執筆全然進まねぇよ...何なら各話のタイトル思いつかねぇよ...
カルノバグの兎編はイサネさんの様な力のある実力者が居るとマジでストーリーが破綻しそうじゃね?と思ってたんですがこの時期の兎小隊が施しは受けん状態なんで以外と大丈夫そうな気がしないでもないっすね。
「お疲れ様、イサネ。怪我はなかったかな?」
作戦通りに陣地を制圧したイサネが気絶した二人を小脇に抱えて公園の外――ヴァルキューレの臨時指揮所に戻ると、先に戻っていた先生がそれを出迎えた。
「まぁ頬を一発殴られたくらいかな。それより、こいつらは何処に置けばいい?」
「一纏めの方が護送の時も楽だろう。他二名の居る場所は――」
先生の出迎えに言葉を返しながら、カンナの指示に従って小脇に抱えた二人を運ぶ。幾数人か復活したおかげか雑談で賑わっているヴァルキューレの生徒達の間を抜けて進んでいくと、SRTの制服を着た二人の生徒が周囲を囲まれた状態のまま地面に座っている。
「ここで良いのかな?他の二人も居るみたいだし。」
「っ!サキ!モエ!」
イサネは人の囲いの中に入ると、地面に座っていた生徒の内、白い髪色の方が小脇に抱えられている二人を見て反応を示す。イサネはそれを聞かなかった事にし、抱えていた二人を地面に放る。
「いくらイサネさんの手助けがあったとはいえ、生活安全局がSRTの生徒を制圧するとは・・・半ば信じられません。」
「どんなに開けた戦力差でも、作戦で何とかなる事は結構多いからね。それに、イサネだけじゃなくて二人も頑張ってくれたから。」
気絶している二人に縋る生徒を尻目に、カンナと先生が話し始める。
「なるほど、これが先生のお力。そして、姿勢も謙虚と来るとは・・・生徒達の噂も本当だったという事ですね。・・・ヴァルキューレ警察学校を代表して、感謝いたします。」
「はは、やるべきことをしたまでだから。」
「見ましたか、先生!私の完璧な射撃!まさに警備局の皆さんの様な、鮮やかな一撃でした・・・!」
更にそこにキリノとフブキが加わる。何とはなしに会話を眺めていたイサネは騒がしくなった4人から視線を逸らし、ついさっき自分達が鎮圧した相手――SRTの生徒らの方へと逸らした視線を向ける。
イサネが視線を向けたSRTの生徒達――Rabbit小隊と呼ばれていた4人の内、イサネが気絶させた2人であるサキとモエの意識は既に覚醒しており、呼吸器系に打撃を加えたサキも鳩尾を擦りながらも後遺症は無さそうに隊員達と会話をしていた。
「あんな頭の悪そうなやつらに、私たちが・・・?」
「お前が言うな、弾薬を使い果たすなんてそうとう頭悪い事したくせに。」
「何言ってるのさ、一瞬の輝きよりも大事なものなんて無いっての!」
会話の内容からして特殊部隊とは思えない馬鹿丸出しの会話に、イサネは思わず眉間を抑える。たかがドローン一機に弾薬を全部撃ち切るなどと言う大馬鹿もそうだが、それを実行に移した理由も十分に大馬鹿野郎と言える。しかもそれを真剣な眼差しで言っているのだから質が悪い。
(SRT全体がこうなのか、それともこいつが突出しておかしいのか。)
頭の中でSRTと特殊部隊が結びつかなくなり始めたイサネを余所に、4人の会話は続く。
「もう終わりなんだ・・・SRTも、Rabbit小隊も、私も、全部奪われて虚しく消えゆく運命なんだ・・・」
(なんでこう、プラスとマイナスの差が激しいんだ。やっぱり、SRTそのものの教育方針がおかしいのかもしれない・・・私教育機関通った事ないけど。)
いよいよSRTの教育方針にすらあらぬ疑念を掛け始めたイサネを余所に、SRTの4人の内の一人、作戦前の話に出ていた月雪ミヤコと呼ばれた生徒が会話を終えた先生の方を向く。
「SRT学園の生徒達だよね?初めまして。」
ミヤコと目が合った先生が朗らかに挨拶する。が、
「お前と話す事なんて何一つもない!」
