透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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なんか章が進むごとにどんどん話が長くなってる...



今度の囲いは穴がある

 

 

 

 

「こんにちは~、Lynx Eatsでーす。ご注文の品、お届けに参りました~。」

 

 

それは、相も変わらず晴れ渡る昼下がりの事だった。連邦生徒会に公園設備の修理という名目の元子ウサギ公園に居るRabbit小隊の支援の申し出を敢え無く拒否され、軽い落胆と共にシャーレに引き下がったその翌日。

 

「Lynx Eats?聞いた事ないな、誰か何か頼んだか?」

 

「いえ、私は特に何も・・・」

 

「私も~」

 

「わ、私もです・・・」

 

Rabbit小隊に事柄の説明する為に子ウサギ公園に向かい、道中でバイトを名乗る生徒から買ったというか貰ったお稲荷さんを小隊の皆と一緒に昼食として食べ終わった時の事。入り口から聞こえるLynx Eatsを名乗る何故か聞き慣れた声に、食後の一同は妙な確信と共に首を傾げる。

 

「あれ、聞こえてないのかな。・・・これでも一般人の出せる声量限界は出してるんだけどなぁ。おーい!生きてますかー!」

 

中々出迎えが来ない事に焦れたのか、声の主はより一層大きな声で公園内へと呼びかける。

 

・・・やはりここ数日で先生と同じく聞き慣れた声だ。

 

「・・・どうせイサネだろ、これ。これまでも何だかんだ入ってきてるんだから普通に入ればいいだろうに。あいつなら今更拒む理由も無いし。」

 

「い、悪戯かなぁ、この状況でイサネがこういうことするなら。」

 

警戒するまでも無い展開に呆れを隠そうともしないサキに先生は顎に手を当てながら口を開く。

 

「面倒臭いな、どうする?燃やしちゃう?」

 

「その為の弾薬類を今こうして調達してるんだろ。・・・おーい!どうせイサネだろー!?入るなら早く入って来ーい!」

 

いつも通り平常運転のモエにサキが先手を打って声を張り上げる。すると「何だばれてたのか。」と未だ先日の豪雨の水が抜けきっていない舗装された土の道を見慣れた灰銀色の長髪を携えた長身の生徒が、何やら長大なケース片手にこちらに歩いて向かってくる。

 

 

「改めてどうも、Lynx Eatsです☆」

 

 

キラッ、という擬音が聞こえてきそうな程明るい笑顔でイサネがサムズアップする。肩に掛けている長大なケースさえなければアイドルとしてもやっていける程の笑顔だ。ケースさえなければ。

 

「・・・で、どんな悪戯を考えてたの?」

 

一瞬静まり返った空気の中、先生がおもむろにイサネに問う。

 

「迎えに来た誰かに出合い頭フラッシュバンでも投げつけてみようかと。」

 

「それやったら説教だよ。」

 

・・・想像よりも悪質だったかもしれない。

 

イサネの回答を聞いたRabbit小隊の4人が心の中で似た様な事を思う一方、先生はあくまでも冷静にイサネのしょうもない悪質さに苦情を入れていた。

 

「流石に冗談だけどね。それで今はこないだの豪雨で使えなくなった武器類の調達会議でもしてる感じかな?」

 

「まぁね、いくら銃弾が水中でも使用できると言ってもあの豪雨だと流石にね。それに銃弾というよりは爆薬とかミサイル、電子機器とかの方が被害が大きいからねぇ。」

 

イサネは苦情を適当に受け流すと、肩に掛けたケースを置いて近くに置いてあった折り畳み椅子を広げ、そこに座る。

 

「でも今の私達は口座が凍結されていて武器類を買うだけの金は無い・・・だから今ここにある故障したミサイルとかと使える武器を交換――言わば物々交換でもしようかと思ってたんだけど。」

 

「買い取り手の方がその交換に渡せる武器が無いとの事で・・・」

 

「無い・・・?どこに取引を持ち掛けたの?」

 

モエの言葉に続けるようにミヤコが話を進める。その話を聞いたイサネは表情一変、怪訝な表情と共に問い直す。

 

