ちょっと今回の話は所々話に締まりがないかも...
そろそろパヴァーヌ1章も終わりが近づいてきたという事で前話の前書き通りカルノバグの兎編の詳細を詰めるべくストーリー動画を視聴し始めたのはいいのですが、これパヴァーヌ1章よりもイサネさんの出番少なくない?と思い始めていますだれかたすけて(瀕死)
「――で、どうだった?君に渡した試作品の性能の程は。」
ミレニアムの一角、エンジニア部部室にミレニアム屈指のマイスター――白石ウタハの声が響く。
「・・・銃としての機能なら、一般的なものよりも遥かに優秀だった。」
ウタハの質問に感想を返す声、そう、標根イサネだ。だが、その顔は何処か引き攣っている。
「そうかそうか!凄腕の傭兵である君にそう言って貰えるとは、技術者冥利に尽きるよ。」
ウタハは高性能だと褒められた事に感謝を述べつつ、イサネから受け取ったサブマシンガンを矯めつ眇めつ眺める。一方のイサネはその限りではないようで、ぷるぷると震えながら言葉を続ける。
「・・・でもさ、一ついい?」
「お、なんだい?何でも言ってくれ。君ほどの実力者ならどんな素晴らしいアドバイスをくれるのやら、実に興味深い。」
ウタハは凄腕の傭兵のアドバイスが聞けると、喜んで手に持ったサブマシンガンからイサネに視線を向ける。
「確かに銃自体の性能は良い。精度も安定してるし、フレームの構造も打撃としても優秀と言える程頑強だった。ここにはないショットガンだって同評価。でもね――」
一度言葉を切って深く息を吸う。そして――
「どぉーしておかしな機能がついてるんだよぉぉぉぉーーーッ!!!!」
イサネの心の底からの咆哮。そのエンジニア部の部室の空気をビリビリと震わせ、ミレニアムに響き渡った。流石にウタハも唐突に響いた絶叫に耳を塞ぐ。
「いきなりそんな大声を出さないでくれ。ただでさえ機材が多くて部室が広いんだから・・・うぐぐ、声が響く・・・」
「知るかそんなもん!なんでショットガンがいきなり爆発するんだよ、どう考えたっておかしいだろうがっ!」
ウタハはイサネの怒声に苦情を入れるが、そんなこと知った事かと言わんばかりにイサネの勢いは止まらない。
「昨日のセミナー襲撃の時に私のスマホがハッキングされたのだってそのサブマシンガンのBluetooth機能のせいだろうがっ!知ってんだぞ、何をしても勝手にBluetooth接続しやがって!おかげで大量の依頼データをヴェリタスに引っこ抜かれたわ!ふざけんなぶち殺すぞ!!」
「君があの時セミナー側に付いたのは知っていたが、まさかそんな目に遭っているとは・・・Bluetooth強制接続機能も完全では無いという事か。まぁ、妨害にはなるだろうと思って接続のパスを教えたのは私だが。」
「そのイカれた脳味噌この場で解剖してやるッ!脳漿ぶちまけろぉぉぉーーッ!!」
怒りが閾値を超えたイサネがウタハに飛び掛かる。イサネの異次元な運動能力に技術者であるウタハが敵うはずも無く、あっさりイサネに顔面を掴まれるとそのまま締め上げられる。ウタハは自身の頭蓋がミシミシと軋んでいく音を鼓膜に感じながら説得を試みる。
「うっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!それについては本当に申し訳ないと思っている!だ、だが暴力は良くないと思うんだ。だ、だからそのアイアンクローを止め―――ぃだだだだだっ!?」
そしてその時運悪く部室の扉を開けたコトリはその様を見るや否や顔色を真っ青に染め、スマホを取り出して医務室に連絡を入れる。
万力を超えた力で顔面を掴みあげられたウタハは、後に、「まさかあの時に見たイサネの驚異的な膂力をこの身を以て味わう事になるとは思ってもいなかった。」と医務室のベッドの上で語っていたという。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エンジニア部の部室にてウタハを床に沈めた後、イサネはセミナーの執務室へと来ていた。
「えっと、ユウカ、要件って?」
「その、昨日あれだけ頑張ってもらって悪いのだけど、頼みたい事があって・・・」
執務室の机で、大量の書類を捌きながらユウカが気まずそうに話す。イサネは昨日の襲撃を思い出しながら苦笑交じりに言葉を返す。
