透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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俺のターン!ドロー!

‥…行くぜ、魔法カード、【作者の御都合主義】を発動!
このカードの効果により、本編のエピローグに相当する部分と番外編、幕間の話を合体する!

そしてエピローグと番外編を一緒くたにすることにより、大幅なコストカットが出来る!これによって空いたリソースを使い、先に時計仕掛けの花のパヴァ―ヌ2章の執筆に取り掛かるッ!!

ふっ……勝ったな、ターンエンドォ!!(屑)



結果と結論と、その間隙

 

 

 

 

 

 

「――きろ。」

 

 

 

心地良い朝の澄んだ風が頬を撫でる。

 

 

 

「・・・起きろ。」

 

 

 

そしてその後に朝特有の少し冷えた空気がゆっくりと身体に染み渡る。

 

 

 

「起きろ!」

 

 

 

遠くから聞こえてくる町が生きている音(車の音や人の話声)が微睡みに響いてとても心地良い。

 

 

「・・・起きてるんじゃないのかこいつ?」

 

 

「ならあれやってみなよ。ほら、鼻に洗濯ばさみを挟む奴。私としては手榴弾の方が――」

 

 

近くで話し声が聞こえる。声が自分の近くで聞こえる為か環境音となって響く街の音と違い少々の雑音(ノイズ)となって鼓膜に響き、それが少しこそばゆい。

 

 

(うるさいなぁ・・・)

 

 

周りで聞こえる声に対し、思う事はただそれだけ。

 

人間の五感の内8割を占める視覚が閉鎖され、機能していない視覚を補う様に鋭敏となった四感の内触覚がいつも以上に周囲の様子や雰囲気を感じ取る。が、寝起き特有のぼやけた頭が聴覚の鋭敏化だけを妨げ、近くで聞こえる声を朧気にする。

 

「流石に手榴弾は駄目だって。それに昨日の作戦で在庫も底を尽きかけているし。」

 

「えー、しょうがないなぁ・・・じゃあ大人しく洗濯ばさみにするか・・・」

 

「サキちゃん、モエちゃん、それは流石に・・・」

 

どうやら周囲から聞こえる若干喧しい話声の主題は自分らしい。確かに自分が寝ている場所――正確には背を深く預けて座っている椅子のある場所は自分だけの場所ではない。もっと言うのであるならそもそも誰の物でもない公共物だ。故にそこに私が居座っても別に問題は無いが、ずっと居座り続けるのは確かに公共マナー的には大分宜しくないのかも知れない。

 

「そんな事して寝起きにぶん殴られても知らないぞ。」

 

「大丈夫だって、寝起きならそんなすぐ打ってこないだろ。」

 

「馬鹿言え!寝起きとか人間意識が朧げになってる時こそ力の加減が出来ないんだぞ!そんな状態のこいつに全力で殴打されようものなら・・・!」

 

・・・本当にうるさい。特にこの朝っぱらから元気な声は本当に喧しい上に発言からしても失礼過ぎる。いくら常人にはありえない膂力を持つ自分と言えど寝起きの力の調整くらい出来る。まぁ強化手術から暫くは完全に集中している状態ですら握った物を片っ端から破壊していたのだが。

 

「もういい私がやる。・・・おいイサネっ!いい加減起きろッ!もう10時過ぎてるぞ!」

 

「起きないと腹にピン抜いた手榴弾乗せちゃうぞー?」

 

男勝りで元気な口調の声が自分の名前を呼んでいる。流石にいらいらしてきた。いくら朝の空気が心地良いからと言えど流石に不快だ。止むを得ず、本当に不本意に覚悟を決める。

 

 

「早く起き――」

 

 

「だぁぁもううるさいッ!!眠いんだから寝かせろぉっ!」

 

 

怒声と共にがばりと起き上がる。長時間不動の状態からいきなり動いた事、そして同時に大声を上げた事による急激な意識と身体の覚醒による不快感が頭に響くが、流石にもう寝れないだろう。

 

故にこのような最悪の部類に分類される起床を強制させてきた余りにも度し難い所業を平気で行う奴らに自分こと私――標根イサネは精一杯の怒りを声に乗せて浴びせる。

 

「うおぉぉっ!?」

 

さっきまですやすやと寝ていた筈が怒号と共に一切の予備動作無く起き上がったイサネに周りの声の主達ことサキとモエは反射で体を逸らして驚く。

 

「くそ、これまでも今後も叩き起こされるのはあの人だけで十分だ・・・」

 

