透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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まずは投稿遅れてしまって申し訳ない。そしてこれからもっと遅くなる事もここで伝えておきます。如何せんリアルがぼちぼち忙しいもので...



兎狩り

 

 

 

 

 

『イサネ、聞こえてる?』

 

 

 

「聞こえてる。」

 

 

 

先程の指揮所とは違い、人っ子一人居ない子ウサギ公園の端の端の茂みの前にて、イサネは無線から聞こえる声に小声で返す。

 

 

『聞こえているみたいだね。じゃあ、そろそろ私達も動き出すから、合図か連絡があったら突入をお願いね。』

 

 

「私の事はいいよ。そんな事よりも先生、本当に頼むよ?」

 

 

イサネは念を押す様に無線機に向かって話す。そう、今から行われる作戦は余りにも高難易度、良く言うなら非常に自由度の高く、悪く言うなら構想からしておかしい作戦をこれから実行するのだ。はっきり言って不安しかない。

 

イサネは無線機から聞こえる『大丈夫大丈夫。』という先生の軽快な声に諦めた様に溜息をつく。確かに構想段階で大分おかしい作戦だが、そういった上の理不尽にNOと言うことが出来ないのも、また悲しき傭兵の定めだ。

 

「はぁ・・・この際デモの鎮圧さえできれば何でもいいや。」

 

イサネは投げやりにそう言うと相手の通信傍受対策で無線を切る。そして合図を待つために少し距離を取って待機する。本来なら茂みの中の方が内側からの目を躱すのに適しているのだが、イサネ自身子ウサギ公園がどういった構造をしているのか把握していない為にやむを得ず外で待機する運びとなっている。

 

 

「・・・空、青いね。」

 

 

イサネは空を仰ぎながら先生立案の作戦の内容を思い返す。まず先生を指揮官として、キリノとフブキが3人組で茂みに居る狙撃手を無力化。無力化に成功した後にイサネに指示か合図を出し、イサネが先生たちとは反対側から公園に突入。イサネが単独で公園内にある陣地内部を制圧し、先生も頃合いを見て陣地に突入し合流。そして奪取した陣地を見ながら残りの相手を捜索、各個に撃破という流れになっている。

 

(この作戦、如何にして狙撃手を無力化するとか一切言及がないんだよなぁ。私の方だって陣地制圧はほぼ自分で考えろって言ってる様なものだし。そもそも誰がどう見ても不足している戦力で特殊部隊の一人でも相手取れるもなのかも怪しい。)

 

そう、この作戦は余りにも細部が練られてなさ過ぎるのだ。大まかな動き方以外は完全にアドリブ力頼りで、余程熟練した特殊部隊かリンクスの様な天才でもなければ作戦の成功は困難だと言えるだろう。

 

(作り込みがガタガタでも、筋の通った作戦ではあるから刺さればどうにでもなる。そしてそれを敵の傷口に捻じ込むのは私の仕事。)

 

だが、イサネ自身腐ってもリンクスだ。傭兵の観点から先生の期待に応えたいという思いもあるが、何よりもこの程度の山場の失敗はリンクスとしての矜持に障る。

 

(ふん、まぁこういう中身の無い作戦の方が元より慣れ親しんでいる。失敗なんてありえないしさせないね。)

 

イサネは己の内側に闘志を燃やす。しかし、思考はあくまでも冷水の如くクールに。イサネは自身の上半身に来ている戦闘用のハーネスベルトに固定した装備に目を向ける。まず視界に映るのは左腰に剣を佩く様に固定したアサルトライフルと背中に左肩の背中のベルトに固定したもう一丁のアサルトライフル。どちらもAKMをベースに軽いカスタムを施した今回のイサネのメインウェポンだ。次に右腰、ハンドガン用ホルスターに挿してあるのはそこらのコンビニで買ったハンドガン。まぁこれを使う事は無いし、はっきり言って御守りに近い。そして最後に左腰後ろのベルトにぶら下がっているスモークグレネードとスタングレネード1つづつ。

