モチベが上がらないって辛いですよね?悲しいですよね?
もうこうなったらコジマにコーラルを混ぜるしか生き残る手段はねぇッ!(崩壊)
前回、ついに先生に心開いたrabbit小隊ですが、この後イサネの動向も含めてどう物語が進んで行くのでしょうか。
記録的豪雨によってキヴォトス全体が水浸しになり、先生、そしてRabbit小隊の隊員達と共に浸水している子ウサギ公園を水没の危機から救い出したその翌々日。
「あははっ!あの後結局体調崩したのかよ!合羽の意味無いじゃん!あっははははははは!」
「でも合羽が無かったらもっと酷くなってたかもしれないから、一概にそうとも言えないよ。まぁでも当番に来てくれた子に普段からの生活リズムにも問題が~って怒られちゃったのは変わりないけどね・・・」
「あ、分かった。ユウカでしょそれ。」
「凄い!よく分かったね?」
D.U.区外郭、シャーレ付近にて、体調の回復した先生と豪雨の中雨具も無しに活動したにも関わらず普段通り元気一杯のイサネがまだ水溜りの残る大通りの歩道を歩きながら駄弁っていた。
「そう言えばイサネは一昨日の豪雨の時に合羽とかの雨具着てなかったよね?大丈夫だった?」
「あぁそれ?私別に濡れてないから大丈夫。」
「濡れてない?あの雨の中じゃ合羽ありきでもそれはだいぶ難しいと思うけど・・・」
雑談の途中に湧いた先生の疑問にイサネは実例という形で答える。「知ってる人は知ってるけど、一応口外はしないでね。」と先生に釘を刺しながら意識を軽く集中させ、自分の身体のサイズに沿う様にコジマ粒子を還流させる。するとイサネの体の周囲に意識してみないと見えない程の非常に薄い膜が形成される。
そう、ネクストをネクストたらしめる要素の内の一つにしてあらゆる攻撃を叩き落す不可視の鎧にしてネクストACの第一の盾、プライマルアーマーだ。
「それって・・・シラトリ区の時とかこないだのアリスとネルの決闘に乱入した時に使ったあの光と同じ・・・」
「ご名答~♪こいつはね、接触した銃弾とかの飛翔体の速度を殺す力場を球状に生成する・・・ま、言わば盾だね。本物程の性能は無いと思うけど、通常出力でアサルトライフルの銃弾や狙撃銃くらいなら受け止めるだけの防弾性は持ってるよ。一応悪天候下とかだと減衰が発生するという弱点はあるけど、雨粒だって下に落下する飛翔体でしょう?」
イサネの口から聞かされた説明に思わず目を見開く先生。
(銃弾を弾くバリア・・・完全銃社会であるキヴォトスでは正にチートや無法とも取れる能力・・・!生徒の中にはコユキの直感でパスワードを解くみたいな特殊な能力を持つ生徒が居るけど、イサネのこれは正に・・・っ!?)
キヴォトスに来る前からゲームやアニメなど俗に言うオタク趣味に女性ながらも良く手を出していた先生にとって、SFというジャンルに登場するバリアや超兵器、人型の巨大ロボット等は正に憧れの的であった。そしてそれは――
「かっこいい・・・つ!」
――イサネのPAとて例外ではなかった。
「格好良い?ど、どういう事?こんなPAありきの機体性能の何処が・・・?じゃなくて今は生身だから・・・」
一方のイサネは驚愕に目を見開いたと思ったら突如瞳を輝かせる先生に困惑を隠せないでいた。確かに文面だけを見れば強力無比な力に思えるだろう。しかし、実際の所ネクストの張るPAが完全に防ぎ切れる兵器はただの機関砲や戦車砲、ノーマルACの攻撃が限度であり、同じくネクストやAFの持つ兵器は減衰こそすれどPAを貫通してしまう。更に
そして何より、PAを展開するという事は周囲に重大な汚染をもたらすコジマ粒子を垂れ流し続ける事になる。ストレイド、ひいてはネクストに深い愛着のあるイサネとしては人類の虐殺を選ぶ程確執した青き空がネクストのばら撒くコジマ粒子によって汚れていくのは中々に苦しい思いがある。
ノーマルACでは傷一つ付かないPAに一瞬で全てを破壊する大火力。ネクストの黎明期――国家解体戦争では完璧に思われたネクストだったが、リンクス戦争、そしてイサネの駆けた第二次企業間戦争とでも言うべき戦いを経てそれは「コジマ技術と一個人に全てを頼った欠陥超兵器」という位置付けに落ち着いた。
