文の書き方が変に凝り過ぎて全然話が先に進まないのでさっさと進めたいと感じている今日この頃。
展開進めないとモチベが無くなってまう。
後今回戦闘描写入れるので長くなります。ブルアカ本編の戦闘描写は少し控えようかと思ってます。
短い文で的確に面白く書くのって難しいですね。
それは日差しの眩しい昼過ぎの食堂でのこと。
「・・・」
灰銀色の髪の少女、イレーネは頭を抱えていた。彼女の目の前にあるのは食堂内にある飲食店の看板だ。そこにはその飲食店ごとに異なった様相の料理の写真や精巧なイラストが載っており、朝からの研究で糖分を消費したミレニアムの生徒達の胃をネクストがノーマルACを落とすが如く食事へと誘う。普段出前が多いミレニアムでも、食堂の需要は一定数存在する。
そんな中、イレーネはその看板の前で一人、対ネクスト戦もかくやと言わんばかりの表情でその看板と絶対に勝ち目のない睨めっこをしていた。
(まずいっ、私の知っている料理が一切ない・・・知ってるものはぼちぼちあるけど、もうどんな物だったかなんて覚えてない。)
そう、このイレーネという少女は生まれて十年と少しの間は親も親戚も不明な孤児として、地上のどこかコロニーの端も端のゴミ溜まりのような場所で、今を生きる分の残飯や、辛うじて口に入りそうな食べ物らしき何かしか口に出来ず、セレンに拾われてリンクスになってからも、依頼で得られる莫大な金をほぼストレイドの為につぎ込み、食事は味に定評のある携帯糧食か、コロニーに住む中でも更に貧相な低賃金労働者の食べる様な孤児時代よりはまぁマシな食い物と呼べるものしか食べなかった。偶に企業の偉い人に呼ばれるお食事会に参加した時に出される高い料理を食べるだけで、人類種の天敵になってからはその食事もほぼ携帯食料になり、味覚を失ってからは血管に直接栄養を入れるか、栄養価の高いが味が悪すぎるという何処かの飲食企業のエナジーバーの売れ残りを善良企業を装ったリリアナが仕入れた物で生活していたため、イレーネの食べ物に関する知識は恐らくキヴォトスの常識より無いと言っても過言ではない。
しかも、たちの悪い事に食べ物は殆ど頓着しないくせに実際に会って話す機会のあった先輩リンクス達から酒や煙草を貰うことが多かったためか、一時期水分代わりに酒を飲み、することが無いから煙草を吸ってみるという最早人間なのか怪しい生活すらしていたこともあって酒や煙草には妙に詳しい。リンクスによる身体強化によって酒や煙草に依存することは無かったが、それでも十分におかしい食生活をしていたと言える。
「イレーネちゃん、何にするか決まりましたか?」
後ろから既にトレーを持ったノアが話しかけてくる。イレーネはすぐに助けを求める。
「何にすればいいか分からないんだけど、どうすれば・・・」
「何にすれば・・・イレーネちゃん、食べたい物とかは無いんですか?」
「あぁ、そうじゃなくて、知らない物しかなくて・・・」
イレーネのその言葉に流石のノアも驚きを隠せない。
「知らない?ミレニアムはおろかキヴォトスでも一般的な料理が大体なのですが・・・まさかそれすらも知らないということですか?」
「はい・・・そうです。」
ノアの反応になんだか申し訳なさを感じ始めるイレーネ。ノアは自分の手に持つトレーを机に置き、そんな様子の彼女の手を引いて売店の列に並ぶ。
「とりあえず、並んで何でもいいので注文してみましょう。分からない事があったら聞いて下さい。ここで提供されている料理はキヴォトスでも一般的な物が大体なので答えられると思います。」
こうしてかつて人類の大半の食事という幸せを命と共に奪った首輪付きは、その食事によって苦しめられるのであった。
・・・その後初めて食べる炒飯の味に思わず涙を流し、ウタハに「えぇ。」と言われたのはここだけの話である。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いやぁ、まさかキヴォトスに広く知られている様な料理すら知らないというのに銃火器に関する知識は豊富とは、君の知識の偏り具合にも驚かされるよ。」
「うぅ、その、まぁ、その。」
ここは食堂を出てすぐのミレニアムの敷地のギリギリ内側。昼食とキヴォトスの常識講座を終えたウタハとイレーネは二人並んで歩きながら駄弁っていた。
ノアは書記の仕事があると言って先に行ってしまい、コトリは別の場所で持参のお弁当を食べているそうだ。
