透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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まじで執筆進まないのどうにかならないっすかね...?



被食者による反抗作戦

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

狂犬と山猫による物理的な圧すら伴う凄まじい圧と圧のぶつかり合いの後。

 

「・・・イサネ。」

 

「・・・はい。」

 

殺意と敵意の嵐が過ぎ去ったと思われた子ウサギ公園に、今度は敵意や殺意のような鋭さは無いものの何故か逆らう気を失せさせる不思議な圧が渦巻いていた。

 

 

「確かに私は途中で止めなかったし、イサネにも何か知っている事情があるのかもしれない・・・けどね?いくらなんでもあれは言い過ぎだし煽り過ぎ。」

 

 

「・・・はい。」

 

 

――先生である。

 

 

広場にて灰銀色の長髪に整った美貌とスタイルを持つ生徒――標根イサネを正座させ、有無を言わさないオーラを全開で彼女に説教をしている。

 

(・・・首が締め上げられる様な錯覚を感じさせる程の圧を出したかと思ったらこの有様。これが本当にかの万物の天敵と同一人物と?)

 

土が剥き出しになった地面に正座し、殊勝な態度で先生の説教を受け入れているイサネの姿に、Rabbit小隊長月雪ミヤコは閉鎖前のSRT学園で聞かされた標根イサネの凄まじき戦績と慈悲の欠片も無い敵への仕打ちから来るイメージとこれまで数度目にした目の前に居る彼女の現実とのギャップに困惑を隠せないでいた。

 

「普段から言っている事だけど、イサネは相手に対してちょっと慈悲を持たなさ過ぎると思うんだ。銃撃戦が日常茶飯事のキヴォトスだからこそある程度の寛容は出来たかもしれないけど、さっきのカンナに対する口撃は流石に見逃せないかな。」

 

「イサネがどういった環境で育って来たかは知らない。けど、郷に入っては郷に従えという諺の通り、ここではある程度の節制は持つべきだよ。・・・あまりRabbit小隊の皆の前では言いたくないけど。」

 

渋い顔をしながら説教を続ける先生。郷に入っては郷に従え(ヴァルキューレに編入)と言う言葉に現在進行形で抗っているRabbit小隊の面々も流石に耳が痛い。

 

(なんでこんな妙な事に・・・これでは作戦立案もままなりません。)

 

ちらり、と仲間達の方に視線を送ると、

 

「すごっ、あの状態の首輪付きとかもう二度と見られなさそう。」

 

「・・・変な人だとは思ってたけど、一応ちゃんと先生なんだな・・・変な人だけど。」

 

「わ、私達も、失敗したらああいう風に怒られちゃうんでしょうか・・・?」

 

自分も含めた皆が皆説教の様子に釘付けであり、今自分達がすべきことが何も進んでいない。そんな仲間達の様子にミヤコも自分の事を棚に上げて溜息をつく事しか出来ない。

 

 

(この様子では、作戦立案の進行は出来なさそうですね。一先ず説教が終わるまで待ちましょう。注文した武器物資が本格的に届くのは明日ですし。確か、事の始まりは・・・)

 

 

明らかに停滞した時間の中、ミヤコはつい数十分前に体験した自身の記憶を思い返す。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「少しで良い、考える時間をくれないかな?」

 

 

 

常識外の圧に締め上げられ、今にも空気そのものが悲鳴を上げそうになると錯覚する程の殺意と敵意が入り混じった渦の中。先生の発した揺らぎない声がその渦を掻き消して場に響く。

 

「・・・シャーレの先生。」

 

「こんにちはカンナ。こないだ振りだね、応じてくれてありがとう。それと、イサネも取り敢えず武器を下ろして。」

 

尋常じゃない圧の中を平然と進み、先生はカンナとイサネ双方に武器を下ろすように要請する。するとカンナはともかく誰の言う事すらも耳に入っていなさそうなイサネまでもがすんなりと武器を下ろし、渋々と言った様子を顔に出しながらも先生に場を譲る。

