今回だいぶ中身薄いかもしれないです。
もうね、全っ然話が浮かんでこないの。話を考えようとすると思考がコジマ粒子に埋め尽くされて何も考えられなくなる...これじゃあ光が逆流する前に死んでしまう!
あと題名もほぼ英語の語感だけで決めたので和訳するとおかしなことに...
「・・・そろそろ時間か。」
ミレニアムタワーにあるフードコートの一角。時間が時間だけにほとんど人の居ないフードコートの壁に備え付けられたモニターが非常に良く見える4人席を一人で陣取り、机に自販機で買ったハンバーガーとジュースを置いたまま机に頬杖をついてモニターを眺める一人の少女が居た。
「はぁ、会場設営頑張ったんだから会場は行っても良くない?・・・あ、でもミレニアムの制服着てないから悪目立ちするかなぁ。」
そう、標根イサネである。イサネは机の上にある紙袋に包まれたハンバーガーなる食べ物とオレンジジュースの入った300mlのペットボトルを眺めながら時が来るのを待つ。
――そう、ミレニアムプライスの始まりの時を。
本当ならエンジニア部の部室でミレニアムプライスの受賞会をエンジニア部と共に見るつもりではあったが、エンジニア部はコトリが司会でウタハが出展者というのもあってコトリは勿論ヒビキもウタハも会場にいる為、エンジニア部の部室には入れなかった。
「ハンバーガー・・・だっけ?ウタハにおすすめされた食べ物の一つだから買ってみたけど、確かにいい匂いがする。」
ハンバーガーから匂う上手そうな匂いに思わず唾を飲み込む。が、ここは我慢する。これはミレニアムプライスの中継を見ながら食べると決めたものだ。始める前から食べ尽くしてしまっては意味が無い。
「しっかし・・・やっぱどこかで見たことあるのよねぇ。確かガキの頃ゴミ溜めの自称ガキ大将みたいな奴が食ってた様な・・・」
イサネは自らの意識を記憶の海に投げ出す。ミレニアムプライスの開催時刻になれば分かり易いBGMが流れる故に時間を気にする必要は無い。イサネは存分に記憶の海を進んでいく。
ハンバーガーについてはイレーネがまだコロニーのゴミ溜め地帯で残飯を漁っていた時の事だ。偉そうに周囲を仕切っていた小太りで当時のイレーネの3つか4つ上の子供を思い出す。その子供はいきなりそこに現れ、自分より小さい子供しかいない事を良い事に数日間その場にいたイサネと同年代前後の子供達をさも奴隷みたいに扱っていたが、その数日後に戻ってきた元々ここを仕切っていたギャング崩れみたいな大人に愚かにも喧嘩を売って不興を買ってしまい、その場で嬲り殺されていた事は今でも覚えている。
(いやぁ・・・懐かしい。今思えば普通に社会の肥溜めの底みたいな所だったけど、食い物探して仲のいい人達とゴミ溜めを歩き回るのは宝探しみたいで楽しかったんだよなぁ。)
当時はそれ以上の幸せを知らないしゴミ為の外の幸せを理解出来なかったというのもあるだろうが、それでも何か珍しい物がないか、美味しい店の食い残しや廃棄品が落ちてないかなどを名前も知らない同年代の子供らと探すのはイレーネにとって大事な冒険の記憶だった。
一緒にゴミ溜めを冒険した彼女たちは今も元気にしているだろうか。あそこのコロニーが地球のどこにあって何という名前なのか、結局分からずじまいのままここに来てしまった。
「セレンに拾われた時は周りに誰も居なかったから、いきなり居なくなった私を覚えてるかなあの人達。・・・いや、この手に掛けた可能性もあるか。」
改めて人類の半分近くを殺したことが自らの記憶にも強く影響している事を思い知らされる。自らの答えの為だと、どうせ死ぬ命だからと斬り捨てたのに、まさかここに流れ着くとは思いもしなかった。お蔭で自らの記憶が己の業による浸食の影響を受けてだいぶ苦労している。
(何を思い返しても殺戮、殺戮、殺戮。記憶の中はどこに行っても虐殺、虐殺、虐殺。破損したデータみたいだ。いや、バグと言った方が正しいか?)
