透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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えー、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。(大遅刻)


という訳で再び執筆を再開していこうと思います。更新速度は...ゆるして

今回からアンケートの結果よりvol.2 時計仕掛けの花のパヴァーヌ2章でございます。投票して下さった皆様、協力頂き本当にありがとうございました。

執筆やストーリー構築の為に本編の動画を見てきたのですがやはりリオ会長がアリスを連れて行く所がだいぶ重かったですね。作者は心が非常に脆弱なもので。




名前が持つ意味

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属製の床を可能な限り速く、そして強く蹴る。

 

 

 

 

「し・・・ッ!」

 

 

 

床を蹴った事による反作用によって体に力が跳ね返り、体がその場からほぼ真横に跳ぶ。

 

 

 

 

「しゃぁッ!!」

 

 

 

 

その直後、蹴った床に凄まじい量の銃弾の雨が降り注ぐ。火花が散り、金属と金属が超高速でぶつかる甲高い音が鼓膜を抑え付けんばかりに喧しく反響する。

 

 

「・・・今のを避け切るのか。はッ、やるじゃねぇか。」

 

 

「・・・まぐれかもよ?」

 

 

反響が消え、無機質な静寂に包まれたの中で二人が対峙する。

 

 

「まぁでもこうでなきゃ面白くねぇよなぁ・・・てめぇとやり合うならよぉッ!!」

 

 

「まーた正面・・・懲りないなぁ、本当にねぇッ!」

 

 

一方は止まる気0、行く先全てを引き潰す暴走機関車の如きフルスロットル。もう一方は予備動作やその後の動作の一切を予測させないフェイントだらけ、踏めば即死のトラップダッシュ。

 

一瞬で縮まる彼我の距離。交錯の瞬間片方――着崩したメイド服の上にスカジャンを羽織った小柄な少女が跳躍。上から強襲を掛ける。そしてもう片方――白のレディース用ワイシャツに膝上程の丈の極一般的なスクールスカートという実に身軽な恰好の少女が一切の予備動作無しに右方向へステップを踏む。手に持った独特な形状の銃器を向ける。

 

 

「おらおらおらぁッ!」

 

 

「・・・墜ちろッ!」

 

 

一瞬で放射状に火力をばら撒くショットガンと瞬間的に弾幕をばら撒くサブマシンガン。向け合った銃口が互いに異なる火を噴く。

 

これまでほぼ対比の動作。しかし、交錯は止まらない。宙にあるというのに面制圧で放たれる散弾を全て捌き切ったメイド服の少女がもう片方の手に持っていた瓜二つのサブマシンガンを構え、引き金を引く。

 

「ちっ、持続面ではどうにもならないかっ。」

 

一方の少女は再び自らに降り注ぐ無数の拳銃弾を最低限の動きで掻い潜り、灰銀色に艶めくその長髪の一本にすら掠らせずに相手の着地を狩りに行く。が、直後に殴打されたかの様に頭が左に傾く。とほぼ同じタイミングで顔のあった位置に突き刺さるは槍を彷彿とさせる跳び蹴り。

 

「まじか――っ!」

 

スカジャン+メイド服の少女――否、生徒ことC&C部長にしてミレニアムの勝利の女神、美甘ネルが驚く間も無い。跳び蹴りにより隙を晒した彼女の小柄な体に叩き込まれるは非常にユニークな形状をしたショットガンの銃口。

 

「がっ!?」

 

そのまま金属の床に叩きつけられ、腹を散弾を零距離で穿たれる事数発。強制的に体の中の空気を排出させられる苦しさに責め立てられつつもまだまだ動く足を体ごと無理矢理振り上げてショットガンによる抑え付けを脱すると同時に反撃を見舞う。

 

「っと。」

 

ネルの全身を使った蹴り上げを咄嗟に上げた右足で受けた少女――凄腕の傭兵バイトにして突如キヴォトスに現れた圧倒的上位捕食者もとい天敵こと標根イサネは、反撃を防御した右足で起き上がったネルに向かって振るう。が――

 

「見えてんだよッ!そいつはなぁッ!!」

 

「ちっ。」

 

腹部に数発の散弾を受けたにも関わらず一切動きに乱れを見せないネルはイサネが追い打ちで放った回し蹴りに自らの足裏を叩きつける(ヤクザキック)事で対応。それで生まれた一瞬の力の均衡を足場に再びイサネの上を取り、今度は超至近距離でサブマシンガン二丁流による乱射を見舞う。

 