「凄いよ!SFで見たあらゆる攻撃を防ぐエネルギーフィールドもといバリアを実際に見る事が出来るなんて!」
「いやでも先生は既に何度か見てるでしょ。それこそシラトリ区の作戦の時とか――」
「ここまで透明だと流石に見えないよ、時折緑色に発光するくらいまでしか。だからこそ今こうしてゆっくり見れる内に見ておかないと――」
やたら興奮して詰め寄ってくる先生に呆気にとられる事しか出来ないイサネ。この時の先生の性別が女性だった事は彼女にとって与り知らぬ幸運だった。何せイサネはその顔立ちやスタイル故にキヴォトスに流れ着く前の世界で極一部の性犯罪者正規軍から狙われる事が多々あった。そして同時にその手の輩の魔の手の悉くを冷静に、そして慈悲無く握り潰してきた。
「でも先生、これから連邦生徒会に用があるんじゃないの?」
が、今回は相手も女性であり、かつ興味の対象は自分の身体ではなくキヴォトスに流れ着いて何故か生身で使えるようになったネクスト技術だ。更にその相手は現状キヴォトスで最も重要な存在でもあるシャーレの先生であり、物理的手段による解決は使えない。だからこそイサネは最終手段のカードを切る。
「うっ、そうだった・・・」
「早く行かないとリンちゃんに怒られちゃうんじゃない?」
イサネの返しに思わず言葉を詰まらせる先生。
「PAについては後々ちゃんと話すから、今はまだちょっと待って。」
正直可能なら誰にも話したくないのだが、もうちょくちょくコジマ粒子によるネクストの機能再現を披露してしまっている以上いずれは話さねばならない時が来るだろう。イサネは先生に「私こっちに用があるから、またね。」と言い、先生と別れる。
こうして先生と別れ、向かった先はイサネの二つ名である【万物の天敵】発祥の地ブラックマーケット。そこの一角に居と店を構えるブラックマーケットでは外見から何まで一般的な武器屋。店の前に着いたイサネは何の躊躇いもなくその店の扉を開ける。
「こんにちはー。」
「おう、一週間ぶりだな。イサネの嬢ちゃん。」
店に入ったイサネはずらりと並んだ武器達が置いてある商品棚を一瞥もせず抜け、カウンターでノートパソコンを叩いている店主と挨拶を交わすと、世間話の一つも無しに本題に入る。
「えっとさぁ、あの、サイレンサーとサプレッサーって何が置いてある?」
「サイレンサーとサプレッサーぁ?そんなもん置いてあったか・・・?」
イサネの注文に対し、ノートパソコンを叩きながら頭を捻る店長。しかしその顔つきは中々に渋く、イサネの希望に沿う事が出来ない事を言外に示していた。
「うちを利用する客で銃声を気にする奴なんてあんたが初めてだよ・・・うーん、ねぇなぁ。そもそもブラックマーケット内じゃ銃声を気にする奴の方が珍しいからなぁ。」
「だよねー・・・じゃあどうしようかなぁ。万が一の発砲は控えた方が良いのかなぁ。」
「ん?そんなに銃声を気にするって事はどっかに忍び込んだりする依頼でもあるのかい?」
「いや、傭兵業は休業中。ちょっと個人的な思惑でね。」
店主はイサネと話しながらでもノートパソコンを叩く手を止めず、イサネもまたふらふらと時間帯故に誰も居ない店内をふらつき、棚に陳列されている銃火器を物色している。
「個人的、ねぇ。因みに何処へ潜るかは聞いても?」
「ここ最近で閉鎖が決まったらしいSRT学園の校舎。」
「へぇ、SRTねぇ・・・SRT!?」
キーボードを叩く店主の手が止まり、顔を上げてイサネを見やる。一方のイサネは「ちょっとうるさい、叫ばないで。」と煩わしそうにジト目で店主を睨む。
「え、嬢ちゃん、SRTってあのSRTか!?失踪した連邦生徒会長直属の!」
「それ以外に何処があるっていうの?」
あっけからんと質問に答えるイサネに店主は目を剥き大口を開けて硬直する。そして深い溜息と共にどっかりと椅子に座り直す。
「イサネちゃんや、本気であそこに潜入するつもりなのかい?」
