今回原作の展開をほぼそのまま入れている為文章がだらっとしていて締まりが無いなと個人的に感じました。ですので読む際にはご注意を。
でも……でも!わちきはここの戦闘シーンを全部書きたかったんや!(阿保)
そしてクリスマスにただ一人で小説書いてる自分...まぁ普段通りですね!(年中ぼっちマン)
――待つ。
―――ただ待つ。
大して広くもない部屋にある空気がその沈黙に耐えかねて澱み始める。だが、それでもひたすらに待ち続ける。モエから聞かされた限りだとこうして息を潜めて気配を殺してまだ1分前後しか経過していないと思われる。
・・・だというのに、圧倒的なまでの不安と不穏が未だ特殊部隊として成熟し切っていない心をぎちぎちと締め付ける。
(作戦を提案した身ではありますが、まさかここまでこの沈黙が心を締め付けるものだったとは。)
騒いで相手に要らぬ警戒心を持たせない為に皆黙りこくっているものの、逆を言えば下手に騒ぎさえしなければ警報が鳴るまでは見つかる心配もない。故に軽く息を吐き、若干過剰となっていた警戒を解くと同時にこの作戦の指揮者――月雪ミヤコは銃のバレル部分を握っていた左手を自身の胸に当て、緊張で無駄に硬直している己の心を落ち着かせる。
(・・・皆の前でああも言った手前、初手をしくじる訳にはいきません。落ち着いて、冷静に・・・不要な緊張はミスを重ねる要因・・・)
呼吸を整え、早く鼓動を刻む己の心臓を宥める。深く息を吸い、長く小さく吐く。睡眠時に人が行っている呼吸と同じ長さ。多少無理矢理にだが心拍数を一定にまで持って行く。己の心に言い聞かせる。
(私はまだまだ隊長として未熟。先生の様に、そして先輩・・・私の憧れた、Fox小隊の先輩達の居る所にはまだ遠く及びません。)
眼を閉じて思い返すは自分がかつてSRT特殊学園という存在を知るきっかけとなり、同時に憧れとなった存在。そして生徒達を支え導くというその信念を体を張って証明したシャーレの先生。
(ですが、やってみせます。いつまでも燻ぶっていては、何も先へは進めない。)
今はヘリで静かにしている先生以外の協力者、標根イサネに言われた言葉は自分達の未熟を改めて自覚させてくれた。その代わりに自らの心も一緒に抉っていったのだが。
『・・・っ!Rabbit3、乱数コードの再生成を確認。後10秒で警報が鳴るよ!』
閉じていた眼を開ける。胸に当てていた左手を右手に持つ【RABBIT-31式短機関銃】のバレルに添え、体を僅かに硬直させる。
『これより接敵までの間無線封鎖を行う。封鎖解除は金庫から脱出した後だ。・・・それまでにやられるなよ?』
『皆、頑張って。』
更にイサネと先生の声援が無線機から聞こえるのを最後に、無線通信を切断する。これは金庫内に入ってきたヴァルキューレ生に対する不意打ちの成功率を上げる為であり、無線機の音による潜伏の発覚を避ける為の処置だ。
そして直後、再生成された乱数コードによりハッキングが無力化。侵入者を発見したセキリュティプログラムは即座に侵入者発見の報を出し、同時にけたたましい音を立てて警報機が作動する。
「警報の作動を確認、戦闘準備。」
静かに隊員達に指示を出し、気配を殺す。自らの手に持つサブマシンガンの安全装置を敢えて掛け、そして外す。最後の動作チェックだ。
「――せ野良猫とかなんじゃないの?」
「―――の警――だぞ、どうや――猫が入り込むんだ?」
待つ事数十秒。金属壁越しに警報を聞いてやって来たであろうヴァルキューレの生徒達の話し声が聞こえてくる。
「穴でも掘ったんじゃない?」
・・・重要な書類が多く保管されているここ保管室の警報が鳴っているというのに、随分と呑気な会話だ。いや、こんなセキリュティの堅い場所だからこそむしろ誤報か警報機の故障、もしくは小動物の侵入などを宣っているのかもしれない。
