透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

55 / 92

遂に(作者のエゴにより端折られたが)要塞都市エリドゥに辿り着いた先生一同。果たして攫われたアリスを奪還出来るのか!?それに対しリオはどう出るのか。そして首輪付きの報復は叶うのか!?

…もう少し原作通りの会話シーンの多い所は端折った方が良いかもしんないっすね、これ。

あとエリドゥの事を襟毒って入力しちゃうの本当どうにかなんねぇかなこれ(タイプミス魔人)



覗くは斜光、立ち塞がるは電子の牙城

 

 

 

 

 

 

人一人が辛うじてゆったり出来るかどうかの狭いスペースに4人。

 

 

 

「ここが・・・」

 

 

 

殆ど揺れの無い自動運転の貨物列車にて先生とゲーム開発部、その1両後方にエンジニア部とC&Cがそれぞれ貨物に紛れて隠れ潜み、貨物室故に非常に小さな覗き窓から要塞都市エリドゥの威容を目に焼き付けていた。

 

 

「エリドゥ・・・」

 

 

「ここに、アリスちゃんが・・・」

 

 

その近未来都市に圧倒されながらも、自らが、自分達がここまで足を運んだ理由を呟く。

 

『先生、そろそろ駅に到着するみたいだ。停車駅に泊まったら列車が貨物の積み下ろし場に向かい始める前に降りてくれ。時間にして大体5秒くらいだと予想している。降りたらそのまま地下水路まで止まらないで進む手筈だ。』

 

「ありがとうウタハ、準備するよ。・・・皆、そろそろ降りるよ。」

 

無線機より聞こえて来た目的地到着の報を受け、小さな窓から食い入るようにエリドゥの風景を見ていたゲーム開発部の三人の顔が引き締まる。それを確認した先生は自分を先頭に列車の出口を目指してコンテナや資材だらけの貨物車両の中を進み、出口前で待機する。そして――

 

 

『列車が止まった・・・3、2、1・・・今だ走れっ!』

 

 

「行くよ皆!はぐれないで!」

 

 

無線機越しのウタハの声と共に列車が停止。その数秒後、一同が待機している扉が圧力を解放しながら開く。

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「は、はいっ!」

 

先生の掛け声に頷く声が三つ。と同時に床を蹴って駆け出す。普段なら駆け下り乗車ならぬ駆け下り降車で駅員に注意されるが、ここにそんな駅員など存在しない。居るとしても警備ロボットが精々だろう。貨物車両から飛び出した四人は、そのまま駅の改札へ向けて疾走する。

 

「先生っ!こっちだ!」

 

「了解!」

 

ホームを改札口を繋ぐ通路を駆け抜け、道中で合流したウタハを筆頭にしたエンジニア部の先導に従って地下へと続く道を進む。暗く無人の通路を走り、階段を降り、停止しているエスカレーターを駆け下りる。

 

 

 

 

「追跡の様子は無し・・・よし、まずは想定通り、物流輸送用無人列車で現場に来れたね。」

 

 

3分と30秒未満。目的の地下通路に追跡の目も無く辿り着いたエンジニア部とゲーム開発部、そして先生は、全力疾走で軽く乱れた息を整えながら目標達成におけるそれぞれの段階の内一つを突破したことを確認する。

 

「うん、ヴェリタスおかげ。」

 

「流石ヴェリタスです!まさか列車のシステムごとハッキングしてくれるとは!」

 

『・・・ちょっと言葉に棘が無い?気のせい?』

 

列車から降りた事で安定して通じるようになった事で、早速ミレニアムに居るヴェリタスの面々と通信を始める。彼女達のサポート無しにはここまで来る事すら不可能だっただろう。

 

『まぁいいや。それよりもその通路の先、出たらもうエリドゥだよ。』

 

『ちゃんとモニタリングしてるから安心してね。』

 

『ですが、こちらで拾えなかったがもの突然現れる可能性もありますから、くれぐれもご注意を。』

 

ハレ、マキ、コタマの言葉に感謝を述べながら、ウタハの次の言葉に耳を傾ける。

 

 

「それじゃあまずは先に分かれて潜伏中のC&Cに暴れて貰おうか、私達はこの辺りで――」

 

 

息を潜めるとしよう。ウタハがそう言おうとした所で、何やらタイヤの駆動音がきゅらきゅらと誰も居ない地下通路に反響して聞こえてくる。それは誰かが何か言う間もなく反響から実際に聞こえる音に姿を変え――

 

 

――実体を暗闇から映し出す。

 

 

「ぅわあぁぁーッ!?な、何これ!?」

 

 

それを始めてみたモモイが、得体の知れないような目で驚愕を叫ぶ。

 

 

「おや、中々素敵な子だね。迷子かな?」

 

 

と、ウタハが緊張のきの字も無い様子で宣う。

 

 

「いやいやいや!ここでそれは無いでしょ!リオのドローンだよこれ!」

 

 

脳裏に呼び変えるリオが数十数百と自らの従えさせていた自律型兵器。AMASという呼称で呼ばれ、個々の戦闘能力こそモモイやミドリ一人でもまだどうにかなるものの、圧倒的な数でその能力の有利をひっくり返すという正に絶対的な安定を証明できるリオの戦力。

 

「もしかして、もうばれたんですか・・・!?」

 

いきなり全てが頓挫しかけたこの状況に、思わずミドリが悲痛な声を上げる。が、何故かAMASは本来侵入者であるはずの先生達を見ても何の反応も示さない。

 