「しかし、カレーは流石に知っているようだったが、チャーハンや定食なども知らないというのは、君は一体ここに来る前は一体どんな食生活を送っていたのかい?」
「え?えーと、確か、エナジーバー?かな。」
「エナジーバー?他には何かないのか?」
「うーん、あとは・・・何だろう。あっ、あとはまぁ、廃棄された誰かの食べ残しを食べ物って言うならそうかもしれない。」
「・・・・・・・」
イレーネの衝撃の食生活に言葉も出ない。イレーネは続けて、
「まぁ、これでも幼少期は親も親戚も知らなくて、ゴミ溜めみたいなところで過ごしてたから。」
「ゴミ、溜め。」
「あぁ、そんなに気にしないで。恐らくだけど私の居た場所とここキヴォトスではそもそもの環境が違いすぎるから。私の居た所は貧困の差があまりにも大きすぎて、こういう生活をしていた人っていうのはかなり多かったから。それに、余り気にされるとこっちも気まずいから。」
「なんというか・・・本当に凄い所から来たんだな、君は。」
ウタハは理解を諦めたようにそう返す。
「ま、まぁ、そこしか居場所を知らなかったから、余り不幸を感じて無いというのは事実だし。」
「ふむ、知らない事で避けられる不幸と言うやつか。中々難しいな、人の幸福論の話は。」
「うん、ふ―――」
「不幸か幸福かなんてその人が決める事だから」と言おうとしたイレーネの声を遮るように爆発音が周囲に響き渡り、当たりが騒がしくなる。イレーネは咄嗟に辺りを見回し、咄嗟に隠れられる遮蔽を探しつつ、爆発音の正体を確認する。爆発音の方向に居たのは―――
「おらおらぁ!!ヘルメット団様のお通りじゃー!!道を開けろー!」
喧しい大声と共に様々な制服に形も色もばらばらのヘルメットを被った生徒と思わしき人たちが銃を乱射しながら何か叫んでいる。
イレーネはその襲撃にしてはあまりにも素人すぎるそれを見て絶句する。
「えぇ・・・誰?あの人たちは。襲撃を掛けるのになんでこんな白昼堂々と・・・」
その声にウタハが答える。
「あれはヘルメット団さ、キヴォトス各地に出没して悪事を働く・・・まぁ、一概に言って不良集団さ。練度もかなり低い。ただ、規模はかなり大きい。よくこうやって学園にちょっかい掛けては鎮圧されることの多い・・・あれ?イレーネ?」
ウタハが横を向くとそこにイレーネの姿は無かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヘルメット団の視界に入らないように遮蔽を上手く移動しつつ、ヘルメット団へと接近する影があった。―――イレーネである。
(さて、ここまで接近してみたは良いけど、何処から始めようか。人数は20人前後?上手く奇襲さえ掛けれれば半数は持っていけそうだが、私にもヘイローっていうのがあるみたいだし、撃たれても大丈夫かな?ちょっとちょっかい掛けてみるか。折角死角取ったわけだし。)
ウタハの説明(一部)を聞き、この集団になら何やってもいい事に気付いたイレーネはこうしてヘルメット団の近くの花壇に身を屈めて奇襲のタイミングを伺っていた。
(さて、そろそろ動こう。・・・ははっ)
心に決め、体を起こしながら花壇から飛び出す。そのまま近くに居たヘルメット団の一人に掴み掛る。
「うわっ!誰だおま――」
言い切る前に肩を掴んで逃げられない様にし、空いた右手でその鳩尾に一切の容赦のないアッパーを喰らわせる。
「こひゅっ」
悲鳴を上げることすら出来ない。体中の空気を全て吐き出され、腹を抑えながら力無く膝を突こうとするその頭に踵落としを喰らわせる。一切の加減無く叩き込まれたイレーネの踵は、リンクスの強化された肉体をヘイローを得た事で更に頑強に、強靭になった体は地面に着弾する砲弾の様な威力をヘルメット団の団員の頭越しに地面に伝える。
迫撃砲か何かの大砲が着弾したかのような轟音と共にイレーネの周囲の舗装されたアスファルトが衝撃で砕け、吹き飛び、土煙が吹き上がる。その威力をもろに受けたヘルメット団の団員は死んではいないものの、ヘイローが消え、動かなくなっていた。
土煙が晴れるころにはイレーネは既に近くのヘルメット団員の内、ショットガンを持つ団員の背後に立ち、その首に腕を回していた。
そのことに気付かれる前に耳元で一言。
「そのショットガン、貸して?」
色気を感じさせる声、そして相手の反応を待たずに首を締め上げつつ、右手に握られたショットガンのグリップに掛けられた指を力づくで外しながらショットガンを強奪。相手が気絶するまで締め上げながらアサルトライフルを持っている団員の眉間目掛けて奪ったショットガンで発砲。