「カイザーインダストリーだね。結果として断られちゃったんだけど、でもオークションとか別の伝手を当たってみたら結構上手い事行けて、今は引き取り業者が来るのを待ってる所。」

 

「あー、確かにカイザーは今そういうのは無理ね。しっかしオークションかぁ、SRTにしか卸されていない武器とあれば高くつきそうだな。」

 

ふと、一瞬で三桁万円が吹き飛んでいったあの時(カイザーPMC襲撃)を思い出し、苦笑いと共にイサネは足元に置いた長大なケースに手を伸ばすと共に再び口を開く。

 

「という事は今は買い取り手待ちって事で良いのね?じゃあちょっと見てもらいたいって言うか、銃火器の専門家の意見が聞きたい物があって。」

 

「私達がお前に教えられる事なんて無いと思うんだが、特に戦闘面に関しては。」

 

「まぁ戦術とか戦い方ならともかく、人の持つ携行火器は一般人くらいの知識しかないもん。で、本題はこれについてなんだけど・・・」

 

イサネは膝の上に乗せたケースの蓋を開ける。

 

 

「っ、これは。」

 

 

銃火器に余り詳しくない先生を除いた一同が息を呑む。中に入っていたのは何の塗装や装飾もされていない状態で分解された巨大なライフルだった。

 

「モデルalligator。全長2mくらいの対物ライフルで、12.7mmの上、14.5×114mmを銃弾として用いる。スペックデータが正しければ有効射程は2000mで、初速が・・・幾つだったっけ。」

 

「お前、よくまぁこんな物を見つけられたな・・・私の記憶が正しければこれ市場に殆ど出回っていない代物だぞ。」

 

サキが驚愕を口にする傍ら、資料の斜め読みによる影響で若干あやふやな解説をしながら、イサネはサキの疑問に答える。

 

「買ったんじゃなくてどっかの企業潰した時に戦利品として分捕って来た物だから実質タダね。」

 

良くも悪くも標根イサネ、もとい万物の天敵による組織潰しは裏社会は勿論の事表社会においてもイサネの代名詞としてそれなりに有名だ。それは傭兵業を休業していたとしても変わりはなく、恐らくここ最近でイサネに喧嘩を売った哀れな企業が彼女の手によって潰されたのだろう。

 

「いやぁ、まだ君らに会う前に潰した詐欺業者の元締めが鑑賞品みたいに飾ってたからもしやと思ってかっぱらってきたけど、獲って正解だったわぁ~。」

 

あっけからんとそう言ってのけるイサネに、先生含め一同心の中でその詐欺業者集団の冥福を祈る事しか出来ない。尤も生業が詐欺なので因果応報とも言えなくも無いが。

 

 

「まぁそんな事は正直どうでもいい。用があるのはこいつのカスタムについてなんだけど――」

 

 

話を戻したイサネは業者待ちの4人+1人を巻き込んでライフルと呼ぶにしては余りにも長大過ぎるそれのパーツを弄り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ご利用どうも。」

 

 

短く切り詰めた言葉と共に、たった今取引を終えた業者の乗る車がエンジンを鳴らしって遠ざかって行く様子を眺める。

 

 

「まさか、あの壊れたミサイルを欲しがる方がいるとは・・・意外です。」

 

 

「そ、それに全部現金で・・・こんな額のお金、初めて見た・・・」

 

 

そう零す二人の手には束が三つか五つ程の現金紙幣が握られている。その横で先生が「わ、私の給料半年分以上だぁ・・・」と乾いた笑いを上げている。そして何故彼女達がそんな大金を手にしているかというと、イサネの持って来たライフルを弄っている最中に来た買い取り業者に使えなくなった武器類を売り渡した時の結果であり、売った武器達の買い取り額だ。

 

「・・・あいつ、なんだか怪しいな。器用に顔を隠してるし、武器の状態とかも確認しなかったし、何よりこの額で値引き交渉も無しとか。」

 

未だ視線を徐々に視界から消えつつある車に注ぎながら、サキがスマホ片手に口を開く。

 

「・・・もしかして、そのお金は偽造紙幣じゃないのか?」

 

