透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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イサネさんってば傭兵な訳ですし、ちょくちょく依頼での戦闘描写を入れていきたいっすね。

後今回はだいぶ汚いです。(嘔吐描写や吐瀉物描写)


首輪付き、反吐を吐きながら理不尽に抗う

 

 

 

 

派手やかなネオンの装飾眩しい看板や汚れていて営業しているのかも分からないような建物ひしめく通りを、一つの影が風を切って疾走する。その背後に見えるは屍山血河の戦の跡。

 

 

「くそっ!もう突破されたってのか!?冗談じゃねぇぞ!」

 

 

「こいつが相手だって知ってたら俺だって行かなかったよ!畜生!」

 

 

疾駆する人影の向かう先には獣人とロボットが混合となった集団がおり、それぞれが悪態をつきながらその人影に向かって各々が持つ銃を発砲する。

 

それに対しその人影は走りながら上半身を左右に振ったり半身になりながら前方にステップを踏むことで殆ど速度を落とすことなく銃弾を回避しながら更に集団に接近する。

 

「あんな避け方でどうしてバランスも速度も崩れないんだよっ!本当に人間かよ!?」

 

コンクリートの地面を蹴る。体が跳躍し、前方の道路に居た銃を構えた集団の上を通り抜ける。

 

 

「なぁっ!?」

 

 

集団にいるロボット達や獣人達が驚愕の声を上げ、自分達の上を飛ぶその人影を凝視する。

 

「・・・ここ。」

 

集団の上を飛んだその人影はぼそりと呟き、いつの間に取り出したのか複数のグレネードを自身の放射線状の跳躍軌道に合わせてばら撒く。

 

「え、なにこ――」

 

ばら撒かれたグレネードを下にいた集団がそれを爆発物だと認識する間もなく地面に落下し、信管が起動。起動した信管は内部に詰め込まれた火薬に点火し、辺り数mに爆炎を吐き出す。これは爆炎を以て対象にダメージを与えるグレネード――攻撃手榴弾(コンカッション)。そしてそれが6つ、それぞれがコンクリートの地面に接触し、起動する。

 

爆炎により形成された小火球が6つ、朝のブラックマーケットの一角に顕現する。その場にいた集団は、その小火球に飲み込まれ、焼き払われる。そして、爆炎が収まり黒煙が薄れていくとそこには、さっきまで銃弾の掠り傷しかなかった筈の獣人とロボットの混合集団が所々に焦げ跡を付けて転がっている。

 

 

「・・・うごごご・・・い、一体何がぁ・・・!」

 

 

転がる者達がそれぞれに苦悶の呻き声を上げ意識を失う中、すたっと華麗に地面に着地したその人影――光を反射する灰銀色のストレートヘアーをさらりと垂らすその少女は、ふらりと立ち上がると、

 

 

「・・・い、依頼完了・・・うぷっ・・・」

 

 

・・・何故か若干顔を青くし、口元を抑えながら依頼の完了を呟く。

 

「れ、連絡を・・・入れないとぉ・・・っ!?おえぇぇっ・・・は、吐きそうぅ・・・」

 

少女はふらふらしながら懐からスマホを取り出し、通話用途のアプリを起動する。そして連絡先一覧をスクロールし、一つの連絡先をタップして通話を掛ける。3コールで通話相手が出る。

 

「も、もしもし・・・私、首輪付き・・・い、依頼の、報告を・・・」

 

『もう終わったのか。そこそこの数が居ると思っていたのだが・・・流石ブラックマーケットの頂点捕食者、万物の天敵と言った所か・・・随分としんどそうだが。』

 

「・・・徹夜は忌むべき敵だ・・・!が、い、依頼の対象は既に黒焦げだ・・・うぉえっぷ。」

 

『そ、そうか。まぁ依頼が完了しているなら良いが・・・とにかく、報酬は振り込んでおく。俺が言うのも何だが、無理はするなよ、首輪付き。』

 

「はぁ、はぁ・・・あぁ・・・うん・・・」

 

そう言って首輪付きと呼ばれた少女――標根イサネは通話を切ると、スマホをスカートのポケットに仕舞うと、黒焦げで気絶しているロボットと獣人達を尻目にふらふらとブラックマーケットの街並みへと消えていく。

