透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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今回は首輪付きの素性が一部キヴォトスの人に開示されるお話です。
戦闘描写というか、特殊能力の説明がかなり大変になりそう。

冒頭のつもりの描写で2,000字越えるってマ?

話の展開考えてたらコーヒー溢すし最悪だぁ~


常識知らずの首輪付き

 

 

 

「イレーネさん、起きてください。ユウカちゃん帰ってきましたよ。」

 

 

いつの間にか寝入ってしまったらしい。優しく語り掛ける声とユサユサと肩を揺らされ、イレーネは目を開ける。するとそこには視界一杯に広がるノアの微笑み。

 

「・・・おはよう、ございます。」

 

「ふふっ、はい、おはようございます。」

 

思わず敬語で挨拶してしまう。あれ、おかしいな、私これでも19なんだけどな。そんな下らない事を考えつつ、ベッドから体を起こす。

 

「ノアー?この部屋でいいの?その、は、裸で倒れてた生徒というのは。」

 

聞いたことない声だ。かなり活発さがその声色から見て取れる。だが、裸というワードで言葉を詰まらせる当たり年頃の少女といったところか。

 

(別に私も全裸で倒れたかった訳じゃないんだから裸を恥ずかしい事の様に言わないで欲しいんだけど。)

 

すると空調の設定をしていたノアが、その声に応じる。

 

「もう開いてますよ、ユウカちゃん。それに今、起きました。」

 

「入るわよ。」という声と共に部屋のスライドドアが開く。そこに居たのは腰まである藍色の髪をツーサイドアップにし、ノアとは正反対の黒い制服を身に纏い、ノアと同じ白いジャケットを着た少女が居た。その頭上に浮かぶヘイローはツヤのある黒で形状はシンプルな輪、輪の内側にシアンのラインが走っている。

 

「イレーネさん、紹介しますね。この人が早瀬ユウカ。ユウカちゃんって呼んで下さい♪」

 

「ちょっ、ノア!勝手に人の自己紹介取らないでよっ!・・・ノアの言う通り私がミレニアムサイエンススクール2年、セミナー会計の早瀬ユウカよ。ノアはセミナーの書記よ。よろしくね。」

 

早瀬ユウカ。よし覚えた。さて次はこっちの番だが、やはり名前だけしか自分を証明できるものが無いのは中々に苦しい。自己紹介も必然的に寂しくなるし。うだうだしても仕方ないので、口を開く。

 

「私の名前はイレーネ。今これ以外に自分を証明できるものは無いの。ごめんなさい。」

 

「え?そんな訳ないじゃない。何処の所属とか、そういうのって何かないのかしら?」

 

くそったれが。イレーネは内心悪態をつく。案の定食いつかれてしまった。だが、どうしようもない。何故なら本当に何もないのだから。諦めて事実を言う。

 

「ないよ。ない。何処に所属とか、何してたとかそんなのは無いの。名前だけが、私を私だと証明出来る唯一のもの。」

 

「えぇ、それは本当なの?トリニティとか、ゲヘナとか、そういうの、本当にどこも所属してないって事?」

 

「所属してないっていうのもそうだけど、そのトリニティとかゲヘナっていうのがまず何か分からない。所属って言葉から推測するに何かの組織というのは分かるけど。」

 

ユウカは深い溜息と共に手で顔を覆う。いや、そんな反応されても。イレーネはユウカのその反応に困惑の表情を隠せない。

 

「本当に何も知らないのね・・・」

 

「あ、でもさっきテレビでここがキヴォトスという事は分かったよ。なんでも政治のトップが消えて大変らしいね。」

 

「本当よ・・・もう、質問の回答を要求しに行ったのに何で市街を占拠する不良と戦闘なんて・・・はぁ。」

 

イレーネの一言に愚痴吐きモードに入ろうとしたユウカを「ユウカちゃん、話が逸れてますよ。」とノアが諫める。

 

「っと、そうだったわね。まだ事情聴取の途中だったわ。さて、イレーネさん。貴方は本当に自分の名前以外何も分からないという事でいいのね?」

 

「うん、まぁ、そうなるかな。」

 

「ということは何故あそこに服も着ないで倒れてたかも分からないってことですね。手掛かりなし、困りましたね。どうしますか?ユウカちゃん。」

 