「いくらなんでもあれは例外でしょう。そう何度も起きない・・・はず。で、頼み事って?」
「その、実は――」
ユウカは事の経緯から話始める。開催まであと一週間となったミレニアムプライス。その結果発表にはちゃんとした舞台の設置が必要なのだが、如何せんその作業の進みが悪いとの事で、ミレニアムプライス当日に間に合わない可能性が高いとの予想が出たそうだ。
「つまるところ舞台設営の手伝いって所かな?」
「簡単に言えばそうなるわ。なにせ昨日の襲撃のせいで生徒会の役員が結構な数医務室送りになっちゃったせいで現状人手が足りていないのよ。」
確かに襲撃犯組が直接的な戦闘を避けてたとはいえそれでもオペレーションルームに戻ってきた時の被害状況は中々のものだったと記憶している。ミレニアムプライス程の大祭となればその準備設営もセミナーが行うのが通例だが、その人手の確保が出来ていないという訳だ。
「ミレニアムプライスに部外者を入れることは出来ないのだけど、貴方ならミレニアム内の優秀な手伝いさんとして名が売れてるでしょう?だから問題無いと思って。」
「・・・ミレニアムで噂の凄腕傭兵が、これまたミレニアムで名高いお手伝いさんですか・・・」
確かに傭兵としての活動名義は首輪付きだが、標根イサネという名前も依頼時の自己紹介等で良く出しているし、実際に首輪付き=標根イサネ=万物の天敵で名が広まっているというのに、一体何故ミレニアムでは標根イサネ=万物の天敵が結びつかないのだろうか。
イサネがそのことに頭を悩ませていると、ユウカが呆れた様に溜息をつきながらその答えを話す。
「戦っている時の貴方とお手伝いをしている時の貴方はそれが同一人物だって言われないと頭の中で結びつかない位には人が違い過ぎるのよ。」
「・・・そうかなぁ?闘争心が剥き出しにならない限りはそう変わらないと思うんだけど。」
ユウカの答えを聞いてもいまいちピンと来ていない様子のイサネにユウカは溜息を零す。
「まぁ今回とは関係ない話だから置いといて、貴方にお願いしたいのは会場設営の手伝いよ。ミレニアムで顔の知られている貴方だけど今回は正式にバイトとして依頼させてもらうわ。」
「貴方がいてくれれば心強いわ。とりあえず、事の詳細を詰めましょう。」
「委細承知。」
数十分後、事の仔細を詰め終えた二人はユウカの休憩も合わせてティータイムに興じていた。
「うーん、これが紅茶か、初めて飲んだ。なんて言うんだろう・・・こう、香りが良いって言うのかな?どっかの飲食店の看板で見た表現だけど。」
「トリニティにある有名な茶菓子のお店で提供されている紅茶よ。というかなんでそんなに表現が曖昧なのよ。」
「だって昔は嗜好品はおろかその日食えるかも分からなかったし、そのせいか知らないけど今もそんなに飲みたいなーとはならないし。」
「ノアの言ってた破綻した食事情は本当みたいね・・・」
イサネの破綻した食事情とその壮絶さを想像させる過去の断片に強烈なショックを受けながらも、ユウカはイサネの食事情について問い質していく。するとイサネの口から人としておかしな話がどんどん出てくる。
「じゃあ昨日――は襲撃だから、一昨日の夕飯は何食べたの?」
「一昨日?えーっと、栄養剤。」
「それを食事とは言わないわよ!ならその日のお昼は!?」
「サプリメント。」
「あぁぁぁもぉぉぉぉっ!それは食事じゃないって言ってるでしょ!!それに今なら十分に食べるだけのお金も持ってるんでしょ!?なんでまともな食事を取らないのよ!!」
・・・ノアから聞いた食事内容よりも更に悪化している。ユウカはリラックスも忘れ、即座に説教モードに入る。その様子を見たイサネも何か嫌な予感を感じ取り、必死に言い訳する。
「ち、違うんだって、その日は偶々食べる物を買うの忘れてた上に時間も無くて・・・!それにちゃんとした料理だって食べてる・・・よ!」
「じゃあ普段は何食べてるのよ?」
低い、ドスの効いた声でユウカが詰め寄る。イサネはその圧に気圧されながらもユウカの質問に答える。
「えっと、エナジーバー。」
一瞬場が静まり返る。そして――
「だーかーら、それはれっきとした食事じゃないって言ってんでしょうがぁぁーッ!!」