そんな二人を余所に朝っぱらからの怒りを吐き散らかしたイサネは、驚愕で硬直する二人を余所にそのまま勢い良く椅子から体を起こす。

 

「おはようございます、イサネさん。随分と荒い起床でしたね。」

 

「誰のせいだ誰の。お前の部下だろうが・・・damn it(くそったれが)・・・」

 

隣に座るミヤコはイサネの悪態を「昨日の作戦の疲労を鑑みて本日のRabbit小隊はお休みです。」と見事華麗に責任を受け流し、机の上に広げている書類にペンを走らせる。

 

「・・・作戦報告書か。誰に提出するの?」

 

「本来であれば作戦の総指揮官か連邦生徒会ですが、SRTが閉鎖されている今は特に居ませんね。強いて挙げるとすれば先生でしょうか。クローバー作戦の指揮こそ私が執りましたが、作戦の責任者は先生が立候補なさったので。」

 

「で、その肝心の先生はシャーレで書類に囚われていると。先生の体調の為に救出作戦でもやってみるか?」

 

「元とは言え連邦生徒会長直属の特殊部隊に、連邦生徒会(シャーレ)を襲えと?クローバー作戦と違い明確な理由も無い状態で。」

 

そこそこの激戦になったクローバー作戦の報告書を纏めるミヤコとしょうもない会話を繰り広げながら、固まった体を解したイサネは再び野営用の折り畳み式椅子に座る。そしてその足元に置いてあった長大な対物ライフルを手に取り、同時にリュックから簡易工具箱を取り出すと、慣れた手付きでライフルの点検と整備を始める。

 

イサネに追い散らされた三人が広場でやいのやいのと騒いでいる様をBGMに、無言でそれぞれの作業に没頭するミヤコとイサネ。

 

「そう言えばイサネさん。」

 

「うん?」

 

無言の沈黙がお互いの間に流れる事数分。ふと何かを思い出したかのように顔を上げたミヤコは隣でライフルのパーツと睨み合うイサネに問いを投げかける。

 

「クローバー作戦における私達の作戦目標はクローバー・・・ヴァルキューレとカイザーコーポレーションの取引記録を回収する事でしたが、作戦前に言っていたあなたのやりたい事と言うのは達成できましたか?」

 

「あー・・・」

 

投げかけられた問いに少し苦い表情を返すイサネ。

 

(幸い目的そのものを聞かれている訳じゃないから良かったけど、言えないよねぇ。公安局の戦力が今どうなっているかとかどれくらいかをRabbit小隊を使って測ろうとしましたなんて。)

 

そう、イサネが何故クローバー作戦と言うほぼ確実に激戦が予想されるであろう作戦においてヘリによる狙撃支援役に回ったのか。それは現在各学園の風紀委員会等を除いてキヴォトス全体の治安を担う組織の実力がどれ程か、そしてその本巣を突いたらどうなるのかを確認する事だった。理由としてははいずれ自分がヴァルキューレとぶつかる事になった時の為の戦力確認だ。

 

(警備局の練度の把握こそ出来たのは良いけど、カイザーに武器を貰った後の公安局がどれくらい強くなったのかが結局分からず仕舞いなのがなぁ。撤退際に地上出口を封鎖しているのはヘリから見えたんだけど・・・)

 

結果としては警備局の戦力・練度を測る事こそ出来たものの肝心の公安局がどれくらいなのかまでを測る事は出来なかった。

 

「半分成功の半分失敗、達成率で言うなら50%くらいね。とは言ってもそこまで重要じゃないし、何より私の第一目標も貴方達が無事目的を達成する事だから特に気にしないで良いよ。」

 

「そうですか・・・」

 

気にしないでと言ってみたは良いものの、やはりイサネの第二目標の完全達成が出来なかった事についてそれなりに思う所があるらしく、声色が若干落ち込んでいる。そんな様子のミヤコを見たイサネは流石にこればっかりはと助け船を出す。

 

「私の個人的な思惑って、言わば主目標から逸れろって言うのとほぼ同義だから、これで良いのよ。むしろ完全達成するとなるとクローバーの確保が出来なくなる事は確定だし。」

 

「・・・分かりました。それについてはこれ以上踏み込まない事にします。」

 

助け舟を聞いて納得したミヤコの言葉に内心ほっと胸を撫で下ろすイサネ。内容が内容だけに余り目的を知られたくない以上ここでミヤコに引き下がって貰えたのはイサネとしても幸運だった。

 

「弾薬費・・・爆薬類が結構嵩みましたね。数的不利を被ったので仕方の無い話ではありますが、使えなくなった武器を売って手に入れたお金ももう殆ど底を尽いている以上補充も・・・」