堪らず怯んだ隙を見逃さずに腕の中で気絶した団員を別の団員の所へ投げ捨てる様に投擲。そしてそのまま怯んだ団員目掛け、ショットガンの銃口を腹に叩き込み、引き金を引く。ゼロ距離で散弾を一点に受けた相手はそのまま衝撃で吹き飛び、手からアサルトライフルが零れ落ちる。
イレーネはそれをすかさず掴み取り、吹き飛んで倒れた相手の顔面をローファーで思いっ切り踏みつける。踏みつけられた相手の後頭部が地面に埋まり、ヘイローが消失。イレーネはそのままゆっくり顔を上げる。そこでやっと他の団員が反応する。
「な、なんだこいつ。」
「知らないけどやっちまえ!C&Cが居ない今がチャンスだ!」
その威勢の良い声を聞きながら、イレーネは静かに目の前の闘争に猛っていた。
(ははっ、いつもより体が軽い。成程ね、あそこで死んで、私もキヴォトスの人間になったという訳だ。でも、キヴォトスに来ても、戦いはある。銃で撃ち合う。それが当たり前の世界。・・・なんて、なんて良い世界なんだ。空はこんなにも綺麗で、闘争が目の前に・・・ははっ。)
「はは、はははっ、あは、あははははは。あはははっ!!」
自然と笑いが零れ、声量も大きくなる。どうやら自分は染まってしまった様だ。闘争の世界に。
「おい、こいつ気味悪いって。」
「え、ちょっと近づきたくないんですけど、あ、はい、行かなきゃダメっすよね。」
いきなり笑い出したイレーネの様子にヘルメット団はドン引きしてしまっている。しかし、イレーネはそれを意に介さず、あらん限りの大声で叫ぶ。
「戦場がっ!私をっ!呼んでいるぅぅぅぅぅぅ!!!」
ミレニアムに響き渡る首輪付きの絶叫。眠りから目覚めた首輪付きを前に、ヘルメット団の命運なぞもう存在しないも同然だった。
―――響き渡る悲鳴、必死に助けを乞う怯え切った声、そして狂ったような高笑い。
ヘルメット団は2分と数十秒で叩きのめされ、そこには死屍累々となったヘルメット団に、途中でヘルメット団から剥ぎ取ったフルフェイスのヘルメットを色々と弄りながら突っ立っているイレーネの姿だった。
(この髑髏のマークがこのヘルメット団のロゴかな?ふぅん、造りは普通のヘルメットと同じ感じか・・・特に防弾措置はされていない。防弾目的というよりは、これは象徴かな?ヘルメット団って名乗るくらいだし。)
イレーネがヘルメットのバイザーに手を掛けた時の事だった。
(っ!殺気!)
ほぼ反射で重心を左に倒す。重心に引っ張られた体が左に傾く。直後、イレーネの上半身があった場所に弾丸の如く突っ込んでくる何かが通り抜ける。否、この場合はイレーネが飛んできた何かを回避したと言う方が正しい。そしてそれは、地面に激突。コンクリートに盛大にヒビを入れ、破片をまき散し、またしても土煙が上がる。
「ほぉ?奇襲のつもりだったが、今のを躱すのか。はっ、中々やるじゃねぇか。」
粗野な言葉遣い。しかし、先程のヘルメット団の様にただ吠えるだけの子犬ではない。これは、確実に圧倒的強者のみに許される本物の風格だ。イレーネは今の声からそう感じ取り、一歩後ろに下がりつつ、手に持っていたヘルメットを手放す。
ゆっくりと立ち上がる人影。土煙が晴れる。そこに居たのはイレーネよりもだいぶ身長の低い。その小柄な体格に上がシャツタイプのメイド服の様な服を着ており、その上にスカジャンを着崩している。ヘイローの色は黒。
(・・・これが、あのC&Cという奴か・・・それに、あのスカジャンは、コールサイン
昼食時にキヴォトスの常識の他にもミレニアムの事についてウタハとノアから聞いていたイレーネは、その相手がCleaning&Cleaning、通称C&Cのリーダーである美甘ネルであることはすぐに分かった。
Cleaning&Cleaning、ミレニアムにおける凄腕のエージェント集団。所属人数は5人と数は少ないが、個々がそれぞれに非常に優れた戦闘能力を有しており、ミレニアム屈指の武闘派集団だ。
「ヘルメット団がやってきたって言うから来てみたは良いものの・・・残っているのはてめぇだけか。」
ネルはそのままゆっくりとこちらに歩いてくる。非常にまずい、イレーネはただ襲ってきたヘルメット団を撃退――というには余りにもやり過ぎているが――しただけであり、別にヘルメット団でもなんでもない。しかし、その時に彼女らのヘルメットを持っていたのが運の尽きだった様だ。既にネルは臨戦態勢だ。
「まっ――」
