現在ブルアカ本編のイベストcode:boxのストーリーを履修中でございます。メインストーリーで主だった会話シーンが少なかったリオ会長とせくしーセイア氏のキャラの輪郭をもっと正確に捉えていきたい所存ッ!
「ミレニアムの生徒会長?」
スマホの画面に表示されたメールの差出人の名前を見て、イサネは思わず呟く。
「え、なんで今・・・それも半ば部外者の私に・・・?」
思わぬ人物からの思わぬ内容のメールにベッドに腰掛ける事も忘れ、立ったままスマホと睨み合いを続けるイサネ。
キヴォトスに来る前、セレンに連れられて世界を支配する大企業の上層部の会食や会談に参加していた経験と、キヴォトスに来てからも普段からあらゆる人物から明確な重罪行為を除いたあらゆる依頼を受けているイサネにとって、一学園のトップに立つ生徒会長と対面した所で何も変わる所はない。
(あ、もしかして部外者の過干渉を咎めるのかな?まぁわざわざ部外者の追い出しに盗聴対策をする必要性は無いと思うけど。初回の注意勧告だってメッセージだけで十分だろうし。)
だが、今回ばかりは少々事情が異なる。何故なら今回イサネが相手取った天童アリスという生徒は他のミレニアム生とは出生やミレニアム編入の事情がかなり異なるかなり特別な存在だ。本能的に危機を感じ取って現場に駆け付けたイサネだったが、立場的には不干渉を貫いた方が厄介事に巻き込まれずに済んだというのは事実だ。
「指定時刻は9時半・・・メールの到着時刻までぴったりだ。まさか膨大なネットの海から計測したと言うのか・・・?」
メールの文章に記載されたメールの到着予測に軽い戦慄を覚えながら、添付されたデータファイルから指定場所をミレニアムのマップから照らし合わせる。
(場所は・・・普段からしてかなり人の通りが無い場所の隠匿された区画・・・えぇ、不意打ちとか受けないよね?ちょっと嫌だなぁ。)
指定場所がミレニアムタワーの中でも普段から人が通る事が稀であり、隠匿されているとも言える様な区画である事に直感的嫌悪を感じつつも、イサネはベッドサイドテーブルに置かれていたスマホとペットボトル以外の3つ目、最低限の護身用と思われる
「でもまぁ・・・行かないと不味いよねぇ。体はもう自由に動く訳だし。流石に怪我の具合でとはいかないか。」
諦めの言葉を吐きながら、今医務室内で出来る最低限の準備を終えたイサネは医務室内に設置されていた監視カメラの電源を落として医務室を出る。
「あ、スマホ置いてきちゃった。・・・まぁいいか、どうせハッキング喰らったやつだし。最悪の場合生徒会長を秘密裏にって場合もある訳だし丁度良いでしょ。」
人知れずとんでもない事を呟きながら、イサネは一人ミレニアムの宵闇へと消えて行く。
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「・・・定刻通りね、よく来てくれたわ。」
「本っ当に人気の無い場所なのねここって。廊下なんて若干埃舞ってたし。」
夜のミレニアムタワーの中を添付ファイルのデータに導かれる事数分、イサネはメールの送り主が指示した指定場所と思しき明らかに人の出入りが無いであろう区画にある一室に辿り着いた。そして舞う埃に鬱陶しさを感じながらもその扉を開けて中に入ると、そこには自分と同じか僅かに上くらいの身長にグラマラスとも言える出る所は出て引き締まる所はしっかりと引き締まっている正に見事な体型。そして目を引くは腰まで垂れる黒の長髪に同じくらい黒い制服を身に纏った凡そ高校生とは思えない程に成熟した様相。
