さて、そろそろカルノバグの兎一章の前半が終わりに差し掛かろうとしています。ここ最近の公式様のイベントストーリーやメインストーリーの更新が中々にお早いのでこちらも最終編くらいまではオーバードブーストをかけて行きたいですね。
久しぶりの銃撃戦も入れた戦闘描写という事でちょっと表現が足りてなかったり文章がおかしくなっている可能性大ですごめんなさい(土下座)
「SRTぃ・・・?あーぁ、先生が呼んだのか。」
イサネが壁を吹き飛ばしながら場に乱入したRabbit小隊の3人を一瞥しつつ零す。
「イサネさんですか。ニンジン作戦振りですね、あの後の戦術論指導ではお世話になりました。・・・取り敢えず、貴方は一体どちら側の味方で――あぁ、なるほど。なんとなく想像は付きました。」
イサネの零した言葉に対し3人の内の真ん中、部隊長のミヤコがデカルトの惨状とイサネの様子を見、何かを察したように略した挨拶を送る。
「おい!侵入者だ!迎え撃つぞ!」
「俺たちの邪魔はさせねぇぞ!」
「げっ、こいつら、服装は貧弱なのに武器だけやたらと最新式だぞ!」
二度の爆音により廃墟のあらゆる隙間からぞろぞろと出てくる武装した獣人やロボット達を見ながらサキが毒突く。
「ははっ、ははははっ!あーっはっはっはっはっは!死ねよぉッ!!あひゃひゃ!」
しかし、既に理性のタガを外したイサネには敵の武装が最新式かどうかなど些細な問題ですらない。奇声とも取れる甲高い狂笑を上げながらイサネは所確幸のメンバーと思しき武装した浮浪者集団に突撃を仕掛ける。
「うわぁっ!突っ込んで来やがった!」
「一人かよ!こいつこの数が見えてないのか!?」
「ばっかよく見ろ!こいつは万物の天敵だ!俺らが蹂躙されちまうよこんなの!」
イサネの突撃に一瞬で動揺が広がる所確幸のメンバー達。そしてそれと同時に図らずとも完成しつつあった包囲網が大きく乱れる。
「さて、私達も動きましょうか。高級和牛ステーキ弁当を手に入れる為に。戦況は大きく乱れてしまいましたが、こういう時こそイサネさんの講義を思い出しましょう。作戦開始。」
「確か乱戦になった時の敵の効率の良い崩し方はどの話だったか・・・何処にメモったっけ?あー、確か教本に固執するのは良くないんだったな。くっ、入学してからの習慣だったから直せと言われてもすぐには直らないぞ・・・!」
イサネに遅れる事数秒、Rabbit小隊も所確幸のメンバーと交戦を開始する。サキを先頭に、ミユをその左斜め後ろ、ミヤコはミユの後ろの配置に取って突撃を始める。
「こういう場合では集団で動く方が却って動き易いです。各自はぐれない様に。」
「りょ、了解。2階の狙撃手は何とかするから・・・」
「私が至近前方、ミユが遠方の狙撃手を相手するから、後ろは頼む、ついでに全体の状況判断も。それでいいか?」
各々の役割を即座に定義し、3人が一糸の遅れもない走りを以て化物が暴れる廃墟という地獄を駆け抜けていく。勿論、道中の所確幸のメンバーの掃討も忘れない。
幾ら最新式の銃火器を有していようと、その扱いに習熟していなければ豚に真珠、猫に小判にしか成り得ない。Rabbit小隊の何倍もの数の有利がある筈の所確幸のメンバー達はサキの至近射撃とそれに交えた近接格闘によって悉くが薙ぎ払われ、後方に居る狙撃手はミユの正確な速射によってスコープを覗く事も出来ずに撃ち倒される。そしてサキの射程の範囲外故の撃ち漏らしや後方に運良く位置取れた者も最後尾で全体のフォローを担うミヤコによって丁寧に処理され、地面に倒れ伏せる。