「まぁまぁ、お金の出所なんてどうでも良いじゃん。新しい兵器が買えるなら問題無いし・・・というかサキ、何で最初に注文するのがガソリンと固体燃料なわけ?」

 

サキの持っているスマホの画面を覗き込み、そう苦情を入れるは今回の武装調達で一役買ったモエだ。今サキの持つスマホの画面はガソリンや燃料と言った物を注文するメニューが映し出されており、そこに銃火器や爆弾類は無い。

 

「こんなにお金があるんだから、プラスチック爆弾でも買えばいいのに。」

 

「お前は爆弾でご飯を炊く気か?それにヘリを動かすのに必要だろうが。火力はあればあるほど良いって訳じゃないだろ。」

 

「何言ってんの!戦場で一番大事なのは火力でしょ!」

 

火力か、燃料か。札束が幾つもある以上どうせ必要分はどれも揃えられるというのに、しょうもない言い争いに発展しかけたサキとモエだったが、相変わらず折り畳み式椅子に座って長大なライフルを弄っていたイサネの「どうせ全部買えるんだから良いでしょ。」という言葉によって遮られる。

 

「兎に角、良かったです。これで戦力も、ある程度回復させることが出来ました。暫くは誰か来ても撃退出来そう――」

 

食料などの物資、そして武器類もある程度揃った事で取り敢えずかつて野営を始めた時の6~8割くらいの戦力は確保でき、取り敢えず一安心とミヤコが胸を撫で下ろした時、

 

 

「た、助けてください・・・!」

 

 

何処かで聞いた事のある第7の声が一同の居る野営地に響く。

 

「誰か変な声を出したって訳でも・・・うん?誰だあいつ?」

 

先生、Rabbit小隊の5人が首を傾げる中、イサネがこちらにふらふらと歩いてくる人影を見つけ、声を上げる。はっとして一同がイサネの指差す方向を見ると、そこには憎たらしい程に見覚えのあるロボットが立っていた。

 

 

そう、デカルトである。

 

 

「言ってる傍から侵入者じゃん。」

 

 

デカルトは一度自分の私利私欲の為にRabbit小隊、先生、そしてイサネを振り回し、そして彼をリーダーとするホームレス集団【所確幸】諸共彼女らに叩き潰されたという経緯がある。故に、彼を見たRabbit小隊の対応は早かった。

 

「くひひ、ナイスタイミング。折角買ったこいつ――が届くのは明日だからイサネ、GO!」

 

「任された。独立傭兵首輪付き、攻撃を開始する。」

 

そしてイサネもそれに乗っかる。手に持っていた対物ライフルに14.5×114mmという人の指を優に超える大きさの銃弾が入ったマガジンを叩き込み、まさかのスタンディング(立ち撃ち)の姿勢でスコープ――は外しているのでアイアンサイトの照準にデカルトを捉える。

 

「もう私の事を忘れたのか!というかさっき助けてと――え、なんだその巨大な銃は・・・って、それをこっちに向けるな!危ないでしょう!」

 

「うるさいよ害虫。今その欲にまみれた脳漿を取り除いてやるから動かないで。・・・(タマ)も一緒に殺っちゃうかもしれないけど。」

 

「人の話を聞かなさ過ぎる!」

 

「イサネ、ちょっと待ってあげて。」

 

取り敢えずただ事じゃないと理解した先生が止まる気配の無いイサネを上手く宥め、何とかまともに話が出来る状態にまで落ち着かせる。

 

「・・・それで、今回はどうしたのですか。私達は原則的に市民間の私的な紛争には介入しないのですが。」

 

ミヤコが、先生やイサネと初めて会った時の様な冷たい声色でデカルトに問う。

 

「そうそう、問題が起きたのならあの・・・背格好?とか言う仲間に助けて貰えば良いじゃん。」

 

「所確幸だ!所有せずとも確かな幸せを探す集い!略して所確幸!」

 

最早名前すら覚えて貰えないデカルトに僅かに同情の念を覚える先生。そして一通り誤解と間違いを訂正したデカルトはごほんと咳ばらいをし、話を進める。

 

「悲しい事に所確幸の仲間達はみんなバラバラになってしまったのです・・・」

 

「そりゃあの時探知出来た構成員は片っ端から潰したからね。居なくて当然でしょ。」

 