 

 

「あ・・・もうだめ・・・ごぼっ!?う、うぐぐぅぅおえぇぇーーッ!!?」

 

 

―――夜更かし、もとい徹夜は健康の敵だ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「社長。あと60秒で仕掛けた爆弾を起爆する。」

 

 

「60秒ね、任せなさい!ムツキ!ハルカ!聞こえてるわね!」

 

 

まだ昇ったばかりの日差しの差し込む中、何かの生産ラインが所狭しと引かれているある工場の中を走り抜けながら、無線機に向かって呼び掛ける。

 

『りょぉ~かい!ハルカちゃーん、急ぐよ~♪』

 

『は、はい!アル様の邪魔はさせません!死んでください死んでくださいッ!!』

 

無線機から聞こえてくる元気な声を聞きながら、臙脂色のコートを肩に羽織る少女――便利屋68社長、陸八魔アルは、両手に持った【ワインレッド・アドマイヤー】から右手を放し、自身の後ろから追い縋るオートマタの群れ目掛けて半身に構えて引き金を引く。

 

その銃口から放たれた7.62mm弾は正確に先頭にいるオートマタに直撃し、装甲をぶち破って内部の駆動部品に喰らい付き、噛み砕く。駆動部品を正確に撃ち抜かれたオートマタは機能を停止、後ろがつっかえている中で転倒したことで後続のオートマタもそれに躓いて派手にクラッシュ。オートマタの交通事故を起こす。

 

「いいよ、想定通りの移動ルートだね。これで時間が稼げる。後は・・・」

 

「・・・分かっているわ。彼女、本当に大丈夫なのかしら・・・?」

 

「本人が大丈夫と言っているからそれを信じるしかないよ・・・まぁ、あそこまで徹夜に弱い体質だとは思いもしなかったけど。」

 

大クラッシュを起こしているオートマタを尻目に、アルと便利屋68課長、鬼方カヨコは移動を続けながら今回の依頼の共同相手を話の話題に上げる。

 

「標根イサネ。前は敵としてだけど、今回は共に背を預ける共同戦線。はっきり言ってこれ以上に心強い人はいない・・・いないと思うんだけど・・・」

 

カヨコの言い分は尤もだ。というか恐らく便利屋68の全員がそう思っているだろう。アルの脳裏に映るのはブラックマーケットの頂点捕食者と名高い凄腕の、普段からは想像もつかない程衰弱した姿だった。そして思い返すは作戦開始前の彼女とのやりとりの一部。

 

 

――ね、ねぇ、本当に大丈夫なの?今にも死にそうな顔してるのだけど。

 

 

――・・・何の問題も、ない。

 

 

――本当に何も問題無い人はそんな顔色してないよ。

 

 

――ただ徹夜しただけだから・・・う、胃酸が逆流して・・・うぉえ。

 

 

――大丈夫には見えないんだけど!?

 

 

顔色は悪く、普段の底の知れなさが欠片も感じられないその雰囲気。歩くときも常に重心がふらふらと彷徨っていて破壊された地面の凸凹に躓きそうになっていた。更には会話の有無に関わらず常に吐きそうな音を喉から響かせているその気味の悪さ。彼女曰くこの依頼前に既に別の依頼をこなした後で、なんならそこで盛大に吐いてきたらしい。

 

(イサネの逸話や実際の活躍っぷりは確かにアウトローとしても憧れる所はたくさんあるけど、それでも吐いてまで仕事を続けるのは流石におかしいと思うんだけど!)