 

「弾薬があるならシャーレ経由で治安維持関連の依頼を回して貰えば良いんじゃない?依頼の斡旋なら割とシャーレの本来の機能だし。・・・まぁ駄目だとしてもバイトすれば最低限は揃えられそうだけど。」

 

「・・・この後検討してみます。」

 

お互いに雑談に花を咲かせながらミヤコは報告書の作成と作戦で消費した物資類の補充の目処の管理、イサネは長大な対物ライフルの手入れと改造を進める。そうしてお互いに作業を続けているとサキ、モエ、ミユの三人も二人の輪に加わり、一気に騒がしくなりながらも賑やかになる。

 

「――でさ、こいつの無茶な狙撃の反動のせいでヘリのドアの動作が怪しくなって!」

 

「あー、修繕費出そうか?」

 

「あ、すぐにそうやって金に物言わせるんだ!ずりぃぞ!」

 

そうしてやいのやいのと騒いでいると、作戦後のrabbit小隊の様子を見に来たであろう先生が、

 

 

「こんにちは皆。昨日は本当にお疲れ様。」

 

 

と手を振りながら場に現れる。

 

「こんにちは先生。本日はどのような用件ですか?」

 

「いや、ミヤコ達のおかげか今ヴァルキューレの校舎前にクロノスの生徒達が凄い勢いで詰め寄っててさ、それにSNSには誰が流したかは知らないけどカイザー側の取引記録も出回ってて凄い事になってるよ。」

 

挨拶もそこそこに、先生が公園にいた一同に違法リベートが発覚したヴァルキューレを取り巻く現状を話す。それを聞いたイサネは他の四人と同じく懐からスマホを取り出し、ニュースや投稿サイト、ネット掲示板等のSNSを開く。

 

(うわ、今日の話題がヴァルキューレのリベートで持ち切りだ。どうやら私が流した取引データが上手い事広まったみたいね。・・・え、もう連邦生徒会が事件対応に動いている?)

 

SNSに書き込まれた投稿を見ながら、流したデータが上手く世間に響いた事を内心で喜ぶ一方、稀に見つかる既に連邦生徒会が調査チームを結成して事件解決に動いているという内容の書き込みに違和感を感じる。

 

「言われて初めて確認しましたが・・・凄いニュースになってますね。」

 

「ははっ!SNSの話題がヴァルキューレの汚職一色だ!こりゃ面白れぇ!今頃カンナはさぞ大変だろうな~、普通に可哀そう。」

 

「イサネ、全然可哀想に思ってるとは思えないくらい悪い顔してるよ。」

 

ヴァルキューレの違法リベート発覚の立役者であるRabbit小隊一同が翌日の昼過ぎにこの事態を知るというのも中々変な話ではあるが、それでも力無き者達(Rabbit小隊)による決死の牙は腐敗した権力のかなり深い所に見事突き刺さり、その贅肉をそぎ落とす事が出来た様だ。

 

「ミヤコちゃんはずっと報告書書いてたから知らないと思うけど、朝からずっとその話題で持ち切りだよ・・・も、もしこれで公安局が公園を襲撃し来たら・・・?」

 

「別に関係ない。私達はやるべき事をやっただけだ。それに今は校舎前に取り着くクロノス含めて色々対処しないといけないだろ、私達に構っている暇は無い筈。そしてここで私達を攻撃したらそれこそ更にヴァルキューレの立場が無くなる。」

 

ネガティブ思考から来るヴァルキューレの報復に怯えるミユと、来るなら来いと言わんばかりに胸を張るサキ。

 

 

「それはそうなんだけど、なんか引っ掛かるっていうか。なんかそれぞれの対応早過ぎない?」

 

 

一方でモエは改めて現状を確認し、違和感の存在に気付く。

 

「連邦生徒会が調査チームを組織したのもそうだし、相当金が掛かっていた筈のカイザーも随分すっぱりと再開発の中止を宣言するし。・・・先生、もしかして連邦生徒会に脅迫でもした?」

 

「い、いや、そういうのは何も・・・」

 

モエのかなり攻め込んだ質問に苦笑しながらNoを返す先生。

 

(まぁ十中八九防衛室・・・不知火カヤの根回しだろうね。カンナが汚職を受け入れるとは思えないからリベートの指示もあの不快な山羊目女が裏と見て良いね。)

 

ヴァルキューレは警察学校と銘打っているものの実際はキヴォトスの行政組織である連邦生徒会の下部組織であり、今回のリベートは防衛室の根が回っている事をイサネは確実視していた。

