某掲示板などに載せられているssとか読んでいるとこんな面白いssをよくすらすらと書けるな~と心の底から思います。
その文章力……う゛ら゛や゛ま゛し゛い゛!!!
日が落ち切り、夜の帳がキヴォトスの透き通った空を支配する時間。生徒だけでなく基本的に人が寝静まった後、一説によれば神や霊と言った非科学的かつ超常の存在が支配を強める時間。
「見張りは・・・案の定なしっと。防犯カメラも・・・よし、息してないね。」
そしてかつては名うての悪党も裸足で逃げ出す精鋭の治安維持部隊として、そして今は上の勝手によって封鎖された哀れな道具――SRT特殊学園の本拠地であるSRT特殊学園本校舎に、閉鎖の為近寄る者すらいない閉鎖された校舎に近づく一つの人影があった。
「どうせ正面は施錠されてるだろうし、何処から入るか・・・?」
ブラックマーケットの頂点捕食者――標根イサネである。しかし、その装いは普段の白ワイシャツに黒のスクールスカートではなく、黒と遜色ない程暗い紺色のパーカーに真っ黒のズボン。そして頭には艶消し処置によって光の反射が一切発生しない黒色のフルフェイスヘルメットが装備されており、その顔を拝むことは出来ない。
(改めて今回の依頼――じゃなくて作戦の概要。今作戦の目的はSRTの校舎に侵入し、中からSRTを取り巻く事象に関する資料や記録の類を回収・・・もとい盗み出す事。)
フルフェイスヘルメットのバイザーを上げ、赤の抜けた視界で侵入出来そうな場所を探しながらイサネは改めて今回の侵入計画の概要を反芻する。
(この作戦の前提としてはまず原則的にあらゆる理由での銃火器の発砲は禁止。こんな静けさの中での銃声は目立つから。次に見張りや警備の類との交戦や接触は絶対に禁止。私の髪の色は良くも悪くも目立つらしいから、一度でも見られたらかなり記憶に残ると思う。ヘルメット団に偽装する為のこのヘルメットに髪を仕舞い込んでるとは言え激しく動いたらはみ出しちゃうだろうし。交戦は最低限がまぁ限界かな。)
ミレニアムやゲヘナ、トリニティの校舎と違い最早軍事基地と言っても遜色無いSRTの敷地を監視カメラの視界から外れる様に立ち回りながら敷地内の案内板から本校舎の位置と他施設の場所を記憶。すぐさま踵を返し、本校舎へ向かう。
(いやーしかし、もう二度と関わる事はあるまいと思っていた奴らの為にまさかここまでやるなんてね。やっぱり世の中どうなるか分からないねー。)
それは子ウサギ公園で地雷原を抜け、敵として邂逅を果たした時。そしてヴァルキューレの取調室で、聞きたくもない正義などと言う戯言を小隊長の口から聞かされた時。
(誰が何と言おうと正義は人の作り出した都合の良い言葉の麻薬である事に変わりは無い。それだけは絶対で、そして世界の摂理と人の間に生まれた虚構だ。)
そう、元よりイサネはRabbit小隊――もといSRT学園に関する事の事象に関わるつもりなんて微塵も無かった。取調室でミヤコの取り調べを終えた後、リンから聞かされた自分への苦情の対処を終わらせ、しばらくの間戦いの無い平和で退屈な日々を惰性のまま過ごすと思っていた。
――だが、そうはならなかった。
一時休業前最後の依頼としてD.U.区湾港部の警備に始まり、所確幸を名乗るホームレス集団との下らない諍いに人生で初めて体験したレベルの豪雨の中での野営地の補修と、イサネの予想に反しここ数日はRabbit小隊の面々と関わる事が殆どだった。
(上っ面で語る正義は気に食わないけど、理由はどうあれ自ら決定し、支配者に抗い続けるその意志には少し興味がある。)
監視カメラを掻い潜りながら案内板で本校舎とされている建物に辿り着き、裏口の扉の前に陣取ると、懐からペンサイズの何かの装置を取り出して先端に付いたボタンを深く押す。
直後、聴覚を埋め尽くす爆発音が遠すぎず近すぎずの位置から聞こえると同時にここから視認する事は出来ないが、夜の街並に火の手が上がる。
