透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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今回イサネさんの心理描写とか台詞とかもっと壮大に強烈に書きたかったけどなんか7割くらいになっちゃった。

今回少し長めです、お気を付けを。

ではどうぞ。



標根イサネの人間性 破綻者に花売りの彼女は見えるのか

 

 

 

 

 

 

「リオはミレニアムの生徒会長。つまりミレニアムの生徒会に当たる組織であるセミナーの所属になっている筈だから、セミナーの会員・・・まずはユウカを始めとしてセミナーの役員に何か無いか聞いてみよう。」

 

 

完全に復活を遂げたモモイの喝により、ゲーム開発部を筆頭に会議室に集まったC&Cとヴェリタスの皆がアリスを取り戻す為にリオと戦うと意志を固めた数分後。会議室では先生進行による天童アリス救出作戦の作戦立案と情報収集が行われていた。

 

「なるほど、それは良い案ですね。これが他学園でしたら学園の生徒会長が所属する生徒会にこれから会長と戦うから手を貸してとは言えませんが・・・ミレニアムはその事例には当て嵌まらないので。」

 

そして作戦立案の手始めとして先生が提案したのがセミナーへの連絡と情報収集。本来なら敵対する者が所属する組織への助力要請など自ら攻撃を仕掛けますと敵に伝えている様なものなのだが、その会長が秘密主義で滅多に表には出てこないミレニアムサイエンススクールでは別の話だ。

 

更に言うのであるなら現在のセミナーは会長である調月リオが表立って何かをしている事が無い為、ミレニアムの運営に必要な業務の大半をセミナー会計である早瀬ユウカが仕切っているという非常に不可思議な状態となっている。が、今回ばかりはその状態が先生達の味方をしていると言えるだろう。

 

「分かった。誰がユウカに通話を掛ける?一応ここは会議室だから、ホログラム型の通話機器なら整ってるけど。」

 

「言い出しっぺの私が掛けるよ。えっと・・・お、思ったよりも画面が小っちゃい・・・」

 

先生の意見に賛同したハレ起動させた、会議室に備え付けられたホログラム投影機能が付いた通話機器の操作に若干苦戦しながら、先生はセミナーの部屋に通話を掛ける。

 

『はいこちらセミナー会計の早瀬ユウカです。何の用件――って、会議室から?それにホログラム型なんて・・・って、先生!?』

 

「忙しい時にごめんね。少し聞きたい事があるんだけど、時間大丈夫かな?」

 

『え、今ですか?だ、大丈夫ですよ。何かありましたか?』

 

2コールで通話に出たユウカに、その後ろから微かに聞こえる彼女の親友の小さな微笑み声を聞きながら、先生は話し始める。

 

「まずは一昨日、かなり大規模な爆発事故が起きた事は知ってるかな?」

 

『一昨日・・・?あぁ、事情はなんとなくですが聞いています。なんでもアリスちゃんが原因不明の暴走を起こしたとかで、イサネ――イサネさんが鎮圧に一役買ってくれた事は知っています。』

 

先生とユウカの会話は会議中にスピーカーより出力され一同の耳に届いている。先生はユウカが一昨日のアリスの暴走について知っている事を認めると、躊躇う事無く本題を切り出す。

 

 

「実はその後・・・リオによってアリスが攫われちゃったんだ。」

 

 

『え・・・?』

 

 

会議室の通話用プロジェクターに映し出されたセミナー会計こと早瀬ユウカの表情が、先生の口から語られたこれまでの経緯を聞いた事により険しく歪む。

 

『会長が、アリスを・・・?』

 

「うん。それで、ユウカならリオの居場所を知ってるかなって思って。」

 

だが、ユウカの反応を見る限り恐らくは知らなかったのだろう。いや、リオの秘密主義により知らされていなかったと言う方が正しいだろうか。

 

『最近、何かを裏で進めている気配はありましたけど・・・そんな事になっていたんですね。少しショックです。』

 

ぴっ。という機械音と共に通話に参加したのはユウカの親友にしてセミナー書記こと生塩ノア。見聞きしたもの全てを完全に記憶し、そして学者の集うミレニアムの名に恥じない頭脳と頭の回転を誇る彼女ですらリオの動向を追い切れていない事がその言葉から見て取れた。

 

『会長、一体何を企んでいるのかしら・・・アリスを誘拐して、その上ヘイローを破壊・・・?全く、意味が分からないわよ!』

 

『普段から突飛な行動をされる方ではありましたが・・・今回は輪に掛けて唐突ですね。』

 

『ノア!これはもうそういう次元の話じゃないわ!何を考えてるかは分からないけど、生徒を誘拐するだなんて・・・ッ!』

 

通話越しでも尋常ならざる事態に動揺を見せるユウカとノアの様子が分かる。

 

『いくら会長だからと言っても、やって良い事と悪い事があるのよ!生徒の誘拐なんて立派な重犯罪じゃない!会長の立場は犯罪を正当化する為の場所じゃないでしょうが!』

 

「・・・仮にも自分の先輩なのに、全く容赦無いね。」

 

「でしょ?ま、そう言う所がユウカらしいよね!」

 

先輩はおろか自らの上司ですらあるリオに対し一切容赦の無い苛烈な物言いに、少し引いているハレと、いつも通りと言わんばかりの様子なモモイ。

 

『あら・・・うふふ、信頼されているんですね、ユウカちゃん♪』

 

『・・・ん?どういう事?』

 

『さぁ、どういう事でしょう♪』

 

モモイとハレの反応を見、くすくすと面白そうに笑うノアだが、肝心のユウカはそれに気付かない。が、事態はそんな事をしている時間を許す程温くはない。先生は口を開く。

 

「ユウカ、ノア、お願い。リオがアリスを何処へ連れて行ったのか、調べて欲しいんだ。」

 

『分かりました。こちらでもセミナー内部の情報を確認してみます。リオ会長の痕跡が残っていると思いますので。』

 

本来なら速攻でNoと言われてしまう場面だが、状況が状況な上に上と下の乖離というセミナーの実情、更にはユウカの性格的な部分も相まってすぐに協力の申し出を受けてくれた。