 

企業潰しや勢力図塗り替え(勢力ピラミッド征服)等普段からかなりぶっ飛んだ実績や戦績を刻んでいく彼女だが、たかが一徹でここまで深刻なダメージを負うのは流石に別の意味でぶっ飛んでいると言えなくもない。

 

「社長、ムツキとハルカから連絡が来た。こっちも突入しよう。」

 

「っ!そうね、行きましょう!」

 

思考の中、カヨコに声を掛けられたアルは意識を作戦に引き戻し、オートマタから逃げていた体を反転させる。とそこで、無線機からムツキでもハルカでもない第三者の声が聞こえてくる。

 

『・・・首輪付き、外の掃討は終わった。これから別口から突入しつつ、退路の確保を行・・・いや、その前に少し胃の中を空にしてくる。』

 

「・・・え、ちょ、ちょっと!?」

 

そう、今回の依頼の共同相手であるイサネだ。彼女もしっかりと自身の仕事を遂行しているらしいが、やはり体調が優れないらしい。次のフェーズに移る前に嘔吐宣言をしてから無線を切る。それを聞いたアルは慌てて無線機をオンにすると、

 

『あ、今無線入れないで――こほっ、げほっ!・・・こっ、こえぇぇぇーッ!かぁぁ・・・ッ!っぐぅ・・・既に胃の中に何もないから――っ!?ぅうおえぇっ。』

 

・・・この世の終わりの様な余りにも汚く、そして生々しくてグロテスクな音が聞こえてくる。どうやらイサネの胃の中にはもう何も残っていないらしい。しかし、それでも際限無く込み上げる強烈な吐き気によってなけなしの胃酸を僅かな涎と共に吐き出しているのが彼女の現状と言った所だろう。

 

「・・・」

 

アルは無言で無線を切る。その顔色は先程と比べて僅かに青く、一目でその悲惨な現場を想像して貰ってしまった(込み上げてきた)事が分かる。横で見ていたカヨコはやれやれと溜息をつきながら、口を開く。

 

「貰い嘔吐(ゲロ)しそうになってる中悪いけんだど、仕掛けた爆弾を起動させるよ。」

 

「・・・ええ。」

 

何とか了解の意を貰えたのは良いが、明らかに込み上げて来てしまっているアルを横目に見ながら、カヨコは手に持った電波式の起爆装置のボタンを押す。

 

 

轟音、数瞬遅れて炎。

 

 

「社長!吐いてないで行くよ!」

 

 

「ま、まだ吐いてないわよ!?」

 

 

大声をかき消す騒音の中、二人は更に工場の奥へと向けて突き進む。爆発の炎を感知して工場内に設置されている消火装置がけたたましい音と共に作動するが、爆弾の設置場所は工場の燃料の保管場所だ。爆炎と共に供給される大量の酸素によって燃え上がる火は、業務用のスプリンクラーすら相手にならない。

 

『アルちゃん聞こえる~?ターゲットを捕捉したけど、もう車に乗ろうとしてるよ~。護衛の数もそこそこいるからハルカちゃんと二人だけじゃ逃げられちゃうかも。』

 

「えぇっ!?もう動きだしてるの!?いくらなんでも早過ぎじゃないの!くっ、カヨコ課長、急ぐわよ!」

 

無線からムツキの報告が入ってくる、どうやら今回の依頼のターゲットは既に逃走を始めようとしているらしく、中々対応が早い。だが、頭の切れる参謀カヨコの弾き出した答えは違った。

 

「待って社長。こんなにも奴らの逃走が早いのはおかしい。確かに外の騒ぎは聞かれたかもしれないけど、少なくとも爆弾の起爆からまだ1分も経ってないのにこれは余りにも早過ぎる。」

 

 

――まるで初めから私達(便利屋68)の襲撃を知っていると言わんばかりに。

 

 

「・・・っ、それは。」

 

 

足が止まる。炎の燃える音と火災探知機の騒音の中、二人の間に緊張した沈黙が流れる。カヨコに指摘されて気付いた事だが、それでも爆弾の起爆から逃走開始までの早さが明らかに異常である事はアルにも理解できた。だからこそ、二人はすぐにこの依頼の裏に隠された依頼主の真の思惑に辿り着く。

 

 

――これは偽りの依頼。便利屋68を嵌める為の罠。

 

 

「・・・依頼主は直接電話で便利屋68にしか依頼できない。と言っていた。つまりこの依頼は初めから仕組まれていた、私達を狙った罠・・・」

 

 

罠。カヨコ自身まだ確証はない。が、可能性という点を見れば今回の依頼主とそのターゲットが裏で手を組んで居るという線はかなり濃厚と見て良い。だが、だからと言ってこちらが打てる手は無いに等しい。何故ならこちらの手元に依頼主とターゲットの繋がりを示す証拠がない。