「・・・しぃっ!」
ボタンを押したイサネは爆発音を確認することなく、裏口の扉にハイキックにしては随分と行儀の悪い蹴り――ヤクザキックと呼ばれる蹴りを扉に叩き込む。
イサネの蹴りを受けた扉はそこそこ分厚い金属製であり、凹みこそすれど穴が空くことは無かったが、扉と壁を繋いでいた蝶番はそうもいかなかった様で、金属が破断する音と共に蝶番を構成する部品が千切れ飛ぶ。扉と壁を繋ぐ蝶番が吹き飛んだことで扉本体が壁から脱落、校舎内の廊下に倒れ落ちる。
「ふぅ。」
(さて、この様子だと中に警備というか見回りの人員は居ないと見て良いな。とすると扉を破る時の音対策は要らなかったか?取り敢えず隠密索敵優先で行こうか。)
一息入れつつ、ズボンのポケットから取り出したぴっちりと手にフィットするタイプの手袋を両手に装着、息と気配を殺して蹴破った入り口から中に入る。
(ん、閉鎖直ぐという事もあってまだ綺麗な状態だ。取り敢えず資料か何かおいてありそうな場所と言えば・・・)
周囲の様子を暗闇に慣れた視界で軽く確認し、素早く移動を始める。いくら爆発音で扉を蹴破る音を誤魔化したとはいえ音を出した事には変わりない。音の発生位置からは素早く離れるのが吉だ。
移動を始めたイサネは廊下から適当に教室を見繕い、音を立てないように教室の扉を開ける。教室の中に入り、適当に書類の置いてありそうな教壇周りや棚、ロッカー等を素早く漁る。
――しかし、
(無い、ここも無い・・・3教室連続でこれか。この様子だと一般的に座学を行う教室には目ぼしい物は無いと見て良い。なら、事務室や執務室に当たる場所に狙いを絞った方が良いね。)
教室に入るや否や片っ端から物が無いか物色するイサネだったが、閉鎖されている事もあり探索の甲斐虚しく一般の教室に何も置いていないという結果だけが収穫だった。それを確認したイサネは一切の感情の起伏を起こさず、探索の狙いを一般の教室ではなく事務室や医務室と言った特殊な目的の教室に絞ると、音を殺して廊下に出る。
(今の所私以外に本校舎に人の居る感じはしない。こちらから切れる索敵の手札が音か気配しかないってのが辛い、目視なんて多分双発見状態の場合が殆どだろうし。というかヘルメットのせいで視界の確保が難しいというのも中々のハンデだ。)
気配と音を殺しながら廊下を進み、時折教室の扉を僅かに開けて中を確認する。そうして校舎内の探索を進めていくと、医務室というルームプレートが張り付けられた扉を見つける。
(医務室・・・政治的な何かがあるとは到底思えないが、さてどうだろうか。)
立ち止まり、その扉をゆっくりを開ける。勿論中に誰か居ないかの索敵も忘れない。
(・・・敵影、じゃなくて人の気配無し。)
部屋の中に設置されているベッドや仕切りによる入口から死角となる部分の警戒も済ませると、イサネはすぐに部屋の探索を始める。が、
(・・・裏口の方向から足音、4人と言った所か。流石に気付かれたか?)
同時に鬼の居ぬ間の猶予も無くなりつつあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そこに誰か居るな?」
その時は案外早く訪れた。
裏口からの足音を聞いて二階に移る事で発見までの猶予を伸ばす傍ら、偶然運良く見つけた事務室に相当すると思われる部屋を物色していた時。
「――!!」
突如部屋の中に差し込む人工的な光。それと人の足音にビンと張り詰めた声。部屋奥の棚を漁っていたイサネは差し込んだ光が自身に当てられていない事を確認。漁る手を止め、動きを悟られない様留意しながら声の方向へ顔を向く。
「・・・気のせいか?確かにここに居ると思ったが。まぁいい、どちらにせよ侵入の痕跡がある上にここの警備の任もある、何処へ隠れようとも探し出すまで。」
(もう捕捉されたか。碌な収穫無しだが・・・制圧するか?)