「イサネ、少し黙って。」

 

口を挟むイサネを弾圧し、デカルトの話を聞く。

 

「貴方達とそこに居る危険極まりない人によってただでさえ数の少なくなっていた所を、ヴァルキューレの公安局が押し入って来て・・・!」

 

「公安局?」

 

ここでモエが口を挟む。

 

「公安局が、あんたたちみたいな浮浪者と喧嘩しに来る訳無くない?」

 

「警備局の間違いでは・・・?」

 

実際そうだろう。ヴァルキューレ公安局とは本来テロリストや警備局ではどうにもならない相手と戦う時に動く部署で、たかが犯罪の一つも犯していない浮浪者相手に出動することなど100%無いと言っても良い。

 

「いえ、確かなのです!私はこの目ではっきりと見ました!」

 

だが、どうやらそうでもないらしい。デカルトは語気を強めて更に続ける。

 

「見慣れない武器を持ち、私達の聖域で暴れる【狂犬】の姿を!」

 

「カンナが?」

 

当然と言えば当然なのだが、公安局が動くという事はヴァルキューレの【狂犬】の異名を取る公安局長、尾刃カンナも当然動く。そしてそれを目撃したと言うのならば、デカルトが嘘を吐いていない限り本来はありえないを覆す例外が発生したという事になる。

 

 

「・・・おい、その弾痕を見せろ。」

 

 

黙ってデカルトの話を聞いていたサキだったが、彼の体に刻まれた傷を見て突如口を開く。

 

「この発火の具合、角度からしても硬度が高い・・・これ、HEIAP(徹甲炸裂焼夷弾)だな。」

 

「撃たれた後を見ただけで分かるの?」

 

HEIAP。high explosive incendiary/armor piercing ammunitionの略称で、徹甲炸裂焼夷弾とも言う名称の通り高貫通力の徹甲弾、着弾後に炸裂する榴弾、そして高温の炎を発生させる焼夷弾の三つの機能を有した弾頭だ。着弾時に先端に充填された焼夷剤が着火し、大きく炎上。その後弾頭内部にある高硬度の弾芯が対象の装甲を貫通し、内部で内蔵されている炸薬が起動するという構造により主に対物ライフルから機関銃程の銃火器間で様々な種類がある。

 

「完全にでは無いけど、教本に載っている事だ。」

 

「・・・この口径のHEIAP、初めて見ました。」

 

触診を行うサキの横でミヤコも物珍しそうにその弾痕をまじまじと眺める。

 

「とはいえ、そもそもあんまり生産されている物じゃない。個人の携行する火器にしては高すぎるし、実用性も高くない。強いて有り得るとすれば・・・」

 

そう、榴弾と焼夷弾と徹甲弾の機能を持っていると言えば聞こえはいいが、実際の所は戦車の装甲に対して用いる弾頭であり、人に撃つ者としては攻撃力が高すぎる。ヘイローの無い者がそれを受ければ燃焼よりも先に銃弾が身体を過貫通してしまう事だって在り得るだろう。そして肝心の戦車相手ではまず直撃が大前提であり、カス当りや傾斜装甲に弾かれてしまっては何の意味も無い。そしてこれらは銃弾に対して耐性を持つキヴォトスの人間でも同じく過剰火力であり、一般の販売店には余り出回らない代物だ。

 

「カイザーインダストリーなら、取り扱っているか?」

 

故に、販売元の特定も容易となる。

 

「となると、カイザーインダストリーから大量に武器を買い占めたのは、ヴァルキューレって事?」

 

「で、でも、ヴァルキューレ警察学校に、そんな資金的な余裕があるかな・・・?」

 

モエとミユの言葉を聞き、先生の脳裏に蘇るはニンジン作戦の数日後。町の見回りをしていた生活安全局の中務キリノとばったり出会った時の会話。

 

――この機にヴァルキューレもより最新式の装備に変えて貰うというのは・・・?

 

――とはいえ、まぁ難しいでしょうね。そもそも生活安全局の基本業務に、犯罪者の制圧は含まれていませんから・・・

 

――それにどうやらヴァルキューレ全体としての財政状況も良くないそうで、弾丸の補充にも一苦労です。

 

(ヴァルキューレは今弾丸の補充すら苦労する程には財政状況が良くない。だというのに、カイザーから大量の武器の購入を・・・?)