「・・・さて、どうしよう。私が指揮するまでも無さそうだけど。」
見事に場に取り残された先生はRabbit小隊とイサネのあまりに迅速な動き出しに完全に手持無沙汰となってしまっていた。何せ戦況自体はイサネとRabbit小隊が圧倒的に優勢で、所確幸は組織だった攻撃も出来ない程に総崩れとなっている為、今更ここで自分の指揮を以て介入する事は却って非効率だ。
「取り敢えず、デカルトは大丈夫そうだからミヤコ達に追い付くのが先かな。しかし・・・」
ミヤコに追い付くべく先生は死屍累々となった未だ銃撃響く廃墟の中を進み始める。
「わぁ・・・これ絶対イサネがやった奴だよ・・・同じキヴォトスの人同士とはいえどうやったらキヴォトスの人の胸板をここまで凹ませられるの・・・?」
だが、その道中は正に死神か修羅が通ったのではないかと思う程無惨に打ち倒された所確幸のメンバーらが無数に転がっている。しかもイサネがやったと思われる人とRabbit小隊がやったと思われる人で素人目に見ても分かる程に損傷具合が異なるのだから可哀想というか何と言うか。
「ははっ!あははははっ!ここに来て思ったけど、無所有って抜かす割にお前ら随分と飯の漁り方が贅沢ねぇ!?あっははははは!ひゃーっはっはっはっはっは!」
「あぁもう、イサネの奴はどれだけ好き勝手にやってるんだ!建物の構造ごと敵を討つのはこっちも困るんだが!」
「・・・これが普段のイサネさんのやり方なのでしょうか。Rabbit2、その点については諦めて慣れた方が早いと思います。私も彼女の人として破綻した様な笑い声を少し・・・いえかなり気味悪く感じているので。」
奥から姿こそ見えないもののそれぞれの思いを乗せた声が銃声に紛れて響いてくる。ついでに時折聞こえてくる何かを破砕していると思わしき轟音が廃墟を崩壊させるのではないかと怖くて仕方が無い。
(あちゃー・・・これどうしよう。廃墟潰れちゃったら本当に大変な事に・・・)
先生の思っている事など露知らず、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「しゃぁぁぁーーッ!!」
見ただけで恐怖のあまり動きを止める程の情緒のイカれた笑みを浮かべ、獣の如き闘争心剥き出しの咆哮を上げながら低く跳躍。既に戦意が折れかけている所確幸のメンバーに飛び掛かる。
「ははっ!」
低く跳躍した先にはサブマシンガンを持つロボットの男。イサネは跳躍後すぐに両足を前方へ突き出す様に姿勢を変え、着地先に居た男にドロップキックを叩き込みつつもクッションとしても利用して着地。同時にショットガンを至近の相手に押し込んで引き金を引き続ける。
「あっははははははっ!?そこぉッ!」
マガジン内に残った最後のショットシェルを撃ち込んだイサネはマガジンの排出ボタンを押しながら銃身を振り、銃床で相手を殴りつけながら空のマガジンを振り落とす。そして一切の澱みの無い動作で次マガジンを差込口に叩き込むことで隙を見せないリロードを実現する。
リロードを終えたイサネは昏倒した所確幸のメンバーが持っていた狙撃銃をおもむろに拾い上げると、スコープを外して左手に保持。これにより散弾銃に狙撃銃と歪な組み合わせではあるものの、普段の片手に得物一つづつのスタイルとなる。
「おいなんかあいつの後ろからも何か来てるぞ!」
「もう無理だって!普段から動かない俺たちに戦闘なんて無茶だったんだ!」