「それを言うなら貴方だって本来SRTに渡されるはずの新型ミサイル3発をかっぱらってきたじゃない。今更何をそんなに慌てる必要があって?」
「いやいや!あれは偶々ブラックマーケットの流通ルートに買い手無しで転がってたから拾い上げただけであってSRTから直接盗ってきた訳じゃねぇよ!」
新型ミサイルというのはイサネがアビドスによるホシノ奪還作戦においてシロコの為に正にこの武器屋でロケットランチャーと共に買い付けた物だ。因みに買ったのはイサネだが使用者はシロコの為、作戦後ここを訪れ店主に「どうだった?」と聞かれた時は「あれ私が使うために買った訳じゃないから分からない。」と答えてそりゃねぇよとひと悶着起きかけたという余談もある。
「どうせ封鎖されて中に誰も居ないだろうし、というか不良の一人や二人宝探しの感覚で侵入してるでしょ。昨日下見した感じ警備が居なかったし、どうにでもなるでしょ。」
「おいまじかよ・・・かの万物の天敵様が盗人の真似事って、世も末だな・・・」
「影も残さず消されたいならはっきりとそう言えって。お望み通り塵一つ残さないから。」
店長の冗談にコジマ粒子を辺りに漂わせながら拳を握る事で応えを返すイサネ。直後に店内はおろか店の外にまでその濃厚かつ純粋な死の気配が辺りの空気を支配する。それに対し店主は殺気に怯えながらも「冗談だって。」と慣れた様子でイサネに返す。
「そもそも私だってガキの頃は盗みの一つや二つくらいした事・・・ないな。そう言えば。」
「無いのかよ・・・」
「だって盗みなんてして捕まったらどこか連れて行かれて――いや何でもない。」
会話の流れでうっかり人が聞いたらドン引く自らの過去を口走りそうになり、咄嗟に口を紡ぐイサネ。店主は彼女の失言を聞かなかった事にしてパソコンに向き直る。
「まぁとにかく、あんたと喋っている間にも在庫をさらってみたけど、御希望の減音器の類は無かった。まぁ入荷依頼なんて出してないから無いのも当然なんだが。」
「ちぇ~、無いのかよ。なら仕方ないかぁ・・・まぁブラックマーケットで自分の発する銃声を気にする奴なんて居ないだろうし。」
店主の口からきっぱりと告げられた無いという言葉に肩を落とすイサネ。だが、すぐに首を振っていつもの調子に戻ると、第二の本題に入る。
「減音器の件は諦める。で、次の話なんだけど、今私使わない銃火器を無駄に溜め込んでて。それも結構な数をね。」
「買い取りか?うちもやってはいるけど、そんなに多いとなると買い取り切れないぞ。取り敢えずどれくらいあるんだ?」
銃器の買い取り。超銃社会キヴォトスでは販売と共に日常的に行われている事だ。何せスマホと同じ感覚で銃火器を扱い、喧嘩感覚で銃撃戦が始まるような場所だ。戦闘などで破損したパーツの取り換えやオーバーホール、そして買い替えなど銃火器に関する商売サービスは恐らくイサネが居た世界よりも盛んだろう。
「取り敢えず家にあるのをリストアップしたから詳細はこれで確認して。で、大まかな数で言うと種類問わずで40丁はあった様な・・・」
「・・・今月は赤字で決まりだなこりゃ。あ、でもかの万物の天敵が用いた代物だって宣伝すれば多少吹っ掛けても売れるな・・・?」
「別に今金に困って無いからそっちの良い様に買い叩いてくれない?使いもしないのにガンラックを圧迫して邪魔だからさ、さっさと処分したいの。あとその宣伝じゃ売れないと思うよ。」
「まぁ確かに万物の天敵といえば不吉の象徴だの全てを壊し尽す厄災だの負のイメージの方が強いわな。でもねぇ、そう言われる程の強者が使っていたという箔の付いた武器はその持ち主の強さにあやかろうとする奴には一定の需要があるんだよ。」
にやりと顔を歪め、「あれだけ恐ろしい死神が味方に付くんだ、そりゃ心強いだろ。」と嘯く店主に、イサネは溜息を入れ、
「そんなのに頼るのはただの運頼みじゃん。運は確かに戦場において重要な
と苦言を呈する。
全ての戦闘において勝利を自らの実力でもぎ取きたイサネにとって、この手の願掛けやお祈りは一考はおろか不確かですら無いものとして一切の意味を感じなかった。確かに幸運によって生き残った者もいれば実力はあるのに