 

「近接格闘用のナイフとか持っておくべきかなぁ?これ終わったら探してみようか。」

 

独り言を零しながら武装を確認し終えるとイサネは先生からの合図を静かに待つ。眼を閉じて呼吸を深く長く伸ばし、軽く周囲の気配に気を配りながら意識を戦闘に向けて集中させる。

 

 

「さてさてSRT・・・裏と表に気付けるかな・・・?」

 

 

最後に小さくそう呟くと、イサネはただひたすらに無線機からの声を待つ。デモの影響で公園より数十m近辺に一般市民は居ない。故に風の音と風が木々を揺らす音以外聞こえず、非常に静かだ。

 

 

 

そうして待つこと数分後。

 

 

 

――木霊する銃声。

 

 

 

恐らく先生達と茂みに隠れているSRTが交戦、もしくはどちらかが敵を発見したのだろう。イサネは閉じていた目を開き、無線機を手に取って報告か指示を待つ。すると無線機から先生の声が聞こえてくる。

 

 

『イサネ、こちら先生チーム。茂みに居た狙撃手一人を制圧したよ、被害は無し。イサネも侵入を始めて。』

 

 

「了解。お見事。」

 

 

無線に返事を返す傍ら、イサネはあの戦力で茂みに潜む狙撃手を無力化させた先生の手腕に改めて舌を巻いていた。何故なら、改めて考えてみると先生はこれまで他の協力があったとはいえゲーム開発部という小戦力でミレニアムの生徒会相手に大立ち回りを演じ、C&Cから逃げおおせるだけでなく一杯喰わせてみせたのだ。その指揮能力を以てすればこの結果もさもありなんと言えなくもない。

 

 

「こちらイサネ、これより敵陣に侵入、制圧する。」

 

 

無線にそれだけ呼びかけると、イサネは目の前の茂みに向かって歩き出す。

 

 

 

―――いよいよ私の番だ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「・・・クローバー。」

 

 

 

ぼそりと、それでも聞こえる様に一つの単語を紡ぐ。

 

 

「え?」

 

 

恐らく仲間と思わしき人影が、そう聞き返す。

 

 

「サキちゃんはちゃんと知ってるでしょ?」

 

 

――怪しい。

 

 

先程の爆発音と土煙と共に現れた自らをサキと名乗る人影。クローバーという単語と共に手に持つ【RABBIT-39式小銃】――銃身を布で巻いたM/39を元にSRT仕様の非常に高度な調整が施されている狙撃銃――をすぐ狙えるように持ち直すと、SRT特殊学園の制服を着た生徒――霞沢ミユは、愛銃の引き金に指を掛けながら更に続ける。

 

 

「こ、答えられなかったら、すぐに撃ちます・・・!」

 

 

クローバーとは愛言葉。正体が不明な相手に対し、それが味方かどうかを一瞬で確認するために自らの所属、Rabbit小隊内で決めていた事だ。さぁ相手はどう出るのか、ミユは相手の言葉を待つ。

 

 

「クローバー!」

 

 

しかし、相手の口から帰ってきた言葉はミユの想定にある単語ではなかった。サキと名乗った相手はミユの問いになんと合言葉の問いの部分を大声で返してきたのだ。

 

 

「えっ、え?」

 

 

想定外の返しにミユは戸惑うことしか出来ない。しかし、これが良くなかった。相手が合言葉の返しに鍵となる言葉を言わなかった時点で発砲するべきだった。だが、既に手遅れでもあった。

 

「何か言った?この辺、雑音が凄くてよく聞こえなくてさ。所で・・・この言葉に対する答え、ちゃんと知っているよね?」

 

「え、そ、そんな・・・っ!?」

 

一瞬で立場が逆転する。問う側から問われる側へ、疑う側から疑われる側へと。

 