ただでさえイサネに一方的に蹂躙されている所確幸のメンバー達はイサネの後方に見えるRabbit小隊の3人を見てより一層悲嘆に暮れる。
――尤も、悲嘆に暮れるという行為自体を目の前に居る狂人が許す訳も無いのだが。
「はっ、何処に――ぶっ!」
「うわぁぁぁーーッ!!いやだ――」
目の前の群衆が自分の後方に居ると思われるRabbit小隊に気を取られている間にイサネは左手に持った狙撃銃の引き金を引きながらロボット達群れへと向けて突撃。正面先頭に居たロボットの顔面に右手のショットガンの銃口を向け、引き金を引く。
「がっ!?」
碌に戦闘経験の無い所確幸の構成員にショットガンや狙撃銃などと言った威力の高い銃撃の対応など出来る訳も無く、銃弾が胴体を正確に穿つことで大きくノックバック。思いっ切りのけ反り隙だらけの所に追撃の散弾が直撃し、昏倒する。
イサネは倒れたロボットなど見向きもせずに次のターゲット目掛けて引き金を引く。喧しい発砲音と共にショットシェルが炸裂し、ばら撒かれた幾つもの弾丸が構成員達を叩きつけ、吹き飛ばす。
そして近距離の相手をほぼショットガン一丁でこなす傍ら、時折左腕をおもむろに上げてその手に握られている狙撃銃を撃つ。狙撃用に設計されたライフルの銃口から強烈なマズルフラッシュと共に放たれた銃弾は、後衛でもたもたと狙撃の準備をしていた構成員の頭部を正確に撃ち抜く。
「イサネの奴、あれだけ動き回ってるのによくあそこまで正確に当てられるな。しかも片手持ちな上に殆ど照準器覗いてないだろ、本当にどうやって狙ってるんだ?」
「う、うーん、照準器を覗かなくてもある程度弾道の予測が出来るくらい銃を撃って来たとか・・・?」
イサネに遅れる事数秒、サキを先頭にしたRabbit小隊がイサネの暴力から生き残った構成員達を撃ち倒しながら未だ消耗の気配無く暴れ回る彼女に追い付く。
「しっかし、狙撃もそうだが一体何を食えばあんな動きが出来るんだっ、と。・・・ん、ミユ!2階の狙撃手、3人追加だ!」
サキは廃墟の地面を駆け抜けながら、両手に構えた【Rabbit-26式機関銃】の銃口をイサネの背後に位置する構成員に向けて一定間隔で区切る様に引き金を引く。銃口から吐き出された幾発の銃弾は敵の頭部に命中、問答無用で被弾者をノックダウンさせる。そして次の目標に狙いを定め直し、即座に発射。一人目と同様の結果を返す。
フルオートの銃を引き金を引く時間を区切って撃つ射撃――指切り射撃による最低限の弾数を以てサキはこの場における最大限の撃破効率を叩き出す。イサネから教本頼りの馬鹿者とは言われたものの、それだけの実直さを以て身に着けた射撃は正に効率の鬼と呼べる程の安定を見せていた。
「しぃっ!はぁっ!くそ、速過ぎるだろあいつ・・・!」
更に射撃の間にも自分に接近する者に対しお手本の様な投げ技を魅せ、死地や死線で全てを身に着けたイサネの一人で完結する常識外な戦闘スタイルとまさに対極に位置する堅実で確実、愚直なまでに洗練された戦い方でイサネに追い付かんと更に足を速める。
「2階・・・左から、1、2、3人。・・・クリア。」
サキの後ろに続くミユも走る速度を殆ど落とさず、手に持つ【Rabbit-32式小銃】のスコープを覗きながら照準を合わせる。そして数瞬の後、引き金に指を掛けて数度引く。するとスコープの先に居た狙撃手と思われる3人が瞬く間に2階の床に倒れ伏せる。伊達にヴァルキューレの物量による攻撃を撃退していない。ミユは走りながらでもブレる事の無い照準で狙撃手を撃破。前を走るサキの後を追う。