 

『任せてください!全力を挙げて協力します!』

 

強い意志を込めてそう言ったユウカの表情は、決して言葉のイメージとは異なり険しいままだった。だが、それでも協力すると言ったユウカの意志に嘘偽りはなかった様で、その後すぐに通話越しにキーボードを叩く音が聞こえ始め、数分後。

 

 

 

『先生、リオ会長がアリスを連れて行った先が分かりました!』

 

 

皆の想像の3倍くらいは早かった。はっとしてホログラムの方を向く一同の視線を受けながら、ユウカは結果を述べる。

 

『先生の話を聞いて、まさかとは思ったのですが・・・まさか本当に、セミナーの予算を横領していたなんて・・・』

 

『本当にショックですね。そんな事をされる方だったなんて・・・』

 

ユウカの口から告げられたのはリオは生徒の誘拐と殺人未遂だけでなく、己が解決策を成し遂げる為にキヴォトスにおける三大校と名高いミレニアムの予算すらも横領していたという事実。

 

「えっと・・・どういう事?」

 

だが、先生自身リオが予算の横領をしていた事など露ほども知らない。疑問のままにユウカに問うと、彼女は驚愕が終わらない内にリオの秘密裏の行動の影響を語る。

 

『えっと、その・・・セミナーのデータベースから、削除された・・・と言うよりは意図的に隠蔽された様な痕跡があったデータを調べてみた所・・・』

 

『データの一部に不透明な流れを発見。それの追跡に成功しました。』

 

『そうやって追って行った先がこちらです。・・・今、そちらの画面にも映します。』

 

ユウカの言葉と共に会議室の正面壁に備え付けられたモニターが起動し、一つの光景を映し出す。

 

 

「これは・・・都市?」

 

 

モニターに出力された光景に、先生が半ば無意識に呟く。映し出されたモニターに移っていたのは一つの街並み――というには余りにも大規模。最早新たな都市と言っても過言ではなかった。高層ビルが乱立し、そのビルの間を空中道路が通っているというキヴォトス基準から見ても分かる近未来都市だ。そしてその中央と思わしき場所にはどの高層ビルよりも高くそびえ立つタワーが見える。遠くに見える青は海だろうか。

 

『データベース上から消去された資料を復元した所、とある都市のデータを見つけたんです。』

 

モニターを遠隔で操作しながら、ユウカは話し出す。

 

 

『コードネーム、エリドゥ。リオ会長が秘密裏に建設していた、終焉に備える為の要塞都市・・・だそうです。』

 

 

「要塞都市、エリドゥ・・・」

 

 

ユウカ曰くキヴォトスの終焉に備える為の都市との事だが、何処にも要塞を想起させる物が何一つとして見えないただの近未来都市にしか見えない。一同がその威容に圧倒される中、ユウカが呆れた様にも零す。

 

『一体、いつの間にこんなものを・・・お金の流れを隠すのだって、大変どころの話じゃないでしょうに。』

 

「確かにそうですね、これだけの規模のものを建設するとなれば、並大抵の大金ではとても足りない筈・・・あ。」

 

このレベルの都市の建造ともなれば数千億、数兆クラスの金が必要になるが、数千億単位の金を誰にも見つからずに動かすというのはミレニアムでなくても困難な事だ。だが、アカネがそれについて何か思い出したらしく、渋い表情で口を開く。

 

「もしかして、こないだのコユキさんの一件と関係あるのでは・・・?」

 

『あっ!』

 

コユキ。フルネームは黒崎コユキ。ミレニアムサイエンススクールの一年生で、常識外れの暗号解読能力を有し、その実力のみでセミナーに籍を置く事を許されたヴェリタス越えのハッカー。しかし、コユキの性格は巨大組織の運営を担うセミナーに全く合わない程までに自由奔放。更には倫理観が致命的に欠損しており、予算の横領や軽犯罪と言った事を悪だと認識しておらず、これまで幾度となくC&Cに鎮圧・捕縛されてきたが未だに反省の色の一つも無い。そして矯正局に送ろうにも彼女自身がセミナーの内部情報を有している以上それも出来ないというとんでもない問題児。

 

一応イサネがキヴォトスに流れ着いてから最初の傭兵仕事で逃げ回る彼女を追い回した結果、その後数日間は本能的恐怖を植え付けられたのか反省室で大人しくしていたのだが、ミレニアムプライスの数日後にはあの時の恐怖など忘れましたと言わんばかりの元気さで脱走。挙句の果てにはオデュッセイア海洋高等学校の有するクルーズ船【ゴールデンフリース号】で行われているカジノにミレニアムの予算をつぎ込み、最悪ミレニアムとオデュッセイア間の戦争になりかねない事態を招いた。

 

「あー、あれか・・・」

 

バニー姿に変装したC&Cの指揮?を執り、巨大なクルーズ船の中でコユキを追ったあの出来事を思い出し、先生は苦笑いしか出来ない。

 

『コーユーキぃー!!』

 

通話越しのユウカの怒声が、会議室に響き渡る。恐らくリオはコユキが日常的に行うミレニアムの予算横領を隠れ蓑にすることで、誰にも見つからずに予算を持って行ったのだろう。

 

「でも、どうして都市なんて作ったんだろう。」

 

ふと疑問を感じた。何故終焉に備えるのに都市を作るのだろうか。それも要塞としての機能を持ったものを。終焉を齎す存在に備えるならわざわざ防衛・迎撃設備を都市に隠す必要は無い筈だ。

 

『リオ会長は、御自身がやると決めた事に関しては絶対に迷いません。合理的な判断を、時には重大な判断が必要な場合でも、何ら迷う事は無く目的達成の為ならブルドーザーの様に物事を進めてしまう。』

 

先生の口から出た疑問にノアがリオの特徴を交えて答える。

 

『そうして危険を排し、キヴォトスの終焉を防ぐ為に奔走した結果出来たのが・・・あの要塞都市・エリドゥなのでしょう。』

 