どうやら何処にも隠れ場が無い事を恐らく警備の者と思われる声から理解し、この状態で取れる選択肢を頭の中で絞り込む。
(退散か、交戦か。)
撤退か交戦。全てがスローモーションとなって世界の中で、イサネは高速で思考を回す。
(声と足音は一つだけ、先程聞こえた複数の足音の主達は分散して捜索に当たっていると言った所かな。人質に使えるし尋問で色々聞く事が出来るかもしれないが、制圧するならあれの仲間が合流する前に無力化する必要がある。)
「・・・不自然なまでに気配が消えた・・・どういう事だ?さっきまで確かに気配があったというのに。一度全員集めるべきか・・・?」
ちゃき、かちゃり。
(ちっ、本格的に入ってきやがった。くそ、こういう時はどうするのが最善なんだ?特定の証拠を取られるのは嫌だが捕まるのはもっと御免だ。)
手に持っていると思われる銃火器を構えながら、警備員と思しき生徒は隙の無い警戒態勢で部屋の中に入ってくる。どうやらリンクスもとい強化人間特有の機械的な気配によって完全に探知されている訳では無い様だが、それも時間の問題だ。アドレナリンによるスローモーションでもがりがりと削れる時間の中、イサネは選択する。
「む、ここ、かなり荒らされ――」
――爆炎。
深夜、色の一切を覆う暗闇を抉じ開ける爆発。衝撃によって部屋の窓ガラスが吹き飛び、発生した爆炎によって部屋に入ってきた何者かが飲み込まれる。
そしてその中を駆ける足音一つ。全身ほぼ黒づくめのヘルメットの不審者――イサネだ。
(階段を駆け上がる音が二つ、廊下を走ってくる音が一つ。グレネードの爆発地点からは動きが無い。相手の練度が不明な以上逃げと決めたらすぐに離脱しなければ。)
この爆発の正体はイサネの投擲した燃焼型の手榴弾――つまり手投げ焼夷弾だ。焼夷弾とは内部に焼夷剤を充填した弾であり、着弾と同時に着火、対象を衝撃や破片によって攻撃するのではなく焼夷剤によって発生する火炎によって攻撃するタイプの兵器だ。イサネはこれを投擲し、完全な不意打ちを成功、その隙に部屋を離脱したのである。
(くそ、せめて警備と思わしき人物がどういう装備をしているのかくらい把握しておきたかったんだけど・・・暗闇の中のフラッシュライトじゃどうにもならない・・・!)
だが、相手の素性が何も分からない。戦場ではそういう事など日常茶飯事なのだが、それでも相手の情報は多い方が選択の幅や最善手を正答に近づける事が出来る為に多い事には越したことは無い事に変わりはない。しかし、今のイサネはフラッシュライトによって暗闇に適応した眼を潰され、相手の外見すら分からないまま離脱を行ってしまった。
――だからというべきなのか。
(ッ!?もう撃ってきやがった!しかも出口は反対側。経路の確認を怠ったのがここに来て響いてくるか!)
咄嗟に身を躱したイサネのすぐ横を通り過ぎる銃弾。恐らく廊下を走ってきた足音の主の者だろう。身を躱す傍ら、フルフェイスのヘルメットの中でイサネの顔が不快の感情に歪む。
「・・・ヘルメット。ヘルメット団の人間か。」
(不意打ちのグレネードを喰らって立っていられるか、となるとこいつら只の警備員じゃないな。恐らく、Rabbit小隊の様な特殊部隊に近い・・・SRTの残党か?)