ほぼ零距離でかつ大量にばら撒かれた銃弾はさしもイサネも片足が封じられた状態では回避が間に合わず、最低限の致命弾となり得る可能性の弾をいなす事しか出来ない。

 

「ぅあっ・・・!」

 

顔を始めとして全身に銃弾を浴びたイサネはその機械の如き端正な顔立ちを不快と苦しさに歪め、堪らず距離を取る。勿論それを見逃すネルではなく、イサネが距離を置こうとするのを感じ取るや否や即座に距離を詰めに行き、体勢を整させる事を許さない。

 

「相変わらずイカれてやがんな、その反応速度。」

 

「お互い様でしょ、それは。」

 

しかし、イサネもイサネ。追撃にばら撒かれたサブマシンガンの残弾全てを有り得ない反応速度を以て回避すると並行して体勢を立て直して見せる。

 

「そういやてめぇ、あん時みてーな狂った笑いはしねーんだな。戦いで楽しくなってくると自然とそうなるって言ってたが、今のあたしとの喧嘩は楽しくないのか?」

 

「あくまで自然とそうなるってだけで抑える事くらいは出来るわ。それに迂闊に本気出す訳にもいかないでしょ。今日貴方と撃ち合ってるのだってエンジニア部の試作武器のテスターが本題なんだから、流石にそれを忘れる訳にはいかないね。」

 

お互いのリロードによって生まれた戦闘の間隙に交わされる会話。戦闘態勢と戦闘時の緊張により空気こそ引き締められている試験場だが、会話の内容とその声に乗った感情はいたって平和であり、そして冗長だ。

 

「ふーん、なるほどね・・・で、どうよ、その武器の使い心地は。腹に数発貰った感じ結構な威力はあったぜ。あれは大分効いた。」

 

「形状がだいぶユニークではあるけど、打撃武器としても使える程頑強なフレームとそれに耐えうる発射機構は高評価出来る。リロードもやり易い。けど・・・」

 

会話の最中、手に持ったショットガンを見ながらすらすらと評価を述べるイサネだが、途中歯に何か引っ掛かったかの様に言い淀む。

 

「けど、なんだ?」

 

「いや・・・これなんの液体かなって・・・」

 

ネルに答えを急かされ、取り敢えず答える事にしたイサネ。ショットガンを軽く弄り、マガジンタイプの弾倉の丁度横についている何かの容器を外し、蓋を開けて中身をネルに見せる。

 

「何だそ――うっ、これタバスコか!ってまたかよあいつら!?」

 

イサネの持つ明らかに銃弾を保管するマガジンではない容器に顔を近づけるネルだったが、顔を近づけた途端に香る強烈な刺激臭と容器の口から僅かに見える橙色の液体に思わず顔を逸らす。

 

「おいウタハぁ!てめぇなんてもん仕込んでやがんだ!まだ懲りてないってのかこの野郎!!」

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ。この間君の銃をうっかりタバスコ噴射機にしてしまった事は確かに私達のミスだ。それに制裁だってきっちり受けた。だからあれ以降銃器の改造はきちんと誰の物かを確認してから弄っているさ。』

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

そう、イサネが手に持つ容器に入っていた液体の正体はタバスコと言う強い酸味と辛味のある世界でも非常に有名な辛味香辛料だった。

 

キヴォトス最高峰の技術の楽園ミレニアムサイエンススクール。その中でも屈指の技術者集団にして開発の内容の何から何までがおかしい問題児集団ことエンジニア部。ネルが名を叫んだウタハは【マイスター】にしてエンジニア部の部長を務めている生徒だ。今こうしてミレニアムの敷地内にある試験場でイサネとネルが戦っているのもひとえにエンジニア部の依頼されての事だった。

 

『ま、まぁ兎に角聞いてくれ。私達エンジニア部は何かとピザをデリバリーする機会が多くてね。同時にタバスコも調味料として用いるのだが、これが欲しい時に手元に無いというのは世の不幸。という訳で生まれたのがタバスコ噴射機能付きの銃という訳だ。』

 

「・・・それはこの間も聞いたな。それで?」

 

『で、その時は銃本来の銃弾を発射するという機能をタバスコを噴射する機能に置き換えてしまった故に銃本来の役目を果たせないという結果に終わってしまったんだ。そこで生まれたのが今イレーネが持っているショットガンだよ。』

 

タバスコってなんだ?と首を傾げるイサネを余所にウタハの言い訳は続く。

 