「答えられなきゃ、撃っちゃうよ?」

 

・・・最早気の毒という他ない。

 

気の毒という他ないが、ここで答えられなければ撃たれるのは自分だ。元々の立場や状況を押し流されてしまい、思考力が削がれてしまったミユは咄嗟に合言葉を口にする。

 

 

「に、ニンジン!」

 

 

――言った、否、言ってしまった。

 

 

「ふーん、なるほどね、了解。」

 

 

「あっ、あ・・・え?」

 

混乱するミユを尻目に目の前の人影は明らかにサキではない言動で話始める。

 

 

「心理戦で追い込まれると弱いかも・・・成程、先生の言う通りだったね。」

 

 

土煙でよく見えなかった人影が、ミユに近づくことによってその正体が露わになる。そう、サキじゃない。ヴァルキューレの制服を着、少しだるそうな顔をしたヴァルキューレ生だ。

 

 

「合言葉、教えてくれてありがと。じゃあね、ウサギの狙撃手さん。」

 

 

ヴァルキューレの制服を着たその生徒は二ッと軽く笑うと、手に持っていたアサルトライフルの銃口をミユに突き付け、間髪入れずに発砲する。

 

 

 

「だ、騙された――っ!?」

 

 

 

もう遅い。そのヴァルキューレの生徒――合歓垣フブキの至近距離からの銃撃は、ミユに回避行動を取らせる間を与えず、銃弾が彼女の体中を叩きつける。

 

 

「あうぅ・・・」

 

 

幾ら特殊部隊と言えど、数十発の銃弾をもろに受けてしまえば耐えられない。か細い悲鳴と共に地面に倒れ伏せるミユ。意識が途切れるその時、視界の中に映ったのはたった今自らを銃撃したヴァルキューレの生徒と、茂みから出てきたヘイローを持たない女性の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 

聞き慣れた銃声だが、今ばかりは違和感を覚える。

 

「何だ、今の銃声。随分と近くないか?」

 

子ウサギ公園の中、幾つものテントが並んでいるその中で、Rabbit小隊の中で唯一生真面目に鉄帽を被った生徒――空井サキが、たった今響いた銃声に訝し気な反応を示す。

 

「まさか、ミユがやられた・・・!?」

 

それは想定の中でも非常に可能性の低い糸筋。しかし、今の銃声はミユの持つ狙撃用小銃の銃声ではない。つまり、そういう可能性が現実になったのかもしれない。しかし、一方でこの場に居たもう一人――風倉モエが、サキのその可能性の選択肢に反論する。

 

「まっさかぁ。相手は生活安全局でしょ?装備とかの面も含めて、ミユがやられる程のレベルじゃないよ。」

 

「それはそうだが・・・ミユとの連絡が取れない。」

 

無線からの応答がない。サキのその言葉はミユの身に何か起きたという事を如実に示していた。まさか、只でさえ取るに足らない筈の生活安全局にミユがSRTの生徒が制圧されたというのは明らかな異常事態だ。サキは自らの主兵装、【RABBIT-26式機関銃】を握り直し、野営用の簡易椅子から立ち上がる。

 

「行ってくる。モエ、支援は頼んだ。」

 

後衛要員のモエにそう言い、動き出そうと一歩踏み出し――

 

 

「支援も何も、もう弾薬残って無いけど。」

 

 

「は?」

 

 

モエの信じがたい言葉に足が止まる。慌てて振り返るサキに、モエはへらへらしながら続ける。

 

「さっき言ったじゃん。ド派手に、全部使ってって。ドローン追跡する時に、ぱぱーっとね。」

 

「はぁッ!?おまっ、嘘だろ!?」

 

・・・まさか全部使い切るとは、流石に想定外もいい所だ。モエのその発言にサキも驚愕する以外に反応出来ない。しかし、モエはそのまま怪しい声色で何かをぶつぶつと喋り出す。

 