痛みからも回復した様子の鉄帽を被った生徒――サキがただの挨拶すらも突っぱねる。雑魚と見下す奴らにやられた割には随分と大きなその態度だと、イサネは反射的に煽ろうと口を開きかけ、慌てて閉じる。なんせヴァルキューレの狂犬の前だ、変に煽ったら普通にその場での説教コースになる事は間違いない。
「何々?冷やかし?それとも馬鹿にしに来たの?」
サキに次いでモエも口を開く。随分と剣呑な雰囲気だ。そして真っ先に先生と目が合ったミヤコは、周りが静まると静かに話し始める。
「あなたが、あの生活安全局を指揮した大人ですか?」
「うん、そうだね。」
大人というワードに悪意を感じないでもないが、少なくとも害意は無さそうなので無視する。質問を投げかけられた先生はその問いに肯定の意を示す。
「そうですか。あなたがあの、多くの生徒達の悩みを解決し、生徒達から信頼されている、超法規的捜査権を持ったシャーレの先生。」
一度言葉を切り、しばしの沈黙。一呼吸おいて、ミヤコは口を開き――
「先生。私達は、あなたのような大人が一番嫌いです。」
何の臆する事も無く、堂々と、そう言い切った。
「地獄に落ちろ。」
「もう二度と会わないだろうね。」
ミヤコの言葉に続くサキとモエの暴言。しかし、それを受けた先生は何の不快感も見せず、ただ4人を見つめている。だが、その脇で4人の言いたい放題の暴言を聞いていたイサネは呆れを隠す事が出来なかった。
「ガキかよこいつら・・・こんなんが特殊部隊とか、SRT閉鎖は正解なんじゃないの?」
――だからこそ、つい言ってしまった。
空気が凍った。正確にはSRTの4人もとい狙撃手であるミユを除いた3人が固まる。凍り付いた場が一瞬で剣呑で、険悪な雰囲気が支配する。
「お前、今なんて言った・・・ッ!?」
独り言のつもりだったが、聞かれていたらしい。言うだけ言ってそのまま連行されると思っていたサキが、ヴァルキューレの生徒を振り払いイサネに食って掛かる。至近距離でイサネを睨みつけるサキは凄まじい剣幕で、只の有象無象の不良なら怯えて逃げてしまう程度には威圧効果があった。
だが、流石に相手が悪すぎた。サキの凄まじい剣幕を受けても、イサネはどこ吹く風。一応己が失言をしている自覚はあった様で、胸倉を掴もうとするサキの手を払い除けながら欠片も謝意の無い声で謝罪の言葉を口にする。
「あー、ごめん。つい無意識に言っちゃった。言葉自体の否定はしないけど。」
「ふざけるなよッ!?お前っ、何も知らない部外者が、SRTを侮辱するな!」
サキの怒声が子ウサギ公園に響き渡る。サキが反対していた己の学園の閉鎖を本人の目の前で否定したのだ。正にイサネはサキの地雷を踏んだという他ない。だが、イサネはサキの怒声に感情の籠らない声で言う。
「侮辱ねぇ・・・でも君達は敗北が許されない特殊部隊、もといSRTでありながら素人と見下す連中にやられた訳だ。君らの方こそ、SRTの看板に泥を塗っていると思うんだけど。」
「ッ!」
否定しようのない事実に、サキも言葉を詰まらせる。後ろで剣呑な雰囲気を漂わせていたミヤコもモエもその剣呑な雰囲気を納めざるを得ない。状況は何であれ彼女らは負けたのだから。
「カンナ、こいつら早く護送して。負けを受け入れられない内には何を言っても無駄。」
イサネはサキが言葉を詰まらせている隙にカンナに彼女らを連行するよう要請する。それを受けたカンナも深々と溜息をつきながら4人を護送し直すよう指示を出すと、イサネの方を向いて、
「確かに馬鹿と評したが、わざわざ不要な挑発はするんじゃない。」
と、イサネの失言を咎める。一方のイサネも「つい反射的に出ちゃった。」と下らない言い訳を述べながら護送されていく4人と周りを囲むヴァルキューレの生徒達の背中を見送る。
「イサネといい、あの子たちといい・・・うーん、元気だ。」
イサネの失言により有耶無耶になってしまったが、3人の言いたい放題をもろに受けた先生はイサネと同じように集団の背を見送ると、少しだけ視線を上げて空を仰ぎ、ぽつりと一言そう零した。
「え、私も?失言に噛み付かれたのを追い払っただけでそれは・・・」