更には焼夷弾により衣服の所々が煤けてはいるもののこれと言って目立ったダメージの無い人影が部屋の出入り口から手に持ったアサルトライフルを構えながら現れる。そして見えるその外見。
(ミヤコ達が来ていた制服と同型・・・銃を素早く構えられる位置に固定する為のベルト。それに戦闘に特化した
漸く拝見叶ったイサネは即座に得られた情報とこれまでの情報から一人確信を得る。
(やれやれ、後輩に迷惑をかける馬鹿なテ
心の中で目の前のFox小隊と思わしき生徒を貶しながら、イサネは右腰に差したハンドガンを引き抜きながらも逃走を完遂すべく走り出す。
「待てッ、逃がすか!2から4!二階、第一事務室前!発砲許可!」
一方の生徒も頭部に装着したインコムに指示を出し、イサネに追い縋る。
(射撃精度が狙撃手を除いたRabbit小隊の比じゃない、コジマ粒子が使えない状況でそれは中々不味い。いくら私が一般生徒より頑丈と言えど限度がある。急所への被弾は避けないと・・・)
廊下を駆けながら、イサネはこれまでのどの相手よりも正確な射撃精度に舌を巻くと同時に舌打ちを打つ。
これまでイサネが見てきたキヴォトス屈指と言われる者達はそのどれもが銃の射撃だけじゃない圧倒的な力を有していた。例えを上げるならミレニアムのC&Cリーダー、美甘ネルはとにかく近接戦闘を好み、
そして次にゲヘナ風紀委員会委員長、空崎ヒナ。恐らくキヴォトス最強という称号に最も近いであろう存在。イサネ自身交戦した事は無いがその戦闘をネット上に挙げられている動画などで見た事はある。まずちょっとやそっとどころじゃない攻撃を受けて尚顔色一つ変えないその頑強さが第一の特徴か。それに加え小柄ながら身体能力も非常に高く、彼女の持つ
だが、今イサネの背を追う者はそのどれも違い、厳格な訓練と実戦で身に付けた堅実・効率的を更に上の段階へ昇華させたとも言うべきもので、むしろイサネが居た世界の歩兵部隊に要求される強さを有していると言える。
(こいつ、逃げる相手の追い方を知ってやがる。なんて面倒な・・・)
伊達に3年生で構築されてないと言った所だろうか。イサネの背を追う生徒の撃つ銃弾はやたらをイサネの足元を集中して狙っており、足首を狙ったり足を置くすれすれに撃ち込んでイサネが躓く事を狙った銃撃など明らかにどうすれば背を向けて逃げる者を捕らえる事が出来るかを知っている追い方だ。イサネは内心毒づきながらも銃弾を躱し、ストロークを速める。
「っ!」
すると先程までイサネから一定の距離を保ったまま着いて来ていた生徒との距離がぐんぐん離れていく。勿論追い付かんと生徒も走る速度を上げるが、ヘイローを得ずとも常識外の身体能力を持っているイサネの走力の前では流石に同速に並ぶのも難しい。
(よし、取り敢えずこれで四方を囲まれる心配は無くなったと見て良いかな?ここは相手の土俵だろうし、補足された以上どうにかして脱さないと―――)
後ろに着かれていた相手を振り切り、思考を戻すイサネ。だが、時既に遅し。
「やっぱりね・・・喰らいなさいッ!」
「ッ!?」
廊下のT字路を真っ直ぐ駆け抜けようとした時、突如イサネを襲った横から体全体を叩きつける衝撃に彼女の体勢が揺らぐ。
(シールドチャージ!?それも横から・・・!?)
咄嗟の悲鳴を抑え込み、完全に体勢を崩さない様に受け身を取る傍ら、イサネの思考はその衝撃の正体を正確に把握すると同時に、
(横からの攻撃・・・つまり、相手は私がこの経路を使うと予測していたという事。なら、すでに私は――)
―――相手の術中にある。
自らが既に罠に掛けられていた事を理解する。
「こちらFox3、侵入者を捕捉、足止め・無力化を開始するわ!」
「ちっ。」
殺気を感じ舌打ちと共に身を屈める。すると屈めた身の頭上数十cm上を明らかに狙撃用ライフルから放たれた速度を持った銃弾が通過する。
「ほぼ視界に入っていない筈なのに・・・でもね、隙だらけよッ!」
(くそ・・・最初に追ってきた黒髪の一人が来ないと撒くに撒けない。身元が割れても問題無いならどれだけ良かったことか・・・!)
イサネにチャージを叩き込んだ淡黄色の長髪に狐の様な耳を持つ生徒はイサネが遠方から放たれた狙撃弾を目視もせず回避したことに驚きを見せていたが、すぐにライオットシールドを右手に、銃を左手に構えてイサネに突撃を掛ける。
(実戦での言い訳は死者のする事だろッ!腑抜けるな私!お前はそれでもリンクスか!)