敵を見つけても戦闘はおろか気にも留めようとしないという不可思議な現象に先生が首を傾げる間もなく、無線から『大丈夫。』とハレの声が聞こえてくる。

 

『ばれる前に制圧は終わってるよ!ついでに周辺のネットワークは私達がハッキングしてるから大丈夫!』

 

「そ、そんな事も出来ちゃうんだ・・・!」

 

さらりと中々凄い事を言うマキ。どうやら周辺の監視網は既にヴェリタスの手に墜ちているらしく、当分発見の可能性は無いらしい。

 

「ヴェリタスならではの芸当と言った所だね。さて、それじゃあ進もうか・・・先生、指揮はよろしく頼むよ。」

 

「うん、任せて。それじゃ・・・戦闘準備!」

 

先生の声に同調する様に、ゲーム開発部とエンジニア部の面々は己が愛銃を構える。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『良い狙撃ポジションは確保できたかしら?』

 

 

「うーん、後2時間くれない?そしたら隠蔽性も十分なものが出来ると思うんだけど。」

 

 

弱風吹き込むエリドゥ中層のとある窓際。そこに長大なライフルを持った一人の少女が灰銀色の長髪を風に遊ばせながら、装着型の無線機(インカム)の相手に戯言をほざく。

 

『・・・もう先生は来ているのよ。そんなに待ってたら貴方に依頼を出した意味が無いわ。』

 

「ごめん今の冗談。狙撃の準備は出来てるよ。ゼロインの調整も風速の計算も終わってる。後は目標の座標があれば撃てる。」

 

『・・・狙撃はまだしなくても良いわ。むしろ戦力の露見を避ける為にまだ撃たないで頂戴。』

 

「あいよ。」

 

その言葉を最後に音が切れた無線機を撫でながら、少女――標根イサネは恐らく陽動部隊が暴れているであろう場所に長大なライフル――【quid est pax】のスコープではなく高倍率の双眼鏡を向けて覗き込む。

 

『これで30台目・・・きりが無い。』

 

『えぇ、想定よりも数が多いですね。ですが、それのおかげで派手に暴れて騒ぎを起こすという当初の目的は達成出来ていますが・・・』

 

「やっぱりあそこで暴れてるC&Cは囮か。とは言え、囮だからと放置しているとそのままタワーまで行かれてしまう訳だから・・・」

 

しゃがんだイサネのすぐ横に置いてあるラジオの様な機械からは、予め都市の監視の一環で作られた盗聴システムから流れてくるあらゆる音が聞こえてくる。・・・勿論、敵方の会話も。

 

「対物用14.5×114mmが沢山、特注タングステン合金の硬芯徹甲弾は5発。私の能力も合わせると最大貫通威力がヘイロー持ちの体でも貫通する恐れがある程までに上がる特注品・・・」

 

そう言って双眼鏡から顔を逸らし、ちらりと見やるは万年筆よりも太い銃弾が大量に入っている段ボール箱の方ではなく、同じ様なサイズの銃弾が5つだけ丁寧に梱包されているプラスチック製のケース。他にもノートパソコンや電源の入っていない無線機にC4と、様々な物が一纏めに置かれている。

 

「威力は推定だけど、それで十分。これで撃つのは先生一行じゃないからねぇ・・・あはははっ、あの盗人を半殺しにするにはこれでもまだ足りない気分だが・・・まぁ報復に余りむきになり過ぎても虚しいだけだしな・・・ふっはははははっ。」

 

誰も居ない開けたスペースで一人、これからの笑劇に笑うイサネ。

 

(天童アリスの生死なんてどうだって良い。ただもう愉悦が抑え込めそうにないのは不味いなぁ・・・まぁ無理は無いか、何せこれから待ちに待った報復と待ち続けた先生との戦い・・・待ち切れる訳ないんだよなぁ。)

 

少しでも気を抜けばにやけ始める己のだらしなくなった表情筋をこれから任務でかつ失敗は許されないと言い聞かせる事で何とか引き締める。

 

『イサネ、トキをあそこへ投入したわ。先生達の方にはアバンギャルド君も差し向ける予定よ。』

 

すると、インコムからリオの声が再び聞こえてくる。どうやら正面で暴れるC&Cにトキを差し向けるらしい。アバンギャルド君という単語をスルーし、イサネは頷きながら双眼鏡に視線を戻す。

 

「了解。そのアバンギャルド君ってのがよく分からないけど、それで先生とC&Cを一緒の場所に合流させるように誘導できれば狙撃チャンスになる。」

 

『悪くないわね、それで行きましょう。アバンギャルド君の命令を書き換えるわ。狙撃開始は私が指示するけれど、一射一射のタイミングは任せるわ。』

 

「はいはい。・・・おい、トキの奴押されてるぞ。」

 

『いくら相手の動きを予測すると言えど、一度見せてしまうとどうにも対応されてしまうわね。・・・でも、まだ持ち堪えられる筈よ。それにAMASだってまだまだ無数にいる。』

 

あんな玩具もどきでC&Cの足止めは無理があるだろと言う言葉を飲み込み、イサネは無線を切る。双眼鏡から覗くC&Cvsトキの戦況は既にトキがモード2を使用しているにも関わらず劣勢を強いられており、AMASに至っては戦線に入ることすら出来ていない。

 

 