まさに的を得たと言える表現ではないだろうか。
(ははは、そう考えると虚しいな、私って。ゴミ溜めの中で作り上げた楽しい思い出、そこそこ悪くなかったリンクス達の交流に、初めて出来たちゃんとした友達に・・・セレン。)
(それを、私は――)
―――全てこの手で焼き払った。
『これより、ミレニアムプライスを始めます!司会進行を務めさせて頂くのは私、エンジニア部の部室1年、豊見コトリです!』
「っ!?」
完全に陸を見失った記憶の海に半ば溺れかけていたイサネの意識がコトリの快活な声が告げるミレニアムプライス開催の宣言に急激に引き上げられる。
イサネは現実に帰還した視界を壁に備え付けのモニターに向ける。モニターに映る映像に、マイク片手にコトリがすらすらと挨拶を述べている姿が映っている。
『今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。恐らくは生徒会の方針変更により、部活動維持の為に成果が必要となったためだと思われます!』
ミレニアムは確か千年難題なる7つの未だに解明されていない問題に挑む過程で生まれた学園で、その校風は千年難題に挑む事は変わらずに、そこから様々な研究が行われている。その為に何だかんだ結果主義な部分も否めないらしく、成果の出せない部活は淘汰される定めにあるようだ。つい最近までは人数さえいれば存続できたらしいが。
『昨年の優勝作品であるノアさんの【思い出の詩集】は本来の意図とは違った様ですが・・・その形而上的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました。』
「え?それ子供が小難しい本読んで眠くなるのと同じやつじゃ・・・」
遺伝子レベルで睡眠に問題のある不眠症の治療に使われる程の効力の文は最早詩集ではなく一種の催眠に等しい。
『今回も「歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズのでる持ち歩きチーズ入れ」、「ミサイルが内臓された護身用の傘」、「ネクタイ型モバイルバッテリー」、「光学迷彩下着セット」、「丁度一缶くらいなら入る筆箱型個人冷蔵庫」―――』
・・・なんか碌でもない物しかない。何か珍しい武器などの発掘品は無いかと思いこうして視聴している訳だが、武器はおろか普段利用からしても使用用途が尖り過ぎていると分かる品々にイサネは溜息を隠すことが出来ない。
『そして、今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、「テイルズ・サガ・クロニクル2」などなど!』
『今回出品された三桁の応募作品の内、栄光を手にするのはたった7作品!』
ハンバーガーを頬張りながらモニターに映るミレニアムプライスの進行を見守る。
『それでは7位から、受賞作品を発表します!』
いよいよ発表だ。一体何の作品がランクインするのだろうか、口に付いたハンバーガーのソースを拭き取りながら改めてモニターに意識を集中する。モニターに映るコトリは合間に一息を入れてから発表を始める。
『7位はエンジニア部、白石ウタハさんの「光学迷彩下着セット」!』
「ごほっ!?」
イサネは飲んでいたオレンジジュースを吹き出しかけて思いっ切り咽る。一体何なんだ、光学迷彩のついた下着は。何に使うのか全く想像がつかない。そしてウタハは一体なぜこんな物を作ったのだろうか全く理解できない。
『これは身に着けても下の素肌が透けてしまう為、着ているのかどうなのか分からないというエキセントリックな作品ですが、露出症の患者さんが合法的に趣味生活を送れるようになるという点で、大変高い評価を・・・その評価をした審査員が一体誰なのか、気になってしまいますね!』
・・・本当に使う者が居るのだろうか。イサネの思いつく限りではそんな頭のおかしい狂人は居なかった筈だ。イサネは怪訝な表情のままモニターを眺める。
『そして6位!6位にランクインした作品は―――』