「・・・武器は最新式の様でしたが、個人の戦闘能力自体はRabbit2の言う通りでしたね。とすれば警戒すべきは捨て身の奇襲。・・・Rabbit2!Rabbit4!足を止めないで下さい!閃光弾で背後の敵の目を潰します。」
「了解!」
3人で形成された縦陣の最後尾を走るミヤコは最後尾という広い視野を以て戦況を把握。一応サキとミユ、そしてさらに先に居るイサネによって半ば一方的な蹂躙になっているのだが、それでも敵の数だけは一丁前という事もあって必ず間隙が生まれてしまう。ミヤコはベルトに下げていた手榴弾の中から閃光弾を即座に手に取り、ピンを外す。
「3カウントで投擲します。・・・3、2、1、今!」
掛け声と共に左手に保持した閃光弾を前方に居るミユの数歩先に向けて投擲。直後、瞼越しでも貫通する程の強烈な光が辺りを埋め尽くす。乱戦の中唐突に転がってきた閃光弾に戦闘素人である所確幸の構成員が反応出来る筈も無く、炸裂した閃光によって視界を焼き尽される。
「今です。」
ミヤコは投擲と同時に顔を下に向け、更に左腕で顔を覆う事で閃光による視界へのダメージを回避。閃光が消え去ったタイミングで顔を上げ、銃口の先端にバレルジャケットが取り付けてあり、弾倉にドラムマガジンを挿したKP/-31ベースのサブマシンガン――【Rabbit-31式短機関銃】を構えて顔を抑えたりあらぬ所に銃を乱射している構成員達へ向けて引き金を引く。
「ぎゃぁぁっ!」
「し、視界が――」
「目が!目がぁ――あぎゅっ!」
只でさえ素人な上に視界も潰された所確幸など最早相手にすらならない。ミヤコは何の工夫の無いスタンダードな射撃によって自分達の見せた間隙に付け込もうとしていた者達を一掃。
「Rabbit3、どうですか?高級和牛ステーキ弁当らしき物は発見できまし――」
ミユの後を追い掛けながらミヤコは自身の頭上で飛ぶドローンに向けて目的達成の為に声を掛ける。が、
「ひゃーっひゃっひゃっひゃっひゃぁぁーーッ!ひゃはっ!ははっ!あっはははははッ!?内臓捩じり切ってやるよ害虫共ぉーーッ!!あぁーっはっはっはっはっはっは!」
「おいッ!そんな物騒でグロテスクな事を叫ぶな!普通に怖いしそんなことしたら重罪どころの話じゃないぞ!聞いてるのか!おい!おい!!後その情緒のおかしい高笑いもやめろ!」
「うぅぅ・・・私は内臓捩じ切られて死んじゃうんだ・・・ドラム缶に食べられるのとどっちが苦しいんだろう・・・」
前方から聞こえてくる訳の分からない言葉の応酬にミヤコの口が止まる。
『・・・今の所それらしき物は無いけど、先にあれをどうにかした方が良いんじゃない?もうあれこそが本物の混沌でいいでしょ。這い寄る混沌ならぬ発狂する混沌ってか。』
「・・・Rabbit3、作戦に関係の無い私語は控えてください。」
標根イサネという生徒の脅威的な強さとその恐ろしさは学園に居た頃に教えられたし、ニンジン作戦においては身を以て体験する事となったが、こんな悍ましいとも言えるものがまだ残っていたとは。
(立場上私がイサネさんを指揮するという事は無いと思いますが、今後もしこんな状態の彼女を指揮するなんてなったら・・・考えたくありません。先生は一体どうやってあの状態になったイサネさんを制御しているのでしょうか・・・?それにあの状態の人と背を並べるには一体どうすれば・・・?)
