透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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まずは投稿が遅れて申し訳ない。スランプって訳じゃないですけど構想の練り直しとか詳細を詰めてたらいつの間にかこんな期間が開いて...(言い訳)

あと...ゲームって楽しいですよね(人間の屑)



露呈した潜在的本質

 

 

 

 

 

 

原因不明の暴走により突如無差別に攻撃を始めた超精巧な機械人形、もしくはアンドロイドこと天童アリスを一室と二名の重傷者を代償に何とか鎮圧したイサネ。彼女は今、

 

 

「・・・っと、これでよし。」

 

 

ミレニアムタワーの一室、通称にして医務室と呼ばれる部屋のベットの上に寝かされ、担当の生徒に先程の戦闘で負った傷の手当てを受けていた。

 

「あー、その、ここまでぎちぎちに包帯を巻かなくても良いと思うんですけど・・・」

 

「あんなにぼろぼろの状態でここを訪れておいて何を言っているんですか。骨が折れていないだけでも奇跡に近いんですから、暫くは安静です。」

 

「えぇ・・・そんなに・・・?」

 

しかし、治療を受けるイサネの心境は非常に複雑だった。

 

(骨が折れてたらそもそもあそこから動ける筈ないんだから問題無いでしょ。って言うかそんな事言ったらキヴォトスに来る直前の私の状態は何だって言うのさ。重病人どころの話じゃないでしょうに・・・いや、今は関係無いか。)

 

確かにウタハの言う通りに医務室に向かう事に同意したのは事実だ。だが、それはあくまでも手当を受けてそのまま退室出来るだろうと踏んでの事だ。

 

(何して時間潰せばいいんだ?ネクストの脳内シュミレーションでもやればいいのか?・・・こういう時、戦う以外に対して興味が無いっていうのは中々に苦しいな。)

 

しかし、すぐに退室出来るだろうと思っていたイサネの予想は大いに外れ、医務室に居た担当生徒はイサネの容体を確認するや否や即座に5日間の医務室待機とその後一週間の安静を言い渡した。そしてその言葉に固まっているイサネをベッドに寝かせ、手当を始めたのだ。

 

そうして予想を大いに外れた現実を受け入れる事も出来ないまま手当てを始められたイサネは、抵抗するに出来ないままこうして頭を抱えている。傍でイサネに肩を貸していたウタハも、

 

「暴動の鎮圧を一手に担ってくれた君に余り言いたくは無いが、彼女は妥当な判断をしていると思うよ。」

 

と呆然とするイサネを担当生徒に預け、「後片付けが終わり次第すぐに見舞いに来るから、今は休んでいてくれ。無理は良くない。」と医務室を去って行ってしまった。

 

「・・・暇だ。もう体の痛みも結構引いて来たし。」

 

「いくらイサネさんと言えどそんな訳無いでしょう。あなたとて最近有名になってるあの天敵の様に戦いを糧に生きている訳では無いんですから。」

 

「・・・はぁ。」

 

ささやかな抵抗も兼ねた雑談の最中、相変わらずミレニアムにおける標根イサネという少女と万物の天敵という存在が結びついていないという謎の事象に溜息を吐きながら、目を閉じる。

 

「する事も無いし、少し寝るね。体ひっくり返す時はわざわざ起こさなくていいから。」

 

「分かりました。」

 

先程の戦闘で受けたレールガンによる負傷の痛みは既にイサネの中では取るに足らない掠り傷となっている。だが、そこそこの激戦だったのは事実で、ひとたび目を閉じると暖かい泥の様な眠気がイサネの意識を囲い捕らえる。

 

 

(今は疲労があるから良いけど・・・あと4日間、体を動かさないから碌に寝れないだろうなぁ。何して時間潰そうか。本当にちゃんと検討しないとなぁ・・・)

 

 

体のあちこちにきつく巻き付く包帯の締め付けを感じながら、イサネは心地良い眠気に身を任せたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で・・・と・・・?」

 

 

 

「・・・が・・・うね。・・・らに・・・」

 

 

 