 

「先生、どうかしましたか?」

 

唐突に黙り込んだ先生に問い掛けるミヤコに返事をしながら、先生は頬に手を当て考える。

 

「なんだ、立ったまま昼寝でもしてるのかと思った。」

 

「起きてるのに夢が見られるのは良い事だねぇ。」

 

「立ったまま寝られるなら是非そうしたいよ・・・書類が終わらないから・・・」

 

何気に失礼な事を言うサキに割と切実な己の弱音を吐きながら、半ば確信に近い事実を弾き出す。一方のミヤコは会話に入って来れないデカルトに声を掛け直すが、

 

「とにかく、ヴァルキューレの件はご愁傷様でした。」

 

「ご愁傷様じゃない!君達にとっても他人事ではないんだぞ!」

 

デカルトはそれを突っぱねると、焦りの感情の籠った声で捲し立てる。

 

 

「公安局のターゲットは私達だけじゃない、この周辺をパトロールして、目につく者片っ端から追い出そうとしているんだ!今ここに来たとしても、何らおかしくは――」

 

 

その時だった。

 

 

「伏せろッ!」

 

 

横で巨大なライフル片手に話の聞き手に徹していたイサネが突如鋭く吼え、デカルトの頭部を掴むと地面に叩きつける勢いで自分諸共伏せさせる。

 

 

「ぶべぇっ!?」

 

 

――銃声。

 

 

直後、伏せた二人の上を数発の銃弾が通過し、茂みへと消えていく。

 

「ッ!!?」

 

空気が一瞬で切り替わる。平穏から急激に騒乱へと、穏やかから急激に緊張へと。

 

「ちっ、デカルト!早く茂みに身を――って、なんでこれで気絶してんのこいつ!」

 

イサネが舌打ちと共に伏せさせた時に頭部を打って気絶したデカルトの体を放り捨てる。そしてそれを見ていたRabbit小隊も各々武装を構える。

 

「もう来たか・・・!」

 

サキが苦々しく零した言葉に応える様に、一同の居る公園の広場にヴァルキューレ制服を着た生徒集団が入り込み、一同を囲い込む。

 

 

「公安局だ!不法滞在者を発見した!」

 

 

既に戦端は開いていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

空気が歪む程の緊張。包囲に近い状態でヴァルキューレ公安局の生徒達と対峙するRabbit小隊と2人。

 

 

(集団の気配を全方位に感じた時点で話を遮ってでも警告すべきだった。完全に私の失態だ。くそ、キヴォトスに流れ着いてからというもの随分と腕というか勘が錆び付いている。これじゃあ万が一の事態に碌に何も出来ない・・・!)

 

 

その中でイサネは、場の緊張感そっちのけでキヴォトスに来てからの自身の腕の錆び付きを自覚せずにはいられなかった。

 

(とにかく今はこの場をどう切り抜けるか。・・・まぁ取り敢えずカマかけてみるか。)

 

自身がカイザーとヴァルキューレ、ひいては防衛室の繋がりの証拠を持っている事を使い、ヴァルキューレの生徒達の統率を崩そうと手に持っていた対物ライフルのグリップではなくバレルを握り、一団に近づく。

 

「っ!?そ、それ以上近づくな!」

 

「撃ちたいなら撃ってどうぞ?その場合正当防衛として私も撃ち返すけど。」

 

やはりと言うべきか、イサネが一定の距離まで近づくとその近くに居たヴァルキューレ生が手に持ったアサルトライフルをこちらに向けて警告を行う。

 

(反応が鈍いね。彼我の距離は3m以下、はっきり言ってこっちの間合い、銃を奪い取れなくともどうにでも出来る。盾も持ってるみたいだけど・・・難しいぞ?この距離の戦闘を盾で凌ぐのは。)

 

だが、イサネはその警告を無視して更に歩を進める。

 

「ほ、ほ、本当に撃つぞ!次は無いぞ!く、来るんじゃないっ!」

 