 

(って言うかSNSには載せてないけどカイザーの取引記録に防衛室に繋がる隠語がばっちり存在してる以上事実なのよね。・・・問題は腐っても権力ある相手に情報戦で勝てるかどうか・・・)

 

そして更にダメ押しとして数日前にカイザーのデータサーバから引っこ抜いた取引データの中に明らかに連邦生徒会、もしくは防衛室を示す隠語が幾つも使われている事がイサネの確信を確固たるものとしている。

 

「一先ず安心は出来ました。子ウサギタウンの再開発が中止されるなら、放浪者の方々が追い出される事も無いでしょうし。私達も、ここに居られます。」

 

(・・・とは言え、防衛室まで締め上げる証拠としては余りにも証拠の繋がりに欠ける。身勝手な動きを咎められた以上防衛室も暫くは大人しくしてるだろうし、まぁ子ウサギタウンも暫くは平和かな。)

 

自分達の今の家と放浪者達を守る事が出来たと話すミヤコを横に眺めながら、イサネはカイザーと連邦生徒会の癒着について思考に耽っていると、

 

 

 

「あー、あのぅ・・・」

 

 

 

――デジャヴ。

 

 

和気藹々としていた一同の間に響く第三者の声。ついこの間に体験した記憶が脳裏によぎる。フラッシュバックした記憶のままに視線を声の方向へ向けると、そこにはこの間と比べ弾痕こそ無いもののそれ以外全て同じ格好の人物が居た。

 

 

――言うまでもない。デカルトである。

 

 

「うわ、侵入者だ。」

 

 

「サキ、手榴弾頂戴。朝の訓練がてら軽く一発・・・とイサネ、GO。」

 

 

そして、声の正体を知った一同の動きも何ら変化無かった。サキが侵入者だと声を上げ、モエが吹き飛ばそうとしてイサネに指示を出す。前回と違う所と言えばモエもなけなしの爆薬すらも向けようとしている所だろうか。

 

 

「待て待て待て!侵入じゃない!挨拶に来たんだ!」

 

 

それに対しデカルトが必死に声を上げる所もこの間の再現である。

 

「・・・挨拶?」

 

「あぁ、何か昔の本で読んだ事ある。ちょっとした挨拶だぜ!って言いながら鉛玉と爆薬を喰らわせるあの。」

 

「ブラックマーケットなら割と良くあるよそれ。と言うかブラックマーケットに居る不良生徒間では挨拶がもう抗争の認識になってるね。」

 

「そんな訳無いだろう!これだから無法者は!」

 

既に挨拶の認識が物騒になっているサキとイサネの二人に、デカルトが声を荒げる。が、その後もじもじと何かを呟き、意を決した様に話し始める。

 

「・・・君達には助けられてしまいました。どうやら危険を顧みずにヴァルキューレに潜入し、彼女達の秘密を暴いたのだとか。」

 

一体ホームレスが何処でそんな情報を掴んだのか、デカルトの口から出てきたのは謝礼の言葉だった。一同の視線が集中する中、デカルトは言葉を続ける。

 

「おかげで私達の聖所、子ウサギタウンも脅かされる事は無くなり、所確幸の仲間達も徐々に戻ってきています。・・・私達の為では無かったのかもしれません。ですが、恩を受けて知らぬ存ぜぬは、求道者としての信念に背きますので・・・」

 

無欲を実践すると抜かしている割に何故か欲塗れの者を世間は求道者とは呼ばないだろうが、彼は自身の事を求道者と信じて疑わない様で、若干渋々ではあるものの一同に感謝の言葉を述べる。

 

「そんな君達に感謝の意を伝える為、特別な食べ物をプレゼントしに来たのです。」

 

「特別な食べ物!?何それ!」

 

野営が日常となったRabbit小隊は常にあらゆる物資が不足している。故に法に則っている限り形は何であれこういった物資入手確保の機会は喉から手が出る程嬉しいイベントだ。

 

「・・・まさかもやし弁当じゃないよな。」

 

「あれは特別でも何でも無いでしょ。コンビニ企業のコストカット成れ果てってだけで。」

 

「いえいえまさか。これは私達が持っている物の中で最も貴重な物です。」

 

もやし弁当などと言う特別とは程遠い物ではないのかと疑うサキの言葉を否定する様に、自信満々のデカルトが手提げのカバンからラップ付きのお皿を取り出す。そして――

 

 

「これは鶏の骨を揚げた――」

 

 