「自分が交戦出来る状態にあれば・・・」と、かつてサキに指摘した失態をまんまやらかしている自分を叱責し、面で向かってくるシールドに対し正面から踏み込む。がんっ!と鈍い音と共に両者がぶつかり、力比べが始まる。イサネはシールドの上縁を右手で、左縁を左手で掴み、ぎりぎりと二度目のチャージを押し返す。
(力じゃこっちが上だ、抑え込めばどうせ――)
「所詮力任せねっ、と!」
イサネの膂力を数瞬で理解したのか、淡黄色の長髪の生徒は右腕に固定したシールドに乗せていた自身の重心を解き、体を左にずらす。同じくシールドに体重をかけていたイサネはその引きの動作により重心を崩し、前につんのめりそうになる。
「そこね、動かないで。」
イサネの勢いを完璧にいなした淡黄色の髪の生徒はそのまま前につんのめったイサネの後ろに回り込み、左手に持ったアサルトライフルをその頭部に突き付ける。相手は体勢を崩し、自身は背後に回って頭部に銃口を突き付けている。正にチェックメイトかと思われたが、
(そう来るって思ったよ!慢心したなぁッ!!あっははッ!!?)
獰猛な山猫はそれを読んでいた。
「えっ――」
声を上げる訳にもいかないので心の中で底から湧き上がる昂揚に笑い、崩した体勢のままイサネは左手を後ろに伸ばして自身の後頭部に突き付けられたアサルトライフルのバレルを掴む。
「嘘でしょっ、そんな事――なんて力!」
反応する間もなく銃身を掴まれた盾持ちの生徒はすぐにその手を振り払おうとするが、ここに来て勝機の無い単純な腕力勝負になっている事に気付く。が、気づいた所でもう遅い。
「ひゅッ。」
声を出さない様、かつ力が入る様上手い事口から息を吐き出し、後ろで銃身を掴んだ腕を起き上がる体に合わせて思いっ切り前へと回す。直後、真っ暗だった廊下の明りが全て点灯するが気にしない。半ばで飛んできた狙撃を腕の遠心力に任せた体の回転で回避し、狙撃された方向まで腕を振って手に持っていた
体ごと振り回されると察した盾持ちの生徒は咄嗟に銃を手放すが、銃を体に装着したハーネスベルトに固定していた事が災いし、ハーネスベルトの締め上げと共に振り回され投げ飛ばされる。
「ぐぅっ!?」
「え、嘘でしょ――」
「なんだと・・・!」
投げ飛ばされた体は半ばに居た濃い鼠色の長髪に狐耳の生徒――初めにイサネを捕捉した生徒を通過してT字路の奥、階段に上手い事伏せる形を取っていた潤色の短髪に同じく狐耳を生やし、伏せた体に大型のライフルを構えた生徒を襲う。
狙撃手の生徒は伏せていた体を更に階段の端に寄せ、有り得ない物理現象を纏ってすっ飛んできた人間砲弾を回避する。訓練によって身に付けた反射の回避こそ間に合ったものの、人が1m以上浮いた状態で数m以上投げ飛ばされるという光景を目にした衝撃は彼女に引き金を引かせる事を忘れさせてしまっていた。
(なんか校舎内の電灯付いてるけど、どうせここに居ないFox小隊の誰か――Rabbit小隊で言うモエみたいな役回りがなんかやってんでしょ。面倒な罠に掛けられる前にさっさと逃げるッ!)