『銃本来の発射機構も備えつつ、銃弾をチャンバーに供給するマガジンの他に専用の容器をもう一つの差込口に挿入し、バレル部分上のスイッチを切り替える事でもう一つの銃口からタバスコを噴射する事が出来るという正に実用性も咄嗟の利便性も兼ねた一品だ。勿論流体であればマヨネーズや水、ひいては摂氏100度の熱湯だって――』

 

「だぁーから機能の説明をしろなんて言ってねぇ!なんでタバスコなんだよ!せめて水とかにしろよ!何かの拍子で噴き出たら普通に危険じゃねぇか!」

 

『ほう?飛んでくる弾丸も無数の敵も恐れない約束された勝利の象徴(ミレニアム最強)である美甘ネル。まさか君にも危険だと思うものがあるなんて思いもしなかったよ。』

 

「・・・その最強がどういうもんか直接体に叩き込んでやるよ。覚悟しやがれ。」

 

ウタハの言い訳になっていない言い訳を聞き、即座に扉へ向かって走って行くネルを横目にイサネもイサネでタバスコの味が気になるのかかなりの刺激臭を放っているタバスコが入った容器をおもむろに自らの口に持って行く。

 

『あぁっ!い、イレーネさん!タバスコは直接飲むものではなく――ぁあっ!?』

 

「んぐ――ぐっ!?・・・かッ!がぁぁ・・・っ!ごげぇぇっ、げほっ!ごほっ!?・・・がひゅっ・・・がひゅ・・・っ!」

 

『・・・遅かったみたいだね。イレーネも、部長も。』

 

一口含んでみたは良いものの、一瞬で己の味覚と口内の神経細胞を焼き尽す灼熱の如き激痛に口に含んだものを喀血の如く吐き出し、両手で喉を抑えるイサネ。彼女の手を離れた事によりショットガンとタバスコが並々注がれた容器は床に落下し、金属床をオレンジ味の橙に染め上げる。

 

『ま、待ってくれ。ここでの暴力は施設破損で損害が出てしまうから一旦待って貰え――くっ、流石にここではもうどうしようも――ぁががががががががっ!?』

 

その一方で隣の部屋でネルに制裁されているであろう我らが部長白石ウタハの断末魔が同じくエンジニア部所属の猫塚ヒビキと豊見コトリの居る試験場第二管制室にまで響き渡る。ついでにタバスコに悶絶するイサネの居る試験室にもスピーカーを通して響く。

 

 

『・・・どうしようか、これ。』

 

 

『と、取り敢えずイレーネさんを助けに行きませんか・・・?』

 

 

至って平和な筈のミレニアム第一試験場は、たったの一瞬で今日のミレニアムにおいて一番悲惨な事件現場へと変貌を遂げていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だ、大丈夫か、イレーネ・・・大丈夫そうならテストを続けようと思う・・・』

 

 

 

数十分後、スピーカーから聞こえてくる死にかけのウタハの声。

 

 

「げほっ、げほっ・・・だ、大丈――ごっほ、ごほっ!?大丈夫・・・」

 

 

それに答えるは明らかに発声器官に深刻なダメージを抱えたイサネの声。その顔は泣き腫らしたかの様に頬が赤くなっており、目も涙で潤んでいる。

 

『本当に大丈夫?人によってはまだ辛味とか痛みが残っててもおかしくないと思うんだけど・・・』

 

「・・・そのタバスコとやらを容器に仕込んだのは貴方達でしょうが。まぁよく分からない液体を普通に口に入れた私も私なんだけど。んんっ、まだ若干喉が痛い・・・」

 

明らかに大丈夫では無さそうな状態に心配の声を掛けるヒビキの言葉を一蹴しつつ、次の試作武器の試験の為に管制室へと歩いて行くイサネ。

 

『ではイサネさんの為に説明しましょう!タバスコ、タバスコペッパーソースは主にキダチトウガラシの品種の内チレ・タバスコと言う品種を原材料にして作られた辛味香辛料です。その味はイサネさんが体験した通りピリッとした強い酸味と辛味が特徴です。一般的に流通している調味料で、本来は少量をピザやパスタなどの洋食にかけるのが主な使用用途なのですがその辛さ故に全く受け付けないという方も決して珍しくありません。一般的なタバスコは辛さの指標であるスコヴィル値にして2500程、上から見れば低い方なのですがこれでも―――』

 

「何を言っているのかさっぱり分からない。」

 

お得意の超長文でタバスコの解説を始めたコトリを無視し、イサネは管制室と試験場を仕切る金属製の扉を開けて中へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

「おうイレーネ。お前タバスコがっつり飲んでたが本当に大丈夫なんだろうな?お互いに本気を出さないかなり緩い模擬戦って決まりだが、喉潰れてねぇよな?」

 

