されるという光景にユウカが目を剥く。しかも只のロボットではない、戦闘用に設計されたロボットの群れがだ。
「カリン、状況を報告してください!今のビーム砲は何処から・・・」
アカネが無線機越しにカリンに問いかけるが、応答が無い。何度も問いかける内に、さっきまで飛んできていたカリンの狙撃が無くなっていることに気付く。
「そういえば、カリンの火力支援が先程から止んで・・・一体いつから!?」
はっとして窓を見る。そこに映る外の景色からカリンの居るであろう場所を探す。すると、景色にあるビル群の一角に明らかに光の反射ではない光が輝く。
「あの光は!?」
あの光の正体は恐らく閃光弾だ。そういう光り方をしているから。だが、これで疑問が確信に変わる。そう、カリンの狙撃が再び阻害されているのだ。アスナは行動不能、ロボットも半数が無力化され、カリンによる援護も見込めない。つまり、残っているのはアカネとユウカ、それと残ったロボット達。
そして、相手――ゲーム開発部には増援が。
「モモイ!ミドリ!今です!」
そう、アリスだ。
「アリスちゃん!!」
「・・・先に差押品保管室に行ってたのかと思ってたよ。」
先生のくれた問題のおかげでアリスがここに駆け付けてくれた事を予想できた。アリスはモモイのその言葉に応える。
「差押品保管室に向かう途中、考えていました。これまでプレイしてきた数々のゲームにおいて、どのゲームの主人公も、決して仲間の事は諦めませんでした。」
――勇者たる者、決して仲間を見捨てることなかれ。
「なので、アリスもそうします。」
それは、ゲーム開発部に拾われ、数々のゲームで魔王を倒してきたアリスにとって勇者の資格足りえる基本の一つにして絶対の信条となっていた。
「試練は、共に突破しなくては!!」
そう言ってアリスがレールガンを構える。
「アリスちゃん・・・」
「うん、どうせこのまま捕まったら全部終わり。・・・行こう、ゲーム開発部!」
アリスの闘志に再び士気を取り戻すゲーム開発部一行。その勢いのまま、すかさず差押品保管室に向けて走り出す。
「くっ、不味いですね・・・!」
再びひっくり返された盤面に焦らざるを得ない。レールガンの直撃を受けたアスナも元気そうに喋っているもののその身体は動く気配が無い。そしてカリンの狙撃も再開される気配が無い。
「あっ、逃げられる!」
「いえ、そうはさせません!アカネ、戦闘を開始します!」
気を取られている間にもゲーム開発部一行はロボットを蹴散らし、差押品保管室に向かっている。そうはさせじとアカネはそれに追い縋る。
「来るか・・・!皆!迎撃するよ!相手の隙を突いて離脱するんだ。ここならまだ追撃を撒く手段はあるから!」
先生の指揮の元、ゲーム開発部も走りながらも迎撃態勢に移行する。
「くっ、アスナ先輩ほどではありませんが、私もC&Cのエージェントです。先程は一本取られてしまいましたが、戦闘においてまだ後れを取る程では――っ!?」
「ミドリ。」
お得意の爆弾を以て逃げる一行に追い付こうと足を速めた時、アカネの手に持つグレネードに先生の指示を受けたミドリの持つ愛銃【フレッシュ・インスピレーション】から放たれた銃弾が突き刺さり、一瞬で起爆剤に点火。起爆剤によって中の爆薬が猛烈に発火、爆発する。それを手に持っていたアカネは爆発に巻き込まれ、ダメージと共に視界と聴覚を爆炎と爆音で封じられる。
「皆、急ぐよ!」
アカネが爆風に呑まれたを確認した先生はこれ好機と一行を急かしながら更に足を速める。爆発の煙が晴れた頃にはアカネの前にゲーム開発部と先生の姿は何処にもなかった。
廊下を駆け、いくつかの部屋に入って別の廊下へと移動。そしてその廊下を走る事数分。ゲーム開発部一行はセミナー陣営の追撃を撒きつつ、目的である差押品保管室に辿り着く。
「はぁ、はぁ・・・に、逃げ切れた!?先生、ミドリ、アリス、大丈夫?」
息を切らしながらもモモイは自分たちが追っ手を撒くことが出来た事を確認し、次にメンバーの安否を確認する。