「・・・貴方が、ミレニアムの生徒会長?」
同じ無表情ではあるものの、イサネの機械的な無機質さとは異なり、氷の様な怜悧さを感じさせる整った顔立ちを持った少女というより女性はイサネの言葉を受け、すっと椅子から立ち上がる。
「まずは自己紹介を。・・・私はここ、ミレニアムサイエンススクールのセミナー所属にしてミレニアムの生徒会長を務めさせて貰ってる、調月リオ。」
「既に知っているでしょうけどこちらも。私は標根イサネ、傭兵バイトを主な生業にしている。まぁ、以後よろしく。」
イサネの自己紹介を受けたリオは一呼吸置き、すぐさま本題に入る。
「早速で悪いのだけど、話の本題に入らせてもらうわ。何故貴方をわざわざこんな所にまで、それも療養命令を破らせるという非合理な行いをさせてまで呼んだのか。単刀直入に言えば貴方に依頼があるから。」
「依頼、ね。」
リオの依頼があるという旨の言葉に、イサネは右ポケットに挿したハンドガンの重みを再認識しながら一言呟く。
(何のつもりかは知らないが・・・一人陰に潜んでいるな。)
現状リオに付き従うドローンの照らすライトによってリオとイサネの周囲を除き、部屋は暗闇に閉ざされている。そんな中でもイサネはその暗闇のどこかに人の気配がしている事に勘付いていた。
(どこに居る・・・?)
気配の存在に気付いていない様に振る舞う傍ら、イサネはその気配の正確な位置を探るべく周囲に意識を巡らせる。一方のリオは、そんなイサネの様子に勘付く事も無く話を続ける。
「そう、依頼。引き受けてくれるかしら?」
「依頼の内容は?後報酬関連の話とその背景。それらを聞かないとYesもNoも下せない。」
単純に依頼があるから引き受けて欲しいだけではイサネは首を縦にも横にも振らない。これは独立して活動する傭兵の中では当たり前の事であり、自身が中身の知れない依頼によって要らぬ敵を生まない為に、また自らが罠に嵌められてしまわない様にする為の常識だ。
「そうね、なら貴方に送ったメールの内容を覚えているかしら?」
イサネの問いに問いを以て返すリオ。ここが政治交渉の場であるならイサネは「質問に質問で返すな」と威圧していたのだろうが、幸いな事にまだ依頼がある事しか分かっていない為、イサネも表情を変えずに肯定の意を伝える。
「覚えているけど。」
「そう、あのメールで私は貴方に天童アリスという生徒が起こした騒動について話がしたいと記述したわ。つまり依頼は彼女に関わる事。正確に言えば私が本格的に動いている間における私の護衛、ひいては私が居る場所の防衛をして貰いたいの。」
「防衛・・・?」
なんて面倒な、とは口に出さない。だが、リオの口から聞かされたのは紛う事無き防衛依頼。何かからリオ自身を、リオの居る拠点を思しき何処かを防衛しなければならないという事だ。しかも依頼主は学園都市キヴォトスにおいて三大校とも言われる三学園の内一角の頂点に立つ生徒会長。厄介事になる事は確定していると言っても良い。
(え・・・普通に嫌なんだけど。)
嫌です、その依頼受けたくありませんという心の叫びを心の中までに抑えながら、イサネは何とかしてこの明らかに面倒臭そうな依頼から逃れるべく抵抗を始める。
「防衛とは言うものの、何を防衛するの?」
「それは、私が建設した要塞都市よ。」
「は?都市?え、基地とか拠点じゃなくて、都市?」
取り敢えず質問攻めにしてぼろを出そうという思惑で出した一つ目の質問で返ってきたまさかの返答に、逆にイサネが言葉を失ってしまう。
(都市の防衛って・・・ACでも使わないと無理じゃないの?)