「呼吸できてるから大丈夫だと思う。それに私呼吸が出来なくても15分以上は息が持つし、6~8分くらいなら無呼吸状態でもほぼ普段通りで戦闘できるから。」

 

「水中で撃ち合ったりでもしたことあんのかってレベルだなそりゃ。」

 

エンジニア部お手製のあらゆる種類の武器が並ぶ第二管制室にて、試験場から戻るや否や直ぐに武器を見繕い始めたイサネに気遣いの言葉を投げかけつつ、休憩兼雑談に興じるネル。

 

ネル自身別にスタミナや体力に自信が無い訳では無い、と言うかむしろそういった運動面はミレニアム最高峰と言っても過言ではないというのは既に証明済だ。

 

しかし、今回の試験テストでは兎に角テストを行う武器の数が多い。こうして机の上に広げられた物だけでもざっと30丁は下らないだろう。そしてその全てをイサネ1人が運用するのだ、いくら彼女が何の武器種でも大体使いこなせてかつ長大な対物ライフルすらも片手で悠々を振るう事が出来ると言えど所詮腕二本。テストの候補に挙がった武器達の総数の前には雀の涙にも等しい。

 

「イレーネ、次はこれとこれ。組み合わせ的には歪な構成でもないと思う。それにこれには追加の機能は乗せて無いから。」

 

「おっと、結構重量あるねこれ・・・ほんとに何の機能も無いの?この重量で?」

 

つまり今回のテストはほぼ丸一日を使い切る長丁場故にイサネもネルも数戦ごとに軽い休憩を挟んでいるという訳だ。

 

 

「・・・お、準備できたか。よっしゃ!早速やろうぜ!」

 

 

「あいよ。今行く。」

 

 

休憩が済んだネルは座っていた椅子から立ち上がり、己の愛銃【ツインドラゴン】を手に試験場に繋がる扉を開けて管制室を出ていく。遅れること数秒、イサネも続いて管制室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃあ・・・くっ、まだ鳩尾に貰った蹴りのダメージが・・・ふぅ・・・よし、それじゃあ二人とも、準備はいいかい?』

 

 

「先に聞いておくが他に変なのは仕込んでねぇよな?」

 

 

『今回は大丈夫だ。一般の物よりも異様に重量のあるサブマシンガンと初速を改造した45口径のハンドガン・・・他に特に機能は付けていない。それにそういうのは先に伝えておくさ。』

 

 

ネルとウタハの間で交わされる会話を余所にイサネは手に持った二つの武器を持つ腕を軽く構え、「準備は出来た。」と声を張る。

 

「あたしもOKだぜ。」

 

『分かった。それじゃあ・・・スタート!』

 

スピーカーから聞こえた戦闘開始の合図と共にイサネは床を蹴り、低く深く、そして前へとストライドを刻んでいく。目標は目の前のメイド服――美甘ネルだ。

 

「しゃぁッ!行くぜぇぇーーッ!!」

 

「ネル、今回は徹底的な近接戦だ。・・・やろうかッ!」

 

彼我の距離を喰らい合い、イサネとネルが至近距離で撃ち合う。いなしは無し。ひたすら身の捌きと受け流しに近い防御のみで引き金を引き合う。

 

「ぉおらぁッ!」

 

「しぃッ!」

 

イサネが上を取ろうと跳躍すればネルもそれを追い、ネルがイサネを地上に叩き落さんと仕掛ければイサネもその攻撃の悉くを撃ち落とし、反撃を見舞う。

 

(やっぱこいつとやるのは良い!強者と戦い、そして勝つ!今回はそういう訳にもいかねぇが、それでも強ぇ奴と喧嘩すんのは楽しいなぁッ!)

 

(相変わらずのインファイターめ、まぁ嫌いじゃないけど。さて、重量の割に意外と悪くないなこのサブマシンガンは。その一方、このハンドガンときたら――)

 

翼も無い、飛行する為の何かも無いというのに、一度宙を飛んだ二人はその後も周囲の空気が物理的に夏を帯びそうな程熾烈な近距離戦を演じながらも壁を蹴り相手を踏みどちらもあり得ない程の滞空時間を以て火線を交え続ける。

 

『す、凄いなこれは。床を蹴り体を捻り、更には相手を踏み台にする事で複数の跳躍を行い、滞空時間を伸ばしているのか。凄まじい身体能力だな・・・』

 

『やる?壁蹴りが出来るパワードスーツの開発。』

 