明らかに相手に隙が出来た事を見たイサネは懐のスモークグレネードを2つ取り出し、こちらに向かってくる濃い鼠色の長髪の生徒の目の前の地面とこれから自分が逃げる経路の先にピンを抜いて投擲する。
「それを持っているとは・・・!Fox2!」
周囲が完全に白煙に閉ざされたことを確認したイサネは彼女らに背を向けて走り出す。後ろで何やら指示を出している声が聞こえるが無視。この状況では相手の策の看破よりも離脱を優先する方が良い。イサネは反対側の階段目指して廊下を駆け抜ける。
が、
『そこまでだよ、泥棒さん。』
「ちっ。」
階段まであと一歩の所でけたたましい警報と共に防火シャッターが下り、階段のと廊下を隔絶する。考える前も無く先程の「Fox2」と呼ばれた存在の仕業だろう。イサネは目の前で閉まったシャッターを前に歯噛みする。
(ぶち破って無理矢理下に降りても良いけど・・・そんなことしたら確実に追い付かれる。)
イサネの膂力を以ってすれば防火シャッターを破壊する事くらいはそう難しくはない。だが、それをするとシャッターが現れる度に足を止める羽目になりすぐに追いつかれてしまう。それにスモークグレネードだってもう役目を果たしていない筈だ。迷っている暇すらない。
(・・・ここ2階か。窓ガラスはあるし、やるしかないよねぇ。)
覚悟を決め、イサネは再び動き出す。
(まずは――)
「待て・・・っ!」
イサネを再び追い縋っていた濃い鼠色の長髪の生徒目掛けて再び焼夷手榴弾。しかし、流石は推定Fox小隊と言うべきか、彼女は突然投擲された焼夷手榴弾に完璧な反応を見せる。走るフォームを崩さないまま、投擲物を見事に銃のストックで打ち返す。
(やべっ、まさか打ち返してくるとは・・・いや、一応ガラスは割れるからいいか。それくらいは受け入れ・・・たくないな。化学繊維って燃えると臭いん――)
――爆炎。
・・・慈悲なんて無かった。打ち返された焼夷手榴弾はイサネと鼠色の長髪の生徒の間で起爆。爆発のように広がった超高温の炎は二人を瞬く間に飲み込む。
(くぅっ、びっくりする位熱い!けどシュミレータで感じたAMSの焼ける感覚に比べれば幾倍もマシだ!早く窓から――)
心の中で悪態をつきながら、イサネは建物には必ず設置されている窓から外に逃げるべく爆炎の中を走るが――
「ここだ。」
「ッ!?」
突如全身を駆け巡る切り刻まんばかりの激痛。同時に体中の感覚が激痛を除いて消え失せ、その場にくずおれる。激痛で明滅する視界の中、はっとして視線を上げるとリーダー格と思しき生徒の手には通常の銃火器とは明らかに形状の異なる銃が握られているのが見える。
(す、スタンガン・・・完全に警戒の範囲外だった・・・だから化学繊維は燃えると臭いなんて本当に私は戦場で何を考えて・・・!)
そう、イサネを追い縋っていた彼女は爆炎の中に突っ込むのではなく、イサネの狙いが窓である事を見抜き、警備任務用に装備していたSRT仕様の高出力テーザー銃を窓辺に近づくイサネに撃ち込んだのだ。
辛うじて声を上げる事は無かったものの、激痛と眠気の無い麻酔の様な麻痺が全身を蝕み、行動を阻害する。その間にも燃え上がる爆炎はイサネの体を燃料と定め寄生、より燃え上がらんとする為の燃料として彼女の肉体を燃やす。
「・・・まだ動けるのか、暴徒鎮圧用の特別製で並の相手なら抵抗の間も無く昏倒するというのに、なんてタフネスだ。」
並みの生徒すら昏倒する程の電流を流されてなお動くイサネのタフネスに驚く彼女だったが、「だが、流石にこれで終いか?」ともう一度テーザー銃の照準をイサネに向ける。そして引き金に掛けた指が徐々に引かれていき――
かちり。
「なっ・・・!」
――驚愕、硬直。
先程の一射目とは違い至近距離かつ体が碌に動かない状態。だというのに、イサネは必中と思われたその電極を躱して見せた。身を捩り、すれすれで飛んできた電極を躱す。と同時に右腰のホルスターに収められたハンドガンを引き抜き、撃つ。
「うっ!?」
イサネがこの状態で反撃に出るというあまりに低い可能性を選んだ事で対応が遅れ、リーダー格と思しき生徒は手に持ったテーザー銃を銃撃によって弾き落されてしまう。
(くそ、人生初の潜入とは言えいくら何でも失態が過ぎる!)