「でもイサネ、その失言の内容自体は否定しなかったよね?不要な荒波を立てるつもりが無いならあんなこと言わない筈だと思うよ。」
先生の言葉にぎょっとして抗議するイサネだったが、先生は先程の謝罪の裏に潜む思惑を読み取っていた様だ。抗議に返す言葉は何処までも真実であり、イサネも言葉を詰まらせる。
「う・・・否定できない・・・」
「ほらねやっぱり。イサネは自分が戦えるか否かを物事の判断基準の一つにしている節があるからね、すぐ分かったよ。」
その言葉にイサネは改めて先生の分析力の高さに驚かされる。確かに先生と一緒にいる機会こそ多かったものの、そう言った自身の人となりを明確に見せる場面は殆ど無かったはずだ。だからこそ、イサネとの数少ない会話のピースから彼女の心理の一部まで辿り着く先生のその洞察力と思考力には驚愕以外の言葉が出てこない。
「まぁここで再び戦闘にならなかっただけでも良しとするよ。カンナ、あの子たちはどうなるの?それと今後の流れは?」
イサネとの会話をそこそこで切り上げ、カンナに今回デモを起こしたRabbit小隊の処遇を尋ねる。
「そうですね、まずは取り調べです。そして、その後はヴァルキューレが処遇を決めるのですが・・・」
カンナは一度言葉を切ると、少し考えるようなそぶりを見せてから話を再開する。
「今回はある程度連邦生徒会が関わりましたので、恐らくは防衛室が処遇を決める事になるかと。御希望のようでしたら取り調べの様子を見る事も可能かと思います。」
「なるほど・・・」
先生の問いに答えると、カンナは警察式の寸分の澱みもない敬礼と共に「では、一先ずはお疲れ様でした。」と告げ、引き上げを始めているヴァルキューレの生徒に混じってD.U.区の街並みへ消えていく。
「・・・先生、シャーレ戻る?あ、その前にサンクトゥムタワーかな?」
場に残されたイサネが、沈黙を遮るように先生に問う。そう、少なくとも子ウサギ公園でのデモ活動は鎮圧できた。ならもうここに残る理由は無いし、Rabbit小隊の敷設したテントなどは後にヴァルキューレが綺麗さっぱり撤去することだろう。今ここでイサネと先生が出来ることは無い。
数瞬の後、イサネの質問を受けた先生が既に決まっていたと言わんばかりに答える。
「いや、あの子たちの取り調べを見に行こう。」
その様子にイサネは興味深そうに質問を重ねる。
「ふぅん?お得意の鼻が何か嗅ぎ付けた?」
「うーん、まぁ取り敢えず行ってみよう?」
それに対し先生は、質問に答えるでもなくイサネを諭すように言葉を紡ぐ。イサネは「取り調べ見学ね?オーケイ。」と質問を無碍にされた事を気にも留めず、気の置けない友人間の軽いノリの様な態度で先生の横に並んで歩き始める。
「そう言えばさ、取り調べには親子丼が定番らしいじゃない。親子丼食べた事ないけど。」
「取り調べで定番なのは親子丼じゃなくてカツ丼だよ。キヴォトスだと分からないけど、キヴォトスの外で私の居た所は取り調べでカツ丼を出すのは利益誘導、つまり取り調べ相手に餌を与えて自白を薦める行為に当たるから出ないって聞いたことあるよ。」
「へぇー、そうなんだ。」
ヴァルキューレの本署に向かう途中、二人の間で交わされる取り調べでの定番談義。
「そそ、まぁキヴォトスの外はキヴォトスと違って地域によって法もかなり異なるから何とも言えないけどね。」
「まぁでもばれなきゃ犯罪じゃないはどこも同じでしょ。複数の痕跡を大量に無差別にばら撒くなりすれば警察程度じゃもう追跡できないから。」
「駄目だからね!?」
先生の鋭い洞察力に驚愕したイサネと、イサネの余りの常識の無さに驚愕した先生の、署に向かう最中で交わされた午後の会話であった。
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「えぇ!?取り調べの手伝いぃ~!?」
先生と共にヴァルキューレの署に訪れたイサネは、署内でカンナに告げられた言葉に素っ頓狂な声を上げていた。
「取り調べはおろか拷問すらした事ないんだけど・・・そんな素人が担当して大丈夫なの?」