「HPは十分です。」
「私も先生も、大丈夫。」
「良かった・・・所で、これが差押品保管室?ずいぶんと滅茶苦茶だけど。」
改めてモモイは自分のいる部屋を見渡す。部屋には大きな棚が幾つも置かれており、そこに様々な物がビニール袋に付箋と共に入れられているが、所々地面に落ちている物や一目見ても壊れていると分かるくらいは破損してしまっている物すらある。
「ガラスも割れてるし、棚も倒れてる・・・」
恐らくこれまでの戦闘の余波がここまで影響を及ぼしたのだろう。広範囲に影響を及ぼす攻撃は正直幾つもあった。だが、今回の目的は差押品保管室に辿り着く事ではない。鏡を奪取する事だ。
「・・・ユウカはもうさっきの時点でアリスが鏡を持ってると思い込んでいるだろうから、きっと部室の方に逃げたと考える筈。まさか、私達がここに来ているとは思わないだろうね。」
「元々そういう作戦だったからね。逆にアリスがあのまま鏡を取ってからこっちに来てたらまた話も違ってきたと思うよ。」
モモイの推察が正しいのは追っ手にユウカの姿が無かったことからも当たっているだろう。恐らくアカネがゲーム開発部の背を追い、ユウカとロボット群が逃走ルートに先回りする形を取ったのだろう。だが、アリスの機転により、モモイ達は窮地を脱出するだけでなく相手の戦力を更に削ぐ事に成功したのだ。
「取り敢えず鏡さえ持ち出せれば、後はヴェリタスが何とかしてくれるはず!」
「あっ、見つけた、鏡!これさえあれば・・・」
そうしている間にもミドリが予め確認しておいた外見の機器を棚の一角から持ってくる。その機器には《Optimus Mirror System》と文字が書かれており、それが目的のある鏡である事の証明となっている。
作戦開始から一体どれくらい経過しただろうか。余りにも緊張続きで時間感覚が若干曖昧になりつつある。だが、紆余曲折の末にこうして鏡を自分たちの手元に収める事が出来たのだ。
「よしっ!さぁ早く帰ろ――」
モモイがそう宣言しようとしたその時だった。
「静かに。ミュートでお願いします。」
「ん?」
珍しく真剣なアリスの声。否、警戒心を剥き出しにした声。その場にいる全員が口をつぐみ、差押品保管室に沈黙が戻る。
―――コツ、コツ、コツ。
誰かの足音。それは小さく聞こえるだけで人数や状態までを図ることは出来ない。しかし、アリスはその限りではないようで、モモイやミドリ、先生にとってはかすかに聞こえる程度の足音の詳細もはっきりと聞き分ける。
「・・・誰かがこちらに向かって来ています。足音から考えて、恐らく一人。」
一人。たったの一人。
「うーん、このままここに居て、ユウカとかメイド部がまとめて戻ってきたら困るし、一人ならみんなで突破しちゃおうか。」
先生の指揮もある以上たった一人を制圧するくらい何の問題もない。わざわざ逃げるまでもないとモモイが提案するが、その前にミドリがスマホを手に話し出す。
「ちょっと待って、ハレ先輩から連絡が来てる。えーっと、なになに・・・「逃げて!隠れて!なんでもいいからそこを早く――」・・・途中で文字が滅茶苦茶になってる。」
「え?一体どういうこと?」
モモイもミドリも普段滅多に焦りを見せる事の無いハレの様子に疑問を覚える。そんな中でアリスはただ一人、こちらに近づいてくる者を視認できた様で、ミレニアムのネットワークに接続してその生徒の正体を探る。
「接近対象を視認。ミレニアムの生徒名簿を確認・・・対象把握。」
実に機械的な口調で検索にヒットした生徒の特徴を読み上げる。
「身長146cm、武器はサブマシンガン二丁、メイド服の上に龍柄のスカジャン・・・」
「え・・・?」
アリスの口から述べられるその特徴にゲーム開発部の空気が凍り付く。
「生徒名簿の検索結果より、美甘ネルと特徴が一致しています。」
「隠れてっ!!」
ミドリの小さな絶叫と共にすごい勢いで物陰に隠れる。