「ふ、服を着てないのはどうでもいいでしょ。でも、名前以外何も不明な生徒をこっちの一存でどうにかするわけにも行かないし・・・ああっもう、リオ会長がいればっ!」

 

リオ会長。会長の名の通りこのミレニアムサイエンススクールの代表なんだろう。どうやらユウカの言葉から読み取るに自分で仕事をしない様な人らしい。何処へ行っても、上の怠慢のツケを払う

のは下の人間だ。そんなことを考えているとノアが何か閃いた様で、

 

「ユウカちゃん、明日、シャーレに行く用があるって言ってましたよね?」

 

「ええ、連邦生徒会に今回のシャーレ奪還の時の弾薬費の請求が出来ないか相談しようと思って。」

 

「その時に一緒にイレーネちゃんを連れて行けば、何かわかるかもしれませんよ。」

 

口ぶりから推測するにやはり連邦生徒会は他学園よりも上位に位置する組織らしい。なら身元不明の生徒が何処所属なのかが分かるかもしれないというけか。

 

・・・それにしても私にもちゃん付けはやめて欲しい。普通に君たちより年上なんだけど。

そんなイレーネの心も声は誰にも聞かれることはない。

 

「うーん、でもさっき見た感じだとシャーレ周辺すらまだ不安定みたいだし、そんな所に名前しか分からない生徒を連れてはいけないわ。先生には悪いけど、ミレニアムに来てもらう形にしましょう。でも、明日先生には聞いといてみるわ。」

 

シャーレへ連れて行ってみるというノアの案は半分採用される形となった。

 

「先生、ねぇ。」

 

イレーネは何か含むようにそう溢す。それを拾ったノアは、

 

「イレーネちゃん、先生がどうかしましたか?」

 

「あ、いや、なんでもない、です。」

 

まさか聞かれていると思っていなかったイレーネはぎょっとしながら答える。

 

「とりあえず今日はもう解散にしましょう。時間も時間なので。」

 

ノアがそう提案する。

 

「そうね、私も疲れたし、今日はもう帰ることにするわ。」

 

ユウカもそれに乗る。

 

「ねぇ、私はどうすればいい?もう体も動くし・・・」

 

そこまで言った所でノアが言葉を被せる。

 

「イレーネちゃんの衣食住が安定するまではいてもいいですよ。あ、でも少なくともあと2,3日は絶対にここで過ごしてくださいね。」

 

サバイバルは慣れていると言い損ねるが、ひとまず人としての生活は提供してもらえるようだ。

 

「ありがとう、助かります。」

 

「それじゃあ、またね。」

 

「イレーネちゃん、また明日~。あ、夕食は7時に持ってきます。」

 

そう言って二人は医務室から出ていく。

 

机の上に置かれているデジタル時計に目を向けると、《pm 6:32》とあり、夕食が運ばれてくるまで30分弱時間がある。

 

「そうだ、身体、どうなってるか確かめなきゃ。」

 

そうしてイレーネは体を動かし始める。幸いここは天井が高めの設計になっている。多少のアクロバティックなら出来るだろう。

 

 

(5分前には止めればいいか。)

 

 

そんな浅はかな考えをしながら。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ、まさかノアが急用で呼ばれるなんて・・・」

 

 

ユウカが幾つかの皿に盛りつけられた料理を乗せたトレーを片手に一つづつ持ち、イレーネの居る医務室に向かって歩いていた。

 

本来これはノアがやると本人が言っていたのだが、何やら一昨日作成した書類に不備あったらしく修正の為に手を貸して欲しいとの事で、急遽ユウカが配膳を行っている。

 

「それにしても、名前以外不明、ねぇ。」

 

イレーネの事が何か怪しいと思っているわけでは無い。というより、判明していることが名前だけというだけでもう既に怪しさ満点なのだが、本人がゲヘナやトリニティといったキヴォトス屈指のマンモス校の名前を挙げても反応の一つも返さなかったことから本当に知らないのだろうという結論にたどり着いた。

 

だが、身元が不明な以上、扱いには細心の注意を払う必要がある。身元が不明な分だけ彼女の中にどんな地雷が隠されているかも分からない。いつその地雷を踏み抜いてしまうか不安でしかない。

 

