透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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どうも、文章が思い付かなすぎて無理矢理書いた結果個人的に微妙に納得のいかない前話が出来上がってしまった一般馬鹿野郎です。最近こういう状態になる事が増えましたほんとかなしい(泣)

rabbit小隊が先生に心開くまでは先生だけでなくイサネさんとの関わり方も色々考えないといけなくて大変ですね。

ストレイドを格納している第二の自宅兼格納庫の内部描写についてですがかなり分かり辛い文章になってしまったので雰囲気で読んでいただけるとコジマが不必要に逆流することは無いかと思います。


天命刻む慈悲無き摂理に抗う

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。お蔭で助かったよ。」

 

 

「感謝ならRabbit小隊にしてよ、本当にあそこに来たのは偶然だったんだから。」

 

 

時刻は午後の3時半過ぎと言った所だろうか。空は未だ深い青を誇りながら、それでもほんの僅かに橙色が見え隠れし始めている。そんなD.U.区の一角にある飲食店の前にて、昼食を終えたイサネと先生が居た。

 

「それでもだよ。偶然だったとはいえ結果として助けて貰った事は事実だから。」

 

「あぁそう?ここで食べ物について色々教えて貰ったりしたから貸し借り無しだとは思うけど・・・先生が言うなら受け取っておく。」

 

先生の言う助けて貰ったと言うのは所確幸の事だ。先生とイサネはRabbit小隊と共に所確幸と交戦した後、2人でD.U.区の飲食店で昼食を取った。現在は昼食兼先生による食べ物や料理に関する簡易授業を終えて店を出て、別れの挨拶を交わしている所である。

 

「そうして貰えると助かるかな。イサネが困った時はいつでも呼んでね。どんな事でもすぐに助けに行くから。」

 

「ある程度は一人で何とか出来るから大丈夫。これまでもそうしてきたし。じゃあ、私は家に帰るよ、今日はもうする事も無いし。コンビニには寄るけど。」

 

先生の教師としての信条を示した言葉に半分半分に返すと、「じゃあまたねー。」と背を向けて歩き出す。

 

 

「またねー!」

 

 

先生の声を背に、イサネはD.U.区の街並みを進んで行く。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

先生と別れたイサネは途中コンビニに寄って先程の飲食店での簡易授業で習った食べ物を色々と物色したり、電車の乗り継ぎが面倒臭くて人前でOBでかっ飛びそうになったり、アビドス市街地を抜けるや否やコジマ粒子を展開してかっ飛んだりしながらもアビドス砂漠の中ほどにあるイサネの第二の自宅にしてストレイド格納庫に到着する。

 

 

「いやぁ~っ、長いッ!長すぎる!アビドスを通る電車の数がほんとに少なすぎる!本当にかつてキヴォトスでトリニティもゲヘナも抑えて一番の規模を誇った学園かよ!?廃れすぎだろッ!」

 

 

何もない砂漠にそびえ立つ巨大な黒い直方体の建築物の前で、アビドスの衰退の惨状を叫ぶ少女。

 

 

――標根イサネである。

 

 

「っと、そんな事言ってる場合じゃなかった。ただでさえ時間押してるから早くシミュレータを起動しないと・・・」

 

そう一人呟き、巨大な黒い直方体――イサネの第二の自宅に入って行く。

 

「えーっと、武器類を置いてる所はっと・・・」

 

まず外と中を区切る頑丈な認証付き自動ドアをくぐると、すぐ目の前にはイサネの半身、ストレイドの前方向に一つ、後方向に二又と合わせて三本の逆向きの鳥の趾を想起させる異形の脚部が見える。中に入ったイサネはそれをスルーし、入ってすぐに見える金属製の折り返し階段を登る。

 

かん、かん、かん、と階段を上る度に踏みしめられた金属の足場が子気味良い音を立てる。そうして階段を登り、踊り場を通って更に階段を登って行くと、一階の床から大体3m程の高さにストレイドの脚部を囲む様に設けられた空中回廊が階段の踊り場に繋がっている。

 