「少なくとも拷問などと言う物騒な真似はしない。それにお前は先生の付き添いだ、どちらかと言えば取り調べ相手の暴動を抑える係と言った方が近いだろうな。それくらいならできるだろう?」
「まぁ先生がやると言った以上やりますけども・・・」
カンナの言葉に渋々と言った形で頷き、彼女に続いて取調室へと廊下を歩く。途中すれ違うヴァルキューレの生徒を横目に廊下を進んでいくと、《取調室》とルームプレートのある如何にもな雰囲気のある部屋の扉が見えてくる。
「後3分で取り調べが始まるから、準備しておくように。先生は既に中にいる。」
部屋前に着くとカンナはイサネにそれだけを言うと、自分も準備があると言って隣の部屋に入って行く。イサネも目の前の扉のドアノブを捻って扉を開ける。
「・・・来たね。」
「来たよ。取り調べ開始まであと3分だって。」
中に居たのは当然先生。イサネは先生と一言づつ言葉を交わすと先生の隣に置いてあるパイプ椅子を扉の前に置き、そこに座る。
「そこに座ったら生徒が入って来れないと思うんだけど・・・」
「良いの。私に役目は取り調べ相手の暴走と脱走を防ぐ事なんだから。それに――」
そうして先生とまた雑談に興じていると、取り調べの時間が来た様で軽いノックと共に「連れてきました、扉を開けてください。」と声が扉越しに聞こえてくる。イサネは先生に目線を向けて互いに頷き合うと、パイプ椅子を退けて扉を開ける。
「入れ。」
短い命令口調と共に一名の生徒が中に入ってくる。Rabbit小隊隊長、月雪ミヤコだ。イサネは事前のボディチェックが済んでいる事を同行していたヴァルキューレ生に確認すると、ミヤコに対面の椅子に座るよう促しながら扉を閉め、そこを塞ぐように椅子に座る。
「・・・あの時の。」
しばしの沈黙の後、椅子に座ったミヤコの第一声はそれだった。それもそうだろう。何せイサネに半ば論破されかけたとはいえ、別れ際に隊員一同で暴言を吐いたのだ。もう二度と会うことは無いだろうと、そもそもそんな機会すら訪れないだろうと。
「ふふ、びっくりした?」
だというのに、こんなにも早く再会を果たす事になろうとは。イサネもミヤコのこの反応には曖昧な苦笑いを浮かべる事しか出来ない。
(生徒を想う気持ちと覚悟は本物だという事は確かなんだけど、如何せん状況がなぁ・・・余りにもタイミングが悪すぎる・・・それにあれを思い出すと・・・ははは、もう笑うしかねぇや。)
イサネの脳裏に蘇るのは自身がゲヘナ風紀委員会からの依頼の話を聞きに行くべく風紀委員会本部に足を運んだ時のあの風景だ。執務室前の広い廊下で、テロリストも裸足で逃げ出す風紀委員会の
「正直少し驚きました。まさか先生が居るとは。ですが先生がここに居るという事は、あなたが取り調べの担当者ということですよね。」
ミヤコはイサネの予想通りこの展開は想定外だった様だが、すぐに自らの雰囲気を引き締めて取り調べに備える。
「まぁ、誰だって関係ありません。相手が誰であろうと、話す事は変わりませんから。」
ミヤコは先生とイサネ、7:3の割合で見やりながらそう告げると、「何か聞きたい事があればどうぞ。」とまるで既に覚悟出来ているかの様な姿勢で正面を見据える。
「そうだね。まずは・・・」
先生は少し考える素振りを見せ、口を開く。
「そこでの生活に、何か不便とかは無いかな?」
妙な質問だと、イサネは思った。ミヤコにいくら事情があると言えど取調室の容疑者の座る椅子に座っている以上、まずは事を起こした理由や事情を問うのが当たり前だ。それに彼女は容疑者だ。容疑者の生活について考慮する必要性など欠片もない。
ミヤコも先生の質問には困惑を露わにし、「最初から変な質問ですね。」と言いながらも質問に答える。
「ですが、お気になさらず。仮にあったとしても、捕虜の立場で何か言うつもりはありません。それともあれでしょうか?環境を改善する代わりに何か情報を引き出そうと?」
「心変わりでもさせようとしているのでしたら、諦めた方が良いです。仮に何を提案されたとしても、私達のSRTへの気持ちは変わりません。」