ハンバーガーを食べながらイサネは着々と進んでいく順位発表を眺める。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『5位は―――』
――違う。
ゲーム開発部の部室はかつてない程の緊張で満たされていた。
『次です!4位は―――』
―――これでもない。
「ううぅぅっ!そろそろお願い!」
モモイが緊張の入り混じった声で入賞を願う。ここまででテイルズ・サガ・クロニクル2の名前は上がってきていない。だが、成果としてならここいらが良い感じのラインだろう。
『さぁ、ここからはベスト3です!3位は――』
―――テイルズ・サガ・クロニクル2の名前は無い。
「も、もう心臓が持たない!」
「お願い・・・お願い・・・」
ミドリもユズも緊張でどうにかなってしまいそうな心を何とか抑えつけている。
「お願い・・・!」
だが、それは先生も同じだ。短い間ではあったが、大冒険を駆け抜け、アリスという新たな仲間に出会い、立て続けに襲い来る苦難を力を合わせて乗り超え、一つの思い出を作り上げた。
『僅差で2位を受賞したのは―――!』
「お願いします、私たちの名前を・・・!」
アリスの祈るような声の中、テレビの中のコトリは2位を受賞した作品の説明や評価点、個人的な意見を明るい声で述べていく。勿論テイルズ・サガ・クロニクル2ではない。もしそうならもうここで狂喜乱舞している。
「くっ、2位でもない・・・っていう事は・・・!?」
モモイの言葉にミドリも何かに思い至る。既にネットに上がった感想の数とダウンロード数を見る限りではランク外という事は無い筈だ。
『最後に!ミレニアムプライスで最高の栄誉を受賞した作品です!』
コトリの一段明るい声が、1位の発表に移る胸を告げる。ゲーム開発部や先生は勿論、ミレニアムプライスを見ている者なら誰しもが固唾を呑む。
『その1位は・・・!』
部屋の空気が緊張で凍り付く。さぁ、いよいよだと一同の視線がテレビに一層突き刺さり―――
『CMの後で!』
謎に和風なSEと共にコトリの声が凍り付いた部室の空気に響き渡る。ずっこける一同にぶち壊しになる場の空気。その数秒後、モモイは勢いのままにアリスに指示を出す。
「アリスッッ!!!」
「充電完了!いつでも撃てます!!」
モモイの言葉を聞いたアリスがチャージが完了したスーパーノヴァをCMを流し始めたテレビに向ける。それを見たミドリが大慌てでそれを止める。
「気持ちは分かる!気持ちは分かるけど授賞式会場もテレビも撃っちゃだめ!」
「うぅ・・・もう焦らさないで欲しい・・・」
ミドリに宥められたモモイが心労を隠さずに話す。スーパーノヴァを降ろしたアリスも表情が緊張に歪んでいる。
「ははは・・・」
それは先生も同じで、そのやりとりに形だけの苦笑を零す事しか出来ない。そうして束の間の息を整えていると、短くも長くも感じられたCMが終わる。一瞬の暗転の後、画面は再びミレニアムプライス授賞式へと戻ってくる。
『さぁ、それでは発表します!』
テレビから再びコトリの明るい声が聞こえてくる。その声によって再び部室を凍てついた緊張感が支配する。重い、重い重圧が、その場にいる一同に襲い掛かる。
『待望の1位は―――』
静まり返った部屋で、自らの心臓の鼓動だけが耳に響く。背中に流れる冷や汗が伝う感覚が非常に気持ち悪い。
『新素材開発部の―――』
―――銃声。目の前にあったテレビのモニターに弾痕が刻み込まれ、画面が真っ黒になる。
「きゃぁっ!本当にディスプレイ撃ってどうするの!」
ミドリがぎょっとして銃撃者――モモイに苦言を呈する。だが、一方のモモイは瞳に涙を溜めながら喚く。
「どうせ全部持ってかれちゃうんだし、もう関係ない!うぇぇぇん!今度こそもう終わりだぁぁぁぁッ!」
確かにモモイが銃撃をする前のテレビからは1位を取ったのは新素材開発部と言うコトリの声が聞こえた。つまり、ゲーム開発部のテイルズ・サガ・クロニクル2は入賞ならず、選考から外れてしまったという訳だ。