思わず制止させようと、誤解を解こうと手を伸ばした瞬間。
「おぉらあぁぁぁぁ!」
ネルが地面を踏みしめ、高速で突っ込んでくる。イレーネはそれを手を出した側の前、つまり右前に身体を捻ることでその居合の様な蹴りを躱す。風圧がイレーネの着ている制服をたなびかせる。
「ちょっと待って―――」
しかし、ここでイレーネは判断を誤った。そう、いくらネルの勘違いで攻撃されているとは言え、ここで反撃に出るのは良くない。だからこちらからは攻撃をせず、誤解であると伝えて何とか穏便に事を済ませようとしたのは良い。だが、そのタイミングが明らかに悪かった。
「舐めた踏み込みだな?ほら、取ったぜ。」
「ッ!!!!」
制止させようとまたしても伸ばした右腕をネルの左手に掴まれる。ネルはそのまま左手を自分の方に引きながらネルを正面に反時計回り。イレーネはそれに対応できず、反時計回りに回ったネルの正面に体勢を崩したまま放り出される。そして、ネルはそのままがら空きになったイレーネの全身目掛けて右足を振り上げながら体を捻り―――
「喰らいやがれっ!!」
渾身の回し蹴り。ネルの右足が体勢を右に崩したイレーネの左脇腹に叩き込まれる。
「がぐっ!!?」
そしてそのままネルの右足は振り抜かれ、蹴りの衝撃をもろに受けていたイレーネは水平に砲弾の様に吹き飛ばされ、校舎の壁を突き破ることで停止するも、破壊された建物の瓦礫がイレーネの体を埋めてしまう。
そこに一人の人影が現れる。ウタハだ。
「おーい、イレーネ・・・って、何故C&Cがここに?とは聞かないが、一体ここで何が?」
いつの間にか消えていたイレーネを探していたウタハがネルを見つけ、問いかける。
「あ?エンジニア部の部長じゃねぇか。何って、ヘルメット団に決まってるだろ。人が飯食ってる時に来やがって。まぁ、あたしが来た時には一人しかいなかったが。」
「一人?まさか・・・その人の特徴とかって覚えてないか?」
最悪の予感がよぎったウタハはネルに尋ねる。
「あー、確か、灰色の髪で緑の目だったな。あと、結構背がでかかったな。」
「灰色の髪・・・緑の目・・・なぁ、ネル、君はその人をどうしたんだい?」
既に分かり切ったような事だが、確認を取る。
「あん?そんなん、あそこに吹っ飛ばしてやったよ。」
壁が破壊されている校舎を指差すネル。それを見たウタハは焦りの表情を浮かべ、頭を抱える。
「あぁ、なんてことをしてくれたんだ。おそらくそれはここ数日で発見された所属不明の生徒だぞ。いきなり消えるから何処へ行ったと思っていたら、まさかこんなことに巻き込まれるとは・・・」
「え、もしかしてあたしかなり不味い事した感じか?」
沈黙。刀を振り抜いた残心の様な雰囲気だったネルの顔に冷や汗が流れる。すると、
「あっ、リーダー!ここに居たんだね。・・・あれ?ヘルメット団はもう片付いちゃった?って、なんでそんなお通夜見たいな空気してるの?」
そう言ってネルの隣に立つ少女・・・とは言い難く、頭上に水色のヘイローが無ければ生徒だとは気付かない程の見事なスタイルを持つアッシュグレーの長髪を持つこれまたメイドの格好をした生徒が声を掛ける。
彼女の名前は一之瀬アスナ。ネルと同じC&C所属のエージェントであり、コールサインは01。そしてミレニアムでネルに次ぐ実力の持ち主だ。そして、それと同時に最早第6感と評する域を超える程の直感の持ち主であり、彼女の直感による行動はもはや異能と呼ぶに相応しい成功をもたらす。
「あー、わかった!リーダー、最近拾われた?生徒さん吹っ飛ばしちゃったんでしょー?」
早速その驚異の直感が働いたらしい。何のヒントもなくネルのやらかしを言い当てる。
「うぐっ・・・そ、そうだよ。」
一発で正答を言い当てられたネルは思わず渋い顔をするが、明らかにネルが悪いので、これを認めざるを得ない。アスナはそんなネルに能天気に、
「まぁ、まぁ、後で謝りに行けば大丈夫だって、私、生徒さん助けに行ってくるね。」
と言い、崩れた校舎へ向かって歩いていく。
「はぁ、謝罪は苦手なんだよな・・・あたし。」
そうぼやくネルに、ウタハは呆れたように口を開く。
「しっかりしてくれ、まだ彼女との予定が残ってるんだ。まぁ、あの様子じゃ、明日以降になりそうだが。」
「だぁぁぁ!全く、今日は本当にツイてな・・・あん?」
そう言葉を区切ったネルの視界には救助に言ったはずのアスナがこっちに戻ってきている姿が見える。救助するんじゃなかったのか。そう声を掛けようとしたネルだったが、アスナの様子に口から出たのは別の言葉だった。