「だって飲食店行っても知らない物ばかりで何食べたらいいか分かんないんだって!そうしたら結局普段の食事ならエナジーバーで良いやって・・・」
やっぱり大丈夫じゃなかったイサネの普段の食事内容に席を立っての説教を始めるユウカ。
「全く!先生も先生で大概だけどイレーネ、貴方もよ!もしかしたら先生よりも酷い生活を送ってるんじゃないでしょうね!?」
「いや流石に先生と違って就寝時間は問題無いと・・・あれ、昨日あの後寝てないような・・・」
ピキピキピキ。
ユウカのこめかみに青筋が見える。イサネは先程までの自分の発言を思い返し、ユウカの怒りが確実に己の失態である事を理解。抵抗を諦めてユウカの説教を耐えるべく身を固める。そしてユウカの怒声がイサネに襲い掛かる正にその時、
「ユウカ先輩!ミレニアムプライスの設営現場で足場が崩れて・・・!」
セミナーの執務室に恐らくセミナー役員と思われる生徒が駆け込んでくる。報告の内容的にだいぶ面倒事だと推測できる。ユウカは今までの説教モードから一転、その事故の対応に当たる。
「詳細はどうなっているの?」
「えっと、それが会場の舞台に設置する装飾用の垂れ幕を設置するための足場が崩れちゃって・・・巻き込まれた人はいないんですけど、それのせいで作業が大幅に停滞を・・・」
怪我人がいない事は幸いだが、作業がストップしてしまうのは非常によろしくない。ただでさえ遅れが生じている状況だというのに、これ以上の遅延は流石に許容できない。
「くぅ・・・倒れた足場の撤去を急いで!すぐに作業を再開させてないと当日に間に合わない!あと作業用のロボットも今出せるだけ出して。これ以上の遅延は許容できないわ!」
「はっ、はい!」
矢継ぎ早に指示を出し、ユウカはイサネに向き直る。
「イサネ、その、申し訳ないんだけどもう今からでも作業に参加してくれないかしら。」
突如切り上げられた説教にイサネはポカンとしている。少なくともセレンの説教は途中に何か起きても大体終わる事が無かった為、説教を切り上げたユウカのその判断には困惑を隠せない。
「え?説教はどうするの?」
「もうそんなこと言ってられないわよ。それに貴方だって説教されるのは嫌でしょう?」
イサネにとって説教とはそう嫌いなものではない。幼少の頃は説教などという愛情故の厳しい言葉などは存在せず、強い者に逆らえば慰み者か殺されるかの二択だった。そしてクレイドルを落とした後はそもそも虐殺者に説教をしに近づく愚か者は存在せず、唯一叱ってくれる存在もこの手で墜としてしまった。
愛情に飢えていると言ってしまえばそれまでだが、イサネにとって自らの過ちを叱ってくれる存在は非常に貴重な存在なのだ。勿論セレンの説教もユウカの説教も怖いものは怖いのだが。
「いやセレンの説教は怖いというより痛いかな。」
「何訳の分からないこと言ってるのよ。」
イサネは関節を極めながら一切の容赦が無い説教を浴びせられるというセレン流指導術を思い出しながらユウカの指示に従って設営現場へと向かう。
「あー、今日の昼・・・いいか、別に食わなくても。」
「駄目に決まってんでしょうがッ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お姉ちゃん、シナリオのこの部分ってどうなってる!?」
「そこは・・・これだ!これに繋げて!それで――」
モモイの仕上げたシナリオと演出や設定に沿ってミドリがエフェクトやイラストを書き上げる。
「ユズ、ここの場面のこの挙動はこれで合ってますか?」
「違う・・・その動きになるって事は、多分ここの文が・・・!」
ゲーム開発部の部室はかつてない程に熱が籠っており、その中でモモイ、ミドリ、ユズ、アリスはそれぞれがそれぞれの役目に沿って【テイルズ・サガ・クロニクル2】の製作にあたっていた。
ヴェリタスとエンジニア部、更にはシャーレの先生の力を借りて何とか成功させた「鏡」奪取作戦を成功させたは良いものの、その鏡を使って開けた
《最高のゲームを作る秘訣は、ゲームを愛しなさい。》
ほぼこの一文に集約できる短い文章で、他にどんな演出にしたらいいのか、どういったストーリー展開がおすすめなのかというものは一切ない。ただゲームを愛せとしか書かれていないそのテキストデータに、閲覧当初は皆が絶望した。
――お、終わりだぁぁぁああぁぁああっ!!!