「後の事なんて考え無しに、全部一回につぎ込む・・・その花火はさぞ美しいよね・・・興奮する・・・はぁ、はぁ・・・」

 

その発言の何から何までおかしい。そういう発想になる時は大抵全てが終わった時だ。別に今は優勢にあるというのに、そういう思想の元に持ちうる弾薬を全てぶっ放したこの風倉モエという隊員の破滅的な思想は、サキの理解力では到底解読しきれそうにない。

 

 

「本当に文字通り全部使う馬鹿があるか!後の事を考える必要があるだろ、特に今は!!」

 

 

サキの至極真っ当な説教。お叱りを受けている筈のモエは今だ訳の分からない妄想に浸っている。サキが「お前人の話聞いてないだろ!」と語気を強めたその時だった。

 

 

 

「へぇ?おたく、特殊部隊を名乗ってる割には弾薬管理も出来ないんだ?」

 

 

 

突如、二人を除いて他に誰も居ない筈の野営地に響く見知らぬ声。さっきまでの調子の狂った空気が一転、緊張によって急激に締め上げられ、そしてそのまま凍り付く。

 

「だっ、誰――」

 

サキが声の方向を咄嗟に判断。即座に振り向き、持っていた自身の銃を構えようとし――

 

 

「反応は良いけど取った行動が違う。一点減点。」

 

 

――轟音。

 

 

銃から発射されたとは思えない音を発し、振り向いたサキの視界の左半分を翠緑の光芒が埋め尽くす。直後に訪れた戦車砲の着弾時の衝撃以上の衝撃波が、サキの体を滅茶苦茶に殴り倒す。

 

 

「うぁ・・・っ!」

 

 

呻き声以上の声が出せない。備える暇もなく思いっ切り吹き飛ばされたサキは、咄嗟に顔を地面の衝突から守りつつ、バウンドした体を必死に抑えつける。勢いが止まり、足に再び力を入れて立ち上がると、先程まであったテント群は数十cm程抉れた地面ごと姿を消し、サキの少し左後ろにゴミの山の一部と姿を変えてる様が見えた。

 

 

 

――そして傍でヘイローを消し、力無く倒れているモエの姿も。

 

 

 

「え・・・も、モエ・・・?」

 

 

己の見たものが信じられない。グレネードですらこうはならない。目の前の惨状を認めたサキは、つい今まで悠長に会話していた仲間の名前をぼそりと零す。視界に映るのは相変わらずの破壊痕。

 

 

 

―――そして、ライムグリーンの瞳を細めながら薄ら寒く嗤う見知らぬ誰か。

 

 

 

「はははっ、そう化け物を見る様な目で見るなって。つい殺したくなっちゃうだろぉ?」

 

 

 

不自然に張り付けられた笑みを浮かべ、侵入者(標根イサネ)はそう宣った。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「はははっ、そう化け物を見る様な目で見るなって。つい殺したくなっちゃうだろぉ?」

 

 

 

何とか立ち上がったサキに向かってそう嗤う侵入者――標根イサネは、表面上の作り笑いを保ちながら、右手に持っていたバレルから先が破裂したアサルトライフルを地面に捨てる。

 

(コジマブレードの機構がこの体でも使えるんだ、コジマキャノンだって出来ない訳じゃない。けどねぇ・・・一発で銃身が駄目になるのは想定外ね。)

 

そう、たった今先を襲った翠緑の光の正体はイサネによるものだった。

 

(原理的にはコジマ粒子を纏わせた銃弾の延長線上だけど・・・燃費が悪すぎる・・・!一発撃っただけなのにもう若干しんどい!)