 

「・・・申し訳ありませんが、いくら先生の頼みでもこればかりは覆すことは出来ません。既に子ウサギタウン周辺の再開発は決定事項なのですから。」

 

先生が場に出た事でカンナも武力による解決から話し合いのテーブルに舞台を移し、口火を切る。

 

「でも、だからと言っていきなりやって来て出て行けというのは流石に困ると思うよ。」

 

「時間なら、これまでにもあったと思いますが。」

 

先生の言葉にカンナはあくまで表情を変えずに応じる。

 

カンナの言う通り確かに時間だけならあったのかもしれない。しかし、Rabbit小隊の生徒達には口座を凍結された上に周囲からの支援も無い以上今を生きる事に全てを注がねばならず、再開発による野営地の移動を考えるだけの時間など無かった。

 

「確かに時間ならあったかもしれない。けど、この子達にはその時間をそれについて考える事に当てる余裕が無かった。それにここら一帯の再開発の告知だって物理的な追い出しが始まる時間から考えても余りにも周りに知らされてなさ過ぎると思わない?」

 

「そうでしょうか?公園の外にある建物には現在誰も居ませんよ。事前告知の期間こそ短かったかもしれませんが、それでも住民の退去は進行しています。自分だけ特別に、とは出来ませんよ。本来なら違反者である相手には特に。」

 

「順調に進んでいるなら何故物理的な追い出しに公安局が出動しているのかな。ミユも言っていたけど、こういう仕事は警備局の仕事の範疇であってそれこそ公安局が出向く事じゃないと思う。それに今カンナが追っていた人は・・・今大分可哀想な事になってるけど、彼は再開発の事を口にしていなかったよ。」

 

その後も言葉の応酬を繰り広げるが、カンナの中で事実の認識から思考する時間すら与えられずに決断を迫られているというRabbit小隊らの実情に何か思う所があったのか、一度応酬を切って短く息を吐き「良いでしょう。」と言いそのまま続ける。

 

「・・・彼女達が再開発について知っているかはさておいて、それでも先生には借りがありますので、今は引き上げる事にします。」

 

「ほんと?」

 

「はい。ですが、いつまでも放置することは出来ません。そうですね・・・ざっくり計算して、今月末までが限度だと思います。その時になって尚子ウサギタウン近辺に居る様でしたらこちらも武力を以って応じるしかありません。・・・私達にも、守るべきラインがありますので。」

 

カンナの引き下がるという判断に明るい顔で応じる先生。一方のカンナはそれを無感情に、しかし何処か引っ掛かりを覚えたほんの僅かに苦い目つきで未だ精神ダメージから回復し切っていない部下達の方へ向くと、

 

 

「・・・撤収!」

 

 

鋭く一喝を入れ、大勢を連れて去って行った。

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

場に沈黙が訪れる。そしてしばしの後、

 

 

「くそっ・・・前回もシャーレありきだったくせに、偉そうに。」

 

 

一番初めに口を開いたのはサキだった。近場にあった装甲車の頑丈なフレームに蹴りを入れ、怒りを吐き出す。

 

「ですが、イサネさんの指摘の通り武器が強化されているのは事実の様です。改めて確認しますが・・・モエ、あの銃器はカイザーインダストリーの物で間違いないですか?」

 

「だね、形状もそうだけど、何よりイサネがロゴを見たって言っていたしまぁ間違いないね。」

 

事の展開を冷静に理解していたミヤコはモエに問い、またモエも確信をもってそれを肯定する。

 

「にしてもほんと、あのケチなヴァルキューレがどうしてカイザーのを買えたんだか、理解出来ないね。」

 

「そう言えばさっき、スポンサーって・・・」

 

「・・・イサネの言う通り、リベートかな。イサネもイサネで何か情報を握ってそうだね。」

 