『アリスは恐らく、エリドゥの中心にあるタワーに連れて行かれた可能性が高いわ。』

 

「そこに・・・アリスが・・・」

 

ノアの言葉に続き、ユウカが結論を話す。

 

『エリドゥの座標をお伝えしますね。』

 

『立場上、私達がお手伝いできるのはここまでですが・・・』

 

『お願いします!リオ会長を止めて、アリスを連れ帰って来てください!』

 

やはりミレニアムと言えどセミナーの役員という立場が縛る権力は有効な様で、これ以上の手助けが出来ない事に歯噛みしている様子の二人。

 

 

「うん、任せて。」

 

 

二人の意志を受け取ったという意を示す様に、先生はユウカの言葉に頷く。

 

『あぁ、ちょっと待ってください。確かにセミナーの役員としてはこれ以上の手助けは出来ませんが・・・生塩ノア個人としてならあともう少しだけ、先生のお力になれるかも知れません。』

 

『の、ノア?何を言って・・・・』

 

「どういう事?」

 

が、ふと何かを思い付いた様に言うノアに、先生もユウカも疑問符を浮かべる。そんなノアは少し遠慮気味に先生に提案を行う。

 

『正確に言えば私が何か先生のお力になる、というよりは先生のお力になれる可能性のある方をお呼びする事が出来る・・・と言った方が正しいでしょうか。今思い付いたのですが。』

 

「力になってくれる人・・・?」

 

『はい・・・とは言っても、相手が相手です。数で押せばどうにかなる様な相手ではありません。ですので数よりも質・・・という事で、1チームと1人、候補が上がります。どちらも、既に皆さんなら心当たりがあると思いますが。』

 

一体誰だろうか。先生だけでなく、会議室に居た皆が頭を捻る中、ノアは早々と答えを出す。

 

『まずはエンジニア部の皆さんです。恐らくアリスちゃんは自身の武器である【光の剣:スーパーノヴァ】も一緒に連れて行かれたと思うのですが、あれを作ったのはエンジニア部だという事は既に知っていますので。』

 

「確かにそうだね、連絡してみるよ。それで、1人の方っていうのは・・・?」

 

片方はエンジニア部。アリスの持つ武器である【光の剣:スーパーノヴァ】の生みの親であり、ミレニアムプライスの前からアリスだけではなくゲーム開発部と関わりの深い部活だ。納得のいった様子の先生を見て、ノアは更に続ける。

 

『もう一人というのはですね・・・少し無理を強いてしまう形になる可能性があるのであくまで一意見として聞いて欲しいのですが・・・今医務室で安静要請を受けている、標根イサネさんです。』

 

「・・・ッ!イサネ!あっでも、イサネはアリスとの戦闘で重傷を・・・」

 

ノアの言葉にはっとして、しかし思い出す。ノアも言っていた通りイサネは現在暴走したアリスとの戦闘でレールガンの砲撃を二回も受け、勝ったもののかなりの傷を負っていた事を。だが、ユウカがそれに渋い顔で捕捉を入れる。

 

『あー・・・それについてなんですけど、治療を担当した生徒の話によると本人曰く既に体の痛みは引いているとの事で、治療後のやり取りにおける体の動きにも違和感が見られなかったそうで・・・』

 

「・・・あれ・・・?超強化女子生徒状態だったのは、イサネさんの方だった・・・?」

 

「それはお姉ちゃんだけの設定だと思うよ。」

 

モモイ以上に攻撃を受けて尚モモイよりも復活が早いという事実に、そもそもの役割や立場が異なるモモイが勝手にショックを受ける一方、先生は未だ負傷中のイサネの力を頼る事に良い顔をしない。それを理解しているノアも、あくまで判断は先生に任せると言う。

 

『先生の言いたい事も分かります。ですので、これはあくまで意見の一つでしかありません。どうなさるかは先生にお任せします。』

 

「・・・取り敢えず体の調子だけでも知りたいから、連絡だけしてみて欲しいかな。」

 

『分かりました。イサネのスマホに通話を掛けてみます。』

 

候補者に挙がるだけの理由がある以上、話だけでもと判断した先生はユウカにそうお願いする。ユウカもまた、すぐさまスマホを取り出し、イサネの番号に通話を掛け始める。が――

 

 

 

 

 

 

同時同日、アリスが暴走した日にイサネが運ばれた医務室。

 

 

「あれ、電話・・・?いや、私のじゃない。何処から・・・?」

 

 

使()()()となった医務室の掃除や設備の点検などを行っていた生徒が、ふとサイドテーブルから鳴った初期設定と思われる電話の通知音に辺りを見回す。そして通知音の正体がベッドに備えつけられたサイドテーブルに残っていた誰かのスマホである事を発見する。

 

「これ・・・誰のだろう・・・?前に居た人のかな・・・?」

 

恐らく前にここを使っていた者の忘れ物だろう。そう判断した生徒は、電話を取る事無く放置し、前にここの医務室を使っていた生徒が誰だったかを確認する為に医務室を出、セミナーの本部へ向かう。そして一定コール数を越えても出る事の無かったそのスマホは、応答無しとして掛けられた電話を自動で切る。

 

 

 

―――静寂。

 

 

 

その後そのスマホに数度掛かってくる電話に、誰も出る事は無かった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「リオ様。ヘリの着陸、完了いたしました。後部扉を解放します、強風に注意を。」

 

 

 

「分かったわ。・・・イサネ、これが貴方の任務の場所、要塞都市エリドゥよ。」

 

 

長い長いヘリ旅の果て、漸く地面に降りたリオ達は、ドアの開いたヘリから降り立つ。が、もう一人の同行者(標根イサネ)が下りてこない。

 

「イサネ?」

 

「うぅん・・・むにゃむにゃ・・・ぅわぁ・・・ドーザーが200万Cで売れるぅ・・・これでパーツ・・・買い放題、だぁ・・・」

 

ふと視線をヘリの中へ向けると、そこにはシートにがっつりと凭れ掛かり、良く分からない寝言をほざいているイサネの姿があった。

 

「・・・トキ。」

 