「うぅ・・・結局、こうなっちゃうなんて・・・」
ユズの言葉が冷え切った部室の空気を震わせる。
「落ち着いて、お姉ちゃん。でも・・・」
「分かってるよ!全部が否定された訳じゃない、へこたれる必要なんて無いって。ネット上の反応だって悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時からちゃんと成長した。」
ミドリの言葉を受けて落ち着きを見せたモモイが気丈に振る舞いつつそう返す。
「これからも、きっと成長していける。次こそはもっといい結果を出して、もっと大きな部室だってもらえるはず!・・・でも・・・」
「うん、だって、ここを追い出されたら、ユズとアリスちゃんは・・・」
―――離れ離れになる。
入賞できなかったとはいえ全てが終わりな訳では無いし、恐らく次は入賞できるかもしれない。しかし、ここで結果を残せなかった以上、少なくともこの部屋を追い出されるのは確実だ。そうするとユズは寮生活に戻ることになり、そもそも学籍すら怪しいアリスは少なくとも普通の生活は望めない。
「心配しないで、ミドリ。」
ユズとアリスを気遣う二人にユズは声を掛ける。
「私、寮に戻る。」
「え?」
ユズの口から出た言葉にミドリは少しばかり驚きを隠せない。
「もう私の事を、クソゲー開発者なんて言う人はいないと思う。ううん、もし仮に居たとしても大丈夫。」
「今の私には、この3人と、先生がいるから。」
ユズはそこまで言うと、一度呼吸を挟んで先生に向き直る。
「ありがとうございました、先生。先生がこの部屋に来てくれた時から、私は大きく変わることが出来ました。」
感謝の言葉の筈なのに、ユズのその言葉が己の無力さを一層自覚させるように先生の心に突き刺さる。「あぁ、なんて自分は無力なんだ。」と、「もっと良い道があったのではないか。」と。自分の心の傷を隠しながら、先生はユズの話に耳を傾ける。
「ただ、アリスちゃんは・・・」
そう、アリス。ミレニアムの封鎖された廃墟で見つけた機械仕掛けの生徒。恐らくゲーム開発部解散の際に徹底的に身元が洗われるだろう。そうなってしまうと再びゲーム開発部の再結成が出来てもアリスだけは戻ってこない可能性は非常に高い。
「大丈夫、アリスについては私が何とかしてみせる。・・・アリス、シャーレに来る?」
「・・・アリスちゃん。」
沈黙を貫くアリスにミドリが声を掛ける。そしてぽつりと一言。
「・・・ごめんね。」
「いえ。・・・先生の事は、信じられますから。」
ミドリの謝罪にアリスは静かにそう返す。そして続けて、
「ですが・・・もう・・・」
「皆とは、もう一緒にいられないんですね。」
アリスのその言葉に誰もがハッとなる。確かにシャーレの所属になってしまえばミレニアム所属という肩書は消える。時折会いに来る事は出来るかもしれないが、一緒にいる事は出来ないだろう。
「うっ・・・ごめんね、ごめんねアリスちゃん!私、毎日シャーレに行くから!本当に、毎日絶対行く!何処に行っても、一緒にゲームを作ろう!」
「ううううっ・・・!や、やっぱり嫌!っ、先生、やっぱりアリスを連れていっちゃだめっ!!私の部屋に連れていく!ベッドも一緒に使おう!ご飯も二人で分ける手食べるから!」
「わ、私の分もあげるっ!」
まるで駄々っ子の様な言葉だが、その気持ちは先生も同じだ。出来る事ならシャーレの特権を使ってどうにかしてやりたい。してやりたいが、それは出来ない。ここでシャーレの特権を行使して介入するという事は先生として、生徒を見守る大人としての矜持に反する所かむしろカイザーの様な汚い大人のやり方にと同じになってしまう。シャーレの先生としてそれだけは絶対にしてはいけない。
「二人とも、先生を困らせないであげて・・・それに、もしそのことがばれたら、モモイもミドリも・・・」
ユズの言葉に言葉を詰まらせる二人。実際、モモイとミドリがアリスを自室に匿ったとして、それが誰かしらの目か耳に触れ、才羽姉妹がアリスを自室に匿っているとセミナーに情報が伝わってしまったらモモイもミドリもただでは済まないだろう。