リベート。英語で謝礼・手数料・賄賂という意味を持つその単語は、メーカーなどの企業が顧客となる買取り手に対して行われる取引である。主にBtoB、企業間同士で行われる場合が殆どで、売上高からその一部を報奨金や手数料として買い手となる企業に払い戻しをするというものであり、企業の間では普通に行われる事のある取引だ。またリベートの内容にも種類があり、仕入れの実績などに応じて支払われる金や売り手の要望に応じる事で購入額の一部を払い戻すというものもある。

 

「リベート?」

 

「そう、リベート。企業間の取引で一般的に良く行われていて、売り手の要望に応じたりすることで商品を買った際に支払ったお金を払い戻すって言うもので別に何も悪い事ではないんだ。」

 

「割り戻しの事でしょ?知ってるよ。でもそうだとしてカイザーインダストリーは一体何の得があってヴァルキューレに・・・」

 

勿論リベートにおいてある程度の法はあれどあくまで企業間の取引であり、リベートそのものは別に何も悪い事ではない。

 

「これは私の推測なんだけど、カイザーインダストリーって今ここの再開発を手掛けているカイザーコンストラクションと同じカイザー系列の企業でしょ?つまりカイザーインダストリーで出た損失はカイザーコンストラクションのこれからの利益で十分に賄えるんだ。」

 

通常のリベートなら何の問題も無い。

 

「インダストリーもコンストラクションも同系列、だからここの二社間での資金のやり取りはとっても簡単なんだ。何故なら親会社が一緒だから。恐らく手続きすら不要なのかもしれない。企業人じゃないからあまり詳しくは無いけど。」

 

 

・・・あくまでも通常なら。

 

 

「そこでこう思ったんだ。コンストラクションは子ウサギタウンの再開発によって利益を得る、もしくは独占できる。でも今子ウサギタウンには所確幸や君達みたいにやたらと強力な武装を持った者達が居るから追い出さないといけない。でも企業が勝手にそんな真似は出来ない。」

 

 

だが、リベートの相手が公務員に当たる組織となってくると話が変わってくる。

 

 

「でも手続きを踏めばそれが出来る権力を持つヴァルキューレは今絶賛資金難で弾薬の補充すら難しい。事実君たちのデモでは私とイサネが来る前に警備局と公安局の生徒達は頑張ったけど皆やられてしまうくらいには戦力が低下している。そしてそれ以前に普通の方法ではまずヴァルキューレは追い出しに対して首を縦に振らない。」

 

 

一呼吸入れ、結論を出す。

 

 

「だからね?インダストリーが武器をヴァルキューレに提供する事で子ウサギタウンから人を追い出せるだけの戦力をヴァルキューレに与えて、ヴァルキューレは取引内容である滞在者の追い出しを行う。そうすればコンストラクションは再開発を行う事が出来、莫大な利益を得る事が出来る。後はここで得られた利益をインダストリーに渡せば万事がプラスで解決する。」

 

 

そう、企業間同士で行われるリベートなら何も問題は無いが、その取引相手が公務員に当たる相手となると法に触れる形となる。そして先生の推測通りならヴァルキューレは連邦生徒会という政治組織の管轄にある治安維持団体であり、現在のヴァルキューレは公務員という立場にありながら企業とリベート取引を行っているという完全に法律違反を犯している状態だ。

 

「勿論、物的な証拠が無いから確実な事は言えないけどね。」

 

そして最後にそう締め括り、先生は話を終える。

 

「・・・成程、子ウサギ公園の再開発を手掛けているカイザーコンストラクションは武器を扱っているカイザーインダストリー同系列会社。資金の移動は比較的簡単です。もしカイザーコンストラクションが子ウサギタウンの再開発で得られる利益を、カイザーインダストリーが武器という形で還元する事で公安局へと流したら・・・」

 

「公安局はその武器の対価として、放浪者達、または滞在者を追い出せばいいと。」

 