――すでに何かおかしい。

 

 

「唐揚げです!!」

 

 

そう言って一同の前にデカルトが出したのは骨付きの唐揚げだった。・・・骨が露出し、先端部に僅かに肉片が残っているという明らかに食べ残しの。

 

 

場の空気が凍り付く。約一名その僅かに肉がこびり付いた骨に懐かしさを覚えている者を除き、場に居た者全ての思考が夢幻の宇宙を彷徨う。

 

「・・・唐揚げ・・・ですか?」

 

 

数瞬の思考停止の後、最も早く意識が現実に帰還したミヤコがデカルトに問う。

 

「はい。これは普通の唐揚げと違って鶏の骨を揚げた物ですので、そのまま食べるという事は出来ません。」

 

しかし、返ってきたのはまさかの肯定。デカルトはそのまま最早生ごみに等しい残飯の乗った皿を手に喋り続ける。

 

「しかしその香りは正に普通の唐揚げ。この匂いを存分に味わう事で美味を感じる事が出来ながらもカロリーは0。正に革新的な食材です。これ一つでビール3缶は飲めます!もちろんご飯との相性もばっちりです!」

 

自信満々に骨付き唐揚げの食べ残しをさも絶品のグルメと言わんばかりに評価するデカルトに、近くでそれを見ていた先生はその後の展開を確信し、非常に曖昧な表情になる。

 

 

「さぁ、存分に味わって下さい。」

 

 

そしてその残飯を持つ手をずいと未だ唖然として動かないミヤコに伸ばすデカルト。

 

「つ、つまりこれは唐揚げじゃなくて・・・」

 

「生ごみか?」

 

一応だが、鶏の骨自体は鶏がらスープを素材から作る時に使われる物であり、ちゃんと処理をした鶏の骨からは非常に美味しいスープ、もしくは出汁が抽出出来る。勿論他に食されている動物の骨とて例外では無いのだが、既に一度唐揚げとして調理され、誰かの口・唾液に触れた後の骨となれば話は別。それは普通にただの廃棄物だ。

 

「な、生ごみ!?違いますよ!これはれっきとした唐揚げです!パーツが違うだけで!まだ楽しむ事が出来る品を生ごみとは失礼千万!」

 

明らかな廃棄物片手にここまで熱弁を振るう事の出来るデカルトには最早一種の感心すら持てる。

 

「まぁ確かに生ごみじゃないな。」

 

そんな中、モエがふと口を開く。もしやここに来て理解者が・・・とモエを見やるデカルト。

 

 

「この辺のごみ出し規定によると、鶏の骨は燃えるゴミに分類されるみたいだし。」

 

 

が、鶏の骨が生ごみから燃えるごみに変わっただけであり、当然ではあるものの食材としての評価にはならなかった。・・・当然だ。骨付き唐揚げの食べ残しなど、誰がどう見たとしてもごみでしかないのだから。

 

 

「さっきから、生ごみだの燃えるごみだの・・・こんな貴重な食べ物に何たる言い草・・・っ!」

 

 

だが、デカルトは自らが隠し持つ最も貴重な食材と言う名のごみを事実通りごみと貶された事がよほど気に食わないらしく、ふつふつと怒りを溜めながら不満を口に出す。

 

 

 

「やはり、我々所確幸は、貴方達とは相容れないっ!!」

 

 

 

そして、声高々にそう宣言するが、正直に言って今更感が凄い。何故なら――

 

 

「それはこっちの台詞だ!モエ、榴弾をあるだけ持って来い!」

 

 

「よっしゃっ!派手に爆発させよう!!」

 

 

Rabbit小隊で最も血の気の多いメンバー上位二名が既にこの有様だからだ。

 

デカルトが正式に敵対宣言をした事により、即座に手に持っていた銃器となけなしの手榴弾を手に持ったサキとモエはデカルトに襲い掛かる。

 

「くっ、こちらだって貰った武器が――って、ヴァルキューレに没収されていたんでした!あっ、ちょ、ちょっと待っ―――」

 

「宣戦布告したのはそっちだからな!問答無用!」

 

「来た来た来たぁ!ぶっ飛べぇ!」

 

所確幸メンバー総員で相手しても碌に相手にならなかったRabbit小隊の隊員二人にただ口の上手い自称求道者でしかないデカルトが敵うはずも無いのは火を見るよりも明らかだった。

 

「・・・またこうなるんですか。」

 

一方的にぼこぼこにされているデカルトと公園内で爆発するなけなしの手榴弾にミヤコが深い深い溜息をつく。

 