眠気に身を任せる事数時間後、体感にしてほぼ一瞬。ふと意識だけ睡眠の暗闇から押し出される。次いで聴覚が誰かの声を微かに捉える。再び眠りに引き摺り込もうとする布団の熱が心地良い。

 

 

「うぅ・・・ん・・・」

 

 

おもむろに声を上げようとして、未だ碌に動かない口が緩い呻き声を上げる。閉じている筈の目に突き刺さるLEDライトの光が眩しい。

 

(う・・・ね、寝た・・・?なん、何時だ?今は。)

 

取り敢えず現状を確認する為、寝起き特有のふにゃふにゃな思考を回し始める。

 

「どちらにせよ、規模の大小に関わらず事故は事故として処理されると思うよ。廃墟で発掘されたあの機械達はかなり勿体無いが・・・人命には代えられない。」

 

「とすれば後はセミナーの裁量次第でしょうか?」

 

「だろうね。とは言え今回は誰か何処かに責任追及をする様な事にはならないだろう。事情が事情という奴だね。」

 

ウタハと先程イサネの手当てを行ってくれた生徒の声。思考の覚醒に伴い、聴覚が捉える会話もより鮮明になってくる。

 

「ウタハ・・・?」

 

若干掠れる声でウタハの名前を呼ぶと、ウタハも話を切り上げてイサネに向き直る。

 

「ん、イサネ・・・眼が覚めたか。どうだい?素人目にもかなりの傷を負っていたが・・・体の方は大丈夫かい?」

 

「体・・・?あぁ、もう全然痛くない。傷口の方は知らないけど多分貴方の依頼の続きが出来る位には何の問題も無いよ。」

 

「それは流石に強がりだと思うが・・・まぁ良い。それと私からの依頼はまた今度だ。依頼が絶対安静を言い付けられた者を無理に動かす理由にはならないし、私もそこまで自分勝手じゃない。」

 

ウタハには強がりだと言われてしまったが、イサネ自身体の何処も痛まないというのは事実であり、恐らくこのままネルとやり合っても問題無いだろうというのが自己診断の結果である。

 

・・・尤も、その事をネルが知ろうものなら「病人じゃあたしは満足させる事は出来ねぇ。」と何時ぞやの皮肉を返さんばかりに言うのだろうが。

 

「どうせ2週間弱は安静にしてろって事だからどうでも良いんだよ。ただ暇をどう潰すかを真剣に検討しないといけないくらいで。・・・それよりも、あの後どうなった?それと事の経緯は?」

 

雑談もそこそこに体を起こし、話の話題を変えるイサネ。変えた話の話題は勿論アリスの暴走についてだ。

 

「ふむ、些か性急過ぎる気がしないでもないが、君が知りたいというのであれば断る理由も無い。すぐに事の顛末とその後の事を話そう。・・・と言っても、私も当事者達から聞いた話しか出来ないが。」

 

イサネの言葉にウタハも真剣に頷き、ベット傍の椅子に腰を掛ける。そして近くで何か機器を操作していた担当生徒に「すまない、これから少しプライベートな話をする。少し席を外して貰えないだろうか。」と声を掛ける。

 

ウタハの要請を受けた生徒は機器の操作を終えると、「何か用がありましたらナースコールでお願いします。」と言い残し、部屋を出ていく。それを確認したウタハは改めて話し出す。

 

 

「まず君の問いたいのだが・・・アリスと対峙して、君は何を感じた?」

 

 

シンプル、それでいて抽象的な問い。イサネは極僅かな逡巡の後、それに答える。

 

 

「・・・弱いなって。」

 

 

「え、そっちかい?」

 

 

どうやらウタハの求める答えとはかけ離れていたらしい。唖然とした表情で困惑を露わにするウタハだったが、イサネは構わず言葉を続ける。

 

「確かに身体能力やナノマシンによる自己再生などの設計段階で体に備わった機能こそシンプルで強力だとは感じたけど・・・動きがなって無さ過ぎる。いくら何でも。」

 

イサネは先程の戦闘を思い返しながら、つらつらとアリスの実力に対する評価を述べていく。

 