 

「ここを探索すれば証拠の一つでもありそうだけど・・・時間がない。それにターゲットが本当にただ用意周到だっただけという可能性だってある。」

 

「じゃ、じゃあどちらにせよ急ぐしかないじゃない!迷ってる暇なんか――」

 

「違う。この依頼が偽りの罠ならこの先絶対に何か仕掛けがあってもおかしくない。このまま行くのは危険すぎる。何か、判断材料があれば・・・」

 

――もどかしい。

 

ここで退けば依頼は失敗、進めば罠の可能性。そして時間も無いと来ている。焦る心境の中、アルは歯噛みする。焦りで視野狭窄に陥りそうになっていると、無線機がムツキでもハルカでもない声――イサネの声で音を発し、二人に助け舟を出す。

 

『アル、カヨコ、そこから退いて。この依頼はダミーだ。退路の確保に動いていたターゲットの護衛が情報を吐いた。あと3分でそこにマーケットガードが到着する。悪いけど、今からは私が臨時で指揮を執る。二人は離脱を優先して。ターゲットさえ抑えればどうにでもなる。』

 

「っ!分かった、ありがとう。すぐに離脱する。社長、行くよ。」

 

「えぇ!それにしても、こんな実入りの良い依頼が罠だったなんて・・・」

 

確定。これは偽の依頼だ。

 

二人は即座に踵を返し、燃え盛る工場を駆け抜ける。目指すは正面出口、次点で裏口だ。最悪の場合だと出口を塞ぐ者達が待機している可能性もあるが、そうなったら強行突破だ。依頼が罠である事が確定した以上、なりふりや形骸化した依頼など最早どうだっていい。

 

『ハルカ、ムツキ。ターゲットの逃走先に地雷原を敷いて。これで迂回させるなり吹き飛ばすなりして足を削ろう。設置場所の座標を送る・・・全部で3か所。クレイモアでもいいや、宜しく。』

 

『りょうか~い!ふふふっ、張り切っちゃうよー!』

 

『は、はい!全て吹き飛ばします!』

 

そう言ってムツキとハルカの声を無線機越しに聞きながら、二人は工場の生産ラインが並ぶ部屋から出、入ってきた通路を逆走する。入ってきた時についていた照明は完全に落ちており、既に自分達が相手の術中の中にいる事を改めて理解させられる。

 

「・・・敵の姿は見えないわね。」

 

「油断しないで、物陰に潜んでいる可能性だってある。」

 

曲がり角を警戒しながら進んで行き、入口の受付のカウンターまで辿り着く。やはり人っ子一つ見えない。二人は最低限の索敵だけを行うと、入口の電源の落ちた自動ドアをぶち破って外に出る。

 

「イサネ、外に出れたわ!何処に進めばいいのかしら?」

 

外に出て、無線機に呼びかける。

 

『うーん、まだ気持ち悪い・・・吐きそう・・・あ、出れた?ならそのまま共有した推定ルートを上から見下ろせる場所に陣取って、車を見つけたらタイヤを狙って狙撃宜しく。ポイントに付いたら私も動く。』

 

イサネの指示を受け、アルとカヨコは再び走り出す。建物と建物の狭い間を縫って進み、備え付けの梯子から建物の屋上に登って屋根伝いに移動しながら狙撃ポイントを探す。

 

「あそこなら、ここ一帯をよく監視できる・・・カヨコ課長、あそこにするわ。」

 

アルは屋根上を駆けながら素早く良好な狙撃ポイントを選別。カヨコに選別した場所を示しながらそこへ向かう。更に屋根上を進み、梯子を上り、狙撃ポイントに陣取る。カヨコは周囲の警戒の為に高所には登らず、下で待機している。

 

『あ、アル様!ターゲットの乗る車がトラップに掛かりました!場所は現場から一つ目のトラップ地帯です!車から人が下りてきますが、護衛でしょうか・・・?と、とにかく突撃します!』

 

『ハルカ、その判断はナイスだ、そのまま護衛を吹き飛ばせ。ムツキはハルカのフォローに努めて。アル、車のタイヤじゃなくてターゲットを直接狙って。ターゲットをダウンさせたらそのまま突っ込もう。』