「まぁそう言うなって、あんたがそう思ってたとしても何かにあやかるっていうのはそういうのを信じる奴らにとってそれだけ意味のあるものなんだよ。現に商売業にゃそう言った御呪いや願掛け、ゲン担ぎの掟はあるからな。」
「なんかめんどくさそうだね、商売って。」
「それを言うならあんたの傭兵業だってそうだろうよ。結果と実力こそが全てで、偶然の結果ですら事実として評価されちまうんだからさ。商売業と違って結果一つで随分と大変じゃないか。」
「そうかな?どちらにせよ信頼に足る実力がある事を資本を持つ奴らに示せれば最低限実入りの良い名指し依頼はやってくるから、構造自体は割と単純な世界だと思うけどなぁ。」
イサネと本題から逸れた雑談に興じながらも、受け取った取引品の品定めと買取金額を算出する手は止めない。時折「なんでこんなもん持ってんだ・・・」と呆れ混じりの驚愕を口に出しながらイサネと雑談に興じ、キーボードを叩く事数分、大まかな算出が出た店主はノートパソコンの向きを反転させて画面をイサネに見せる。
「取り敢えずこんなもんで良いか?これだと全て相場の買取価格通りに買った時の値段と比べて大分――いや超安く買い叩く事になるが。」
「へぇ、それでも1、2・・・40万は越えるのね。本当に買い叩いてるこれ?」
もっと端金を提示されると思っていたイサネは画面に表示された値段に怪訝な表情をしながらも驚きを見せる。が、イサネのその発言が癪に障ったのかその様子を見た店主は呆れた様に息を吐き、イサネを睨みつけると説教の如く話し始める。
「あのなぁ嬢ちゃんや、あんたが売ろうとしてる武器達はここ最近で売り出された最新型とか、市場にあまり出回らない貴重品とかが大体なんだよ。だから買い叩くにしろ買値が高くなるのは必然になるんだ。分かるか?」
「あー、そう言えばこのどれも値が張った奴だね。特にこれとか10万超えだったかな。なんか新型スタビライザー搭載とか謳ってたから買ったけど、耐久面が論外だったイメージしかないわ。」
「この野郎・・・いいか、俺ぁあんたと違ってそうぽんぽんと散財できる程金を持ってる訳じゃねぇ。更には俺の生活費だって店の利益から割かないといけないんだ、いくら買い叩いて良いっつってもある程度の買値は提示しないといけない以上こうやって高額品を幾つも出されるとその分だけ色々と削らないといけないんだよ。」
――買えば大赤字、買わねば只の莫迦者。
怒る様にも、呆れる様にも取れる態度で言葉を紡ぐ店主。対するイサネも漸く自身の行いが店主に対し余りにも冷酷な現実を突きつけることと同義である事を理解し、冷や汗を一筋垂らしながら店主に問う。
「もしかして一遍に持って来たのは不味かった?」
「・・・かなりな。」
渋い顔でそう言い切る店主に「・・・えっと、ごめんなさい。」と申し訳なさそうに謝罪するイサネ。何せこればっかりはイサネが悪いのだから。
「だが逆にここまでの品を並べられて諦める武器商人は居ねぇってのもまた商売業の面白い所だ。まぁそんな訳で提示された品名だけを見た値段はこの通りで、後は実物を見てから買い取り価格がどう変動するかだな。」
商売魂とでも言うのだろうか。先程の渋い表情から一転、熱き闘魂の籠った目でイサネを見る店主の様子に、イサネは「やっぱり商売業の方が難しいじゃん。」と内心呟きながら話を進めていく。
「ん、りょうか~い、鑑定日はいつでもいい?ちょっとここ数日忙しくなりそうで。」
「そりゃこれから封鎖されたSRT学園の校舎に忍び込むんだから忙しいに決まってるだろうよ。鑑定日は定休日以外なら基本的に大丈夫だ。」
「ありがとう助かる。あ、あと私がSRTの校舎に侵入するって情報は口外禁止ね。報復が怖くないなら漏らしても良いけど。」
「しねぇよ馬鹿。」
店主と最後に軽口を叩き合い、イサネは店を出る。
「・・・まだ昼前か。」
一度大きく伸びをし、店の近くに設置されていた自販機に向かうと、目を瞑って運任せにボタンを押して飲み物を選択。決済用のパネルに学生証――ではなくイサネが金を預けている闇銀行の決済用カードを押し当てる。