「大丈夫かは分からないけど、なるべく二人とアリスが合えるように私も頑張るよ。何とかして時間を作ってみせるから。」
期待に応えられなかったせめてもの償いとして、先生が二人にそう告げると――
「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!」
部室の扉が開く音と共に笑顔のユウカが駆け込んでくる。
「ひぃっ!もうユウカが!」
「ちょ、ちょっと待って、そんなすぐになんて!」
確かに部室の退去命令にしては余りにも早過ぎるユウカの登場に再び場が騒然となる。
「悪魔めっ!生徒会に人の心とかない訳!?」
モモイが最後の抵抗の様に声を上げるが、次にユウカの口から聞こえた声は一同の予想に反するものだった。
「おめでとうっ!」
場が静まり返る。先生含めたゲーム開発部の面々の顔には困惑と疑問符が浮かんでいる。その様子を見たユウカも困惑を露わにする。
「え、何この反応?」
数瞬の間を置き、再び口を開く。
「結果、見てなかったの?」
「結果?」
「私達7位以内に入れなくて・・・」
モモイとミドリの返答にユウカは思わず溜息を吐く。
「何を言ってるの、今もまだ放送中なんだからちゃんと見てなさいよ。」
「お姉ちゃんがディスプレイ吹っ飛ばしちゃって・・・」
若干気まずそうにそう言うミドリの言う通り、部屋の奥に幾つもの弾痕の見えるテレビが横たわっているのを見つける。モモイの早とちりに呆れたユウカは二度目の溜息をつきながら、一同に自分のスマホの画面を見せながら話す。
「ほんとに何してるのよ・・・ほら、見てみて、私もスマホで見てて、途中から走ってきたの。」
一同はその画面を食い入るように見る。そう、その画面に映っていたのは―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対し、実用性を軸に据えて受賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。』
『しかし今回の作品の中には、新しい角度から実用性を感じさせてくれたものがありました。とあるゲームは実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。』
『よって、私達はこの度、異例の選択をする事にしました。』
『今回は特別賞を設けます。その受賞作品は、ゲーム開発部の【テイルズ・サガ・クロニクル2】です。』
「テイルズ・サガ・クロニクル2・・・」
ぽつりとつぶやきが零れる。
『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観と、最初は困惑の連続でしたが・・・』
『新しい世界を旅して、一つ一つ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く・・・そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかりと込められた作品だと思います。』
『プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった頃の思い出を鮮明に思い出しました。そう言った点を評価して、この作品に・・・』
画面の中の審査員は一度そこで言葉を切り、一呼吸。そして、次の台詞を声高々に宣言する。
『今回、ミレニアムプライス特別賞を授与します。』
審査員のその宣言と共に会場が沸き上がる。モニター越しでも伝わるその熱気に、思わず目線を背けそうになる。
『さて、会場の熱気も収まってきた所で、閉会の挨拶へと移っていこうと思います!』
コトリの元気な声によって授与式が進行していく中、机の上に置いてあるオレンジジュースの入ったペットボトルを手に取り、残りを一息に飲み干す。