ミヤコの口から出た答えは、いかにも捕虜らしい尋問の類には屈しないという明確な意思を持ったものだった。・・・尤も今のミヤコの場合は捕虜ではなく容疑者でしかないのだが。
「そっかぁ・・・じゃあ次の質問。」
ミヤコの回答を受けた先生は少し残念そうに肩を落とした後、姿勢を正して次の質問に移る。
「ミヤコは、ヴァルキューレの事は嫌い?」
そこそこ踏み込んだ内容の質問。それに対しミヤコは態度を変えずに答える。
「何か勘違いされているかもしれませんが、特段ヴァルキューレが嫌いだから転校を拒否した訳ではありません。」
「うん。」
「嫌なのは、SRTを去る事です。」
これでミヤコがデモに参加した理由が明らかになった。彼女はヴァルキューレが嫌いだからなのではなく、SRTから離れることそのものが嫌だからデモを起こしたという訳だ。その回答を受けた先生は手元の書類にすらすらと今の発言の内容を書き写すと、再び口を開く。
「理由を聞いてもいいかな?ミヤコは、何故SRTを離れるのが嫌なのかな?」
先生のその質問に対し、ミヤコは一呼吸おいてから話し始める。
「・・・SRTには、そこにしかない正義があるからです。」
「正義・・・」
まただ。また正義だ。キヴォトスに来る前から耳が腐り落ちて尚聞いてきた言葉。端で取り調べを聞いていたイサネは反射的に顔を顰めそうになり、二人から見えない様に顔を逸らす。
(くそ・・・また正義か。あんなもの、人の欲望が作り出した倫理や本能的嫌悪を掻い潜る為の免罪符でしかないというのに。所詮人も犬も同じ獣、やっている事は何ら変わりないというのに。それとも、本物の正義とやらは本当に存在するものなの?)
イサネ自身正義を語る奴らなんて死ぬほど見てきた。それこそ殺戮者となってからは人類の正義の為だの正義の裁きだの戯言をほざきながらこちらに銃口を向ける愚かで盲目な輩などごまんと居た。更には幼少の頃から正義という言葉が何の意味も持たない場所で生きてきた事も相まってかイサネにとって正義なんてものは人の欲を隠す為の隠れ蓑でしかなかった。
そんなイサネの内心など知るはずも無く、ミヤコは続ける。
「改めて話すと、難しい概念ではあります。しかし、先生も正義については耳にする機会もあるでしょう。」
「他の学園にもそう言った集団があると聞きますが・・・ここヴァルキューレもまた、生徒達が自らの行動が正義だと信じているかと思います。」
「・・・ですが、私にとって彼女たちの正義は、本当の正義ではないと考えています。」
――ふざけた茶番だ。
イサネは何の考えも無しに先生に着いて来てしまった事を後悔した。まさか自分達が負かした人達からよりにもよって正義なんてものを語られるなんて。知っていれば真っ先にシャーレかサンクトゥムタワーに戻っていた。
(聞いているだけでいらいらするなんて本当に久しぶり。今すぐにでも首を圧し折ってやりたいけど・・・それとこれとは別だし・・・あぁ、気が狂いそう。)
不快感でごりごりと削られる己の理性を何とか宥めすかしながら、あくまでも無感情を装いつつ取り調べの様子を見守る。
「正義とは、理に適った正しい道理の事。その道理は真理に基づくものです。であるならば、相手や状況によって変わるものではありません。しかしキヴォトスにおける各所の治安維持組織は様々な利害関係の中にあります。その結果、正義と言うものを自分たち独自の物に歪曲し続けてきました。」
「ですが、SRT特殊学園だけは・・・学園間の利害に囚われず、自らが信じる正義を実行してきました。時と場所を選ばず、相手が誰であっても同じ基準で、一つの正義を追求する組織・・・」
「そんなSRT特殊学園に、私は憧れたのです。」
(現実が見えて無さ過ぎる。余りにも、SRTの表層部だけで物を語り過ぎている。何故SRTが他学園の干渉を受けずに活動できるのか、何故特殊学園なんて言う大層な名前が付いているのか、彼女はそれを本当に理解できているの?)