そんなことを考えているとイレーネの仮の部屋となった部屋の前に到着。自動ドアによって部屋の扉が開く。

 

「イレーネさん、ご飯もってき・・・た・・・」

 

そこから先の声は続かなかった。なぜなら、

 

 

トレイを持ちながら硬直するユウカの前で、イレーネは

 

 

 

―――一糸纏わぬ姿で柔軟をしていた。

 

 

 

そして当の本人は、

 

「あれ、思ったよりも早かったね。」

 

と、何事もないかのようにさらりと言う。

 

 

 

一瞬の沈黙。そして、

 

 

「ふ、ふ、服を着なさ―――い!!!」

 

 

 

「はーい。」

 

 

夜のミレニアムに冷酷な算術使いの怒声が響き渡るのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

次の日、イレーネはノアから「とりあえず、キヴォトスで銃を持たないというのは昨日のイレーネちゃんの様に全裸で過ごす事より珍しい事なのでここに向かってください。話は通してありますので。私も用事が済んだら向かいます。」の言葉通り、指示された場所に居るのだが・・・

 

 

(なぜか他の人たちからの視線が凄い。)

 

人の通りが多い通路が交差している場所に居るとはいえ、邪魔になるのは悪いという事で端に寄って待機しているのだ。それだというのに通りかかる人はイレーネの事を一目見るなりぎょっとして足早に去って行ってしまう。

 

 

(・・・そういえば、制服に着替えろって言われてたっけ・・・今思い出したけど。)

 

 

そう、この女、朝にノアに渡された貸し出しのミレニアムの制服に着替えるのを忘れたまま、ここに来ているのだ。つまり、病衣そのままに一般の生徒の活動域に突っ立っているという事だ。

 

一応、病衣というだけあって露出の抑えられたデザインとなっているが、如何せん通常の服と違って使用用途が違う。つまるところそんな恰好で一般に使われている場所にしかも誰の付き添いなしで居ようものなら目立つこと間違いなしという訳だ。

 

更に、イレーネ自身に自覚は無いが、イレーネの体つきはその美貌と同じく出るところは出、引っ込むところはしっかり引っ込んでいる。その差も極端なボンキュッボンということは無く、彼女の身長と顔立ちに合わせて計算され尽くした黄金比の様なスタイルとなっている。女性なら誰もが憧れるプロポーションがその病衣の所々から伺えることも、注目を集めている原因の一つだ。

 

・・・重ねて言うが、それを本人が自覚することは無い。

 

 

戦いの中で生きてきた彼女にとって、人類の殺戮にその生を捧げたイレーネにとって、そして生まれつき非常に恵まれた外見を持っているせいか、ファッションだとか外見だとかに一定の興味や羞恥の無いイレーネにとって、病衣で歩き回る事が如何におかしなことなのかが理解できない。

 

リンクスの時も、同居人がセレン・ヘイズというこれまたとびきりの美人で、外見に興味を持たない女性という似た者同士の生活していた結果、部屋でお互いがお互いに全裸であっても何も思わないという事実が、余計にイレーネのキヴォトスはおろか向こうの世界でも一般常識である認識の理解を遅らせている要因の後押しになっていた。

 

(畜生、どいつもこいつもジロジロ人を珍獣みたいに見やがって・・・そうだよ、私こそがかの悪名高い首輪付き様ですよーだ。・・・あんまり見てると殺しちゃうぞ☆)

 

明らかに自業自得な原因とはいえ、ずっと誰かしらに目線を注がれているというのも流石のイレーネとてストレスに感じるようで、向こうで人類の半数以上を殺した人類種の天敵らしい物騒な思考回路が動き始める。

 

(さてさて、こいつら、どうしてやろうか。3秒以上見てるやつにガンでも飛ばすか?で、7秒以上でその細い首をへし折ってやろう。約束の時間まで余裕もあるし、戦闘の勘も戻しておきたいし、この肉体がどれだけ変わっているのかも試せる・・・一石三鳥ね。)

 

キヴォトスにおいて殺人が禁忌であることも露知らず、理由も大義も無い殺しの計画を練っていると、突如声を掛けられる。

 

「やぁやぁ、セミナーの書記から話は聞いていたが、病衣そのままに待ち合わせに来るとは。このマイスターの眼を以てしても見通せなんだ・・・」

 