いつの間にか夢の世界に旅立っていた雇いの傭兵に思わず溜息一つ。そして静かに自らの従者に指示を出す。

 

「・・・イエス、マム。」

 

ヘリのエンジンを切り、同じように運転席から降りたトキがリオの指示に従い、すっとシークレットタイムの銃口を爆睡をかますイサネの額に宛がう。

 

「銃撃は無しよ。起きてくれれば後は何でも良いわ。」

 

「承知しました、では。」

 

トキに伝え、つかつかとその場を後にするリオ。直後に後ろから鈍い打撃音が聞こえ、「いぎぃっ!?」という情けない悲鳴が聞こえてくる。

 

「・・・色んな意味で底が見えないわね。・・・本当に色んな意味で。」

 

溜息をつきながら、リオは目の前の自動ドアを潜ってタワーの中へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イサネ様、お目覚めになられましたか?」

 

 

「目は醒めたんだけどさぁ。何故か頭が凄く痛いんだよねー。こう・・・鈍器で殴られた時の痛みが鋭く中に突き刺さってるイメージ。」

 

 

「・・・自業自得かと。」

 

 

ネクストの兵装の一つにあったGAN01-SS-WD(ドーザー)と呼ばれるただの金属塊をネクストのマニピュレータに装備するという馬鹿が考えたとしか思えない兵装が200万C――円換算で200億円で売れたというそれこそ馬鹿が見そうな夢から叩き起こされたイサネは、何故か痛む頭を擦りながらトキの先導に従ってタワーの中へと入る。

 

自動ドアを潜り、エレベーターに乗る事数十秒。最上階に到着した事を告げる電子音を聞きながら、エレベーターから出たイサネを迎えたのは無数のモニターが一つの超巨大モニターを形成しており、それでいてかなり広いスペースを有した管制室だった。

 

「おはよう。よく眠れたかしら?」

 

「一瞬で金持ちになる夢は見たけど多分よく眠れた。」

 

「・・・そう。」

 

そしてその広い管制室に一人、自分を待っていたリオと適当に挨拶を交わす。一方のリオはいきなり自分の見た夢の報告をされ、困惑から来る沈黙の後に僅かに頷きを返す。

 

 

「・・・さて、改めて貴方の任務の内容について説明するわ。」

 

 

微妙な沈黙を断ち切る様に、リオは超巨大なモニターに繋がる操作盤を操作し、をイサネの任務の説明を始める。

 

「貴方とトキの任務は恐らく、というか確実にアリスを取り戻しに来るであろう先生達を撃退、もしくは無力化、捕縛よ。アリスのヘイローを破壊するまでの時間を稼ぐだけで良いなら時間稼ぎに徹して貰っても良かったのだけど、ここで戦闘が行われる以上ヘイロー破壊の為の電力供給がどれだけ不安定になるか分からない。だからこそこの任務よ。」

 

「はい。」

 

「なるほどね。」

 

トキとイサネが話を理解している事を確認したリオはモニターの映像を変更し、リオが引き連れていたAMASの性能データの画面を移す。

 

「トキ、貴方は都市内に侵入した先生達と先に交戦して頂戴。武装については特殊武装(モード2)の使用まで許可するわ。アビ・エシュフについては私から指示を出すつもりよ。それと都市内に展開するAMASの指揮権の一部も貴方の判断で使いなさい。」

 

「かしこまりました。」

 

「それと並行してアバンギャルド君も投入する予定だから、上手く使って頂戴。基本的にタワーの入り口までの担当をお願いするわ。」

 

「イエス、マム。」

 

トキはリオの指示に淡々と頷く。次いでリオはイサネの方を向き、モニターの表示をタワーの内部構造の画面へと切り替える。

 

「イサネ、貴方にはタワー内部の防衛をして頂戴。恐らくAMASとトキでどうにかなるとは思うけど、万が一の対策は必要だわ。だから貴方の基本配置はタワー内部、私の指示が無い限りタワーからは出ない様に。」

 

「ならタワーの中・高層部に陣取っての狙撃援護は?」

 

「それについては問題無いわ。ただ相手は恐らくC&C。狙撃の名手こと角楯カリンも居るでしょうから、彼女の狙撃には十分注意して頂戴。それと、貴方もトキも撃破された状態――つまり防衛の主戦力が消えた状態で私の居る最上部まで突破された時が私達の敗北よ。そこを忘れないで。」

 

リオの説明を聞く傍らでモニターの画面を見、タワーの構造を頭に叩き込むイサネ。

 

「なるほど、まだどちらかが動ける状態で突破されてたとしてもまだ終わりでは無いと?」

 

「えぇ。エリドゥの設備はタワーの主機能を落とされた時の為に主機能を幾つかに分けた予備機能と復旧設備が存在する。仮にここで戦闘が起きても私達が勝てれば何の問題無いわ。・・・尤も、そういう事態に陥る可能性は0に限りなく近いでしょうけど。」

 

「ふぅーん。」

 

適当に返事を返すイサネの横で、リオは更にモニターの画面を変える。そうして映し出された画面にはエリドゥ内に設置された無数の監視カメラの映像の内4つが映し出されていた。

 

「これはこの都市の侵入における脆弱性を評価した時に、最も脆いと評価された上位4つの地点を映しているわ。脆弱と言っても普通に侵入する程度なら一瞬で制圧が完了するのだけど・・・それでも最も侵入されやすいという点には変わりないわ、片隅にでも覚えておいて頂戴。」

 

「空、地下水路二か所、そして貨物レールか。下手に入り際を叩こうとしても躱されるか入れ違う可能性が高そうだな。普通に発見し次第叩きに行く感じで良さそうだ。」

 

「そうですね。索敵網の監視を怠らない様にします。」

 

トキはそれぞれこの作戦における自らの果たすべき任務とそれに関する情報を改めて理解し直し、イサネはそれと同時に自らの目的の為の作戦を組む。

 

「イサネ、早速で悪いのだけど、少し行って来て貰いたい所があるの。座標は・・・ここね。」

 