半分違う意味で地獄と化している廃墟の中、ミヤコは自身の数歩先で何やらネガティブな事を口走っているミユを追い掛けながら一人、イサネの狂人具合に頭を抱えるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こ、こいつらなんて出鱈目な――ごぶぉっ!?」
逃げ際の捨て台詞を吐く事すら叶わず、機械の体がただ鈍器で殴ったとは思えない程の勢いで吹き飛んでいく。そして同時に左手に握られていた狙撃銃が握っているバレルの部分が大きくひん曲がり、これまでの戦闘で既に発射機構が潰れて使い物にならなくなった狙撃銃が完全に鉄屑と化す。
「これで立ってる奴は居なくなったかぁ?ひはははっ。」
「さぁ、どうでしょうか。私達はここに居る方々の制圧が目的では無いので、邪魔が居なくなるのであれば非常に助かるのですが。」
周囲にゴミの様に散乱する戦闘不能となった所確幸のメンバーや先程と比べて日通しの良くなった廃墟を一瞥しながら、イサネは周囲をある程度警戒したまま戦闘態勢を解く。一方のRabbit小隊は戦闘態勢はそのままに、ここに来た目的である高級和牛ステーキ弁当なる物を発見するべく各自に動き始める。
「イサネー、Rabbit小隊の皆ー!大丈夫ー?」
闘争心の足しにはならなかったが、一通り暴れてある程度溜飲が下がったイサネがさてどうするかと考えを巡らせようとした時、後方から先生がこちらの安否を確認する声を掛けながら走り寄ってくる。正直心配すべきはイサネの怒りを受けた所確幸の人達だと怒った張本人ながら思わないでもないのだが、そこは彼らのリーダーであるデカルトの自業自得・因果応報だという事で自らを納得させる。
「Rabbit小隊の皆、ありがとね。それとイサネ、事情は知らないけどこれはちょっとやり過ぎじゃないかな・・・?」
「・・・デカルトの自業自得じゃない?」
が、デカルトの強引な傲慢な発言を鑑みてもイサネの攻撃は先生の目には少々過激なものに映ったらしい。先生はデカルトにも非が十分にある分普段イサネを咎める時と違い非常に微妙な表情で注意の言葉を掛ける。
「う、うーん、今回ばかりはデカルトにも非が無いとは言い切れないから何とも・・・私も助けてもらった以上あまり強くは言えないし・・・」
事の発端が発端だけにイサネの反論に黙り込むことしか出来ない先生。それに加えて死屍累々の有様をどうするかも考えねばならず、いよいよ場に気まずい沈黙が広がろうとした所で、
「な・・・何ですかこの有様は・・・!一体何が起きて・・・?」
階段からふらふらと、事の発端にしてイサネの怒りを買った張本人であるデカルトが満身創痍の体を引きずって場に現れる。イサネと先生の視線が集中する中、デカルトは大幅に
「あぁ・・・所確幸のアジトが・・・せっかく集めた高い装飾品も全部焼き払われて・・・!」
やはり無所有などと言う割には随分とふざけた事を口走っている。デカルトに向けられるイサネの視線に軽度の殺意と軽蔑の感情が籠る。
「何度も申し訳ないんだけど、貴方達は所有に執着しないんじゃ・・・?」
先生が更に気まずそうに唖然としているデカルトに問う。ここまでくれば普通に腐った政治家と同タイプの詐欺師かペテン師の類である事は間違いないのだが、とてもとても優しい正確の先生はデカルトの最後の可能性を信じている様だ。
――だったのだが。
「う、うるさい!贅沢するのは人間の本質だろうっ!?」
先生の言葉にこれまでの発言を全否定する台詞を以て怒鳴り返すデカルト。言動がただの小悪党のそれでしかない。
「貴方達さえ・・・貴方達さえ居なければ・・・っ!」
小悪党の代名詞の様な台詞を更に吐きながら先生を恨めし気に睨みつけようとするデカルトだったが、その横で殺意と軽蔑の入り混じった胡乱な目で自らを見下すイサネの姿を見ると「ひぇっ。」と身を竦ませてふらふらと後退する。