「ふぅん、対象の行動の予測演算機能か・・・あいつら相手にそれ頼りじゃ勝てても初見殺しの一回だけだな。ま、あれが殺し合いならその一回で十分なんですけどね。」

 

 

予測演算頼りの戦い方。卑怯だのなんだのと言われそうなものだが、イサネにとっては理由はどうあれ勝った者が強者であり生き残った者が全てだ。quid est paxに装填された手の平よりも大きいマガジンにしっかりと14.5×114mmが装填されていてかつチェンバーにそれが給弾されている事も確認しつつ、イサネは戦況の推移を見守る。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

地下通路を進み、時にハッキングを受けていないAMASを退けながらゲーム開発部、エンジニア部、そして先生の一行はついに地上へと続く階段に辿り着く。

 

 

「皆、地上に出るよ!ここからだよ!」

 

 

先生が戦闘による息の乱れを整えたのを確認し、声を掛ける。地上に上がればアリスの居るタワーに一気に近づく事が出来る一方でリオの目にも捕捉されやすくなる。つまり、これからが本番だ。

 

扉を一息に開け、そこに雪崩込む。階段を駆け上がり、沈みかけの太陽が眩しい地上へと出る。

 

「よぉーしっ!外に出れた!」

 

「それで、ここからどこへ向かえば良いの?」

 

一同全員が地上へ上がった同タイミングで、無線によるヴェリタスのナビが始まる。

 

『アリスが居るのは恐らくエリドゥの中心部。この中央にあるタワーだよ。』

 

『現在位置からの経路を算出しました。そこから左手にある大通りを真っ直ぐ北に進めば辿り着けます。』

 

「サポートありがとう。じゃあ皆、行こうか。」

 

ヴェリタスの指示に従い、一行はゲーム開発部の三人を先頭に、そしてエンジニア部を先生の後ろという陣形を取り、示された大通りへ進んで行く。だが、ここは要塞都市エリドゥ。そこに行くまでには当然AMASが群れの動物の様に闊歩している。が――

 

 

「どいたどいたぁぁーッ!!」

 

 

陣形の先頭を務めるモモイが、その昂る士気のままに行く手を塞ぐAMASに対して手に持った愛銃【ユニーク・アイディア】を掃射。片っ端からAMASを撃ち抜き、正面からその道を切り開く。

 

「ミドリ、モモイの左側の撃ち漏らし!ユズ、奥に擲弾を!」

 

「先生、私達はどうする?」

 

「そうだね・・・一人は後方を警戒!何かあったらすぐ呼んで。残り二人は両側から展開して!」

 

「了解。私が後衛に残ろう。ヒビキ、コトリ、左右は任せた。」

 

『道はこっちで指示するから。』というハレの声を聞きながら、先生の指揮によりコトリとヒビキがそれぞれ左右に展開。AMASの群れを更に押し返す。

 

「ハレ、大通りに出たよ!ここから真っ直ぐ北上で良いんだよね!?」

 

停滞は僅か数秒にもならなかった。モモイが抉じ開けた道が塞がるよりも一同がその穴を大穴に変え、突破する。

 

『合ってるよ。ただ、60m先にドローンが・・・23、24・・・まだ増えてる。』

 

「大丈夫大丈夫!その程度、私が全部吹っ飛ばすよ!」

 

どうやら陽動で動いていたC&Cがトキと戦闘を始めたのだろう。遠くの方で爆発の音が激しく聞こえてくる。

 

『C&Cの動きが止まりました。どうやら陽動は上手くいったみたいですね。相手の主戦力は飛鳥馬トキ、彼女一人に依存しています。彼女が交戦を始めた以上、先生達は動きやすくなる筈です。』

 

「分かった、ならもっと速度を上げて行こうか。皆、着いて来れる?」

 

「「「「勿論!」」」」

 

遂に得られたノーマークという有利を活かすべく、一同は行軍の速度を上げて大通りを突き進む。目の前にはAMASが20数機居るが、はっきり言って今の指揮ならモモイやミドリ一人でもどうにか出来そうだ。

 

「皆ぁ!アリスは目の前だよ!」

 

「お姉ちゃん!余り騒がしくするとドローンが来ちゃうよ・・・!」

 

 

――絶好調。向かう所障害無し。

 

 

そんな調子のまま、タワーまでの一直線を駆け抜けんとする一同。

 

 

 

が、

 

 

 

『えっ!?ちょ、ちょっと待って!?通信の状態が・・・!』

 

 

 

何の前触れも前兆も無く、ヴェリタスとの通信回線が不調をきたし始める。

 

 

 

『ヴェリタス・・・やはり、貴方達だったのね。流石はあのヒマリの後輩達と言った所かしら。』

 

 

 

それと同時に、秘匿されている筈の回線に割り込む無感情な声。

 

 

『え!?だ、誰――』

 

 

キヴォトスでも有数に優れた通信機器を有する部室で必死に回線の安定化に奔走するヴェリタスだが、その努力も虚しく、マキのその言葉を最後にヴェリタスが通信から追い出される。

 

「ヴェリタスの通信が・・・」

 

「途絶えた・・・」

 

後ろのサポートを突如として消失し、一同に不吉な緊張が走り抜ける。

 

 

『・・・予想はしていたけど、本当にここまで来たのね、先生。』

 

 

そしてヴェリタスを追い出して割り込んできた無感情な声――調月リオは、無線越しに先生と対峙する。

 

 