「コーヒー・・・そう言えばセレンが時折飲んでたっけ。一口だけ飲ませて貰った記憶があるけど、確か苦かった様な・・・」
電子音と共に受け取り口に茶色の液体のイメージイラストが描かれた缶が落ちてくる。イサネが押したボタンの商品は缶コーヒーの様だ。受け取り口に手を突っ込んでそれを回収し、ステイオンタブに指を引っ掛けてタブを起こす。
「んっ、匂いが結構強い・・・?まぁ飲めば分かるか。」
開けた途端に薫るコーヒーの匂いに顔を顰めつつも缶の飲み口を自らの口に運び、中の茶色の液体を口に流し込む。そして少しの間それを口の中で転がし、嚥下する。
(んー、最初少し甘い。で、苦い。でもただ苦いだけじゃない、こう・・・香るって言うの?先生の授業の通りなら。あ、もしかしてこれが風味ってこと?)
「成程ね、セレンの大人になれば分かるようになるってこういう事か。先生の言っていた味覚の変化ってやつがそれに当たるのかな。で、これが微糖・・・ブラックってやつじゃないのか。」
また一つ人としての知識を身に付けたイサネは缶の中に残っているコーヒーをぐいっと一気に飲み切り、空になった缶を自販機の隣にあるごみ箱へ放る。
「ははっ、一気飲みだとちょっとまだ苦いかな。」
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D.U.区を一望できる高層ビル――ではなくその更に上、天を突かんばかりの高さを誇るキヴォトス一の高さを持つ建物にして起源も建設時期も全てが謎だらけの建造物、そしてキヴォトスを統括する連邦生徒会の活動本部であるサンクトゥムタワー。
オベリスク状の塔の頂点を線として線対称の様に更なる上空へと伸びる逆さ向きのオベリスクという余りにも不可解な構造を持つ塔の内部、連邦生徒会の役員が業務を行う下層部――連邦生徒会の活動拠点となっている区画の一角であるレセプションルームにて連邦生徒会長代行となる行政官、七神リンと連邦生徒会の下部組織、連邦捜査部
「・・・何ですか、これは。」
先生がリンに用があるという事で
「忙しいところ申し訳ないんだけど、リンに一度見て欲しくて・・・」
説教時の何だか頼りなさそうなへにゃっとした苦笑いからは想像も付かない程の落ち着いた表情のまま先生はリンの問いに答える。
「ふむ、では少し失礼します。」
そう言うとリンは机の上に置かれた一枚のプリントを手に取り、そこに書かれた内容を読み始める。
「先日の豪雨で浸水被害に遭った子ウサギ公園における設備補修の提案書・・・ですか。」
提案書の題名とその内容に相違は無く、普段の先生のプラモやゲームアプリに掛ける金額のせいで金欠に苦しむ事がある先生から提案されたとは思えない程少ない予算設定で確実に補修が完了する様完璧に調整がされているこの提案書には何の問題も見当たらない。恐らくだがこれを財政室にこのまま提出したとしても確実に通るだろう。
・・・何故この出来を普段からやらないのかという至極真っ当な苦情はこの際飲み込んでおく。
「市民が使う公園を補修する事、それ自体には何の異論もありませんが・・・」
リンの眉間に皺が寄る。別に提案自体に何か問題がある訳では無い。
「これは、シャーレの活動に必要な事なのですか?」
そう、
「いや、そうではないんだけど・・・」
「なら、SRTの生徒達にとって必要な事、という事ですか?」
先生を見るリンの目付きは厳しい。そして先生はその言葉に対し無言を返すが、この場合だとその無言は悪手だという事は双方が理解出来ていた。
「・・・その沈黙は肯定と同義ですよ。」
軽く息を吐きながらそう言い、一呼吸。そしてリンは話を再開する。
「カヤから話は聞いています。ヴァルキューレへの編入を拒否したSRT特殊学園の生徒達。彼女らが公園で野宿しており、先生が陰ながらそれをサポートしているという事も。」
「陰ながら・・・う、うーん。どうだろう。」