イサネだってSRTの実態がどうなっているかなど詳しく探りを入れていない以上知る由も無いが、大都市のトップ直属の特殊治安維持部隊という時点で少なくともトリニティの治安維持組織である正義実現委員会の様な正義の執行などと言うふわついた夢なんてものは存在しない筈だ。
特殊部隊だからこそ正義ではなく現実を理解しなければならない。醜くて薄汚い現実を理解し、知りたくもない人の腐った欲望を見て、それでもなお自らに課せられた任務を達成すべく動くのが特殊部隊と呼ばれる者達だ。SRTはそこに治安維持という運営の方針が被さっただけの組織に過ぎず、根っことなる部分は何も変わらない筈だ。
「そう言った何にも屈する事の無い屈強な正義に。」
だと言うのに、今先生の目の前で正義を語る少女は正に自らの、SRTの正義を信じて疑わないミヤコのその姿は、イサネに不快な眩しさを覚えさせた。
「しかし、SRT学園は封鎖・・・私が上手くやれていれば、きちんと彼女たちの能力を発揮できていれば・・・」
俯き加減にそう話すミヤコに、先生はうーんと唸りながらも口を開く。
「ミヤコも十分頑張ってたと思うけど・・・」
慰めなのか、先生から見た事実なのか。
「・・・殆ど初対面の人にそう言われましても。」
ミヤコは理解出来ないというように首を傾げながら言葉を返す。続けて、「先生からそんなことを聞いたところで、何の意味もありません。」と、尤もというべき言葉を先生に投げかける。
「先生はあの時、短い時間で味方の長所を最大化し、私の弱みを突いて戦況を変えました。それに対し私は、全然・・・上手くできず・・・」
・・・果たしてそうだっただろうか。ミヤコの言葉に思わずイサネは先程までの不快感を忘れて首をかしげる。
(先生の指揮でSRTの生徒を鎮圧した事を指しているんだろうけど、作戦全体を見るなら決して名采配とは言えないような・・・?)
自分の領分はほぼ丸投げだった作戦を思い出し、思わずイサネは先生に疑惑の目を向ける。イサネのそんな視線をもろに感じた先生はあの作戦について多少の自覚はあるのか、冷や汗を流し、視線を中空に漂わせながらも会話を続ける。
「そ、そこまで自分を責めなくてもいいんじゃないかな・・・?」
「・・・一体何にそんなに動揺しているのですか?」
「は、話は変わるけどさ!何か必要なものとか無い?欲しい物でも。」
更にミヤコにまで唐突な挙動不審を突っ込まれ、いよいよ先生は大慌てで、そして容認に近い形で大分無理のある形で話を進める。話の急転回を前にミヤコも若干疑問符を浮かべていたが、質問は質問という事で新たに出された、というより再び回ってきた質問に答える。
「他に話す事もありません。先程お伝えした通り、不満もありませんし。あぁ、そうですね、強いて言うのであれば、SRT特殊学園の閉鎖を撤回していただきたいのですが?」
なるほど、取り調べにおいてこれは中々に面白い返しだ。いや、皮肉の方が意味合い的には近いだろうか。どちらにせよ中々に良い煽り文句だと、イサネは感心する。基本的に大人という存在の精神年齢が低いと感じるここキヴォトスで、まさかこういう鋭い返しを聞くことが出来るとは。
イサネの関心を余所に、ミヤコの返答を聞いた先生は少し難しそうな顔をしながらミヤコの要求に応える。
「うーん、それは私だけでどうにかするには、ちょっと難しいかも・・・」
「でしたら私達は戦い続けます。SRT特殊学園の復活の為に。諦めない限りは、SRTの名前は無くなりませんので。」
そう固い意志の元宣言するミヤコ。先生はそれに対し少しばかり声色を低くし、問う。
「・・・仮に、勝算が低いとしても?」
「はい。」
一瞬の迷いもない返答だった。ミヤコのその言葉を最後に、デモを起こしたSRT生徒らの取り調べは終わった。