「リオ・・・君を止めに来たよ。」

 

 

静かに、しかし確固たる意志を以て告げる先生にリオは素っ気なく『そう・・・』とだけ返す。

 

『やはり、あの時の私の言葉と行動では貴方を・・・そして、その子達を説得する事は出来なかったのね。』

 

既に分かり切っていたと言わんばかりに言うリオの声は、先生だけでなくその周りに居るゲーム開発部とエンジニア部、この場から弾き出されたヴェリタスの面々にも向けられていた。通話越しでなければ一触即発の状況に、リオはおもむろに先生に問いを投げ掛ける。

 

『・・・先生。トロッコ問題をご存じかしら?』

 

ゲーム開発部の生徒達はトロッコ問題について理解が及んでいない様だが、先生やエンジニア部にはすぐに理解出来る問題だ。

 

トロッコ問題。それは二又に分かれたレールの上にそれぞれ5人と1人の人が居て、自分はそのレールの行き先をどちらかに決定する事が出来る。そして、高速で迫りくるトロッコを5人の居るレールか1人のレールかのどちらに誘導するか、つまりどちらを犠牲にするかという功利主義と義務感を問い掛ける倫理学の問題だ。

 

『故障して止まる事の出来なくなった列車がレールの上を走っている時、大人数を活かす為に一人を犠牲にするか、一人を救う為に大人数を犠牲にするかを問う問題よ。』

 

一を救う為に九を切るか、九を救う為に一を切るか。言ってしまえば単純な二択の問題。だが、5人も1人も命は命。そう簡単に決められる問題ではない。・・・少なくとも普通なら。

 

『誰かがレバーを引く役目を担わなければならない。そして私はその役目を喜んで引き受けようとしているだけ。』

 

当然だと言わんばかりに九を選び、そしてレールに縛られた哀れな6人の裁定を決めるという役を進んで買うと言うリオ。

 

 

『悪意も敵意も、端から持ち合わせていない。ただ――』

 

 

あくまでも自分は本当に守るべきものを守る為、為すべき咎を背負う。自らが決めた覚悟を、今の自分に尽くせる言葉の限りで先生やその周りに居る皆に伝えようと言い――

 

 

 

「分かんないよ!トロッコ問題とかどうでも良いから、アリスを返してッ!!」

 

 

 

通じない。無慈悲なまでに。モモイの咆哮はリオの論理武装すらも弾き返す。

 

『あら、貴方は・・・』

 

「話は聞いてるんだからね!会長が訳の分からない事を言って、アリスを連れて行ったって!」

 

監視カメラ越しにモモイの存在を認めたリオは、きっと無線機と睨むモモイに対し、分かった様な口ぶりで物を言う。

 

『訳の分からない話では無いわ。他の誰でもない、名も無き王女に攻撃された貴方なら分かるのではなくて?』

 

「分かんないよ!」

 

だが、モモイは何らそれに動じない。

 

 

「私はただ、会長の元からアリスを連れ戻したいだけ!」

 

 

一向に自らの論理に理解を示さず、真っ向から知った事かと反発をするモモイに初めて動揺を見せたリオ。

 

「そもそもキヴォトスの脅威だとかなんとか理由を付けてアリスを誘拐するなんて、スケールが小さ過ぎるよ!少なくとも私が普段書いてるシナリオの方がずぅ~っと大きい!」

 

馬鹿で無遠慮で無鉄砲。時にはそう評されるかもしれないモモイのその性格だが、完全武装の論理で説くリオに対しそんな事は知らんと己がエゴを曲げない。今の状況ではそれがリオとの論争において何よりも強い武器となっていた。

 

『・・・そうね、貴方達に今すぐ理解して貰う事は難しいでしょうね。私自身もそれは十二分に理解しているもの。』

 

何を言っても己が意志を突き付け続けるモモイに論争では勝ち目が無いと結論付けたリオは、諦めた様に言葉を吐く。

 

 

『でも、最後は私の選択の結果を見て、追々理解して貰えればそれで構わないわ。・・・アバンギャルド君、発進。』

 

 

――同時に、今は武力で黙らせるとも。

 

 

「皆構えて、何か来る。」

 

 

リオとの論争から戦闘指揮に意識を移した先生は、明らかにAMASよりも大きな機械の駆動音に警戒を示し、一同もそれに倣う。直後、群れるAMASが突如として道を開け、そこを一機の巨大なキャタピラが通る。

 

「あ、あれは―――」

 

わざわざ周囲に警戒を張る必要すら無かった。タワー方面から一行と相対するかの如く現れたその巨体は――

 

 

「うわっ!ださっ!」

 

 

「確かに、あんまり可愛いデザインじゃないけど・・・」

 

 

子供の工作の様な頭部のデザインにミレニアムの校章がでかでかと描かれたやたらと流動的なボディ。そしてそこから伸びる両腕は2本ではなく4本。下は足ではなく戦車そのものでありキャタピラによって移動をしている・・・

 

 

『・・・見た目は関係無いわ。』

 

 

モモイとミドリを筆頭に、余りにも不評な外見をしていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ゲーム開発部を筆頭に対峙した先生達に口を揃えて「ださい」と酷評されてしまい、戦闘前だというのにリオの心に想定外の傷を与える結果となってしまったアバンギャルド君。

 

 

「なんだあの自律兵器は・・・アスピナのリンクスが乗ってたネクストも中々印象的だったけど、あれはそれ以上だぞ。本当にあんなので先生の指揮下にある生徒を退けられるのか?」