「だから撃ちたきゃ撃って良いって言ってるでしょう?撃てばいいじゃん。」

 

彼我の距離が2mを切るが、イサネに向かって発砲を行う者は居ない。

 

 

「う、く、来るな・・・っ!」

 

 

だが、撃たない。

 

 

「ほら、彼我距離がそろそろ1mを切るぞ?撃たないの?」

 

 

否、撃てない。

 

 

「うぅ、うあぁぁ・・・っ!」

 

 

そう、撃てない。引き金を引く指が凍り付いて動かない。膝もかくかくと震えて言う事を聞かず、足先の感覚が既に薄い。口から言葉にならない悲鳴が漏れる。

 

理由は勿論明白、彼女の目の前の相手がかの万物の天敵と名高い標根イサネだからだ。一騎当千の戦闘能力に、敵に対して凄惨なまでの攻撃。彼女を内面を知らない者はこの所業を前にして一定の恐怖や畏怖を感じない方がおかしい。ましてやそんな存在が敵意を見せながら近づいてくるのだ、余程の者でなければ恐怖を表に出さない事すら不可能だろう。

 

「・・・話聞いてる?」

 

しかし、当の本人はカマを掛けようと話し掛けたのは良いが肝心のヴァルキューレ生が恐怖に震えて碌に応答も無いことに気付き、怪訝な表情になりながらも僅かな心配を以って声を掛けるが、

 

 

「野生動物は危機に瀕すると最も強い群れにすり寄るもの。・・・探す手間が省けたな。」

 

 

「・・・尾刃カンナ。」

 

 

それよりも先に張り詰めた低い声が割り込む。声の方を向くとそこには、今イサネ達を囲む公安局を束ねる局長にして【狂犬】の異名を取る叩き上げの刑事――ではなく公安局長、尾刃カンナの姿があった。

 

「それと標根イサネ、うちの部下を必要以上に怖がらせるのを止めてもらおうか。・・・尤も公安局の生徒が誰かを恐れるなど、本来あってはならない事だが。」

 

「あのぉ、全く威圧する意図は無いんですけど・・・」

 

「それは受け取り手次第だな。それに見た所お前のする威圧は他の者のやる威圧のそれとは随分と本質が異なる、普段の行動からしてもう少し自覚を持って欲しいのだがな。」

 

「制圧担当の警官が威圧されてびびってる方が問題でしょ・・・」

 

カンナの公安の人間としては矛盾している発言にイサネがぶつぶつと愚痴を垂れ流す中、Rabbit小隊の面々も口を開く。

 

「・・・ヴァルキューレ警察学校の、狂犬。」

 

「カンナだ、せめて公安局長と呼べ。嫌いな渾名では無いが、そもそも私達は渾名で呼び合う仲でもないだろう。」

 

「いや、狂犬を渾名と言うのは中々に無理があるでしょ。」

 

「・・・そういう問題ではない。」

 

どうやら狂犬という渾名はカンナのお気に入りらしい。サキとモエによる緊迫した空気の中のしょうもないやり取り。それを聞いていたミヤコは一呼吸挟み、口を開く。

 

「それで公安局長、ここには何の御用で?」

 

「・・・自分達の行いを理解した上で、その質問をしているのか?」

 

しかし、それに対してカンナの口から返ってきた言葉は正に違反者に対する無理解を示すものだった。軽く目を見開いたミヤコにカンナは改めて突き付ける様に本題を話す。

 

「市民達が使う公園を不法に占拠し、地域社会に不安をもたらしている存在が居る。・・・そう聞いて取り締まりに来ただけだ。」

 

横で一人ぶーたれていたイサネはカンナのその発言に愚痴を止めてカンナを見る。そして、モエもカンナの言葉に対し即座に反論を述べる。

 

「と言っても、ここに居て良いって言ったのは防衛室長なんだよ?まぁシャーレ経由でだけど。それでも、ヴァルキューレの局長さんが上の命令に逆らって良い訳?」

 

「・・・何か勘違いしている様だな。まず防衛室長がこの公園に居て良いと仰ったことは無い。只貴様らの処罰を保留すると言っただけだ。」

 

だが、カンナはそれを無感情に斬り捨てる。

 