「・・・誰?」

 

イレーネが声の方向に振り向くとそこには薄紫の髪と薄紫の瞳を持ち。背はイレーネよりも若干低い。白の制服に黒のセーターを着ており、更にその上に白を基調としたコートに腕を通さずに羽織る少女が居た。

 

「おっと、自己紹介がまだだったね。私は白石ウタハ。マイスターの称号と共にミレニアムのエンジニア部の部長やらせてもらっている。以後よろしく。」

 

「えっと、私は―――」

 

「おっと、君の事はセミナーの書記から話は聞いている。イレーネ、というそうだね。そして名前以外自分を証明できるものが無いという事も。自己紹介で名前以外に話せるものが無いという事はかなり辛いだろう。それに私も君の事は書記から聞いているから、何の問題もない。」

 

イレーネの自己紹介を遮る形でウタハは言葉を被せる。正確に言えば、イレーネ自身話せることが無い訳では無いが、かなり血生臭い話しか出来ない上、人間いっぱい殺してますなんて口が裂けても自己紹介で言うべき事ではない。というかそうでなくとも口外出来る話ではない。

 

とりあえず、何か喋らなければとイレーネは口を開く。

 

「うん、それは助かった。ありがとう。それで、貴方がノアの言っていた人?」

 

「おそらくはそうだろうね。私もここに来るように言われた。そして君がここに居る。なら、それはそういうことだ。とりあえず我々の研究室に案内しよう。話はそこでしよう。」

 

助かった、漸くこの見世物地獄から抜け出せる。そう考えたイレーネは若干の早口で、

 

「それはありがたい。何故かここに居ると周囲の人がジロジロ見てきて凄くしんどかったから。」

 

「う、うーん、それは今の君の格好に問題があるようにしか思えないんだが・・・」

 

ウタハは至極当然の指摘をするも、イレーネには理解できない事だったようで、

 

「え?全裸ならまだしも、服着てるなら問題ないでしょう?一体どこにそんな問題が―――」

 

その言葉を最後まで言う前にウタハに腕を掴まれ、そのまま引っ張られるように歩き出す。

 

「ちょ、ちょっとまだ言い切って―――」

 

「どうやら君には先に常識というものを学んでもらう必要がありそうだ。」

 

「いや、常識なんてもう知ってるから、何の問題も無いから―――」

 

「いいから着いて来てくれ。」

 

言葉を言葉によってぶった切り、エレベーターの中にイレーネを押し込みつつウタハもその中に入る。

 

(話に聞いてはいたが・・・ここまで常識が欠落しているとは・・・)

 

ウタハは内心頭を抱える。しかし、

 

(待てよ?常識が欠落しているという事はその常識を教育するという名目で新入部員としてエンジニア部に入れさせる事が出来れば、エンジニア部に新たな進化の風が・・・?)

 

流石マイスター、すぐに名案を思い付く。

 

(と、すれば彼女がどれほど開発に向いているかを調べる必要が出てきたな。他にも色々調べる必要がありそうだ。いや、確かうちには今身体の測定器とスキャナーがあったはずだ。なら、あとやるべき事は・・・)

 

天才と呼ばれる頭脳が高速で回転を始める。しかし、彼女は一つ大きな見落としをしていた。それは、今のウタハにはどうあがいても知り様の無い罠だ。そう、このイレーネという女、齢19であり、すでに高等学校の適性年齢を超えているということ。

 

(・・・ストレイド、元気にしてるかな・・・あれ、上手く作動したかな・・・)

 

一方、イレーネといえば、向こうの世界に置いてきた自らの愛機にして己の半身であるストレイドの身を案じると共に最後っ屁で仕込んだ動画と連動するAAという悪魔の様な仕掛けが上手くいったかどうか、つまるところそれで死者は出せたのかというあまりにも人類種の天敵らしいことをただぼんやりと考えていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「さて、ここが我々エンジニア部の活動拠点だ。」

 

そう言って通された場所は広い格納庫の様な場所だった。そしてそこに機材が所狭しと置かれ、恐らく研究や開発の産物と思わしき代物がそこら中に転がっていた。

 

(結構広い・・・でもネクストは入らなさそう・・・そして、なんでこんなに開発品?が乱雑に扱われているの?目敏い企業(カス共)がすぐに嗅ぎ付けて・・・)