 

 

そしてそれは一般の人間と比べて無に等しいと言って良いほど美醜の基準が分からないイサネから見ても、「何だこれは?」と言わざるを得ないものだった。

 

「リオ、あれが貴方の言うアバンギャルド君って奴なの?なんかすぐに破壊されそうなんだけど・・・本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

『・・・外見と性能による勝敗の有無に関係性は無いわ。』

 

イサネの半信半疑の言葉に、リオが何処か意気消沈を窺わせる声色で返す。その反応的にどうやらアバンギャルド君の設計を行ったのはリオ本人なのだろう。そんなに傷付くくらいなら別のデザインにすればよかったのにという言葉を今は戦場だからという事でぐっと飲み込み、C&Cとトキ、先生一行とアバンギャルド君がそれぞれ繰り広げる戦況の推移を見守る。

 

 

だが、

 

 

『くっ・・・モモイ、下がって!』

 

 

『うわぁぁっ!危ないっ!!』

 

 

その余りにもあんまりな外見とは裏腹に、アバンギャルド君は三本の腕に装備されたバズーカ、アサルトライフル、そしてガトリングガンを軽々と振り回し、ゲーム開発部とエンジニア部をいとも容易く薙ぎ払う。また残った右腕に装備された黄金長方形と呼ばれる幾何学図形を模した大盾により、一行の反撃を物ともせず防ぎ切る。

 

『外見からは想像も付かない火力してるね・・・』

 

『見た目はすっごいださいのに、めっちゃ強いよ!どうしよう!?』

 

「確かに戦闘能力はあるね。特に足を止めた真っ向からの撃ち合いには滅法強い。キャタピラにしたのは悪路の走破性を考慮した結果かな?四脚ならそんな事を考える必要は無いけど。後は動き回る相手対策にブースターだな。それに加えて姿勢制御装置も必要になってくるか・・・?」

 

双眼鏡より視界を、盗聴システムにより耳を戦場に置き、一方的に押し込まれるゲーム開発部とエンジニア部の姿を見てイサネはアバンギャルド君の評価を引き上げる。

 

『一番大きな障害はトキになると思ったから、C&Cにお願いしたんだけど・・・まさかこんな所にも伏兵が居たなんて・・・』

 

『・・・なるほど、最初にトキを連れていたのは、こうやって戦力の誤認を起こさせる為だったんだね。』

 

トキが主戦力である事に意識を奪われたミスディレクション。いや、リオ自身は初めから先生の方も十分な脅威として認識し、アバンギャルド君という戦力を向かわせていた以上先生側が勝手に読み違えただけなのかもしれないが。

 

『C&Cの居ない今こそ・・・』

 

『会長にとって、先生を制圧することの出来るチャンス・・・!』

 

『C&Cと先生を分断する。それも私の手ではなく自らの判断によって・・・そうすれば、こちらの計画が伝わる事は万に一つも無いですから。』

 

自分から相手を騙しに行くのではなく、相手に勝手に誤解してもらう。相手が勝手に誤解する様仕掛けるという余りにも相手依存すぎる戦術とも呼べない様な戦術。だが、その性質上決まればノーリスクで相手の隙を突ける。

 

『イサネ、狙撃支援無しでもアバンギャルド君だけで片が付きそうだわ。貴方はトキの方を見ていて頂戴。』

 

『なるほど、どうやら会長の方が一枚上手だった様だね。』

 

脇に置いたラジオから、ウタハの感心した様な声が聞こえてくると同時にインコムからもリオの指示がイサネの鼓膜を叩く。

 

 

『さぁ・・・終わりにしましょう。アバンギャルド君。』

 

 

リオの指示を受けたアバンギャルド君が、AMASによって逃げ場も潰された先生一行に進んで行く。

 

 

「・・・終わりか?だとするなら随分と湿気た依頼だったな。」

 

 

先生一行がここで脱落しようがしまいがイサネにとってはどうでも良い話だ。仮に先生陣営がやられたなら普通にリオをこの手で撃てば良いだけの話でしかない。

 

 

「先生と戦えないのは残念でしかないけど、まぁ最優先事項でもないし仕方ないか。さて・・・」

 

 

先生一行はアバンギャルド君に手も足も出ず、C&Cはエリドゥの都市構造変化を使い始めたトキによって分断され、再び一対一となったネルも膠着状態。更にはリオまでもが勝利を確信したのか通信を開き、獄中のヒマリと会話を始めている。つまり、イサネは今完全にフリーだ。

 

「取り敢えず、先に仕込みだけでもしておくか。」

 

そう言ってイサネが雑貨の中から取り出したのはノートパソコン。画面を開き、電源を入れる。

 

(パソコンの充電は終わってる。プログラムも正常に動く事を確認済。後は・・・ははっ、そろそろ戻ってくる頃でしょう?・・・ヴェリタス。)

 

パソコンが完全にスタンドアロン(どこのインターネットにも繋がっていない)な状態である事を確認しながら、イサネは早々に盤上から弾き出されてしまった電子戦の精鋭達を心の中で見据える。

 

 

「言っておくけど・・・私は、結構根に持つタイプだからね?」

 

 

遠くから聞こえる爆発音をBGMに、イサネはパソコンのキーボードを叩く手を速める。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・?」

 

 

現実に理解が追い付かなかった。

 

 