「まず敵の接近に対して持っているレールガンを振り回すだけって対処としては余りにもおかしいでしょ。組み付いて下さいって言ってる様なものよあれ。それと攻撃に対するそもそもの対応と対処、もしくはリカバリーの仕方が何もない。本当に身体能力とレールガン任せで戦闘のせの字も無いよあれ。」

 

「・・・だが君はそれでもこうして重傷を負ってしまった訳じゃないか。」

 

「それを言われてしまうと何も言えないけど、あれは私自身の失態でもあるから。まぁとにかく――」

 

ウタハの反論にも言葉を詰まらせずに喋り続けるイサネ。ウタハは軽く溜息を吐きながら己の問いの言葉選びのミスを後悔しながらも、改めて問い直す。

 

「イサネ、ストップ。すまない、聞き方が悪かった。君はアリスと対峙した時、普段の様子とは違うとか、そういう雰囲気の違いを感じたりはしなかったかい?」

 

「いや特に何も?」

 

しかし、流石は救い様の無い戦闘馬鹿こと標根イサネ。今度は意図が理解出来るウタハの二回目の問いに対し興味がありませんと言わんばかりの素っ気なさでNoと答える。

 

「本当にいつも通りだね・・・まぁ普段通りというのは良い事ではあるんだが。」

 

ベッドサイドテーブルに置かれた未開封のペットボトルを開けて中の水を飲みつつ、イサネは自身の記憶からアリスとの関係を示すエピソードを掘り返す。

 

「まぁゲーム開発部の皆には悪いけど、アリスとは殆ど関わった事ないし。確か先生からの依頼でミレニアムの封鎖区域で共闘した時くらいじゃない?後は貴方達がセミナー襲撃した時とか。あの時は敵としてだけど。」

 

だが、いくら思い返せど廃墟と鏡という電子媒体を巡る攻防以外での関りは特に思いつかない。

 

「うーん、やはり何も無いね。」

 

「そういう事もあるか、なら仕方無い。今の質問は忘れてくれ。それじゃあ本題に入ろうか。えっと、確か事の経緯とその後についてだったね。まずは――」

 

イサネの返答を受けたウタハはアリスに関する問答を切り上げ、本題に入るべく息を整えながらもアリスの暴走について事の経緯とその後の事を話し始める。

 

「まずは事の経緯から。先生やゲーム開発部、それとヴェリタスの皆曰くここ数日で発見された奇妙なロボットに触ってから、アリスの様子がおかしくなったそうだ。何故そもそもゲーム開発部のアリスと絶賛分解研究に回されているそのロボットが接触する機会があったのかというのはどうにもゲーム開発部はゲーム制作のネタ探しに先生と、ヴェリタスはマキ経由でゲーム開発部に一報を入れたのが発端らしい。」

 

たった一度、それも戦闘の最中という状況でしか関わる機会が無かったイサネだが、ゲーム開発部の面々の特徴や気質についてはそれなりに記憶している。極度な人見知りであるユズに、外見以外似ても似つかないモモイとミドリの才羽姉妹。そして廃墟にて発見したというアンドロイドこと天童アリス。それぞれにれっきとした人となりはあるものの、基本的に陽気で活発なモモイが主導で何かをすることが多いんだろうなという事はなんとなくだが容易に想像できた。

 

「で、アリスがその機械に触れると同時にロボットの方も起動。アリスの攻撃と同時にその場に居たゲーム開発部とヴェリタス、そして先生に襲い掛かった。君が現場に到着する前にロボットの方はどうにか出来たみたいだけどね。」

 

「なるほどね、ロボットの方はどうにか出来たけど、アリスの方はその身体能力とレールガンの攻撃力によってどうにも出来ず・・・って所に私が来たという訳か。」

 

「理解が早くて助かるよ。そしてその後の話は・・・まぁ君が良く知っている通りだ。」

 

事の経緯を聞いたイサネは、改めて頭の中でウタハの話を整理する。

 

(まずミレニアムで奇妙な機械が発見され、それを分析する為にヴェリタスが出動する。で、そんな中ヴェリタスの部員であるマキとやらが友達であるモモイと先生に一報を入れた。で、モモイはゲーム開発部の面々を連れて来た。そして先生も合流し、ヴェリタスの案内で発見されて機械とご対面。その中でアリスが機械と接触して・・・という所か。)