―――どうやら、鬼は既に帰ってきていた様だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・ふーん、もうめっちゃくちゃだな。」
静かな差押品保管室に入った小柄な体躯のメイド?――美甘ネルは若干複雑な心境でここに来ていた。別に怒りの感情がある訳では無い。確かに今回のセミナー襲撃犯がC&Cの優秀な実力者たちを出し抜いたという事実には思う所が無いでもない。だが、それはあくまでC&Cが抜かれるという失態に対する怒りではなく、ミレニアム屈指の武闘派集団を出し抜く程の者に対する興味の意味だ。
(・・・ったく、帰って来て早々セミナー襲撃の犯人を捕まえろなんてな・・・こっちの都合は知ったこっちゃねーってか・・・?まぁ確かに戦えるならある程度の事情は何でもいいんだがよ、一息つく間があっても良いんじゃないのか?こういうのは。)
そう、ネルは今日一日個人的な用でミレニアムの外郭に出向いていたのだ。そしてその用事も何事もなく済み、さぁ帰るかとミレニアム内を回るモノレールに乗っていた時、いきなりユウカから電話で『セミナー襲撃の犯人を捕まえて!』と任務を下され、そのままここに来た次第だ。
(しっかし・・・本当に荒れてんな。どんだけ激しくやり合ったんだか。余り人の事言えねーが。)
きょろきょろと部屋の中を見回しながらその部屋の荒れ具合に若干呆れた様に息を吐く。
「んん・・・?」
ネルの聴覚が確かに不自然な音を捉える。
「何か、声が聞こえた気が・・・」
人の声だろうか、ネルはその音がした方へと歩み寄り、暗闇の中に何かいないか探し始める。
(しかし、イサネだったかイレーネだったか?とにかくあいつもこの任務に参加していると聞いたが・・・一体何をしてんだ。あいつがその気になれば並みの襲撃犯程度どうにでもなるだろうに。)
自他共に認めるミレニアム最強の名を持つ自分とあそこまで対等に殴り合いを演じることの出来る怪物だ。さっさと鎮圧してしまえばいいのにと帰り際で若干面倒を感じている思考の中で考える。
だが、任務は任務だ。思考を切り替えてさっきから感じる気配を辿って部屋の中を歩き回る。
「ふーん・・・確かに気配が・・・机の下か?」
ここは停電の影響なのか明かりが点かないせいでかなり暗い。故に物陰からの不意打ちも想定済みだ。背後からの組み付きも、正面からの発砲も受けきる準備は出来ている。即座に反撃できるよう体を若干力ませながらゆっくりと、気配を探る様に歩く。
(気配の出所はこの辺だが・・・少しは楽しませくれるんだろうな・・・?)
何とはなしにそんなことを考えつつ棚を覗き込もうと体を動かそうとした時、
「あ、あの!」
「あん?」
突如ネルに話し掛ける声があった。そしてそれと同時に明らかに近くにあった気配がより強く感じられる。一先ずその声の方へ向くと、そこには見知らぬ顔の生徒が居た。
「ね、ネル先輩、大変です!」
「あんたは・・・?」
一体誰なのだろうか。ミレニアムの制服を着ていることから一応ミレニアム生である事は間違いない。とりあえず名乗ってもらおうとネルは名前を聞く。
「せ、生徒会セミナー所属の、ユズキです。」
ユズキ。聞いた事の無い名前だ。少なくともセミナーにそんな名前の生徒が居ただろうか。とはいえネル自身もセミナーに所属している生徒など全て把握している訳では無い。そもそもの話、ミレニアムの全生徒を把握しているのはセミナーの会長か口論ではどう頑張っても勝てない同じくセミナーの書記くらいだろう。
「戦闘ロボットが暴走したせいで今、あちこちが滅茶苦茶なんです!アカネ先輩とカリン先輩が制圧を試みていますが・・・」
そんなネルの内情を知ってか知らずかユズキと名乗る生徒は話し続ける。しかし、ネルはその発言に単純に疑問を覚える。
(ロボットの暴走だぁ?最近押収した戦闘ロボットなんて無いだろうが・・・それとも何か別の要因か・・・?)