迷うことなく空中回路を進んで行き、その先にある扉を開けて中に入る。部屋の中は金属製の長机とキャスター付きの椅子が置いてあるだけのシンプルな家具の配置でありながら、その壁一面に壁掛け式と立て掛け式のガンラックが敷かれており、そこに種類問わず様々な銃火器が掛けられている。そして床には弾薬箱と思しき箱が綺麗に整頓されて置いてあり、その様からこの部屋が武器庫である事が容易に伺える。

 

「んー、結構使わない武器が溜まってきたね。どっかのガンショップにでも流そうかな。あっちの奴とか数か月前の依頼で撃った切り使って無いな・・・?」

 

部屋に入るや否やイサネは肩に掛けたマガジン式のショットガンからシェルの入ったマガジンを引き抜き、長机に置く。そしてショットガンのコッキングレバーを引き、装填されていた一発を弾倉内より弾き出すと、完全に空になったショットガンを立て掛け式のガンラックに立てかけて部屋を出る。

 

「今は・・・4時か。ならまだ夜ご飯まで時間あるね。」

 

スマホより時刻を確認し、階段に戻って再び登って行く行くイサネ。今度は床から10m前後の高さにある空中回廊に辿り着き、そこを進んで行く。ストレイドは丁度頭部が正面に見える高さだ。コンビニで買った商品を入れたビニール袋を手にその回廊を進んで行き、ストレイドを正面に見える位置まで歩いて行くとそこにはコックピット、もしくは胸部装甲に飛び移る為の足場が設置されている。イサネは「よっと。」と軽い掛け声と共にその足場からストレイドのコックピットに入る。

 

「さてさて、ユウカ曰くこういうのが人間らしい食事だが・・・何これ。レンジ加熱目安?レンジって何?コンロとかまな板は知ってるけどレンジって何の器具だ・・・?まぁ後でちゃんと確認すればいいや。」

 

ストレイドのコックピットの中、見た事ないラベルの表記に疑問符を浮かべながらもビニール袋を手近のダッシュボードに置き、ストレイド起動させる。

 

 

『メインシステム、通常モードに移行します。』

 

 

ここに来るまで飽きる程聞いた女性タイプのCOM音声。そして体に響く重低音と共にストレイドに火が入り、正面のモニターが点灯。機体のOSが立ち上がっていく。一通りの起動を確認したイサネはコックピットシートに背を預け、灰銀色の長髪を手で払いながらうなじにあるAMS差込口を露出させる。

 

「AMS接続・・・接続状態良好。」

 

かちりと差込口に機体側のAMSプラグが接続される。と同時にストレイドのセンサー情報が脳内に接続され、ほんの僅かな違和感と強烈な全能感がイサネの全身を駆け巡る。少しの間その感覚に浸っていたイサネだったが、すぐに機体の駆動系にロックを掛ける。これはAMSを繋いだままの時に不意の思考の変化などで機体が動かない様にする為の物だ。

 

操縦者の思考や神経信号によって操縦桿を介さずとも機体が動くというネクストACの操作特性上、リンクスの反射による咄嗟の動きですらネクストは反映してしまう事がある。これらの事例は高AMS適正かつリンクスとしての基礎が身に付いていない者に起こる事が多く、パイロットに強烈な負荷を強いるAMS接続の特性も相まってネクストの開発段階の時代ではAMS周りに異常が発生するだけで機体が暴走する事がそこそこあったのだと言う。勿論イサネとて例外ではなく、まだリンクスとしてカラードに登録される前、セレンとのシミュレーションではよく暴走していた。

 

とは言えそれは過去の話でしかなく、今のイサネにとって人の本能から来る反射行動を抑え込む事などそう難しい事ではない。

 

 

「えーっとまずはオーダーマッチにしよう。初戦の相手は誰が良いかな・・・?」

 

 

AMSを通じて信号を送る事でシミュレーションの設定を行い、準備を整えたイサネは仮想世界の闘争に身を投じ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――投じたのは良いのだが、

 

 

 

「ははっ、若干想定は出来ていたけどやっぱりそうだったか。所詮シミュレータじゃそうだよね・・・ましてやカラードのネットワークに繋がってる訳でもないし。」

 