「・・・テイルズ・サガ・クロニクル2、ね。ゲームなんて殆ど触った事ないけど。」
ぼそりと独り言を零し、ハンバーガーの包み紙とからのペットボトルを手に席を立ち、少しづつ人の増えてきたフードコートを後にする。近くにあったゴミ箱にゴミを捨てると、足早に外へ出る。
(見たいものも見たし、帰りますか。体が戦いを求めすぎて壊れそうになってるし、さっさとブラックマーケットで良い感じの依頼を見つけないと。)
ゲームと言うものを殆ど触る事の無かった為、テイルズ・サガ・クロニクル2が特別賞を受賞した理由というものが理解出来なかった。しかし、昔を懐かしむように、忘れてしまったものを再び見つけた喜びを感じさせる雰囲気で受賞理由を語る審査員を見て、テイルズ・サガ・クロニクル2は、人に何か大事なものを思い出させる様な作品なんだという事が理解できた。
(テイルズ・サガ・クロニクル2・・・スマホで出来るみたいだし、時間があったら少しやってみようか。何か新しい発見があるかもしれないし。)
闘争への飢えで震えそうになる体と心を抑え、そんなことを考えつつミレニアムを後にする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え・・・あ・・・」
開いた口が塞がらなかった。
「本当におめでとう!その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しに面白かったとは言えないけれど・・・良いゲームを遊んだ後の、あの独特な感覚が味わえた。」
ユウカの称賛に続くように扉からもう一人――ヴェリタスのマキが部屋に入ってくる。
「モモ、ミド!あたしもTSC2やってみたよ、すっごい面白かった!今ネット上でも大騒ぎだよ!ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前より、TSC2の検索数の方が多くなってるってさ!」
「ほ、ほんとに・・・?」
幾ら嬉しい事と言えど余りに現実味の無い事実を受け入れられない。一方でユウカとマキの話を聞いていたアリスは自らのOSでネットでの検索を始める。
「確認しました。3時間前にアップしたテイルズ・サガ・クロニクル2は、先程までダウンロード7705回、合計1372個のコメントが付いていましたが、ミレニアムプライスの発表後、約26秒でダウンロード回数が1万を超えました。」
アリスの言葉にはっと目を見開くモモイ。更にアリスは続ける。
「コメントも約500個追加、言葉のニュアンスからして否定的、疑惑のコメントが242個、肯定的、機体のコメントが191個、残りは不明、もしくは評価を保留しているコメントです。」
「え、あれ・・・そしたら私たち・・・結局ダメってこと!?」
肯定コメントよりも否定コメントの方が多いという統計結果にミドリが落胆しかけるが、ユズがそこに割って入る様に話す。
「ううん、そんな事はない。」
ユズの言いたい事がよく分からなかったミドリだが、ユズはそのまま続ける。
「見て、今同率で、一番多く共感を貰ってる、二つのベストコメント。」
ユズに促され、レビューの画面を見る。
《実際にプレイするかどうか、最初は散々迷いました・・・でも今はこう思ってます。このゲームに出会えて、よかったです。》
《これまでミレニアムに対して、偏見を持っていました。冷静さと合理性しかないというミレニアムの生徒達への偏見は。今回のミレニアムプライスとこのテイルズ・サガ・クロニクル2を通じて、完全に無くなったと断言できます。》
確かに見た所この二つのコメントが一番多くグッドを貰っている。つまり、このTSC2は、人々に忘れてしまった子供の頃に感じた単純なゲームの楽しさを思い出させるだけでなく、完全な合理主義者の集まりというミレニアムサイエンススクールの生徒達に対する偏見すら変えてみせたのだ。
「えっと・・・っていう事は、廃部にならないんだよね?」
モモイの恐る恐る問うような声にユウカは少し冷静さを取り戻した声色で答える。