「ほいっと、ロック解除。」
モエが苦戦して開けた金属扉が、マスターキーによっていとも容易く開けられ、中にヴァルキューレ生数人が入ってくる。数は2。
「猫ちゃーん、出ておいでー。ネズミはちょっとあれだけど・・・」
金庫に入るや否やそんな呼びかけを始めるヴァルキューレ生。
――生憎だが、ここに猫などと言う可愛い小動物は潜んでいない。
呼びかけを行う生徒の最も近くに潜んでいたサキが音も気配も無く近づく。
「・・・え?」
―――ここに潜んでいるのは、迂闊に入って来た者の首を刈り取る殺人兎だ。
完全に死角となっている机の陰から、サキが一人に向かって下から襲い掛かる。鋭角に飛び上がって肩を掴み、足を払い、押し倒して鳩尾と頭部への数度の拳打。血に飢える殺人兎に襲われた哀れな生徒は悲鳴を上げる間もなくヘイローを消失させて動かなくなる。
「異変が生じた時には常に最悪の事態を想定するのが基本。だというのに、そんな心構えだからキヴォトスに平和が訪れないんだ。」
打ち倒したヴァルキューレ生を退けサキが酷評を下しながら立ち上がる。と同時にミヤコとミユは予め時間を図ってピンを抜き、起爆までの時間を調整した手榴弾を開いた扉の外へそれぞれ2ずつ投擲する。
「し、しんにゅ――」
残った一人が侵入者だと叫ぶ前に投擲した手榴弾が起爆し、炎と爆音が声を遮る。その間にもサキは即座に動き出し、まさかの侵入者に動揺している一人を無力化。同時に爆炎の道の開けた金庫の外へと躍り出る。
「侵入者だ!!」
「私達も続きます!ミユ、遅れない様に!」
「は、はい!」
サキに続いてミヤコとミユも金庫の外へ出て交戦を始める。ぱっと見た所敵の数は10にも満たず、完全に意識外からの攻撃により烏合の衆と化していたヴァルキューレ生達に、Rabbit小隊の強襲突破など防げる筈が無かった。
「敢えて警報を鳴らせる・・・確かに教本にはないミヤコらしい戦術だな。外側からしか開けられないから、向こうに開けさせる訳か。」
十数秒後、金庫周囲に転がる無力化されたヴァルキューレ生を一瞥しながらサキがミヤコの作戦に感嘆の意を示す。
「にしても、一緒にキヴォトスの治安を担う部隊がこの練度とか、幸いの様な、落ち込む様な・・・」
「そ、それにしてもこれ、大丈夫?警報ずっと鳴ってるけど・・・」
「はい、他の生徒達も次々に集まってくるでしょう。ですので先程の説明の通り、開けた場所での遭遇は避け、接敵もこちらから奇襲の形を取ります。経路は障害物の多い東側を使います。」
銃のリロードを済ませ、すぐに指揮を執る。
「待ち伏せに注意しつつ、ORPまで移動します!」
ポイントマンであるサキを先頭に、3人は階段へ向けて走り出す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「抜けた抜けた!良いぞ、ようやっと自分の役目を明確に理解して実行まで移してくれたか!それでこそ私が賭けた意志の強さだ!」
今侵入者の発覚により混乱に陥っているヴァルキューレ本館より数百m離れた地点の上空。夜の帳に紛れる様に浮かぶ一機の軍用ヘリの機内にて、おおよそ一人が携行して良いサイズではない長大なライフル片手にイサネが先程の悪鬼の如き様相から一変にハイテンションではしゃいでいた。
「あぶっ、ちょっ、イサネ!そんな大きいもの片手にはしゃぐのは良くないよ!うわ!?」
「ちょっとうるさいってば!そんなに騒がれたらオペレート出来ないでしょ!?っと、取り敢えず無線封鎖解除っと。あーあー!聞こえるー!?」
『はい、聞こえます。後ろの騒ぎまでばっちりと。』
騒ぐイサネに苦情を入れつつモエは無線封鎖を解除、前線を張るミヤコに呼び掛ける。ミヤコからの返答が返ってくるのを確認し、言葉を続ける。
「じゃあ改めて、こちらRabbit3、支援位置は東側へ移動。イサネ・・・じゃなくてCollerによる狙撃支援の準備完了!」