 

悲しさの感情の籠った乾いた笑いがストレイドのコックピットに虚しく反響する。AMSを通じて視界に映るUIに表示されるデジタル時計は《am 1:17》と、既に深夜帯の時刻に突入している事を示している。そして荒廃した砂漠を映し出す視界の中央には《Match Finish -Win-》の文字。

 

「オッツダルヴァぁ・・・貴方そんなに中遠距離の射撃戦に固執する戦い方しないでしょう?カーパルスで戦った時もっと近接での撃ち合いとかしたじゃない。ホワイトグリントに至っては射撃精度の高いただのランク上位勢だよこんなの・・・!」

 

イサネが嘆く原因はモニターに移るシミュレータにあった。

 

「ホワイトグリントは単純に情報が少ない、ステイシスは近接戦の情報が出回ってない。まぁここまでは分かるけどレイテルパラッシュとかアンビエントとかも実戦の動きとシミュレータの動きが違くない?緩急が単純すぎるんだけど。ワンダフルボディだってもうちょっとイレギュラーな動きしたぞ。」

 

そう、イサネが嘆く原因はシミュレータで再現されたリンクス達の動きが実戦との記憶と比べて余りにも弱く、そして遅いのだ。勿論ある程度の弱体化は想定してい無かった訳では無い。特に上位勢になれば動きや行動原理の再現が困難になる事くらい織り込み済みだったのだが、まさか次元が違うレベルで現実と乖離があるというのは流石のイサネも想定外だった。

 

「おかしいなぁ、カラード属の時にやったシミュレータってもっと強かったと思うんだけど、こんなに違うことあるぅ?はぁ・・・AF(アームズフォート)くらいだ、実戦とシミュレータの一致率が高いのは。けどAFなんてシミュレータにあるのはもうやり飽きたし。アンサラー出せアンサラー。」

 

天才対天才になる対ネクスト戦が駄目なら実戦の動きを模倣しやすいAFならと相手を変えたのだが、量産型兵器であるAFなど実戦で飽きる程戦ってきた為に最早ただの作業にしかならず面白くもなんともない。一応アンサラーという恐らくオーメルと何処かが共同開発したと思われる浮遊型AFはかなり印象に残っている。高濃度コジマ粒子を広範囲にばら撒く事でネクストのPAを無力化、更に無数のコジマミサイルにネクスト出力すら上回るレーザーキャノン。極めつけは圧倒的範囲と威力のAA(アサルトアーマー)と、他AFとは一線を画す程の強さであり、これこそが企業連の答えなのだと理解させられるものだった。・・・周囲の外装を壊しただけでバランスを崩したのには流石に驚いたが。

 

が、残念なことにアンサラーはイサネがカラード、ORCA離反後に戦場に登場した存在である為にシミュレータには存在しない。

 

「今は・・・1時過ぎか。戦闘記録をシミュレータに落とし込むのは数日単位で時間掛かるし・・・何より眠いや、寝よ。」

 

シミュレータの精度の余りの酷さにすっかりやる気が失せてしまったイサネはシミュレータを閉じてAMS接続を解除、シートにだらしなく背を預ける。

 

「明日・・・あぁ、12時跨いでるから今日か。えー、一日の天気は・・・晴れ、雨の降る確率は低い・・・と・・・なら散歩でもしようか・・・?する事・・・無いし・・・」

 

おもむろに取り出したスマホを弄る傍ら、体の奥底からやってくる眠気に身を任せる。一通りスマホを弄り終えると途切れ途切れの言葉を発しながらスマホをダッシュボードに放り、目を閉じて意識を暗闇へと沈めていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『うわぁ、凄い雨ですね・・・』

 

 

机の上に置いたタブレット――シッテムの箱から、まるで機械越しとは思えない程ノイズの無い声が聞こえてくる。書類を整理していた手を止め、そちらに視線を向ける。

 

『それぞれの自治区で、被害が出ていないのですが・・・各学園の生徒会や、委員会の皆さんに任せれば大丈夫でしょうか。』

 

「・・・アロナ。」

 