「爆薬類の費用が更に増したね。・・・金貸そうか?」

 

「・・・検討の余地が出てきたのかもしれません。」

 

「流石にそこは私が出すから・・・」

 

胃かさぞきりきりと悲鳴を上げているであろうミヤコに悲しいまでに意味の無い慰めの言葉を投げかけながら、ある意味キヴォトスの日常を眺める先生とイサネ。

 

(しっかし唐揚げの残骸かぁ・・・まさか私以外にも食い物として扱う奴が居たとは。懐かしいなぁ、腹の足しにもならない極小さな肉片の付いた骨を数人で分け合ったのは本当に懐かしい。)

 

その最中、ふと過去の記憶を思い出したイサネ。当時はあれが唐揚げと言う名称で呼ばれていた事すらも知らなかったが、生ごみに等しい残り粕でも唐揚げは唐揚げとして美味であった故に見つけた時は中々にテンションが上がったものだ。

 

 

「・・・ガキの頃、ああいうの探して駆け回ったなぁ。」

 

 

キヴォトスに来てまさかの出会いによる懐かしさに、ついぽろっと零してしまうイサネ。はっきり言ってほぼ失言である。そして、それを至近距離に居たミヤコと先生が聞き逃すは無く、

 

「今のああいうのを探して、と言うのは今彼が手に持つあのごみの事ですか?一体何の用途で・・・」

 

即座に自らのの半失言をミヤコに掴まれる。

 

「え?そんなのその日生きていく為の食い物に決まって・・・あ、やべ言っちゃった。」

 

そして何の慢心かミヤコの詰問に更に口を滑らせるイサネ。ここまでくると最早わざとなのではないかと疑わざるを得ない。勿論イサネ自身この事を他人に知られる事を自分は何ら問題に思っていないのだが、それを知った他人や周囲に対する対応が面倒である為面倒臭いながらも隠す努力をしている。特にキヴォトスに来てからは。

 

「どういうことですかイサネさん。まさかあのような物を主食としていた時期があったと・・・?」

 

「・・・黙秘権を行使します。」

 

だが、昔を懐かしんだ程度でぽろりと暴露している様では本当に隠す努力をしているのかも甚だ怪しい所である。イサネの過去の一端を知っている先生は、彼女の努力する気を感じられない隠蔽努力に苦笑いでミヤコの尋問の様子を見守る事しか出来ない。

 

「答えてくださいイサネさん。あなたは過去にその日の食事すらも碌に取れない様な時期があった。・・・先程の発言から予想できる事ですが、本当ですか?」

 

「先程の発言?き、きき、気のせいじゃないかなぁ。そ、それに仮に事実だとしてもそれを君らとどう関係するのさ。」

 

「ここキヴォトスにおいて碌に食事も取れない様な地域が存在する・・・実に由々しき問題です。その地域を統治する生徒会が問題なのか、それともその地域全体が問題なのか・・・どちらにせよ、連邦生徒会が動くべき案件です。そして私達は連邦生徒会長に、連邦生徒会に属する組織です、関係は大いに存在します。」

 

真顔で詰め寄るミヤコに冷や汗を流しながら必死に誤魔化すイサネ。キヴォトスにおいて常に恐れられる側の万物の天敵がここまで追い詰められているのは非常に珍しい光景だと言えるだろう。

 

「ははは・・・ミヤコ、イサネにはイサネの事情があるから、余りその事を掘り下げないでくれると助かるかな。」

 

「・・・先生がそう言うのでしたら。イサネさん、今の食生活は流石に大丈夫ですよね?」

 

「だ、大丈夫です。」

 

最終手段として先生に視線で助けを求めるイサネ。先生もそれを受けて苦笑いはそのままに、まぁまぁと尋問と化した両者の間に割って入る。尋問から解放されたイサネは己の失言を猛烈に反省しながら、自身に向けられた矛先を逸らすべく口を開く。

 

「そういえばさ、話は変わるけど、教育のやり方の一つとして飴と鞭って言うやり方があるのはまぁ知っていると思うんだけど。」

 

「ありますね。引き締める所は引き締め、緩める所は緩めるという教育または支配方法ですね。」

 

「私は別にRabbit小隊の教官でも何でもないけど、クローバー作戦ではまぁ頑張ってくれたからさ、ちょっとこういう物を用意してみたの。」

 

まさかまた生ごみかと身構えるミヤコを横目に、イサネはリュックから保冷バッグを取り出し、それを開ける。中に入っているのは勿論先日の就寝前に確認した一つ数千円する高級焼肉弁当。