 

ハルカの報告兼突撃宣言を聞き、イサネは適宜に指示を出す。

 

『おっ、今日はハルカちゃんの暴走を止めないんだ~。くっふふ~、面白いね!』

 

「社長。」

 

それぞれの声を聞き、応える様に意識を照準に集中させる。膝立ちの姿勢(ニーリング)を取り、明らかに高級車と周囲に展開したロボット達を目視してから手に持った真紅の狙撃銃のスコープを覗き込む。肌で感じられる感覚で風を掴む。風は微風、向きは後方から、そしてターゲットは動いていない。

 

 

――この距離なら外さない。

 

 

必殺距離。アルはスコープの照準のど真ん中にターゲットを捉え、トリガーに指を掛ける。重心にブレを起こさない様に徐々に指に力を入れていき、

 

 

「私達を嵌めた事、後悔させてあげるわ!」

 

 

かちり。

 

 

見る者が見ればまさに映画のワンシーンかの様な声と共に放たれた一発の銃弾が、照準の中にいるこれまた高そうな服を着た獣人の意識を刈り取った。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・貴方への苦情?聞いた事ないわね。」

 

 

ここはブラックマーケット・・・ではなく、ゲヘナ郊外の比較的平穏な区域(ゲヘナ基準で平穏)にある飲食店。形骸化した依頼を遂行し、ターゲットを人質に武力を突き付ける事で依頼主から大金を毟り取ってきた便利屋68とイサネは、その店の一角で昼食を取っていた。

 

「名指しの依頼しか受けない私達には余り関わりないけど、確かにちょくちょく聞いた話だね。」

 

「いやね?昨日連邦生徒会から私宛に主にブラックマーケットを中心に活動する傭兵や不良達から『お前が暴れまくるせいで私達の依頼が少なくなってきたからどうにかして』って苦情が来てさ。取り敢えず事の全容を掴もうという事で現在調査中って事。」

 

便利屋68の4人がそれぞれに注文した料理を口に運ぶ中、水だけ頼んだイサネは己の身に降りかかった事情を話す。

 

「暴れ過ぎってことか。」

 

「まぁ苦情が言いたい事はそういう事らしい。」

 

カヨコはイサネの発言から彼女の苦悩を理解したらしく、「随分と大変だね。」と同情の意を示してくれる。

 

「イサネちゃんってば人気者だね~♪」

 

「・・・こっちからすれば死活問題なんですけど。」

 

「くふふ~、すっごーい。」

 

「話聞けや。」

 

・・・一方のムツキはイサネを揶揄う事に意識を割いている様で、話が通じている感じがしない。そう感じ取ったイサネは呆れ半分に話の伝達を諦める事にする。人を揶揄う事が大好きなムツキだが、こう見えて話は理解出来る方だし、頭も回る。だからこそ多分この話も彼女はしっかりと理解しているだろう。

 

「あ、あの、私が全部殲滅してきましょうか・・・?」

 

アルの横でサラダを頬張っていたハルカがいつの間にかショットガンを抱え、何やら物騒な事を口走る。

 

「貴方の今の使命は食事に集中する事。だからそのショットガンは置きなさい。」

 

それに対しイサネは最近になってようやく一端を理解したハルカの扱い方に従い、淡々を彼女の暴走を宥める。宥められたハルカはショットガンを背凭れに引っ掛けると、再びサラダに手を伸ばす。

 

「はぁ・・・まぁ私とキヴォトスの傭兵のルールは食い違ってるらしいからね。自力でどうにかするよ。最悪、苦情言う奴ら片っ端から潰せばどうにでもなる話だし。」

 

溜息一つに話を切り上げるとイサネは席を立ち、「これは私の注文分のお代ね。」と言って4人の座る机に小銭を数枚置く。

 

「別に小銭くらい私は気にしないわよ?」

 

「いーの、どうせさっき手に入れた金もすぐ0になるんだから。特に爆装系を買い込めばほんとすぐに消えるから。」

 

置かれた小銭にアルはそれくらいなら問題ないと反応を示すが、イサネは適当を言ってそれを断る。そして去り際に、

 