 

「そして改めて、私は白石ウタハ、ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部の部長にして、マイスターの称号を頂き、日々ここで研究と開発に勤しんでいる。ちょっと待っててくれ、今他の部員を呼びに行こう。」

 

両手を広げ、誇るかのように二度目の自己紹介をする。羽織っているコートがそれに合わせてたなびくので、結構絵になっている。そしてイレーネに一言だけそう告げて、奥へと行ってしまった。

 

待っててくれと言われたので周りを見渡しつつ入口に突っ立っていると、

 

「あれ、お客さんですかー?今日は来訪の予定は無いと思うんですが・・・」

 

またも知らない声。

 

「あっ、貴方が部長の言っていた人ですね。私、豊見コトリって言います。よろしくお願いしますね?」

 

「あ、うん、よろし――っ!!・・・よろしく・・・」

 

思わず返事に詰まる。その原因は豊見コトリと名乗った少女の服装にあった。

 

(制服のスカートってああやって着るんだっけ・・・?)

 

・・・どうやら人としての殆どを捨て去った人類種の天敵にもスカートの正しい履き方ぐらいは分かるようだ。

 

「そういえば、貴方の部長さん、部員を呼ぶって言ってあっち行ったよ。」

 

ついさっきウタハが向かって言った方向を指差す。コトリはそれに対し、何か思い出したようで、

 

「あーっ!そういえば今日はヒビキは来ないってウタハ部長に伝えてませんでしたー!」

 

「至近距離で叫ばないで、うるさい。」

 

コトリの声に顔を顰めつつ、エンジニア部にはもう一人ヒビキと呼ばれる生徒がいることが分かった。すると、コトリの声を聞きつけたのか奥に行ったはずのウタハが何故か右側から戻ってきた。

 

「うん?ヒビキからの連絡は私も聞いているよ。そこは大丈夫だ。さて、ちょうど部員が揃ったね。これに猫塚ヒビキという・・・今日は少し出張に出ていてね。彼女を入れた3人がエンジニア部だ。」

 

「よろしくお願いしますね。」

 

「知ってるとは思うけど、私はイレーネ。今日はここで何するか知らないけど、よろしく。」

 

自己紹介もほどほどにイレーネはウタハに尋ねる。

 

「それで、今日はここで何を?」

 

それに対し、ウタハはもコトリも微妙な表情で、

 

「「とりあえず、れっきとした服を着ようか(ましょうか)。」」

 

その声が重なる。どうやら病衣のまま動き回るのは良くないらしい。イレーネはここに来て漸くあの時、自分が注目を集めていたかについての理解が出来た。

 

「うーん、今、君の体のサイズに合いそうなものを見繕うから、とりあえず身体検査でもしようか。こっちに来てくれ確かここに・・・あったこれだ。」

 

ウタハに着いて行くこと数m。そこには人が入れそうなサイズの空洞のあるカプセルの様なものがあった。向こうの世界のSF小説にありそうなやつだ。

 

「これは、身長の測定と体重の計測を同時に行えるものだ。他にも体をスキャンすることで体の内部がどうなっているかを確認する事も出来るエンジニア部が開発した新型の測定器だ。試作段階を終えたばかりの物だから名前こそは無いが。」

 

身体のスキャン。その言葉にイレーネは硬直する。

 

(スキャンだと?リンクスとしての肉体の強化措置が・・・いや、いや、流石に大丈夫だろう。体の内部を構成する物質まで解析されることなんてのは無い・・・と思いたい。)

 

リンクスとしての肉体の強化措置。そのあまりに超越した性能故に常人ではまともに操縦出来ない代物になってしまったアーマードコア・ネクスト。それを操縦するために技術者達は人の神経を直接ネクストに繋いで操縦するという倫理を背負い投げしたような方法での解決策を取った。その結果生まれたのが、リンクス(繋がる者)だ。リンクスは体のどこかしら、主に頸椎のあたりにネクストに神経を繋げる為の小さな機械が埋め込まれ、脳内に特殊なネットワークを構築。他にもネクストの機動力から来るGに耐えるために人にもよるが骨格を人工骨格に置き換えたり、筋肉を人工ファイバーに変えたりなどという最早人間なのかどうかという強化手術によってネクストに乗っている。