「何ここ?武器庫?」

 

それぞれを繋ぐ小型無線機を受け取り、そろそろ準備を始めるかと場を離れようと考え始めたイサネに、リオが声を掛け直す。と同時にモニターに出力されるのは高層ビルが多い中で一つだけ階層の少ないビル。凡そタワーから数百m程度の距離だろうか。

 

「貴方の武器についてはこの部屋の操作盤のすぐ横に運んであるわ。武装を整えてから向かって頂戴。それでここについてなんだけど、ここにはある生徒を一人拘束してあるの。」

 

「・・・アリス以外にも拉致監禁をしてるのね。それで?」

 

「貴方にはその生徒が脱走、もしくはそれに当たる行為や外部に助けを求める事をしていないか確認してきて欲しいの。彼女、身体能力こそ高くは無いけど、頭脳ならミレニアム随一という言葉が過言ではないくらいだもの。私ですら気付かない小さな何かが、彼女にとっての脱出の鍵になる可能性だって低くは無いわ。」

 

「へぇ?」

 

モニターに映し出された映像とその位置を記憶しながら、イサネは既に大きな段ボールに入っていた注文通りの武装を装備していく。

 

「一応こちらでも監視はしているのだけど、万が一の可能性だって無くは無いわ。」

 

「AK47が2丁、予備分が2丁。ハンドガンもあるね。・・・後はコンバットナイフが3本、どれもレッグホルスター付き。ハンドグレネード、スモーク、フラッシュバン、それぞれ一個づつ。金属補強の付いたコンバットブーツ・・・サイズも良し。ククリナイフも良し。私の対物ライフル(quid est pax)も問題無し。ずれてるだろうからゼロインの調整はしとかないと・・・成程ね、じゃあ準備が終わり次第向かう事にするよ。」

 

「そうして貰えると助かるわ。ついでに補足だけど、彼女は私と意見が食い違ったから止む無く閉じ込めたのであって、決して彼女に害意は無いわ。だからあまり手を上げる様な真似はしないで頂戴。事が済めば解放するつもりだから。」

 

「はいはい、分かりましたよーっと。じゃ、行ってきまーす。」

 

リオの補足事項に適当に返事をしながら、装備を終えたイサネはquid est paxのバレルを掴んで持ち上げ、扉の開いたエレベーターへと入って行く。

 

「害意は無い・・・ねぇ。」

 

1階を指定し、扉が閉まる様子を肉眼で追う。そして完全に扉が閉じ切り、エレベーターがゆっくりと降下を始めると同時に、イサネは薄ら笑いながら呟く。

 

 

「そういうのはね、どこまで行っても他人には偽善としか評価されないのよ。いつの時代も。」

 

 

自ら悪と呼ばれる事を受け入れ、偽悪として人類の愚かさの象徴を払うと宣言したかつての元同胞達(ORCA旅団メンバー)の顔を思い出しながら、イサネは少し寂しそうに笑う。

 

 

(あぁ・・・私に孤独を寂しがる権利なんて、無いんだったね。・・・何せ、その孤独は自分の手で作り上げたものなんだから。)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

タワーを出て、小型無線機によるリオの道案内に従って高層ビル群の間に敷かれた近未来的な道路を進む事数分。イサネは先程モニターで表示されていた一つだけ階層の少ないビルの目の前に来ていた。

 

 

「・・・昼間のD.U.区に居る人と変わらないくらいAMASが居るね。」

 

 

『元よりここは先生達の襲撃ではなくてキヴォトスに終焉を齎す災禍からキヴォトスを守る、もしくはその災禍を避ける為に作ったのよ。災禍の規模こそ明確に分かっていないけれど、全てを防ぎ切るにはまだ足りないと踏んでいるわ。まだまだ防衛設備は増やさないと。』

 

 

「・・・さ、左様ですか。」

 

 

右を向いても左を向いてもAMASしか居ないという光景に若干居心地の悪さを感じ始めたイサネは、これからも防衛設備を増やすと言っているリオの言葉に息を詰まらせながらも指定されたビルの中へと入って行く。

 

『入ったなら案内用の見取り図がある筈。それに従って進んで頂戴。彼女は地下の1階、K-241の独房に居るわ。・・・脱走していなければ。』

 

「りょうかーい。」

 

『それじゃあ私はトキの特殊武装の調整や最終確認があるからこれで切るわね。独房室のロックまでは解除してあるから、何かあったら連絡を頂戴、すぐに対応するわ。』

 

短い会話の後、無線が切れたことを確認すると、イサネは即座に無線機の電源を落として地下へと向かうべくエレベーターではなく階段を降っていく。

 

「・・・なんだかここに来て最初の依頼の事を思い出すね。それにしても何であの子気絶しちゃうかなぁ、まだ逃げ回る体力は残ってそうだったのに。」

 

金属製の階段と金属による補強が加えられたコンバットブーツがぶつかる事で鳴る金属音を鳴らして階段を降りながら、イサネはかつてキヴォトスに来て初めての依頼であるセミナーの問題児、黒崎コユキの追走劇を思い出していた。

 

「いやぁしかし、あのコユキって子の暗号解除能力は凄かったね。ひょっとしたらコジマ粒子の汚染環境下で戦闘移動中のネクストのOSだってハック出来るんじゃないかな?まぁやった所で意味は無いだろうけど。」

 

ネクストは中のパイロットも殺せる可能性も含めて電子的に無力化するよりも圧倒的に物理的に破壊した方が良いというのは既に覆し様の無い事実であり、実際に試験において戦闘中や起動中のネクストにハッキングを仕掛けるというのは莫大な手間に対し効果が余りにも薄いという最終結論が既に出ている。

 

「まぁそんな事今はどうでも良いんだ、仕事しないと。」

 

だが、それはネクストがあっても使う事の出来ない今は関係の無い話。イサネは自らの愛機を恋しく思う心を頭を振って振り切り、階段を進んで行く。ごうんごうんという低い機械の駆動音が小さく響き渡る中、かんかんと金属音を鳴らしながら更に階段を降って行き、ついに《B1 第一独房》という表記がされたプレートが設置された階層に辿り着く。

 

(・・・話し声がする。声色的に私の知っている者じゃないって事は恐らくこの声の主がリオの言っていた生徒なんだろうが・・・既に助けでも来ているのか?)