「ど、どうした?何かあったのかよ。」
「リーダー、気を付けて、何か、すごく嫌な予感がする。」
普段の明るさが嘘みたいに消え、焦りの表情すら見せるアスナはそうネルに警告する。アスナの直感から来るアスナの普段の態度すら奪う何かが、ネルに、イレギュラーの到来を知らせていた。
―――血塗れの獣は、既に目を覚ましていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(う・・・あ・・・?・・・あ?思ったより痛くない・・・って言うか、これで死なないって、キヴォトスの住人は頑丈だね・・・)
吹き飛ばされ、校舎の壁を半ば突き破る形で止まったイレーネはキヴォトスの住人となった自らの肉体の頑強さに感謝半分呆れ半分と言ったように心の中で呟く。自分にヘイローが無かったら恐らく背骨の骨折は避けられないだろう。いくら人工の強化骨格があるとはいえ、こんな速度で叩きつけられることなんて想定していない。
(しっかし、どうするかな・・・動けそうではあるが、瓦礫を吹き飛ばすのは良くないよね。大人しく待つか。)
幸い、事故だったこととタイミングの悪さもあり、イレーネの心はまぁ、そういうこともあるよねと落ち着いていた。そして自身の力で瓦礫を退かそうとすれば確実に周囲が面倒な事になることは確定なので、大人しく待つことにした。・・・が、
(しかし、あれが美甘ネル・・・驚異的なインファイター。私の居た所は既に彼女の距離だったという事か・・・)
リンクスの癖なのか、つい相手の分析をしてしまう。
(お互いに全力でやり合ったら、さぞ楽しいだろうな。あぁ、血が滾ってきた。まずいまずい、抑えないとっ!?)
それがいけなかった。滾り出した己が闘争の血潮は、収まろうとしない。
(あぁ、くそ、戦ってみたい・・・あれはC&Cだから、戦おうとすれば賊の類になるしかない。つまり合法的にやり合えるのは今しかない・・・)
イレーネの中で眠っていたはずの何かが目を開ける。
(あぁ!あぁ!この感覚。この感覚!あの時の・・・確かにあの時の昂揚だ!!)
イレーネのヘイローが少し、輝きを持つ。ヘイローを構成する粒子の生成量が増え、辺りに少しづつ漏れ出す。
(
彼女のヘイローがその輝きを増す。体中を何かが駆け巡る感覚。これは、力だ。力が、とある象徴が、イレーネの中を駆け巡っている。そして――――
(あぁ、今も、そこに居るんだね。私の愛しいストレイド。そして空を穢した元凶も。)
炸裂。彼女を中心に緑の閃光が、一つの大爆発が巻き起こる。ただでさえ壁に大穴が空いていた校舎の壁の一面は完全に吹き飛び、辺りに、イレーネの周りに、緑に輝く粒子が漂い、そして消える。
「はははっ。」
乾いた笑い声。ゆらりと起き上がる
―――――確かに今、キヴォトスに
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目の前を覆い尽くす緑の光。大穴の開いた校舎の壁と瓦礫が枯葉の様に吹き飛び、近くのコンクリートがその衝撃でめくれ上がっている。
ネルは今目の前で起きている事に頭の理解が追い付いていなかった。
「な、なんだ、あれは・・・」
隣に居たウタハも同じ様だ。明らかに思考が停止している。ネルはチラリと目線をアスナに向ける。そのアスナは、自らの愛銃【サプライズパーティー】を構えており、そのセーフティは既に外されていた。その顔に一切の余裕は見受けられない。その様子にネルも自らの相棒【ツインドラゴン】――MPXを元にネル専用に様々なカスタムを施し、銃身に金色の龍の模様を刻み、ツインの名の通りの二つのサブマシンガンを鎖で繋いだネルの愛銃――を構える。
緑の光が収まると、そこには先程自分が蹴り飛ばしたはずの生徒がまるで幽鬼の様に立っており、こちらに向かってゆっくりと、それでも確実に近づいてくる。その顔は俯いているせいで分からないが、その雰囲気からして尋常の存在ではない事がよくわかる。
「アスナ、今すぐにウタハを安全な場所に連れて行け、それと、他のメンバーに連絡を入れろ。こいつはやばい。悔しいが、あたしでもどうにかなるか怪しい。」
「わかった。リーダーも気を付けてね。」
次の瞬間、叩きつけられる圧力。アスナの気遣いに返事を返す余裕もない。
(こいつ、マジでなにもんだ!?あたしですらここまで相手を威圧できる自信はねぇぞ!)