「アバンギャルド君の動きが・・・」

 

 

目の前に鎮座する見た目の割に余りにも高い戦闘能力を持つ子のロボットを前に、ゲーム開発部もエンジニア部も、そして先生の指揮も歯が立たず、最早これまでかと思われたその時だった。

 

 

「急に・・・遅く、なった・・・?」

 

 

今にも先生をの除いた自分達に止めを刺さんと迫っていたアバンギャルド君の動きが、急激に鈍くなる。先程までの仕掛けたこっちがびっくりするくらい速い反応速度が嘘の様に。

 

「と、取り敢えず、射線上から退避しよう。」

 

最早歩いてでも避けられる程動作が鈍くなったアバンギャルド君の脇を通り抜ける一同。一応チェックメイトに等しい状況は抜け出したものの、何故そうなったのか全く心当たりの無い一同が首を捻っていると、リオの言葉を最後に完全に沈黙していた筈の通信回線から声が聞こえる。

 

 

『ふぅ・・・何とか間に合ったかな。』

 

 

ヴェリタスの三人でも、リオでもない第三者。だが、その場に居た皆はその声の正体がすぐに分かった。

 

 

「チヒロ!」

 

 

『皆、大丈夫?』

 

 

ヴェリタスの副部長にして今は部長代理、各務チヒロ。ミレニアムの誇る精鋭ハッカー集団ヴェリタスの切り札にして最後の砦が、一同を危機の渦から救い上げた。

 

「チヒロ先輩!?」

 

『うわぁぁん!副部長~!!』

 

『流石です。待っていました。』

 

チヒロによって復活した回線から再びヴェリタスの部員達の声も聞こえてくる。本当に危機一髪のタイミングだ。

 

『でも、どうやって?』

 

「そ、そうですよね!だって今エリドゥの通信網は・・・!」

 

だが、それでも疑問は残る。それはどうやってリオが完全に掌握しているエリドゥの通信網を奪って見せたのか。何せ相手はヴェリタスの三人を以てしても打つ手無しに退場させられた天才調月リオ。並みの天才では相手にすらならない。

 

コトリとハレがその手法の謎に首を傾げる中、チヒロはさらりと答える。

 

『うん、リオ会長が掌握している。でも、こういう時の為にヒマリが秘密兵器を用意してくれたみたい。』

 

「秘密兵器・・・?」

 

秘密兵器。全く以て何なのか想像も付かないが、どうやらミドリには何やらここ辺りがあった様だ。

 

「・・・あ・・・お姉ちゃん!あれだよ!あれ!」

 

「あれって何!?」

 

一方の姉は全く何の事やらと言った様子だが、ミドリは構わず続ける。

 

「ほらあれだよ!前にG.Bibleを解析しようとした時に使ったやつ!」

 

G.Bible。それはゲーム開発部と先生の初邂逅。まだ三人だったゲーム開発部が廃部を避ける為に最高の神ゲーの作り方として廃墟で見つけたデータ。結果として内容はただ「ゲームを愛せ」としか書かれてなかった作り方もくそも無いとんでもない詐欺データ。

 

「鏡・・・!」

 

そんなG.Bibleを解析する為に必要とされたシステム。それを巡ってセミナーだけではなくミレニアム屈指の武闘派集団とも渡り合わされた伝説の武器が封じられた宝箱を開ける唯一つの鍵。

 

『ご明察。そう、これは鏡を使ってエリドゥのネットワークをハッキングしたの。ついでに、会長にも退場して貰ったよ。』

 

鏡。正しくはOptimus Mirror Systemと言い、これはミレニアムサイエンススクールの部活の一つである特異現象捜査部部長にして元ヴェリタス部長にしてミレニアム史上たった3人しか居ない【全知】という学位の修了者、明星ヒマリが直々に開発したハッキングツール。

 

『え!ど、どういう事!?もしかして、ヒマリ部長が生徒会に鏡を差し押さえられたのって・・・!』

 

「こういう場合に備えてたって事なのかな?流石元部長だ、侮れないね。」

 

さしものリオのシステムでも、それ以上の天才であるヒマリが生み出したハッキングツールの前には無力に帰す事は避けられないらしい。だからこそ、ヴェリタス部員の普段の素行に付け込んで鏡を使い手から取り上げたのだろうが。

 

「流石チヒロ!ヴェリタスの女神!」

 

『め、女神って・・・先生、流石にそれは大袈裟過ぎ・・・』

 

先生に女神を連呼され、若干満更でもなさそうなチヒロを余所にモモイがあの時の激戦を思い出したのか、苦い顔でチヒロに問い掛ける。

 

「あれ!?でも押収品保管庫って、行くのすっごい大変だよね!?少なくとも一人じゃ・・・」

 

そう、いくらリオのシステムを上から食い潰す事が出来るとは言え、その実体はデータの入ったSSDやHDDなどの記憶媒体と物理的手段には至って無力。故にリオはそれをヴェリタスから取り上げる事でその力を封印した。

 

それに押収品保管庫はミレニアムタワーの最上階に位置する警備も非常に厳重な場所に存在する。かつてゲーム開発部がエンジニア部とヴェリタスと組んで鏡の奪取を目論んだ時は、セミナーが防衛依頼を出したC&Cによって常に綱渡りを強制され、最終的に行く手を阻んだイサネがいきなり道を開けなければ詰んでいただろう。

 