アロナ。シャーレの執務室に一人デスクに向かう一人の女性――先生のみが起動できるオーパーツ、シッテムの箱のメインOSにして先生にしか視認出来ない青い制服を着た少女。先生はこのシッテムの箱、ひいてはアロナの持つ力に幾度となく助られてきた。一発の銃弾が致命傷になるキヴォトスで身を守る為の不可視のバリアに最新技術を上回る程のハッキング能力など、挙げればキリがない。

 

「今日の天気予報は晴れだってなってたんだけどなぁ。」

 

先生はふと窓の方に視線を寄越す。窓から見える景色は普段の透き通った青い空ではなく、黒寄りの灰色の雲が空全体を覆い、午前中なのにも関わらずキヴォトスに薄暗闇を落としている。そして何よりは今もこうして鼓膜を叩く豪雨の音だ。この勢いだと最早傘ですら役目を果たす事は出来ないだろう。今日この日に外出の用事がある人にはご愁傷様と言う事しか出来ない。

 

そして時折地の底に響くような轟音と共に空が白く光る。そう、落雷だ。まぁこれほどの雨とあの雲の量と色だ、雷が鳴るのも納得できる。

 

「いやぁ、洗濯物の処理後回しにして良かった~。ほんとは良くないんだけど、今日くらいは大丈夫だよね。」

 

『余りずぼらな生活ばかりしてるとまたユウカさんに怒られちゃうと思うんですけど・・・』

 

豪雨の降り注ぐD.U.区の街並みを眺めながら、先生は自宅に放置したままの洗濯物を思い返す。そんな先生の様子にアロナは微妙な表情をする事しか出来ない。シャーレの先生の業務量が尋常ではない事は生徒の間でも有名な話であり、それ故にユウカを筆頭とした生徒達からは仕事ばかりにかまけてないで時には家の事や休息などをする時間もしっかり取って欲しいとかなり口酸っぱく言われている。

 

「そう言われてもこの量の書類をすぐに処理し切るのは無理だよー、せめてあと一人か二人いないと・・・」

 

『でも今日は凄い豪雨だからって当番の人に連絡入れちゃったじゃないですか。一応正しい判断だとは思うんですが・・・』

 

「うぅ・・・」

 

天候によって当番の生徒が来れなくなる事はあれど連邦生徒会から回されてくる仕事が天候で減る事は無い。若干気落ちしながらも先生は止まっていた書類の整頓整理を再開する。

 

 

『あっ、そう言えば、子ウサギ公園にいるSRTの生徒さん達は大丈夫でしょうか・・・この大雨ではきっとテントも・・・』

 

 

「あっ。」

 

 

アロナの発言に再び手が止まる。確かにそうだ、現在子ウサギ公園で野営しているRabbit小隊の4人は大丈夫なのだろうか。いくら町の中と言えどこの豪雨の中ではいくらでも危険要素になりうる。その最たるものとしては低体温症による凍死が挙げられる。凍死こそせずとも低体温症による免疫の低下によって他のウィルス性の病気や風邪を引き起こす事だって在り得る。もしそうなってしまえば一応まだデモ中という事で口座が凍結されている彼女達には病院の受診・治療代は支払えない。

 

――そして何より、彼女たちにこんな所で折れて欲しくない。

 

「そうだった、急がないと・・・!合羽は何処・・・!?」

 

先生は手に持っていた書類の束をデスクに置き、席を立つ。普段から着用しているシャーレのロゴの刻まれたコートを着、執務室にある上着などを仕舞っている棚を片っ端から開けて合羽を探す。

 

「ここも違う・・・あった!」

 

引き出しから合羽を引きずり出すと、大急ぎでそれを着る。シッテムの箱をコートの内側に作られた少し大型の内ポケットに入れると、執務室を飛び出す。廊下を駆け抜け、エレベーターのあるエントランスに到着。エレベーターのボタンを押すと、幸いにも扉はすぐに開いた。

 

「アロナ、イサネに繋いで。」

 

『イサネさんですね!分かりました!』

 

(イサネには申し訳ないけど、多分私一人じゃRabbit小隊の皆の助けにはなれない・・・っ!そして今のRabbit小隊の皆とある程度面識があって学園のあれこれに囚われないで自由に動けるのは現状イサネしか居ない。二度も借りを作る事になって申し訳ないけど、私に力を貸して・・・!)