――お、お姉ちゃん、私達、何か悪い夢でも見て・・・
何が至高のゲームの作り方が載っているだ。何がゲーム開発における秘儀だ。ただのゲーム好きの作った文ではないか、絶望一色に染め上げられた部室の中で、そう思っていた。もうゲーム開発部は終わりなんだと、ユズは戻りたくもない寮の中に戻り、会いたくもない奴らに合わないといけなくて、短いようで長い冒険の中で巡り合うことの出来たアリスとも別れないといけないと。
――いいえ、否定します。
――これ以上は、欲張りかもだけど、叶うなら、この夢が・・・この先も終わらないで欲しい。
例え至高のゲームの作り方がただの夢物語だったとしても、それが今を、この場所を、そして仲間を諦める理由にはならない。
―――ゲームの主人公は、最後まで皆を諦めない。
「この先・・・これじゃインパクトに欠ける・・・!どうすれば・・・」
「そこは文章でどうにかして見せる!多少伝わりにくくても派手にやっちゃって!」
「うぅ、この文のここを直さないとバグが・・・でも直すとここで不具合が・・・」
「ユズ!そこにこの案を乗せるのは――」
それぞれがそれぞれの分野での苦難に苦しみながらも、皆を守る為、そして最高のゲームを作る為に、決して歩みを止めず、進み続ける。
最初の街で、ダンジョンで、広大な大地で、
レベルを上げ、装備を整え、新たな魔法を覚えて、
そして、共に苦楽を分かち合った仲間を連れて、
―――魔王の城の玉座にて、悪しき魔王を打ち倒す一つのRPGのように。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「イサネさん!それそっちじゃないです!こっちです!」
「はぁっ!?さっきと言ってる事反対じゃねーか!」
ここはミレニアムプライス会場の舞台設営現場。ユウカの依頼を受けて現場に着いたは良いものの、作業の進捗が著しくないという報告の通り現場は地獄と化していた。
「おい!いつまでも休んでないで早く作業に戻りやがれお前らぁッ!!こちとら昼返上して作業してるんだぞ!本当なら作業参加は明日からなのにぃぃぃぃぃっ!」
「ひぃぃぃっ!?」
ミレニアムで名の通った「良心的で優秀なお手伝いさん」の仮面はとうに剥がれ落ち、戦場さながらの殺伐とした雰囲気全開で驚異的な量の設営作業を捌いていく。
「イサネさん、マイクの音量調整を――」
「イサネさん、ここの装飾を――」
「イサネさん――」
「忙し過ぎる・・・!」
一息つく暇すらない。マルチタスクで物事の指示を出せるイサネの能力を知っている生徒会の役員達はイサネが来るや否やすぐさま彼女を頼り始め、半分部外者なのになぜが設営の指揮までする羽目になったイサネは現状ショート寸前まで稼働している。
「作業用ロボットを追加で投入してなんでこんなに慌ただしいんだ・・・!」
「ええと・・・最初に投入したロボットが殆どオーバーヒートしてて結局効率はそんなに変わって無いって言う状態で、何なら私達の疲労のせいで下がっているというか・・・」
「うぇぇぇん!もういやだぁぁぁぁ!!」
戦場でならどんな苦境においても心の底からの泣き言、弱音など思うことすらないイサネだが、社畜業務となると話は別だ。泣き言を叫びながら作業を進めていく。
――数時間後。
「指示にあった機材はそれで全部!?垂れ幕の動作に異常はない!?据付のモニターは映る!?配線は!?マイクの予備は!?装飾は!?」
「全部大丈夫です!」
「よし、じゃあ今日はこれまでにしよう!だぁぁ疲れたっ!」
イサネの確認を以て漸く解散の指示が下される。解散の宣言を聞き、十人以下の生徒達の間に流れる空気が緩まる。一方で解散の宣言をしたイサネは近くで喋っている生徒に挨拶だけ述べると、そそくさと外に出る。
外に出ると既に空は暗くなっており、スマホに映るデジタル方式で表示された時間は既に20時を回回っている。
「・・・社畜が。」
近くにあったベンチにぼすんと座って背凭れに背を預け、ぼそりと零す。社畜という可哀そうな存在が嫌いな訳では無いが、自らが社畜になるのはお断りだ。疲労でぶっ倒れるまで休みなく働き続けるなんてのは御免だ。
「なんだよ、限界まで疲れてるのに布団に入っても寝れないって・・・」