イサネの思考を遮る様に、打算塗れの質問に衝撃の回答をしてのけたリオは続ける。
「勿論貴方一人で都市の全てを防衛しろなんて言わないわ。それは流石に人一人にやらせる範疇を超えているもの。それに要塞都市の名の通り都市全域には防衛用のロボットが配備されているし、私直属の護衛だって防衛に参加する。貴方に依頼したいのはその中心であるタワーの防衛よ。」
「タワー・・・?」
明らかに誰かに依頼する必要が無さそうな戦力に、怪訝な表情をせざるを得ないイサネだったが、依頼から逃れるべくすぐさま次の手を打つ。
「貴方は天童アリスという生徒に対し行動を起こすとは言ったけど、具体的には何をするつもりなの?私が仮に依頼を受けたとして、その行動次第ではやり方を変える必要があるから、アクションの内容は教えてくれない?」
依頼をしたいと言っていたリオだったが、依頼をしたいというには余りにも依頼に関する情報の開示がされていない。故にイサネはその点をつつき、事の粗を探し出す。
「それはそちらには関係の無い話、話す理由は無いわ。それに私が何をしていた所で貴方の依頼遂行の邪魔になる事はまずあり得ない。」
今回の質問に対してイサネには関係が無いからとリオは回答を拒否する。
(掛かった、まずは一手。)
イサネの思惑に勘付いたとも取れる発言だが、これもまたイサネの仕掛けた罠の一つ。
「それに答えられないならこの依頼の受諾について私がYesという事は無いね。他を当たって貰っても良いかな。」
そう、質問の回答に少しでも粗があればそれをつっ突き回して破綻させ、答えない、またはそれに準ずる回答をしたのなら、依頼における十分な情報量じゃないとして依頼の拒否をちらつかせる。これが依頼の問答においてイサネが第二に仕掛けた罠であり、リオはそれにまんまを引っ掛かってしまったと言える。
(さて、ここからどう挽回手を打ってくる?正直暇潰しにはなりそうだが、療養要請を無視している以上説教は確定だろうし、そもそも学園トップから直接の防衛依頼なんて絶対面倒に決まってる。始末書とか訳の分からない処罰を受ける位なら暇に苦しんだ方がまだましだ。)
僅かな沈黙にイサネは思考を回す事で相手の次の手を待つ。そもそも依頼内容が全てにおいて曖昧だの報酬の話が無いからこれは依頼じゃなくてボランティアだの追い打ちの言葉を浴びせれば更に楽に終わる可能性も無くは無いが、情報が出揃っていない状態で追い打ちを掛けてしまうと逆にこちらがぼろを出してしまう可能性だって否めない為、ここは深く踏み込まないのが吉だ。
「・・・そう、残念ね。」
「残念に思うなら依頼における情報は開示して欲しいね。依頼内容と軽い背景、後は報酬についてとか。そういうのが全て不透明のまま依頼を受諾する傭兵バイトは・・・結構居るけども。」
静かに言葉を零すリオにイサネは更に言葉を続ける。本来ならここで「情報が不透明のまま依頼を受ける傭兵バイトは居ない」と言いたかったのだが、残念ながらキヴォトスではそんな依頼でも大金が貰えるという信憑性の欠片も無い言葉に釣られて騙されるお馬鹿は結構居る。
「さて、これ以上続きが無いのなら私は失礼するよ。ただでさえ絶対安静を言い渡されているんだ、ばれない内にさっさと医務室に戻らないと――」
リオが何か反論を言う様子も無い為、イサネは医務室に戻らんとリオに背を向けて部屋を出ようと一歩踏み出す。しかし、
「結局、こういう手段に頼らないといけないのね。」
――敵意。
反射で足を止める。体のあちこちにきつく巻かれた包帯の締め付けに強烈な違和感を感じながらも体を反らし、いつでも戦闘を始められる様に半身に構える。
(潜んでいた気配が動いた!?くそ、やっぱりか!)
