「先生、ここも漢数字で記入して下さい。後ここは――」
「えぇ~、まだあるの~?」
「生憎と。」
非常に清潔で何処か透明感を感じさせる白と水色で彩られたバカ広い部屋で、イサネは来客用のソファに座り、隣の先生とリンの会話を聞きながら窓の外から見える穢れの無い空とD.U.区の街並みを眺めていた。連邦生徒会長の執務室がサンクトゥムタワーの高層階にあるおかげでここからの眺めは絶景とまでは行かずとも美景とは言えるものだろう。
美景と評価できるその景色に映る街並みはガラス張りや汚れの無いビル群が立ち並んでおり、ビルのガラスに反射した太陽光が眩しい。道路も綺麗に整備されており、お昼時を過ぎたおかげで走る車や歩道を歩く人の数も増えてきている。
(・・・出来る事なら、ストレイドと一緒にこの空を何のしがらみも無く飛んでいたい。)
かつて穢れすら飲み込んでしまうと評したその空を見上げながら、イサネは自分の中にある素直な渇望を心の中で呟く。最近はストレイドと共に居る事が増えたイサネだが、折角再会することの出来たなら、一緒に戦場とまでは行かなくても空を駆ける事くらいはしたい。
(ネクストは何処まで行っても汚染兵器で欠陥兵器でしかない、か。)
だが、そんなことをすれば確実にキヴォトスに汚染をもたらす事はイサネも理解している。汚染らしき汚染を感じないこの世界を、翠緑の光でまみれさせる訳にはいかない。そして何よりキヴォトスで10m級の兵器が空を飛ぶとなると確実に注目の的になる。
(ここまで銃社会でありながら、兵器の開発が盛んでないのは恐らく殺人が自治体の転覆より重罪になっている為でもあるのかないのか・・・だからこそ、ACの存在は異様に目立つ。)
そう、ここキヴォトスでは一般的に銃を所持することは服を着る事よりも常識と言われる程の銃社会なのだが、その割には効率的に対象を殺傷出来る兵器の開発が行われていない。勿論カイザーのパワーローダーや戦車、最新型の銃火器などと言った既存に存在する武器や兵器の開発は盛んだ。しかし、その割には戦闘機や長距離ミサイル、果てには広範囲を攻撃できる大兵器の開発は行われていない。
(もしストレイドの存在が連邦生徒会に見つかろうものなら・・・)
この不思議なスキルツリーで成り立っているキヴォトスにおいてネクストの存在は明らかにオーバーテクノロジーと言えるものだ。連邦生徒会を筆頭に各学園やカイザー等の企業にその存在が露見しようものなら、それを巡っての争いが勃発することは間違いない。
(連邦生徒会なら、押収の対象になるだろうね・・・尤も、向こうが「押収します。」と言うのであるならキヴォトスと引き換えにしてもらう位の代償は払ってもらうけど。)
イサネだって自らの半身であるストレイドを誰かに手に渡すつもりなんて微塵もない。寄越せと言ってくる輩が居るなら、誰であろうとも生きて帰すつもりは無い。現状ストレイドの存在を知っているのが連邦生徒会に対する信頼が薄いと思われるアビドス高校の生徒達だけなのはイサネにとっては救いでしかない。そして、彼女たちがイサネの頼みを聞いてくれるくらいにはイサネを信用してくれている事も。
「――サネさん、イサネさん。聞いてますか?」
「っえ?」
イサネが心の中で黒い決意を固めていた時、唐突に声が掛かる。はっとして視線を窓から椅子の向いている方に戻すと、さっきまで先生の書類指導をしていたリンの顔がこちらを向いていた。イサネは慌てて姿勢を戻し、リンに向き直る。
「え?えーと・・・何だっけ?」
「貴方の傭兵活動についての話です。先生の方の話が一区切り付きましたので。」
リンはそう言うとタブレットを机の上に乗せ、イサネの方に寄こす。一体なんだろうかと疑問に思うイサネを一瞥しながら、リンは話し始める。
「そのタブレットに開いてあるサイトはブラックマーケットで広まっている傭兵バイトのネット掲示板です。」
「知ってるけど。」
傭兵用掲示板。イサネがブラックマーケットに足を踏み入れた時から既に存在していたネット掲示板で、ブラックマーケットだけでなくキヴォトスに広く存在する傭兵バイトの為に建てられたもので普段傭兵バイトたちはこの掲示板を使って仲間を集ったり、企業のばら撒きの依頼もここに載る事がある位には有名なサイトだ。最近は使う機会が減ったものの過去に何回か使った記憶がある。
「これと話に何の関係が・・・」