そう、ここ最近でC&Cが違法組織やミレニアムに喧嘩を売った馬鹿企業を掃除する際に戦闘用のロボットの押収は無かったはずだ。勉学には余り自信の無いネルだが、流石に任務の時のことはある程度覚えている。
「なんだよ、暴走かぁ?あれを差し押さえたの随分前だろうに、まだ整備終わってねぇのか。」
「じょ、状況的に助けが必要かと思い、ここに居らっしゃると聞いたので・・・」
確かに任務関連の事は記憶しているが、流石に押収した物の管理状況などは把握していない。C&Cの役目は戦闘と目的の遂行であり、後処理はセミナーのする事だ。専門外の事にわざわざ首を突っ込む程馬鹿でもないし、そもそもそんな細かい事に興味もない。大方の事情を把握したネルは溜息と共に任務の対象をロボットの掃討に変更する。
「はぁ、仕方ねぇな。」
「わ、私はここの整理整頓をします。そ、その、せ、戦闘は怖くて・・・それに、経験もあまりないですし・・・」
何故か怯えながらネルに向かって話を続けるユズキ。正直ここの整理などネルにとっては関りの無いのでどうでもいいのだが、とりあえず彼女を会話して思ったことを伝えるべく口を開く。
「んなこたどうでもいいけど、それよりあんた・・・」
「は、はいっ!?」
「・・・覚えときな、戦闘で一番大事なのは武器でも経験でもねぇ。」
「はい・・・?」
ネルの言いたい事がいまいち理解できていない様子のユズキだが、ネルはその様子を無視して話を進める。
「度胸だ。」
「その点で、あんたに才能が無いとは思わねぇ。」
美甘ネルという人物がミレニアムの一般生徒達にどう思われてるかなんて自分がよく知っている。恐らくミレニアムの生徒に「怖い先輩は誰?」と聞いたら10人が10人皆「美甘ネル」と答える位だろう。畏怖の対象であるネル自身が言うのも何だが、C&Cやユウカの反応の方が異端なのだ。それに出会いが出会いとはいえ狂笑を浮かべながら臨戦状態のネルに殴り返してきたイサネに至っては最早自殺志願者と評価されていてもおかしくないだろう。
「自分がどう思われてるかって事くらいあたしも分かってる。それに、あんたが結構ビビりなのもよく分かる。それなのに、初対面であたしに声を掛けるなんてのは、それなりに度胸が要る事だろうからな。」
「は、は、はい!あ、ありがとうございます!?」
そういう土壇場での度胸についてはこのユズキという生徒は光る物があるようだ。だからとりあえず伝えてみたのだが、当の本人はその言葉の意図が理解できていない様だった。
(まぁ、戦闘が嫌かどうかなんて人それぞれだろ。そこを考えるのはそいつ次第だしな。さて、それじゃあロボットの掃除に行くか。せめて歯ごたえがあればいいんだけどよ。)
「じゃあな。また何処かで会おうぜ。」
そう言ってネルは差押品保管室を後にする。
―――いまだに感じる複数の気配を背中に感じながら。
今回敢えてパヴァーヌ1章のネル側の描写に挑戦してみました。原作ではモモイ達に気付いているのかいないのかだいぶ怪しい所でしたが、まぁそこは個人の解釈次第でしょという事で書き上げました。思ったよりも疲れた...(満身創痍)
あとやっぱりイサネさんの登場シーン増やさないとまんま原作通りの展開になってしまいますね。構成の修正が必要みたいです。
だれかぁ~、修正力のあるAI呼んでー!...あ、オールマインドさんは帰ってもらって、どうぞ。