『了解です。でしたら、すぐに狙撃を始めて貰えませんか?私達の到着前に可能な限り戦力を釘付け、もしくは減殺してください。』
「だってさ、イサネ!」
無線によるミヤコの狙撃指示を受け、モエは後部座席にミヤコの指示を投げかける。ハイテンションの収まったイサネもモエの声を聞くと、軽く頷いてヘリのスライドドアを開けて長大なライフルを構える。
「・・・2階と1階に多数か。なら天井を吹き飛ばして一網打尽にしたい所だが・・・取り敢えず釘付けにする。」
ぼそりと独り言の様に呟き「ファイア!」と機内の先生とモエに向けて叫ぶと重い引き金を引く。
「うわっ、思ったよりも揺れる。」
がごぉん!という減音器の無い為に凄まじい爆音がヘリを中心に響き渡る。それを至近で見ていた先生はその轟音に顔を顰める。狙撃前にイサネに貰った
「先生、耳大丈夫?耳栓した?」
一方でイサネは本来なら伏せるなりして器具で固定して撃つ必要がある程の反動の全てを身に受けたというのに、何ともない顔でコッキングレバーを引きながら先生の鼓膜の安否を問う。
「す、凄いね・・・イヤーマフ越しでも全然銃声が聞こえてくるよ。」
「ほんとはサイレンサーを付けたかったんだけど、この口径のサイレンサーが売って無くて。元々誰かから奪った物だからアタッチメントを揃えるのが大変だよ。」
因みにイサネの放った一射目の14mmはその圧倒的な貫通力を以って校舎1階の窓ガラスを粉砕。丁度そこを通っていたヴァルキューレ生の頭部を威力の減衰ほぼ無しのまま撃ち抜き、派手に吹き飛ばしていた。
「次いくからイヤーマフはちゃんとつけててねー。・・・ここ、ファイア!」
再び狙撃の為に膝立ちの姿勢を取り、重量25kgというヘイローを持たない標準的な人間ならまず持ち上げるだけでも苦労する代物を軽々と構えて照準し、銃口のブレも無く引き金を引く。
再び爆音と衝撃。イサネの姿勢がその
「命中。校舎1階を移動中の生徒達の足が止まった。Rabbit1、進むなら今だ。」
『狙撃支援感謝します。このまま1階へ上がります。』
何よりもこの命中精度には目を見張るものがある。基本的に対物ライフルに分類される銃火器の平均的な有効射程は大体1500mで、キロメートルに換算すると約1.5kmとなる。そして今モエの操るヘリは狙撃目標から大体3~500mと距離こそ無動体なら必中とも言える距離なのだが、その数百mの空間には風が強く吹き荒れており、その上イサネの立っているヘリの床も常に揺れ続けていて非常に不安定だ。
だというのに、イサネの放つ銃弾はは弾速を捻じ曲げる程の風の中を縫う様に進んで行き、対象を正確に撃ち抜く。そしてそれを呼吸を挟む間もなくやってのけるそのイサネの技量は、まさに狙撃手こそ彼女の本職なのではないかと疑ってしまう程だ。
『2階に着きました。・・・これは。』
『うわ、壁諸共ずたずたになってる・・・どんなペースで撃ってんだこれ。』
「おかげでこっちは銃声で耳がおかしくなりそうだけどね。あ、そこ西側から結構な数が接近してる。急いで抜けないと挟まれるかも。」
それは前線で戦う三人も同じだった様で、無数の狙撃痕が刻まれた廊下を前に引いている。
「・・・早く進んでくれ。そんなに引かれると狙撃支援を止めたくなってくる。」
「そ、それは勘弁してあげて・・・」
前線部隊の反応を聞いて拗ね始めたイサネを尻目に、モエはミヤコ達のオペレートを行いながらハッキングも同時並行で進めていく。
『モエ、ヴァルキューレの室温感知器はハッキングできますか?感知器の数値を操作して誤作動を起こさせます。』
「セキリュティ全体ならともかく、それくらいなら問題無し。何度にすればいい?」
『・・・摂氏900度で。』