イサネの予測通り、部屋を覆う暗闇のどこかに潜んでいたイサネでもリオでもない三人目の気配が部屋の扉側に現れる。
「要塞都市の情報を教えてしまった以上、貴方に拒否権は与えないわ。その情報をミレニアム内に持ち込まれる訳にはいかない。・・・トキ。」
「イエス、マム。」
扉側の気配から声がする。リオと同じく感情の無い声が。
――同時に銃器を構える音。
「ちッ!」
舌打ちと共にイサネもスカートの右ポケットに挿していたハンドガンを引き抜き、三人目の気配に向けて撃つと同時に頭を右に傾ける。
イサネの放った一発の45口径弾は暗闇に吸い込まれ、金属壁に当たったと思われる甲高い音を上げ、同時に暗闇からイサネに向けて放たれた一発のケースレス弾が、右に倒したイサネの左耳すれすれを通過する。
「くそ、結局こうなるのか・・・!」
「完全に意識の外からの奇襲だと思ったのですが・・・申し訳ありません。」
「気にすることは無いわ。むしろ手負いとは言え彼女に逃げられないだけ上出来よ。」
発砲により扉付近に居た気配の主の姿が暗闇から現れる。ノースリーブにショートスカートのメイド服という非常に身軽な格好。腕や足には何かの装置と思しき小型機械が装備されており、明らかにこれまでにイサネがキヴォトスにおいて戦ってきた相手とは異なるベクトルの強さを持つ相手である事は容易に想像が付いた。
「その服装・・・C&C?」
「C&Cコールサイン04、飛鳥馬トキ。お初に御目に掛かります、以後よしなに。」
銃口を向けたまま、リオと同じくらい無感情に挨拶をするC&Cの5人目を名乗る生徒。
「イサネ、もう一度言うわ。・・・この依頼、受けてくれるかしら?」
イサネとて部屋に居た三人目の気配を感じて時点で察してはいたが、やはりと言うべきか、武力による脅しという手段に出たリオは再び依頼の受諾をイサネに迫る。
(さっさと逃げるのが正解だったのか。あーしくじった・・・が、多分まだ逃げられる。)
最早依頼を受諾する事以外に取れる選択肢が無さそうだが、まだ悪足掻きくらいなら出来るかもしれない。イサネは時に向けていた銃を下ろし、リオに向き直る。
「・・・随分と強引な手段に出たとは思うけど、さっきも言った通り今の私は5日間の絶対安静、その後さらに一週間の安静を言い付けられた怪我人よ?依頼だからと言ってそれを動かすなんて出来る訳が無いと思うんだけど。」
既に体に痛みも無いし血肉が露出する程の怪我は負っていないが、それでもまだ包帯の下にはレールガンによる負傷の傷跡は痛々しく走っており、腹部と胸部、頭部に包帯を巻いた外見だけを見ればイサネは立派な怪我人と言える。
本当なら自身の後方に立つトキを躱してこの場を切り抜ける位なら容易に出来そうなものだが、負傷している体が本来の実力からどれくらいの力を出せるのかが不透明な以上迂闊な武力行使は出来ない。よってイサネは自身の体の負傷具合を話に挙げる事で抵抗を試みる。が、
「それを言い渡したのはミレニアム管轄の医務室でしょう?その権限は同じく私にあるし、なんなら私の持つ権限はそれよりも上よ。だから・・・はい、これで貴方に言い渡されている安静要請は無くなったわ。」
「嘘でしょ。」
「嘘じゃない。それに貴方だって怪我人なんて言っておきながら本当は暇で暇で仕方が無いんでしょう?治療担当の生徒に愚痴を言っていた事、私が知らないと思って?」
「・・・覗き魔が。」
リオはイサネの悪足掻きを力技を以て粉砕してのけ、更に追撃としてイサネの心境も言い当ててみせる。これにはさしもイサネも悪態を吐き捨てることしか出来ない。
(いよいよ正面衝突しか手が無いか?あのトキとか言う奴がどこまで出来るのか。それに逃げるにしてもどこへ逃げたものか。)
イサネの中で着実にトキ含めたリオの持つ戦力との武力衝突が現実味を帯び初める。手に持ったハンドガンの引き金に指を掛けながら、イサネは自身の後ろに立つトキの動きの気配を探る。