イサネはタブレットに映る画面に指をスクロールさせて掲示板の書き込みを流し見るが、すぐに異変に気付いた。サイトの表示やシステムに不具合がある訳では無い。ここ数日の書き込みの内容が異変の正体だ。書き方や表現はバラバラだが、明らかに天敵――イサネのせいで食い扶持が無くなったという内容の文章が多い。
「天敵って、私の事だね・・・嫌われるというよりは、怯えられてる?いや、不満と言った方が良いのか。」
イサネの反応にリンは頷く。
「はい。先日傭兵バイトの方々から集団で苦情が来まして。首輪付きと名乗る傭兵のせいで自分たちが依頼を受けられないからどうにかしてくれ、と。」
「・・・馬鹿じゃねぇの?」
イサネはほぼ条件反射でそう口にする。リンはイサネのその様に溜息をつきながら事の詳細を語り始める。
「具体的には貴方が依頼された任務を全て完璧にこなし続けるお蔭で貴方よりも実績のない傭兵バイトの方々に依頼が来なくなってしまったそうで。」
「・・・傭兵業を辞めろと?」
「さぁ?傭兵という枠組みの性質上、その仕事の問題に我々連邦生徒会が介入できる余地は元々ありません。ですので貴方が活動を辞めるのか、一時休止するのか、それとも変えずに続けるのかは貴方次第です。私はこの現状を貴方に伝えることしか出来ません。」
「そもそも政治の及ばないブラックマーケットの傭兵が、随分と勝手な・・・」
今度はイサネが溜息をつく番だった。リンもイサネの溜息に「尤もな意見です。」と同意を示す。
「えぇー?傭兵って自分の身体と実力が資本じゃないのー?」
イサネにとって傭兵という者は己の命と武器を最大の資本とし、企業等の巨大な資本組織からの依頼によって仕事を行い、成功の対価として報酬を貰う。つまるところ依頼の成功率の高い者や実力のある者には依頼が殺到し、逆に低い者にはバイトの方が儲かるくらいの依頼しか来ない。実力と結果がそのまま信頼に結び付き、結果として力のある者が利を得る完全な実力と結果主義の世界であり、そこに何かが紛れ込む余地はない。
だというのに、まさか弱者からのそんな苦情がここまで届くなんて思いもしなかった。イサネはキヴォトスに来る前も合わせて初めてかつ絶対に起こりえない事態に頭を抱えざるを得ない。というか現在進行形で頭を抱えている。
「実力の無い奴が淘汰されるのは傭兵社会の基礎の基礎でしょう?それがそんな一言でひっくり返ったらこっちが馬鹿みたいじゃない・・・」
そんな通りもしない道理を声高々に言う事も出来るあたりキヴォトスという場所はイサネの居た世界とは定理の在り方が違うという事なのだろう。
(うーん、本当の意味も知らない奴らに天敵天敵言われるのはあまり好きじゃないけど・・・直接話してみないと駄目かなぁ?)
イサネがそんなことに頭を悩ませていると、
「あ、あの、リン先ぱ――行政官、少々ご相談が・・・」
ウェーブの掛かった金髪のロングヘアーを腰まで伸ばし、その腰に黒い翼を持つのが特徴の生徒――連邦生徒会調停室室長、岩櫃アユムが、リンに声を掛ける。リンはアユムの声に「どうしました?」とすぐさま反応を見せる。
「えっと、緊急の事案なのですが・・・」
アユムはそれだけ言うと、リンの1m程まで歩み寄り、耳打ちするようにリンに小声で事を話し始める。
「えっと、SRT特殊学園の撤去についてなのですが、一部の生徒達が反発し、公園を占拠してデモを始めたとか・・・事前に準備していた部隊では、阻止が難しいようで・・・」
アユムは先生とイサネに伝わらない様に話しているつもりだろうが、その小声に先生も聞こえている様なそぶりを見せている以上
アユムからそれを聞いたリンは一度苛立ちを吐き出すように溜息をつき、「でしたら、ヴァルキューレの警備局に連絡を。」と指示を出す。
「ごめん、聞こえちゃったみたいだけど、何か問題でもあった?」
やはりというべきか、先生がリンに声を掛ける。だが、リンはそれを大事にはしたくないらしく、
「・・・お気になさらず、よくある事なので。連邦生徒会長の失踪以降、こういったことは日常茶飯事です。」
と、さも連邦生徒会内での勢力抗争の一環のように先生に話す。イサネはその言葉に疑問を覚えざるを得ない。
(SRT特殊学園って、確かヴァルキューレよりも高位の権限を持つ特殊部隊の筈なんだけど・・・一部とはいえそれがデモって、練度不足のヴァルキューレだけで抑えられるものなの?)