ミヤコとの通信に「OK!」と威勢良く返しながらキーボードに指を走らせ、室温感知器をハッキング、感知した温度を900度としてセキリュティプログラムに送る様コードを書き換える。
「摂氏900度、GO!」
プログラムコードを書き換えたモエの指がエンターキーを叩くと同時に廊下天井にあった火災時に作動するスプリンクラーが起動。ありもしない熱源を消さんと周囲に放水を始める。
『ついでに
「C4のリチウムって水にも反応するのに・・・うわぁ。」
「弾の口径的に徹甲弾以外用意出来なかったのがここで響いてきたね。装甲を撃ち抜くことは出来ても数をどうにかする手段が無い。くそ、14mmくらいコンビニでも売っててくれよ・・・!」
各々がそれぞれに言葉を吐きながら、しかし戦況はRabbit小隊優勢のまま推移していく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「エネミーダウン!」
「エネミーダウン了解。Rabbit2、そのまま前進してください。自走ドローンを投擲して敵の豆を潰します。Rabbit4、自走ドローンは閃光弾ですので起爆を確認したら前進するサキのフォローをして下さい。」
一般的な横幅の廊下に転がる障害物を使い、数で押してくるヴァルキューレ生達との撃ち合い。ほぼ正面から撃ち合っているにも関わらずヴァルキューレ陣営は一方的にその数を減らしていた。
「3、2、1、今!Coller、狙撃支援を!目標は・・・敵後衛に位置する後続部隊を。」
『了解。モエ、目標の近くに爆発物って無い?』
ミヤコは先頭を走るサキ、自身の後ろに着くミユ、そしてヘリでオペレートと狙撃支援を行っているモエとイサネそれぞれに指示を出しながら、自身も手に持ったサブマシンガンでこちらに突っ込んでくるヴァルキューレの生徒を撃ち倒す。
『爆発物?えーっと・・・無いね。強いて挙げるなら最後尾にいる生徒が腰にぶら下げてるグレネードくらい――』
『狙ってみるか。・・・ファイア!』
ミヤコの投擲した自走閃光ドローンは床をかなりの速度で転がって行き、起動。マグネシウムなどを主材料とした炸薬の炸裂により強烈な閃光を以って相手の視界と聴覚を潰す。
「はぁっ!」
閃光をもろに喰らい、視界と聴覚という人が空間を認識する為に必要な器官の殆どを潰された所に足を速めたサキが突撃する。手に持った愛用の短機関銃をぴたりとヴァルキューレ生の頭部に照準して掃射。同時に格闘戦までの間合いに接近し、撃ち漏らしの前衛を銃床による打撃や締め技で昏倒させる。
『ファイア、ファイア、ファイア。』
「相手の狙撃手、これで全部かな・・・?」
そしてミユとイサネによるクロスを組んだ狙撃、銃撃により敵の後衛の悉くを無力化する。イサネが無線越しに「
「クリア。さて、この先は少し開けていますね。・・・この部屋を経由して迂回しましょう。」
一通りの殲滅を確認したミヤコはこの先に続く障害物に出来る物が少ない廊下を見て、迂回を指示する。さっさと駆け抜けてしまえばいい話なのだが、障害物の少ない地帯の長さを鑑みると増援の到着が間に合う可能性の方が高いと判断した結果の迂回だ。
警戒しながら部屋に入ると、そこはオフィスだった様で、壁にあるプレートには《生活安全局》と言う文字があり、ここが生活安全局――かつてのデモにて自分達を下したあの二名が所属する部署である事を示していた。そしてミヤコの脳裏に思い浮かぶはあの二人。
「ふむ・・・恐らく今回も出てくるでしょう。特にあの二名の内の片方は確実に立ちはだかるでしょう。確か、中務キリノさん・・・と言っていたでしょうか。」
「後から聞いた話でも未だ信じられないな、撃った弾が避けた先に居た自分に当たるなんて。しかも予測による偏差とかじゃないとなると警備局や公安局の連中でもそんな芸当が出来る奴なんて居ないぞ、多分。」
『ま、まぁあの子はちょっと特殊だから・・・』