 

イサネは前にカイザーPMC基地を襲撃した際、自身の撃つ銃弾にコジマ粒子を纏わせることで銃弾の貫通力や単純な破砕力を向上させることが出来る言わばネクストの実弾兵器の弾にも塗布されているコジマゼリーと似た様な真似事をした。

 

そして今回はそれの発展形とも言っていい。コジマ粒子を大量に圧縮し、銃弾に纏わせる。そして発射と同時に圧縮して纏わせたコジマ粒子を解放。それによって銃弾そのものを超加速させ、更に解放したコジマ粒子による光芒が圧倒的な破壊力で射線上の物を全て破壊するというコジマキャノンというよりはレーザー砲に近い代物が出来上がった。

 

(けど、体力の消耗は課題かな。コジマ粒子の生成がネクストと同じなら、恐らくあの時の闘争心の完全な昂揚が必要と言った所ね。)

 

イサネは思い付きでやってみた新たなコジマ粒子の利用法を結論付けると、思考を現実に戻す。

 

 

「お、お前・・・一体、何処から・・・っ!」

 

 

絞り出すような声。先の奇襲による攻撃の対象にはならなかったSRT学園の制服と、鉄帽を被った生徒――空井サキが、起き上がった体に鞭を打ちつつイサネに問いを投げていた。

 

問いを投げらたイサネも、笑いを消してそれに答える。

 

「さっきヴァルキューレの警備局と公安局が突撃を仕掛けた地点の反対側から。」

 

「なっ!?い、一直線に進んできたのか!?あそこは地雷原だぞ、そんな簡単に抜けれる訳ないだろう!」

 

有り得ないとばかりにイサネの回答に異を唱えるサキだったが、イサネにとってはあの程度の地雷原では足止めにはなり得ない。

 

「地雷?あぁ、あったねそんなのが。道でも作っているかのような配置だったけど。」

 

イサネのまさかの回答にサキも驚く以外の反応が出てこない。そんなサキを尻目に、イサネは右腰のホルスターに挿したハンドガンの安全装置を確認すると、軽く体を構えてサキに言葉を告げる。

 

 

「まぁどうでもいいけど、特殊部隊ともあろう者が戦場でぼっ立ちなのはどうかと思うな。」

 

 

「ッ!!」

 

 

強く地面を蹴り、サキに向かって飛び掛かる。一方のサキは、イサネの速度とこれまでの事実の理解に頭が追い付かず、完全に反応が出遅れる。

 

「はい遅い。・・・君ほんとに特殊部隊?余りにもなってなさ過ぎるんだけど。」

 

飛び掛かるイサネに対し、サキは手に持った銃の銃口を向けようとして、その銃身を掴まれて抑え込まれる。

 

「うっ!?速――っ!」

 

サキの持つ銃を抑え込んだイサネは、その銃身を捻じる様に回してグリップを握っていたサキの手を巻き込んで捻り上げる。このまま銃を持っていると関節を極められてしまう。サキは堪らずグリップから手を放す。

 

「さてさて、インファイトはどれだけ出来るのかなぁ?」

 

言葉と共にサキの持っていた銃を遠くへ投げ捨て、同じく構えを取ったサキの顔面に向かって踏み込みと共に一切減速の無い左ストレートを振るう。

 

キヴォトスの住人ですら殆ど見る事の無い速度で繰り出されたイサネの拳を、サキは半ば反射で上げた右腕で受ける。が、

 

 

「がッ!?」

 

 

拳を受けた右腕に稲妻の如き激痛が駆け巡る。しかも拳の衝撃を減衰しきれない。右腕がイサネの左拳によって押し込まれ、腕が胴に当たる。それによって打撃の力が胴にまで作用し、サキの体勢が崩れると同時に身体が大きくノックバックする。

 

サキが体勢を崩したのを見逃さず、イサネはノックバックによって離れた距離を一瞬で踏み潰し、今度は胴狙って拳を引き絞る。

 

「させるか!」

 

だがサキも適応が早い。イサネの拳打をすれすれで避け、打ち終わりのイサネの腕を掴んで抱え込もうとする。そう、カウンターによる関節技だ。サキは掴んだ腕の関節を曲がらない方向に曲げようと、力を込め――

 

 