 

話の流れを一通り理解したイサネは軽く息を吐き、ウタハに続きを促す。

 

「で、次に君がアリスを鎮圧してくれた後の話だ。・・・とは言っても別にこれと言って進展があった訳じゃない。むしろ未解明が増えてしまった、といった感じだ。」

 

「謎が謎を呼んだ形になったのかな?一つ目すらも解明できていない状態で。」

 

「そういう事になるね。まず負傷したモモイとマキの二人についてだが、マキの方は既に意識を取り戻している。症状も打撲で済んでいるからすぐに完治するだろう。だが、モモイの方はそうもいかない。意識も戻っていないし、傷も中々に深い。負傷の度合いから見ても意識の覚醒までは数日かかるだろうとの事だ。」

 

「ふーん・・・まぁ死者が居ないなら何でも良いんじゃない?」

 

怪我人に心配の欠片もすることなく、ただ死者が居ないから良しとするイサネの相変わらずな倫理観に苦笑するウタハ。

 

「ははは・・・まぁ、負傷者についてはこんな所だ。当のアリスはまだ傷の修復が終わっていないのか同じく意識が戻っていない。傷は塞がっているからそのうち目を醒ますだろう。尤も、どっちの状態で目覚めるかは分からないが。」

 

「ち、やはり拳打じゃ大した損傷にはならないか。さっさとナイフを抜いておくべきだった。」

 

「ナイフを抜いたら君はそのまま止めを刺すだろう?誰であっても流石にそれは駄目だ。頼むから本当に止してくれ。・・・本当にやって無いんだろうね?」

 

本題を逸れてイサネの凶行を疑い始めたウタハに「流石にキヴォトスでれっきとした理由も無くやる訳無いでしょ。」と返しながら、話題を戻し話を続ける。

 

「負傷者については分かったよ。それで、他は?」

 

「他か・・・その後の話と言ったは良いが、正直負傷者以外にこれと言った話はないと言うのが実情なんだ。あるとすればアリスの様子がおかしくなった時にモモイが所有していた携帯ゲーム機が何の操作も無しに起動したという事くらいかな。気になる情報ではあるんだが、それ以上の情報が何もない。」

 

ウタハも促されて再び話を続けるが、その語りからは碌に情報が無い事が明確に見て取れた。イサネは軽い溜息と共に起こしていた背を再びベッドに倒す。

 

「どちらにせよ、この惨事は事の氷山の一角を露出させたに過ぎないって所ね。何処まで大きくなるのやら。それと中には一体何が眠っているのかな?」

 

ベッドに横たわったイサネは、天井に視線を投げてそう零す。その表情に明確に感情と判断できるものは窺えない。

 

「と、まぁ部外者である私が聞いた事の始まりとその後はこんな感じだ。本当ならイサネ、君自身の耳で当事者達から聞いてもらった方が早そうなんだが・・・如何せんその当事者達の現状が現状故にそうも言える状況じゃない。」

 

「ふぅん?皆何かしらにやられていると?」

 

話の締め括り際をイサネに掴まれたウタハは話を追加して続ける。

 

「ゲーム開発部は仲間である筈のアリスの暴走とモモイの重体によって最早碌に口を聞ける状況では無かった。ヴェリタスの方もゲーム開発部程じゃないが、まぁそれなりに空気が重い。それに最も理性の効くであろう先生はシャーレに戻ってしまったし・・・」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

掛け布団を下半身まで掛けた状態でベッドに横たわるイサネは適当に話を切り上げると、飲みかけのペットボトルと同じくベッドサイドテーブルに置かれていた充電中の自身のスマホを手に取り、コードを引っこ抜いて画面を開く。

 

「・・・17時。結構長い事寝てたみたいね。」

 

「爆発を視認したのが昼頃で、騒ぎの終了をその15から30分と見ると大体3から4時間。かなり長い昼寝だね。」

 

現在時刻を確認したイサネはスマホの画面を落とし、ベッドサイドテーブルにスマホを置くと再び身を起こす。

 