『うーん、壁蹴りだけでは余りそそられないな。何かこうもっと画期的な機能を主機能にした方が・・・』

 

お互い本気では無いというのに、既に常識外の応酬を始めた二人にインスピレーションを沸き立たせながらデータを記録するエンジニア部。

 

 

「おぉぉらぁッ!!」

 

 

「らぁぁぁぁッ!!」

 

 

まだ朝の空気が抜けきっていない午前中のミレニアムに、二人の戦闘狂(バーサーカー)が発する戦意と熱気が渦巻いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「あー、模擬戦の割にゃ中々楽しかったぜ。まさか適当な流し試合であたしがここまで疲れたと感じるなんてな。」

 

 

「でもテストで使った武器の大体が暴発とかトラブルで使い物にならなくなってるのがちょっと気になるなぁ。銃そのものの性能としては安定してるんだけど。」

 

 

「知るかよそんなん。あたし達・・・っつーかお前はあくまでも作った武器のテスト係なんだからそんなの気にする必要は無ぇだろ。渡された武器であたしと思いっ切りやり合えばいい。」

 

 

時計の短針が12、長針が6の数字を指し示す頃。朝からひたすら戦い続けたイサネとネルは試験場の外に設置されているベンチに腰掛け、それぞれ飲み物片手に和気藹々と雑談に興じていた。

 

「そう言えばよ、お前ゲヘナの風紀委員長と会ったことあるだろ。」

 

「良く知ってるね。」

 

「そりゃ一時期ゲヘナ中で騒ぎになってたからな。あのゲヘナ風紀委員会が天敵を仲間に引き入れただの二人目の魔王がゲヘナに降臨しただの、ネットじゃ結構騒がれたからな。」

 

「・・・あぁ、そうだった。依頼で風紀委員会の手伝いはしたよ。」

 

雑談の中、ネルが一つの話を切り出す。それはイサネが依頼にてゲヘナ風紀委員会の委員長を代理した時の事の様だ。話を聞いたイサネも記憶を思い返しながら相槌を打つ。

 

「それでよ、どうだったんだ?」

 

「どうって、何が?」

 

「決まってるだろ、ゲヘナの風紀委員長は噂通りなのかって事だ。」

 

ネルがイサネに問うた事はゲヘナの風紀委員長空崎ヒナの実力が本当なのかという事だ。イサネが救い様の無い戦闘狂である事は割と周囲の事実だが、ミレニアムにおいてはネルも同じである。

 

強い奴と戦い、そして勝つ。これこそがミレニアムの誇る武闘派エージェント集団C&C(cleaning&cleaning)を率いる部長にしてミレニアム最強、【約束された勝利の象徴】であるコールサイン00・美甘ネルの美学である。勝利こそが至高であり頂点。正に美甘ネルをミレニアム最強たらしめている最大の柱とも言えるだろう。

 

故にゲヘナ最強はおろかキヴォトスにおいても最強の称号に近いとされている人物にネルが興味を持つのはある意味自明の理であった。

 

「いや、知らない。」

 

「はぁ?ゲヘナの風紀委員長の戦いを間近で見たんじゃないのかよ?」

 

ブラックマーケットを中心に武名を鳴らす万物の天敵こと標根イサネは、依頼でゲヘナの風紀委員会の一員としてゲヘナの地を踏んでいたというのはネルも知っていた。故に直接戦う事は無かったとしても風紀委員長の戦いを間近で見、その強さを理解する事くらいは出来たのではないだろうかと思っての問いだった。しかし、それに対するイサネの回答はいたって素っ気ないものだった。

 

「ちょっとオフレコな話だけど、あの依頼って激務で休みの取れない委員長の代理をしてくれってものだから私が風紀委員会にいる間はヒナ・・・ゲヘナの風紀委員長って空崎ヒナって言うんだけど、依頼期間中のヒナは休んでたよ。」

 

「なんだそりゃ。風邪でも引いたのか?」

 

「ゲヘナって暴動抗争が日常茶飯事でしょう?だからヒナって毎日深夜遅くまでずっと仕事しててさ、書類業務から暴動鎮圧、果てには風紀委員会を何故か目の敵にする万魔殿の相手をこなしながら部下の訓練と化してるから、多分下手するとシャーレの先生に匹敵かそれ以上に忙しいんじゃないかな。」

 

さらりと聞かされたその話にネルは思わずぞっとした。正直戦闘業務だけなら問題無いだろう。だがそれ以外の業務――主に書類業務と万魔殿というゲヘナの行政機関の相手など頭脳に自信の無いネルには遥か雲の上の話である事は容易に想像がついた。