SRT特殊学園。SRT、Special Response Teamの頭文字を取った名前通りの特殊部隊を運用、育成を行う学園で、キヴォトス内で発生したあらゆる案件にヴァルキューレ以上の干渉権限を持つ連邦生徒会会長直属の学園組織にしてキヴォトスにおいて最高の法執行権限とそれに相応しい実力を有する治安維持組織だ。
一方の先生はそもそもSRT特殊学園の事を知らなかった様で、リンにそのことを訪ねている。質問を受けたリンも、それに答える。
「SRT、すなわち【
「でした・・・?という事は今は・・・」
リンの言葉に先生は何か勘付いた様だ。リンは先生の反応に頷き、続ける。
「連邦生徒会長が失踪するまでは、の話です。処遇の決まってしまった今となっては、気にすることはありません。」
そう言って話を締めくくると、リンは先生の書類作業を続けるように促し、イサネに話を振ろうとした所で、ふと疑問を口に出す。
「イサネさんにつきましては・・・そう言えば本日はシャーレの当番という事で先生と一緒にいらっしゃったそうですが、学生証は持っていますか?シャーレの入り口は学生証をかざさないと入れない様になっています。しかし、無所属の傭兵である貴方は学生証を持っていないか失効している為に入れないと思いますが。」
先生は顔に冷や汗が流しながら顔を背ける。イサネは先生の失態を弄る様に、彼女をジト目で見つめながら口を開く。
「先生が何とかするって言って入部届書かされましたー。でも朝シャーレに来たら入り口が開かなかったので壁登って窓こじ開けて入りましたー。」
途端にリンの表情が呆れかえった様なものへと変わり、目線も瞳の色に相応しい絶対零度へと温度を下げていく。
「先生。」
「・・・はい。」
リンの呼びかけに返す先生の声はか細くて小さい。イサネは「知ーらねっ」とばかりに顔を再び窓から見える空に向ける。直後、先生に浴びせられる無慈悲な説教。
――今日もキヴォトスは騒がしく、その空は透き通っている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「次からはそう言った生徒の対応は確実に行ってから誘ってください。後から判明しましたでは処理の量が段違いですので。」
「・・・はい。分かりました・・・」
説教が始まって30分と少し。憔悴し切った先生はリンの言葉に弱々しく返事を返すと、そのまま机に突っ伏して動かなくなる。その様を眺めながらイサネはいつの間に買ってきたのか紅茶の入ったペットボトルを手に持ち、外の景色を眺めながらティータイムを興じている。
「イサネさん、貴方のシャーレ当番についてなのですが、今回は特別として、シャーレに入るための学生証の代わりの証明書の作成の為に次回の当番はしばらく先になります。」
先生の説教を終えたリンがイサネに今回の先生の失態についての処理を話す。イサネはペットボトルの紅茶を飲みながらそれに頷く。
「その証明書の受け渡し方法なのですが・・・イサネさん、貴方の自宅は――」
「ブラックマーケットの再開発区域の住居ビル。」
「はぁ。」
リンの溜息は尤もだろう。連邦生徒会の権力の及ばないブラックマーケットが住所となると、荷物一つ届けるのすら非常な手間と金が掛かる。イサネはそれを察してリンに意見する。
「出来たら連絡して。私が直接取りに行く。その方が楽でしょう?」
「そうですね、今回はお言葉に甘えさせて頂きます。」
ブラックマーケットに住んでいる事の不便はイサネも同じだ。頻繁に通販で買った商品が届かない時があるのは中々に面倒だし、何なら夜になってもブラックマーケット内の組織間の抗争でうるさくなる時だってある。
「まぁ人んちの前で騒ぐ輩は例外なくケジメを付けさせてきたお蔭で私の家の前で騒ぐ連中は減ったけど・・・まぁ、騒ぐ奴は騒ぐし、ブラックマーケット全体の風土的な特徴だしね。うるさいっていうのは。」
「何とも物騒な話です。ブラックマーケットに限った話ではありませんが。」