 

アロナにイサネとの電話を繋ぐ様要請しながらも、先生はエレベーターに乗り込む。1階のボタンを押し、扉を閉じるボタンもほぼ同時に押す。

 

『下へ参ります。』というアナウンスと共にゆっくりと動き出すエレベーターの速度がこの時ばかりは憎い。

 

『イサネさんイサネさん・・・えーと、え?接続可能端末が2つ?一つはスマホの様ですけど・・・もう一つは何でしょうか?』

 

「スマホに繋いで!」

 

アロナが何やら少々気になる事を言っていたが、生徒自身のプライベートの可能性がある以上詮索すべき問題ではないしそんな事をしている時間も無い。アロナの『あ、イサネさん応答しました。繋ぎます。』という声を聞きながら1階に到着したエレベーターから飛び出す。

 

 

ふぁいもひもし(はいもしもし)いふぁねです(イサネです)ふーふ、ふぇんふぇい?(えーと、先生?)

 

 

「急にごめんね?二度も申し訳ないんだけど、ちょっと手を借りたくて・・・」

 

 

明らかに食事中かつ眠そうな声が懐から取り出したシッテムの箱から聞こえてくる。

 

「えっと、とりあえず要件から――」

 

先生は寝起きかつ食事中の生徒にこんなことを言うのは本当に申し訳ないと心を痛めながらも事の経緯と要件を手短に伝えつつ、倉庫からシャベルを二つ取り出し、外へ出る。

 

『んぐんぐ、んぅ・・・成程ね、今外雨降ってるんだ。道理で周囲の気温が普段より低い訳だ。』

 

「え?建物越しでも雨の音は聞こえると思うんだけど。」

 

『今いる所ほぼ外の音通さないくらいの防音性能だから。まぁでも分かったよ、子ウサギ公園ね?すぐ向かう。』

 

「ほんとにごめんね!後で何かお礼するから!」

 

『はいはい。期待しないで待ってる。』

 

イサネのその声を最後に通話が切られる。先生は改めてアロナにも礼を言い、シッテムの箱を上手い事コートの内ポケットに仕舞うと、滝の様な雨の中を一人走っていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ここはD.U.区のとある駅のホーム。先生より要請を受けたイサネはもそもそと食べていたコンビニ商品を幼少期に培った早食いスキルを活かして口に放り込み、最低限の身支度と必要になるであろう物資をボストンバッグに詰め込んで自宅を出、ここまで電車を乗り継いできた。

 

 

「うわっ、凄い降ってる。」

 

 

電車を降りて出た一言はそれだった。雨と言うよりは最早大量の水が空から落ちてきていると表現した方が合っているだろう。幸い駅のホームには金属製の屋根が付いている為にまだ濡れることは無いが、恐らくこれからやる事はこの豪雨の中での土掘りだ。何の対策も無しでは全身がふやける程の雨粒に打たれる事になるのは想像に難くない。

 

「・・・合羽なんて持ってないや。と言うか雨粒って非固体だからPA張れば弾けるでしょ、PAは高速で飛翔する銃弾とか弾く訳だし。・・・減衰はするだろうけど。」

 

この豪雨の中、合羽はおろか傘すら持たない猛者、標根イサネはここキヴォトスに来てから何故か使えるようになったコジマ粒子の操作、生成できる能力によってネクストの標準装備であるPA(プライマルアーマー)を人サイズで再現。この凄まじい豪雨の中を合羽も傘も無しに進んで行く。

 

実際、PAの原理である慣性抑止フィールドは液体である雨粒には効果があった様で、豪雨と言うPAの減衰が発生する悪天候下の為にある程度の出力を維持する必要こそあれどイサネの張った半透明の翠緑球は確かに彼女を叩きつけようとしていた雨粒を表面で弾いていた。

 

「さてさて、子ウサギ公園はどうなっているかな・・・?」

 