 

イレーネもリンクスとしての肉体の強化措置は受けている。骨格は人工の強化骨格によりも頑丈で折れにくく、筋肉も人工筋肉に置き換え、素手で厚さ5cmの金属板を拉げさせる程度の膂力を有し、銃弾を喰らってもその筋肉と骨格によってハンドガン程度なら頭以外なら数発の被弾では内臓にダメージは通らない。そして脳内に構築されたネットワークによって強化された動体視力と反射神経、高速で回る思考回路はリンクスとしてイレーネにそれだけで一定のキヴォトス人と渡り合える程度の力を与えた。

 

(しかし、不味い。私はリンクスの強化手術はかなり強度にやってるから・・・体の内部なんて、多分人のそれじゃないよ・・・セレン、やっぱり素手で厚さ5cmの金属板歪めるほどの力は要らないって・・・)

 

手術を受けてリンクスになると決めたのはイレーネだが、その内容を決めたのはセレンだ。イレーネはそんなこと知らずに手術を受けた結果、女性の泣いて羨むスタイルでありながら厚さ5cmの金属板を素手で歪めることが出来るというゴリラ女が出来上がったという訳だ。

 

今でこそ完全な力の制御が出来ているが、手術後の数週間は手に取ったありとあらゆるものを破壊し尽くした。只握ったつもりが手を開くと手のひらの上で粉々になっているか握った場所から折れているなんて事はいつものことで、足の力の制御に気を取られて足を滑らせた時に至っては咄嗟に握った手すりを握り潰した挙句そのまま力任せに体を支えようとしたことで手すりを地面から引っこ抜くというゴリラもびっくりな芸当をやってのけ、セレンが隣に居なければ間違いなく拘留されていた事は間違いない。イレーネにとっての恥ずべき黒歴史だ。

 

(ああぁぁぁ、黒歴史思い出しちゃった、うぁぁ~最悪だ。)

 

そんな過去の黒歴史にも近い記憶を思い出してしまい、思わず俯いてしまう。その様子をウタハ見ていたウタハは、

 

「もしかして、こういう類の装置に何か嫌な記憶でもあるのかい?それは配慮が足りなかった。すまない。謝罪しよう。嫌なら普通のミレニアムで使われている物を持ってくるが・・・」

 

と少し浮かない表情でそう申し出る。

 

「い、いや、そういう訳じゃないから、大丈夫。で、その空洞に入ればいいのね。」

 

「あ、あぁ、そうだ。その服ならスキャンの透過に影響は出ないから、そのまま入ってくれて構わない。入ったら蓋をするが、閉所恐怖症などは持ってないか?」

 

イレーネの勢いに押されつつも、ウタハは装置を使うにあたっての説明をしていく。

 

「スキャンを始めるにあたって、もし装置の中で何か少しでも異常が起きたら

中にあるここと、ここと、ここにあるボタンのいずれかを押してくれ。装置が強制停止するようになっている。それと―――」

 

そうして一通りの説明を受けたイレーネはその装置の中に入る。

 

「準備は良いか?蓋を閉める。」

 

その声と共にイレーネの視界が真っ暗になる。と同時にリンクスの強化手術によって拡張された眼が即座に暗闇に適応。微かだが仲が今どうなっているのかが分かる。そしてウタハの「装置を起動する。」の声と共にイレーネの体の測定が始まる。

 

(おぉ、動き始めた。)

 

内部に設置されたスキャナーから発せられる光の線がイレーネの身体を上から下へ、下から上へと行き来する。ウタハ曰く子の光はコピー機に使われるスキャナーの光よりもはるかに低出力で、目に当たっても特に問題は無いらしい。

 

(・・・ちょっと楽しくなってきた。)

 

スキャナーの光を四方から浴びながら、イレーネは一人この状況を楽しんでいた。

 

 

 

―――その装置の外でウタハがそのスキャンデータに絶句していることも知らずに。

 

 

 




だぁぁぁぁーーッ!、長ぇッ!!長すぎるぅぅぅぅ!!

このまま戦闘描写まで入れると2万字、3万字行きそうだったので止めました。

1万字以下で分かりやすく書いてる人って凄いんですね・・・

もういっそのこと開き直って1話5万字くらいにしようかな(屑)

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