先生の考えを纏める様にミヤコとモエが話を纏める。

 

「・・・それ、違法じゃないか?」

 

一通りを聞き、サキがぽつりと零す。

 

「はい、勿論違法です。市民の奉仕すべき警察学校が、私企業の為に働いているのですから。」

 

「警察と企業が手を組んで市民を攻撃とか・・・意味分かんないな、もう。」

 

「わ、私達もなんとも言えない立場だけど・・・」

 

「うーん、やっぱ大企業はこうだよね。法的機関すら飲み込んでやりたい放題の方がしっくりくる。しょうもない詐欺行為なんて企業のする事じゃない。」

 

一名それこそ意味分かんない事を抜かしている(イサネ)を除き、各々が自らを取り巻く現状を把握し、そしてそれぞれが思いを口に出す。

 

「まぁまだ推測の域でしかないけどね。さっきも言ったけど物的証拠が無い訳だし。」

 

「そうですね、公安局が本当にカイザーと取引したかどうかも分かりません。」

 

そう、いくら推測推理が正しくとも万人を納得させるだけの根拠が無ければその推理は世間に通らない。

 

「ヴァルキューレの記録って事は多分ローカルサーバでしょ?なら外からのハッキングは無理っぽいな。」

 

「ちっ、何か決定的な証拠があればいいのに・・・」

 

「何か、方法は・・・」

 

サキ、モエ、ミユの3人がそれぞれ思考を巡らせる中、何かを閃いたようにミヤコが提案を一堂に投げかける。

 

 

「・・・ヴァルキューレに潜入すれば、取引記録があるのではないでしょうか。」

 

 

「お前正気か?」

 

 

ヴァルキューレに潜入し、取引記憶を盗み出す。やること自体は単純だが、その難度や目標達成の困難さははっきりって未知数どころの話ではなく、サキが即座にそう返すのも無理はない。

 

「ヴァルキューレの本館って事だろ?あそこ、何百人いると思ってんだ。ましてや今は向こうの装備する装備だって十分に強いんだぞ。」

 

「ちゃんとした支援があっても、難しいんじゃ・・・?」

 

サキの反対にミユも賛同する。確かにこれまでの装備が枯渇寸前のヴァルキューレでかつこちらの武装もデモを始める前のSRT制式の物が揃っていた時ならまだその難度はいくらかマシだったかもしれない。だが、今や戦力状況はほぼ逆転してしまっていると言っても良い。

 

「普通に通報するって事で良いんじゃないの?」

 

「警察の問題を警察に?」

 

「・・・確かに。どっちも同じ組織じゃん。」

 

通報を提案しようにも通報する相手が問題を起こしているのだからすぐに握り潰されて終わりという見え透いた指摘を受け、モエも渋い顔で引き下がる。

 

「ヴァルキューレでトラブルがあった時、それを調査する上位機関・・・」

 

サキがおもむろにぽつりと呟く。

 

どんな組織とて複数人で運営されている以上ある程度の腐敗は免れない。しかし、警察や政治組織などの都市において重要な役割を担う組織に腐敗は許されない。ならばどうするか、答えは単純。それらよりも上位の権限を有した警察組織に調査をさせれば良い。

 

 

「それが、SRTの筈です。」

 

 

サキの呟きを、ミヤコがすかさず拾う。キヴォトスにおける政治組織や公務組織の腐敗を感じ取った際、それを調査する組織こそ連邦生徒会長直属の治安維持組織・SRT特殊学園だ。

 

「確かに、そういやそうだね。」

 

「私達がやるしかない、か。じゃないと、他の誰も解決できない。」

 

そしてそのSRT学園の生徒こそ、今こうして子ウサギ公園に仮住いを構えるRabbit小隊であるミヤコ、サキ、モエ、ミユの4人しか居ない。

 

「でも良いのかな・・・今の私達、学校も無いし・・・」

 