 

「はいこれ、高級料亭の焼肉弁当4人分。」

 

「何処から奪ってきたのですか?」

 

「・・・ちゃんと買ったよ。店まで行って、カウンターで注文したよ。」

 

しかし、ミヤコに見せるや否やいきなりこういう事を疑われている辺り信頼は信頼でも嫌な方向での信頼も同時に得てしまった事を心の中で実感する。が、今イサネが手に持つ黒光りの弁当箱は間違いなくイサネが金を払って購入した物だ。その事実に嘘はない。

 

「という事は、これは本当に・・・?」

 

「一つ三千幾らした本物だよ。まぁこれまで貴方達苦境ばかりだったから、これくらい贅沢しても罰当たらないでしょ。」

 

目の前に一つ4000円弱する焼肉弁当が、情報に踊らされたとはいえ所確幸のアジトに突入してまで探し求めた高級焼肉弁当が、自身の目の前にあるという事実に硬直するミヤコを余所に、いつの間にか戻って来ていたサキとモエがイサネの持つ弁当箱に反応する。

 

「おいイサネ、それって・・・」

 

「ご褒美あげる。一人一つどうぞ。」

 

「まじかよ!まさかこんな所で高級焼肉弁当が食べられるなんて!」

 

「要加熱だから電子レンジ必要だけど・・・近くにコンビニあるから問題無いね。ほらほら、ミユも持ってけ~。」

 

唐突に天から舞い降りた御褒美に喜びを爆発させるサキとモエに弁当を配りつつ、脇でそれを見ていたミユにも弁当を手渡す。

 

「ミヤコー?要らないなら私が食べちゃうよー?」

 

「はっ!?も、貰います。あ、これ凄いずっしりして・・・イサネさん、本当にありがとうございます。」

 

呆けているミヤコにも弁当を渡し、イサネは弁当を手にコンビニへ駆け出すRabbit小隊を見送る。

 

「・・・私も、何かプレゼントすればよかったなぁ。」

 

「先生。そう言えば今月懐危ないんじゃなかったっけ?」

 

「な、何故それを・・・!」

 

公園の野営地に残った先生と雑談を交わしつつ、小隊一同の帰りを待つ。

 

 

 

 

その後、その値段に恥じない味に舌鼓を打つ四人を見ながら、同じくリュックに入れていた味のしないエナジーバーを齧るイサネであった。隣でコンビニ弁当を食べる先生に苦い表情をされた事は言うまでもない。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

―――全てを闇に覆い隠す夜。

 

 

 

 

 

全ての照明が消えたサンクトゥムタワーの一室にて、一つの影がその執務机に座っていた。

 

 

 

「やはりこうなってしまいましたか。」

 

 

一つの影――連邦生徒会の制服を身に纏ったその生徒は、自分以外人の気配のないその部屋で一人呟く。

 

「ヴァルキューレは暫く動けそうにありませんね。それにクロノスもしつこそうですし、相変わらず、私は人に恵まれませんねぇ・・・」

 

何かを笑う様に、もしくは自らの不運を嘆く様に、己の人望の無さを口に吐き出す。

 

 

「・・・それは前にも聞いた。」

 

 

しかし、何も居ない筈の暗い室内に二人目の声が響く。椅子に座る彼女以外に人の気配のしないその部屋に。

 

「ふふ・・・とは言え、カイザーとこちら側についての件や繋がりについてはまだ見つかっていないようですし、計画に支障は無さそうですね。」

 

「その辺に気を遣っている暇があるなら、信じられる仲間を増やす事に時間を使うべきでは?」

 

二つの声が会話を続ける。

 

「信じられる仲間、ですか・・・」

 

椅子に座る生徒(自ら)を鋭く突き刺す言葉に、彼女は少し思考する。そしておもむろに椅子から立ち上がり、机の周りを歩く。照明が落ちていると言えど、ここは地上から何mも離れている場所にある。故にガラス張りから入る夜の街の光だけでも歩行に支障は出ない。

 

 

「そういえば、あなた達の後輩達・・・中々良さそうですね?腐っても鯛と言いますか、熟練度こそ足りませんが、やはりSRTに入学出来ただけの事はありますね。」

 

 

「・・・私からすれば、SRTを名乗るにはまだ未熟。」

 

 

厳しい評価を下す声と共に陰から出てくるのは濃い鼠色の長髪にツンと立った狐耳の人影。それともう一人、柔らかい桜色のショートボブに特徴的な獣耳を揺らす生徒。どちらも同じくSRTのロゴが刻まれた制服を身に着けている。