「おい、ミヤコ。これ缶詰じゃないか?賞味期限切れてるけど。えっと、燻製ベーコンにサーモン・・・おっ、オイル漬けのホタテまである!先生の言っていた高級和牛ステーキ弁当はまだ見つかって無いけど、仮に無かったとしてもこれなら十分に採算がとれるぞ!」
すると近くで何かを漁っていたRabbit小隊の3人がわいわいと騒いでいる。発言の内容的に食料の類を見つけたのだと思われる。ホタテやサーモンなどまるで知識に無いイサネだったが、缶詰と言う言葉でそれらが食い物であるという事は理解できた。
「ま、待て!それに触るな!」
高級和牛ステーキ弁当とやらは無かったが、まぁ代替となる美味しいものが見つけられたなら良かったじゃん、と半ば他人事に思いながら左手に持ったままの壊れた狙撃銃を弄り回していると、デカルトがサキの手に持つ缶詰に敏感に反応する。
「そこの高級缶詰は、後で酒のつまみにしようと私が大事に・・・!」
「つまみ?酒のつまみって何?酒に摘まむ所なんてあったっけ?」
デカルトの口から出たつまみという言葉に疑問を覚えたイサネは先生に尋ねる。
「飲酒経験はあるのにお酒のお供の事は知らないんだね・・・」
飲酒経験のある者としてはおかしな話だが、イサネは酒に関する知識こそあれど過去に貰った酒類はほぼ消費目的で飲んでいたという経緯がある。故に彼女の破綻した食習慣も相まって酒については知っているのにそのお供の存在は知らないという非常に妙な知識の持ち方をしている。
「今のイサネがお酒を飲む事は駄目だけど、一般常識程度の知識は教えても良いかもね。えっとね、つまみと言うのは――」
「穀潰し!社会の膿!そんなに欲しいならどうして真っ当に働かない!?」
先生がつまみについての説明をしようとした所で、デカルトの無駄に大きな声がそれをぶった切るかの様に先生の声を遮る。どうやらRabbit小隊の発見した缶詰についてあれこれ言い争っているらしい。
が、余りにも何もかもが悪すぎる。ただでさえ自分達を棚上げした発言だというのに、更にそこに無駄に大きな声。そしてその被害者は溜飲こそ下がれど未だ怒りの火が燃えたままの本物の狂人。最早火に油などと言う次元の話ではない。
ぴきぴきぴき。
イサネのこめかみに血管が浮き上がり、顔から表情が再び抜け落ちる。瞳のライトグリーンが輝きを持ち、頭上のヘイローを形作る粒子の対流と生成が加速する。
「・・・」
「い、イサネ。す、ステイステイ。ね?良い子だから落ち着こう?」
目の前の少女がデカルトの声によって不自然に停止した様を見、嫌な予感を察知した先生は今にも死に体の相手を更に痛めつけるという暴挙に出かかっているイサネ宥めようと声を掛ける。
「そんなに強ければ廃棄弁当なんて当てにしなくても生活できるだろう!傭兵にでもなればいいじゃないか!そこに居る化物傭兵の様に!!」
このデカルトという人物は人の様子を窺うという事が出来ないらしい。自身の後ろで矛先は向けられずとも近くに居るだけで体が硬直してしまう程の凄まじい黒と翠緑のオーラを纏っていると言うのに、それに気付く気配が欠片も無い。
「私達は傭兵ではなく、SRTですから。」
「知るかっ!というか正式な所属があるなら弁当ぐらい譲ったらどうなんだ!生存を掛けて戦っている所で、最先端の武器やら正義の理屈やらを持ち込んで・・・!」
後ろで何が起きているかも知らず、ぎりぎりと恨めしそうにRabbit小隊を睨みつけるデカルト。そして引き下がらないRabbit小隊。一方のイサネは既に先生の必死の説得を容易く振り切り、ゆらりゆらりとデカルトの方へ向かって歩を進めていく。そして――
「貴方達の言っている事は全て詭弁だ!!」
「うるっさいわお前ぇッ!!」
デカルトの叫びとイサネの怒声が重なり、直後にデカルトの右脇腹に綺麗な円軌道を描いたイサネの回し蹴りが直撃。デカルトの体が再びくの字に折れ曲がる。
「ぐげぇっ!?」
先程の様に吹き飛ぶ事こそ無かったものの、それでも拉げた蛙の様な悲鳴を上げながら蹲り、三度自身を襲った衝撃に悶絶するデカルト。いくらキヴォトスの住人の体が頑丈と言えど、相手がヘイローを得た上に強度の身体強化が施されたの強化人間となると話がだいぶ変わってくる。