「・・・貴方がブラックマーケットは勿論、キヴォトスにおいても有数と評価される程の実力を持っている事は知っている。けど、特殊武装を解放した状態のトキ相手に手負いの貴方ではいくら何でも勝ち目が無いと思うのだけど。」
「別にトキに勝利する事がここを切り抜ける唯一でも無いでしょ。切り抜けるだけなら他に幾らでもやり様がある。」
降伏勧告の如く言葉を連ねるリオに対して不敵に言葉を返すイサネだったが、僅かの隙を生む事も出来ない。
「それに、わざわざ武力に頼らなくても貴方を従わせられるカードは用意してある。」
「・・・あ?」
更には武力無しにイサネを黙らせられると言う。本当に何を言っているんだろうか。イサネはその言葉に困惑を隠せない。
「何を言っているんだ?流石にそれは意味が分からな――」
隠せない困惑のままにリオに食って掛かるイサネだったが、その言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
―――イレーネ。
「は・・・?」
被せる様に放たれた一言によって完全に思考が停止する。つい今までの困惑が消え失せる。いつでも動ける様に緊張させていた体の感覚までもが曖昧になる。
――何故その名を。
―――何故こいつがその名を。
――――キヴォトスにある記録媒体には何一つとして残してないのに、
―――――データ越しではどう足掻いても知り様が無いというのに、
(何故・・・?)
開いた口が塞がらないとは正にこの事などと言っている場合ではない。何故か、どうしてか、今自分の目の前に居る存在が僅かな友人にしか知らない筈の自分の秘密を知っている。自らの過去を、人でありながら人を辞めたその所業の記憶を、隠匿すべき己の一部を。
(どうしてどうしてどうして?・・・どうして・・・こいつが・・・?)
如何にして面倒な依頼を押し付けられそうな状況を切り抜けるかという思考が完全に消え失せ、代わりに血と殺意、そして翠緑に塗れた自分の過去が脳裏を高速で通り過ぎる。
――名前が無いのか、それは不便だな。まぁ無理もないが・・・よし、決めた。
――イレーネ。お前の名前は今日からイレーネだ。忘れるなよ?
――名前の由来だと?ただの思い付きに過ぎんよ。深い理由など無い。・・・今日は随分としつこいな、だから深い理由など・・・ええい引っ付くな!
――・・・イレーネ、これはパックス・エコノミカが成り立った時よりも遥か、遥か昔に語られていた神話の話だ。
――何処の神話か御伽噺かは忘れたが、平和の女神としてエイレーネという女神があった。イレーネというのはそこが由来となったという説から取った名だ。
――この欲塗れで不毛な世界で、少しでも平和になればなんて叶いもしない空想から取った如何にもな名前だよ。失望したか?・・・それは言うな、私に母親足る資格は無い。
(それを・・・誰かも知らない奴に、知られた・・・)
イサネの中の獣が急激に覚醒する。外敵から己を守る為に、獲物を喰らうのではなくただ敵を殺す為に、自らに備わった凶器のあらん限りを剥き出しに、殺意と本能のままに聞く者を狂わせるその咆哮を出せる限りの声量で吐き出す。
―――殺す、と。
獣の完全な覚醒により、ほぼ空白で埋まっていたイサネの思考が常識を超えて加速する。知覚がかつてカイザーPMC基地を襲撃した時を同じ程にまで拡張される。空気の極僅かな流れが、自身の背後に立つトキの一挙手一投足、果てに呼吸の為の胸部の僅かな前後までもが鮮明に知覚できる。
(殺すのは不味いが・・・最悪の憂き目には遭って貰う。許可無く私の秘密を暴いた代償は払ってもらう。そこの腹心諸共な。)
ミレニアムに集う天才達すらも圧倒せんばかりに加速した思考を以て、イサネは決定する。