 

おもむろに階段と独房部屋を区切る金属製の扉を開けようとした時、イサネの聴覚が独房室の中より誰かの話し声を捉える。イサネはすぐさま息を止めて気配を殺し、扉に耳を当てて声が何を言っているのかを探る。

 

「・・・リオ、・・・がやっている・・・本当・・・べき事・・・見る・・・ません。」

 

『・・・ヒマリ。』

 

(なるほど、監禁された生徒の名前はヒマリというのか。それで、話し相手はリオ。なぁんだ、既に外部から助けが来ていた訳では無かったのね。)

 

中に閉じ込められているであろう生徒と通話越しのリオの会話を盗み聞きながら、イサネはまだ第三者の乱入が無い事に少しだけ安堵する。

 

『貴方はいつも・・・私の事を・・・ね。陰気・・・浄化槽に・・・腐った水・・・』

 

(え?浄化槽?腐った水?どういう事・・・?何を言ってるんだ?)

 

『・・・まぁ、良いわ。・・・難出来る・・・のミレニアムで・・・いえ、キ・・・上で、ヒマリ・・・貴方・・・そ・・・らこそ、私が・・・うとして・・・理解し・・・ではない・・・』

 

金属扉に阻まれているせいで途切れ途切れの会話から聞き取れる単語を拾いながら、イサネは盗聴を続ける。

 

「アリスのヘイローを・・・る行為・・・をですか?」

 

『・・・』

 

「・・・自分の・・・を、ミレニア・・・はキヴォト・・・為の・・・そういっ・・・為だと信じて・・・しょうけ・・・ころは少・・・して都市に・・・イローを破・・・して・・・ですか。」

 

(閉じ込められている独房の位置がここから遠いのか、それとも壁が厚いのか・・・くそ、聴力も弄られてる私の耳でも全文を聞き取る事は出来ないのか。)

 

イサネはキヴォトスに流れ着いてから得たヘイローとそれによる身体の強化に加え元々のリンクスとしての強化処置による聴覚を以てしても言葉の断片しか聞こえない事に毒づきながらも、リオとヒマリと呼ばれた生徒の会話を聞く。

 

『その・・・は間違っていないわ。ただ・・・いえ、・・・ているから、私の事が・・・きず、また・・・出来ないのでしょうね。』

 

「えぇ、私は貴方・・・しません。それに、シャーレの先生も・・・いないでしょう。」

 

『そうね、先生・・・を回収し・・・確率は99.99999%以上。それに、C&Cという・・・戦力も向こう・・・いる。』

 

(ふぅん、リオの計算でも先生がここに来る確率は確定に近いと。・・・なら何故話し合って折衷案なり交渉、妥協なりをしなかったのか。そっちの方がこうして戦闘や私という部外者を雇うリスクを冒さずに済むだろうに。・・・あれか?頭は良いけど馬鹿って奴なのか?)

 

『全く、誰一人として私の事を理解してくれないのね。・・・誰の一人でさえも。』

 

(それは否、だ。恐らく私がリオの立場に居るならやり方こそ異なれどミレニアムの為にアリス殺害の選択は恐らく取っただろうね。まぁ今となってはもう関係無い話だし、そもそも私がこういう選択を取るのはアリスだけでなく他の人間の生死に興味が無いからなんだけど。)

 

漸く全部聞き取る事が出来たリオの疲れた様な呟きに、イサネは心の中で同意を示しながらも、自分では無いからと斬り捨てる。

 

「リオ・・・貴方はそれを・・・ていると・・・こんな・・・」

 

『・・・それでも構わないわ。ヒマリ、貴方は・・・言っていたわね。私がセーフハウスを・・・作って・・・ないかって。より・・・を得るの・・・エリドゥは・・・に起こる脅威を防ぎ、迎撃・・・てた都市・・・』

 

「リオ、貴方は・・・」

 

(どこまで行っても平行線。これじゃ最早聞く価値も無い会話ね。さっさと終わってくんねぇかなぁ。リオならこれからここに私が来る事くらい知っている筈なんだけどなぁ。)

 

お互いの主張の矛先がずれている様にしか感じらないその会話に、イサネは小さく溜息を吐き、会話が終わるのをただ待つ為に会話の内容を拾う事を捨てる。

 

(ったく、何時まで経ってもこの平行線なお話とやらは暇でしかないな。企業連の中間管理職も上のこんな下らない会話の為にほんとにご苦労様ね、せめて安らかに眠ってね。なーんて・・・)

 

今は居ない当人達が聞こうものならぶち殺されるでは済まないであろう事を内心で呟きながら、二人の会話の終わりをただ待つイサネ。

 

 

 

そうして待つ事数分、もう少し長引くであろうと予想した二人の会話は思ったよりも早く終結を迎えたらしい。

 

(さて、脱走はしてなさそうだし、そろそろご対面と行きますかね。)

 

会話の終わりを確認したイサネはゆっくりと腰を上げ、金属壁の取っ手に手を掛けて捻る。ぎぎぎ・・・と言う微かに不快な音と共に分厚い金属壁が開き、文字通りの独房の様相がイサネの目に飛び込んでくる。

 

 

「ふぅーん、ぱっと見はゲヘナ風紀委員会の独房もこんな感じだったね。ただ、設備はこっちの方が整ってる感じかなぁ?流石はこれからのキヴォトスの新都心って所か。」

 

 

「・・・ッ!!?」

 

 

(反応なしかよ。)

 

 

中に人が居る事を理解した上で何か反応が得られればと思い、部屋に入りながら敢えて部屋全体に聞こえそうな声で独り言を言ってみたが、がたんという物音以外には何の反応も得られなかった事に内心少しぶーたれながらも奥へと進んで行く。そして――

 

 