「さっきからくそみたいな戯言をべらべらと五月蠅いわ!そもそも弱者の分際でそんな娯楽欲を一丁前に満たそうとするなんて今まで生き残ってきた方が奇跡だわこの戯けが!」
「弱者!?」
「碌に働こうともしない上に強者に対抗する力も無い奴を弱者以外の何て呼ぶんだよ!というか出来るのにしない時点で弱者ですら無いわ!何が無所有だ!何が無行動だ!お前ら自分の思い通りにいかないのを棚上げしているだけじゃねぇか!後普通にうるさいんだよ!」
イサネは蹲りながらも反応を返すデカルトをげしげしと踏みつけながら怒鳴り続ける。
「あのねぇ!ただでさえ何もしようとしない弱者の集まりが、運良く物を持ってるからって調子乗ったら叩き潰されるに決まってるだろうが!何が焼肉弁当だ、欲しいなら働いて買えば良いだけの話だ!お前ら法律上は戸籍あるだろ!バイトしろバイト!」
「働く!?私達は働かないで焼肉弁当を手に入れたいのであって、焼肉弁当の為に働くなんてまっぴら御免です!」
「じゃあさっさと野垂れ死ねッ!」
「酷いっ!?私達を何だと思って――あっちょ、痛いっ!いだだだだだっ!そこはまだ痛みが残っているから止めて――あぎゃぁぁーーッ!!」
段々と足蹴の位置が痛みの蓄積している部位へと集中し始め、イサネの怒声に反応すら返せなくなっているデカルト。しかし流石にその僅かに可哀そうなデカルトを見かねてか、横でRabbit小隊の3人と一緒に見ていた先生が「そこまでにしよう?イサネ。」と普段とは変わらない口調ながらも何処かNOと言えない絶対力を声に乗せてイサネを止める。
それを受けたイサネも「まぁ先生が言うなら。」と足を納め、今までの勢いの割には随分と大人しく引き下がる。イサネが引き下がった事を確認すると先生はすぐさまRabbit小隊に声を掛ける。
「まぁまぁ、今回は私にも非がある訳だし、必要な物があったら私が買うから、だからここにある物は持って行かないであげて欲しいな。」
横で「負けたんだから物を持って行くなはどう考えても無理があるでしょ。そもそも殺されないだけ慈悲だというのに。」と一人ぼやくイサネを尻目にミヤコは少しの沈黙の後に言葉を返す。
「もう一度言いますが、先生の助けは不要です。先生が何を言おうと、私たちの考えは変わりませんし。」
だが、その言葉はやはり差し伸べる手を払い除ける言葉だった。
「・・・疲れた、食欲すらほぼ無い。帰ってもやし弁当でも食べて寝よう・・・」
「わ、私も・・・」
「そうですね、急に脂っぽいもの食べたら胃に悪そうですし。」
特殊部隊と言えど余りに不毛な戦いを頭のイカれた狂人と一緒に駆けたとあっては疲労、特に精神疲労が大きいらしく、サキもミユも既に目的物である高級和牛ステーキ弁当などもうどうでもいい物となっている。ミヤコは既にここは用無しと判断し、インコムに向かって声を出す。
「キャンプRabbit、こちらRabbit1。作戦は終了、帰投します。」
『え、戦利品は!?高級和牛弁当は?』
「残念ですが、無かった事になりました。今日はもやし弁当でも食べるとしましょう。」
『えぇー!?折角車両を手配したのに!?』
ミヤコの報告に明らか不満そうな声を出すモエ。ただでさえ武器以外のあらゆる物が不足している中でそこそこな規模の戦闘、そして車両の手配までしたのだ。普通に赤字どころの騒ぎではない。
「うるさい、ダイエットだと思え。それに今ここにイサネの奴も居るから余り強請るとゴミ捨て場の残飯が今日のメニューになる可能性だってあるぞ。」
「聞こえてるんだけど、ねぇ。」
『げ、それは嫌だなぁ。ちぇっ、諦めるかぁ・・・』
高級和牛ステーキ弁当が諦めきれないモエだったが、サキのイサネによる残飯漁りの話を聞く事で渋々ながらも引き下がる。
「イサネさん、先生。それでは失礼します。」
ミヤコが部隊を代表してイサネと先生に一言告げると、2人を引き連れてそそくさと廃墟を立ち去っていく。滅茶苦茶に破壊された廃墟の中で先生とイサネ、そしてデカルトの3人だけが残り、沈黙が流れる。