「はぁっ!?こいつ、関節が曲がらない!?」

 

 

そう、曲がらない。本来曲がる筈の無い方向に関節に力を加えていると言えばそうなのだが、関節を極めるとはそういう技だ。だからこそ関節が耐えられない位には力を入れている筈なのだが、イサネの腕の関節が動く気配は一向にない。

 

「ぐぐ、一体どうな――ッ!?」

 

「だから遅いッ!」

 

サキが曲がらない関節に四苦八苦していると、イサネはがっしりと抑え込まれている腕に本気で力を入れて振る。するとがっしり抑えられていた筈の腕はサキの両腕を難なく弾く。そしてイサネはその腕を、返す刀の様に再び隙だらけとなったサキの胴へと向けて叩き込む。

 

「がっひゅっ!!」

 

振り払いという最も力の加わる動きと体の捻りが加わった戦槌の如き一撃は、膂力によって両腕を弾かれたサキに対処できる筈も無く彼女の鳩尾付近に直撃。体中の空気を呻き声と共に吐き出しながら、振り抜かれた腕によって吹っ飛ばされ、全身を地面に擦りながら転がっていき、止まる。

 

「遅いよー、遅い遅い。技掛けて決まりそうにないならすぐに離れないと。決まりそうにない技にいつまでも固執するのは隙を晒すだけなんだから、インファイトでは赤点行為よ?」

 

全身の力を使って腕を振り抜いたイサネは、残心を解きながら未だ地面に倒れて動かないサキを見やる。頭上のヘイローが消えていない辺りまだ意識はある様だが、どうやら起き上がれないだけのダメージは与えた様だ。数m先で倒れたその身体は僅かに身動ぎするだけでうつ伏せの状態から体勢が変わることは無い。

 

「あが・・・あぐぐ・・・」

 

「流石に内臓系への衝撃は辛いよねぇ?特に呼吸器系なら猶更ね。」

 

イサネの言葉はサキの置かれている現状を正確に突いていた。未だ起き上がることの出来ないサキの状態はあまり良くない。必死に息を吸い込もうとするも気道が打撃によって閉じたままのせいで呼吸が出来ず、半ば呼吸困難に陥りつつある。更には何処かしらの内臓でもやられたのだろうか、口の中は血の味でまみれており、少量とはいえ自らの血が地面に赤色を垂らしている。

 

「・・・さて、理由も無いのに満身創痍を過剰に痛めつけるのは趣味じゃないからね。」

 

――そろそろ終わらせよう。

 

言外にそう言いつつ、イサネはサキを無力化せんと彼女の元へ向かって歩いていく。その足音はサキにとって死神の足音にしか聞こえなかったが、視点を変えれば敵自ら自分のレンジに入ってくれるという事になる。更に自分は今動けていないというのが自他共の認識の為、油断の材料になる。

 

 

――故にここで取ったサキの無意識の選択は、確かにイサネの予想の上を行っていた。

 

 

サキは未だ自らを襲い続ける激痛と圧倒的な吐き気を堪えつつ、殆ど回転しない思考を以てタイミングを計る。サキのそんな罠に気付かず、イサネはすたすたとうつ伏せのまま動かない体躯へと近づく。そして、イサネの手がサキの体に伸び――

 

 

「ぅあぁぁぁぁーッ!!」

 

 

絞り出す様な咆哮。サキは己の体に鞭振るう激痛を無視して体を起こし、手を伸ばしたイサネに掴み掛る。死に体から突如動き出したサキにイサネも人外の超反応を以て後ろに下がろうとするが、既にサキの両手はイサネの伸ばした方の腕、右腕をがっしりと掴んでいた。

 

「やべっ――」

 

イサネが言葉を言い切るよりも早くサキは掴んだ腕を手繰り寄せる様に引いて自らも立ち上がり、立ち上がった勢いのままイサネの顔目掛けて拳を打ち込む。

 

「ぐぅっ!?」

 