「こんにちはぁー。えーっと、リオ会長の命令でここに収監された囚人が脱走、もしくはそれに準ずる事をしていないか監視しに来ましたー。」

 

 

「・・・まさか、リオがこんな隠し札を引き入れていたなんて、流石にこの如何なる賢者すらも頭を下げる頭脳の持つ持ち主であるこの私を以てしても想定外と言わざるを得ませんね。」

 

 

部屋の最も奥、モニターが壁に一つ設置された以外他と何ら変わりない独房の中で、檻を檻たらしめる鉄格子を隔ててそれは居た。機械製の車椅子に座り、柔らかな白の長髪に尖がった耳、そして白を基調とした服装にカーディガンを羽織った容姿。これまた非常に整った顔立ちも相まってか儚げな印象を見た者に植え付ける。イサネは極めて周囲に警戒線を張りつつ、その人物に向けて口を開く。

 

「ヒマリ・・・って名前で合ってるよね?」

 

「・・・そうですね、普段ならもう少し言い回しを考えるのですが、今はそうする気分では無いので使い回しをさせて頂きましょうか。・・・こほん、私はミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカーであり、全知の学位を持つ眉目秀麗な特異現象捜査部部長、明星ヒマリです。」

 

何を言うのかと思ったら、いきなり始まった自己紹介。それもかなり長い上にイサネ自身良く知らない単語をふんだんに用いた恐らく自画自賛塗れの自己紹介。

 

「・・・じゃあ確認するけど、脱走、またはそれに準ずる行為、具体例を挙げるなら脱走の為の道具の準備や経路の確保、警備ロボットのAIロジックの改竄・・・挙げれば切りが無いけど、それに当たる行為はしてないね?・・・あ、嘘はつかないでね、お互いに面倒な事になるから。」

 

「無視ですか!?た、確かに使い回しの自己紹介ではあるんですが!」

 

何を返せばいいのか分からず、適当に流して事の本題に入ったイサネだったが、何の癪に障ったのかヒマリが癇癪を起す。

 

「何言ってるか分かんない自己紹介を自己紹介とは言わないでしょ。まぁ貴方のフルネームは分かったから、早く質問に答える。」

 

「・・・まぁ良いでしょう。使い回しの自己紹介に機嫌を悪くするのも仕方の無い話です。さて、脱走やそれに準ずる行為をしていないか、でしたね?えぇ、していませんよ。そもそもそう言った事を許す程リオは甘くありませんから。」

 

だが、イサネはヒマリの癇癪を気にも留めずに話を進める。ヒマリ自身は使い回しの自己紹介が良くなかったというよく分からない結論を勝手に付け、イサネの質問に答える。イサネはヒマリの発言を記憶し、目視のみでヒマリの居る独房の床や壁のチェックを始める。

 

「・・・標根イサネさん、貴方の事は知っています。ブラックマーケットを中心にあらゆる依頼を完璧に遂行する凄腕の傭兵バイト・・・また一定の組織に与する事なく、あらゆる所からあらゆる依頼を受ける完全に独立した傭兵とも。」

 

「まぁリオがミレニアム随一の頭脳を持っていると評価するあたり流石に知ってるか。中立を保っているのは私のスタンスってだけ、特に深い理由は無いよ。」

 

「では貴方がリオに味方するのも、彼女から依頼を出されたから・・・という事ですか?」

 

「・・・あながち間違いじゃない。まぁ面倒臭そうだったから初めは断ろうと思ったけど、依頼交渉で負けちゃったからね。」

 

先程の自己紹介を無視されてショックを受けていた様子から一転、深刻な様子で問い掛けるヒマリ。イサネも異変のチェックを行いながらそれに答える。

 

「・・・それが一人の罪の無い少女の命を奪う行為に加担する事になるとしても、ですか?」

 

「・・・一を切って確実に救える九を救う。実に無理の無い判断だ。ただ私はアリスが齎す危険性の大きさとリオの判断基準となる内面をよく知らないから、一概にどちらが間違っているは言えない。今この場でリオの内面的要素を纏めてくれるなら話しても良いけど。」

 

「良いでしょう、折角の機会なので少し語らせてもらいましょうか。調月リオという浄化槽で浄化されるべき汚水の様な女を形作るその本質を!」

 

「・・・語るなら早くしろ。」

 

一々長いヒマリの言葉に若干辟易しつつ、彼女の口から語られた調月リオという生徒の内面に耳を傾ける。時折面倒な比喩を用いて話す事も多いヒマリだったが、伊達に犬猿の仲らしきリオにその才覚を評価されてるだけの事はあり、イサネがわざわざ頭を使わなくとも調月リオという生徒の内面について理解する事が出来た。

 

「ふぅん、徹底した合理主義、それでいてかつ一度こうだと決めたら他者の想いや意見を一切考慮せず、また一切迷う事も無くそれを進める独裁者。そしてリオ自身も高い能力を有しているからそれが余計にその独善を助長させていると。・・・合理主義と他人軽視か、面倒な。」

 

「・・・ふむ、普段より少しばかり揶揄を交えての説明となりましたが・・・たった一度の説明でここまで理解出来るとは、貴方も中々やりますね。どうです?私が部長である特異現象捜査部に入りませんか?」

 

「・・・雑務は面倒だから結構。それに私の頭脳は既存知識の格納展開が限界だし、未知の発掘が出来る能力は潰れてる。私にミレニアムは向いてない。」

 

「それは残念ですね。でも、何時でもお待ちしていますよ、特異現象を研究の対象にしているのでいざという時に貴方の様な戦力はとても重宝するので。・・・さて、どうです?これで話してくれますか?」

 

「素人意見で良ければ。」

 

ヒマリが頷いたのを確認し、イサネは脱出痕跡の有無のチェックを手早く終わらせる。そして一呼吸の後、己が意見を話し始める。

 

「リオはアリスが危険分子だとして、キヴォトスをその災禍から守る為にアリスを殺す。・・・まぁさっきも言ったけど、一を切って九を救うという点では無理の無い選択だとは思う。でもヒマリが知りたいのはこういった合理の有無での話では無いんでしょう?」