 

「・・・改めて聞くとまじでやべぇな、ゲヘナの風紀委員長。」

 

「本人も稀に取れる休日は殆ど寝てるって言ってたね。徹夜もザラらしいし。で、そんな折に暴動鎮圧だけでも・・・って事で私が候補になったっぽいね。ほら、私ってどこにも所属してないし、依頼されれば動く傭兵バイトやってるから、まぁ丁度良かったってやつじゃない?」

 

ゲヘナの風紀委員長の強さに関する話から彼女の余りにも過酷過ぎる日常の話に変わった事の指摘も忘れ、口伝だけでも理解出来るヒナの日々の驚異の激務に戦慄するネル。

 

「もうね、強さ云々の前に早く休めって言いたくなったね。と言うか初対面で言ったね、ちゃんと休めてる?って。」

 

「・・・なんだかこっちまで疲れてきちまったじゃねぇか。この話止めだ止め。」

 

自身にのしかかる疲労の幻覚と白けた空気を払拭する様に話を終わらせるネル。現状キヴォトス最強と名高いゲヘナ風紀委員長の強さについて聞こうと思っていた筈が、いつの間にか社畜紛いの話に変わってしまった事に内心舌打ちを鳴らしながら手に持った500mlのペットボトルを口に運び、中に入っていたスポーツドリンクをごくごくと喉を鳴らして飲む。

 

「はぁ・・・」

 

ペットボトルを口から離し、息を吐いて隣で呆然と空を仰ぐイサネを真似る様に上を向く。今日のキヴォトスの空も透き通る程に青く澄んでいて、所々にある雲すらも装飾品としてその威容を誇っている。

 

お互いに無言で空を眺めていると、二人の後ろですたすたと足音が鳴る。空を見上げ飽きたネルがふと視線を音の方へ向けると、そこには普段セーターの上に羽織っている白衣を脱いだウタハが居た。ウタハもネルが顔を向けた事を認めると足早に二人に近づき、声を掛ける。

 

「おや、こんなところに居たのか。・・・二人とも空を仰いで、上に何かあったのかい?」

 

「・・・ウタハか。試作品の方は放っても問題無ぇのか?」

 

「問題無い。予め昨日の段階で最終調整は済ませてあるからね。」

 

ネルの問いにさらりと答え、ウタハは未だ忘我の如く空を見上げ続けるイサネに話し掛ける。

 

「それよりもイレーネ。今朝君が持って来たアンチマテリアルライフルについてなんだが、一体何処まで手を加えたんだい?君に改造を頼まれて少し分解してみたのは良いんだが、構造の基礎が既にガタガタになってるんだ。」

 

「・・・んぁ。ウタハ・・・?何の話・・・?」

 

ウタハに「イレーネ」との名称で呼ばれ、空を仰いでいたイサネははっとして背凭れから身を起こし、視線をウタハの方へ向ける。

 

イレーネ。標根イサネの本当の名前であり、そして今イサネと自らの恩師にて親代わりであるセレンを繋ぐ二本の糸の内の一つ。キヴォトスに流れ着いてからは標根イサネを名乗っている為、それを知る者はC&C、エンジニア部、そしてセミナーの早瀬ユウカと生塩ノアだけと極少ない。そしてイサネ自身もその名を自らの信頼のおける者への証として扱う事もある。

 

「おはようイレーネ。君が持って来たライフルの話だ。頼まれた身で申し訳ないが少し手を貸して欲しくてね。」

 

「あぁいや別に寝てはいないけど。で話ってあの対物ライフルの事?確かにあれはバイポッド無しでの運用の為に色々弄り回したからね。という訳でネル、また後でね。」

 

イサネが持ち込んだ対物ライフル。それは数週間前にイサネが潰した組織の拠点から戦利品として分捕り、数日前に元SRT生徒であるRabbit小隊と一緒にヴァルキューレの不正取引の証拠を巡る戦いで用いた対物狙撃ライフルだ。

 

原型であるモデル名はalligator。小型のワニの名を冠するその対物狙撃銃は全身の長さにして2m、重量25kgと狙撃銃の中でも非常に長大な大きさを誇り、14.5×114mmという人の指よりも大きい銃弾を用い、約2kmという非常に長い有効射程を持つ。

 

「そうだ、ネル。もし興味があったらで構わないのだが、この後の試験テストでは君も試作武器を使ってみてはくれないか?二度言うが興味があったらで構わないから、考えておいて欲しい。それと休憩については45分までには戻って来てくれ。では。」