人生で初めて体験した凄まじい豪雨を前に、若干の興奮を感じながらもイサネは駅の改札を抜け、子ウサギ公園目指して走り出す。

 

「こういう日は外出そのものを嫌ってか車通りも少なくていいねッ!」

 

風を切り、時に車の通らない車道のど真ん中を駆け、時に跳躍して建物の間を蹴り上がったりと、PAから脱落したコジマ粒子を翠緑の燐光としてほんの僅かに輝かせながら殆ど人の居ないD.U.区を疾走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イサネが子ウサギ公園に到着した時、公園が水没していると言っても過言ではない有様だった。公園の入り口から見える地面はほぼ浸水しており、最早水溜まりというよりは小規模の池である。そして公園内に敷設されているSRTのロゴの刻まれたテント群はその幾つかが無残にも倒壊しており、中が確実に水浸しになっているであろう事は容易に推察出来た。

 

「はは、雨って降り過ぎるとこんなになるんだ。私の居た地上は砂漠化が進み過ぎて雨なんて殆ど降らなかったからなぁ、降ったとしても強酸性雨だし。」

 

公園の外から見える既に滅茶苦茶な状態の野営地を確認したイサネは足を止める事無く公園の入り口を抜けて歩いて行く。

 

 

「取り敢えずっ・・・ここならまだ柱が生きてるから、モエ!電子機器はここに・・・っ!」

 

 

「先生、ここを終えたら次は反対側です。」

 

 

公園内を進んで行くとここ最近で聞き慣れるようになった声が聞こえてくる。会話の内容的にどうやら既に先生はそこに居るらしい。イサネは小走りで声の方向へ向かうと、そこには土砂降りの雨の中雨具も着ないで排水作業を行うRabbit小隊の4人と雨具を着て必死にシャベルを振るう先生の姿があった。

 

「先生ぇー!」

 

イサネは豪雨による凄まじい雨音すら貫通する程の声量で先生に呼びかける。土木作業中に突如聞こえてきた大声に先生含めた一同はほぼ同時にイサネの方を向く。

 

「あっ、イサネ。来てくれたんだね。」

 

「貴方が呼んだんでしょうが、寝起きに電話を掛けてきて。」

 

「イサネさん?何故ここに・・・?」

 

「私が呼んだんだ。この状況で私に出来る事は多くないからね。」

 

「先生ならまだしも・・・理解できません。」

 

こんな豪雨の中、それも二度も敵として相対したイサネが何故助けに来てくれたのか理解出来ないと困惑を露わにするミヤコ。それに対しイサネは、

 

「あのね、貴方達がそんな事を考える必要があると思う?貴方達にとって重要なのは自分達の今の居場所が雨に潰されない様にする事であって何故ただの顔見知りが助けに来てくれたのかを詮索する事じゃないでしょう?」

 

とミヤコの困惑をにべもなく斬り捨て、肩に掛けたボストンバッグを雨を遮れそうな茂みに設置されたテントの近くに置いて近くにあったシャベルを肩に担ぐ。

 

「ほら、何処をやればいい?私シャベルの上手い使い方は知らないけど腕力ならそれなりに自信あるよ。」

 

「色々言いたい事が無いでもないが・・・この際贅沢は言えない、ありがたく手を借りよう。じゃあ、まずはこの辺にあるテントの中にある物を向こうのテントに移してくれ。」

 

「あいさー。」

 

意地っ張りで頑固、頭が固いとイサネに評されたサキだが、既に先生の力を借りてしまった事でこれまでの「助けは要らない」という信念が崩れたのか、開き直りにも近い考えで彼女の膂力に対するツッコミと共に指示を出す。イサネもまたサキの指示に従い目の前のテントに入り、中から大量の荷物を持って運び始める。

 

「・・・私達も作業を再開しましょう。豪雨は暫く続くでしょうし、対処が遅れるとそれこそ本当に・・・」

 

ミヤコの音頭により、手の止まっていたモエとミユも作業を再開する。

 

 

 

こうして排水作業や被害を被ったテント群の修復や物資の避難を行う事数時間。

 

「くぅ!また崩れてきました、さっき補強したばかりだというのに・・・っ!」

 