ミユが不安そうに現状を告げる。そう、現在SRT特殊学園は連邦生徒会の決定により封鎖状態にあり、SRTの持つ上位権限は失われている。つまり、明確に判断をするならこれはSRTによる調査ではなくSRTを名乗る生徒達による治安維持組織襲撃にしかなり得ない。

 

 

「・・・君達が、そう信じるなら。」

 

 

「先生?」

 

 

中々心が決まらない中、先生が静かに言葉を紡ぐ。先生の突然の行動に首を傾げるミヤコだが、それを無視して先生は一同に歩み寄り、正に自慢の子を舞台に送り出す親の様な暖かい笑みを顔に浮かべ、

 

 

「いってらっしゃい。なるべく怪我の無い様にね。」

 

 

と、短く、しかしはっきりと、そう言った。

 

その言葉にしばしぼぅっと先生を見ていたミヤコだったが、「・・・変な人ですね。」という言葉と共に柔らかい笑みを浮かべる。

 

「先生?責任って言葉の意味分かってる?」

 

「はっ、やっぱり馬鹿だったか。」

 

ミヤコに便乗するように先生を小馬鹿にするサキとモエだが、どちらもその言葉と表情に侮蔑の感情は無い。横に居るミユもこの時は普段の暗い表情ではなく明るい笑みを浮かべている。

 

「ですが、おかげで決意は固まりました。」

 

場の空気が晴れた所で、ミヤコが音頭を取る。

 

 

「私達はSRTキヴォトスにおける込み入った犯罪行為に対し、真っ先に投入される特殊部隊。」

 

 

「治安維持の為、犯罪者を速やかに制圧し、」

 

 

「可能な限りの全火力を瞬く間に投下し、」

 

 

「・・・気付かれる前にその場を去る。」

 

 

若干個人の解釈の入り混じったSRTの校訓を述べ、定まった決意を明確なものにする。

 

「ヴァルキューレが私企業と結託し、不法行為を行おうとしている。その可能性がどれだけ高くとも、正規の方法では解決できないでしょう。・・・正に、SRTとして介入すべき任務です。」

 

作戦目標はヴァルキューレ本館のサーバルームにあるカイザーとの取引記録。ミヤコは自身の【Rabbit-34式短機関銃】を持ち、号令を掛ける。

 

 

「皆さん、作戦の準備を。これより、ヴァルキューレ公安局のリベートに関する証拠を集める為・・・」

 

 

一呼吸、そして声高々に宣言する。

 

 

 

「クローバー作戦を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まぁ、注文した武器類が届くのは明日だから今日はまだ作戦立案しか出来ないんだけどね。」

 

 

「・・・」

 

 

「台無しだ・・・色々と・・・」

 

 

「・・・所でイサネ、何処行くの?」

 

 

「え?い、いや、一応部外者はこのままお家に帰ろうかと・・・」

 

 

「その前に、君はまず説教だよ。・・・理由は分かるよね?」

 

 

「・・・の、ノーカウントだ!ノーカウント!」

 

 

「何もノーカウントじゃないね、何も。」

 

 

「最悪だ!ツイてねぇ!ツイてねぇ――っああぁぁぁぁーッ!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

記憶の海から意識が浮上する。

 

 

「―――という事だからイサネ、戦いたかったとしても、そうでなくても明確な理由無く相手を過剰に挑発するのは駄目。分かった?明確な理由があったとしてもだけど。」

 

 

「・・・はい。」

 

 

どうやらミヤコの意識が数十分前の記憶を辿っている間に既に先生の説教は終わりを迎えつつある様だった。

 

「漸く終わったか、思ったよりも長かったな。」

 

「はい。これで・・・と言うのも何ですが、漸くクローバー作戦の詳細を詰める事が出来そうです。皆さんそちらの方に意識が向いているようでしたので。」

 

サキの言葉に釣られる様に口を開くミヤコ。しかし、その言葉とは裏腹に自身の集中力は当に霧散し切っており、これ以上の思考には一度休憩を挟む必要がある事を確かに自覚していた。