どうやら過剰な労働によって精神が異常をきたし、寝ないといけないのに脳が仕事の考え事ばかりをしてしまうせいで寝れないというストレス性の不眠症があると知って戦慄を覚えたのはかなり記憶に新しい。
「はぁ、もうこのまま寝よ。人類種の天敵だって・・・疲労には・・・敵わないんだ・・・」
ベンチの上で仰向けになり、夜風に身を任せながら目を瞑る。昼間から食事も休憩も取らずに作業を続けたのだ、そのおかげかイサネの意識は瞬く間に意識の底へ向けて落ちていった。
そうしてゲーム開発部、エンジニア部、そしてセミナー。ミレニアムに存在するあらゆる部活の思惑を孕みながらあっという間に5日という時が過ぎ去っていく。
イサネはそんな中で会場設営の仕事に忙殺され、慌ただしい5日間を過ごす。会場設営はイサネが効率的に指揮を執るようになったのと作業用ロボットのフル稼働によって何とかミレニアムプライス出展締め切り日である当日の二日前に完成させることが出来た。
「あぁぁ~、疲れたぁ・・・」
夜間のミレニアム構内を一人歩いている少女――標根イサネは、つい先程セミナーのユウカから会場設営完了報告とバイト代の受け取りを行い、ここしばらくの連日稼働に気力の限界を感じながらただ目的もなくミレニアムを徘徊していた。
足を引きずるようにふらふらと整備された暗いアスファルトの道をどこに向かうでもなく進んでいく。この日がミレニアムプライスの出展締め切り日というのも相まって夜間でもそこそこの数の生徒がまだ活動している中、生気無く暗い夜道を幽霊のように歩くイサネの姿は正に亡霊や怨霊のそれであり、運悪く目撃してしまった生徒は「ひぃぃっ!?」と悲鳴を上げながら逃げ出していく。
そうしてすれ違う人にあらぬ誤解と普段とはまた違った恐怖をばら撒きながら徘徊を続ける事数十分。徘徊する中意識すらも完全に無意識に消えかけていたイサネの鼓膜が遠くから聞こえる銃声を捉える。
「戦い・・・」
ピタリと体の動きを止め、幽鬼の様にゆらりとした動作で銃声の鳴った方向を見る。その直後、立て続けに二回目の銃声。音の反響から見てそこそこ遠くだろう。イサネは銃声の元に大まかに当たりを付け、自分の着ているワイシャツの上に装着した戦闘用ハーネスベルトを確認する。そこにはデザートイーグルベースのエンジニア部製ハンドガンもといハンドキャノンが腰のホルスターに挿してある。
「
「ひっひっひっひ・・・こないだは不完全燃焼に終わったからなぁ!?」
そう、数日前のセミナー防衛においては碌に戦闘することなく不完全燃焼に終わってしまい、それからと言うもの今日までユウカの依頼によってミレニアムプライスの会場設営に追われていたイサネの中にある闘争の火種は着実に熱を溜め、今の銃声によって完全に火が付いてしまった。
―――ずるい。
幽霊の如き生気の失せた様から一転、正にブラックマーケットに巣食う頂点捕食者に相応しい狂気と昂揚がない交ぜになった瞳を翠緑に、そして爛々と輝かせ、銃声の方へ向かって走り出す。
「ひゃはっ!あは、ははははっ!?あーっはっはっはっはっはっはっはァーーッ!!!」
狂人の雄叫びを夜のミレニアムに響かせ、一匹の血に飢えた獣が疾走する。善悪はおろか知性も倫理も分別すらも持たない、ただただ闘争と殺戮に酔う血塗れの獣が。
何百mもある道を十秒と数秒で駆け抜け、更に聞こえてくる銃声の方へと一直線に突き進む。そうして見えてくるのはミレニアムの使われなくなった旧校舎もとい廃校舎。それを見たイサネの口角が悍ましく歪む。何故ならここでいくら暴れても実害を被る者はいないから。
銃声が近づくことによって一体何の銃で射撃しているのかも明確に聞こえてくる。イサネは闘争に支配された思考で即座に判断する。
(ひひ、これはサブマシンガンの銃声。音の重なりを見てサブマシンガン2丁。そしてミレニアムでサブマシンガン2丁持ちをする生徒は一人しかいない・・・そう、美甘ネル。)
次いで聞こえてくる轟音。廃校舎の一部ガラスが盛大に割れる。
(空気振動によるガラスの破壊。つまり凄まじい衝撃波を出せる武器・・・メジャーなのはレールガンだけど・・・あっれぇ?最近見たなぁ?レールガン持った奴をねぇ!!)