その後、一言も話すことなくヴァルキューレの生徒に連れられて行くミヤコを見送ると、イサネと先生も取調室から出てオフィスへと向かう。
「・・・」
「・・・」
しかし、二人の間にはさっきまでの軽快な言葉のやりとりは無く、ただただ重い沈黙が蔓延していた。勿論原因はイサネだ。取調室を出るや否や明らかに表情に苛立ちの感情が見て取れる。しばしの沈黙の後、その静けさに耐えかねた先生はイサネに言葉を掛ける。
「ね、ねぇイサネ?何かあったの?ずいぶんと苛立っているみたいだけど。」
「・・・いや、只の考え事。誰だって自分と致命的に合わないと感じた人との会話は苛立つでしょう?先生で言うなら・・・黒服とか?」
「ッ!・・・知っているんだね。それの存在を。」
先生の雰囲気もがらりと変わる。イサネはそのまま話を続ける。
「知っているというか、協力しないかって誘われたよ。なんだっけ、ほら・・・ゲマトリアだっけ?神秘とかいうの研究してるって自称してる胡散臭いやつら。」
「誘われた!?やはりホシノ以外にも既に目を付けていたか・・・!」
生憎だがアビドスの一件で黒服が絡んでいる事は知っているし、ホシノが消えた原因も知っている。今自身の考えている事と話が逸れてしまっているが、黒服が先生にとってのある種の地雷である以上ちゃんと話しておくのがベストだろう。イサネは口を開く。
「誘われたけど、足撃って黙らせたよ。あとそれに適当な嘘を吐いたらあっさり引き下がってくれたし。」
「嘘?」
「いやぁ、キヴォトス滅ぼしまーすって適当言ったら警戒されてどっか行っちゃった。」
「えぇっ!?え、ちょっ、えぇ?本当に何言ってるの?さ、流石に嘘でも駄目だよ、それは・・・」
キヴォトスの守護者の様な存在に向かって伝える事実ではなかったかもしれない。先生もイサネのその嘘の吐き方には引いている。
・・・尤もキヴォトスに来る前に己のエゴで世界を壊しかけた以上あながち嘘でもないのだが。
「そんな自称芸術家みたいな連中の事なんてどうでもいい。ほら、早く報告書出しに行くぞ。」
「あ、ちょ、押さないで押さないで!」
黒服についた嘘を本物を信じさせる為に大袈裟な芝居を打った事を思い出してしまい、若干気恥ずかしくなってきたイサネは先生の後ろに素早く回り込むとその背中をぐいぐいと押して先に進ませようとする。
「ね、ねぇ!そんなにぐいぐい押したら・・・あっ、ばっ、バランスが・・・崩れて・・・ッ!」
気恥ずかしさからくるイサネの手加減の無い押しは先生の体の体幹まで容赦なく崩していく。体幹が崩れたまま歩む先生に、明らかに人を押す力ではない力で先生の背を押すイサネ。
「あ、あの!本当に危ないから――っ!?」
「あっ。」
――だからこそ、
先生の足が廊下の僅かなでこぼこに躓く。出っ張りとも言えない僅かな出っ張りによって足が後ろに弾かれ、体を支える足が一本宙に浮いた事によって先生の体のバランスが思いっ切り崩れる。しかし、先生の体を前に進ませる力はそれでも力を加え続ける。そしてイサネも、自らの体の重心を先生に預け切っていた事もあってイサネも釣られる形で体勢を崩す。
支点を失った物体に、なお加えられ続ける力。既に二人に定められた残酷な運命は、イレギュラー二人を以てしてももう逃れようがなかった。
「「わぁぁぁっ!?」」
ヴァルキューレの署内の廊下に、どしんという音と書類が散らばる音に、二人の情けない悲鳴が響き渡った。
半ばの取り調べのカツ丼の話に出てくる利益誘導は日本においてはどうなのかで記述しています。え、首輪付きさんの所だとどうなのかって?...ばれなきゃいいんじゃないすかね。
あと少し文がおかしくなりがちになるなぁ...