 

「待たせてごめんね。どう?作戦立案の進捗は。」

 

「正座なんてしたの数年振りだよ・・・うぅ・・・」

 

そんなRabbit小隊の面々を知って知らずか、先生は普段通りの朗らかな表情で、イサネは痺れる足を擦りながら、ヴァルキューレ攻略において必要な資料の散らばるテーブルを取り囲む4人に声を掛ける。

 

「作戦の大まかな流れは決まったかな、後は、何処をどう突破するかとか万が一時の取り決めとか、まぁ色々。」

 

「わ、私そろそろ休憩したいです・・・」

 

どうやら休憩を挟まないといけないのはミヤコだけではない様で、ミユの言葉に続く様に「私も休憩する。」とそれぞれが休憩と作業の中断を宣言する。

 

「いつつ・・・うん?なるほどね、ラぺリング(懸垂下降)での侵入か、いかにも特殊部隊らしいじゃん。」

 

机の上に置いてある作戦概要を載せたスタンドアロンの端末を見ながらそう呟くのはイサネだ。その様子を見たミヤコは、休憩の中一つ気になっていた事をイサネに問う。

 

 

「イサネさん。先生はともかくとして、あなたはクローバー作戦に参加するつもりなのですか?あと、何故そこまでして私達を・・・?」

 

 

そう、少しばかり気になっていた事。それは先生と違い自分達に関わる理由が明確に存在しないイサネが、何故こうも自分達に力を貸してくれるのかという事と、クローバー作戦にも参加するつもりなのかという事の2点だ。先日の豪雨の際に先生からはその理由を聞く事が出来たのだが、イサネからは適当にはぐらかされてしまった感じがどうも否めない。

 

「そうね、まずは・・・どっちが良い?私がその作戦に参加するのとそうでないのでは。」

 

「それはどういう・・・?」

 

しかし、返ってきたのは答えではなく真意不明な質問だった。意図が理解出来ないミヤコは思わず問い返す。

 

「私が居る事で作戦の成否、ひいては部隊員間の連携に邪魔が入らないかどうかを聞いてる。後は・・・貴方達が私をどう思っているかって所?いわば信頼の話。」

 

それに対しイサネは尤もらしい回答をミヤコに返す。ミヤコから見て、標根イサネという人物の有する実力は最早疑うべくもない。だが信頼となると分からないと言うのが今正直な意見だ。成り行きという事情も多かったとはいえ何故自分達を助けてくれるのか、現実味の薄い事を成そうとしている自分達に何故諦めの言葉を投げないのか。その真意が分からない。

 

「・・・実力は、疑うべくもありません。ですが、何故私達にここまで手を貸してくれるのか、その意図が理解できません。先日の豪雨の際には上手くはぐらかされてしまいましたし。」

 

「意図・・・?成り行きとか先生に呼ばれただけとかで良いんじゃないの?私は傭兵だし、依頼であるなら大体の悪感情は飲み込んで仕事するよ。」

 

「なら何故今日この場に居るのですか。今日は私達も先生も貴方の事を呼んではいませんでした。それに、成り行きでここに居る事情も無い筈。合理的過ぎかもしれませんが、それでも貴方が今ここで、そして公安局長とあそこまで張り合うのにはそれらの理由だけでは説明がつきません。」

 

言動からしてもやはり適当に流そうとしていたらしい。ミヤコに適当な言い訳を論破されたイサネは「ちっ、流石に二度は無理があったか。」と端正な顔を歪め、

 

「まぁ話しても良いか、もう言い逃れも出来なさそうだし。」

 

と若干渋い表情のまま真意を話し始める。

 

「まず初めに、そもそも私は貴方達、正確には貴方が取り調べの時に言っていたSRTの正義とやらが嫌いだ。正しくは正義そのものが本当に嫌いだ。あんなものは所詮人の作り出した倫理の免罪符でしかない、本当に不快なものだ。これだけは明言しておく。」