 

「何せ前にやったカイザーPMC基地の襲撃、あれ私個人の出費は100万を優に超えるからね。」

 

 

と爆弾を投下して消えていった。

 

 

「・・・」

 

 

圧倒的な沈黙が場を支配している。普段から冷静沈着なカヨコや慌てる事を知らないムツキもその数字にえぇ・・・とドン引きしており、アルはいつもの如く白目を剥いていた。

 

 

「・・・?」

 

 

サラダに夢中で唯一話を聞いていなかったハルカが、沈黙が支配する席で首を傾げた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・なぁ。」

 

 

崩壊した建物が乱立する廃墟の中に、感情の籠らない呼びかけが午後の廃墟群に反響する。

 

あの後、便利屋68と別れたイサネは再びブラックマーケットに足を運んでいた。正確にはブラックマーケットの端の廃墟群だが。

 

「・・・発声障害でも発症したの?さっきから呼びかけに応じないけどさ・・・さっきまであんなにべらべら喋ってたのに。」

 

廃墟群の中の一つ、文字通りコンクリートのみが残っている中で、イサネは正座する二人の不良生徒と思わしき生徒と対面になる様にしゃがみ、目線を合わせて声を掛け続けてもう5分は経過している。

 

だというのに、正座して俯く不良生徒二人は一向に呼びかけに応じる気配がない。視線はずっと地面に向け、両手は膝の上に置いて強く握り込まれており、力み過ぎのせいか拳が若干震えている。

 

事の経緯はこうだ。便利屋68と別れてブラックマーケットへと向かったイサネは、手近にいた不良生徒2人に声を掛けて同行を要請。反抗もあるものだと思っていたのだが、案外大人しくここまで着いて来てくれた。そして事の本題に入るべく声を掛けたのだが、何故かピクリとも反応を返さずに5分が経過したという状況だ。

 

「私が暴力に訴えないからってだんまりですかそうですか。・・・ったく、じゃあ君らのお望み通り暴に訴えるとしますか。」

 

5分間ひたすらに呼びかけを無視されたおかげで苛立ちが募っていたイサネは痺れを切らし、声色に苛立ちを乗せてゆっくりと立ち上がる。イサネが動き出した気配を感じ取った二人は、びくりと体を震わせ、より一層体に力を込める。下を向いている為イサネからは見ることが叶わないが、その顔は完全に血の気が引き切っており、病的なまでに白くなっている。そして冷や汗が滝の様に顔面全体を伝い、その目は完全に恐怖と絶望に歪んでいた。

 

「えーっと・・・あ、あった。では――」

 

イサネが懐から取り出したのはどこで買ったのか、明らかに本職の人が持つ様な工業用ペンチだ。イサネはペンチを右手に持ち、横に並んで座る不良生徒の内の左に座る生徒の元に歩み寄ると、

 

「今すぐ呼びかけに応じるか、抜歯するか。好きな方を選んでいいよ。」

 

左手でその不良生徒の前髪を掴んで無理矢理上を向かせ、口にペンチを捻じ込んで前歯を挟むと、さらりと普段の会話の調子と何ら変わりない声で二択を突き付ける。一顔を無理矢理上げさせられた不良生徒は視界に入ったイサネの顔を見て凍り付く。何せ不良生徒の目に映る彼女の表情は苛立ちで歪んでおり、自身を僅かに翠緑に輝く瞳で殺戮マシンの如く見下ろしている。

 

「ふぁ、ふぁ、ふぁえひまふ(喋ります)やあひへふらはい(許してください)!」

 

「あ、あたしも喋ります!いや、喋らせてください!だ、だから、その、それはやめていただけると・・・」

 

余りにも手慣れた拷問への移行に、不良達は白旗を揚げる事しか出来なかった。

 

「なら初めからそうしてくれない?拷問でもないのに無視され続けるのははっきり言って不快なんだけど。」

 

「あががががが!!」

 

だが、呼びかけの無視によって蓄積した苛立ちによってペンチを握る右手に力が入ってしまい、結果として不良生徒の歯髄に強烈な痛みという神経ダメージを与える。

 

「ひぃっ・・・!?」

 