「えぇ、そうよ。あ、でもあくまで臨時の猶予だから。正式な受賞ではないし、生徒会としてはまだ来学期まで・・・ゲーム開発部の部室の没収および廃部を保留することにしたの。」
冷静に評価するなら妥当といえる判断だろう。確かにTSC2は特別賞に輝くだけでなくネットの世界でも大きな反響を呼んでいるとはいえ、恐らくこれが初めての「実績」だ。流石にこれだけで部の完全な存続を認める程セミナーも甘い処置は出来ないだろう。
「えっと、それから・・・」
ユウカが若干気まずそうに続ける。
「その・・・ごめんなさい。ここにあるゲーム機の事、ガラクタって言って・・・貴方達のおかげで思い出したわ。小さい頃に遊んでた、色んなゲームの事を。久しぶりにあの頃の、新しい世界で旅をする楽しさを感じられた。」
それは確かに謝罪。どうやらユウカも、TSC2をプレイして、懐かしい過去の思い出を思い出す事が出来た様だ。
「・・・ありがとう。・・・それじゃあ、部室の延長申請とか部費の受理処理とかは必要だから、落ち付たら生徒会室に来てね。じゃ、また後で!」
そう言ってユウカはゲーム開発部の部室を去っていく。ユウカの隣にいたマキも、「あたしもそろそろ行かないと・・・またね!モモ、ミド!」と言って部室を去る。少しの沈黙の後、ミドリが口を開く。
「じゃ、じゃあ・・・!」
「や・・・やったぁぁぁぁーっ!!」
「良かった・・・!」
「やった・・・嬉しい・・・!」
ミドリの声に続いてモモイも歓声を上げる。次いで再びミドリ、そしてユズ。状況の理解が追い付いていないアリスは「え、えっと・・・?」と困惑の声を投げかける。それに対し、ミドリは歓喜のままにアリスに事実を伝える。
「アリスちゃん!私たち、特別賞を受賞したんだよ!この場所も、私たちの部屋のまま!」
「え、えっと、つまり・・・」
ミドリの言葉を聞き、アリスは恐る恐る皆に問い掛ける。
「アリスはこれからも・・・みんなと、一緒にいて、良いのですか・・・?」
「「うんっ!」」
「これからもよろしくね・・・!」
重なるモモイとミドリの声に、数瞬遅れてユズの声。アリスは顔を綻ばせながらそれに応える。
「私も・・・私も嬉しいです。」
「アリスちゃん!」
「私たち・・・っ!」
モモイとミドリがアリスを左右から挟む形で抱き着く。
「これからもずっと、一緒だよ!」
そしてユズがアリスの正面から、そう笑い掛ける。
「・・・はい!」
そこでアリスの顔にも明るい笑顔が浮かぶ。
「これからも、よろしくお願いします・・・!」
瞳に涙を溜めながら、アリスはそう言った。
その後は部活存続の為の申請を行った後、先生も含めた5人で夜になるまでゲームをした。ゲーム開発部の原点ともいえるテイルズ・サガ・クロニクルや、様々は対戦系のゲームや協力系など、ジャンルを問わずに。
日もとうに暮れ、夕食時の時間に、先生の「祝勝会として、夕飯は何処かに食べに行こうか?勿論、先生の奢りで。」という先生の言葉でミレニアムを出、少し高めのファミリーレストランで腹一杯になるまで食べた。・・・出費には目を瞑っておく。
ゲーム開発部をミレニアムまで送り、先生はシャーレに戻る。確かにゲーム開発部の大冒険は無事にハッピーエンドを迎える事が出来た。しかし、それはあくまでゲーム開発部の物語であってシャーレの物語はまだ終わっていない。・・・そう、書類という裏ボスとの壮絶な戦いが。
「・・・書類・・・しんどいぃ・・・」
さっきまでゲーム開発部の皆を一緒にゲームをしていたとは思えない程、くたびれたOLの様な情けない声がシャーレの事務室に木霊した。
会話の多いシーンでの人物の動きとか「話した」「喋った」といった会話の動作を表現するのがだいぶ苦労したし普通に苦しかったです。
最初の方の会場にいる人といない人の区別はイサネさんが一人でミレニアムプライスを視聴するのを描くためです。...決して執筆コスト低減の為ではありません(多分)
ちょっと今回自信なさげです。