先生の言う通り、生活安全局所属の中務キリノと言う生徒には銃社会キヴォトスにおいて実に厄介な特性がある。正しく言うのであるなら彼女の射撃能力が致命的故の特性であり、その悲惨さは人質を取った犯人を狙って銃を撃てば弾は何故か人質の方に当たり、至近距離ですら狙った場所に当たらない等銃社会キヴォトスにおいては非常に致命的な欠陥だ。
しかしそんな彼女の射撃能力だが、敢えて人質を狙って撃った時には犯人の方に命中するという訳の分からない不可思議な性質がある。ミヤコはデモにおいてキリノと対峙した際、彼女の撃った弾を避けようとした時にその不可思議な特性の罠に掛かり、逆に全弾貰ってしまうという理不尽極まりない敗北を喫したという経験がある。
「・・・何をしたらあんなことになるのかは正直理解出来る気がしませんが、避けようとして当たってしまうのなら避けなければいいだけの話です。彼女に撃たれたとしてもその場に立って避けずにいれば弾の方から自ずと避けてくれます。」
「・・・本当に不思議な能力だな。この場合能力と言って良いのかは分からないけど。」
改めてキリノの不可思議な射撃能力の理解に苦しみながらも、部屋の中を進んで行く一行。すると真ん中を歩いていたミヤコがふと歩みを止め、
「誰か付近に居ますね。隠れましょう。」
と指示を下すとオフィスの机に置かれていたドーナツが入っている箱の中から一つを取り出して適当な皿に乗せる。そしてそれをセットした爆薬の上にそれを乗せ、更に段ボールと棚を固定していたつっかえ棒を組み合わせて子供が作りそうなトラップとも言えないトラップを敷設する。
「み、ミヤコちゃん、流石にこれは――」
「静かに。Rabbit2、二人の内の片割れがこれに反応した時、これがマスタードーナツの限定ドーナッツのマシュマロ入りである事を伝えてください。なるべく意識の外からしれっと伝える感じで。」
唐突に振られた度を通り越して意味不明な指示に「なんで私なんだ。」と抗議しかけるサキだったが、部屋の中に誰かが入ってきた為、渋々ながら自分の隊長から与えられた役割を遂行すべく覚悟を決める。
「ふぁぁ・・・ねっむ・・・」
この緊急事態だというのに、部屋の中に入ってきた生徒――合歓垣フブキは欠伸をしながら「眠い」などと呑気な事を抜かしながら、部屋の中をぶらついている。
「全くこんな夜中に騒ぎとか、それに警察学校の本館に侵入とか、大胆な奴も居たもんだ・・・」
サキはフブキの発言に「逆にこんな騒ぎの中でなんでそんな呑気なんだ。」とつっこみたくなる口を抑え込み、目の前の眠そうな生徒がミヤコの仕掛けた幼稚な罠の存在に気付くのを待つ。
「でもどうして私達まで・・・警備局の方でどうにかしてくれればいいのに・・・まぁ適当にパトロールっぽい事でもしてさっさと帰――何あれ?」
警察を名乗る者としてそれはどうなんだという発言を繰り返しながら部屋を出て行こうとするフブキだったが、部屋に仕掛けられた罠の存在に気付いたのか歩みの方向をそちらに向ける。
「・・・え?馬鹿にされてる?」
果たして罠と言えるのか怪しい、あからさま過ぎる罠に流石に怪訝を通り越して呆れの感情を表情に見せるフブキ。しかしその視線は爆薬の上に置かれたドーナッツから逸らさない。
「相当な馬鹿じゃない限り、こんなのに引っ掛かる奴なんて――」
・・・敵にまでこうも酷評される罠が返って可哀想に見えてきたサキだったが、取り敢えず言われた役目を果たすべく口を開く。
「それ、マスタードーナツの限定ドーナツ。しかもマシュマロ入り。」
ぼそっと、自らの存在を認知されない様に、しかし声だけは認知出来る様に本当にぼそっと言葉を発する。
「まじで?」