「まぁ、取り敢えず大まかな話は理解出来たよ、ありがとうウタハ。さて、これから何して時間を潰すか・・・もう体の傷とか殆ど痛まないんだよなぁ。」

 

「君が望むのなら暇潰し用の何かを開発しようか?物にもよるがそう時間は掛からないと思う。」

 

「爆発とか自律型の戦闘機能とか仕込みそうだからいい。」

 

「浪漫は常に追い求めないとだからね、仕方ない話さ。」

 

唐突な爆発や使用する場面の分からない戦闘機能の一体何処に浪漫とやらがあるのやら・・・と口に出しても出さなくても意味無いであろう事を内心思いながら、イサネはそろそろ戻るとナースコールを押して医務室を出ていくウタハを見送る。

 

 

「・・・暇になるなら多少無理言ってでもウタハをここに居続けさせれば話し相手くらいにはなったんじゃ・・・?」

 

 

ウタハが完全に医務室から離れた後、人の自由時間を一切考慮しない戯言を抜かしながら、イサネは一人医務室のベッドで如何にして時間を潰そうか模索し始める。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

こうして担当生徒が戻ってくるまでの僅かな時間で、イサネはこの5日間の絶対安静期間という名の監禁地獄の責め苦を如何にして誤魔化すかを模索したが、所詮はゴミ溜め育ちのバーサーカー。ゴミ溜めの中で生きる為の術と戦う事に関する以外の碌な知識を持たないイサネに暇潰しの為に切れるカードなどが存在する筈も無く、無為に時間は過ぎていき――

 

 

「・・・ご、ごちそうさまでした。」

 

 

「はい、良く言えました。」

 

 

気付けば、何故か担当生徒の代わりに現れたユウカと共に医務室内でフードコートの商品だと思われる白米に肉じゃが、そして味噌汁と呼ばれる世間では非常に有名で一般的な夕食を取っていた。何故ユウカが医務室に居るのかについてだが、本人曰くセミナー業務の一環との事らしく、詳細は教えて貰えなかった。

 

「どう?フードコートの試作メニューこと肉じゃがの味は。まるで家にいるかのような安心感を感じさせる味がコンセプトだって言ってたけど・・・」

 

トレーに乗せられた料理を一通り食べ終え、ペットボトルの水で喉を潤していると、ユウカがおもむろにイサネに問う。どうやらたった今イサネとユウカが食べた料理はフードコートで売店を出している所の試作品らしい。イサネは取り敢えずかつて先生に教えて貰った食知識を掘り起こして質問に答える。

 

「どうって・・・別に何も。あぁでも昔食ってたなんか灰色のゲル状みたいな奴よりは圧倒的に安心する味だったよ。」

 

「灰色のゲル状!?そ、そんな得体の知れない物と肉じゃがを一緒にしないでよ!って言うかそれ絶対食べ物じゃないでしょ!?何よ灰色のゲル状って!」

 

だが、イサネの回答はユウカが求めた回答とは遠くかけ離れたものだった様だ。ユウカの機嫌を損ねてしまったと、イサネも咄嗟に言い訳を口にする。

 

「い、いや、あれは・・・名前は忘れたけど、とにかくあれはまだちゃんと何か食い物の味はしたよ!若干、いや大分冷えてたけど。それに泥水を吸った腐りかけのパンに比べれば遥かにましだよ!」

 

「泥水・・・?」

 

ユウカが黒いオーラを纏い始める。

 

「・・・か、過去の話です。流石にあれは食えなかったし食うなって同郷の人に言われました。強がってそれを丸々一個食った馬鹿は数日後に血を上と下から垂れ流したまま死にました。」

 

若干失言が無いでもない言い訳だったが、それでも今はちゃんと食べている事を示すイサネの言葉にユウカの怒気と黒いオーラが収まる。

 

(あっぶねぇ・・・)

 

辛うじて説教を避けたイサネは胸を撫で下ろしながら、既に食べ物が残っていない食器を乗せたトレーに箸を置く。

 

「はぁ、でもあなたの食生活が前よりも改善しているならこれ以上は言わないわ。それにしても、腐敗した食べ物を摂取したくらいでそこまで悲惨な状況になるってどういうことなの・・・?」