「・・・良いだろう。その依頼、受諾する。」
「賢明な判断とでも言えばいいのかしら?とにかく、契約成立ね。」
イサネが取った選択は依頼の受諾。それに対しリオは特にこれと言った反応を示さず、契約成立を宣言する。
「賢明かどうかなんてどうでも良い。取り敢えずこの後に来るであろう戦闘の備えをしてくる。」
「待って頂戴。今の貴方をそのまま帰すのは情報漏洩のリスクが生まれてしまう。だから私が指定するセーフハウスにて待機して。貴方の武装の調達はトキが行うから、注文は彼女にお願い。」
「・・・了解。けど私が医務室に戻らないときっと怪しむ人は出てくるが。」
「そこについても私がどうにかするわ。今は負傷の治癒と武装について考えなさい。」
リオに自身の変調を最低限の隠蔽努力を行いながらも、イサネは依頼における自身の任務について話を擦り合わせる。
「貴方の任務である要塞都市のタワーへの出発は今より・・・2、3日後になる予定よ。それまでは指定したセーフハウスから出る事は禁止するわ。」
「・・・あぁそう。」
「それとセーフハウスの座標はここ。案内に変装させたトキを付けるから、彼女の案内に従って。セーフハウス内には彼女との連絡網が入ったタブレットがあるから、それを使って武装の注文と連絡を行って頂戴。」
再び言い渡された外出禁止の命に目覚めた死獣の闘志をやや削られながらも、提示されたタブレットに表示された情報を見て頷く。
(・・・随分とミレニアム内にセーフハウスを多く持っている。比較的新興の学校故の警備の甘さという問題点はその会長様の内密な行動の助けにもなっていたという事か。)
話を聞きながらふと思い返すはミレニアムプライス数日前に起きた鏡と呼ばれるハッキングデバイスを巡る騒動の事だ。
(元々表立って活動する事は無いとユウカから聞かされたが・・・ふーん。)
イサネはこの騒動においてユウカ、ひいてはセミナーより襲撃者捕縛・押収品保管庫防衛の依頼を受けた。そして紆余曲折の末に襲撃者の首謀者であるゲーム開発部+先生を至近正面に捕捉する所までは追い詰めたのだが、そのタイミングで作戦終了の命が下された事で不完全燃焼のまま終わってしまったのだ。
(確かあの作戦の中止はちょうど私がゲーム開発部を目の前にした時にこいつが命じたもの。で、今回の騒動においてもこれから干渉しようとしている相手はゲーム開発部、ひいては天童アリス。)
今イサネの目の前に居るセミナー会長こと調月リオは、先のC&Cを主体とした鎮圧部隊とシャーレの先生を総指揮官としてゲーム開発部を主体にヴェリタスとエンジニア部の合同チームの戦闘を裏で観戦していたらしく、またセミナー側に戦闘中止を命じたのも彼女だった。
(恐らくリオはアリスがただの生徒では無い事を知っている。アリスを構成する体の根幹要素なのか製造の起源なのかは知らないが、少なくともただ異次元に高度なAIを積んだ戦闘用機械人形だと判断した私やウタハよりも天童アリスについて多くの情報を持っている。)
これまでに確定した情報から、イサネはそう結論付ける。調月リオは、ミレニアムの誰にすら知らない筈の情報を幾つも保有していると。
(まさかここまで巻き込まれる事になるとは。ネクストを振り回せばどうにでもなったあの頃と違って本当に面倒だな。・・・不快な記憶まで思い出してしまったし、本当に面倒だ。)
不完全燃焼のまま無理矢理任務を終わらせられた当時を思い返した事で若干心に芽生えた別の苛立ちを殺し、イサネは口を開く。
「ふむ、ならすぐに行動に移そう。他に任務についての連絡事項は?どうせ質問には答えてくれないんだろうし。」
「これ以上は特に無いわ。それに質問に答えないのではなく答えられないだけよ。貴方に依頼を出したのもミレニアムの機密に関わる事に巻き込んだのも私だけど、それでも貴方は部外者よ。必要以上の情報は明かせないわ。」