ノータイムの反応。流石にこればっかりは駄目かと思っていたサキだったが、フブキのその反応に思わず硬直する。そんなサキを余所に、言葉巧みに操られたフブキはドーナツの乗る皿の下にある爆薬が見えなくなったのか何の躊躇いも無くドーナツに飛び込む。
「それじゃあいただきま――」
・・・まぁ当然と言えば当然なのだが。
あからさまな段ボールの下の置かれたドーナッツ。そのドーナッツの乗る皿の下には見え見えの爆薬。そしてそのドーナッツを取り上げるフブキ。その後の結果など見るまでも無い。
――爆発。
「だよね~!?」
ドーナッツと言う重りの消えた爆薬は当然の様に着火、ドーナッツを口に頬張ろうとしていたフブキを衝撃と爆炎を以って吹き飛ばす。爆風と衝撃によって部屋の壁に叩きつけられたフブキはお決まりの様な台詞と共に敢え無くダウンする。
「・・・まさか本当にこれでいけるとは。」
『何これ、ふざけ・・・はぁ、もう何でもいいや。』
無線から聞こえるイサネの声も溜息交じりだ。やってる事が事なので溜息をつくのも分からなくはないのだが、この際気にしたら負けだろう。こんな物に引っ掛かる哀れなドーナッツ狂いの事は一旦忘れ、サキも本来の目的に戻る事に意識を向ける。
「私もどうかと思ったけど、ミヤコちゃんの命令だったし・・・でも、成功だね。」
「これに関しては賭けでしたが、上手くいって良かったです。ですが、ここまで上手くいったのは皆さんのお陰です。これくらいなら別に誰でも・・・」
好事魔多し、油断大敵と視線を巡らせたサキの目の前には一同の称賛を受けても謙遜ばかりでまるで隊長らしさを感じないミヤコの姿があった。
「だから誤魔化すなよミヤコ。これはお前が考えて実行に移した作戦だ。他の誰でもない、お前が導き出した最適解なんだ。だから変に誤魔化す必要ないだろ。」
『そうだよ、これはあんたの言う通りにした結果なんだから。』
確かに謙遜というものは人における美点であり、人徳を示す象徴の一種だ。勿論自身の功績や成功を喧伝自慢する事そのものが傲慢だという訳ではないが、それも過度となってくると傲慢と捉えられる人の悪癖だ。
しかし、いくら謙遜が人間性における美点になると言えどこちらも過度になってくるとただの卑屈にしかならず、最悪周りの人を下げているとも取られる発言になり得る。極端な話だが謙遜など言わば自身の能力の否定でしかなく、自身の過小評価から来る自信の無さの裏返しにしかならない。
『作戦中にそんな話をするなと言ったばかりだけど・・・ミヤコ、何でもかんでも謙遜ばかりは良くない。隊長の過度な謙遜は部隊員の士気の低下にも繋がる要因の一つだ。』
ましてや部隊の隊長が謙遜ばかりだと流石に部下や部隊員達に示す背が無い。隊長は部隊を指揮するという義務の他にも自分を信じて着いて来てくれる部隊員達にその背を信頼させるだけの風格を示すというのもまた隊長と言う肩書に定められた役割だ。
『だからこそ多少のミスや成功くらいは泰然と受け止める事も隊長の役目の一つだって事くらいかな。・・・尤も作戦中にする話でもないけど。』
「・・・そうでしたか。ですが、私の指示を信じて行動に移してくれたお陰なのは事実です。私だけの功績ではありません。」
しかし、イサネの言葉を受けても尚ミヤコの変わる事の無い態度に当人を除く一同の間に白けた空気が流れる。
「っとうに話の通じない・・・」
『まぁ良くも悪くもミヤコもサキも似た者ね。』
「何処が似てるんだ何処が。」
『似てるでしょ。あぁ、当人同士には分からないか。』
サキとイサネの言い争いを無視し、白けた空気を一身に受けたミヤコはこほんと咳払いをして白けた場の空気をリセット。口を開く。
「少し話が長くなってしまいました。先を急ぎましょう。」
自分達の隊長の相変わらずな様子に呆れながらも、彼女達は次の指示に頷き、即座に隊列を組みなおした3人はそのまま部屋を出ようと一歩踏み出し――
「止まって下さい!」