 

「お、おう。」

 

ウタハの誘いに対し曖昧な返事を返すネルを横目に、イサネは自身の数歩先を歩くウタハに着いて行く。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ウタハに着いて行き、つい先ほどまでネルと激戦を繰り広げた試験場に戻ってきたイサネは、自身が持ち込み、エンジニア部に更なる改造と改良を依頼した己の対物ライフルが置かれている部屋に入るや否や口を開く。

 

「で、何処がどう駄目なの?」

 

「駄目という訳ではない。ただ、君の持ち込んだこのライフルには既にかなりの手が加わっていてね。勿論改造も改良も出来ない訳では無いが、それをするとなるとこれまでのカスタムの殆どを元に戻す必要があるという事で、君を呼んだんだ。」

 

イサネの問いに答えるウタハの視線の先にはスコープを始めとしたあらゆるパーツが取り外され、ほぼ丸裸になった対物ライフルが鎮座している。

 

「ははぁ、成程ねぇ・・・今はちょっと困るね。本来伏せ撃ちで運用する武器を無理矢理立ち撃ち用に改造したからばらすとなるとちょっと面倒ね。」

 

「こんな物を立ったまま使うなんてキヴォトスで見てもそう居ないだろうね。・・・ましてや片手撃ちなど最早常識の外の話だ。」

 

「じゃあどうするか・・・」

 

ウタハの指摘の通り、イサネはこの狙撃銃に様々な改造を施した。対物ライフル特有の銃床部に装着された反動抑制用の一脚を筆頭に伏せ撃ちではなく立ったまま、もしくはしゃがんだ状態で銃身を何かに固定しないで運用する為の改造を。

 

「まぁ改造については後日詳しく話そう。・・・所で聞きたいのだが、君はこれに名前を付けたりとかはしないのかい?」

 

「名前?alligatorじゃなくて?」

 

「それは名前じゃなくてその銃のモデルの名称だろう。私が言いたいのはそうじゃない。」

 

唐突に聞かれた質問の意味を測りかねているイサネの前で、ウタハは自らが腰に下げたフォアグリップ付きのMAC10――【マイスター・ゼロ】を手に取る。

 

「例えば、これ。これは私の銃なのだが、これにはマイスター・ゼロという名前がついている。勿論命名者は私なのだが。まぁ固有名称と言えば分かるだろうか。」

 

「固有名称・・・あー、前にコトリが言っていたアリスのレールガンことスーパーノヴァとかそう言うもの?」

 

「そう、その通りだ。よく覚えているね。他に例を挙げるならさっきまで君が戦っていたネル。彼女の持つ鎖で繋がれた二丁のサブマシンガンはツインドラゴンと言う名称が付いてるし、セミナーの会計ことユウカの銃だって詳しく把握こそしていないが確か固有の名称があった筈だ。」

 

ウタハの説明を聞き、理解に致る。

 

(言わばネクストとストレイドの様なものか。アーマードコア・ネクストは兵器の種類を指す名称で、ストレイドはその中でも私が乗るネクストの名称という事か。)

 

固有名称と分類を示す名称の関係性は銃もネクストも同じだ。恐らくウタハは普段から既製品を使い回し、壊れたらすぐに乗り換えるイサネがここまで改造など手を加えた事から興味が湧いたが故の質問だったのだろう。一人頭の中で理解するイサネに、ウタハは再び問いを投げる。

 

「それで、どうだい。これに名前を付けようとかは考えているのかな?」

 

「・・・っ。」

 

逡巡。元々発想の端にさえ無かった事とは言え、それでもすぐにYesかNoを決める事は出来ない。

 

「でも何処かのタイミングでこいつも捨てる可能性だってある訳だし、名前なんて・・・」

 

思い返す限りストレイドでは戦闘で銃弾を全て使い切ったライフルやミサイルポッドなどは機体の軽量化の為、全てその場で捨てていた。ストレイドはあくまでもネクスト本体の事を指す名前であり、武装はそれに付属するものでしかなかったから。

 

だがそれが人の扱う銃器となると話が変わってくる。何故なら各部位ごとにパーツをアセンブルし、捨てた分の武器はまた企業から購入すれば良かったネクストとは違い、一度名前を付けると邪魔になったからと言って捨てる訳にはいかなくなってしまう。

 

「ふむ・・・確かに君の武器の扱い方を見ると迂闊な命名は不味いかもしれないね。でも、これはそもそもからして入手が難しい代物だ。入手が難しいなら簡単に失う訳にもいかないという訳で、固有名称を付けても特に問題は無いと思わないかい?」