 

「取り調べの時に顔を背けていたのは、まさかその様な・・・?」

 

「そう、貴方の語る正義云々に対する苛立ちが顔に出そうにな――って言わせるなそんな事。」

 

ミヤコの指摘に話を脱線させながら、イサネは話し続ける。

 

「正義は嫌いだ、それは今後も変わらない。けど、勝ち目が無いと分かって尚自分の意志で権力に抗う事を決めたその意志の強さには興味がある。」

 

「意志・・・?」

 

「そう、意志。自ら選び、そして戦い続ける、抗い続けるその意志は私も何処か共感出来るものがあった。だからこそ少々お節介ながら手を貸そうかなって思った。」

 

意志。デモをしようと決めた時、果たして自分の中にその様なものはあっただろうか。どんな苦境にさえ屈しないという様なそんな決意が。

 

「初めて見た時はそんな事考えもしなかったけど、二度三度苦境に立たされて尚折れないというのはそう簡単に為せる事じゃないと私は思う。人は楽になれる方向に瞬く間に流れていく。踏み止まり続ける事が出来る人間はまぁ極僅か。そして君達はある意味その極僅かに分類される人種だと思うよ、私は。」

 

「そんな意図が・・・」

 

思いもよらない称賛を否定するかの如く線を逸らすミヤコ。だが、

 

「・・・後は、連邦生徒会長直属の特殊部隊というのがどれ程か前々から気になってたくらいかな?まぁ誰かさんが予想外の事態が無ければなんて言うとは思いもしなかったけど。」

 

「い、今それを言う必要は無いだろ!?」

 

結局この有様である。伊達に狂人なんて呼ばれていないという事なのだろうか。いつの間にかイサネの話に混じっていたサキのつっこみを横目に溜息をつく。改めて周囲を見回すと部隊員だけじゃなく先生までイサネの話に聞き入っていた。

 

「そんな意図が、イサネにも・・・」

 

「先生、私だって別に戦い以外何も考えてない馬鹿じゃないからね?」

 

一方で感心した様に呟く先生に反論を返すイサネだが、

 

「でも戦いが判断基準を大きく占めているは事実でしょ?」

 

「・・・そ、そんな事ないもん。」

 

結局この様と、最早これから連邦生徒会に喧嘩を売る前の空気感とは思えない程の緩み具合だ。その空気の温かさにミヤコの中にあったきつく冷たい緊張が幾ばくか和らいだ様に感じた。

 

「・・・イサネさん、あなたの想いは分かりました。では、クローバー作戦には参加するのですか?それ次第ではある程度作戦概要にも変更が必要になるのですが。」

 

こほんと咳払いをし、再びミヤコはイサネに問う。クローバー作戦参加の有無を。それを受けたイサネは数瞬の間黙考し、そしてすぐさま答えを出す。

 

「いや、今回は後方支援、まぁモエと一緒にヘリからの狙撃支援かな。ちょっとやりたい事もあるし。」

 

「え、前線じゃないのかよ?」

 

うげ、と顔を歪めるモエに「これでもハッキングには多少の心得がある。」と自らの腕を叩くイサネ。ミヤコはその様子を見、座っていた椅子から立ち上がる。

 

 

「皆さん、休憩は済みましたでしょうか。では、作業に戻ります。」

 

 

二つの治安維持組織による戦いが、今幕を開けようとしている。

 





イサネさんの理由がだいぶこじつけになってしまったの辛い...(血涙)

先生の話したカイザーのたくらみの推理が実際に原作通りの説明になったかはちょっとわかりません。何ならリベートの意味だって調べたんですけどいまいち理解できていません。

なんだよリベートって聞いた事ねぇよ(痴呆)

あとパッチ・ザ・グッドラックさんの命乞いはだいぶ使い易いですね。流石名言。
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