 

「・・・その辺深く知ろうとはしない方が良いよ。どちらにせよ腐った食べ物は口にしないのが常識なんだから。それより、このトレーはどうすれば?」

 

イサネの話にあった調子に乗って腐敗したパンの泥水仕立てを丸々一つ食べ、数日後に血を垂れ流して死んだ馬鹿というのはそのパンが被った泥水がコジマ粒子による重大な汚染を受けていたというのが原因だ。普通は腐敗した食物を摂取した程度では下痢や嘔吐などの症状で済む。

 

(後々知った話だけど、コロニーにゴミ溜め地域に流れる泥水はその全てが例外なく高濃度のコジマ粒子が混じった汚染水だからね。その水を存分に浴びた食い物なんて食物というよりも遅効毒みたいなんて・・・本当に良く私拾われるまで生きていられたな。)

 

適当に話の話題を変えつつ、イサネはキヴォトスに来てから何度目かも分からない己の過去を思い返しながら、過去の己の幸運を実感する。

 

「そのトレーは私が持って行くから、気にしないでいいわ。それよりも、何か必要なものとか無いかしら?私こう見えてもセミナーの会計だから、ある程度の物なら用意できると思うんだけど。」

 

「え?うーん、今は特に・・・あ、いや、なら何か暇を潰せるものって無い?5日間の医務室待機は流石に暇を持て余しちゃうから。」

 

「暇を潰せるものね?すぐには用意出来ないけど、明日の朝には何か用意しておくわ。お大事にね。」

 

「助かる。」

 

他愛ない会話もそこそこに、セミナーの仕事が若干残っているからとユウカは二人分のトレーを持って部屋を出ていく。再び静かになった医務室でイサネは一人溜息をつく。

 

「うーん・・・寝るにはまだ早いんだよなぁ。」

 

現在時刻は夜の8時半過ぎ。スマホで時刻を確認したイサネは天井を見上げながら、寝るにはまだ早く、しかし何かするには遅過ぎる時間に苦悩する。

 

「担当の生徒ももう家か寮だろうしなぁ・・・」

 

夜の8時半という時間帯は基本的にキヴォトスの学園の大体が閉まっている時間であり、研究の為や残業を除いて基本的に生徒は家か学園管轄の寮にいる場合が殆どだ。研究者気質の多いミレニアムは割と例外に当たるが、昼間と比べて学園内に残っている生徒が少ないというのは事実だ。

 

そしてそんな時間に医務室のベッドに一人のイサネ。只でさえ暇を潰す手段を知らない上にインドア的趣味が無い彼女にとって、この時間が暇でない筈が無い。更にイサネは、スマホをただ無為に弄り続ける事で時間を潰す事は出来ない。

 

 

「この時間、何をすればいいんだ・・・?」

 

 

いくら標根イサネ(最悪の例外)と言えど過剰なまでに何もする事が無い事は苦痛でしかないという人間の本能の例外になる事は出来ない。

 

 

「・・・あぁ。」

 

 

そして標根イサネは狂人である。それは標根イサネと万物の天敵が結びつく者なら誰でもが知っている事であり、更にイサネの前世とも言うべきキヴォトスに来る前――彼女がまだ標根イサネではなくイレーネという本名で活動していた時を知る者ならよりその言葉が理解出来るであろう事実である。

 

キヴォトスでは報酬と引き換えにあらゆる依頼を成功の二文字のみを返す凄腕の傭兵バイトにして、報酬の不可分を絶対に許さない企業潰しの名手。そして戦いにおいては興が乗ると機械の様に無機質さを感じさせる美貌に張り付けたかの如き不自然な笑顔を浮かべ、一切容赦も慈悲も無い攻撃で相対する者の意志までもを喰らい尽くす頂点捕食者。

 

そして前世――イサネがまだイレーネと名乗っていた時の世界では次世代型人型機動兵器ことアーマード・コア・ネクストのパイロットことリンクスとして、当時地上最強と名高いAF、スピリット・オブ・マザーウィルの単騎撃破(奇跡の親戚を超える紛う事無き奇跡)を始めにホワイト・グリント(リンクス戦争の英雄)撃墜やカラードのランク1(世界最強のリンクス)の地位。果てには人類そのものに牙を剥き、その半数を殺し尽し、世界を支配していた企業の殆どを所属リンクス諸共消し去った最凶にして最悪のイレギュラー(大虐殺者)