横でその様を見ていた不良も、かの万物の天敵の苛立ちが見せるその所業に悲鳴を漏らしながらずりずりと後ずさる事しか出来ない。何せ目の前に居るのはブラックマーケットに巣食う頂点捕食者にして天敵とまで呼ばれる存在だ。そんな彼女の前では並みの銃火器など何の心の支えにもなりはしない。

 

「あのねぇ、どいつもこいつも私の事を化物か何かにしか見てないみたいだけど・・・まぁこの際はそんなことはどうでもいい。」

 

イサネは掴んでいた髪を放し、口からペンチを抜いて本題に入る。ペンチの代わりにポケットからスマホを取り出し、その画面を不良生徒二人に見せつつ、話を続ける。

 

「君達、これ使ってる?というか、この書き込み知ってる?」

 

「あっ、それ、あたしのダチが依頼が来ねぇって言って書いてた様な・・・」

 

「詳しく聞かせてもらおうかな。具体的には何があった?」

 

未だ口を押えて悶絶している一人を余所に、イサネはもう一人の不良が零した言葉に反応し即座に詰め寄る。いきなり距離を詰められたお蔭で「ひぇっ。」と怯えを見せながらもその生徒は事の経緯を詳細に語り始める。

 

「あたしは余り企業からの依頼とか受けないからほぼ他人事なんだけどさ、今言ったあたしのダチ・・・と言ってもいつもつるんでるだけなんだけど、そいつがよく企業からの依頼を受ける奴でさ、一昨日くらいに集まった時に天敵についてなんか凄い愚痴ってたよ。」

 

「へぇ・・・それで、そいつはなんて言ってた?」

 

「あたしがあんたにこの事を伝えたって言うなよ?えーっと確か、あいつのせいであたしらの食い扶持が無くなるーとか、連邦生徒会にまとめて抗議文送ったーとか言ってたっけな。」

 

既に聞いた話だし、抗議はイサネの元にも届いている。彼女の言葉を一通り聞いたイサネは、「既に聞いた話ばかりかぁ。」と顎に手を当てて考える。すると、さっきまで口を押えて悶絶していた一人が、痛みから復帰したのかイサネの方を向いて口を開く。

 

「なんだ・・・その事か。ならあたしもお前に言いてぇ事はいくらでもあんだ・・・!」

 

「へぇ?」

 

どうやら鬱憤が溜まっているらしいその言葉に、イサネはやっと手がかりを掴めると声の方を向く。イサネの視線を受けた不良は若干たじろぎながらもイサネに向かって怒鳴る。

 

「お前が企業の依頼を受けまくるせいであたしらの稼ぎがめっきり消えちまったんだよ!運良く実入りの良い依頼があったとしても、そういう時に限って敵にお前が居るじゃねぇか!お前みたいなバケモン相手にあたしら数人でどうやって戦えばいいんだよっ!」

 

「・・・」

 

「依頼は碌なのがねぇ!あっても大体敵にお前が居るせいで碌に報酬も貰えねぇ!あたしらは学園から追放された身だからどっかからも金は貰えないし、自力でどうにかするしかない!だっつーのにお前は人の目の前で依頼を全部掻っ攫っていくんだ!あたしらにどうしろってんだッ!」

 

叫ぶ不良の眼には確かな恨みと悔しさが宿っていた。そして、その口から迸る叫びはブラックマーケットの弱者達の想いを切実に物語っていた。

 

「どうしようもない、ねぇ・・・」

 

ぽつりと、イサネは思案するように零す。どうやらそこそこには事が大きくなっているらしい。イサネのそんな呟きの中、不良生徒は更に続ける。

 

 

「あぁそうだよ!どうしようもないんだよ!おかげであたしは今日の分の食い物だって選んでる余裕すら・・・無い訳でもないんだけど。」

 

 

――訂正、別に重大でもなんでもない。何ならまだまだ絞っても問題なさそうだ。

 

 

イサネは深い溜息をつくと、つかつかともう一人に向かって歩いて行き、おもむろに胸倉を掴み上げる。不良生徒は「なにすんだ!」と半ば反射で抵抗するが、戦場さながらのイサネの眼を見て凍り付く。

 