つまりこの廃校舎で撃ち合っているのはネルとアリス。この二人相手にハンドキャノンでは分が悪い様な気がしなくもないが、最早どうでもいい話だ。
「あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!天童アリスに美甘ネルぅ!!」
イサネは狂笑を撒き散らしながら二人の居るであろう階へ向けて外からジャンプによって直接飛び込む。数mを容易に飛び、ガラスの割れた窓のフレームに残っていたガラス片を吹き飛ばしながら廃校舎に入る。教室を抜けて廊下を走り、二人が交戦している場所まで壁一枚の所で一度停止、「ひひっ。」と笑いを零した後、その壁をコジマ粒子を纏った腕で破壊。その場に躍り出る。
「ははっ!はははっ!ひゃひゃひゃひゃ!死ぃぃねぇぇぇぇーーーッ!!!」
そこには床に向けてレールガン――スーパーノヴァを構えるアリスと、サブマシンガンを両手に持って今にも後退しようとしているネルの姿があった。それを遠巻きに見ているC&Cとゲーム開発部+先生も居るのだが、そんなものイサネの眼中にはない。
「うおっ!?なんだぁ――」
「光よ―――」
アリスが地面に向けてスーパーノヴァを構え、引き金を引くそのタイミングでイサネもPAを纏っていない状態から一瞬でコジマ粒子を圧縮し、解放する。そう、アサルトアーマーだ。
アリスのスーパーノヴァから白き光が放たれ、イサネの体から翠緑が収縮し、解き放たれる。
――轟音、次いで無音。
―――衝撃。
中心にいたアリスとネルは勿論、遠巻きに見物していたC&Cとゲーム開発部、果ては先生にまでその破壊の嵐が襲い掛かる。
「きゃあっ!!」
「うぅっ!!」
先生の持つシッテムの箱は瞬時に危険を察知、起動する。
『先生!バリアを展開します!』
アロナの声と共に先生の周囲に不可視の歪みが形成。ヘイローを持たない人間をいとも容易く肉片に変え、キヴォトスの住人であってもただでは済まない破壊の嵐を、その歪みはその一欠片も先生に辿り着かせることなく受け止め、完全に無力化する。
「先生!大丈夫!?」
「私は大丈夫、皆は!?」
皆の安否を確認すべく視線を巡らせると、とりあえずゲーム開発部の3人は問題無い様だ。頭部に怪我をしている様子もない。一方のC&CはどうなのだろうかとさっきまでC&Cの居た場所を注視するが、巻き上がった爆煙のせいで何も見えない。
「煙がすごい・・・っ!」
「あたりが完全に破壊されて・・・見つけた!アリス!」
モモイが黒煙で視界の塞がれた中で下の方で瓦礫の上に倒れて動かないアリスを見つける。モモイの報告を受けた先生はゲーム開発部を連れて瓦礫によってできた瓦礫道を進み、アリスに近づく。
「に・・・肉体損傷、64%・・・各部位の欠損脱落はありませんが・・・これ以上のダメージは許容できません・・・」
弱々しく自らの被害状況を伝えるアリスを急いで先生は自らの背中に背負う。恐らくあの緑の光とスーパーノヴァの衝撃波が威力を殺し合ったのだろう。でなければ腕か足が吹き飛んでもおかしくない。そして口惜しいがレールガンはここに置いて行く事にする。この状況でこんな重い物を持って行くには労力も時間も無さ過ぎる。
「お願いします、急いで!」
ミドリの声に頷くとゲーム開発部一行は急いで旧校舎を後にする。
「くっ、一体何が・・・」
「リーダー!?」
一方のC&Cもゲーム開発部と似た様な状態に陥っていた。黒煙で視界が塞がれる中、3人はネルを探すべく動き出す。
「今の光・・・どこかで・・・」
「それは後で考えよう、今はリーダーが優先。」
カリンは顎に手を当てて考え込むアカネに言葉を掛けながらネルの行方を捜す。アスナもカリンの横に立ち、ポロリと言葉を零す。