サポートしていたのは事実だし先日自身の体調と引き換えに彼女達からある程度の信頼を得る事が出来たのは良いのだが、湾口部での廃ドラム缶を無断で取ってきた時や所確幸なるホームレス集団に襲われた時に起きた激しい戦闘の事を考えると陰ながらとは中々に言い難い。
「先生が編入を拒否したSRT特殊学園の生徒達をサポートしている事について、何か言おうという訳ではありません。元よりシャーレは自由な組織ですし・・・」
そんな先生の内心を察してか知らずか、リンは話を進める。
「ただ、私の立場から言わせていただきますと、彼女達が公園に居続けるのを是とすることは出来ません。」
個人としては特に何も言うべきと事は無いが、代行と言えどキヴォトスを統括する連邦生徒会の長としてはそう言う訳にもいかない。
「・・・市民の皆が使う公園を、占拠してるから?」
「いえ、あの公園は殆ど訪れる人も居ない、元々辺鄙な場所に位置する公園です。それに実の所を言いますと、あの公園は近い内に撤去する予定でもありますので。」
先生が思い当たる最もな理由を避ける様に原因を問うが、リンは軽く首を横に振る。どうやら公園を許可も無く占拠している事が問題では無い様だ。
「ただ、公園そのものの問題ではなく・・・」
リンは一度言葉を切り、前提から話始める。
「確かにSRTは連邦生徒会長から特権を与えられた、迅速に犯罪者を制圧する為の組織です。しかし、そのような特権は正しい目的と正しい運用によって価値を発揮します。そうでなければ、ただ危険を招くだけですので。」
「・・・つまり、本来ヴァルキューレに編入されるはずの決まりに従わず、今だSRTを名乗っている生徒達の為に連邦生徒会があれこれ支援をする訳にはいかないって事かな?」
「理解が早くて助かります。まぁ言わばそんな所です。」
先生が先に原因を言い当てる。リンは先生の頭の回転の早さに感謝しつつも改めて原因を話す。
「その様子ですと既にご存じかもしれませんが、連邦生徒会内部にはSRTの武力を恐れているメンバーも少なくありません。現に先日発生したSRT学園の3年生小隊による連邦生徒会襲撃事件は閉鎖賛成派の数を大きく増やしました。まぁ無理もない事ではあります。実際にその武力の矛先を向けられたのですから。」
(これをイサネが聞いたら「使うだけ使い込んで責任者が消えたら捨てようってんだからそりゃ反逆されるでしょ。」とか言いそうだなぁ。)
実際に先生の脳内で高音質で再生されるイサネの言葉。忠義を尽くした末に待っていたものは廃棄とあれば余程主君に対する忠義に狂った者でなければ反抗するのは当然だろう。
「そんな中、彼女達を支援するような動きをした場合、行政委員会から強い反発が挙がる事は間違いないでしょう。」
提案自体が問題なのではなく、連邦生徒会が未だデモ中の元SRT生の為に動く事こそが問題だったのだ。
「り、リンが説得してくれたりは・・・」
「しません。」
一途の望みに掛けて説得をお願いしてみたが、やはり断られてしまう。結局、Rabbit小隊の為の公園復旧の案はリンに却下され、挨拶の後に先生は若干肩を落としてレセプションルームを後にする。その後も他の連邦生徒会メンバーに対しても助けを求めるべく交渉を掛けたのだが、
「私は元よりSRTの存在は不要だと主張し続けてきました。キヴォトスの犯罪対応などヴァルキューレと各学園の委員会だけで十分だ、と。故にいくら先生と言えど協力は有り得ません。」
「協力なんて冗談じゃないですッ!私の友達は先のSRTによる襲撃のせいで今も入院状態なんですよ!?二度と復活しない様にさっさと潰してしまうべきですあんな暴力組織!」
「うーん・・・確かに封鎖には反対しましたけど、連邦生徒会にまでその牙を向けたとあっては流石に庇い様が無いですし・・・何より今動いてしまうと内部派閥の対立がより一層過激に・・・」
と、誰も掛け合う気配が無かった。何なら役員の皆が封鎖に賛成している様にすら思えた。実際にSRTの抱える武力が自分達に向いたのだ、無理もない話ではあるのかもしれないが。