リンはイサネの話を物騒の一言で片付ける。するとアユムが気まずそうに戻ってくる。そしてリンを見つけると再び声を掛ける。
「あの・・・行政官。」
「はい、また何か問題が?」
リンの反応が既に慣れたものである以上本当にイレギュラーは日常茶飯事なのだろう。アユムは気まずそうに問題を伝える。
「え、えっと、えっと、それが――」
「デモの制圧に向かった警備局の生徒達が、逆に制圧されてしまったとかで・・・」
どうなっているんだと言うべきか、予想通りというべきか。
「・・・デモを起こしたのは、一部の生徒達でしたよね?」
リンが「一部の生徒」という言葉を強調してアユムに尋ねる。
「は、はい。数としては小隊一つ分くらいなのですが・・・やはりSRTですし、火器が相当強力なのもあって、警備局だけでは・・・」
「参りましたね、余り大事にはしたくないのですが・・・」
もう手遅れではないのかという言葉をぐっと飲み込み、イサネは二人の会話を聞いている。リンは少し頭を悩ませた後、指示を出す。
「仕方ありません。ヴァルキューレ警察学校の公安局に連絡を。対テロ業務に特化した彼女たちなら、いくら相手がSRTと言えど対処してくれるでしょう。防衛室の方には私から連絡しておきます。」
「は、はいっ!」
リンの指示を聞いたアユムは足早に執務室を出ていく。イサネはその姿を見送るが、先生は反対にリンに声を掛ける。
「私に何か手伝えることはある?」
生徒を第一に思う先生らしいと言えばらしいのだが、そこそこの数のダメ出しを喰らった書類を前にすると途端にただ書類業務から逃げ出したいだけにしか思えない。
「書類まだ終わって無いのにそれは・・・」
「いえ、お気遣いなく。これはあくまでも連邦生徒会の問題ですので。」
イサネの独り言にしては大きい声とリンの声が重なる。リンはイサネがそれ以上喋らないのを認めると続けて話始める。
「まず先生に処理していただきたいのは目の前の書類です。」
先生の顔がぎくりと固まる。それを見たリンはにっこりと悪い笑みを浮かべながら先生を問い詰める。
「まさかとは思いますが、そうすれば書類から逃れられるとお考えでは無いですよね・・・?」
「ははは、ま、まっさかぁ・・・」
・・・もう少しは隠す努力をしてほしい。
「では、続けましょうか。イサネさんの用件につきましては以上となりますが、シャーレの当番という事でもうしばらくの辛抱をお願いします。」
「だらだらしながら待つことにするよ。」
リンの微塵もそう思って無さそうな言葉を適当に受け流しつつ中身を飲み切ったペットボトルを近くのゴミ箱に投げ入れる。放物線を描きながらゴミ箱の口に吸い込まれていったペットボトルを一瞥し、スマホと手帳を取り出す。
「先生、そこはそうではありません。正しくは――」
「はい・・・」
先生が書類の訂正に四苦八苦している様子を肴にイサネもメモ帳にペンを走らせながら自身のスマホに保存してある過去の依頼データの整理を始める。リンクスとして活動していた頃は依頼のデータや戦闘データの管理はセレンの管轄だった為、イサネが何かをする必要は無かった。だが、キヴォトスでは完全に一人で活動している為に定期的な依頼データの管理をしなければすぐに保存媒体のデータキャパシティがパンクしてしまう。
暫くの間、静かな時間が続く。隣で書類にペンを走らせている先生も、リンの指摘に情けない顔こそするものの書類に走らせるペンの速度に低下は見られない。一方のイサネも無感情に目線をスマホとメモ帳を往来させ、指をスマホの画面に滑らせる。
そうしてこの場に居る3人がそれぞれのすべきことをこなしていると、今度は扉が大きな音を立てて勢い良く開けられる。喧しいと言わんばかりにイサネが鋭い目線を扉方向に向けると、そこには慌てて駆けてきたであろうアユムの姿があった。
アユムはリンの元まで近づくと、一度息を整えてから話始める。
「行政官・・・」
正直アユムが何を言いたいのかは直ぐに分かった。というか既に予測出来ていた事だが、一応部外者故にここは黙っておく。