『あぁ、それなら助けてくれた人が居たの。運良く会長の監視から逃れた部活の――』

 

C&Cが居ないとはいえどうやって厳重な警備を突破したのだろうと疑問に思う一同に、チヒロはしれっと答える。そして――

 

 

『こんにちは、トレーナー。』

 

 

「スミレ!?」

 

 

新たに入ってきたのは学者や賢者の集いにしてインドア派の集まりが多いミレニアムの中で、ある種悪魔とも呼ばれているトレーニング部の部長。世の中の全ては運動で解決できると言う余りにも偏った考えを持つトレーニングの鬼、乙花スミレ。

 

『アリスちゃんの事を聞いて、居ても立っても居られず・・・僭越ながら、協力させて頂きました。』

 

『うん、本当に助かったよ。ありがとう。』

 

思いもよらぬ救援に、感謝の意を伝える先生。だが――

 

 

――銃声。

 

 

『・・・とまぁ、こんな感じで今絶賛ドローン相手に抗戦中なんだけど。どれくらい持つかは分からない。けど、やれるだけやってみるよ。』

 

 

幾らC&Cが居ない上にセミナーの警備も緩くなっている状態とは言え、鏡の奪取にあたっての警備ロボットとの激突は避けられなかった様だ。だが、その警備を助っ人一人だけで突破するスミレの戦闘能力も、銃撃戦の中で鏡を起動してエリドゥのシステムに手を出すチヒロのハッキング技術も、どちらも凄まじいとしか言い様がない。

 

『持久戦ならお任せください。』

 

「スミレもチヒロも、本当にありがとう。とても頼もしいよ。」

 

先生がスミレとチヒロに再三の感謝を述べるが、その間にもアバンギャルド君はハッキングにより乗っ取られたはずの体をぎぎぎぃぃ・・・と動かし、辛うじて銃口を一行へ向ける。

 

『やっぱり・・・鏡を使ったとはいえ、ファイアウォールが反応している。パスが切れる前に手を打つ必要があるね。』

 

幾らヒマリがミレニアムトップの天才だとしても、それはリオにも似た様な事が言える。ヒマリ程では無いにしろ、リオもまたトップに迫らんばかりの天才である事には違いない。並みのハッカーが喰らえばお手上げ間違いない鏡のハッキングを受けても尚、アバンギャルド君はファイアウォールを限界まで稼働させて電子の金縛りに抗う。

 

 

『こういう時こそ、私達ヴェリタスの出番だよ。』

 

 

だが、今アバンギャルド君を拘束しているのは鏡によるハッキングのみ。それに抵抗した所で次に待っている電子戦の相手はヒマリ自慢の後輩達にしてチヒロがその腕前を認める仲間達。

 

『うん、任せて副部長。』

 

『私達のリソースを全て使い切ったとしても、ネットワークを維持して見せるよ!』

 

鏡によって復帰を果たしたヴェリタスの士気は衰える事を知らない。チヒロから鏡の制御を引き継いだ三人は、更にハッキングによる電子拘束を強める。

 

 

『うん、維持は任せた。先生、ここからは私がナビゲートするよ。・・・皆、まだ戦えるよね?』

 

 

それに応の意を返すのに、最早言葉は不要だった。ゲーム開発部とエンジニア部、それぞれが再び愛銃を構え直し、目の前の敵に向き直る。

 

 

「勿論!」

 

 

『じゃあ反撃開始。・・・行くよ!』

 

 

チヒロの掛け声に始まり、一同はその闘志のままにアバンギャルド君に向け走り出す。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

思いもよらぬ増援により士気と形勢を取り戻した先生一行が動きの鈍くなったアバンギャルド君に次々と損傷を与えるのを、イサネは双眼鏡とラジオからただ眺めている事しか出来なかった。

 

 

『まさかあれが先生達の手に渡るなんて・・・それに乙花スミレ・・・彼女の存在は完全に認知出来ていなかった。』

 

 

どうやらリオは思いもよらぬ助っ人の内の一人を完全に認知していなかったらしい。そのせいでヒマリとの冗長な会話と彼女の思いもよらぬ予防線に惑わされている内に先生に差し向けた確実なる勝ち札が敢え無く削り殺されつつある。

 

「で、どうすんの、リオ?まだ私は待てばいい?」

 

インコムから聞こえる己の失態を自責するリオに、漸く出番かと少しばかり気分が乗ってきたイサネが問い掛ける。

 

『そうね、私のミスとは言え状況は良くないわ。すぐにでも狙撃を――』

 

先程までの待てから一転、即座に意識を切り替えたリオはイサネに狙撃開始の指示を言いかけて、止める。

 

 

『動きが鈍った今がチャンスだ!行くよ!エンジニア部!』

 

 

『はい!ラジャー!』

 

 

『分かった、あれを設置していくね。』

 

 

双眼鏡から見える戦況では、右腕1本と左腕2本、右側のキャタピラの履帯を破壊されたアバンギャルド君が、それでも尚務めを果たそうとの残っているとはいえ動作不良を起こした右腕をゲーム開発部に向ける。しかし、エンジニア部はそれを意にも介さず、何かの装置を設置し、ゲーム開発部も役割を理解したのか体を張って囮の役割を遂行する。

 

『な、何が始まるの!?』

 

『自立追跡機能に加え、防水機能も完璧。』

 

『更に、絶対零度(-273度)や3000度を超える高温下でも稼働する安定性を誇る、超々々々安全性を保障した・・・っ!』

 