「更に言えば、公園の管理は防衛室の管轄ではありません。つまり、私達に立ち退きを要求するというのは正当である、という事でしょうか?」

 

それを聞いたミヤコが補足と共に付け加える。

 

「・・・帰る場所が無いって知ってるくせに。良い性格してんね、公安局長さん?」

 

ミヤコに続くようにモエが嫌味を言うが、所詮は苦し紛れ。カンナはそれに一切の耳を貸さない。

 

「で、ですが、公安局が直接・・・?治安関連なら、警備局の管轄では・・・?」

 

「まぁその、「本来は警備局の仕事」という原則が適応されない状況なんでしょう?今は。」

 

「そういう事だ。こういった業務は基本的に警備局の管轄だが、こちらにも事情がある。」

 

ミユの質問にイサネが例外の可能性を語り、カンナもそれを肯定する。

 

 

「よく分からないけど、無理矢理追い出しに来たって訳?」

 

 

それを聞いていたサキは下ろしていた軽機関銃――【Rabbit-26式機関銃】を構え直す。

 

「私は別に良いけど、前回散々な結果だったのを忘れた訳?」

 

モエも既に戦闘準備を整えている。が、それでもカンナは一切動じない。それ所か――

 

 

「風倉、言葉は慎重に選んだ方が良い。聞いた話によると、先日の豪雨で装備の大半が浸水したらしいな?」

 

 

Rabbit小隊側の物資事情すら把握して指摘する程の余裕。これには戦意満々のサキもモエも目も見開いて息を詰まらせる。

 

「中古品を売って新しい装備を手に入れた事も聞いている。だが公園全体をカバーするのには少々心許無いのではないか?」

 

その様子を眺めながら、カンナは更に続ける。

 

「公安局は今回、スポンサーの協力を得て大量の火器を確保した。」

 

改めて周囲に展開するヴァルキューレ生の装備を見ると、そのどれもが太陽の光によって新品の輝きを見せている。

 

「貴様らがエリートだという事は知っている。しかし数的有利を覆せるかどうか話が別だ。」

 

諭す様に、事実を解説する様に語り、カンナは目の前に対峙するRabbit小隊に一歩詰め寄る。

 

 

「さぁ、早めに決めろ。大人しくこの公園を去るか、それとも試しにその粗悪な銃器で戦いを挑むか。」

 

 

「あははっ!随分面白い事言うのね、狂犬さん。」

 

 

圧倒的不利という事実を突きつけられて尚「はっ、本当にやる気みたいだな。」と意気込もうとしていたサキよりも早く、そして軽く笑い飛ばす声が場に響く。そう、イサネだ。

 

「・・・これに関しては貴様にも言える事だとは思うが?標根。手に持つそのライフルは確かに驚異だが、それで複数を相手出来るのか?」

 

「出来もしない事を口走っても恥晒すだけよ?武器が良くても扱い手の練度が低けりゃ所詮は豚に真珠でしょう?」

 

カンナはその場にいたイサネの事も計算に入れていた様だが、イサネ当人は強烈な侮蔑と共に不敵な笑みを浮かべてカンナの目の前に立ちはだかる。

 

「ほう?対テロ特化に訓練された公安局も物の相手では無いと?」

 

「その総勢を以てしても七囚人とやらの一人も相手取る事が出来ないなら紛う事無き事実でしょう?それとも、公安局って言うのは弱い者いじめの為の部署なのかな?・・・元SRTの生徒小隊が弱いかどうかは知らないけど、おたくも防衛室も随分と暇なのね。」

 

イサネとカンナ。獰猛な狂犬と血塗れの山猫が敵意と殺意を隠しもせず睨み合う。一瞬で緊迫から常識外の魔境へと姿を変えた子ウサギ公園の広場の中、イサネは更に口撃を仕掛ける。

 

 

「それとぉ、ははっ、君らの持っているその武器。確かスポンサーだっけ?まぁ大層な資本が裏に付いたみたいだけど、武器に刻まれているロゴってかの悪名高いカイザーコーポレーションでしょう?なぁんで正義の治安維持組織様が、カイザーなんて言う明らかに犯罪に手を染めている企業のバックアップなんて受けてるのかな?」