「まさかとは思いますが・・・」
口を開いたリンの顔は非常に険しい。アユムの表情から見ても状況は確認するまでも無いだろう。アユムは二人の重い目線を受けながらも報告を始める。
「はい、公安局の生徒も皆・・・報告によると、公園に近づくこともできないまま、大量の狙撃とトラップによって部隊が壊滅した、と・・・」
予測は当たっていた。というより、当たるべくして当たったの方が正しいだろうか。イサネが過去に共闘したヴァルキューレの生徒達は警備局所属らしいのだが、警備局であの程度なら公安局と言えど所詮その程度の域を出なかったのだろう。対して相手は選りすぐりの精鋭との事だ、結果など見るまでもない。
「それにクロノススクールの記者達まで現場に来てしまい、中継によって状況が過熱しているみたいで、このままですと事態がどんどん大きく・・・」
クロノススクール。クロノジャーナリズムスクールとも呼ばれるその学園は、報道に特化した学園であり、キヴォトス中の情報に関するシステムの一端を担っている。しかし、その一方であらぬ報道やフェイクニュースも多いらしい。
で、そんなマスコミ連中がSRTのデモ現場に来てしまい、要らぬ中継を始めたせいで強制的に大事になってしまった様だ。
「地獄じゃん・・・」
「どうしてこう次から次へと・・・」
そう零すリンの表情は苛立ちに満ちている。もし仮にイサネがリンの立場に居たのなら確実に直接出向いて鎮圧――否、撃滅を行うだろう。イサネはこれを日常茶飯事を言ってのける程の会長代行の激務に恐怖を覚える。
「あの、リン先輩。こういう時こそ、シャーレの先生に助けてもらうというのは・・・?」
アユムが頭を悩ませるリンに提案する。
「先生の指揮能力は勿論、シャーレの権限なら各校からすぐに精鋭たちを動員してもらう事も可能です。ヴァルキューレで対応できない以上、もう手段はこれくらいしか・・・」
高速で回転する思考の中で、残された手段がそれしかない事に行き着いたリンは大きく溜息をつき、書類を片付けている先生にやけくそにも見える笑顔で声を掛ける。
「・・・先生、少々問題がありまして。」
先生は待っていましたとばかりに顔を上げる。イサネはスマホをポケットに仕舞い、漸く出番かと言わんばかりに腕を回す。
「本来なら私達だけで片付けておきたい所だったのですが・・・お願いできますでしょうか。」
「任せて。」
リンの言葉に先生は力強く頷く。
「この書類については私がどうにかしておきますので、お気になさらず。おおよそ状況は理解されていると思いますが――」
リンは先生に改めて状況の説明に入る。
「ねぇ!誰かフラッシュバンかスモークグレネード持ってない!?」
「イサネさん、ここにそんな物は置いていません。下の購買部か武装保管室にあると思いますので、ここで大声で叫ばないで下さい。」
イサネはソファに立てかけておいたアサルトライフル二丁をハーネルベルトに固定し、戦いに向けて準備を始める。エリートという言葉があまり好きではないイサネだが、エリートと呼ばれるという事は最低限それだけの実力、もしくは成績を残している事は事実だ。
「イサネさんも同行のお願いをと思いましたが・・・既に準備は出来ているようですね。」
先生との話を終え、こちらを向いて話すリンに最終点検中の予備マガジンを掲げる事で応える。隣にいる先生も外出の準備は出来ている。イサネと先生は互いに頷き合うと、外へ向けて歩き出す。
「それでは、ご武運を。」
「報酬は昼ご飯なんか奢ってね~!」
「・・・まだ食べてなかったのですか。分かりました、用意しておきます。」
「い、イサネ?リンちゃんも忙しいから、あまり無茶言わないようにね・・・?」
「誰がリンちゃんですか。」という後ろからの独り言を聞きながら、二人は執務室を出ていった。
イサネさんの壊滅的な食事事情っていう設定があやふやになってきてしまった...
次回、VS rabbit小隊