イサネはテーザー銃の脱落を確認するや否や悪態と共にグレネードの爆発でガラスが割れた窓から外に身を投げる。
「うぁぁ・・・まだ体が・・・っ。」
今だ痺れの残る体を無理矢理動かし、壁を蹴る事で落下の勢いを殺して地面に着地。ふらつきながらもそのまま走り出す。
「・・・まだ麻痺が残っている状態で、あそこまでやってのけるか。」
未だ燃え盛る炎を前に、リーダー格の生徒が濃い鼠色の長髪を窓から吹き込んでくる夜風に揺らしながら一人零す。
『ターゲット、監視域外へ離脱。・・・逃げられちゃったね。』
彼女の頭部に装着されたインコムから、落胆の意を乗せた声が聞こえてくる。
「完全に背後を取られた状態でFox3をあんな方法でダウンまで持って行くというのは流石に想定外だった。凄まじい身体能力というべきか。」
『それにフルフェイスヘルメットと体型を隠すぶかぶかの服装、これじゃあ人物の特定も出来ない。ヘルメットと言えばヘルメット団が真っ先に挙げられるけど・・・』
「まぁその線は無いと見て良い。恐らくこうして特定や捜査を攪乱させる為の服装なんだという事は容易に想像がつく。なぜ何もないSRTの校舎に侵入したのかは分からないが。」
インコム越しに会話を広げる傍ら、彼女はちらりと廊下の奥を見る。
「隊長。」
「Fox4、3は大丈夫か?」
Fox4と呼ばれた狙撃手の生徒は淡黄色の長髪の生徒を抱えながらリーダー格と思しき生徒――Fox1に近づく。
「Fox3はこの通りだね、打撲擦り傷はあるだろうけど骨折脱臼以上の重傷は負ってないかな。すぐに目を醒ますと思う。」
「・・・そうか。ならそのまま手当を続行。意識が覚醒次第任務に復帰。その間は私と2で警備と破壊された部分の応急処置に当たる。」
「『了解。』」
報告を聞き、改めて指示を出し終えたFox1は撃ち落とされたテーザー銃を拾い上げ、アサルトライフルを持ち直す。
「全く、良くここまでやってくれたな。いくら封鎖された学園と言えど、まだ完全に消えた訳では無いだろうに。・・・取り敢えず消火器だな。」
溜息一つ。燃焼剤によって消える事無く燃え盛る炎を背に、消火器を取りに行くべく彼女は廊下を歩き始める。
「うぇぇん!パーカー焦げたぁ!これ普段着としても使おうと思ってたのに!」
ブラックマーケットの路地裏、SRT学園の校舎にて火炙りにされた挙句一般人なら昏倒するレベルの電撃を浴びたイサネはヘルメットとパーカーを脱ぎ、自ら投擲したグレネードの炎によってこんがり焼けたパーカーを両手に広げて一人情けなく喚いていた。
「うぅ・・・でも焦げてるのはまだ一部だし、使えない事は無いか・・・?」
先程推定Fox小隊とされるSRTの中でも精鋭中の精鋭を相手に大立ち回りを演じたにも関わらず、今は上半身下着姿という見た者の目と常識を疑う姿で夜のブラックマーケットをとぼとぼ歩いている。
幸い現在時刻が既に朝方に迫りつつあるというのもあり街灯に照らされたブラックマーケットの道路にはイサネ以外誰も居ない。イサネは女性の胸の膨らみを抑えつける目的の一切の色気の無い灰色のスポーツブラとその流麗な体つきをなんの恥ずかし気も無く晒しながら自宅へ向かう。
「クリーニングって焦げた服の修理ってやってくれるのかな・・・?」
恐らく服屋やクリーニング店でも無理であろう難題を呟きながら、イサネは焦げたパーカーを右手に、同じく艶消し塗装の剥げたヘルメットを左手にブラックマーケットを歩いて行く。
「・・・私の服を燃やした事、後悔させてやるからなぁッ!!」
当人らが聞いたらその全員が「ふざけるな。」と返すであろう完全自業自得・八つ当たりの咆哮が、未明のブラックマーケットの一角に木霊した。
戦闘描写でFox小隊の隊員達の名前をまだ乗せたくなかったので識別用に
濃い鼠色の長髪の生徒、始めイサネを捕捉した生徒、リーダー格と思しき生徒 =ユキノ
今回声だけ登場 『』の台詞は大体彼女 =ニコ
淡黄色の長髪の生徒、盾持ちの生徒、投げ飛ばされた生徒 =クルミ
潤色の短髪の生徒、大型ライフルを持った生徒、狙撃手の生徒 =オトギ