『そして、エンジニア部の半年の予算をつぎ込んだ最強の――』

 

なんで総指揮官的位置に居る筈の先生がエンジニア部の切り札を把握していないんだろうと言う疑問を浮かべるイサネを余所に、エンジニア部は声高々に叫ぶ。

 

 

 

『『『最新式遠隔スピーカー!!!』』』

 

 

 

―――浪漫を。

 

 

 

「ミサイル・・・?」

 

 

エンジニア部が繰り出したのは明らかにマイクロミサイルの形状をした・・・ミサイル。

 

『なんでスピーカーにそんな機能が?』

 

『『『・・・』』』

 

ゲーム開発部も先生も、スピーカーと言う名称を持ったミサイルに困惑一色である。勿論それを双眼鏡で見ているイサネも。しかし、流石は凄腕技術者集団(馬鹿と天才の狂気の混合)。何の迷いも無く言う。

 

 

『それは愚問だよ、先生。』

 

 

『そもそも機能とはですね、付けられる時に――』

 

 

『・・・目一杯付けておくのが鉄則。』

 

 

――それこそが浪漫だと。

 

 

『まぁ、そういう事だよ。』

 

 

「どういう事ぉ・・・?」

 

 

こいつらに少しでも己が半身ことストレイドの整備を頼もうかなど考えなかった過去の自分にあらん限りの称賛を送りながら、イサネはスピーカーというよりはミサイルと言った方が正しいエンジニア部の切り札と、そんな頓智気切り札の餌食となる哀れなアバンギャルド君の最期を見守る。

 

 

『それでは、発射!』

 

 

ウタハの掛け声によって、後方のブースターに火が付いたスピーカーと言う名のミサイルは発射台から勢い良く空を舞い、迎撃はおろか移動すら叶わないアバンギャルド君の胴目掛けて突き進む。そしてその先端が合金製の胴装甲に当たり、信管が起動し――

 

 

 

――炸裂、大爆発。

 

 

 

もうまんまミサイルの爆発が戦闘中に日の落ちかけている空を灼く。その後の結果などもう見るまでも無かった。

 

「リオ、狙撃は本当にいつやればいい?」

 

別の意味で疲弊を感じる羽目になったイサネは、恐らくイサネと同様にミサイルをスピーカーと言い張るエンジニア部のねじの外れ具合に言葉を失っていると思われるリオに指示を乞う。

 

『・・・既にタワー入口前に退かせたトキにあれを出させるわ。狙撃支援は・・・そこに向かうまでの牽制から始めて頂戴。』

 

「じゃあもう撃つね。」

 

改めて下った狙撃許可に投げやりに返事しながら、イサネは双眼鏡を雑貨の中に戻し、代わりに床に置いてあった長大な対物ライ(quid est pax)フルのグリップを握る。

 

 

「・・・ふぅー・・・すぅー・・・ふぅー・・・風速風向きに変化は無し、徹甲弾も硬芯徹甲弾も問題無し。」

 

 

右手にグリップ、左手でバレルを支え、瞳を閉じて深呼吸。時間経過による風向き、風速の変化を確認し直し、右手の人差し指をゆっくりと引き金に置く。勿論狙いは――

 

 

「一射目は先生を直接狙う。」

 

 

先生一択。これ以外有り得ない。

 

『・・・本気で言っているの?先生は私達と違って銃弾の一発が命に関わるのよ?ましてや対物ライフル用の大口径弾なんて――』

 

今のキヴォトスにおいて最も重要とされている存在である先生を直接銃撃すると言ったイサネに、流石のリオもそれは不味いのではと反論する。

 

「知るかそんな事。戦場に出てきている以上あいつも生徒に撃たれるくらい覚悟してるだろ。それとも何か?自分は指揮しかしないから撃たないでくれってか?・・・もし本当にそうなら戦場を舐めるのも大概にして欲しいね。狙撃は指揮官とか集団の急所を抜く為にあるんだよ。」

 

が、イサネは何の感情の変化も無く論破する。ここは戦場だと。そんな覚悟の奴がのこのこと前線に現れるなと。

 

『それは・・・』

 

「反論が無いなら黙って見てろ。どうせ一射目が当たりはしないから。」

 

リオの反応が無い事を確認し、彼女の反論を封じ込めたと判断したイサネはすぐさま狙撃以外の事を頭から追い出し、スコープを覗く。元々戦況を追っていた為、目標の発見はすぐだった。アバンギャルド君撃破に喜ぶゲーム開発部に、発明品の威力を誰ともなく誇るエンジニア部。その真ん中、唯一ミレニアムの制服ではなく女性物のスーツ姿にジャケットを羽織った少し小柄な背格好。

 

 

 

「生徒の為に命を賭すって言うんならさぁ・・・」

 

 

 

スコープの照準を先生の心臓があると思われる左胸に合わせ、引き金に置いていた指を掛ける。口が無意識の内に歪に歪む。

 

 

 

 

「その生徒の為とやらに殺されても、本望だって言えるよなぁぁッ!!!」

 

 

 

 

顕現した狂気のまま、引き金を引く。

 

 

 

 

 





なんかイサネさんのパートの時ずっと「狙撃できる!?・・・まだ!?」「狙撃できる!?・・・まだ!?」みたいな感じになってて少し単調さを感じた今日この頃。

次回辺りにはもう少しちゃんとした戦闘描写を入れます。はい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。