(うーん、どうにもFox小隊による襲撃が大きく影響してるみたいだね。反対派に今も居る子達も実際に動くのは何か思う所がありそうだ。さて、そうなると最後に思い当たるのは・・・)
「こんにちは、防衛室に一体何の――おや、先生ですか。」
そうして辿り着いたのは不知火カヤが室長を務める、防衛室の執務室だった。
「うん、急にごめんね。間が悪かったら出直すから――」
「いえいえ、そんな事はありません。さ、取り敢えず座って下さい。」
カヤに促されて応接テーブルのソファに座ると、机を挟んだ反対側にカヤも座る。
「飲み物はどうしますか?」
「いや、そんなに時間を取らせないから大丈夫だよ。」
そうして先生は本題に入る――
「・・・成程、それでこちらにお越しになった、と。」
先生から一通りの事情を聞いたカヤは、右手の人差し指を自身の頬に当てるいつもの仕草をしながら口を開く。
「取り敢えずはお疲れ様でした。お茶でも――っと、大丈夫とおっしゃっていましたね、失礼しました。もし飲み物が欲しくなったら言って下さい・・・と言いたい所ですが、どうやらそんな余裕も無さそうですね。」
「うん、閉鎖されている学園の問題はやっぱり一筋縄じゃいかなくて。」
「説得もSRTの復活も、どちらも難しい問題である事は承知しています。そしてそれを只でさえお忙しいシャーレの先生に依頼する事が間違っている事も。・・・本来なら、もっとゆっくりお話したい所なんですが・・・」
前座の会話もそこそこに、カヤも本題について切り込んでいく。
「そうですね、まず結果から申し上げますと・・・申し訳ないのですが、私の方もお手伝い出来そうにありません。」
申し訳なさそうにカヤが答えを提示する。
「公的な扱いとして、SRT特殊学園は既に閉鎖された学園になっています。故にそこに支援を行おうとすると「存在しない学園の生徒達の為に、連邦生徒会が直々に支援を行う」という形になってしまいます。これでは名目の作成からして可決までかなり難航します。」
「そしてその名目についてはまずその子ウサギ公園を・・・と思ったのですが、元々あの地域は再開発予定区という事もあって支援するくらいなら・・・という事になってしまう訳で。仮にそれを差し引いたとしてもSRTのFox小隊による襲撃がかなり足を引っ張ります。」
これについてはある程度予想出来ていたと言えば出来ていた。
「如何に名目を取り繕った所で、その支援する公園に元SRTの生徒が滞在しているとあれば賛成派からの猛反発は免れないでしょう。提案が会議に通る前に握り潰される事もあるかもしれません。賛成派に攻撃の機会を与える事にもなりますし、最悪私の立場すらも賛成派に奪われてしまって支援の提案すらままならない可能性も・・・」
「ですので、私に出来る事と言えば以前もお伝えした通り彼女達の学籍データをそのまま維持する事くらいで・・・」
反対派の中でもそれなりに力を持つと推測出来るカヤですらこの有様なのだ。今の連邦生徒会の中で協力者を募るのは些か無謀だったと先生は心の中で反省する。
「難題を吹っ掛けた側でありながら、お役に立てず申し訳ありません。」
「いや、大丈夫、こちらこそ忙しい中急に押し掛けてごめんね。それに学籍データの維持だけでも助かってるよ。」
カヤの謝罪に対し先生も感謝を述べて席を立つ。しかし、それに対しカヤはすぐには反応を示さない。そして数瞬の後、
「・・・先生。彼女達と過ごす日々、楽しいですか?」
と先生に尋ねる。
「勿論。」
頷きを以ってそれに答える。
「・・・そうですか。」
答えを受けたカヤは一人納得したように呟き、
「では引き続き、Rabbit小隊を宜しくお願い致しますね。」
笑顔でそう言い、執務室を出ていく先生を見送った。
本当は次回書く予定の話をここに入れたかったのですが、様々な問題(作者の文章力)によって次回になりました。
あと分かりにくいかもしれませんが今回は書き方を少し変えてみました。初心者という事もあってまだまだ経験が必要みたいです...とほほ。
次回 イサネさん、ついに盗みを働く?