「なら中身を茂みの方へ運ぶ!そしたらそのテントはばらして補強材にすればいい!」

 

折角建て直したテントが崩壊したり、

 

「うわ、もうここまで浸水してる!雨が凌げても浸水したら意味が・・・」

 

「こっちだ!こっちなら浸水の影響を受けないし雨風もある程度なら凌げる!」

 

「い、今排水溝を何とか・・・」

 

最早威力を持ち始めた雨風の他にも浸水にも苦しめられたりしながらも排水作業は進んでいき、

 

 

 

そして――

 

 

 

 

 

「ここで・・・最後ッ!」

 

 

既に日の落ち切った夜空の下、ミヤコの気力を振り絞った声と共にテントを固定するペグが湿り切った地面から引き抜かれる。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・雨、漸く止みましたね。」

 

 

ペグに付いた泥を払いながら、おもむろに夜空を見上げたミヤコがぽつりと零す。近くでそれを聞いていたイサネもつられる様に昼間の黒雲の消え去った夜空を見上げる。ミヤコの言う通り、何をするにしても一同を苦しめ続けていた驚異的な豪雨はいつの間にか綺麗さっぱり止んでいた。

 

「皆、お疲れ様。イサネもこんな遅くまでありがとう。」

 

先生が疲労で軽口を叩く余裕もないサキやモエ、へろへろの状態で水がある程度抜けて固まった地面に座り込むミユ、そして空を見上げるミヤコとイサネに声を掛ける。声を掛けられたミヤコは先生の方を向き直すも、その声に応えなかった。そして暫くの間の後、静かに口を開く。

 

 

「・・・どうして・・・どうして私達を助けるんですか?」

 

 

それは紛れもない疑問であり、また自身の内側に秘めた思いを打ち明ける様でもあった。

 

「何度も、何度も言った筈です。何も変わらないと。」

 

これまで先生と関わる度に必ずと言って良い程口にしてきた。助けは不要、先生が何を言っても私達の意志は変わらない、と。

 

「先生が私達に何を望んでいるのか、私には全く分かりません。」

 

それでも先生は顔色一つ変えず、機嫌一つ損ねる事無くミヤコ達に接し続けた。

 

「私は何かを望んでいる訳じゃないよ。」

 

ミヤコの問いに対し、先生は真摯な声で返す。

 

 

「私は・・・先生だから。」

 

 

先生だから。その一言にはシャーレの先生として、生徒達子供達の為に責任を負う大人としての確固たる意志と信念が感じ取れた。

 

「・・・そうですか。」

 

ミヤコも先生の答えから何かを感じたのか、これ以上の問答は続かなかった。すると、

 

「ミヤコにも色々言いたい事があるけど・・・」

 

後ろからサキの小さな呟きと3人分の足音が聞こえてくる。そう、サキ、モエ、ミユの3人だ。その内のサキは振り返った先生に問いを投げかける。

 

「先生は、この公園での生活をやめて欲しいんじゃなかったのか?」

 

ミヤコの問いと同類の質問。それもそうだろう。何故なら先生はSRT学園の閉鎖に反対してデモを行っていたRabbit小隊に対してヴァルキューレ側に付き、そして捕縛したのだ。サキやミヤコだけじゃなくRabbit小隊一同がそう思うのだって当然だろう。

 

「何の得にもならないのに・・・筋金入りの馬鹿だな。」

 

「ま、馬鹿なのは最初から知ってたけどね、くひひ・・・」

 

呆れた様に吐き捨てるサキと面白がる様に言葉を放つモエ。先生を貶している事には変わらないが、それでも最初に相対した時と比べてその口調はとても穏やかなものだった。そして初対面時はその軽口に何も言わなかったミユも

 

「も、モエちゃん、折角助けて貰ったのに・・・」

 

とかなり先生寄りの発言だ。そして、ミヤコの横で話をただ聞くだけだったイサネが軽い笑いと共に口を開く。

 

「・・・っはははっ、馬鹿馬鹿って、先生が生徒の為なら命も投げ出せる馬鹿なのは同意だけど、現実が見えてる筈なのにそうやって諦めない辺り君達は鉄筋入りの馬鹿でしょう?」