「さっき一瞬だけどアリスちゃんが見えたけど、だいぶダメージを受けてたよ。今頃きっとちっちゃいリーダーもぺちゃんこに・・・」
「誰が小っちゃいって!?」
アスナの「小っちゃい」発言が癇に障ったのか怒声を上げながらネルが黒煙の中から飛び出てくる。衣服にかなりの乱れが見えるが、体の方にこれと言ったダメージは見受けられない。
「あ、リーダー。」
「わ~お、さっすがリーダー!全然ピンピンしてるじゃん!」
「てめぇは一体どっちの味方なんだよ・・・!」
からかっているのか称賛しているのかよくわからないアスナの態度に怒り半分呆れ半分といった態度で返すネル。カリンはその様子を無視してネルに語り掛ける。
「今のアリスは戦闘能力を失った状態だけど、このまま追いかける?だいぶ負傷してたみたいだし、医務室に向かっている筈。」
「はい、ミレニアムには二桁以上の医務室、保健室があるとはいえ・・・すぐに見つかるでしょう。」
C&Cにかかれば二桁程度の候補地の中から正解を探り出すのはそう難しい事ではない。アカネは一度そこで言葉を区切り、「ですが・・・」と更に続ける。
「あの方をどうにかしてから、という事が前提になりますが。」
――あの方。
空気の緩みかけたC&Cに緊張が走る。その直後、何かを破壊する鈍い轟音と共に一人の人影が黒煙の中から現れる。
「・・・てめぇか。」
「あははっ、はは、ははははははっ。」
―――
「だろうと思ったぜ。あの光、てめぇ以外に出せる奴をあたしは知らねぇ。」
ネルはツインドラゴンを構え直し、戦闘態勢に入る。イサネの様子的にこれはかつて二人が初めて邂逅を果たした時に見せた目にとても良く似ている。つまり、戦闘は避けられない。
そうなると、誰もが思っていたのだが。
「ははははっ・・・はぁ?あれ、アリスは?」
辺りを見回したイサネは唐突にタガの外れた笑いを止め、アリスの所在を問う。ネルは戦闘態勢を維持しながらイサネの質問に答える。
「さっきまでやり合ってたが・・・今のでどっか行っちまった。」
「えぇ?逃げたの?・・・ちっ、またこのパターンか、舐めた真似を・・・」
アリスが既に何処かに行ってしまった事を聞くと、舌打ちと共に瓦礫を蹴飛ばし、鬱憤を晴らすのように壁に拳を叩き込む。少量のコジマ粒子を纏った一撃を受けた壁は金属製であるにも関わらずイサネの力と小規模のコジマ粒子の炸裂によってガラスのように砕け散る。
「・・・あの時の建物の半壊って、その光の力だったのか。」
「あの粒子・・・アスナ先輩の第六感とはまた違ったものを感じますね。私の爆薬類にも使えたりは出来るのでしょうか。そうすれば効率的に任務が進められそうなのですが。」
イサネの振るうコジマ粒子に興味津々の2人をよそにイサネはアリスが居ないならもう用はないと言わんばかりに旧校舎を立ち去ろうとする。
「おい、あたしの邪魔しておいて何もなしにそのまま帰ろうってかぁ?」
が、それは問屋が卸さなかった。ネルは左手に持ったサブマシンガンの銃口をイサネの背中に突き付け、低い声で言葉を投げる。それを受けたイサネは足を止め、後ろに振り替えると普段通りの声でネルに問う。
「じゃあ、貴方が天童アリスと美甘ネルの二人分、私を楽しませてくれる?」
「う・・・」
イサネの問いに思わず回答に詰まる。まさか自分+他の誰かを要求されるとは思わなかった。余り頭脳に自信の無いネルでも分かる。明らかに無茶苦茶な要求だ。
「というか今貴方ぼちぼち消耗してるでしょ、知ってるよ?さっきのAA躱し切れてない事。」
「げっ、あの中でも見てやがったのか。」
更にイサネに先程の
「リーダー?それは本当?」