部屋の外と中の騒ぎが消えた中でびんと響く声。と同時にミヤコの背に突き付けられる白を基調とした、ヴァルキューレ制式のデザインを施されたリボルバー。
「まさかとは思いましたが、侵入者とはあなた達の事でしたか!」
「あなたは・・・」
振り返った一同の目に映るのは銃と同じく白を基調としたヴァルキューレ警察学校生活安全局の制服。そして綺麗な白の三つ編みをカントリースタイルのツインテールにしたその髪型。
「先日はお世話になりました。生活安全局のエース、中務キリノです!」
――中務キリノ。そしてデモの時にその特異な特性でミヤコを倒した張本人。
「こんな夜中に校舎への不法侵入など、本官は許しませんよ!」
警備局志望の生活安全局の自称エースが、瞳に決意を漲らせて一同の前に立ちはだかる。
「予想通りと言うか、まぁ来たな。ミヤコの言う通り。」
「はい、まぁそういう事ですので、先の指示通りに行きます。」
が、それを見たミヤコの判断は実に冷静そのものだった。ミヤコはサキとミユにそれぞれ視線を送ると、銃を構えるキリノを無視して進み始める。
「え、ええっ!?ちょっ、どういう事ですか!?」
目の前に立ちはだかっている筈なのにそれを思いっ切り無視されるという前代未聞の事態に思わず動揺の声を上げるキリノ。無理もない、何せ明らかに相手の視界の中に入っている筈なのに相手はまるでそこには何も居ないかの如く進み始めたのだから。
「ほ、本当に撃ちますよ!?う、撃たないといけないんですけど!」
どうやらキリノは自身の声だけで止まる、もしくは時間稼ぎが出来ると思っていたらしい。そもそもRabbit小隊3人に対してキリノ1人の状態の時点で一気に畳み掛けられて終わる程度には数的不利を突き付けられているのにも関わらず、だ。
「くっ・・・!」
最後通告にすら従う気配の無い3人の様子にフブキも止む無くと言った様子で手に持った【第3号ヴァルキューレ制式拳銃】の引き金を引くが、ミヤコの予想通り銃口から放たれた銃弾はあらぬ方向へ飛んでいき、見当外れの書類棚のガラスや段ボールに穴を空けるという結果に終わる。
『無視、か。妥当と言えば妥当ね。3人で畳むにしろ彼女の理解不能の射撃能力の餌食に誰がなるか分からない状況なら猶更か。』
「はい、先生から聞いた話と私自身が体験したものが彼女の特異な射撃能力の全てではないでしょうから。」
無線越しにイサネと会話しながらも部屋を出たミヤコは歩を進める。自分達を追う足音が聞こえないあたり追跡は諦めた様だ。
(金庫からの脱出以降は今の所順調。特にこれと言って時間的ロスは無いと言っても良いでしょう。後は公安局の到着よりも早くここを去るだけ。)
廊下を駆ける最中、ミヤコは思考する。金庫を脱出してからの自分達の進み具合と本来の作戦とのロスの差、この後の脱出の手順。
(もう脱出用のヘリは移動を始めている。モエの情報通りならこの周囲にも警備局の生徒の姿は無いとの事。)
廊下を駆ける足を速め、脱出口となる屋上を目指す。
(方法こそ当初とは異なりますが、もう少しでクローバー作戦は完遂。現状隊員も欠ける事無く作戦は進んでいる。・・・このまま、何も無いと良いのですが。)
――有り得る可能性の、一抹の不安をその心に抱えたまま。
原作ミヤコの台詞にあるORPに振られているルビが小さくて読めねぇッ!ふざきんな!れ!れ!
しかも読めたと思ったら全然英語ばかりのおかげで理解に時間が掛かり、本文中に乗せられないって言うね。もうほんとにかなしい。
一応ORPとは和訳で目標集結地点と読み、部隊が進む前に一度集結する地点の事を指すそうです。調べた情報筋がとっても少ないのでちゃんと正しい情報か分かりませんが。
もし「ORPはそういう意味じゃないわいアホンダラァ!」という方は誠に申し訳ないのですが感想欄で
後なんか文章が上手く書けない...どおして...