顔を背けたくなる衝動を抑え込み、何とかその圧力の主――イレーネを見据える。
この圧力にネルが耐えられないのは無理もない。いくら百戦錬磨、常勝無敗、ミレニアムにおいてその実力を絶対の物としているネルとて、並大抵の相手を威圧する事くらいは出来る。しかし、今ネルが感じている圧はただ百戦錬磨だからでどうにかなるものではない。何故なら―――
闘争という世界で、生き残り、そして人類という人類を殺し続け、ひたすらに自らの意志で殺し続けた者だけが至ることの出来る、本物などという言葉では生温いと言える、世界でたった一人だけが出すことの出来る、人類種の天敵の狂気と殺意そのものだからだ。
イレーネが顔を上げる。その顔は狂気の様な笑みが明らかに不自然に張り付き、その眼、ヘイローは鮮やかな緑に光り輝き、光の粒子をばら撒いていた。
―――まるで死を振り撒く
次の瞬間、爆発音とともに確かに視界に居れていたはずのイレーネの姿が掻き消える。否、そう見えた。真正面から来ると読んだネルは咄嗟に左に大きくステップ。未知の攻撃を避けようとする。
「ごっ!?」
だが、甘かった。背中に感じた事の無い程重い衝撃。背中が蹴り上げられ、そのまま体が宙に浮く。このまま吹き飛ぶと確信したネルは吹っ飛んだ先で受け身を取ろうと体に力を込めようとするが、それよりも先にイレーネが動いていた。
ネルの背中を蹴り上げた後即座に宙に浮くネルの頭を片手で掴む。万力どころじゃない握力で頭を締め上げられるも、痛みが神経を伝うよりも速く、イレーネはその頭を地面に叩きつける。
―――
既にコンクリートが剥がれていた地面は先程の何倍もの速度と力で加えられた衝撃を完全に殺しきれない。まるで噴火の様に土煙が巻き起こり、周囲10m近くの視界を塞ぐ。そして地面の殺しきれなかった衝撃が地面を這い、広範囲に地震の様な揺れとして伝わる。
「がっはっ」
声すらまともに出せない。その威力を真っ向から受けたネルは地面の殺しきれなかった衝撃によって打ち上げられ、イレーネが手を放していたのもあって土煙の中をバウンド。派手に転がっていき、直径は10mはありそうなダートスモークの外へ叩き出され、止まる。倒れ伏す事、2から3秒。しかし、今のネルにとってその時間は永遠にも感じられるような苦痛だった。
「う・・・ぐっ・・・がぁぁ・・・」
未だ頭を叩き続ける激痛に呻きながら、何とか立ち上がる。しかし、その足にはいつも通りの力は入らない。膝が笑っている訳でもないので、動くことは出来る。だが、頭から叩き込まれた衝撃は確かにネルの三半規管に致命的な揺れを伝えていた。しかし、ネルは持ち前の圧倒的タフネスと気合を以て、脚に無理矢理力を入れて地面を踏みしめる。
「くそがぁ・・・だが、まだ、まだやれる・・・すくなくとも、こいつをおさえないと・・・」
口が上手く回らない。しかし、何とか今自分の為すべき役目を呟く。しかし、相対する相手は更にその圧力を増し、こちらを見据えている。
(くそ・・・相打ち覚悟か・・・それしか手が浮かばない。)
―――まだまだ地獄は続きそうだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
イレーネは張り付けた様な笑いの裏で、今の自分に驚愕を隠せないでいた。その理由はまず自分の周りに漂う緑の粒子。そして次にこれまでの自分には無かった圧倒的な身体能力。
(成程、これがキヴォトスの住人になるという事。恐らく私の体にあるリンクスの処置も加算されているからという事でこの膂力は納得がいく。だけど、この緑のやつは・・・明らかにコジマ粒子のそれ。・・・しかもなんかヘイローから?放出されてるみたいだし、リンクスとして戦い続けた先にはコジマと一体化が待っているのかな。普通に嫌ではあるけど。)