 

「そ、それは・・・」

 

豪雨を前に一度心折れたサキは今度こそ反論できない。

 

「まぁ分からんでもないよ、その気持ちは。私も少しだけ似たような経験あるし。」

 

そう話すイサネの脳裏に浮かぶのはかつて自分の生まれ育ち、そして滅ぼそうとしたあの世界に残してきた母親兼師匠(セレン)友人(リリウム)。片やゴミ溜めの中から拾い上げられ、戦場で生き抜く術や戦う術の全てを教え込まれた自らが母として慕う存在。片や戦場で戦う中で出会い、そして心通わせた存在。

 

様々なリンクスと交流のあったカラード。目まぐるしく変わる情勢の中でその二人は、どちらもイサネの中でとても特別で大切な存在になっていた。しかし――

 

カラードの離脱(ORCAへの合流)、そして人類の駆逐に辿り着いた自らの答え。

 

結果としてそのどちらとも袂を別つ事となり、虐殺の末にどちらにも銃口を向け、そして二人の前から居なくなってしまった。

 

 

――それぞれの心に秘めた想いの全てを知らないまま。

 

 

「その結果君らと同じ様な後悔をした訳なんだけど。何ならそこから更に止まらなかった訳なんだけど。君ら以上に最悪な状況に置かれてる状態でしかも一般的に見たら最悪な方向に。」

 

「止まらなかったのかよ!?しかも最悪な方向って・・・!?」

 

驚愕とツッコミを器用にこなすサキを見ながらイサネは話の補填を行う。

 

「止まらなかったのにはまた別でとても大事な理由があるんだけど・・・今の貴方達が知って良い話じゃないからまぁ詮索しないで。」

 

「えー?お預けー?」

 

「いやまぁ聞いたあと比喩無しに私に殺されたいなら話してあげても良いかもしれなくも無いけど。それに今の状況で話したら持ち直したメンタルが悪くなるくらいには胸糞悪い話だし。」

 

「なんだそりゃ、とんでもないな。」

 

ついでに人類種の天敵の話に食い付いたモエを引き剥がしながら話を締めくくる。イサネとの話で何やら盛り上がっているサキとモエを横目に、ミヤコは先生に向かって口を開く。

 

 

「・・・助けは要らないと言い続けてきましたが、助けられてしまったのは事実ですね。」

 

 

言い訳の様にそこまで言うと、少し躊躇う様に言葉を切り、そして言葉を紡ぐ。

 

 

 

「・・・ありがとうございます、先生。」

 

 

 

これまで口にする事の無かった、感謝の言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば君ら豪雨で困ってるだろうって事で少しだけだけど色々持ってきてたの忘れてた。」

 

 

「はぁッ!?お、お前っ、何でそれを今更言うんだよ!!もう野営地の補修終わってんだぞ!」

 

 

「だってすぐ作業に入っちゃったしあの中身広げるところなかったし・・・普段の態度から要らないって言いそうだし・・・」

 

 

「ま、まだいざという時の為に備える事は出来るから・・・」

 

 

「そうだそうだー!もう少しミユの心の広さを見習えー!」

 

 

「お前がそれを言うなぁッ!!」

 

 

 

翌日、合羽を着ていた為か先生は風邪こそ引かなかったもののやはり豪雨の中長時間活動したせいで体調を崩し、今日の振り替え当番である早瀬ユウカ(おかん)にこっぴどくくしぼられたが、さしたる問題ではない。

 

 

 





AMS周りに関する云々は完全にオリジナルです。まぁ神経接続して操縦するならこういう事故もあるだろうし開発段階なら猶更だろうなぁーと思ったので。
そう考えると死に際はともかくとして被弾の際に変に機体を動かさないリンクス達ってやばすぎるのでは?

PAが雨粒を弾けるがどうかは知りません。銃弾とか弾ける設定なら弾けるっしょ!の精神で書いていますので。確かに悪天候という環境だと減衰弱体するPAですが戦車砲機関砲を弾けるなら雨粒くらい弾けると思うんですよ。

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