 

「・・・成程。」

 

上手く乗せられた。ウタハの言葉を聞き、イサネはそう思った。恐らくウタハ本人にそんなつもりは無いのだろうが、それでも彼女の言葉を聞いて納得している自分が居るという事は説得されてしまったという事に他ならない。しばしの思考の後、イサネは口を開く。

 

 

「分かった。貴方の口車に乗ってあげる。こいつに固有の名前を付けよう。」

 

 

「口車って・・・そんなつもりは無かったんだが、まぁ余り深く言及しても意味は無いか。」

 

 

イサネの出した答えはYes。つまりはこのalligatorというモデル名の対物ライフルに自分だけの名前を付ける事を決めたという事だ。

 

「とは言っても名前なんて何も思いつかないや。ウタハ、何かない?私もう無理。」

 

「匙を投げるのが早過ぎないか?」

 

だが、その意志と才能は別の話。ただひたすらに戦う事しかしてこなかったイサネにとって、名前などそう思い付くものではない。早々に諦めを付けたイサネを見て、ウタハはしばらく考え込み、そしてふと口を開く。

 

「・・・君の名前、ひいて君の本名はイレーネ。名付け親がどのような意味をその名前に込めたのかは知らないが、その名前には君を指す以外にも意味がある。」

 

「ふんふん・・・続けて。」

 

イサネの周りをゆっくりと歩きながら、ウタハは話し続ける。

 

「イレーネ・・・正しくはエイレーネなのだが、確かこれは神話において平和の神である女神エイレーネに由来するものというのは聞いた事がある。科学と技術の楽園ミレニアムでは余り詳しく調べる事は難しいと思うが、歴史の長いトリニティならシスターフッド辺りが何かしらの資料を持っているかもしれない。」

 

「平和だと?よりにもよって・・・」

 

かつて人類の悉くを殺し回り、挙句世界を壊しかけた人間の名前が平和の女神と関連しているというのは余りにも皮肉が効き過ぎている。

 

「女神エイレーネについてはそんな所だ。だがそんな名前を持つ君は万物の天敵と呼ばれる程の力を持ち、それでいて自他ともに認める生粋のバトルジャンキーだ。・・・君の気分を損ねたのなら申し訳ないが、これは中々に面白い事だと思わないか?」

 

「確かに面白いね。それで?」

 

中々に心に刺さる言葉を続けるウタハを前に、もし自分がここに来る前に何十億という数の人間の命を奪っている事を知っていたらこんな事なんて言わないだろうなとぼんやり考えながら、ウタハの提案を待つ。

 

 

「まぁかなり安直にはなってしまうのだが、平和の女神の名を持ちながらひたすら闘争を望む君。ここから来る矛盾を用いて【quit est pax】なんて言うのはどうだい?」

 

 

quit est pax。ラテン語で「平和とは?」という意味を持つその言葉は、イサネの初めての固有名称を持つ武器の名前として、そして平和の女神の名を冠しておきながら人を殺した殺戮者には何ともお似合いな名前だと感じた。

 

「我ながら安直すぎるネーミングだという事くらい理解しているさ。それにこの名前が気に食わなかったり後でより良い名前が思い付いたら変えてしまえば良いだけの話だ。そう深く捉える必要は無いよ。即興でもあるからね。」

 

「いや、それで行こう。よし、今日からこいつは【quit est pax】だ。・・・はは、私に拾われたばっかりにとんだ咎を被せられちゃったね。」

 

瞳に僅かな闘志を映し出しながらイサネは机の上に鎮座し、部屋の明かりを鈍く反射する長大な対物ライフルを見ながら軽く笑う。

 

 

 

 

「んふふ・・・せっかく名前を与えて貰ったんだ、文字通り鉄屑になるまで使い回してあげる。」

 

 

 

 

――友人と二人きりの部屋の中で、イサネは一人軽く、そして昏く笑う。

 

 

 





執筆そのものを一週間以上開けたのが初めてという事もあってだいぶ苦戦したぜ……

さて、これまでにも度々登場しているイサネさんの持っている対物ライフルですが、調べればすぐに出てくると思います。ネタ元が元ゆえに不謹慎かなとは思いますがそういうつもりは一切無いという事だけはここで明言しておきます。ただ銃身の大きさとその造形が好みだったというだけです。

対物ライフルに付けた名前についてですが翻訳サイトで適当に翻訳をかけたものなので意訳や本来の訳とは違っている可能性があるのでそこの所御容赦ください。

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