 

 

――自身の持ちうる最大にして、彼女達(ヴァルキューレ)にとって致命傷にも近い切り札を。

 

 

「っ・・・!」

 

 

ここにきて、初めてカンナの表情が乱れる。

 

「随分と面白い事もあるもんだ!あっははははっ!?ねぇ、どうなのさ!?教えてくれよ!正義の象徴ヴァルキューレ様は、悪い悪い企業の走狗になっちまったのかぁ?えぇ!?」

 

そんなカンナの様子を見るまでも無く、情緒一変にイサネは更に追い打ちを掛ける。

 

「ねぇどうなのさ!ほら、戦う事しか能が無くて、他人に配慮出来ない低能な獣にも分かるように教えてくれよ!!ヴァルキューレは金の犬に墜ちてしまったんですかぁ!?」

 

「・・・」

 

だが、カンナは何も言葉を返せない。そしてイサネは止まらない。

 

「まぁ言えないよねぇ!何せ取引のデータはき・み・つ情報だからねぇ!?」

 

煽る。

 

 

「まぁでも分かるよ!?いくら公安局の局長様と言えど所詮は連邦生徒会防衛室の下部組織。連邦生徒会すらの権力拘束すら意味を成さないシャーレと違ってヴァルキューレはそんな事ないものねぇっ!!」

 

 

――煽る。

 

 

「そんな中での局長なんて言わば中間管理職、下や現場の事情と上からの無茶振りに常に振り回され続け、押し潰され続けるかわいそぉ~な立場!」

 

 

―――煽る。

 

 

 

「分かるよぉッ!どうせ防衛室長とかから滅茶苦茶な要求とかノルマ、予算削減を喰らっている中でこうして元特殊部隊の暴走。辛いよねぇ!苦しいよねぇッ!自分の信じる正義と異なる汚泥にただ身を晒し続けるのは!まぁ私ははじめッから独立傭兵(ひとり)なんでなぁんにも分からないんですけどねぇッ!あはっ!あひゃッ、あっははははははーーッ!!」

 

 

 

―――煽り散らす。

 

 

 

欠片の理性も存在しない笑顔で、体を震わせて付着した泥や土を撒き散らす獣の如く煽り続けるイサネ。だがやはり、カンナはそれに対し非常に渋く苦い表情でイサネを睨む事しかしない。

 

 

「・・・貴様。」

 

 

「あぁ悪いねぇッ話を遮ってしまって!確かこれから戦闘かな!?良いよ良いよ撃ってきなよ!カイザーのロゴの刻まれた自慢の武器で撃ってきなよッ!?いやぁ燃えてきたねぇ!戦う事しか能の無い獣の唯一の役割が果たせるッ!!」

 

 

最早別人と言っても遜色無い程にまで口調の変わったイサネがイカれた昂揚に染まった顔をそのままに、持っていた対物ライフル――alligatorを片手で向ける。

 

「ほらッ、兎の皆!戦いだよ!武器を構えないとやられちゃうよ!?今度はシャーレの恩情とかは無い、間違いなく矯正局か牢獄行きだよ!さあ――」

 

「ちっ、総員戦闘準備!詳しい訳は後で話す。今は目の前の相手を――」

 

カンナとイサネ、それぞれが部下とRabbit小隊に声を掛ける。イサネの声を受けたRabbit小隊は幾つもの疑問を後回しにそれぞれの武器を構え、カンナの指示を受けたヴァルキューレ生達は動揺を隠し切れないまま新たに支給された見慣れない武器を構える。

 

 

 

「・・・ちょっと待って貰える?」

 

 

 

人の精神を破壊するまでに締め上げられた緊張の中、正に双方が踏み出すまで後コンマ数秒以下と言った所、場に響き渡る第三者の声。そう、これまでの話をずっと黙って聞いていたシャーレの先生だ。

 

 

 

「少しで良い、考える時間をくれないかな?」

 

 

 

 

 

 





Lynx Eatsは原作本編中のFox Eatsのパク...オマージュです(断固)
因みにLynxは英語で山猫の意味があり、ネクストを駆るリンクス達の揶揄表現ともあるそうで。

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