 

その素性の全てを知らぬ者は勿論の事、素性を知っている者ですら普段からして時折狂気を感じさせる時があると言われた少女が、今こうして圧倒的暇という責め苦を味わっている。

 

 

「・・・ぅ、うぉ、あ・・・」

 

 

そして人間、苦痛に瀕した時程本性が露わになるものだ。それがイサネの場合、狂人としての本性が露わになる訳で。

 

 

(暇すぎ暇すぎ暇すぎ暇すぎ暇すぎ暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇・・・ぁああぁッ!!)

 

 

戦場でも無いというのに、視界から一点の曇りも感情も消え失せ、思考が一点に収束する。

 

 

 

―――壊す。

 

 

 

壊す必要も、理由も無ければ何を壊すのかも分からないというのに、知覚が急激に広がる。空気の流れ、部屋の外の至る所から感じられる人の気配や足音、そして芳香剤の柔らかい香り。人が知覚可能なありとあらゆる情報が鮮明に、正確にイサネの脳に送られ、処理される。

 

 

「・・・あ・・・あは、はははは・・・っ。」

 

 

口が綺麗な下を向いた三日月に歪み、瞳に混じり気の無い闘争心が映る。

 

「あっはははは・・・うん?」

 

そして何故か目覚めた闘争心のままにイサネはベッドから降り、幽鬼の様にゆらりと一歩を踏み出そうとした所で、突如鳴った自身のスマホの通知音によってイサネの狂気が霧散する。

 

「なんで私はこんな所で戦闘態勢に・・・まぁいいや、えっと・・・メール?」

 

至って平和な医務室内で一人勝手に暴走していた自分に内心呆れながら、イサネはベッドサイドテーブルに置いてあったスマホを手に取り、メールを開く。

 

 

《傭兵バイト 標根イサネ

 

始めまして、貴方が最近のブラックマーケットで武名を鳴らしている傭兵バイトこと標根イサネで合っているかしら?

 

早速本題に入らせて貰うのだけど、今日の午前中、天童アリスという生徒の暴走による騒動において、鎮圧を一手に担ってくれたと聞いているわ。貴方の尽力のおかげで被害拡大を防ぐ事が出来た、感謝する。でも、それが事の全てを解決出来たかと言えばそうは言えない。

 

だからこそ、このメールを送らせて貰ったわ。今回の用件は今日の騒動において私から貴方に話したい事がある。けど、話の内容がミレニアムの機密に関わるものでもあるから、今この場でメールや通話で話すことは出来ない。

 

だから代わりに密談が出来る場所を用意させて貰ったわ。場所については添付したファイルから確認して頂戴。このメールが貴方の端末に届く時間は恐らく午後8時40分から50分くらい。今貴方は医務室で数日間の待機が言い付けられているでしょうけど、今の時間帯なら直接貴方を見張る存在は居ない筈だから、折を見て部屋を抜けて欲しい。指定場所には午後9時30分くらいに着いてくれればスムーズに話が出来ると思う。

 

 

時刻通りに指定場所に現れることを期待している。

 

 

 

             ミレニアムサイエンススクール セミナー会長 調月リオ より 》

 

 

 

一通りメールの内容を読み終え、メールの差出人の名前を見たイサネは、ぽつりと一つ零す。

 

 

 

「・・・ミレニアムの生徒会長?」

 

 

 

誰も居ない医務室の中に、イサネの呟きが不気味に反響した。

 

 

 

 

 





ここ最近のブルアカ、余りにも()()過ぎているッ!助けr――おぁぁぁああーーッ!!

最後のメールについてはリオの口調がどんなもんかまだエミュし切れていないというのもあって結構適当な感じになっています。というかそもそもメールで口頭語を使う生徒会長なんて居ねーだろという意見につきましては耳を塞がせて頂きます(屑)


後やっぱり話の最後の締めが悪くなりがちです。ユルシテ...

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