「ふ、ふふ・・・その欲望に満ちた眼差し・・・やはり所有は人の心を見え無くし、心を凶悪に・・・」
デカルトが静寂を破る様に最早形骸すら残っていない言葉を吐く。
「貴方も大体同じ目だと思うけど・・・」
「正に貴方の事じゃん。欲塗れの不快な眼つき。」
先生とイサネの同義の言葉が重なる。
「なっ!?わ、私はそんなことありませんが!?私はこの澄んだ目で全ての価値を見通す事が出来るのです!その結果――」
先生とイサネの言葉に即座に反応を返すデカルトだったが、イサネは既にそれを見越していたかの様に缶詰を拾い集めて口を開く。
「じゃあここにあるこの缶詰全部貰っていくね。後そっちにある装飾品の類も。」
「はっ?」
「だって無所有を貫くんでしょう?じゃあ嗜好品に当たる高い缶詰とか酒とか要らないよね。大丈夫、私こう見えても酒は飲めるから全部飲んであげるよ。最悪先生に渡せばいいし。装飾品はブラックマーケットに流せば良い金になるしね。もし本当に価値のある物なら慈愛の怪盗だって飛んでくるかもね。」
敗者に拒否権は無いと言わんばかりの余りにも無慈悲なイサネの所業。先生によってRabbit小隊による略奪は避けられたと安心したデカルトの心が敢え無く破壊される。そんなデカルトの様子を察したのかイサネはにやりとあくどい笑みを浮かべ、彼に追い打ちを掛ける。
「そもそもぉ、こういう時に弱者や敗者の命が取られないだけでも慈悲なのよ?それに全部持って行く訳じゃなくて、貴方の生存に最低限必要な分だけは残しておくから。・・・あ、もしかして嫌なんですかぁ?敗者の分際でぇ?無所有を謳う癖にぃ?」
「くうっ・・・!なんて欲に目の眩んだ・・・っ!」
イサネの所業に非を唱えようとするデカルト。だが忘れてはならない。この標根イサネという少女、生まれ育った環境のせいかその後の人生のせいか世界を支配する企業の上層部を前にしても怖気付かない位には神経が図太く、そして図々しい。そしてその思想は完全実力主義に染まった傭兵思想のそれだ。
「そうですけど何か?貰える物は貰うし奪うと決めたら奪い尽くすのが私ですよ?貴方の様な俗物にどう批判されようと知ったこっちゃないですね。この世界は奪う側が第三者に裁かれる事なんて無いんだから。嫌なら力づくでどうぞ?私は敵対者に対して手段なんて選びませんけど。」
「い、イサネ、今回だけは勘弁してあげて・・・買ってあげるから・・・後手段は選んで・・・」
ここでイサネがこれらを持って行くことを見逃してしまったらRabbit小隊に言った事と矛盾してしまう。故に先生はイサネにそれは勘弁してくれと懇願する。
「まぁ殆どが賞味期限切れだからね。持って行っても要らないというのは事実かな。理由も嫌がらせ以外に特にないし。」
先生の言いたい事が理解できたイサネはそう言って手に持った缶詰達を床に置くと、先生の手を取って歩き出す。
「じゃ先生、行こうか。取り敢えず、何処か飲食店行かない?食知識の勉強を最近始めてさ、食べ物の事色々教えて欲しくてー。」
「わわっ、ちょっ、イサネ!挨拶くらいしようよ!あ、デカルトさん、私もこれにて失礼しますね。」
「えぇ?こいついきなり私に催涙スプレー吹き掛けてきたんだよ?挨拶なんてする義理無いと思うんだけど。はぁ、まぁ取り敢えず・・・」
先生がデカルトに別れの挨拶を告げる中、先生に諭されたイサネは渋々ながらも呆然とするデカルトに顔だけ向けると、
「二度目は無い。誰が何と言おうと次は確実に殺す。」
最早挨拶というより殺害予告である。
既にご存じの方も居るかもしれませんが一応捕捉として。
文中にある指切り射撃とはFPS用語であるタップ撃ちを実銃で行う際の名称である「指切り」を指しているのですが、それだけだと文章として少し違和感を感じたので「射撃」と単語を付けました。これのせいで本来の言葉の意味から変わってしまったら作者に変わりフラジール君が腹を切って逆流します。
追記:お酒は二十歳になってから!