 

「相変わらず、ユキノちゃんは厳しいねぇ。」

 

「ニコが甘いだけ。もし私だったら、警報を鳴らさずに1分で脱出出来た。」

 

何処から知ったのか。今回のRabbit小隊によるヴァルキューレ潜入作戦における脱出を一分で為せるとまるで事実とばかりに話すユキノと呼ばれた生徒。

 

「まぁ、彼女達はまだ1年生ですものね。皆さんの様なベテランの実績を期待するというのは少々酷な事でしょう。所で・・・先日の閉鎖されたSRTの校舎に侵入者が居たと、報告を受けていたのですが・・・ちゃんと捕まえられましたか?」

 

「っ。」

 

しかし、それも二人の会話を聞いていたれた制服を着た生徒の言葉により遮られる。

 

「報告の限りでは交戦まで持ち込み、試作の高出力型テーザー銃を当てたのは良いものの正体まで掴む事は出来ないまま最終的に逃亡された。とあるのですが、これについてどう思いますか?」

 

更に追撃が入る。しかし、彼女――ユキノと呼ばれた生徒は答えない。

 

「まぁ閉鎖時に重要な書類は全て破棄か回収しましたので、侵入された所で何かある訳でもないのですが。・・・っと、話が逸れました。」

 

こほんと咳払いを入れ、話始める。

 

「彼女達についてですが、熟練度不足と言うのは否定しませんが、使わないというのも中々に勿体ないですし。・・・そうですね、私達のクーデター計画に彼女達も参加させると言うのはどうでしょうか。」

 

クーデター。本来ならあるまじきその単語に、誰も何の反応を示さない。

 

 

「先輩としてどうですか?SRT特殊学園、Fox小隊の皆さん?」

 

 

Fox小隊――そう呼ぶと同時に町の中の光が部屋の奥まで差し込み、その人影と人の気配を隠していた黒を照らし払う。

 

 

「まぁ、良いんじゃないかねぇ。」

 

 

端に控えていた潤色の短髪の生徒が、大きなガンケース片手に口を開く。

 

 

「こうなったら、それくらいの埋め合わせはして貰わないと。」

 

 

その反対の端で、ライオットシールドに顔を乗せている淡黄色の長髪の生徒が、顔を上げながら言う。どちらも同じく獣耳を持っており、SRTの制服に身を包んでいる。

 

 

「可愛い後輩たちの手を汚したくは無かったけど・・・仕方ないかな?」

 

 

ニコと呼ばれた生徒が、思いを振り切るように言う。

 

 

「・・・仮にもSRTに入った身。最初から覚悟は出来ている筈。」

 

 

ユキノが、更に続ける。声が静かに霧散する。決意の灯った瞳には何故か光が無い。

 

 

 

「全ては、SRTの復活。そして、シャーレ廃絶の為に。」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『――シャーレ廃絶の為に。』

 

 

 

モニターの光だけが照らす狭い部屋――否、コックピットの中で、機械越し故のノイズ塗れの声が響き渡る。

 

 

「シャーレの廃絶・・・ねぇ。」

 

 

コックピットの中、人一人座れるシートに座った少女がぼそりと呟く。

 

 

 

「私も、別方面から一枚噛ませてもらおうかな。・・・あっははは・・・」

 

 

 

嗤う。ただただ昏く、そして静かに笑う。

 

 

「手を汚すって・・・ははっ、人も殺した事のないド素人が、どの口を抜かしてるんだろうね?」

 

 

モニターから流れてくる動きの無くなった映像を眺めながら、少女は一人呟く。

 

 

 

「ベテラン・・・ハッキングされてる監視カメラに気付かない時点で、それは果たしてベテランと呼べるのか。SRTの校舎に侵入した時と言い、どうにも詰めというか・・・甘いねぇ。」

 

 

 

少女は嗤う。ただただ一人、自分だけの世界で。

 

 

 

 

「先生の信念に基づく狂気を、舐めて掛かるのはいけないなぁ。」

 

 

 

 

―――少女は嗤う。ただただ一人、誰も居ない(既に終わった)世界で。

 

 

 

 

 





これにてカルバノグの兎編1章完結となります。

次の投稿は1週か2週間後の可能性が極大です。次回の話の内容はアンケート次第ですので、気軽に投票をどうぞ。

では皆様、良いお年を。

カルバノグの兎編1章の次の話はどれが良い?

  • 時計仕掛けの花のパヴァーヌ編2章でしょ
  • パヴァーヌ2章よりも一旦ビナーでしょ
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