イサネはサキの腕の動きから胸倉を掴むだろうと予想して腕を顔の僅かに下に置いた事が災いし、拳を防ぐ事が出来ず、逸らした顔の頬にサキの死力を込めた一撃が鈍い音と共に命中する。

 

顔面に一撃を受け、呻き声を漏らしながら後ろによろめくイサネだったが、サキはそれを許さない。片手で掴んだイサネの右腕を引き、再び己の射程にイサネを引き込む。

 

「獲った!」

 

再び拳を引き絞る。今度は確実に顔の正面に当てる。その意気込みと共にクリティカルレンジで隙を晒したイサネに向かって引き絞った拳を解き放ち――

 

 

――標根イサネ(血塗れの獣)の、昏く嗤う顔を見た。

 

 

「ッ!!?」

 

 

直後、再び自らの鳩尾に鈍く深くまで突き刺さる衝撃。視界がぐらつく。サキの腹へと伸びる腕。遅れて再び不快な痛みが襲う。今度はリアクションを取る余裕すらない。両腕が完全に脱力し、イサネの右腕を掴んでいた手がずるずると滑り落ちる。

 

そう、イサネはサキが二撃目を構えたタイミングで、サキの鳩尾をフリーの左手で突いたのだ。体勢が崩れていたとはいえ、既に呼吸器系に重いダメージを抱えていたサキにはそれで十分だった。イサネは左手を打ち終わると即座に体勢を戻し、力無く崩れ落ちるサキを眺める。

 

「・・・意識が飛んだか。いやぁ~、あの打撃を腹に受けて不意打ちに立ち上がれるのはナイスガッツと言った所かな?」

 

場に満ちる沈黙。イサネは「うーん、若干痛いな。」と殴られた頬を擦りながらサキと近くに倒れるモエを手早く拘束し、周囲を見回す。数日に渡ってデモを行っていたというだけあってか、SRTのロゴが描かれたテントが幾つも並んでおり、中には戦闘用のヘリまで配備してある。

 

「SRTの閉鎖、ねぇ・・・」

 

デモの原因であるSRT学園の閉鎖。元々連邦生徒会長直属の特殊部隊という性質上、連邦生徒会ですら命令権の無い中で連邦生徒会長本人(命令権を持つ唯一の人物)が失踪してしまった現在では、従う者なくただ強大な武力を有した組織は危険と見做されたのが恐らく閉鎖の理由だろう。

 

(うーん、閉鎖に反対する役員もいる以上所属をシャーレに変えるとか他にやりようがあってもおかしくない筈だけど・・・自分たちのせいで宙ぶらりんになったSRTを勝手に危険認定してバラすのはいくら何でも身勝手すぎる。)

 

そんなことを考えながらイサネは無線の回線を開き、先生に一報を入れる。

 

「先生、こちらイサネ。内部の陣地制圧を完了した。SRTの生徒二名を無力化、拘束している。」

 

『お疲れ様、イサネ。こっちも最後の一人を捕らえたよ。これで作戦は終了、引き上げようか。後はヴァルキューレがやってくれるみたいだけど・・・』

 

「・・・怪我人多くて心配だからって適当な理由付けて行くんでしょう?はいはい、着いて行きますよ。」

 

『多分大丈夫だと思うんだけど・・・着いて来てくれるならありがたいよ。』

 

そう言葉を交わして無線を切ると、イサネは居まだ気絶している二人を抱えて公園の外へ向かって歩き出す。

 

 

 

「SRT、SRT・・・私の元に来ている苦情を片付けたら少し探りでも入れてみようか。さてさて、どことどこがくっ付いているのか、楽しみだねぇ。」

 

 

 

―――独り言にしては大きいイサネの声は、聞く者の居ない公園に静かに霧散していった。

 

 

 





これで何度目かですがやっぱり最後の話の締め方が上手く書けないっすねぇ。要学習と言った所なのはだいぶしんどい...w
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