「なぁーにがどうしようもない、だ。飯を選ぶ余裕はあるじゃねぇか。そういうのは飯にありつけなくなってから言うもんなんだよ。」

 

呆れ半分怒り半分を声に乗せてイサネは話し出す。

 

「あのねぇ、バイトだとしても、傭兵は傭兵。実力と実績ある奴に上手い依頼が集まって、逆に仕事しない奴に仕事が来ないのは当たり前でしょうが。ただ報酬分も満たない最低限の仕事しかしない奴に企業が依頼を寄越す訳ないでしょう?」

 

「ざ、残業なんて御免だぞ!」

 

「傭兵稼業の実績が残業でどうにかなるなら誰も苦労なんかしないでしょ。馬鹿言ってるとその口引き裂くぞ。いい?傭兵稼業で実績を得るのに必要なのはこなした仕事の達成度。正確には依頼を如何に完璧に達成するかが重要。例えば前線で戦えという依頼ならとにかく己の実力を示す事が重要で、依頼主にこいつ出来るなって思わせればいいんだよ。どうせ大して真面目にやって無いからばら撒き依頼しか漁れないんだよ。」

 

「な、なるほど、依頼の出来栄えってことか・・・!こ、今度からあたしもそこんとこ意識して依頼を受けようかな・・・」

 

イサネの説教に何故か普段から大して傭兵バイトをしないと言っていた方が感銘を受けた様に呟いている。イサネは内心で「お前そんなに依頼受けないんだから別にいいだろ。」と零しながらも話を続ける。

 

 

「分かった?なら抗議してる連中に伝えて。言いたい事があるなら権力に隠れるんじゃなくて正面切って言いに来い、と。武力でも口論でも話が通じるならいくらでも叩きのめしてやるともね。集団でも一対一(サシ)でも掛かって来い。」

 

 

「ッ!?わ、分かった、分かったからそろそろ手を放していただけると・・・だ、段々苦しくなってきて・・・い、息が・・・っ!」

 

 

「・・・今それを言う?普通。もう少し我慢してよね。」

 

 

本当に締まらない。イサネは若干拗ねた様に胸倉を掴んでいた手を放す。首元の圧迫感から解放された生徒はげほげほと咳込む。それを見ながらイサネは話は終わりだと二人へ背を向け、

 

 

「あー、でも、これは確定じゃないけど一か月位は受ける依頼の数を抑えるかもとだけ。それじゃ。」

 

 

と言うと、イサネは廃墟を出る。中から何か話し声が聞こえてくるが極めて意識からその声を除外してブラックマーケットの街並みを進んでいく。

 

 

「はぁ・・・これから港湾設備の警備依頼がある中で受ける依頼の頻度が減る・・・か。」

 

 

そこそこの規模の人混みの間を縫うように進みながら、ぽつりと零す。

 

 

「はは・・・矛盾も良い所だな・・・まぁどうだっていい事だけど。しかし――」

 

 

最短距離で向かう為の裏路地や半ばシティジャングルと化している建物と建物の間の獣道を進む中、

 

 

「港湾って事は、海じゃん。はぁ、人手不足だからって考え無しに受けたのは失敗だった・・・」

 

 

イサネにとって海とはコジマ粒子によって汚染された死の海の事を指す。生身で入ればまぁまず間違いなく助からないと言っても過言ではないし、耐Gスーツや耐コジマ汚染用の潜水スーツを以てしても長時間浸り続けるのは非常に危険だ。そして港湾警備という事は、必然的に海の近くが仕事場になる。

 

 

「くそ・・・足を滑らせて海にドボンなんて御免だ、オッツダルヴァ・・・」

 

 

 

ブラックマーケットの街並みに、頂点捕食者(標根イサネ)の弱気な呟きが霧散した。

 

 

 

 





うちの首輪付きさんは徹夜の後で動くと吐くほど気持ち悪くなるタイプです。なお、予め徹夜する覚悟が出来ている場合は別な模様。(ご都合主義)

実際に徹夜して嘔吐する人っているんですかね?作者は徹夜しようとしても朝の5時くらいで精神的な疲労に負けて寝てしまうので丸一日起きていたことは無いですけど。
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