リンクスなら誰でもそう思うだろう。人体に有害な物質とドッキングなんて誰が望むのだろうか。リンクス戦争で潰されたアクアビットやそれを吸収したトーラスのコジマ狂いなら喜んで身を捧げそうだ。だが、今のイレーネにそれ以上に興味を引くものがあった。
(美甘ネル・・・あのダメージでまだ立ち上がるの?伊達にミレニアムの最強を名乗っていない訳だ。でも、そんなことされると・・・はははっ、駄目だ、殺したくなる・・・まぁでも、もう手遅れか。じゃ、いいや。殺すのは駄目でも、心ゆくまでやり合おうか・・・美甘ネル。)
人類種の天敵らしい人としてどうかしている思考で戦闘の継続を決定。そのままネルに向けて足を踏み出す。
「ちっ!」
舌打ちと共にネルは二丁のサブマシンガンをイレーネに向けて撃つ。それを見たイレーネはほぼ無意識にネクストにPAを張るように意識する。リンクスがAMSからネクストに神経から直接操作をするときの感覚だ。するとイレーネの周りに薄い緑の膜が形成、ネルの放つ弾丸の全てを弾く。
「くそっ!バリアーかよ、なんでもありだなっ!!」
ネルはそう毒づきつつ、距離を詰める。どうやら先程のダメージは消えたらしい。しかしそれ以上にイレーネは自分の周りに張られたPAモドキに意識が向いていた。
(ははぁ、そういう事ね。コジマ粒子に適応したから、ネクストみたいな芸当が出来ると。ったく、冗談じゃない・・・だが、余り長時間張り続けるのも環境に良くない。)
最早銃が意味を成さない距離までお互いが接近する中、イレーネはPAを切り、来たる殴り合いに備える。一方のネルも、自分の愛銃を投げ捨て、自分のリングにあるチャンピオンベルトを守る為にリングへ上がる準備を整える。そして彼我の距離が3mを切った時。
「おぉぉらぁぁぁあぁぁ!!!!」
―――勝利を刻まんと猛る咆哮。
「あーっはっはっはっは!!!」
―――敵を殺し尽さんと笑う狂気。
防御を捨てた殴り合い。イレーネが右ストレートがネルの顔面突き刺さると同時にネルの左のストレートがイレーネの頬に炸裂。イレーネが打てばネルも打ち、ネルが腹に蹴りを叩き込めばイレーネはその足の膝を潰す。その余波が音と成り、衝撃と成り、周りへ響き渡り、先程の地震も相まって外に居た生徒たちが何事かと集まってくる。
それを一切意に介さずに潰し合う二人を遠巻きに眺める4つの影がある。そう、ウタハとアスナ、他C&Cのメンバーである狙撃手、角楯カリン。そして爆薬の使い手、室笠アカネ。そのうちのカリンは己の愛銃【ホークアイ】を地面に置き、その手にはロケットランチャーが握られていた。カリンはウタハとアカネにに向かって、
「ね、ねぇ、これ、本当に撃っていいの?」
と躊躇う様に言う。ウタハはそれに目を逸らし、アカネはさらりと、
「ああなってしまったら、どちらかが倒れるまで終わりません。ですので、さっさと爆破してしまうのが一番です。」
ミレニアム内で爆弾魔と評されるその思考でカリンの疑問に答える。
「なら、せめて私じゃなくて、アカネが撃てばいいのに。私、余り気乗りがしなくて・・・」
「カリン、君の狙撃能力を見込んでの事だ。やむを得ないが、言葉で止まらないのであるなら、こうするしかない。」
ウタハが渋い顔つきでそう言う。それを受けたカリンも渋々と言った表情で、
「後で、セミナーに何か言われても知らないから。」
諦めたようにそう言い、ロケットランチャーの目標を二人の中心に設定。照準を合わせ、引き金を引く。するとロケットランチャーの弾が炎を吐きながら二人目掛けて飛んでいく。
(こいつっ、あたしの間合いであたしが押されてんのか!?なんつー力だっ!)
お互いがノーガードの殴り合いは拮抗している様に見えるが、ネルの内心は自分の最も得意な射程での戦闘で自分が押されていると感じる事に対する焦りだ。
(くそがっ!冗談じゃねぇ、冗談じゃねぇが、負けるつもりだって元からねぇ。)
(ははっ!この感じ、ネクスト同士の斬り合いみたいだ!あぁ、真改!君の見るネクストの世界はこんな感じだったんだね!実に、実に楽しい!あは、あはははっ!)