 

「はい。いくらそれが危険を齎すとしても、アリスはアリス。彼女自体が害意を持っている訳では無いですし、何より彼女自身もその災禍によって皆が傷つく事を嫌う。アリスに罪はありません。」

 

目を閉じて深く一呼吸、そして、

 

 

「そうだね、言葉を着飾る事は余り得意でないから包み隠さず言うけど、私別にアリスの命がどうなろうが知ったこっちゃないんだよね。」

 

 

「な・・・ッ!」

 

 

何のベールもフィルターも通さない、本当の本心を打ち明ける。恐らくヒマリが最も想定していないか、最も最悪の回答として予想していたであろうその答えを。驚愕に目を見開くヒマリを余所に、イサネは続ける。

 

「まぁどうでも良いとは言ったけど、死ねばいいって言うんじゃなくて結果的に生きていようが死んでいようが興味が無いっていうのが分かり易いかな。だから仮に皆がアリスを救うというのであるならそれに従うし、殺すというのであるならそれに従うだけ。」

 

「・・・無関心、という訳ですか。なら、逆にこちらからお願いすれば先生側にも立ってくれる、という解釈で良いですね?」

 

「お願いじゃなくて依頼ね。報酬さえ用意してくれるなら・・・と言いたい所なんだけど、今の私だと最悪リオやその従者にまで手を掛けてしまう可能性が高い。」

 

そう、今のイサネは表面上でこそリオの計画に従事してるものの、本心で見れば依頼の際に自らの本当の名前を勝手に暴かれた挙句それをよりにもよって交渉材料に使われるという受け入れ難い屈辱を晴らすべく、虎視眈々と報復の機会を窺っている真っ最中なのだ。ここで陣営の乗り換えなどしようものなら最悪リオの命を奪う可能性だって低くはなくなってしまう。

 

 

「それに、私は望んでいるんだ。先生と最後まで戦う事を。ただ戦闘の指揮を執っているだけにも関わらず、指揮下に居る生徒は普段よりも戦闘能力が向上するというその特異性。・・・私が興味を持たない訳が無いよねぇ、その力ぁ!」

 

 

そして、妄執とも言うべき闘争への本能の脈動。完璧な理屈すらも押し流す際限無き闘争心。

 

 

「キヴォトスの終焉だとか、一人の罪の無い少女の命だとかそんな事はどうだっていい!私の領域に土足で踏み込んだ盗人を殺し、私の望むままの戦場にその全てを叩きつける!それが今の私が成し遂げる事ぉっ!!ひゃははっ!」

 

 

一切前兆の無い狂笑と共にイサネはゆらりとハンドガンを抜き、監視カメラや隠しカメラの設置された場所を寸分違わずに撃ち抜く。

 

「はっはははははっ!あぁ、話が逸れた。まぁでもそう言う訳だから、アリスは多分殺されないよ。その前に私があいつを黙らせるからね。私の秘密を暴いた報いは受けて貰う。何が何でも。」

 

突如として狂人の片鱗を見せたイサネに圧倒され、言葉も出なかったヒマリに、ふっと昂揚を抑えたイサネは告げる。

 

「・・・まるで、それが確実に為せると言わんばかりの物言いですね。」

 

「出来るに決まってんでしょ。そもそも人の一人も殺した事の無い様な奴の殺人宣言なんて大した事無いしね。せいぜいありもしない虚城に籠れば良い。何処へ籠った所で私は絶対に逃がさない。・・・絶対に。」

 

狂気を憤怒の入り混じった瞳でヒマリを見つめながら、イサネは踵を返す。

 

「それと、脱出時には都市の構造変化に気をつけてね。ここ、建物とか道路の至る所に用途不明の溝が入っていたから、恐らく急に動くかもしれない。」

 

「ご忠告ありがとうございます。」

 

独房室を出ると同時に、イサネは切っていた無線の電源を入れる。

 

「こちらイサネ。監禁中の生徒は脱走の気配無し、独房内もチェックしたけどそれらしき痕跡は見当たらなかった・・・まぁ、嫌がらせという事でEMPパルスは撃たれたけど。」

 

『・・・いきなり彼女の独房を見張る監視カメラがダウンした理由はそれだったのね。それで?』

 

「抵抗したという事で殴って気絶はさせたけど。それ以外は何も無かったね。今から守備位置に向かうよ。」

 

どうやらイサネの凶行は知られていなかったらしい。外を歩きながら、イサネはこれからの先頭に備えるべく肩を回す。

 

 

(まぁ、なんとなくの勘でそろそろ覗き出すだろうなって思ったから撃ったんだけど、当人は知りもしないでしょうねぇ。・・・さて、裏切り方は決めた。後悔する暇も与えない。)

 

 

『イサネ、急いで頂戴。先生がここに到着したとの報告があったわ。』

 

 

「了解、急いで戻る。・・・アウト。」

 

 

リオから先生一行がエリドゥに着いたとの報を受け、無線を切ったイサネは歩く足を駆け足に早めてタワーに向かう。

 

 

 

「カラードと言いORCAと言い、私って裏切ってばかりだな。・・・人間の屑とはこの事か。」

 

 

 

 

――今更である。

 

 

 

 





船上のバニーチェイサーなどのイベントストーリーは気が向いたらか、メインストーリーがひと段落したら書くかもしれません。ですが、ここでは山海経に関するストーリーである月華夢騒と五塵来降につきましてはメインストーリー寄りとして扱わせて頂きます。どのあたりの時系列で書くかは未定ですが、まぁ最終編後だとは思います。ご理解の程、よろしくお願いします。

GAN01-SS-WD (スペックはレギュレーション1.00)
破壊のみを意図した鉄塊。対ネクスト戦などは想定されていない
カテゴリ:Dozer 
メーカー:GA
価格:20000C
重量:1485
消費EN:2
攻撃力:《実弾》9163
PA減衰力:1888
PA貫通力:7250
衝撃力:4758
ブレードレンジ:1
発動間隔:20

…これが一体どうなったら200万Cで売れる様になるんですかねぇ。
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