「・・・その必要以上、傭兵に出す依頼としては所謂罠の為の依頼として評価されるものだぞ。」
一通り考えを纏めたイサネは変わらず事の仔細の欠片も明かそうとしないリオに苛立ちをの募らせつつも、いつの間に変装をしていたのか、すっかり一般のミレニアム生と遜色無い格好になったトキの案内に従って部屋を出る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・」
「・・・」
そうして密会部屋を出たイサネは自身の数歩先を歩くトキの背を追い、お互いに一言も話さないままに夜間のミレニアムタワーの廊下を進んで行く。
(確かこいつは飛鳥馬トキと名乗っていたな。C&C所属だと言っていたが、ネルはこいつの存在を知ってるのだろうか。それにリオは特殊武装とか言っていたけど、あの小型の機器には何の機能が・・・)
適当な事を考えながらトキの後を追う事数分。直線的な通路で構成されながらもその本数と複雑な入り組み方、また各部屋や広場内における非常に複雑な分岐路を一度も迷う事無く進んで行き、再び明らかに人通りの少ないと思われる区画に到着。更にその区画を進んで行くと、閉鎖されたり人が使った痕跡の無い扉の内、明らかに小綺麗に掃除されている扉の前に辿り着く。
「着きました。ここがあなたの数日間の待機場所となります。元々廃棄予定の教室でしたが、人が生活出来るだけの設備の設置や部屋の掃除などは済んでいます。勿論周辺監視カメラの処理も。シャワー、化粧室につきましてはこちらに。」
「化粧室ってトイレの事?」
「身も蓋もない言い方ですね。まぁ間違いではないのですが。」
しょうもないやり取りを交わしながらも、二人は一つだけ小綺麗に掃除された部屋の扉を開けて中に入る。
「リオ様の言っていたタブレットは正面机の上に。食事に関してですが朝食は8時、昼食は12時30分、夕食は19時に私が持ってきます。何がご要望の際はタブレットからどうぞ。」
「了解、後武装についてなんだけど、取り敢えず第一試験場のどこかに置いて来た対物ライフルを回収してきて欲しい。特徴としては対物ライフルなのに伏せ撃ち用のバイポッドが無くて、大きさが2mくらいの奴。」
淡々と機械の様に説明を行うトキに頷きながらも、イサネは新たに出来た己のもう一つの腕、【quid est pax】こと対物ライフルの注文をする。
「対物ライフルですか、分かりました。他には?」
「今はまだ良い。」
注文を受けたトキが部屋を去るのを確認したイサネはポケットに挿したままのハンドガンと予備マガジンを取り出して机の上に置き、イサネは来ているワイシャツのボタンを外す。
「・・・まるで軟禁だな。」
先程の医務室以上に静かな部屋の中でぽつりと零しながら、最低限の護身用のハンドガンを持ってシャワー室に向かう。
―――自分の秘密を暴いた狼藉者を、如何にして後悔させてやるか。
ただその事だけを考えながら。
ちょっと最近モチベが低いらしい。
それとちょっと別ネタを思い付いたので次の投稿がかなり遅れる可能性があります。acfaでまたネタが湧いたので単発で出すかもしれないです。
作者の投稿小説の欄に新たに小説が追加されてたらまぁ察してくださいw
追記:
読者の皆様の誤字報告、誠に助かっております。作者、書いた文章の誤字脱字の確認が非常に苦手でして。一応投稿前に確認はしているのですが、それでも投稿後に確認すると「あれ、ここ誤字ってるじゃん。」となる事が多々あります。二度申し上げますが、読者の皆様の誤字報告、本当にありがとうございます。作者も可能な限り投稿頻度とクオリティを上げる事でこの恩を返したいと思っております。
追記2:
現在、新たに思い付いたネタのままに短編小説を書いています。だいぶ長くなるのでこちらの投稿が遅れます。申し訳ない。