二人はそのまま殴り合いを続けるが、先にそれに気付いたのはイレーネだった。イレーネはそれの存在に気付くや否や、突然ネルの右ストレートを左腕でいなし、その場でジャンプしながらネルにドロップキックを見舞う。ジャンプのおかげで防御に間に合ったネルは即座にその蹴りを両腕で防ぐも、イレーネはそのまま膝を曲げ、思いっ切り伸ばすことで真横に飛ぶ。またネルもその力に押され、後退。その直後、二人の居た場所にロケット弾が着弾。爆発を起こし、爆炎と轟音が二人だけの
「うぅん?」
「あぁ!?」
同時に二人の口から違う反応。一方は突然の奇襲を訝しむ声。もう一方は真っ向勝負を邪魔されたことに苛立つ声。そして周囲を見渡し、イレーネとネルの視線の先が重なる。二人の視線の先にはウタハを正面にC&Cのメンバーが控えていた。そしてウタハはやや疲れた表情で、口を開く。
「やっと止まってくれたか。」
「あぁん!?んだとてめぇ!あたしの邪魔しやがっ・・・て・・・」
即座に食って掛かるネルだったが、その声も次第にすぼんでいく。
「え、何この集まり。」
先程までの狂人具合が嘘の様な様子のイレーネの呟き。そう、いつの間にか集まってきていたギャラリーが自分たちの周囲を円形に囲んでその様子を眺めている。
「君たち、悪い意味で暴れ過ぎだ。見てくれ、向こうの校舎の壁が無くなって通気性が抜群になっている。そしてここの舗装された道もここだけ災害があった様だ。それに、実際に結構揺れたしな。」
「そうですよ、ネル先輩。普通にやり過ぎです。しかも、不良でも何でもない生徒に。そして貴方が所属不明の生徒ね、貴方も、やりすぎ。」
カリンが説教するように二人に言う。
「で、でもよ、こいつが止まらないからあたしだって止むを得なかったんだって。」
「え?ここでこっちに振るんだ・・・いやまぁ、事実だからはいそうですとしか言えないんだけど・・・」
いきなり責任を振られたイレーネは仕掛けてきたのはそっちでしょと言いたかったが、自分もつい戦いの衝動に身を任せてしまったことも事実なので、何も言えない。しかし、やはり今日はネルにとっての厄日だったのか、そのもはや悪足掻きに等しい責任転嫁はミレニアムタワーから歩いてくる一人の影にばっちり聞かれてしまったようで、
「なるほど、えー、午後13時54分、ネルさんが校舎を破壊に対しての言い訳が《で、でもよ、こいつが止まらないからあたしだって止むを得なかったんだって。》ですか。」
セミナー書記、生塩ノアだ。
「げぇっ!?き、聞いてやがった・・・」
「あ、ノア。」
まるで天敵にでも出くわしたかのような反応を見せるネルと友人に会った時の様な軽い反応のイレーネ。
そう、この生塩ノアという少女は驚異的な記憶能力により、自身の観測した出来事をまるで機械の様に記憶している。そして、その能力は会議や口論の場でも力を発揮する。彼女は誰がいつ何時にどんな発言をしたかも正確に把握している為、非常に正確に言葉の綾などに対しての揚げ足を取ることができ、ミレニアム内で彼女に口論で勝てるものは存在しない。ある意味ではミレニアムにおける天敵の一人と言っても過言ではない。それは、今のネルの反応が明確に物語っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、た、確かにヘルメット団と確認しなかったあたしも悪いけどよ、こいつだって―――」
必死に言い訳するネルに対しノアはにこにこしながらネルの後ろを指差す。するとそこには―――
「え・・・?なんで・・・こんなに・・・破壊されてるの・・・?」
ばさり。
手に持った書類が落ちる音。そこにいたのはシャーレにて用事を済ませてミレニアムに帰ってきたユウカだった。その顔に感情と呼べるものは無く、目の前のかつてない程の惨状に唖然とするばかりだ。
ミレニアムのトップであるセミナーの重役が2名。もうネルに、説教以外の道は存在していなかった。
「だぁぁああぁぁぁ!!」
響き渡るミレニアム最強のはずの凄腕エージェントの絶叫。
―――不幸も不幸、今日は厄日だ。その後のネルがどうなったかなど、わざわざ聞く者は居ないだろう。
やっぱり戦闘描写挟むと長くなりますね~どうにか簡略化しつつも、伝わるようにならないものか。
先生の性別アンケートの期限はその時にあとがきか前書きに載せておきます。
あ、あと女先生だったとしてもセレンとリリウムは無しです。首輪付きさんと価値観が近すぎるので。
先生の性別はどっちがいい?
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男先生
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女先生