カリンを筆頭にC&C3人の目線がネルに集中する。三人の視線を受けたネルは「そんなにじろじろ見んじゃねぇ!」と顔を赤くしながら怒鳴り散らす。一通り怒鳴った後、後頭部を掻きながらネルは事実を述べる。
「ちっ、そうだよ。あん時の光を避け損なったのは事実だよ。」
悔しいが先程のイサネの奇襲はほぼ完璧にアリスとネルの不意を突いていた。戦闘経験の無い上にレールガンを発射しようとしていた為に乱入に対応出来なかったアリスと違ってネル自身反応自体は出来ていた。だが、その攻撃の及ぼす効力の範囲を見誤った。
「ここまで広いと知ってたら壁破ってきた時にもっと上手くやれたんだがなぁ。炸裂まで若干だが猶予もあったしな。」
「で、どうする?リーダー。アリスは追う?今ならまだ間に合うと思うけど。」
悔しそうにぼやくネルにカリンが問う。イサネに妨害されてしまったが本来ネルがここに居る理由はアリスなのだ。そのアリスに逃げられてしまった以上次はどう動くか決めなくてはならない。ネルはその問いに答える。
「いや、追わない。邪魔があったとはいえぼちぼち満足できたしな。リオの奴がゲーム開発に興味を持つ理由も分かったしな。」
「・・・私全然満足してなーい。」
「それは知らねぇよ。それに――」
これ以上は追わない選択。ネルはイサネの不満を冷静に一蹴し、言葉を続けようとする。が、そこで何故かアスナが何かを思いついたように話に割って入る。
「分かった!気になっちゃったんでしょ~、先生の事。」
その如何にも女子高生らしい言葉に胡乱な顔つきになるイサネ。思い出すはゲヘナ風紀委員会の依頼の為に風紀委員会本部に訪れた時、執務室前にて行政官に首輪とリードを繋ぎ、ペットのように散歩させていたあの記憶。後に知った事だがあれは随分と特殊な嗜好らしい。
「ばっ、ちげぇよ!そう言うんじゃなくてだな・・・!」
咄嗟に否定するネルだったが、悪ノリかはたまた本当にネルを想ってか、ここぞばかりにC&Cの3人はアスナの言葉に便乗する。
「ふふ、お気持ちは分かります。でも、少々心配ですね。あの子たちの体躯を見るに、先生の好みは恐らく・・・」
「少なくともリーダーにとって悪い情報じゃない。」
「うるせぇ!いつまでもそういうこと言ってっとぶっ飛ばすぞ!?」
ネルは3人の悪ノリに顔を真っ赤にして怒鳴る。続けて「はぁ。」と溜息をつきながら頭の中で一通り考えを巡らせる。一呼吸入れ、再び話始める。
「・・・思いっ切り暴れたら腹減ったな。なぁ、ラーメンでも食いに行こうぜ。」
ネルの提案を受けたC&Cの3人は「良いですね。」「賛成賛成~!」「そう言えばリーダーは成長期だった。」と三者三様で同意の意を示す。
「いい加減にしろやぁっ!!」
ネルの怒声により意識が記憶の海から帰還したイサネがラーメンを食べに行くというC&Cに便乗する形で声を上げる。
「あ!私良いラーメン屋知ってる!」
「へぇ?どこにあんだそれは。」
イサネはスマホを取り出し、地図を開くと手早く操作。画面に映った地図をネルに見せる。
「えっと・・・ここ。アビドス砂漠の市街地にある紫関っていう――」
「馬鹿かてめぇは!」
一部が破壊され尽くした夜の旧校舎に今日何度目か分からないネルの怒号が響き渡った。
ゲーム開発部のTSC2作成シーンかなり装飾マシマシで書いたので変な事になってそうで怖い...
あとこれ書いてる途中になんとなく調べてみたら首輪付きさんの名前であるイレーネってヨーロッパの国々で使われる女性の名前で、意味は「平和」だそうです。なんならwikiにイレーネで検索掛けるとギリシア神話に出てくる平和を司る女神エイレーネが出てきたんですよね。
いやぁ...ここのイレーネさん全く逆の事してますけどいいんですかね、これ。